説明

ロボットハンド

【課題】バックラッシュやガタが少なく指先の位置と力を高精度に制御可能なロボットハンドを提供する。
【解決手段】掌、中手、基節を備え、掌と中手の接合部に手根中手関節と、中手と基節の接合部に中手指節関節を供えたロボットハンドにおいて、手根中手関節軸と前記中手指節関節軸が1点で直交し、掌には、手根中手関節を駆動するための第一アクチュエータと第一駆動機構を備え、基節には、中手指節関節を駆動するための第二アクチュエータと第二駆動機構を備え、第一駆動機構は、第一アクチュエータの出力を高減速手段を備えた第一減速装置で減速した後、リンク機構を介して第一減速装置の出力を中手に伝達することにより、手根中手関節を駆動するように構成するとともに、第二駆動機構は、前記第二アクチュエータの出力を高減速手段を備えた第二減速装置で減速した後、第二減速装置の出力を中手に接合することにより中手指節関節を駆動するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンドに関するものであり、特に指先の位置と力を高精度に制御可能であるとともに、対象物を器用に操ることを必要とする場合などに好適に利用できるロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットハンドは、ロボットアームに比べ、空間スペースが非常に限られている。そのため、限られた空間スペースを有効に活用した種々のロボットハンドが発明されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、アクチュエータをロボットハンドの指構造から離間した腕部に設け、アクチュエータをワイヤーを介してロボットハンドの指構造のリンクに接続することにより、関節を駆動している。
ワイヤーを用いた駆動方式は、ロボットハンドの小型化に非常に有効な手法であるものの、駆動するためにワイヤーを引っ張る際、ワイヤーが伸び縮みをするため、指先の位置や力を高精度に制御することが難しい問題があった。また、ワイヤーの伸び縮みにより、頻繁なメインテナンスが必要であるばかりか、ワイヤーの取り回しが複雑であるために、メインテナンス性が悪い問題もあった。
【0004】
非特許文献1では、各リンクにアクチュエータと減速機構を備え、減速機構の出力を隣のリンクに接続することによりロボットハンドの指構造を構成している。
しかしながら、シリアル的にリンクを接続するために、指の根元部の2つの関節の軸を直交するができず、このため、人間の指と類似した運動が困難である問題があった。
【0005】
また、これらの問題を解決するため、非ワイヤー駆動でありながら、指の根元の2つの関節の軸が1点で直交するロボットハンドが、例えば、特許文献2や特許文献3に記載のように知られている。
【特許文献1】特開昭60−207795号公報
【非特許文献1】日本ロボット学会誌、第19巻、第一号、pp.8-15
【特許文献2】特許第3245095号公報
【特許文献3】特開2005−066803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2や特許文献3では、指の根元部の2つの関節を駆動するアクチュエータを掌に配置するとともに、傘歯車を用いた差動機構により指の根元部の2つの関節の軸を直交させている。これにより、人間の指と類似した運動が可能になっている。
【0007】
しかしながら、特許文献2や特許文献3に記載されているロボットハンドでは、差動機構のバックラッシュやガタにより、指先の位置や力を高精度に制御することが難しい問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、人間の指と類似した運動を可能にするために、指の根元の2つの関節の軸が1点で直交するロボットハンドを構築すると同時に、指先の位置と力を高精度に制御可能にするとともに、対象物を器用に操ることを可能にするため、バックラッシュやガタの少ないロボットハンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の第一の解決手段は、掌と中手の接合部に手根中手関節と、中手と基節の接合部に中手指節関節を供えたロボットハンドの指構造において、掌には、手根中手関節を駆動するための第一アクチュエータと第一駆動機構を備え、基節には、中手指節関節を駆動するための第二アクチュエータと第二駆動機構を備え、第一駆動機構は、第一アクチュエータの出力をハーモニック減速装置又は遊星歯車減速装置等からなる高減速比を達成する手段(本明細書においてはハーモニック減速装置又は遊星歯車減速装置等からなる高減速比を達成する手段を「高減速手段」という。以下同じ。)を備えた第一減速装置で減速した後、リンク機構を介して第一減速装置の出力を中手に伝達することにより、手根中手関節を駆動するように構成するとともに、第二駆動機構は、第二アクチュエータの出力を高減速手段を備えた第二減速装置で減速した後、第二減速装置の出力を中手に接合することにより、中手指節関節を駆動するように構成している。
【0010】
このような本発明の第一の解決手段によれば、2つのアクチュエータと2つの駆動機構をそれぞれ掌と基節に配置したことにより、ロボットハンドの指構造のように限られた空間(掌内部の空間に限らず基節内部の空間)を有効活用し、ロボットハンドの小型化が実現される。また、2つのアクチュエータと2つの駆動機構をそれぞれ掌と基節に配置したことにより、中手も小型化でき、加えて第一機構の出力をリンクアームを介して中手に伝達しているため、コンパクトでありながら、手根中手関節の軸と中手指節関節の軸が1点で直交する駆動機構が実現される。更に、高減速手段を備え第一機構の出力をリンク機構を介して中手に伝達すると同時に、高減速手段を備え第二機構の出力を直接、中手に接合することにより、バックラッシュやガタの少ない関節が実現される。
【0011】
本発明の第二の解決手段は、第一の解決手段に加え、前記手根中手関節の関節可動範囲が、前記中手指節関節の関節可動範囲よりも広くなるように構成している。
【0012】
このような本発明の第二の解決手段によれば、手根中手関節の関節可動範囲を中手指節関節の関節可動範囲よりも広くなるように構成している。このように可動範囲に差を持たせると、可動範囲の狭い中手指節関節を駆動するための第二アクチュエータと第二駆動機構は、可動範囲の広い手根中手関節を駆動するための第一アクチュエータと第一駆動機構に比べ、小型なアクチュエータと駆動機構で対応が可能となる。すなわち、可動範囲の広い手根中手関節を駆動するための第一アクチュエータと第一駆動機構を基節内部の空間に比べ空間スペースに余裕がある掌に配置するとともに、可動範囲の狭い中手指節関節を駆動するための第二アクチュエータと第二駆動機構を、掌内部の空間に比べ空間スペースに余裕がない基節に配置することが可能になる。これにより、ロボットハンドの指構造のように限られた空間をより有効に活用できるとともに、ロボットハンドの小型化も実現される。
【0013】
本発明の第三の解決手段は、ロボットハンドにおいて、第一の解決手段又は第二の解決手段に記載のロボットハンドの指構造を、少なくとも一指備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のロボットハンドの指構造によれば、指の根元の2つの関節の軸が1点で直交する小型なロボットハンドを構築することと、バックラッシュやガタの少ない小型なロボットハンドを構築することの両立が可能となる。これにより、特に空間スペースに余裕がないロボットハンドの指元関節に関しては、人間の指と類似した複雑な動作が可能であると同時に、指先の位置と力を高精度に制御も可能となる。また、本発明のロボットハンドの指構造を、少なくとも一指備えたロボットハンドにより、対象物を器用に操ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るロボットハンドの指構造及び該指構造を備えたロボットハンドの最良の形態を図面を参照して以下に説明する。
図1、図2、図3は、それぞれ本発明を一態様で実施するロボットハンドの指の構造を示す斜視図、背面図、側面図である。
【0016】
図1、図2、図3において、1は指、11は掌部、12は中手、13は基節、14は中節、15は末節、16はリンクアーム、21は手根中手関節、22は中手指節関節、23は近位指節間関節、24は遠位指節間関節、31は第一アクチュエータ、32は第二アクチュエータ、41は第一駆動機構、42は第二駆動機構、51は前記第一駆動機構41を構成する平歯車、52は前記第一駆動機構41を構成するハーモニックドライブ減速装置、53は前記第二駆動機構42を構成する平歯車、54は前記第二駆動機構42を構成するハーモニックドライブ減速装置である。
また、25は前記第一駆動機構41の出力回転軸、26は第一支軸、27は第二支軸である。
なお、図1においては、より人間の指と類似した運動ができるように、中節14、末節15、近位指節間関節23、遠位指節間関節24を有する構成にしているが、基節13と中節14と末節15を一体化した構造であっても、本発明は適用することができる。また、平歯車51、53の代わりにタイミングベルトであっても良く、さらに、ハーモニックドライブ減速装置52、54の代わりに高減速比を達成する手段であれば他の手段でも良く、例えば遊星歯車減速装置であっても良い。
【0017】
掌11と中手12は、回転可能に結合され、手根中手関節21を形成している。同様に、中手12と基節13は、回転可能に結合され、中手指先関節22を形成している。リンクアーム16は、平行リンク機構を形成するため2本設けられており、それぞれの一端部が第一駆動機構41の出力軸に設けられた第一支軸26を介して回転可能に軸支されるとともに、他端部が中節12に設けられた第二支軸27を介して回転可能に軸支されている。
【0018】
掌11には、第一アクチュエータ31と第一駆動機構41が配置されている。第一アクチュエータ31の出力は、第一駆動機構41を構成する平歯車51を介して、第一駆動機構41を構成するハーモニックドライブ減速装置52の入力側の回転軸に伝達される。更に、ハーモニックドライブ減速装置52の出力側の回転軸、すなわち第一駆動機構の出力回転軸25に減速伝達された第一アクチュエータ31の出力は、リンクアーム16を介して、中節12に伝達される。すなわち、第一アクチュエータ31により、手根中手関節21を制御可能な構成になっている。
【0019】
図4は、第一アクチュエータ31により、手根中手関節21の関節角を、図3の姿勢から動かした状態を示している。
【0020】
以上の説明の通り、第一アクチュエータ31の出力は、第一駆動機構41で減速されたのち、リンクアーム16を介して、中節12に伝達され、手根中手関節21を制御可能な構成になっている。第一駆動機構41の最終減速段を、高減速手段を備えた第一減速装置により減速しているため、仮に第一駆動機構41を構成する平歯車51にバックラッシュやガタが含まれていても、第一駆動機構41の出力はバックラッシュやガタの少ない機構を構成することが可能になっている。すなわち、平歯車51のバックラッシュやガタは、高減速手段で減速される際、減速比に比例して少なくなる。
【0021】
また、バックラッシュやガタを抑えた第一駆動機構41の出力を、リンクアーム16と第一支軸26と第二支軸27のセットを2セット使用し、平行リンク機構により中節12に伝達しているため、手根中手関節21をバックラッシュやガタの少ない関節に構成することが可能になっている。
なお、図7及び図8に示すように、リンクアーム16と第一支軸26と第二支軸27のセットを1セットのみ使用して、第一駆動機構41の出力を中節12に伝達をしても良い。その際、第一駆動機構41の出力軸25と第一支軸26との間の距離を、手根中手関節21の軸と第二支軸27の間の距離に比べ短くなるように構成すると、よりバックラッシュやガタの少ない機構を構成することが可能である。
また、本明細書において、リンクアーム16と第一支軸26と第二支軸27のセットを2セット使用した平行リンク機構及びリンクアーム16と第一支軸26と第二支軸27のセットを1セットのみ使用した単一リンク機構を総称して「リンク機構」という。
【0022】
基節13には、第二アクチュエータ32と第二駆動機構42が配置されている。第二アクチュエータ32の出力は、第二駆動機構42を構成する平歯車52を介して、第二駆動機構42を構成するハーモニックドライブ減速装置54の入力側の回転軸に伝達され、ハーモニックドライブ減速装置54の出力側の回転軸、すなわち第二駆動機構の出力回転軸は、中節12に接合されている。すなわち、第二アクチュエータ32により、中手指節関節22を制御可能な構成になっている。
【0023】
図5は、第二アクチュエータ32により、中手指節関節22の関節角を、図2の姿勢から動かした状態を示している。
【0024】
以上の説明の通り、第二アクチュエータ32の出力は、第二駆動機構42で減速されると同時に、第二駆動機構42の出力軸は中節12に接合され、中手指節関節22を制御可能な構成になっている。第二駆動機構42の最終減速段を、高減速手段を備えた第二減速装置により減速しているため、仮に第二駆動機構42を構成する平歯車52にバックラッシュやガタが含まれていても、第二駆動機構42の出力はバックラッシュやガタの少ない機構を構成することが可能になっている。このような構成にしていることにより、中手指節関節22をバックラッシュやガタの少ない関節に構成することが可能になっている。すなわち、平歯車52のバックラッシュやガタは、高減速手段で減速される際、減速比に比例して少なくなる。
【0025】
また、上記の通り、2つのアクチュエータと2つの駆動機構をそれぞれ掌と基節に配置したことにより、ロボットハンドの指構造のように限られた空間(掌内部の空間に限らず基節内部の空間)を有効活用することができ、ロボットハンドの小型化が実現可能になっている。同時に、2つのアクチュエータと2つの駆動機構をそれぞれ掌と基節に配置したことにより、中手も小型化でき、加えて第一機構の出力をリンク機構を介して中手に伝達しているため、コンパクトでありながら、手根中手関節の軸と中手指節関節の軸が1点で直交する駆動機構が実現可能となっている。
【0026】
加えて、本発明では、図4と図5に示す通り、手根中手関節21の関節可動範囲を中手指節関節22の関節可動範囲よりも広くなるように構成している。このように可動範囲に差を持たせると、可動範囲の狭い中手指節関節22を駆動するための第二アクチュエータ32と第二駆動機構42は、可動範囲の広い手根中手関節21を駆動するための第一アクチュエータ31と第一駆動機構41に比べ、小型なアクチュエータと駆動機構で対応が可能となる。すなわち、可動範囲の広い手根中手関節21を駆動するための第一アクチュエータ31と第一駆動機構41を基節13内部の空間に比べ空間スペースに余裕がある掌11に配置するとともに、可動範囲の狭い中手指節関節22を駆動するための第二アクチュエータ32と第二駆動機構42を、掌11内部の空間に比べ空間スペースに余裕がない基節13に配置することが可能になる。これにより、ロボットハンドの指構造のように限られた空間をより有効に活用できるとともに、ロボットハンドをより小型化することが可能となる。
【0027】
図6は、本発明のロボットハンドの指構造を備えたロボットハンドを示す斜視図である。
本発明のロボットハンドの指構造を、少なくとも一指備えたロボットハンドにより、対象物を器用に操ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るロボットハンドの指の構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るロボットハンドの指の構造を示す背面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るロボットハンドの指の構造を示す側面図である。
【図4】第一アクチュエータにより、手根中手関節の関節角を、図3の姿勢から動かした状態を示す側面図である。
【図5】第二アクチュエータにより、中手指節関節の関節角を、図2の姿勢から動かした状態を示す背面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るロボットハンドの指構造を備えたロボットハンドを示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る単一リンク機構の一例を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る単一リンク機構の他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 指
11 掌部
12 中手
13 基節
14 中節
15 末節
16 リンクアーム
21 手根中手関節
22 中手指節関節
23 近位指節間関節
24 遠位指節間関節
25 第一駆動機構の出力回転軸
26 第一支軸
27 第二支軸
31 第一アクチュエータ
32 第二アクチュエータ
41 第一駆動機構
42 第二駆動機構
51 平歯車
52 ハーモニックドライブ減速装置
53 平歯車
54 ハーモニックドライブ減速装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも掌、中手、基節を備えるとともに、掌と中手の接合部に手根中手関節と、中手と基節の接合部に中手指節関節を供えたロボットハンドの指構造において、前記手根中手関節の軸と前記中手指節関節の軸が1点で直交するとともに、前記掌には、前記手根中手関節を駆動するための第一アクチュエータと第一駆動機構を備え、前記基節には、前記中手指節関節を駆動するための第二アクチュエータと第二駆動機構を備え、前記第一駆動機構は、前記第一アクチュエータの出力を高減速手段を備えた第一減速装置で減速した後、リンク機構を介して第一減速装置の出力を中手に伝達することにより、前記手根中手関節を駆動するように構成するとともに、前記第二駆動機構は、前記第二アクチュエータの出力を高減速手段を備えた第二減速装置で減速した後、第二減速装置の出力を中手に接合することにより、前記中手指節関節を駆動するように構成することを特徴とするロボットハンドの指構造。
【請求項2】
前記手根中手関節の関節可動範囲が、前記中手指節関節の関節可動範囲よりも広いことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンドの指構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のロボットハンドの指構造を、少なくとも一指備えたことを特徴とするロボットハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−290099(P2007−290099A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123161(P2006−123161)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハ−モニックドライブ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】