説明

ローズヒップ抽出物含有調剤

軟骨保護性物質とともにローズヒップからの抗炎症性植物抽出物を含む組成物、およびローズヒップ抽出物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローズヒップ含有調剤、およびローズヒップ抽出物の生産法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨関節炎(関節の磨耗、関節の変性疾患、変形性関節症)に罹患する人の数は次第に増えている。この病気はリウマチ性疾患であり、多くの場合--特に、急性相では--痛い炎症を伴う。この痛みは、関節軟骨の変性によって引き起こされる。軟骨の傷害をもたらす可能性のある要因は様々ある。その主要原因のいくつかを挙げるならば、偶発的事故による傷害の外、関節に対する過度のストレス、および関節の先天的変形、代謝障害、運動不足、さらには不健康な食事がある。
【0003】
骨関節炎の各症例の開始点は、軟骨被覆に対する傷害、いわゆる「軟骨傷害」である。初め、多くの場合、この傷害は、数平方センチメートルのごく小さな面積に限局しており、かつ、ほんの表層的なものである。その後間もなく、X線画像によって、骨の硬化の最初の兆候が示されるが、その場合常に、冒される骨の領域は、病的軟骨の直下に存在する。骨に対して起こるこれらの付随的変化は、骨関節炎の初期段階の決定的兆候である。骨に対するこれらの変化がなければ、それは単に「骨傷害」であり、「骨関節炎」ではない。したがって、骨関節炎は、常に、骨の変化を「伴う」軟骨傷害を意味する。
【0004】
骨関節炎は、それに罹患する人々にとって痛みを伴う慢性疾患であり、彼らのほぼ全ての活動を阻害する。その結果は、疼痛、炎症の種々相、関節の腫脹、変形、および硬化である。しかしながら、これらの現象の程度および兆候は、各関節および段階毎に大きく変動し得る。運動の自由度は大きく制限される。
【0005】
僅かな慰安を求めて、多くの患者は、一般大衆薬または処方薬に目を向け、長期の物理療法を受け、または、場合によっては手術に身を委ねる。しかしながら、これらの治療は、多くの場合、ごく短期の疼痛緩和をもたらすにすぎない。大抵の症例では、無情にも軟骨の破壊は続き、その結果、痛みはよりひどくなり、運動制限はますます重大になる。
【0006】
炎症(inflammation)(ラテン語:inflammatio)とは、外部的または内部的に誘発される刺激に対する生体組織の特徴的反応であり、その機能は、傷害性刺激を排除または修正することである。炎症は、局所領域に存在する場合もあるし、全身性炎症反応として存在することもある。本例では、関節炎が、骨関節炎の疼痛を決定する主要因子である。関節炎では、多くの場合、その慢性的進行の間に、五つの炎症兆候(赤色化、発熱、腫脹、疼痛、および機能制限)の全てが観察される。例えば、赤色化および発熱は、仮に短いものであっても、多くの場合、すぐに疼痛相に取って代わる炎症拡大を告げる、初期警告信号である。多くの場合既に拡張している関節では、腫脹はほとんど目立たないことが多い。次に、機能制限は、疼痛の結果として、顕著な形態では、位置異常の結果として起こると見なされる場合がある。
【0007】
したがって、軟骨に対する傷害によって引き起こされる炎症を克服し、したがって、患者のために痛み状況を改善し、関節硬化を緩和するには二つの対処法がある。
【0008】
最初の対処法は、軟骨保護性物質による、生体の自己治癒能力の支援を含む。より健康で、より機能的関節のための、コラーゲン加水分解物を含む栄養サプリメントが市販されており、この目的のために使用することが可能である。これらのサプリメントは、関節のコラーゲンを補強し、その再生の支援に役立つ。非特許文献1において、S. Oesser博士は、細胞外軟骨基質の新規合成および変性に対する、コラーゲン断片の影響を記載している。この出版物、および、本出願の実施例において使用されるコラーゲン加水分解物は、1型コラーゲン由来のものである。このものは、2型コラーゲンの形成ばかりでなく、細胞周辺のプロテオグリカン生合成に対しても刺激作用を有する。2型コラーゲンは、(関節軟骨の)量的にもっとも重要な成分の約70%を含み、弾性と強度を提供する。非特許文献2における、Roland W. Moskowitz博士による研究は、毎日の、10gのコラーゲン加水分解物の服用は、関節炎患者の抱える疼痛の顕著な低下をもたらすと結論付けている。
【0009】
さらに、グルコサミン硫酸塩(0.75g-1.5gの毎日用量)、およびコンドロイチン硫酸塩(0.4g-0.8gの毎日用量)を含む調剤は簡単に入手が可能であるが、公称によれば、これらも同様に軟骨に対する保護作用を有するとされる。非特許文献3のA.A. Briefによる出版物も一致する作用を記載している。
【0010】
第2の対処法は、炎症の抑制、および/または、炎症介在因子の減退である。これらの介在因子、例えば、サイトカインは、過度に強力な防御反応を引き起こす。
【0011】
炎症を克服するための、生体の自然な反応は、コルチコステロイドを放出することである。したがって、コルチゾール誘導体を合成し、これらを抗炎症剤として市販することは理に適っているように見える。プレドニソロンおよびデキサメタゾンは、きわめて強力な薬剤であるため、今日でも最後の切り札とされる。しかしながら、長期の治療は、重大な副作用、例えば、線条、筋萎縮、血球数変化、および2型糖尿病を引き起こす。
【0012】
長期治療において今日好ましいとされる代替薬は、非ステロイド性抗リウマチ薬(NSAR)、およびCOX-2阻害剤である。しかしながら、ジクロフェナック、イブプロフェン、インドメタシン、およびオキシカムも、消化器障害から、胃潰瘍および、肝臓または腎臓傷害に亘る、副作用を持つ可能性がある。
【0013】
自然療法において見出される医用ハーブは、数百年に亘って多くの文明において使用されているが、あるとしてもごく僅かな副作用しか持たないことが注目される。古典的に認められる植物製剤としては、一般にカブラギキョウ(rampion)の名で知られるタマシャジン(phyteuma)が挙げられる。例えば、サリシンを含むヤナギ樹皮の活性成分は説明されているようであるが、他の植物についてはたくさんの研究が現在も進行中である。
【0014】
ローズヒップは、従来から食用植物として知られるが、驚くべきことに強力な消炎剤として新たに登場した。ローズヒップは、多数の小さな堅果を含む複合果実(compound fruit)である。この果実は晩秋に収穫される。果肉は、肉付きのよい、該果実の底部から得られるが、甘く、酸味があり、ビタミン、特に、ビタミンC(アスコルビン酸)の外、ビタミンA、B1、およびB2が豊富である。従来から、ローズヒップは、風邪およびインフルエンザ様感染症の治療のためにビタミンCの代用として使用される。ビタミンCはさらに、関節軟骨中のコラーゲンの再生において重要な役割を果たし、骨および支持組織の健康維持のために必要である。特許文献1は、ローズヒップから製造した調剤品において、高いビタミンC含量と抗炎症作用の間に相関のあることを記載している。特許文献2では、ローズヒップ濃縮物--該抽出物における高いビタミンC含量を標的とする--と、魚油--魚油における不飽和脂肪酸を標的とする--との組み合わせが特許の主眼とされる。
【0015】
報告によれば、運動および生活質の改善は、ローズヒップ粉末を摂取することによって実現することが可能である。Kharazmi博士、コペンハーゲン大学教授の率いる研究グループは、2004年、関節関連の関節炎障害に対するローズヒップ粉末の作用を調べ、「複雑な分画法」を用いてガラクト脂質分画を単離した。このガラクト脂質"GOPO(登録商標)"は、ローズヒップ粉末の製造法とともに特許付与された(特許文献3)。このガラクト脂質は、インビトロでは、多形核白血球の移動を抑制し、インビボでは、C反応蛋白(CRP)の血清濃度を下げることが実証された。臨床試験では、CRP値は、僅か10日後に平均39%低下した。骨関節症に罹患する112名の患者について、プラシーボによるコントロール設定交差試験を実行し、毎日5グラムのローズヒップ粉末(LitoZin(登録商標))の投与を調べた。この試験によって、ローズヒップ粉末を3ヶ月服用後、試験に参加した人の66%において朝の硬直が顕著に緩和されることが示された。さらに、ローズヒップによる食餌療法において、鎮痛剤、例えば、オピオイド、トラマドール、パラセタモール、およびNSARの消費量を約半分下げることが可能であった。製品LitoZin(登録商標)に使用されるローズヒップ粉末は、175 ppmを含む物質となるように標準化されるが、肉眼的には不均一と記載される場合があるかもしれない。これは、多数のバッチ間における粒径の変動において明らかである(粗大粒子の20%は、0.5-0.7 mmの間であり、超微粒成分の40%は0.05-0.2 mmの間にある)。C. Chrubasikらによる非特許文献4は、ローズヒップ粉末の臨床データをまとめている。
【0016】
使用されるローズヒップ粉末の特徴解明および/または標準化は十分には行われていない。最大10 gまでとされる服用量は、活性物質の低濃度によりきわめて大きいものとなっている。したがって、単位重量当たり高レベルの効力を示す、特徴解明され、および/または標準化されるローズヒップ製剤が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US 6,024,960
【特許文献2】US 6,485, 752 B1
【特許文献3】EP 1 071 439
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Orthopaedische Praxis (2005, 10, 41: 565-568)
【非特許文献2】Semin Arthritis Rheum (2000, 30: 87-99)
【非特許文献3】J. Am. Acad. Orthop.Surg. (2001, 9: 71-78)
【非特許文献4】Phytotherapy Research (2006, 20:1-3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、抗炎症性で、特に、関節障害および関節関連疾患の治療に使用することが可能な、容易に耐容される物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、軟骨保護性物質とともに、ローズヒップからの抗炎症性植物抽出物を含む組成物によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の目標は、炎症反応を克服または阻止する、僅かしか使用されていない食用植物から抽出物を得ることである。それは、乾燥工程中または後に、軟骨保護性乾燥剤と組み合わされる抽出物調剤であることが好ましい。さらに、温度に過敏な成分(ガラクト脂質)、副作用を持つ成分(サリチル酸塩)、酸化に過敏な成分(アスコルビン酸)、または、純粋に親油性の成分(トリテルペン酸)無しでも有効な抽出物を得るべきである。
【0022】
ローズヒップが作用する仕組みは下記のように記載されてもよい:サイトカインによって「惹きつけられる」白血球は、関節における炎症過程に関与する。驚くべきことに、本発明のローズヒップ抽出物は、サイトカインの放出を抑え、そのため、炎症領域に移動し、軟骨組織をさらに傷める白血球がより少なくなることが見出された。
【0023】
しかしながら、軟骨組織は、炎症過程によって生じるフリーラジカルの形成によっても損傷される。驚くべきことに、本発明において記載されるローズヒップ抽出物は、その天然のアスコルビン酸含量とは無関係に、フリーラジカルの形成も抑えることが見出された。このように作用することによって、本発明のローズヒップ抽出物は、関節における炎症反応を下げ、場合によっては完全にそれを抑制する。これによって、軟骨に対する障害、および軟骨の破壊が阻止され、疼痛が緩和されるだけでなく、運動も改善される。
【0024】
本発明は、健康を維持し、および/または、リウマチ障害において、特に、関節リウマチおよび類似の疾患など、関節の慢性炎症疾患において、症状を緩和するために、ローズヒップからの抽出物の製法および使用の外、それと、軟骨保護物質、例えば、コラーゲン加水分解物、グルコサミンおよび/またはコンドロイチン硫酸塩との併用について記載する。特に好ましい実施態様は、該ローズヒップ抽出物の直接的乾燥剤として軟骨保護物質を使用することである。
【0025】
ある好ましい実施態様では、下記の工程によってローズヒップから調製される乾燥抽出物生産法によって取得することが可能なローズヒップ抽出物が使用される。
a) 水、または、水と50質量%までのエタノールとの混合物によってローズヒップ(Rosa canina)を抽出し、単一抽出物を得ること、
b) b1) 酵素による発酵、
b2) 膜ろ過
の工程の内の少なくとも一つを用いて得られた単一抽出物を精製すること、
c)抽出物を乾燥すること。
【0026】
ローズヒップの皮、またはローズヒップの皮および種子を使用することが可能である。
【0027】
薬剤として使用するにはフルクタス・シノスバタム(Fructus Cynosbatum) DAB、またはシノスバタム・サイン・セミン(Cynobastum sine semine)が好ましい。
【0028】
驚くべきことに、ある実施態様では、酵素の助けを借りて前処理した抽出物を得ることが可能であった。別の実施態様では、選択的膜ろ過法を使用して活性成分の濃縮を実現することも必要であった。酵素処理および膜ろ過を組み合わせることも可能である。
【0029】
80℃までの温度範囲における真空乾燥工程が、活性に有害な作用を及ぼさないことを見出したのは驚くべきことであった。
【0030】
特に加水分解酵素、取り分けグリコシダーゼが、酵素処理に有効であることが判明した。他の適切な酵素としては、セルラーゼ、例えば、ヘミセルラーゼ、および特にキシラナーゼがある。使用に特に好適な酵素はペクチナーゼである。
【0031】
膜ろ過とは、ろ過が膜を通じて行われ、最も小さい粒子でさえも除去することを可能とする工程である。好ましい膜ろ過法は限外ろ過であり、その場合、物質は、その分子径にしたがって除去することが可能であり、ろ過物は続けて使用することが可能である。膜にとって適切な排除径は、1 kDaから500 kDaであり、さらに好ましくは10 kDaから300 kDaであり、特に100 kDaである。
【0032】
軟骨再生の自然治癒能力を補佐することを通じて、疼痛の緩和および症状出現の持続時間の短縮における相乗効果を観察することが可能である。Rosa canina種のローズヒップから調製した抽出物を使用する。好ましい抽出物は、痕跡量のガラクト脂質"GOPO(登録商標)"であってもこれを含まず、サリチル酸塩については僅かに痕跡量を含む。親油性の、5員環トリテルペン酸の含量もごく僅かである。
【0033】
用量依存性抗炎症作用の証拠は、ヒト単球において、リポポリサッカリド(LPS)誘発性、炎症介在因子の放出の抑制を測定する試験において示された。そのような介在因子は、特に、サイトカイン類のインターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、プロスタグランジンE2(PGE2)、および、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)である。PGE2は、炎症過程に関与する「主要プロスタグランジン」の一つである。このものは、血管透過性(組織の腫脹)を増進し、赤みの発達に関与し、侵害受容性神経末端を敏感にすることによって疼痛(ブラディキニンまたはヒスタミンなどの他の炎症物質によって誘発される)を増す。
【0034】
GOPO(登録商標)を全く含まず、サリチル酸塩を可能な限り少量しか含まず、擬似サポニンを可能な限り少量しか含まない水性抽出物も含む、本発明の抽出物は、きわめて優れた抗炎症作用を有することが、研究によって示された。
【0035】
次に、軟骨保護剤、例えば、コラーゲン加水分解物、グルコサミン、またはコンドロイチン硫酸塩を加えることによって関節コラーゲンの再生を促進すると、軟骨傷害の自己治癒過程を支援することが可能であった;これは、骨関節炎に見られるような長期的症状の緩和を可能とすると考えられる。
【0036】
ある実施態様では、純粋に水性であるが、より活性の高いローズヒップ抽出物を得ることが可能であった。この抽出物は、ガラクト脂質物質群の、熱および光感受性化合物無しでその効力を発揮し、副作用を招く傾向のあるサリチル酸塩を事実上含まず、親油性擬似サポニン化合物クラスにも依存しない。
【0037】
これらの抗炎症作用は、本発明にしたがって、コラーゲン加水分解物、グルコサミンまたはコンドロイチン硫酸塩の、軟骨保護および再生促進成分と組み合わせることも可能である。別の好ましい実施態様は、骨関節炎治療用のための、コラーゲン加水分解物を含む本発明の抽出物と、ピルビン酸カルシウムの形を取るカルシウムサプリメントとの併用である。
【0038】
栄養サプリメントとして、および十分に均衡された食事における使用が可能である;標的群は、関節の慢性的炎症を抱える患者で、使用するNSARの量を減らすため、ならびに、運動選手で、関節捻挫および椎間板に対する過度のストレス後のリハビリテーション相において再生を促進するため、である。
【0039】
本発明のもう一つの目的は、軟骨保護性物質とともに、抗炎症性植物抽出物を含む組成物である。適切な抗炎症性植物抽出物として、一般的なツクシ、アフリカプラム、アマランス、アンゼリカ、アルニカ、ヒレハリソウ、バジル、ヒカゲノカズラ、ワイルドガーリック、キキョウ、ルリヂサ、イラクサ、ブラックベリー、ブロッコリー、ソバの実、キンポウゲ、トウガラシ、クルクマ、ウリ、ニオイスミレ、クワガタソウ、バーベナ、リンドウ、タラゴン、ユーカリ、カヤツリグサ、チョウジ、ビショップボーフウ、アキノキリンソウ、ニワトコ、ショウガ、カモミール、キンレンカ、カルダモン、チェリー、コリアンダー、甘草、レモングラス、ライムフラワー、ベイリーフ、マンゴスチン、シモツケ、マジョラム、オオアザミ、西洋ワサビ、レモンバーム、ミント、ナツシロギク、オリーブ、エゴマ、コショウ、マリーゴールド、ローズマリー、セージ、ノコギリソウ、キャンディタフト、カウスリップ、セロリ、マスタード、セイヨウシロヤナギ、タイム、バイオレット、ハコベ、ニワヤナギ、クルマバソウ、ヤナギ樹皮、ニガヨモギ、ヒソップ、ニッケイ、ロックローズ、タマネギ類、およびこれらの混合物から調製される抽出物がある。
【0040】
これら抽出物は、関節の慢性的炎症、関節リウマチ、関節炎、リウマチ疾患、脊椎炎、骨関節炎、および線維筋痛に伴う症状の予防もしくは緩和、または、関節捻挫もしくは椎間板へのストレス後のリハビリテーションのサポートのための薬剤、食品、またはサプリメントとして好適である。
【実施例】
【0041】
実施例1:抽出剤の、ローズヒップ抽出物(cynosbati extracts)の抗炎症能力に及ぼす影響
二つの抽出物を、それぞれ、6リットルの溶媒を用い、各1 kgのローズヒップの皮(Rosa canina)から50℃6時間で生産した。この抽出物を一晩静置し、翌朝混ぜ合わせ、透明になるまでろ過した。次に、この溶出液を蒸発させ、溶媒を含まない軟性抽出物とし、50%マルトデキストリンを用い50℃において真空中で乾燥した。得られた抽出物を、TNF-アルファなどの炎症パラメータ、または、PGE2などの典型的疼痛パラメータに対する抑制能力に関してヒト単球で試験した。
【0042】
【表1】

【0043】
ローズヒップの薬剤粉末は、PEG2に対して、非特異的で、抑制作用はほとんど測定不能である。これに対し、抽出物、特に、水性、または水-エタノール抽出物の抑制作用は、測定可能で用量依存性であった。50%抑制(IC50)平均値は、既に200 μg/mlから測定可能であった(作用は、少なくとも5倍強かった)。
【0044】
さらに、抽出物は、疼痛パラメータTNF-アルファの抑制についても同様に、相当増大した用量依存性作用を示す。薬剤粉末は20%の最大抑制を実現したので、比較にはIC20値を用いた。
【0045】
実施例2:酵素処理による精製
二つの抽出物を、それぞれ、6リットルの水を用い、1 kgのローズヒップの皮から50℃で生産した。この抽出物を一晩静置して、翌朝混ぜ合わせ、透明となるまでろ過した。2 kgの乾燥材料当たり3 gのUltrazym(登録商標)を加えた後、この抽出物を、2日間に亘って室温で発酵させた。沈殿物を、溶液からろ過によって分離した。次に、この上清を蒸発させ軟性抽出物とし(天然抽出物の収率29%)、50%マルトデキストリンを用い50℃において真空中で乾燥した。
【0046】
【表2】

【0047】
発酵抽出物は、10.5%のポリフェノールを含むという特徴を有していたが、アスコルビン酸は測定できなかった(<0.04%)。5員環トリテルペン酸の含量は、検出限界以下であり(<10 ppm)であり、加水分解によって放出されるリノレン酸は検出することができなかった(ガラクト脂質GoPo(登録商標)は存在しない;<10 ppm)。精製した抽出物の抗炎症能力は、TNF-アルファについては50%増大させることが可能であった。
【0048】
実施例3:膜ろ過による精製
実施例1の水性軟性抽出物を、乾燥物質含量が20%となるように浸透水で希釈し、100 kDaの限外サイズ排除を用いて二つの画分に分離した。次に、それらを蒸発させ軟性抽出物とし、50%マルトデキストリンを用い50℃において真空中で乾燥した。
【0049】
【表3】

【0050】
限外ろ過を本発明にしたがって用いた精製の場合、TNF-アルファの抗炎症能力は、50%を超えて増大させることが可能であった。さらに、これは、PGE2活性を、50%を超えて増大させることが可能であった。この抽出物は、親油性物質をまったく含まなかった(例えば、ガラクト脂質GoPo(登録商標)<10 ppm)。水溶性化合物として存在する活性成分は、定められた膜フィルターで選択的分離することによってさらに強化することが可能であった。
【0051】
実施例4a:軟骨保護性乾燥剤の補助による乾燥抽出物の調製
抽出剤エタノール30%V/Vによる実施例1の抽出条件にしたがって得られた、ローズヒップの皮の軟性抽出物では、天然抽出物が38%の収率で得られた。溶媒を真空中で留去した後、この水性抽出液に対し実施例2による酵素精製を行い、31%収量の天然抽出物を得た。この抽出液を、乾燥物質含量が30%となるように浸透水で希釈し、50%の、1型コラーゲン加水分解酵素(Gelita Sol D)とともに攪拌下にホモジェナイズし、スプレイ乾燥した。これによって、赤ベージュ色の乾燥粉末が得られた。この抽出物は、親油性物質をまったく含まず(例えば、ガラクト脂質GoPo(登録商標)<10 ppm)、水に完全に可溶であり、好ましい、ベリー様の味わいを呈した。
【0052】
実施例4b:軟骨保護性乾燥剤の補助による乾燥抽出物の調製
水を抽出剤とする実施例1の抽出条件にしたがって得られた、ローズヒップの皮の軟性抽出物では、天然抽出物が45%の収率で得られた。溶媒を真空中で留去した後、この水性抽出液に対し実施例2による酵素精製を行い、38%収量の天然抽出物を得た。この抽出液を、乾燥物質含量が30%となるように浸透水で希釈し、30%の、1型コラーゲン加水分解酵素(Gelita Sol D)とともに攪拌下にホモジェナイズし、真空中で乾燥した。これによって、赤ベージュ色の乾燥粉末が得られた。4.8%の残留水分を含む、この乾燥抽出物は、親油性物質をまったく含まず(例えば、ガラクト脂質GoPo(登録商標)<10 ppm;総脂肪0.08%)、水に完全に可溶であり、好ましい、ベリー様の味わいを呈した。アスコルビン酸含量は0.1%であった。蛋白質総量は、ASU(試験法の公的ダイジェスト)、セクション64 LFGB(ドイツ食品・飼料コード)による栄養価分析によると31.8%(その内窒素は5.1%)であった。炭水化物含量は、57.7/100 gに達した。これによって、1525 KJ/100 gのカロリー値が得られた。
【0053】
本発明の抽出物の使用例:
【0054】
実施例5:コラーゲン加水分解物を含むタイム抽出物
二つの抽出物を、8リットルの精製水を用い、各1 kgの乾燥、細切タイム(herba thymii)から80℃8時間で徹底的に生産した。これらの溶出液を薬剤を用いてろ過して、混ぜ合わせ、最終的に、透明となるまでシート状フィルターでろ過した。次に、この溶出液を真空中で留去して、溶媒を含まず、精油含量をできるだけ除去した軟性抽出物とした。次に、この水性抽出液に対し膜ろ過を行った。
【0055】
この抽出物を、乾燥物質含量が約40%となるまで真空中で濃縮し、n-ヘプタンによる液-液処理を行い、ワックス、樹脂、またはその他の精油などの親油性物質を全て除去した。残りの水相は、ほぼ10%の親油性物質が取り除かれていた。この後に得られた軟性抽出物では、天然抽出物が25%の収率で得られた。
【0056】
乾燥物質含量(DMC)が32%となるように調整された、この抽出液を、20%のコラーゲン加水分解物(Gelita Sol LDA)と混ぜ合わせ、攪拌下にホモジェナイズし、スプレイ乾燥した。これによって、褐色ベージュの乾燥粉末が得られた。この抽出物は、精油をまったく含まず(例えば、チモール<10 ppm)、ほぼ3%のポリフェノールを含み(UV-VIS)、水に完全に可溶であった。
【0057】
実施例6:コラーゲン加水分解物を含むロシアタラゴン抽出物
二つの抽出物を、9リットルの精製水を用い、各1 kgの乾燥、細切タラゴン(Herba Artemisia drancunculoides)から80℃で6時間をかけて生産した。これらの抽出物を薬剤をろ過して、混ぜ合わせ、最終的に、透明となるまでシート状フィルターでろ過した。次に、この溶出液を真空中で留去して、溶媒を含まず、精油含量をできるだけ除去した軟性抽出物とした。次に、この水性抽出液に対し膜ろ過を行った。
【0058】
この後に得られた軟性抽出物では、天然抽出物が33%の収率で得られた。
【0059】
この抽出液を、乾燥物質含量が30%となるように真空中で濃縮し、30%のコラーゲン加水分解物(Gelita Sol LDA)とともに攪拌下にホモジェナイズし、スプレイ乾燥した。
【0060】
これによって、褐色ベージュの乾燥粉末が得られた。この抽出物は、精油をまったく含まず(例えば、メチルユーゲノール<10 ppm)、HPLCによるとほぼ1%のフラボノイドを含み、水に完全に可溶であった。
【0061】
実施例7:コラーゲン加水分解物およびグルコサミンを含むショウガ抽出物
二つの抽出物を、12リットルのエタノールを用い、各1 kgの乾燥、細切ショウガ根(Rhizoma Zingiberis officinalis)から45℃で4時間をかけて生産した。これらの抽出物を薬剤を用いてろ過して、混ぜ合わせ、穏やかに真空中で留去し、乾燥物質含量をほぼ20%とした。天然抽出物の収量は10%に相当した。
【0062】
同様に、80%のポリビニルピロリドン(Kollidon 25)および20%のコラーゲン加水分解物(Gelita Sol LDA)の混合物を、50%エタノールに、乾燥物質含量が20%となるように溶解した。
【0063】
その後、両液を1:4比で秤量し、定常に攪拌しながら互いにその比率においてホモジェナイズした。温度および酸に感受性のショウガ香辛物質を結合して、Kollidonおよびコラーゲン加水分解物の基質の中に取り込むことによって得られる、ショウガの共沈殿物から溶媒を真空中で留去し、乾燥し、乾燥抽出調剤を得た。そのような調剤200 mgを400 mgのグルコサミンと混ぜ合わせ、加工し、微粒化用0.5 mm篩いを用い、均質な、流動性粉末を得た。
【0064】
実施例8:コラーゲン加水分解物およびコンドロイチンを含む、ギニアコショウ抽出物
二つの抽出物を、10リットルのエタノールを用い、各3 kgの乾燥したギニアコショウの実(Aframomum melegueta)から50℃で8時間をかけて生産した。これらの抽出物をシート状フィルターおよび薬剤を用いてろ過して、混ぜ合わせ、穏やかに真空中で留去し、乾燥物質含量をほぼ20%とした。天然抽出物の収量は10%に相当した。
【0065】
同様に、80%のポリビニルピロリドン(Kollidon 25)および20%のコラーゲン加水分解物(Gelita Sol LDA)の混合物を、50%エタノールに、乾燥物質含量が20%となるように溶解した。
【0066】
その後、両液を1:3比で秤量し、定常に攪拌しながら互いにその比率においてホモジェナイズした。得られたコショウの共沈殿物について、真空中で溶媒を除去し、乾燥抽出調剤を得た。そのような調剤100 mgを200 mgのグルコサミンと混ぜ合わせ、加工し、微粒化用0.5 mm篩いを用い、均質な、流動性粉末を得た。
【0067】
実施例9:コラーゲン加水分解物を含むセージ葉片抽出物
三つの抽出物を、5リットルの70% EtOH V/Vを用い、各1 kgの乾燥、細切セージ葉片(Salvia officinalis)から50℃で4時間をかけて生産した。これらの抽出物を薬剤を用いてろ過して、混ぜ合わせ、最終的にシート状フィルターによって透明となるまでろ過した。次に、この溶出液を真空中で留去して、溶媒を含まない軟性抽出物とした。精油は別に収集した。
【0068】
その後、この水性抽出液に対し膜ろ過を行った。
【0069】
この後に得られた軟性抽出物では、天然抽出物が31%の収率で得られた。
【0070】
この抽出液を、乾燥物質含量が35%となるように真空中で濃縮し、40%のコラーゲン加水分解物(Gelita Sol LDA)とともに攪拌下にホモジェナイズした。
【0071】
さらに、先に分離した精油を、このホモジェナイゼーション工程において加えた。この液全体をスプレイ乾燥した。
【0072】
これによって褐色ベージュの乾燥粉末が得られた。この抽出物は、0.2%の精油、約5%のポリフェノール(UV-VIS)を含み、水に対し完全に可溶であった。
【0073】
実施例10:そしゃく可能な錠剤
毎日の推奨用量は、1日当たり5 gの薬剤粉末に相当する。これは、実施例4aによる抽出調剤において薬剤-抽出物比1:1に相当し、同様に、5 gの用量に相当する。従来の、飲み込むための錠剤またはカプセル剤形は、ほぼ1日当たり6個であり、したがって、コンプライアンスに対し否定的影響を及ぼす可能性があるので、投与は、数グラムとすることが好ましい。味覚という点で好ましいとされる変形は、芳香性のそしゃく可能な錠剤である。推奨される毎日用量は、下式による4錠剤である:
【0074】
【表4】

【0075】
実施例11:チューイングガム
100 gのチクルを粉末とし、250 gの砂糖代替物イソマルトと混ぜ合わせ、この混合物が軟化するまで蒸発皿において加熱する。次に、66 gのローズヒップ乾燥抽出物(実施例4bによる)、および33 gのピルビン酸カルシウムを加えて十分に混ぜ合わせ、でん粉を打ち粉したタイルの上に置き、均一になるまで練り合わせる。前工程においてさらに芳香剤を添加してもよい。最後に、伸ばして薄いシート状にし、まだ温かい内に、混合物がタイルにくっつかないよう少量のでん粉を用い、平らな棒状に切断する。このチューイングガム部分は、2グラムの重量を持つはずであり、かつ、この部分は、約300 mgのローズヒップ抽出物を含む。
【0076】
実施例12:発泡性顆粒剤または錠剤
発泡性錠剤を製造するために、600 gのクエン酸を、300 gの炭酸水素ナトリウム、および100 gの本発明のローズヒップ抽出物(実施例4aのもの)、および100 gの、ピルビン酸カルシウム一水和物と混ぜ合わせる。この混合物に、50 gのマンニトール、25 gの果実芳香剤、5 gのサッカリン、および20 gのシクラミン酸ナトリウムを加える。ホモジェナイゼーションが完了したならば、この混合物を顆粒化するか、または、直接プレスして錠剤形とすることが可能である。単一用量として、5 gの顆粒剤、または5 gの発泡性錠剤の1日3-4回の服用が推奨される。
【0077】
実施例13:簡便な飲用剤形
しかしながら、本抽出物粉末の溶解性レベルは良好であるため、すぐに服用が可能な単一用量アンプル、投与スプーンによって服用が可能な液体、および/またはシロップ状の調剤も簡単に製造することが可能である。この種の液体混合物には、実施例4bの本発明の抽出物1.5 gの各日投与が推奨される。併用剤として、適切な芳香性添加剤の外、カルシウムサプリメント、または、1型の、可溶性コラーゲン加水分解物の添加剤が特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨保護性物質とともにローズヒップからの抗炎症性植物抽出物を含む組成物。
【請求項2】
前記軟骨保護性物質は、コラーゲン加水分解物、グルコサミンおよびコンドロイチン硫酸塩から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ローズヒップからの植物抽出物は、以下の工程:
a)水または水と50重量%までのエタノールとの混合物によってローズヒップを抽出し単一抽出物を得る工程;
b)b1)酵素による発酵;
b2)膜ろ過
の少なくとも1つの工程によって得られた単一抽出物を精製する工程:
c)抽出物を乾燥する工程、
を含む方法によって得られ得る、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
以下の工程:
a)水または水と50重量%までのエタノールとの混合物によってローズヒップの皮を抽出し単一抽出物を得る工程;
b)b1)酵素による発酵;
b2)膜ろ過
の少なくとも1つの工程によって得られた単一抽出物を精製する工程:
c)抽出物を乾燥する工程、
を含む、ローズヒップから乾燥抽出物を調製する方法。
【請求項5】
前記乾燥は、軟骨保護性物質とともに行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4または5のいずれかによって得られ得る抽出物。
【請求項7】
関節の病気の症状の予防または緩和のための薬剤もしくは栄養補助食品もしくは均衡食の調製のための請求項6に記載の抽出物または請求項1〜3の少なくとも1項に記載の組成物の使用。
【請求項8】
関節の慢性的炎症、関節リウマチ、リウマチスペクトル(rheumatic spectrum)の病気、脊椎炎(特にS. アンキロサンス(ankylosans))、骨関節症、関節症、線維筋痛における症状の予防もしくは緩和のための、または関節捻挫もしくは椎間板圧縮後のリハビリテーションをサポートするための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
錠剤、そしゃく錠剤(chewing tablet)、硬質ゼラチンカプセル、軟質ゼラチンカプセル、トローチ剤、スティック、小袋の形態、または単回投与アンプル、流体およびシロップのような液体投与形式の形態の、請求項6に記載の抽出物または請求項1〜3の少なくとも1項に記載の調剤を含む薬剤。
【請求項10】
錠剤、そしゃく錠剤、硬質ゼラチンカプセル、軟質ゼラチンカプセル、トローチ剤、スティック、小袋の形態、または単回投与アンプル、流体およびシロップのような液体投与形式の形態の、請求項6に記載の抽出物または請求項1〜3の少なくとも1項に記載の調剤を含む栄養補助食品。
【請求項11】
錠剤、そしゃく錠剤、硬質ゼラチンカプセル、軟質ゼラチンカプセル、トローチ剤、スティック、小袋の形態、または単回投与アンプル、流体およびシロップのような液体投与形式の形態の、請求項6に記載の抽出物または請求項1〜3の少なくとも1項に記載の調剤を含む均衡食。

【公表番号】特表2011−506579(P2011−506579A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538774(P2010−538774)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068081
【国際公開番号】WO2009/080778
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510170741)フィンツェルベルグ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニエ コマンデット ゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】