説明

ロータリエンコーダ制御式エアスピンドル

【課題】回転モータの停止時にハンチング現象が生じないロータリエンコーダ制御式エアスピンドルを提供する。
【解決手段】回転軸3に固定されたディスク13にパッド18、19が当接するため、回転モータ9の停止時における回転軸3の回転方向での振動が防止され、ハンチング現象が生じない。パッド18はディスク13の外縁部13bに小さいな力で当接し且つ外縁部13bが回転軸3の軸方向で変形可能なため、ディスク13とパッド18との当接が回転軸の本来の回転に影響を与えることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリエンコーダ制御式エアスピンドルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアスピンドルは回転軸をハウジングに対して静圧軸受で支持するため、回転精度が高く、精密加工装置や精密検査装置の回転部に使用されている。このエアスピンドルは回転軸の精密な回転を実現するために、回転軸自体をダイレクトドライブ式の回転モータで回転させ、その回転モータの回転速度と回転位置決めを回転軸に固定したロータリエンコーダによりフィードバック制御している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−239102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、回転モータをロータリエンコーダによるフィードバック制御で行っているため、モータ停止中でも、回転軸に回転方向での微小な振動が生じると、それに反応して回転モータのハンチング現象が生じ、回転軸が安定しないおそれがある。この現象は、特にエアスピンドルを精密検査装置の回転テーブルとして利用する場合に深刻で、正確な計測が行えない。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、回転モータの停止時にハンチング現象が生じないロータリエンコーダ制御式エアスピンドルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ハウジングに対して回転軸を静圧軸受を介して支持し、回転軸自体をダイレクトドライブ式の回転モータで回転させると共に、該回転軸の回転をロータリエンコーダで検出して回転モータをフィードバック制御するロータリエンコーダ制御式エアスピンドルであって、前記回転軸に外縁部が回転軸の軸方向に変形可能なディスクの内縁部を固定し、ハウジングにディスクの外縁部に対して小さな力で当接するパッドを設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、一対のパッドがディスクの外縁部に対して両側から当接することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、ディスクに対する一面側のパッドが固定式で、他面側のパッドがリング状の波形金属バネに固定され、該波形金属バネの弾性力でディスクに対して当接することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、ディスクが金属薄板製で、複数の円弧状のスリットが円周方向に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、回転軸に固定されたディスクにパッドが当接するため、回転モータの停止時における回転軸の回転方向での振動が防止され、ハンチング現象が生じない。パッドはディスクの外縁部に小さいな力で当接し且つ外縁部が回転軸の軸方向で変形可能なため、ディスクとパッドとの当接が回転軸の本来の回転に影響を与えることはない。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、一対のパッドをディスクの外縁部に対して両側から当接させているため、回転モータの停止時における回転軸の回転方向での振動をより確実に防止することができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、一対のパッドのうち、一方のパッドを波形金属バネの弾性力でディスクに当接させているため、回転軸の回転方向での振動を更に確実に防止することができる。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、円弧状のスリットがディスクの円周方向に複数形成されているため、ディスクの外縁部が回転軸の軸方向で変形自在となる。ディスクにスリットを形成するだけの薄型構造のため、エアスピンドルの狭いスペースにも設置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エアスピンドルの断面図。
【図2】図1中矢A部分の拡大断面図。
【図3】ディスクと波形金属バネを示す斜視図。
【図4】ディスクに当接した一対のパッドをディスクの円周方向に沿って示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図4は、本発明の好適な実施形態を示す図である。尚、図1において一体的に可動する部分は複数部材で形成されていても一体物として図示されている。
【0016】
エアスピンドル1は、基本的に中心に孔部を有する筒形のハウジング2と、その中心に配された回転軸3とから構成されている。回転軸3の上面は平坦面な回転テーブル4となっている。回転テーブル4には精密検査装置の測定対象物などを支持できるようになっている。
【0017】
ハウジング2は内筒部2aと外筒部2bを有している。回転軸3は内筒部2a内に挿入されている。内筒部2aの内面の上下両端にはそれぞれスリーブ5が設けられている。スリーブ5は多孔質材料製で、通気性を有する材料である。回転軸3の上端には回転テーブル4の外縁部から下方へ延びる外筒部3aが形成され、回転軸3の下端にはフランジ3bが形成されている。
【0018】
内筒部2a(スリーブ5含む)の内面と回転軸3の外面とは微小隙間S1を介してラジアル方向で対面している。内筒部2aの上下面ではスリーブ5が回転テーブル4の下面及びフランジ3bの上面に対して微小隙間S2を介してスラスト方向で対面している。前記各微小隙間S1、S2には、ハウジング2の外面から形成された給気通路6を介して圧縮空気が送られ、静圧軸受を形成する。そのため、回転軸3はハウジング2に対して非接触状態で精密回転することができる。
【0019】
ハウジング2の外筒部2bの内壁に固定されたステータ7と、回転軸3の外筒部3aの外壁に固定されたロータ8とにより、ダイレクトドライブ式の回転モータ9が形成されている。この回転モータ9により回転軸3に対して回転方向での駆動力が与えられる。
【0020】
回転軸3のフランジ3bの下面にはエンコーダ板10が固定され、それに対面するハウジング2の一部には検出ヘッド11が固定されている。このエンコーダ板10と検出ヘッド11によりロータリエンコーダ12が構成される。ロータリエンコーダ12により回転軸3の回転を検出して、前記回転モータ9をフィードバック制御している。ロータリエンコーダ12で制御することにより、回転軸3を希望する回転数で定速回転させることもできるし、回転軸3を必要な角度だけ回転させて位置決めすることができる。
【0021】
次に、回転軸3の外筒部3aの上端には、金属薄板製でリング状のディスク13が設けられている。ディスク13は、その内縁部13aがピン14により固定されている。ディスク13の外縁部13bはハウジング2の外筒部2bまで延びている。ディスク13には、4本の円弧状のスリット15が円周方向に形成されている。スリット15は内側と外側に2重に形成され、互いに位相をずらしている。このスリット15の形成により、ディスク13の外縁部13bは回転軸3の軸方向で変形可能となっている。
【0022】
一方、ハウジング2の外縁部13bの上部には3箇所に支柱16が立設され、その上端にリング状の波形金属バネ17が固定されている。波形金属バネ17は外縁部が支柱16に固定され、内縁部は前記ディスク13の外縁部13bの上方に位置している。
【0023】
波形金属バネ17の外縁部における下面には3箇所にパッド18が固定されている。パッド18の材質は樹脂である。この樹脂としては、摩擦係数の小さいフッ素樹脂等が好適である。波形金属バネ17は、このパッド18を固定した3箇所が他よりも下がった波側形状をしている。ハウジング2の外筒部2bの上面には別のパッド19が3箇所に固定されている。パッド19の材質も樹脂であり、パッド18と同様に、フッ素樹脂によって形成されていることが好ましい。このパッド19はディスク13の外縁部13bの下側に位置し、ディスク13を上方から見た場合に前記パッド18と位置が合致している。そのため、図2に示すように、下側のパッド19はディスク13の外縁部13bにおける下面に当接し、上側のパッド18は波形金属バネ17の弾性力が付与された状態で外縁部13bの上面に当接する。本実施形態において、ディスク13に対するパッド18、19の当接面は平滑面であるが、後述する静止摩擦力及び動摩擦力が得られるのであればこの当接面に起伏等があってもよい。ディスク13と波形金属バネ17はハウジング2に固定されたカバー20に覆われている。ディスク13がスリット15を形成しただけの薄型のため、カバー20内の狭いスペースにも設置しやすい。
【0024】
この実施形態によれば、回転軸3に固定されたディスク13の外縁部13bにパッド18、19が当接するため、回転モータ9の停止時では、回転軸3の回転方向での振動が防止される。ロータリエンコーダ12による制御では、感度が良いため、僅かな回転軸3の振動でも反応してハンチング現象を起こすおそれがあるが、この実施形態では、回転モータ9の停止時における回転軸3の僅かな振動も、ディスク13とパッド18、19との当接により防止されるため、ハンチング現象が生じない。換言すると、パッド18、19はディスク13に対して、ハンチング現象を防止する静止摩擦力を生じるような小さな力で当接している。特に、一対のパッド18、19をディスク13の外縁部13bに上下両側から当接させているため、回転軸3の回転方向での振動をより確実に防止することができる。従って、回転テーブル4がハンチング現象により回転方向でがたついたりすることがなく、検査対象物を支持して計測する場合などに好適である。
【0025】
パッド18はディスク13の外縁部13bに対して波形金属バネ17だけの小さいな力で当接するため、回転モータ9による回転軸3の本来の回転が影響を受けることはない。特に、ディスク13の外縁部13bが回転軸3の軸方向で変形可能なため、パッド18がディスク13に対して小さな力で当接している状態は維持され、強い力で当接したりすることはない。即ち、パッド18はディスク13に対して、回転モータ9による本来の回転に影響を与えない程度の動摩擦力を生じさせるような小さな力で当接している。このような当接は、パッド19についても同様であり、ディスク13の本来の回転に影響を与えない。
【符号の説明】
【0026】
1 エアスピンドル
2 ハウジング
3 回転軸
9 回転モータ
12 ロータリエンコーダ
13 ディスク
15 スリット
17 波形金属バネ
18、19 パッド
S1 ラジアル方向での微小隙間
S2 スラスト方向での微小隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対して回転軸を静圧軸受を介して支持し、回転軸自体をダイレクトドライブ式の回転モータで回転させると共に、該回転軸の回転をロータリエンコーダで検出して回転モータをフィードバック制御するロータリエンコーダ制御式エアスピンドルであって、
前記回転軸に外縁部が回転軸の軸方向に変形可能なディスクの内縁部を固定し、ハウジングにディスクの外縁部に対して小さな力で当接するパッドを設けたことを特徴とするロータリエンコーダ制御式エアスピンドル。
【請求項2】
一対のパッドがディスクの外縁部に対して両側から当接することを特徴とする請求項1記載のロータリエンコーダ制御式エアスピンドル。
【請求項3】
ディスクに対する一面側のパッドが固定式で、他面側のパッドがリング状の波形金属バネに固定され、該波形金属バネの弾性力でディスクに対して当接することを特徴とする請求項2記載のロータリエンコーダ制御式エアスピンドル。
【請求項4】
ディスクが金属薄板製で、複数の円弧状のスリットが円周方向に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータリエンコーダ制御式エアスピンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99523(P2011−99523A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254990(P2009−254990)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(390013033)三鷹光器株式会社 (114)
【Fターム(参考)】