説明

ロータリーエバポレーター用トラップ

【課題】試料を無駄にすることがなく、汚れにくい形状を有するロータリーエバポレーター用トラップを得る。
【解決手段】ロータリーエバポレーター用トラップ20は、試料を入れる試料フラスコ11と、試料フラスコ内で蒸発した蒸気を冷却して凝縮させる冷却器12と、試料フラスコを回転させるロータリージョイント機構13と、冷却器12で凝縮した液を回収する受フラスコ14と、回転する試料フラスコを加熱する加熱機構15とを備えるロータリーエバポレーターに設置され、試料が突沸したときに、試料フラスコから噴出した液を受けるために設けられる部材である。このロータリーエバポレーター用トラップ20は、試料フラスコ11から導入される蒸気を誘導する誘導管と、誘導管を取り囲むように形成されるトラップ本体部とを備えており、トラップ本体部が、略円錐形の外郭形状にて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーエバポレーターを構成する試料フラスコとロータリージョイント機構との間に設置されることで、試料が突沸したときに、試料フラスコから噴出した液を受けることができるロータリーエバポレーター用トラップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリーエバポレーターは、分析の前処理、微量成分の回収、貴重なサンプルの溶媒除去、試料の精製・蒸留等を目的として広く用いられる装置である。一般的なロータリーエバポレーターは、試料を入れる試料フラスコ、試料フラスコ内で蒸発した蒸気を冷却して凝縮させる冷却器、試料フラスコと冷却器とを導通させるロータリージョイント機構、冷却器で凝縮した液を回収する受フラスコ、試料フラスコ内に試料を追加、連続注入するためのキャピラリー等から構成されている。
【0003】
このような構成を有するロータリーエバポレーターでは、溶媒の精製ではなく除去を目的としているため、蒸発面を構成する試料フラスコと冷却部を構成する冷却器との距離が短く、且つ、効率のよい二重蛇管型冷却管を備えた大きめの冷却器が設置されている。また、操作時には、試料フラスコは恒温槽により加熱されるとともに、冷却器は真空ポンプと結合して装置内を減圧することが行われている。さらに、操作条件によっては試料が突沸することも考えられるので、かかる突沸を考慮して、あらかじめ試料フラスコとロータリージョイント機構との間に噴出した液を受けるためのトラップ球を入れることも行われている。
【0004】
なお、一般的なロータリーエバポレーターを開示する先行技術文献として、例えば、下記特許文献1,2が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−168602号公報
【特許文献2】特開2000−279703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来からロータリーエバポレーターに用いられているトラップ球70は、図7に示すように、その外郭形状が球体形にて形成されており、また、トラップ球70によってトラップされた液は、従来のトラップ球70の形状からも明らかな通り、そのままトラップ球70内に保持されるものであった(例えば、符号βにて示す網掛の部分に溜ることとなる)。したがって、トラップ球70によって捕えられた液は再処理することが困難であった。また、トラップ球70内に液が残存することから、使用後には必ず入念な洗浄作業が必要となるが、トラップ空間が閉鎖された空間として形成された従来のトラップ球70の洗浄には、非常に多くの労力を要するという問題が存在していた。
【0007】
本発明は、上述した課題の存在に鑑みて成されたものであって、その目的は、試料が突沸したときに試料フラスコから噴出した液を受けるというトラップ本来の機能は維持しながらも、試料を無駄にすることがなく、しかも従来のトラップ球に比べて洗浄作業の負荷を増加させることの少ない汚れにくい形状を有する新たなロータリーエバポレーター用トラップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るロータリーエバポレーター用トラップは、試料を入れる試料フラスコと、前記試料フラスコ内で蒸発した蒸気を冷却して凝縮させる冷却器と、前記試料フラスコと前記冷却器とを接続して導通させるとともに前記試料フラスコを回転させるロータリージョイント機構と、前記冷却器で凝縮した液を回収する受フラスコと、回転する前記試料フラスコを加熱する加熱機構と、を備えるロータリーエバポレーターの前記試料フラスコと前記ロータリージョイント機構との間に設置され、前記試料が突沸したときに、前記試料フラスコから噴出した液を受けるロータリーエバポレーター用トラップであって、前記試料フラスコから導入される蒸気を誘導する誘導管と、前記誘導管を取り囲むように形成されることで前記試料フラスコから噴出した液を受けるためのトラップ空間を形成するトラップ本体部と、を備え、前記トラップ本体部が、略円錐形の外郭形状にて形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るロータリーエバポレーター用トラップにおいて、前記トラップ本体部は、略円錐形の頂点側が前記試料フラスコに接続されるように形成されていることが好適である。
【0010】
また、本発明に係るロータリーエバポレーター用トラップにおいて、前記誘導管には、前記トラップ本体部との接続部の近傍に開口部が形成されており、前記トラップ空間にてトラップされた液が、当該開口部を通じて前記試料フラスコに戻されるように構成することができる。
【0011】
さらに、本発明に係るロータリーエバポレーター用トラップにおいて、前記開口部は、前記トラップ空間にてトラップされた液がスムーズに前記試料フラスコに戻されるように、段なし形状にて形成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料が突沸したときに試料フラスコから噴出した液を受けるというトラップ本来の機能は維持しながらも、試料を無駄にすることがなく、しかも従来のトラップ球に比べて洗浄作業の負荷を増加させることの少ない汚れにくい形状を有する新たなロータリーエバポレーター用トラップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20が装着されたロータリーエバポレーター10を例示する図である。本実施形態に係るロータリーエバポレーター10は、試料を入れる試料フラスコ11と、試料フラスコ11内で蒸発した蒸気を冷却して凝縮させる冷却器12と、試料フラスコ11とロータリージョイント機構13との間に設置され、試料が突沸したときに、試料フラスコ11から噴出した液を受けるロータリーエバポレーター用トラップ20と、試料フラスコ11およびロータリーエバポレーター用トラップ20と冷却器12とを接続して導通させるとともに試料フラスコ11およびロータリーエバポレーター用トラップ20を回転させるロータリージョイント機構13と、冷却器12で凝縮した液を回収する受フラスコ14と、回転する試料フラスコ11を加熱する加熱機構15と、から基本的に構成されている。
【0015】
冷却器12の内部には、外部より冷却媒体を流通させることで冷却器12の内部を冷却するためのコイル状の冷却管(不図示)が設置されている。また、冷却器12には、不図示のコイル状冷却管に対して冷却媒体を供給し循環させるための冷却媒体循環機と、この冷却媒体を冷却するための冷凍機と、冷却媒体を循環させるための冷却媒体循環用導管と、蒸気発生容器内を減圧にするための減圧装置とが付設されており、冷却器12内に送り込まれてくる蒸気を減圧下にて冷却することができるようになっている。なお、本実施形態では、冷却器本体が垂直方向に立てて設置された、いわゆる垂直型の冷却器12を示してあるが、冷却器本体が斜め方向に傾けられて設置される、いわゆる傾斜型の冷却器が用いられることもある。
【0016】
試料を入れるための試料フラスコ11は、減圧下にて加熱され、回転させながら内部の試料を蒸発させることになるため、一般的には丸底フラスコが用いられている。なお、図1にて示す本実施形態の試料フラスコ11は、ナス型形状を有している。全体の外郭形状が、完全な球形ではなく、長細形状となるナス型の試料フラスコ11を用いることにより、加熱面積が拡大するとともに回転によって試料フラスコ11内に形成される試料の薄い膜がより広い面積範囲で形成されることになるので、非常に効率良く試料を気化することが可能となっている。
【0017】
なお、試料フラスコ11を加熱するための加熱機構15としては、試料フラスコ11を水浴又は油浴によって加熱することが可能な加熱バスを利用することが好適である。
【0018】
ロータリージョイント機構13は、試料フラスコ11およびロータリーエバポレーター用トラップ20と冷却器12とを接続しながら試料フラスコ11およびロータリーエバポレーター用トラップ20を回転自在とするためのロータリージョイントと、試料フラスコ11およびロータリーエバポレーター用トラップ20をカップリングにより掴みながらモーターにより回転させるホルダーと、から構成されている。このロータリージョイント機構13は、ロータリーエバポレーター10の装置本体部16に設置されており、装置本体部16に備わる操作機器によって、その回転速度や傾斜角度等を変更自在とされている。
【0019】
受フラスコ14は、減圧下に凝縮した溶液を受ける役割を果たす部材であり、一般的には、丸底フラスコが用いられている。
【0020】
以上、本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20を装着可能なロータリーエバポレーター10の構成を説明したが、本実施形態にて最も特徴的な点は、ロータリーエバポレーター用トラップ20の構成にある。そこで、次に、本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20について、図2乃至図6を用いて説明を行うこととする。ここで、図2は、本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップの外観正面図であり、透明体であるロータリーエバポレーター用トラップの透けて見える部分が見えるままに描かれた図である。また、図3は図2における3−3断面を、図4は図2における4−4断面を、図5は図2における5−5断面を示す図であり、さらに、図6は図3における符号6部分の詳細を示す要部拡大図である。
【0021】
本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20は、試料フラスコ11と接続する側の端部に雄型テーパーすり部21が、ロータリージョイント機構13と接続する側の端部に雌型テーパーすり部22が形成されており、接続される部材同士の密着性を保つことができるようになっている。また、ロータリーエバポレーター用トラップ20は、試料フラスコから導入される蒸気を誘導するための誘導管23と、この誘導管23を取り囲むように形成されることで試料フラスコ11から噴出した液を受けるためのトラップ空間αを形成するトラップ本体部24と、を有している。
【0022】
誘導管23は、試料フラスコ11と接続する側の端部に位置する雄型テーパーすり部21に連接する部材であり、その先端部には、試料フラスコ11から供給されてくる蒸気をトラップ空間α内に送り出すための第一開口部23aが形成されている。
【0023】
一方、トラップ本体部24は、誘導管23を取り囲むとともに、ロータリージョイント機構13と接続する側の端部に位置する雌型テーパーすり部22に接続されている。また、トラップ本体部24は、略円錐形の外郭形状にて形成されているとともに、略円錐形の頂点側が試料フラスコ11との接続側に向くように構成されている。
【0024】
そして、本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20では、誘導管23におけるトラップ本体部24との接続部近傍に第二開口部23bが形成されており、トラップ空間αにてトラップされた液が、この第二開口部23bを通じて試料フラスコ11に戻されるように構成されている。
【0025】
この第二開口部23bは、トラップ空間αにてトラップされた液がスムーズに試料フラスコ11に戻されるように、段なし形状にて形成されている。また、図3にて示されるトラップ本体部24の外郭形状である略円錐形の側面の角度θについては、ロータリーエバポレーター10にて設置される際の傾斜角度を考慮して設定されており、例えば本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20では、θ=17°に設定されている。
【0026】
本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップ20は、上述したような従来にはない新たな構成を有しているので、試料を無駄にすることがなく、しかも従来のトラップ球に比べて洗浄作業の負荷を増加させることの少ない汚れにくい形状を有するという効果を発揮し得るものである。具体的には、トラップ本体部24が略円錐形の外郭形状を有するものの十分な容積のトラップ空間αを形成しているので、試料が突沸したときに試料フラスコ11から噴出した液を受けるというトラップ本来の機能を十分備えている。また、トラップ本体部24の外郭形状である略円錐形の側面の角度θと、トラップ空間αと試料フラスコ11とを導通する第二開口部23bとの作用によって、トラップ空間αにて一旦トラップした液を再び試料フラスコ11に戻すことができ、試料を再利用することができるので、試料を無駄にすることがない。さらに、略円錐形の側面の角度θと第二開口部23bとの作用によって、トラップ空間α内に液が留まることがないので、従来のトラップ球に比べて汚れにくく、洗浄作業の負荷が小さいという利点も有している。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0028】
例えば、トラップ本体部24の外郭形状である略円錐形の側面の角度θについて、本実施形態ではθ=17°の場合を例示して説明したが、この略円錐形の側面の角度θについては、ロータリーエバポレーター用トラップの設置角度に応じて設定すればよく、任意に変更することができる。
【0029】
また、本実施形態に係るロータリーエバポレーター10の構成部材のうち、試料フラスコ11、ロータリーエバポレーター用トラップ20、冷却器12、および受フラスコ14については、例えば硼珪酸ガラスや石英ガラス等の透明ガラスによって構成することが好適であるが、減圧下での加熱や冷却等、それぞれの部材が果たすべき機能に応じて任意の材質を選択することも可能である。
【0030】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップが装着されたロータリーエバポレーターを例示する図である。
【図2】本実施形態に係るロータリーエバポレーター用トラップの外観正面図であり、透明体であるロータリーエバポレーター用トラップの透けて見える部分が見えるままに描かれた図である。
【図3】図3は、図2における3−3断面を示す図である。
【図4】図4は、図2における4−4断面を示す図である。
【図5】図5は、図2における5−5断面を示す図である。
【図6】図6は、図3における符号6部分の詳細を示す要部拡大図である。
【図7】従来のトラップ球を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 ロータリーエバポレーター、11 試料フラスコ、12 冷却器、13 ロータリージョイント機構、14 受フラスコ、15 加熱機構、16 装置本体部、20 ロータリーエバポレーター用トラップ、21 雄型テーパーすり部、22 雌型テーパーすり部、23 誘導管、23a 第一開口部、23b 第二開口部、24 トラップ本体部、α トラップ空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を入れる試料フラスコと、
前記試料フラスコ内で蒸発した蒸気を冷却して凝縮させる冷却器と、
前記試料フラスコと前記冷却器とを接続して導通させるとともに前記試料フラスコを回転させるロータリージョイント機構と、
前記冷却器で凝縮した液を回収する受フラスコと、
回転する前記試料フラスコを加熱する加熱機構と、
を備えるロータリーエバポレーターの前記試料フラスコと前記ロータリージョイント機構との間に設置され、前記試料が突沸したときに、前記試料フラスコから噴出した液を受けるロータリーエバポレーター用トラップであって、
前記試料フラスコから導入される蒸気を誘導する誘導管と、
前記誘導管を取り囲むように形成されることで前記試料フラスコから噴出した液を受けるためのトラップ空間を形成するトラップ本体部と、
を備え、
前記トラップ本体部が、略円錐形の外郭形状にて形成されていることを特徴とするロータリーエバポレーター用トラップ。
【請求項2】
請求項1に記載のロータリーエバポレーター用トラップにおいて、
前記トラップ本体部は、略円錐形の頂点側が前記試料フラスコに接続されるように形成されていることを特徴とするロータリーエバポレーター用トラップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロータリーエバポレーター用トラップにおいて、
前記誘導管には、前記トラップ本体部との接続部の近傍に開口部が形成されており、前記トラップ空間にてトラップされた液が、当該開口部を通じて前記試料フラスコに戻されるように構成されていることを特徴とするロータリーエバポレーター用トラップ。
【請求項4】
請求項3に記載のロータリーエバポレーター用トラップにおいて、
前記開口部は、前記トラップ空間にてトラップされた液がスムーズに前記試料フラスコに戻されるように、段なし形状にて形成されていることを特徴とするロータリーエバポレーター用トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149027(P2010−149027A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328541(P2008−328541)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】