説明

ロープ

【課題】別途電球等の照明器具を要することなく、夜間等の暗闇においても反射光によってその存在を認識させることができるとともに、長期間にわたって上記機能が低下することが無いロープを提供する。
【解決手段】芯材となる第1の糸材1の周囲に複数本の第2の糸材2、3を撚り合わせてなるヤーン4を、さらに複数本撚り合わせてストランド9とし、当該ストランド9を複数本撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の第2の糸材3が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光をその光源に向けて反射することができるロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、道路や鉄道における各種の工事現場や建築現場の周囲には、危険区域への人や車の進入を遮断するために、各種のロープが張られている。
ところで、従来のこの種の危険区画認識用のロープは、昼間は容易に認識することができるものの、夜間には目視し難いという欠点がある。このため、通常、上記ロープに電球等の照明器具を添設する必要があるが、上記工事現場が広範囲にわたると、上記照明器具の数が膨大にわたり、設置費用やランニングコストが嵩むという問題点があった。
【0003】
そこで、このような問題点を解決するために、例えば下記特許文献1においては、複数のストランドを撚り合わせ、外周面に電子発光ファイバーを巻き付けてなるロープ本体を有し、このロープ本体の一端に熱伸縮性チューブを介して端子を取り付けるとともに、電源ケーブルを備えたインバータの屋外ケーブルとコネクターを介して接続するようにした標識用自己発光ロープが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記構成からなる標識用自己発光ロープにあっても、依然として電子発光ファイバーへの給電設備が必要となるために、そのための設備やコストが別途必要になるという欠点がある。
【0005】
これに対して、下記特許文献2においては、素線またはストランドを複数本撚り合わせたロープ本体における素線またはストランド間のらせん状の谷間に、畜光顔料と水性樹脂を混合した畜光材を充填接着してなる畜光ワイヤロープが開示されている。
上記畜光ワイヤロープによれば、それ自体から直接発光させることができるために、別途照明器具等を用いる必要がないという利点がある。
【0006】
ところが、上記畜光ワイヤロープにあっては、畜光量によって発光量が変動するとともに、当該畜光量が多い場合においても、使用時間の経過に伴って発光量が減少するという問題点がある。また、長期間あるいは繰り返し使用した場合に、比較的発光に寄与し難い内部の畜光材は減少しないものの、直接発光に影響を与えるロープ表面側の畜光材が剥離して欠落するおそれがある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−240181号公報
【特許文献2】特開2006−257603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、別途電球等の照明器具を要することなく、夜間等の暗闇においても反射光によってその存在を認識させることができるとともに、長期間にわたって上記機能が低下することが無いロープを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数本の糸材を撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするものである。
ここで、再帰性反射とは、入射する角度によらず、入射した光を当該入射方向と同方向に反射する性質をいうものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、芯材となる第1の糸材の周囲に複数本の第2の糸材を撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記第2の糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、芯材となる第1の糸材の周囲に複数本の第2の糸材を撚り合わせてなるヤーンを、さらに複数本撚り合わせてストランドとし、当該ストランドを複数本撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記第2の糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記反射材が、基材となる糸状フィルムの両面に、複数の透明微小ガラス球が上半球を露出させて固定され、かつ当該透明微小ガラス球の下半球には、反射層となる金属または金属化合物の蒸着層が形成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、上記請求項1〜4のいずれかに記載のロープの表面に、防汚機能および撥水機能の少なくとも一方の機能を有する薄膜樹脂層を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜5のいずれかに記載の発明においては、ロープ内に再帰性反射機能を有する反射材からなる糸材または第2の糸材が、他の糸材や第1および第2の糸材と共に撚り込まれているために、暗闇で上記ロープに自動車のヘッドライトや、人が携帯する懐中電灯の光を当てると、当該光が上記ロープ表面に露出する上記反射材に当たって、入射方向と同方向に反射されることになる。
【0015】
これにより、車の運転者や同乗者等に、直接的に上記反射光によってロープの存在を認識させることができる。
この結果、別途ロープを照らすための電球等の照明器具を要することなく、かつ自らを発光させることなく、夜間等の暗闇においても、光の反射によって上記ロープの存在を認識させることができるとともに、長期間にわたって上記認識機能が低下することが無い。
【0016】
したがって、上記ロープは、特に道路や鉄道等に係わる各種の工事現場や建築現場の周囲に、危険区域への人や車の進入を遮断するために張られるロープとして好適である。この際に、請求項1における反射材として用いられていない他の糸材、請求項2における第2の糸材または請求項3におけるヤーンを、長手方向に向けて順次黒色と黄色とに着色すれば、光反射機能を有するトラロープとすることができる。
【0017】
また、このロープは、他の様々な用途に用いることができ、例えば組紐等の各種の装飾用として用いたり、あるいは細い上記ロープを編んで網として用いたりすることができる。さらに、夜間勤務時の作業者の装着用ロープとして、あるいは犬等のペット用のロープ等として用いれば、夜間においても、車のヘッドライト等からの光を反射して運転者等にその存在を認識させることができ、よって上記作業者等の安全性を向上させることが可能になる。
【0018】
なお、上記ロープを構成するために糸材を撚り合わせる構造についても、各種形態を採用することができる。すなわち、請求項1に記載の発明のように、複数本の糸材をそのまま撚り合わせてもよい。また、請求項2に記載の発明のように、中心に強度を負担するための芯材となる第1の糸材を配置し、その周囲に複数本の第2の糸材を撚り合わせる構造を採用すれば、上記第1の糸材によってロープ全体としての引張強度を高めることができる。
【0019】
さらに、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の発明によって得られたロープをヤーンとし、これを複数本撚り合わせることによりストランドとして、このストランドをさらに複数本撚り合わせることにより上記ロープを構成すれば、細径の第1および第2の糸材によっても、極めて高い引張強度を得ることが可能になる。
【0020】
また、このように多数の第1および第2の糸材を撚り合わせて構成すれば、反射材を用いた第2の糸材がロープ表面に密に配置されることになるために、一層高い光反射効果を得ることができる。
ここで、上記反射材としては、再帰性反射が実現可能で有る限り、様々な素材を用いることができるが、経時的に表面が劣化することがないものを用いることが好ましい。
【0021】
この点、請求項4に記載の発明においては、上記反射材として、基材となる糸状フィルムの両面に、下半球に反射層となる蒸着層が形成された複数の透明微小ガラス球を、上半球を露出させて固定したものを用いているため、入射した光が上記透明微小ガラス球内を透過して蒸着層で反射され、再び入射方向と同方向に反射されるために、長期間にわたって安定した再帰性反射機能を保持させることができる。
【0022】
しかも、上記反射材は、基材となる糸状フィルムの両面に、下半球に反射層となる蒸着層が形成された複数の透明微小ガラス球を、上半球を露出させて固定したものであるために、他の糸材と撚り合わせる際に、どのように捻れても必ずその表面に透明微小ガラス球を位置させることができ、よって高い反射性能を確保することができる。
【0023】
また特に、請求項5に記載の発明にように、予め上記ロープの表面に、防汚機能および撥水機能の少なくとも一方の機能を有する薄膜樹脂層を形成しておけば、夜間の雨天時においても再帰性反射機能による高い視認性が維持されるために、より実用性に富んだロープを提供することができる。なお、このような薄膜樹脂層を形成する樹脂としては、例えばフッ素樹脂やシリコン樹脂等が好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1〜図4は、本発明に係るロープの一実施形態を示すもので、図中符号1が芯材となるフィラメント糸(第1の糸材)であり、符号2、3がこのフィラメント糸1の外周に撚り合わされた複数本(図では4本)のスパン糸(第2の糸材)である。
そして、フィラメント糸1の外周に、上記スパン糸2が撚り合わされることにより、ヤーン4が形成されている。
【0025】
ここで、各ヤーン4を構成するフィラメント糸1としては、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル等の合成樹脂繊維を用いることができ、他方スパン糸2としては、上記ナイロンやポリエステル等の合成樹脂繊維あるいは綿糸等の天然繊維を用いることができる。
そして、このロープにおいては、4本のスパン糸2、3のうちの1本のスパン糸3として、再帰性反射機能を有する反射材からなる糸が用いられている。
【0026】
この反射材からなるスパン糸3は、例えば外径3.7φのフィラメント糸1の外周に撚り合わされる場合には、幅寸法が275μm、厚さ寸法が170μmの帯状に形成されたものが用いられている。ちなみに、上記反射材自体では強度が不足する場合には、上記反射材をポリエステル等の合成樹脂繊維によってカバーリングしてスパン糸3とすれば、一層好適である。
【0027】
このスパン糸3は、図3に示すように、基材となる糸状のPETフィルム材5の両面に形成されたウレタン樹脂層6内に、多数の透明微小ガラス球7がそれぞれ上半球を露出させた状態で単層配列されて固定されたものである。ここで、上記透明微小ガラス球7の下半球には、アルミ等の金属または金属化合物等を蒸着してなる蒸着層8が形成されている。そして、この蒸着層8が光の反射層として機能するようになっている。なお、上記透明微小ガラス球7としては、例えば屈折率が1.3〜2.3の範囲であって、かつ30μm〜100μmの大きさのものが好適である。
【0028】
これにより、スパン糸3に向けて光が当てられると、光は透明微小ガラス球7内を透過して蒸着層8で反射され、再び透明微小ガラス球7内から入射方向と同じ方向に反射される。そして、この反射は、光が如何なる方向から入射した場合においても、同様に当該入射方向と同じ方向になる。このように、スパン糸3における光の反射は、再帰性反射となる。
【0029】
そして、上記構成からなる3本のヤーン4が撚り合わされることによりストランド9が形成されるとともに、このロープは、さらに3本のストランド9が撚り合わされることによって形成されている。この結果、このロープの表面には、全長および全周にわたって、いずれかのヤーン4に撚り込まれた再帰性反射機能を有する反射材からなるスパン糸3が露出している。さらに、この上記ロープの表面には、フッ素樹脂やシリコン樹脂等の防汚機能および撥水機能を有する薄膜樹脂層が形成されている。
【0030】
したがって、上記構成からなるロープによれば、暗闇で当該ロープに自動車のヘッドライトや、人が携帯する懐中電灯の光が当てられると、当該光をロープ表面に露出するスパン糸3によって、入射方向と同方向に反射させることができる。そして、この反射光によって、車の運転者や同乗者等に直接的に上記ロープの存在を認識させることができる。
【0031】
この際に、スパン糸3を構成する上記反射材は、PETフィルム材5の両面に多数の透明微小ガラス球7がそれぞれ上半球を露出させた状態で固定されているために、フィラメント糸1の外周にスパン糸3を撚り合わせる際に、どのように捻れても必ずスパン糸3の表面に透明微小ガラス球7を位置させることができ、よって高い反射性能を確保することができる。
【0032】
この結果、別途ロープを照らすための電球等の照明器具を要することなく、かつ自らを発光させることなく、夜間等の暗闇においても光の反射によって上記ロープの存在を認識させることができるとともに、長期間にわたって上記認識機能が低下することも無い。
【0033】
なお、上記実施の形態においては、スパン糸3を構成する反射材として、基材となる糸状のPETフィルム材5の両面に、下半球に蒸着層8が形成された多数の透明微小ガラス球7を、上半球を露出させた状態で固定したものを用いた場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、再帰性反射が実現可能で有る限り、様々な素材を用いることができる。
【0034】
また、上記ロープを構成するために糸材を撚り合わせる構造についても、上述した1本のフィラメント糸1の外周に4本のスパン糸3を撚り合わせてヤーン4とし、3本のヤーン4を撚り合わせてストランド9を形成するとともに、さらに3本のストランド9を撚り合わせて構成する場合に限るものではない。
【0035】
すなわち、複数本の糸材をそのまま撚り合わせた構造や、上記ヤーン4あるいはストランド9をそのままロープとした構造とすることもできる。また、フィラメント糸1やスパン糸3の太さについても、用途に応じて適宜選択することができる。
さらに、再帰性反射機能を有する反射材からなるスパン糸3の本数についても、上述した各々のヤーン4に1本を撚り込む構成に限るものではなく、各ヤーン4に複数本の上記スパン糸3を撚り込んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るロープの一実施形態において端部の撚りを解した状態を示す斜視図である。
【図2】図1のロープを構成するヤーンの断面図である。
【図3】図2のスパン糸3における光の反射機能を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 フィラメント糸(第1の糸材)
2 スパン糸(第2の糸材)
3 反射材からなるスパン糸
4 ヤーン
5 PETフィルム材(基材)
7 透明微小ガラス球
8 蒸着層
9 ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の糸材を撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするロープ。
【請求項2】
芯材となる第1の糸材の周囲に複数本の第2の糸材を撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記第2の糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするロープ。
【請求項3】
芯材となる第1の糸材の周囲に複数本の第2の糸材を撚り合わせてなるヤーンを、さらに複数本撚り合わせてストランドとし、当該ストランドを複数本撚り合わせてなるロープにおいて、少なくとも1本の上記第2の糸材が、再帰性反射機能を有する反射材からなることを特徴とするロープ。
【請求項4】
上記反射材は、基材となる糸状フィルムの両面に、複数の透明微小ガラス球が上半球を露出させて固定され、かつ当該透明微小ガラス球の下半球には、反射層となる金属または金属化合物の蒸着層が形成されてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のロープ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のロープの表面に、防汚機能および撥水機能の少なくとも一方の機能を有する薄膜樹脂層を形成したことを特徴とするロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−202151(P2008−202151A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36202(P2007−36202)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(596014896)アサヒテックス株式会社 (1)
【出願人】(000141222)株式会社丸仁 (2)
【出願人】(599056530)株式会社小松プロセス (18)
【Fターム(参考)】