説明

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【課題】本発明はポリ乳酸繊維を用いたロープの耐加水分解性を向上し、特に産業用に好適に使用可能なロープを提供することを課題とする。
【解決手段】 下記一般式(I)で表される、少なくとも1種のグリシジル基含有トリアジン骨格化合物によってカルボキシル基末端の一部又は全部が封鎖されてなるポリ乳酸繊維を少なくともロープの構成要素の一部とする。
【化1】


(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジル基であり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基から選ばれた基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸繊維を用いたロープに関するものであり、従来のポリ乳酸繊維を用いたロープで問題となっていた易加水分解性の問題を解決したロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は、燃焼や廃棄を行っても環境負荷の小さい樹脂として近年注目されている。ポリ乳酸が地球環境に優しい素材と言われる理由は、植物等の非石油系原料から得られ、生分解性を有するためである。ポリ乳酸の生分解機構は、加水分解により分子量が低下した後に微生物による生分解が始まることが一般に知られており、また、その加水分解速度が速いことも周知の事実である。
【0003】
このポリ乳酸樹脂を用いたポリ乳酸繊維は、廃棄した後も自然環境下に蓄積することが無く、独特の風合いを有することから、係船索やタグライン、ボートホール等の船舶用ロープや、ザイルやレンジャロープ等の陸上ロープとして実用化に向けた検討が進められている。
【0004】
しかしながら、主に屋外や水中で使用されることの多い産業用ロープに関しては、一定期間以上強度を保持することが求められているため、ポリ乳酸の有する「加水分解速度の速さ」が問題となり、近年までに他素材を代替する素材となっていないのが現状である。
【0005】
従来技術の中で、耐加水分解性に優れ、産業用用途に適したポリ乳酸繊維を得る技術が特許文献1〜3等に記載されており、特許文献1には、カルボジイミド化合物を添加してポリ乳酸の加水分解を抑制する技術が開示され、また、特許文献2および3には、それぞれオキサゾリン化合物、エポキシ化合物を添加することでポリ乳酸の加水分解を抑制する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−332166号公報
【特許文献2】特開2001−323056号公報
【特許文献3】特開2001−335626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のカルボジイミド化合物を添加してポリ乳酸繊維を得ようとした場合には、ポリ乳酸繊維製造工程において、カルボジイミド化合物に由来するイソシアネートが悪臭を発して作業環境が悪化するという問題や、カルボジイミドによりポリマーが増粘して製糸性を悪化させる問題を有していた。また本発明者らが特許文献2および3記載の方法を追試したところ、該化合物とカルボキシル基末端との反応性が悪く、通常の紡糸方法ではカルボキシル基末端の封鎖性が不十分であるとの結果であった。
【0007】
そこで本発明は、従来のポリ乳酸繊維を使用したロープで大きな問題となっていた加水分解による劣化問題を解決し、耐加水分解性に優れたロープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前述の課題について鋭意検討した結果、一般式(I)で表される、少なくとも1種の化合物によってカルボキシル基末端の一部又は全部が封鎖されてなるポリ乳酸繊維を少なくとも構成要素の一部としたロープが前述の課題を解決することを見出した。
【0009】
【化1】

【0010】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジル基であり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基から選ばれた基を表す。)
【0011】
なお、本発明のロープは、以下の(1)〜(4)を好ましい形態とし、船舶用ロープおよび陸上用ロープとしての用途に適した場合に最良の効果を発現する。
(1)ポリ乳酸繊維のカルボキシル基末端濃度が20当量/t以下であること、
(2)一般式(I)で表される化合物の添加量がポリ乳酸繊維全体の0.1〜5重量%であること、
(3)一般式(I)で表される化合物がジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、およびトリグリシジルイソシアヌレートから選ばれる1種以上であること、
(4)ポリ乳酸繊維の交絡度が5〜70であること。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ポリ乳酸繊維を用いたロープにおいて大きな問題となっていた加水分解による劣化問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸樹脂から得られ、そのポリ乳酸樹脂の分子量に特に限定は無い。しかしながら、分子量が高すぎると製糸性が悪化する可能性が、分子量が低すぎると繊維として必要な強度が得られない可能性があることから、重量平均分子量(Mw)は10万〜50万の範囲にあることが好ましい。また、さらに好ましいMwの範囲としては15万〜30万の範囲を例示できる。
【0014】
ポリ乳酸樹脂は乳酸と共重合可能な成分との共重合体であってもよい。ポリ乳酸を主体とする共重合物としては、前記乳酸と、例えばε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、コハク酸、セバシン酸、等のジカルボン酸類から選ばれるモノマーの一種又は二種以上を共重合したもの等を例示することができる。共重合の割合としては特に限定されないが、乳酸100重量部に対して、共重合させるモノマーは100重量部以下が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0015】
さらに本発明のポリ乳酸繊維中にはポリ乳酸樹脂とブレンド可能な物をブレンドしても良く、ブレンド可能な熱可塑性ポリマーとしては、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを例示することができる。
【0016】
更には、本発明のポリ乳酸繊維には艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。しかしながら、昨今の環境問題を鑑みると、石油系ポリマーのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明のポリ乳酸繊維は、染色工程による強度低下や環境汚染を避けるために予め少なくとも1種類以上の着色剤を含有させることが好ましい。本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維に添加される着色剤は、ポリ乳酸繊維に適切な特定の無機、有機顔料および染料であり、具体的には酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、アンスラキノン系、ベリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系化合物等を例示することができるが、これらに限られるものではない。着色剤の含有量としては0.01〜4重量%含有していることが好ましい。着色剤の添加量が0.01重量%未満の場合は色調が不足し、4重量%を超える場合は必要な強度を得ることが困難になる。着色剤の添加量は、ポリマーに対し0.1〜0.6重量%であることがより好ましく0.3〜0.5%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のポリ乳酸系繊維には耐磨耗性を向上させるために脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜3重量%含有させても良い。0.1重量%未満では耐磨耗性向上効果が十分に得られず、5重量%を超える場合には必要な強度を得ることが困難となる。脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量を上記範囲とすることで、繊維表面の滑り性が向上し、優れた耐摩耗性を付与することができる。脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等であり、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチローラステアリン酸アミド、メチローラベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。なかでも、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く昇華しにくいことから、より好ましく用いることができる。上記脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは単一で添加しても良いし、また複数の成分を混合して用いても良い。
【0019】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、前記一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物によってカルボキシル基末端基の一部又は全部が封鎖されてなることが必要である。ロープに用いるポリ乳酸繊維のカルボキシル基末端の一部又は全部が、前記一般式(I)で表される少なくとも一種の化合物によって封鎖されることで、本発明ロープの耐加水分解特性が飛躍的に向上する。
【0020】
前記一般式(I)で示される化合物は、トリアジン骨格を有する1〜3官能のグリシジル変性化合物であり、一般式(I)で示される化合物のうち、R〜Rの少なくとも1つがグリシジル基である必要がある。トリアジン骨格に前記グリシジル基が1〜3個有することで、比較的低温で成形するポリ乳酸繊維の紡糸においても高効率でカルボキシル末端基と反応する。また、カルボジイミド化合物のように増粘することがないため、溶融紡糸や延伸工程で分子鎖の配向を阻害することなく、末端封鎖した後も優れた力学特性、製糸性を示す。また、該化合物は耐熱性が高く、高温で成形しても着色の問題がないばかりか、本発明で示唆する添加量であれば作業環境を悪化させる臭気の発生も無い。
【0021】
なお、R〜Rのうちグリシジル基は好ましくは1〜2個であり、さらに好ましくは1個である。勿論、グリシジル基の数が異なる化合物が複数混合されていてもよい(通常は一般式(I)の合成段階でグリシジル基の数が1〜3個の混合物が分布を持って形成される)。
【0022】
また、R〜Rのうち、グリシジル基以外の基は水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基から選ばれる基である。ここで、アルキル基中の炭素原子数は少ない方がよく、炭素原子数1〜5であることが好ましい。上記の中でも、特に末端封鎖性と繊維の力学特性が優れるという点で、一般式(I)で表される化合物としてジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(以下、DAMGICと記載)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(以下、MADGICと記載)、トリグリシジルイソシアヌレート(以下、TGICと記載)が好ましく用いられる。
【0023】
また、本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、前記の一般式(I)の化合物によりポリ乳酸樹脂末端のカルボキシル基の一部又は全部が封鎖されていることから、カルボキシル基末端濃度が低いものである。ここで、カルボキシル基末端濃度とは、ポリマーのカルボキシル基末端だけでなく、残存オリゴマーやモノマー由来のものも併せた全体のカルボキシル基末端濃度を指す。本発明において、十分な耐加水分解性を与えるためにはカルボキシル基末端濃度は20当量/t以下にすることが好ましく、より好ましくは15当量/t以下、さらに好ましくは10当量/t以下、特に好ましくは0〜5当量/t以下である。
【0024】
また、耐加水分解性を持続させるために、未反応の一般式(I)で表される化合物を残存させることが好ましい。そのように設計することで、新たに加水分解でできたカルボキシル基末端も封鎖される。カルボキシル基末端濃度は、上記一般式(I)で表される化合物の添加量によって制御することができる。ここで、一般式(I)の化合物の添加量は、エポキシ基当量としてポリ乳酸繊維の全体のカルボキシル基末端濃度の1.05倍当量以上にすることが好ましい。そのため、該化合物の添加量は原料となるポリ乳酸樹脂の全体のカルボキシル基末端濃度に依存するが、一般式(I)で表される化合物の添加量はポリ乳酸繊維全体に対して通常0.1〜5重量%である。なお、一般式(I)で表される化合物のR〜Rのうち、グリシジル基の数が2乃至3の場合にはポリ乳酸樹脂の鎖連結や架橋反応により、ポリマーのMw/Mnが大きくなる傾向にある。また、未反応物があまりに過剰であると、溶融紡糸やロープ製造工程にて繊維系外へ排出され、本来の目的として使われることがなくなる。そのため、一般式(I)で表される化合物の添加量はポリ乳酸繊維全体に対して0.2〜5重量%であることが好ましく、0.3〜3重量%であることがより好ましい。さらに好ましくは0.4〜2重量%である。
【0025】
また、上記の一般式(I)で表される化合物の他、カルボキシル基末端と反応性のあるオキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基を持つ化合物を併用して添加してもよい。このような化合物の具体例としては、ジイソプロピルフェニルカルボジイミドやフェニレンビスオキサゾリン等が挙げられる。
【0026】
また、一般式(I)で表される化合物とカルボキシル末端基とを効率よく反応させるために、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、さらに3級アミン化合物、イミダゾール化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、リン酸エステル、有機酸、ルイス酸が挙げられ、その具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ほう素ナトリウム、水素化ほう素リチウム、フェニル化ほう素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、同二カリウム塩、同二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、同カリウム塩、同リチウム塩、同セシウム塩などのアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアミルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエチレンジアミン、ジメチルフェニルアミン、ジメチルベンジルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルアニリン、ピリジン、ピコリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの3級アミン、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−フェニル−2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリプロピルベンジルアンモニウムクロライド、N−メチルピリジニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(p−ヒドロキシ)フェニルホスフェート、トリ(p−メトキシ)フェニルホスフェートなどのリン酸エステル、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機酸、三フッ化ホウ素、四塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズなどのルイス酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。中でも、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、ホスフィン化合物、リン酸エステルを使用するのが好ましく、特にアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の有機塩を好ましく使用することができる。特に好ましい化合物は、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムである。さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭素数6以上の有機塩が好ましく、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウムとした触媒を添加すると、反応効率を高めることができ好ましい。また、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることもポリ乳酸との相溶性がよく好ましい。その他、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独または併用することもできる。なお、該触媒の添加量は、分散性、反応性を制御する上で、繊維に対して5〜2000ppm添加することが好ましい。より好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜500ppmである。
【0027】
また、本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維の断面形状もなんら制限されるものではなく、扁平断面、三葉断面、中空断面、Y型断面、田型断面、C型断面、W型断面、三角断面、またはそれらの組み合わせ等を採用することができる。断面形状を異型断面とすることで、柔らかさ、膨らみ感、嵩高性、軽量性、保温性等を付与することが可能となる。
【0028】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維はモノフィラメント、マルチフィラメント、スリットヤーン等の形態を採用できる。繊度に関しても特に限定は無く、用途に応じて適宜繊度を変更すればよい。使用できる総繊度の範囲としては20〜10000dtex、好ましくは300〜3000dtexの範囲を例示でき、単糸繊度の範囲としては0.02dtex〜10000dtex、好ましくは0.1dtex〜3000dtexの範囲を例示することができる。総繊度が前記範囲を下回る場合には生産性が悪く、総繊度が前記範囲を上回る場合には、例えば溶融紡糸の際に冷却能が不足して製糸性を悪化する可能性がある。
【0029】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、実用的な観点から強度が1.5cN/dtex以上、より好ましくは2.5cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtexである。一方、強度の上限は現在の技術で安定して製造できるという観点から、9.0cN/dtex以下である。また、伸度は必要に応じてにより適宜選択すれば良く、例えば10〜300%の範囲を例示することができる。さらに好ましい範囲として10〜100%とすれば高強度で寸法安定性に優れたロープを得ることが可能であり、100〜300%とすればロープに柔軟性を付与することが可能である。ポリ乳酸繊維の沸騰水収縮率(以下、沸収と略す場合がある)は0〜20%であればロープの寸法安定性が良好となるため好ましい。前述の繊維物性は紡糸温度、紡糸速度、延伸温度、延伸倍率等により制御することが可能である。
【0030】
前述のごとき本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、以下に説明する製造方法によって製造することができる。
【0031】
ポリ乳酸繊維の原料となるポリ乳酸樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、特開平6−65360号公報記載の方法(直接脱水縮合法)、特開平7−173266号公報記載の方法(少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法)、米国特許第2,703,316号明細書に記載されている方法(乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に開環重合する間接重合法)等を採用することができる。
【0032】
前述の上記一般式(I)で表される化合物は、例えばTGICの場合はイソシアヌル酸とエピクロロヒドリンを触媒下で反応させて製造することができる。なお、TGIC中の残留エピクロロヒドリンの量は少ないほど溶融成型時の揮発が少なく好ましい。TGIC中のエピクロロヒドリンの濃度は好ましくは0〜1000ppm、より好ましくは0〜500ppm、さらに好ましくは0〜200ppmである。
【0033】
ポリ乳酸繊維の製造方法を詳述するため、典型的な直接溶融紡糸延伸プロセスの一例を図1に示した。図1のプロセスは、「プレストレッチ−3段延伸−リラックス」法であるが、もちろん上記要件を満足する限り本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維の製造方法はこのプロセスに限定されるものではなく、未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸工程に供する方法や、高速紡糸法等を自由に採用することができる。
【0034】
上記一般式(I)で表される化合物によってカルボキシル基末端が封鎖されたポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂に前記一般式(I)で表される化合物を添加し、溶融状態もしくは溶液状態で混合し、両者を反応させることにより製造することができ、例えば、ポリ乳酸樹脂の重縮合反応終了直後の溶融状態において前記一般式(I)で表される化合物を添加し攪拌して反応させる方法、ポリ乳酸樹脂のチップに前記一般式(I)で表される化合物を添加して混合した後に反応缶あるいはエクストルーダーなどで溶融混練して反応させる方法、エクストルーダーでポリ乳酸樹脂に液状化した前記一般式(I)で表される化合物を連続的に添加し、溶融混練して反応させる方法、前記一般式(I)で表される化合物を高濃度含有させたポリ乳酸樹脂のマスターチップとポリ乳酸樹脂のホモチップとを混合したブレンドチップを、紡糸時にエクストルーダーなどで混練・反応させる方法などにより行うことができる。
マスターチップを製造する場合の、前記一般式(I)で表される化合物の添加量は、ポリ乳酸樹脂との合計量に対して1〜40重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましい。
【0035】
また、溶融紡糸に供する場合には、ポリ乳酸樹脂の水分率として、ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制するために200ppm以下であることが好ましい。
【0036】
紡糸温度は、用いるポリ乳酸樹脂の融点に左右されるが、高融点側樹脂の融点よりも少なくとも20℃以上高い温度で紡糸をすることが製糸性の観点から好ましい。
【0037】
以下、本発明のポリ乳酸繊維の製造方法を図1を参照して具体的に説明する。
【0038】
ポリ乳酸繊維は、窒素雰囲気中でホッパー(1)に充填されたポリ乳酸樹脂のチップを2軸押出混練機を備えたエクストルーダー(2)にて溶融混練して紡糸パック(3)に導入し、紡糸口金(4)より吐出する方法で得ることができる。前述の顔料を添加する際は、エクストルーダーにて直接混合する方法や、あらかじめ顔料を高濃度に含有したポリ乳酸樹脂マスターチップを作成して、溶融前にチップをブレンドする方法が採用できる。
【0039】
紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0〜15cmを上端とし、その上端から5〜100cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を200〜280℃の高温雰囲気中を通過させることが好ましい。紡出した糸条を直ちに冷却せず、上記加熱筒および/または断熱筒で囲まれた高温雰囲気の徐冷ゾーン(5)中を通して徐冷することにより、紡出された糸条の配向が緩和され、かつ単繊維間の分子配向均一性を高めることができる。一方、高温雰囲気中を通過させることなく直ちに冷却すると、未延伸糸の配向が高まり、かつ単繊維間の配向度分布が大きくなる。かかる未延伸糸条を熱延伸すると、結果として高強度な複合繊維が得られない可能性がある。
【0040】
高温雰囲気中を通過した未延伸糸条は、次いで冷却装置(6)中で10〜100℃、好ましくは15〜75℃の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。冷却装置(6)は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。また、モノフィラメントの様に高い冷却効果が求められる際には、水冷等の冷却方法を採用することができる。
【0041】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで給油装置(7)で油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良いが、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリ乳酸樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。例えば、水エマルジョンに含まれる乳化成分は、ポリ乳酸繊維の繊維構造を変化させる作用があり、延伸時に表面凹凸を生成し易く働く。従って、非水系油剤を用いることが好ましい。更に、好ましい油剤組成は、例えば、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤である。
【0042】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取りローラ(1FR)(8)に捲回して引き取る。1FRの表面速度、即ち引取り速度は300m/分以上が好ましく、さらに好ましくは500m/分以上である。300m/分未満の引取り速度でもポリ乳酸繊維は得られるが、生産効率が低いため採用し難い。引取り速度に特に上限は無いものの、工業的に安定して生産する場合には引取り速度は5000m/分以下が好ましく、より好ましくは3000m/分以下である。
【0043】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して延伸する。1FRと同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを、引取ローラ(2FR)(9)、延伸ローラ(1DR)(10)、延伸ローラ(2DR)(11)、延伸ローラ(3DR)(12)および弛緩ローラ(RR)(13)と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行う。通常、1FRと2FR間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。好ましいストレッチ率は1〜7%、さらに好ましくは1〜5%の範囲である。1FRは50〜80℃、好ましくは50〜70℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。
【0044】
1段目の延伸は2FRと1DR間で行い、2FRの温度は80〜120℃、好ましくは80〜110℃とし、1DRの温度を90〜120℃、好ましくは100〜120℃とし、例えば、総延伸段数が3段の場合には1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の20〜90%、好ましくは20〜50%に、総合延伸段数が2段の場合には1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の30〜90%、好ましくは50〜90%の範囲に設定する。
【0045】
2段目の延伸は1DRと2DR間で行うが、2DRは110〜160℃、好ましくは115〜145℃である。2段延伸の場合は総合延伸倍率に対し、1段目の延伸倍率の残りの延伸をこの間で行う。3段延伸の場合は、残りの延伸倍率を2段に分けて行う。3段延伸を行う場合の3DRの温度は120〜160℃、好ましくは130〜150℃である。2段延伸または3段延伸を終えた糸条はRRとの間で0〜10%、好ましくは0〜7%、さらに好ましくは0.5〜5%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された高配向構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。RRは非加熱ローラまたは、160℃以下に加熱したローラを用いる。
【0046】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維は、上記方法によって基本的な物性は得られる。しかし、毛羽の発生を少なくして高品位のポリ乳酸繊維を得るために、1段延伸が行われる2FRと1DRの間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。糸条を交絡、集束させるための交絡付与装置(14)は、通常糸条を巻き取る直前に糸条に交絡を付与し、集束させるために用いられる交絡ノズルを用いることができる。交絡付与は1段目の延伸時に行うのが効果的であるが、1段目に加え、2段目および3段目の延伸時にも行っても良い。ポリ乳酸繊維に施す交絡度としては5〜70であることが好ましく、10〜60であることがより好ましい。交絡度が5未満の場合には、高次加工における工程通過性が悪くなるため好ましくない。また、交絡度が70より大きい場合には、ループが発生しやすく、安定して高次加工を行うことが困難である。その後ポリ乳酸繊維は巻き取り装置(15)により巻き取られる。
【0047】
本発明のロープに用いるポリ乳酸繊維はかくして得ることができる。
【0048】
本発明のロープは環境負荷を低減させる観点から、非石油原料由来であるポリ乳酸繊維を少なくとも構成要素の一部とすることが必須である。また、本発明のロープは、一般式(I)で表される少なくとも1種の化合物によってカルボキシル末端の一部又は全部が封鎖されてなるポリ乳酸繊維を10〜100重量%含むことが環境負荷低減の観点から好ましい。さらに好ましい範囲としては30〜100重量%、より好ましい範囲としては50〜100重量%の範囲を例示することができる。
【0049】
本発明のロープの製造方法は、従来公知の方法を用いれば製網可能であり、本発明に用いるポリ乳酸繊維を合糸してヤーン工程、ストランド工程を順次行い、得たストランドをクローサもしくは編索機でロープへと製網する。この後、形状、品質、性能を安定させるため、60〜160℃の範囲で熱処理工程を行うことが好ましい。熱処理温度が160℃以下であればポリ乳酸繊維間での融着が発生することなく品位の良いロープを得ることができ、60℃以上であれば目的とする熱セット効果を得ることできる。好ましい熱セット温度の範囲としては80〜150℃、更に好ましくは100〜140℃である。かかる熱処理は樹脂加工や蒸気、温水、電熱等による種々の方法があるが、通常ロープ径は太いため、外部と内部を均一に熱処理するためには、内部から発熱する高周波電波を用いることが好ましい。
【0050】
撚り合わせ方法としては、特に限定されないが、JIS−L2701(1992)、JIS−L2703(1992)、JIS−L2704(1992)、JIS−L2705(1992)、JIS−L2706(1992)等に例示される方法を適宜選択して用いることができる。
【0051】
撚り回数は特に限定されないが、通常、例えば、下撚り30〜500回/m、好ましくは、50〜300回/m、上撚り数は20〜200回/m、20〜100回/m程度がより好ましい。
【0052】
ロープ構造としては、その用途に合わせた構造とすれば良い。例えば、三打ち、四打ち、六打ち、八打ち等の撚り合わせロープや、石目打ち、綾目打ち、十二打ち、十六打ち等といった編索ロープや組み紐、または、金剛打ち、岩糸、延縄のような特殊構造のロープが可能である。但し、繊維の高強度、高弾性率をできるだけ生かすためには、撚数の少ないものを選ぶ方が好ましい。
【0053】
また、撚りをかけたり、編み上げたりする時には、必要に応じてフィラメントに集束剤、油剤、表面処理剤を付与することが効果的である。また、一度ロープを製造した後でこれらの処理を行っても良い。このような表面処理は、ロープを構成する繊維間の摩擦、摩耗による物性低下や、ロープ製造時、使用時のロープ、繊維の金属等、他素材との接触によりる摩耗や耐候性に効果を有するため好ましい。
【0054】
かくして、本発明のロープを得ることができる。
【0055】
本発明のロープとしては、例えば、係船索やタグライン、ボートホール、ガイロープ、ストロングロープ等の船舶用ロープ、ザイルやレンジャロープ、リード等の陸上ロープなどに適しているが、これらの用途に限られず採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0057】
(1)ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製GPC−150C)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn、さらに分散度Mw/Mnを求めた。
【0058】
(2)カルボキシル基末端濃度
精秤した試料(1g)をo−クレゾール(水分5%)20mlに浸漬して145℃で10分間溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0059】
(3)ラクチド量
試料1gに2,6−ジメチル−γ−ピロンを10000ppm含むジクロロメタン1ml、および18mlのジクロロメタンを添加して撹拌・溶解した。この溶液を1ml計量し、3mlのアセトンと混合した後、16mlのシクロヘキサン溶液を加えた。得られた溶液を直径13mm、孔径0.45mmのシリンジフィルターで濾過した後、ヒューレットパッカード社製5890 SeriesII Plusを用いてガスクロマトグラフィー法で測定した。カラムは内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25mmの島津社製BPX50を用いた。サンプル注入量は1mlのキャリアガスとしては水素を用い、初期温度50℃から25℃/分の速度で325℃まで昇温して測定し、絶対検量線法により求めた。
【0060】
(4)融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度 5℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0061】
(5)総繊度およびフィラメントの繊度
JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重として5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては90mで測定した。
【0062】
(6)単繊維繊度
上記(5)に従って測定した総繊度を、ポリ乳酸繊維を構成する単繊維数で割り返した値を採用した。
【0063】
(7)繊維強度および伸度
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0064】
(8)製糸性
ポリ乳酸繊維糸条を得るときの1糸条1t当たりの製糸糸切れについて、次の基準をもって製糸性を評価した。
◎:糸切れ1回未満、○:糸切れ1回以上3回未満、△:糸切れ3回以上5回未満、×:糸切れ5回以上
【0065】
(9)強度保持率
耐加水分解性の加速試験として、秤量したロープ10gを収縮しないように固定(金属枠に固定)し、水3000mlと共に密閉可能な容器に入れた後、昇温速度4℃/分にて容器内の水温が130℃となるように加熱した後、該温度で40分間保持し、引き続いて降温速度4℃/分にて冷却させ、水温が50℃以下になったら試料を取り出し、水洗を行い、前記熱処理前後での強度の比を下式により強度保持率を算出した。
強度保持率(%)=T0/T1×100
T1:熱処理前の引張強度
T0:熱処理後の引張強度
【0066】
(10)交絡度(CF値)
1m試長の試料に100gの荷重をかけ、6gのフックを下降速度1〜2cm/秒で下降させ、式:交絡度(CF値)=100(cm)/下降距離(cm)により計算して求めた。試行回数10回の平均値を採用した。
【0067】
[製造例1](ポリ乳酸樹脂の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させて窒素雰囲気下180℃で230分間重合を行い、樹脂P1を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は22.1万であった。
【0068】
[製造例2](DAMGICを10重量%含有したポリ乳酸樹脂の製造)
P1と四国化成(株)製ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸(以下、DAMGICと称する)を乾燥した後、P1:DAMGIC=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練し樹脂P2を得た。
【0069】
[製造例3](MADGICを10重量%含有したポリ乳酸樹脂の製造)
P1と四国化成(株)製モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(以下、MADGICと称する)を乾燥した後、P1:MADGIC=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練して樹脂P3を得た。
【0070】
[製造例4](TGICを10重量%含有したポリ乳酸樹脂の製造)
P1と日産化学工業(株)製トリグリシジルイソシアヌル酸(以下、TGICと称する)を乾燥した後、P1:TGIC=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練して樹脂P4を得た。
【0071】
[製造例5](ポリカルボジイミドを10重量%含有したポリ乳酸樹脂の製造)
P1と日清紡(株)製ポリカルボジイミド“カルボジライト”HMV−8CA(以下、PCIと称する)を乾燥した後、P1:PCI=90:10(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度200℃で混練して樹脂P5を得た。
【0072】
[実施例1]
P1とP4を真空乾燥機を用いて105℃にて12時間乾燥した。P1:P4を9:1(最終TGIC濃度1重量%)となるようにチップ状態でブレンドし紡糸ホッパーに供給した。ブレンドされたチップを2軸のエクストルーダーを保有する紡糸機を用いて220℃で溶融紡糸した。エクストルーダーで溶融されたポリマーを紡糸パックに導き、20μmの金属不織布フィルターで濾過した後、表1記載の繊度となるようにギヤポンプにて計量し、孔経0.6φで144ホールの口金から紡出した。
【0073】
口金面より3cm下には15cmの加熱筒および15cmの断熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が250℃となるように加熱した。ここで筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。
【0074】
加熱筒の直下には環状吹きだし型チムニーを取付け、糸条に30℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、糸条に油剤を付与した。油剤は、竹本油脂株式会社製“TRN−4627”を、イオン交換水を用いて18%エマルジョンしたものを用いた。
【0075】
油剤を付与された未延伸糸条は、表面速度375m/分の速度で回転する1FRに捲回して引取った。次いで、引取り糸条は一旦巻き取ることなく連続して該引取りローラと2FRとの間で1.5%のストレッチをかけた後、引き続いて3段熱延伸を行ない、1.5%の弛緩を与えてから3000m/分の速度で巻き取った。直接紡糸延伸は図1に示したプロセスを用いて行った。1FRは60℃、2FRは100℃、1DRは115℃、2DRは140℃、3DRは140℃とし、RRは非加熱とした。ローラへの糸条の捲周回数はそれぞれ、3回、4回、4回、4回、5回、4回とした。RRと巻き取り機の間には交絡付与ノズルを設置し繊維に交絡を付与した。交絡は、交絡付与装置内で走行糸条に対し略直角方向に2kg/cm2の高圧空気を噴射することにより行いポリ乳酸繊維を得た。得られた繊維物性を評価して表1に示した。なお、1段目の延伸倍率は、総合延伸倍率の34%、2段目の延伸倍率は33%、3段目の延伸倍率を33%に設定して延伸した。
【0076】
得られた1000dtexのポリ乳酸繊維を6本合わせて50t/mの撚糸を施し、さらにこの撚糸10本を40t/mで合撚して60000dtexのストランドを得た。このストランド3本を用いて15t/mで三打ちして直径11mm、180000dtexのロープを作製した。得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0077】
[実施例2]
P4の替わりにP3を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0078】
[実施例3]
樹脂P4の替わりに樹脂P2を用い、DAMGICの最終濃度が0.4重量%となるように樹脂P1と樹脂P2をブレンドしたこと、および、特開2005−240219号公報の実施例1記載の口金、すなわちスリット幅0.35mm、スリット径1.8mm、スリット数4の細孔を48ホール有する口金を用いて中空率が40%のポリ乳酸繊維を得たこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0079】
[実施例4]
P4の替わりにP2を用い、DAMGICの最終濃度が7重量%となるようにP1とP2をブレンドしたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0080】
[実施例5、6]
表1記載の交絡度となるように交絡付与装置内で糸条に噴出する高圧空気の圧力を変化させたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0081】
[比較例1]
P4の替わりにP5を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0082】
[比較例2]
P1のみを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸繊維を製造し、ロープを作製し得られたロープの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より明らかなように、実施例1〜6に記載の本発明のロープは、ポリ乳酸繊維のカルボキシル基末端を封鎖していない比較例2のポリ乳酸と比較して、非常に耐加水分解性に優れたロープであった。また、本発明は実施例3のように異型断面繊維としてもなんら効果を損なわれるものではなく、軽量でロープ設置時の作業者の負担を軽減する等の付加価値を付与することが可能であった。
【0085】
一方で、比較例1記載のように本発明で開示された一般式(I)以外の化合物を用いてポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖した場合には、ポリ乳酸と化合物の反応性の悪さに起因すると考えられる製糸性不良が発生するばかりか、紡糸時に悪臭を発生したため作業環境が悪化するという問題が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施態様の一例の紡糸工程図である。
【符号の説明】
【0087】
1:ホッパー
2:エクストルーダ
3:紡糸パック
4:紡糸口金
5:徐冷ゾーン
6:冷却装置
7:給油装置
8:1FR
9:2FR
10:1DR
11:2DR
12:3DR
13:RR
14:交絡付与装置
15:巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、少なくとも1種の化合物によってカルボキシル基末端の一部又は全部が封鎖されてなるポリ乳酸繊維を少なくとも構成要素の一部としたことを特徴とするロープ。
【化1】

(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジル基であり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基から選ばれた基を表す。)
【請求項2】
ポリ乳酸繊維のカルボキシル基末端濃度が20当量/t以下であることを特徴とする請求項1記載のロープ。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物の添加量がポリ乳酸繊維全体の0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のロープ。
【請求項4】
一般式(I)で表される化合物がジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、およびトリグリシジルイソシアヌレートから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のロープ。
【請求項5】
ポリ乳酸繊維の交絡度が5〜70であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のロープ。
【請求項6】
前記ロープが、船舶用ロープ、陸上用ロープから選ばれる少なくとも一種に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のロープ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−38285(P2008−38285A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214174(P2006−214174)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】