説明

ロールミル及びそれを用いた分散または粉砕方法

【課題】微粉体やナノ粒子等の物質を液体中に混合した処理材料を再凝集を効果的に防ぐように練肉・分散処理することができる微粉体・ナノ粒子等の微粉砕・分散に適したロールミル及びそれを用いた分散または粉砕方法を提供する。
【解決手段】ロールミル本体は、後ロール2と中ロール3と前ロール4を有する。この後ロール2と中ロール3により形成されるバンク5内には、このバンク5内の処理材料に超音波を照射する超音波ホーン7が設けられている。この超音波ホーン7は、変位センサー12の検知に基づいて、処理材料の液面の高さとの距離を調整するよう上下動可能に形成されている。前ロール4に摺接するドクター本体にも超音波ホーンが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ、塗料、セラミック、薬品、食品、電子材料その他の各種製品の製造工程において、処理材料中の微粉体・ナノ粒子等の物質を練肉・分散処理するために用いられる、複数本のロールを具備するロールミル及びそれを用いた分散または粉砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周速度の異なる複数のロールを有し該ロール間で起こる圧縮・剪断作用を利用して処理材料中の固体粒子を微粒子化し液体中に分散するようにしたロールミルが広く用いられている。しかし、処理材料中の固体が微粉体・ナノ粒子である場合その凝集体を一次粒子化して練肉・分散処理しても、上記微粉体・ナノ粒子は非常に凝集力が強いので、時間が経過すればするほど、粒子間斥力が減少したり、粒子間引力(ファンデルワールス力)が増大したりする結果、再凝集の問題が生じることが多い。粒子間斥力を増大させるためにゼータ電位を高くしたり、粒子間引力を減少させるために適宜媒質を変更することも考えられるが、処理材料の品質特性を考慮すると処方を変更するのは望ましくない。そこで、上記問題を解決するため、ニーダ、ロールミル、ボールミル、サンドミル等の分散機によって分散を行い、分散終了後、ポンプを使って処理材料を超音波ホモジナイザーに送り込み、超音波を照射して均一に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では、処理材料が分散機からポンプを介して超音波ホモジナイザーに送り込まれるまでの間に時間が経過し再凝集が進行してしまうので、粒子間の再凝集を効果的に防止できなかった。また、処理材料に超音波のみを照射すると、発熱エネルギーが強すぎて処理材料の温度が上昇し、製品が劣化してしまうという問題点もあった。
【特許文献1】特開平10−251561号公報(請求項1、段落0006、0014、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、微粉体やナノ粒子等の物質を液体中に混合した処理材料を再凝集を効果的に防ぐように練肉・分散処理することができる微粉体・ナノ粒子等の微粉砕・分散に適したロールミル及びそれを用いた分散または粉砕方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願出願人は、種々考究の結果、ロールミルによるソフト分散と相俟って処理中に処理材料に超音波を照射すれば、微粉体やナノ粒子の再凝集を効果的に防止できることを突き止めた。本発明によれば、ロールミル本体に周速度の異なるロール間に供給された処理材料中の物質を該ロール間に生じる圧縮・剪断作用により微粒子化して液体中に分散するよう複数のロールを並列して設け、分散処理された処理材料をロールから掻き取ってロールミル本体から取り出すようロールに摺接するドクターを形成し、上記ロール間に供給された処理材料がロールミル本体から取り出されるまでの間に超音波照射を受けるよう上記処理材料に超音波を照射する超音波ホーンを設けたことを特徴とするロールミルが提供され、上記課題が解決される。
【0005】
また、本発明によれば、上記超音波は好ましくはその振動数は15kHz〜30kHzであり、振幅は5μm〜50μmであって、上記ロールは後ロール、中ロール、前ロールで構成され、上記超音波ホーンは、後ロールと中ロール間のバンクに沿って複数個所に設けられ、上記ロールミル本体は、バンク内の処理材料の液面高さを検知する変位センサーを有し、上記超音波ホーンは、該変位センサーの検知に基づいて該液面との距離を調整するよう上下動可能に設けられた上記ロールミルが提供され、上記課題が解決される。また、上記超音波ホーンは、上記ドクター上を流下する処理材料に超音波を照射するようドクター部分に設けられ、上記ドクターは上方に開口する液溜部を有し、上記超音波ホーンは該液溜部に対応して設けられ、または、上記超音波ホーンは、ドクターの裏面に密着して設けられた上記ロールミル及び上記いずれかのロールミルを用いて液体中の微粉体・ナノ粒子を分散または粉砕することを特徴とする分散または粉砕方法が提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、上記のように構成され、分散処理中に処理材料に超音波を照射するようロールミルに超音波ホーンを設けたので、従来の方法のように時間が経過してある程度再凝集が進んでから超音波照射する場合に比べて分散処理と超音波照射が同時に行われるから、微粉体・ナノ粒子の濡れが促進され、再凝集は効果的に防止され、経時安定性の優れた固・液ペーストを得ることができる。また、超音波を照射してもロールは通常冷却されているので、処理材料が発熱するおそれもなく、品質を劣化させることもない。さらに、振動数が15kHz〜30kHz、振幅は5μm〜50μmの超音波を照射すると、一層安定状態に分散できることがわかった。
【0007】
上記超音波ホーンはロールミルの適所に設けることができるが、上記ロールミルが後ロール、中ロール、前ロールで構成された3本ロールの場合、上記超音波ホーンを後ロールと中ロール間のバンクに沿って複数個所に設けるのがよい。そのように構成すると、ロールには通常クラウンがあるため、処理材料中に存在する粒径数十μmの凝集粒子体は、後ロールと中ロール間のバンク内(供給ニップ間)において、せき板が設けられている両側部に集まりやすいが、上記の構成にしたため、該両側部にも満遍なく超音波を照射することができるので、該凝集粒子体を解砕し、濡れを促進することができる。さらに、上記ロールミル本体にバンク内の処理材料の液面高さを検知する変位センサーを設け、上記超音波ホーンを該変位センサーの検知に基づいて上下動させて該液面と該超音波ホーンとの距離を自動的に調整するようにすれば、該液面が昇降しても、常に最適の状態で超音波を照射することができるから、安定した分散が可能になる。
【0008】
特に、ナノ領域での分散を行う場合(分散粒子径が100nm以下の場合)には、上記の構成に加えて、ドクター上を流下する処理材料に超音波を照射するようドクター部分に超音波ホーンを設ければ、微粉体・ナノ粒子の分散処理はより安定したものになる。そして、該ドクターの傾斜面に上方に開口する液溜部を形成し、上記超音波ホーンを該液溜部に対応して設けたり、ドクターの裏面の超音波ホーンを設ければ、微粉体・ナノ粒子の分散はより一層効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、各種のロールミルに適用することができるが、図1〜図3には実施例として、ロールミル本体1に、後ロール2、中ロール3、前ロール4を設け、該前ロール4にドクターを摺接させた3本ロールミルが示されている。上記後ロール2と上記中ロール3のバンク5内の両側端部には処理材料が漏洩しないようせき板6が設けられ、該ロール間に処理材料が供給され、公知のように分散された処理材料が上記ドクターによりロールミル本体から取り出される。
【0010】
上記ロール間に供給された処理材料がロールミル本体から取り出されるまでの間に超音波照射を受けるよう上記処理材料に超音波を照射する超音波ホーンが設けられている。該超音波ホーンは、適所に適宜数設けることができるが、図1に示す実施例においては、後ロール2と中ロール3の間のバンク5に沿って超音波ホーン7が3個所に設けられている。該超音波ホーン7は、上記バンク5に沿って延びる支持板8に支持されており、該支持板8の両側端は一軸テーブル9に固着され、上下動可能に設けられている。一方の側壁10から延出されている支持フレーム11の先端には上記バンク5内の処理材料の液面高さを検知する変位センサー12が設けられ、上記支持板8には該変位センサー12に対応して貫通孔13が形成されている。上記一軸テーブル9は、該変位センサー12の検知に基づいて上下動し、該液面の高さと上記超音波ホーン7との距離を自動的に調整する。なお、所望により、超音波ホーンを固定的に設けてもよい。
【0011】
上記超音波ホーン7の振動数、振幅等は処理材料の性状等に応じて適宜に選定することができるが、実験の結果によれば、微粉体・ナノ粒子の場合、好ましくは振動数が約15kHz〜30kHz、振幅が約5μm〜50μmとすると、最良の結果が得られた。
【0012】
図4、図5は、ドクター部分の構成を示し、平面視略台形状に形成されたドクター本体14の後端部分には、前ロール4に摺接するよう掻取部15が設けられ、該ドクター本体14はロールミル本体1の側壁10に掛け渡された支持軸16により支持されている。該ドクター本体14の両側には壁板17が形成され、上記掻取部15により掻き取られた処理材料が流下する傾斜面18の中央部には該処理材料を分割する平面視略山形状の仕分板19が設けられている。該壁板17の前端と該仕分板19の前端には回収口20が形成され、該回収口20の奥には上方に開口する液溜部21が設けられている。そして、該液溜部21に対応して超音波ホーン22が設けられている。該超音波ホーン22は、ロールミル本体1の側壁10に掛け渡された支持板23に固定されており、下端が上記液溜部21に入り込んでいる。図においては、該液溜部21に対応して2本の超音波ホーン22が設けられているが、超音波ホーンは液溜部の数や分散条件に応じて適宜数設けることができる。なお、超音波ホーンは、適宜の場所に設けることができ、例えば、ドクターの裏面に密着させて設けてもよい。
【実施例】
【0013】
表1は、イオン交換水に分散剤と一次粒子径がD50=21nmの超微粒子化酸化チタンをプレミキシングした粒径D50=2.652μmのものを処理材料に用いて15分間の分散を行った実験結果を示している。実施例として、Aは本発明のロールミルを用いて上記処理材料を分散したもので、従来の3本ロールミルで分散処理を行った直後に300w(振動数15〜30kHz、振幅5〜50μm)の超音波を照射した場合の分散粒子径を測定した。比較例として、従来の3本ロールミルのみを用いて分散処理を行ったもの(B)と300wの超音波照射のみで分散処理を行ったもの(C)を用意し、分散粒子径の平均値を測定した。
その結果、表1に示すとおり、上記Cでは分散粒子径がD50=2.652μmで、プレミックスの段階とほとんど変わりがなく、超音波照射を400w(振動数15〜30kHz、振幅5〜50μm)にしても変化が見られなかった。また、上記Bでは分散粒子径がD50=0.296μmのものが得られたが、分散後増粘で再凝集した。これに対して、上記Aの場合、すなわち本発明のロールミル及びロールミルによる分散・粉砕方法を用いて分散を行った場合には、分散粒子径がD50=0.175μmのものが得られ、その後再凝集も起こらなかった。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の一部を示し、主として後ロールと中ロールの部分の平面図である。
【図2】図1に示す実施例の正面図である。
【図3】図1に示す実施例の側面図である。
【図4】主としてドクター部分を示す正面図である。
【図5】図4に示すドクターの液溜部部分の説明図である。
【符号の説明】
【0015】
1 ロールミル本体
2 後ロール
3 中ロール
4 前ロール
5 バンク
9 一軸テーブル
12 変位センサー
14 ドクター本体
21 液溜部
7、22 超音波ホーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールミル本体に、周速度の異なるロール間に供給された処理材料中の物質を該ロール間に生じる圧縮・剪断作用により微粒子化して液体中に分散するよう複数のロールを並列して設け、分散処理された処理材料をロールから掻き取ってロールミル本体から取り出すようロールに摺接するドクターを形成し、上記ロール間に供給された処理材料がロールミル本体から取り出されるまでの間に超音波照射を受けるよう上記処理材料に超音波を照射する超音波ホーンを設けたことを特徴とするロールミル。
【請求項2】
上記超音波の振動数は15kHz〜30kHzであり、振幅は5μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のロールミル。
【請求項3】
上記ロールミル本体は後ロール、中ロール、前ロールを有し、上記超音波ホーンは後ロールと中ロール間の処理材料に超音波を照射するようバンクに沿って複数個所に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のロールミル。
【請求項4】
上記ロールミル本体は、バンク内の処理材料の液面高さを検知する変位センサーを有し、上記超音波ホーンは該変位センサーの検知に基づいて該液面との距離を調整するよう上下動可能に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のロールミル。
【請求項5】
上記超音波ホーンは、上記ドクター上を流下する処理材料に超音波を照射するようドクター部分に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4に記載のロールミル。
【請求項6】
上記ドクターは上方に開口する液溜部を有し、上記超音波ホーンは該液溜部に対応して設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のロールミル。
【請求項7】
上記超音波ホーンは、ドクターの裏面に密着して設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のロールミル。
【請求項8】
上記請求項1ないし7のいずれかに記載のロールミルを用いて液体中の微粉体・ナノ粒子を分散または粉砕することを特徴とする分散または粉砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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