説明

ワイヤの癖付け方法および癖付け装置

【課題】1本のワイヤに対して、適切な癖付け方法および癖付け装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ワイヤのパスライン上に配置した回転軸から該回転軸の径方向外側へ延びるピンに、ワイヤを係止し、前記回転軸をパスライン上で回転させてパスラインから離隔した位置でピンに係止したワイヤ部分をパスラインの周りで回転させることによりワイヤに癖付けを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールワイヤに代表されるワイヤの癖付け方法および癖付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タイヤやベルトコンベア等のゴム物品の補強に供するコードは、癖付けを施したワイヤの複数本を撚り合わせて製造されるのが一般的であり、そのワイヤの撚り合わせには、チューブラー型撚り線機を用いるのが通例である。
【0003】
チューブラー型撚り線機では、図1に示すように、コアとなるワイヤ1が巻き付けられたボビン2を回転バレル3の外側に配置する一方、シースとなるワイヤ4a〜4fが巻き付けられたボビン5a〜5fを回転バレル3の内部に配置する。そして、ワイヤ1はボビン5a〜5fを迂回させて回転バレル3の先端側へ導かれて、さらにバレル回転軸の延長上をバレル外側に配した、撚り合わせダイ6へと導かれる。一方、ワイヤ4a〜4fは、回転バレル3の壁面に沿って回転バレル3の周端部へ導かれ、さらにバレル周端部からその出側のプレフォーマー7へと導かれて、ここでコードに撚られた状態と同形の螺旋形状の癖付けが施される。次に、癖付けされたシースワイヤは撚り合わせダイ6へと導かれ、コアの周りに配する。そして、回転バレル3を回転させることによって、撚り合わせダイ6において、コア1のまわりにシースワイヤ4a〜4fが巻き付けられ、コードCが得られる。
かように、コードを製造する際には、複数本のワイヤに同時に癖付けを施してから撚り合せを行っている。
【0004】
ところで、近年、ゴム物品の補強に複数本のワイヤを撚り合わせたコードではなく、癖付けを施した1本のワイヤを供する場合も増えてきている。しかし、1本のワイヤに癖付けを行う際に、上記した複数本のワイヤに癖付けを行うチューブラー型撚り線機を使用するのは、極めて非効率である。
【0005】
そこで、特許文献1では、チューブラー型撚り線機を用いること無く1本のワイヤに癖付けを施す癖付け装置が提案されている。この癖付け装置は、ワイヤを把持した癖付けピンが、ワイヤのパスラインを回転の中心としてその周りを回転する癖付け手段によってワイヤに癖付けを施している。
【特許文献1】特許第3106328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した癖付け装置は、従来の癖付け治具が使用出来ないため、新たな癖付け治具を作製しなければならない。すなわち、従来の癖付け装置を用いるとワイヤのパスラインから重心がずれて、遠心力が働くため、高速回転が出来なくなってしまう。そして、所期した癖付けをワイヤに付与することが困難となってしまう。従って、所期した癖付けを付与するのに、新規に作製する機械部品が多くなり、部品管理工数が増加してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、1本のワイヤに対して、適切な癖付け方法および癖付け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、1本のワイヤに対して、適切な癖付けを施す方策を鋭意検討した結果、癖付けピンを回すための回転軸をパスライン上に設置することが、部品管理工数を増加することなく、所期した癖付けをワイヤに付与するのに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)ワイヤのパスライン上に配置した回転軸から該回転軸の径方向外側へ延びるピンに、ワイヤを係止し、前記回転軸をパスライン上で回転させてパスラインから離隔した位置でピンに係止したワイヤ部分をパスラインの周りで回転させることによりワイヤに癖付けを施すことを特徴とするワイヤの癖付け方法。
【0010】
(2)上記(1)において、前記ワイヤの通過速度を調整することを特徴とするワイヤの癖付け方法。
【0011】
(3)ワイヤのパスライン上に回転軸を回転自在に配置し、該回転軸の径方向外側に延び、かつ該回転軸から離隔した位置にてワイヤが係止されるピンを、前記回転軸の周りで回転軸と連れ回転可能に設けてなることを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【0012】
(4)上記(3)において、前記パスライン上に、前記ワイヤを前記ピンに導く入側ガイドおよび前記ピンを通過したワイヤを再びパスライン上に導く出側ガイドを配置したことを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【0013】
(5)上記(3)ないし(4)のいずれかにおいて、前記ピンのワイヤ出側に真直性矯正治具を配置したことを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【0014】
(6)上記(3)ないし(5)のいずれかにおいて、前記ピンのワイヤ出側にパスライン上のワイヤ通過速度を制御するキャプスタンを設けたことを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワイヤのパスライン上に配置した回転軸の径方向外側に延びるピンにワイヤを係止して、この回転軸をパスライン上で回転させることによって、ワイヤに癖付けを施すため、重心のずれがなく高速回転が可能となる。
また、所期した癖付けをワイヤに付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明のワイヤの癖付け方法について、図2に示す癖付け装置を参照して詳しく説明する。
図2に示す装置を用いて、ボビン8に巻付けたワイヤ9に癖付けを施すには、ボビン8より巻き出したワイヤ9を、入側ガイド10によって癖付け部11に導く。この癖付け部11は、パスラインL上に配置した回転軸12と、この回転軸12から径方向外側に延びるピン13とを有する。すなわち、入側ガイド10を介してワイヤ9を癖付け部11の貫通穴11aに導き、貫通穴11aからワイヤ9を3本のピン13へ導いて、ワイヤ9を3本のピン13間に通して係止する。
【0017】
かようにワイヤ9をパスラインLからピン13に係止し再びパスラインLに戻る経路に通した状態において、貫通穴11aを設けた円盤11bを回転させると共に回転軸12をパスラインL上で回転させる。そして、回転軸12が回転すると、回転軸12と連れ回転するピン13とこのピン13に係止したワイヤ部分とがパスラインLの周りを回転される結果、ワイヤ9に癖付けが施される。癖付けされたワイヤは、癖付け部11の出側に配置した出側ガイド14を介してパスラインLに戻され、次いで真直性矯正治具15へと案内される。そして、真直性矯正治具15にてワイヤの真直性を矯正したのち、キャプスタン16を介して、ボビン17にて癖付けされたワイヤ9を巻き取る。
【0018】
なお、癖付け部11の回転軸12は、モーター18にて回転される。さらに、モーター18は、キャプスタン16にも駆動力を与え、この駆動力をキャプスタン16とモーター18との間に配置した変速機19によって調整し、ワイヤ9のパスラインLにおける通過速度を変化させることができる。
ここで、パスラインLとは、入側ガイド10におけるワイヤのパスラインLと出側ガイド14におけるパスラインを結んだ経路とする。なお、ワイヤが癖付け部11のピン13に係止する経路は除くこととする。
【0019】
上記のように、本発明では、回転軸12をパスラインL上で回転させて、回転軸12と連れ回転するピン13とこのピン13に係止したワイヤ部分、すなわち、パスラインLから離隔した位置でピンに係止したワイヤ部分をパスラインLの周りで回転させることによって、安定した癖付けが得られる。
【0020】
従って、かような良好な癖付け形状のワイヤをゴム物品の補強材として使用した際、加硫成形後もワイヤの伸縮性が保持され、タイヤの接地圧力が分散化し、強いグリップ力が得られる有利な効果がある。
【0021】
また、回転軸12をパスラインL上に配置したことから、回転軸12を所望の高速度にて回転させることが可能となる。なぜなら、従来の癖付け装置の重心と、回転軸12が一致することによって、高速回転による遠心力の影響を受け難いためである。
【0022】
そして、ボビン8より巻き出したワイヤ9を、癖付け部11の入側のパスラインL上に配置され、ピン13に導くガイド10に通過させ、さらに癖付けを施したワイヤ9を、癖付け部11の出側のパスラインL上に配置され、パスラインL上に導く出側ガイド14に通過させることが好ましい。なぜなら、高速回転により、ワイヤが遠心力を受け、回転軸12から径方向外側に向かって膨らんでしまうことによって癖付けが安定しないことを防ぐためである。
【0023】
そして、癖付け部11の出側に配置した出側ガイド14のさらに出側に、真直性矯正治具15を配置して、図2には示していないが千鳥足状に配置したロールを用いて、ワイヤの真直性を矯正することが好ましい。
【0024】
また、モーター18とキャプスタン16との間、例えば変速機19を配してキャプスタン16の回転速度を制御することによってワイヤの癖付け長さを調整することができる。ここで、ワイヤの癖付け長さとは、図3に示す癖付け後のワイヤにおける山(谷)から山(谷)までの長さtである。すなわち、キャプスタン16の回転速度を速くしてワイヤの通過速度を速くすれば、ピン13が1回転する間に進むワイヤ部分の長さが長くなり、癖付け長さtにおける山(谷)間の距離が長くなる結果、ワイヤに施す癖付け長さtが長くなる。逆に、ワイヤの通過速度を遅くすることによって、癖付け長さtは短くなる。
【0025】
さらに、図3に示す波形の波高さであるワイヤの癖付け高さhを調整するには、ピン13の噛み込み量を調整することが好ましい。ちなみに、ピン13の噛み込み量を大きくすることによって、ワイヤの癖付け高さhが大きくなる。
【0026】
また、本発明においては、既存の治具、工具または機械部品などの構成部品と共用することが可能である。すなわち、所望とする癖付けを得るには、癖付け装置が水準に達している必要があるが、本発明の癖付け装置は、従来作製した癖付け装置の水準でワイヤに癖付けすることができる。従って、この構成部品の新規作成による管理工数の増加を回避することが可能となる。
【実施例】
【0027】
図2に示す癖付け装置を用いて、回転軸の回転速度を5000rpmとして表1に示す仕様の下、ワイヤに癖付けを施した。かくして得られたワイヤについて、ワイヤの癖付け長さt、ワイヤの癖付け高さhを測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
なお、ワイヤの癖付け長さtは、癖付け後のワイヤについて、厚紙に10ピッチの位置に印を付けて金尺でその長さを測定した。
【0029】
また、ワイヤの癖付け高さhは、癖付け後のワイヤを投影機(MITUTOYO PROFILE PROJECTOR)にて測定した。
【0030】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】チューブラー型撚り線機を示した図である。
【図2】本発明の癖付け装置を用いて、ワイヤの癖付け方法を示した図 である。
【図3】ワイヤの癖付け高さおよび癖付け長さを示した図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ワイヤ
2 ボビン
3 回転バレル
4a〜4f ワイヤ
5a〜5f ボビン
6 撚り合わせダイ
7 プレフォーマー
8 ボビン
9 ワイヤ
10 入側ガイド
11 癖付け部
11a 貫通穴
11b 円盤
12 回転軸
13 ピン
14 出側ガイド
15 真直性矯正治具
16 キャプスタン
17 ボビン
18 モーター
19 変速機
C コード
L パスライン
t 癖付け長さ
h 癖付け高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤのパスライン上に配置した回転軸から該回転軸の径方向外側へ延びるピンに、ワイヤを係止し、前記回転軸をパスライン上で回転させてパスラインから離隔した位置でピンに係止したワイヤ部分をパスラインの周りで回転させることによりワイヤに癖付けを施すことを特徴とするワイヤの癖付け方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ワイヤの通過速度を調整することを特徴とするワイヤの癖付け方法。
【請求項3】
ワイヤのパスライン上に回転軸を回転自在に配置し、該回転軸の径方向外側に延び、かつ該回転軸から離隔した位置にてワイヤが係止されるピンを、前記回転軸の周りで回転軸と連れ回転可能に設けてなることを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【請求項4】
請求項3において、前記パスライン上に、前記ワイヤを前記ピンに導く入側ガイドおよび前記ピンを通過したワイヤを再びパスライン上に導く出側ガイドを配置したことを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【請求項5】
請求項3または4のいずれかにおいて、前記ピンのワイヤ出側に真直性矯正治具を配置したことを特徴とするワイヤの癖付け装置。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかにおいて、前記ピンのワイヤ出側にパスライン上のワイヤ通過速度を制御するキャプスタンを設けたことを特徴とするワイヤの癖付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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