説明

ワイヤソー切断装置

【課題】 取り扱いが簡単で、しかも外部の動力源に接続することなく、ワイヤソーの往復動により切れ味を持続するような簡易携帯型のワイヤソー切断装置の提供。
【解決手段】 架台(2)に動力部(3)と、この動力部(3)に直結した回転動力切換機構(4)とをそれぞれ組み込んで、この回転動力切換機構(4)につながったチエ−ンホイール(13)と架台(2)に揺動可能に取付けたワイヤガイド(15)との間を、チエ−ン(14a)とワイヤー(14c)とで構成された無端状のワイヤソー(14)を巻き付ける。この回転動力切換機構(4)によりワイヤソー(14)を往復運動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨やガラス、コンクリート等を切断する際に使用するワイヤソー切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、災害時に救急用に使用される救助工作車には、要救助者を救出するための救助器具が備わっている。例えば車両等の事故の場合、車内に閉じ込められて身体を挟まれたり押しつぶされたりしている状況下で、要救助者を救出するために、障害物を切断、押し広げ等の作業用にチエンソー、エンジンカッター、スプレッダー等の電動や油圧の機器やエアージャッキ、ガス溶断器等が使用されている。
【0003】
また、住宅やビルにおける一般的な工事や、水道、ガス等の工事においては、鉄骨、鉄筋、パイプ等の切断に鋸切り、グラインダ、ガス溶断等の手段が用いられることが多い。
その他にはコンクリートや岩石、鉄筋等を切断するのにワイヤソーイング工法が用いられるが、ワイヤソーを被切断物に巻き付けてループ状にし、ガイドプーリを引張してワイヤソーにテンションを与えながら回転させて切断する方法である。(特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2004−188989号公報
【特許文献2】 特開2005−47114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
救助工作車に装備されている救助器具は、駆動源と接続するために救助工作車に器具を接続するといった事前の準備作業が必要であったり、また、工作車と現場とが遠く離れている場合も想定されるので使用環境にも考慮しなければならない。その他の工事現場においては、手動鋸以外は外部の動力源や、ガスボンベ等の機器が事前に必要となる。
【0006】
その他に、特許文献1、2共に大規模な切断作業においてワイヤソーを使用する例が示されている。特に特許文献2には、大規模で地上設置型の例が示されているが、持ち運び可能な簡易型携帯可能なものではない。
【0007】
以上のように、本発明は、事故現場や工事現場において即応して対応できる簡易型の救助器具及び作業器具であり、動力源が確保できないといった使用環境にあっても使用可能なように、しかも迅速に救助作業に着手でき、また、狭あいな工事現場でも使用可能な切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
架台(2)に設けられた動力部(3)により駆動される回転動力切換機構(4)と、この前記回転動力切換機構(4)に連動して回転するチエ−ンホイール(13)と、同じく前記架台(2)に設けられて揺動可能な一対のワイヤガイド(15)とを有し、前記チエ−ンホイール(13)の外周及び一対の前記ワイヤガイド(15)との間にわたって無端状のワイヤソー(14)を巻きつけて、前記動力部(3)を駆動することにより、前記ワイヤソー(14)を往復動させる。
【0009】
前記動力部(3)はバッテリー式モータとする。
【0010】
前記動力部(3)は外部電源により駆動するモータとする。
【0011】
前記動力部(3)は内燃機エンジンとする。
【0012】
前記回転動力切換機構(4)は、前記動力部(3)に直結された動力伝達軸(5)に、クラッチ噛合部を有した一対の小傘歯車(6,7)と前記動力伝達軸(5)の軸方向に移動可能なクラッチ体(8)とが軸支され、一対の前記小傘歯車(6,7)と直交する方向であって、前記架台(2)に歯車軸(12)に軸支された前記チエ−ンホイール(13)と同軸に取付けられてしかも転動ピン(11a)を有する大傘歯車(11)を有し、同じく前記架台(2)に揺動可能に取付けられしかも一端にクラッチピン(9b)を有したT字形タペット(9)の前記クラッチピン(9b)を前記クラッチ体(8)に係合させ、前記大傘歯車(11)の回転とともに前記T字形タペット(9)を介して前記クラッチ体(8)の移動にともなって前記大傘歯車(11)の回転方向を変換する。
【0013】
前記ワイヤー(14c)は複数本のワイヤーをワイヤロープ状により合わせて形成する。
【0014】
前記ワイヤソー(14)はチエ−ン(14a)とワイヤー(14c)とを無端状に結合してループ状とする。
【0015】
前記ワイヤガイド(15)は前記架台(2)に揺動可能に取付ける。
【発明の効果】
【0016】
本発明の切断装置には、動力部を組込んであり、しかも簡易携帯型としてあるので使用環境には左右されることなく迅速に作業に着手することができる。また必要に応じて他の動力源に接続して作業することができるので、長時間の作業にも対応できる。
【0017】
ワイヤソーは、ダイヤモンドワイヤーとチエ−ンとの組合わせとしてあり、しかもダイヤモンドワイヤーとの接触部はプーリーのみとし、摩耗部品は極力最小単位としてあるので経済的である。またワイヤソーは一方向回転による切断ではなく往復動による切断としてあるるので、ワイヤーの前進と後退とをくり返した切断となり切れ味が衰えない。その他にワイヤソーは一本でも複数本をよったもののいずれでもよいので、被切断物の状況によって選択することができる。
【0018】
ワイヤガイドは揺動可能な構造なので、ワイヤソーの交換が簡単に行え、しかもワイヤガイドを内側に寄せることによりワイヤソーの外郭を縮めることができるので、狭あいな作業場所であっても切断作業が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明装置の使用形態を示す平面図
【図2】 図1のA矢視図
【図3】 本発明装置の別の使用形態を示す平面図
【図4】 回転動力切換機構の拡大詳細図
【図5】 図4のB−B断面図
【図6】 回転動力切換機構が図4の状態から切換った状態図
【図7】 図4のC−C断面図
【図8】 ワイヤーとチエ−ンの結合状態の詳細図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図1〜図8に基ずいて説明すると、図1,2に示すように、本発明によるワイヤソー切断装置(1)は架台(2)を主体にして、この架台(2)に外部からの電源を必要とするか必要としないか、いずれをも選択可能な動力部(3)を取付け、この動力部(3)から出力される動力を伝達する動力伝達軸(5)に回転動力切換機構(4)が連接され、回転動力切換機構(4)も架台(2)内に取付けられている。また、この回転動力切換機構(4)には、架台(2)に軸支された歯車軸(12)を介してチエ−ンホイール(13)が締結されている。
【0021】
また、架台(2)には一対のワイヤガイド(15)が揺動可能に軸(16)で軸支され、ワイヤガイド(15)の他端にはプーリ(15a)が回転可能に軸(17)で軸支されている。その他に、一対のワイヤガイド(15)の間には板バネ(15b)が取付けてあり、ワイヤガイド(15)が開脚する方向に位置決めされている。
またワイヤガイド(15)が閉脚する際の制限としてストッパ(15c)も設けてある。
板バネ(15b)は被切断物(ハ)を切断する際に、ワイヤガイド(15)を絶えず開脚位置にするためのものであり、またストッパ(15c)は被切断物(ニ)を切断する際にプーリ(15a)同志が接触しないための制限である。
チエ−ンホイール(13)の外周と一対のワイヤガイド(15)のプーリ(15a)部の外周にかけて無端状のワイヤソー(14)がループ状を成して巻かれている。
ワイヤソー(14)はチエ−ン(14a)とワイヤー(14c)とお締結したものとしてあり、図8に示すようにワイヤー(14c)の端部は円環を形成しワイヤクリップ(14d)で結束して、この円環部とチエ−ン(14a)の端部とに締結ボルト(14b)をそう通して、締結するものである。またワイヤー(14c)はダイヤモンドワイヤーとして一本でもよく、また複数本のワイヤーをロープ状によった構成して剛性をもたせたものでもよい。
【0022】
回転動力切換機構(4)の詳細は図4〜図7に示す。
架台(2)の内部には一対の小傘歯車(6,7)が軸支されており、先端にはクラッチ(6a,7a)が一体的に設けてある。
この小傘歯車(6,7)の中心部には、架台(2)に軸支されて動力部(3)からの回転力を出力する動力伝達軸(5)が回転可能に嵌入されており、また、一対の小傘歯車(6,7)の間にはクラッチ体(8)が軸方向への摺動移動は可能とし、しかも動力伝達軸(5)の回転には追随可能なように、例えばキー等により動力伝達軸(5)のみぞに嵌合されている。
【0023】
一対の小傘歯車(6,7)と直交する関係位置で、しかも架台(2)に軸支された歯車軸(12)に大傘歯車(11)が一体的に嵌合されており、また一対の小傘歯車(6,7)の間であって、クラッチ体(8)の下方に、架台(2)に軸(10)によって要動可能に軸支されたT字形タペット(9)が設けてある。
このT字形タペット(9)には転動面(9a)とクランクピン(9b)とが設けてあって、この転動面(9a)は、大傘歯車(11)に一体的に設けられた転動ピン(11a)が大傘歯車(11)の回転にともなって摺接し相互に摺動可能としてあり、同じくクラッチピン(9b)はクラッチ体(8)に設けられた凹部(8b)に係合するものである。
クラッチ体(8)にはその他に両端に凸部(8a)が設けてあり、クラッチ体(8)が動力伝達軸(5)上を摺動することによって凹部(6b、7b)に係合するようになっている。
【0024】
次に作用について説明すると、図4〜図7に示すように、例えば図4でT字形タペット(9)は転動ピン(11a)と接触し、同時にクラッチピン(9b)が凹部(8b)に係合してクラッチ体(8)が小傘歯車右(7)と噛み合った状態より、動力部(3)を駆動して、動力伝達軸(5)が図に示す左回転すると、小傘歯車右(7)も左回転し、小傘歯車右(7)に噛み合っている大傘歯車(11)は左回転(矢印の方向)し、同時にチエ−ンホイール(13)も左回転(矢印の方向)に回転するので、ワイヤソー(14)は図1に示すように左回転(矢印の方向)する。そうすると、転動ピン(11a)は転動面(9a)を転動してゆくので、図4においてT字形タペット(9)は軸(10)を中心に左回転(矢印の方向)に揺動する。これにともなって、クラッチ体(8)はクラッチピン(9b)によって左方向(矢印方向)に動力伝達軸(5)上を移動して、小傘歯車右(7)の回転は止み、小傘歯車左(6)と噛み合って図6に示す状態になり、各部は動力伝達軸(5)を除き図1とは逆の動きや回転をする。
【0024】
ワイヤソー(14)は回転動力切換機構(4)が図4から図6に変換する間の間は図1に示すように、チエ−ン(14a)がプーリ(15a)の手前で止まるので、止まるまでの間はワイヤー(14c)の(イ)部によって、被切断物(ハ)を切断する。即ち(イ)部で切断する際にはワイヤソー切断装置(1)を被切断物(ハ)に押し当てて、反対に図3に示すように(ロ)部で被切断物(ニ)を切断する際にはワイヤソー切断装置(1)を引き方向(図3において右方向)にして切断すればよい。この時ワイヤガイド(15)は板バネ(15b)により図1の開脚位置を保ち、また、ストッパ(15c)により図3の閉脚位置を保つことになる。
【0026】
次に図6の状態から、引き続き動力部(3)は駆動し続けているので、動力伝達軸(5)も左回転しており、回転動力切換機構(4)は図4の状態になるので、図4から図6に変換する間に、ワイヤソー(14)は図1の状態から右回転してチエ−ン(14a)の端面はもう一対のプーリ(15a)の手前に来て止まり、左回転時と同様に被切断物(ハ)(ニ)を切断できる。このようにしてワイヤソー(14)の往復動によって切断するものである。
以上により、ワイヤソー(14)のワイヤー(14c)はプーリ(15a)にのみ接触するのみで、チエ−ンホイール(13)にはチエ−ン(14a)のみが噛合って、ワイヤー(14c)は接触しないので摩耗部位は最小限にすることができる。
【0027】
また、ワイヤソー(14)は往復運動するので、従来の一方向連続回転するワイヤソーにくらべ、切れ味は衰えない。
また狭あいな場所での切断作業においては、図3に示すように、ワイヤソー切断装置(1)を図3において右方向に引張ってワイヤガイド(15)をストッパ(15c)が互いに接触する迄内側に寄せることにより切断が可能となる。
その他、ワイヤソー(14)を交換する際にはワイヤソー切断装置(1)を図3の様にワイヤソー(14)にタルミを与えるようにし、図8に示す締結ボルト(14b)をゆるめて取外せば簡単に行える。またワイヤー(14c)はダイヤモンドワイヤーが最適であり被切断物の状況により一本でも、複数本をよったものでもよく、また複数本をよった構成にすることにより、ワイヤー(14c)自身に、より剛性をもたせることができる。その他に回転動力切換装置(4)は図1、図3ではオープン状態で表現してあるが、実際には安全面と保守面を考慮してカバー等を付けてもよい。また、図1又は図3のいずれの切断作業においても、ワイヤソー切断装置(1)を保持するには、架台(2)の後部の取っ手部を把持すればよい。その他、ワイヤソー(14)の安全保護カバーをプーリ(15a)から架台(2)の先端にかけてワイヤガイド(15)に取付けてもよい。
【0028】
また、動力部(3)は電動モータが、最適であるが、長時間にわたる連続作業を考えると。電源として例えば自動車用バッテリーを用意して、このバッテリーに動力部(3)を接続して使用してもよく、あるいは、電動モータに替え内燃機エンジンを用いて使用してもよい。上記以外に比較的中短時間を考えると、バッテリーを内蔵した電動モータを使用してもよい。なお、図1における架台(2)は回転動力切換機構(4)やワイヤソー(14)を実線で表示した関係上、外形のみの表示としてある。
【符号の説明】
【0029】
1 ワイヤソー切断装置
2 架台
3 動力部
4 回転動力切換機構
6,7、 小傘歯車
8 クラッチ体
9 T字形タペット
11 大傘歯車
13 チエ−ンホイール
14 ワイヤソー
15 ワイヤガイド
(イ) 押付け切断部位
(ロ) 引張切断部位
(ハ)(ニ)被切断物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台(2)に設けられた動力部(3)により駆動される回転動力切換機構(4)と、この前記回転動力切換機構(4)に連動して回転するチエ−ンホイール(13)と、同じく前記架台(2)に設けられて揺動可能な一対のワイヤガイド(15)とを有し、前記チエ−ンホイール(13)の外周及び一対の前記ワイヤガイド(15)との間にわたって無端状のワイヤソー(14)を巻き付けて、前記動力部(3)を駆動することにより、前記ワイヤソー(14)を往復動させることを特徴としたワイヤソー切断装置。
【請求項2】
前記動力部(3)はバッテリー式モータとした請求項1記載のワイヤソー切断装置。
【請求項3】
前記動力部(3)は外部電源により駆動するモータとした請求項1記載のワイヤソー切断装置。
【請求項4】
前記動力部(3)は内燃機エンジンとした請求項1に記載のワイヤソー切断装置。
【請求項5】
前記回転動力切換機構(4)は、前記動力部(3)に直結された動力伝達軸(5)に、クラッチ噛合部を有した一対の小傘歯車(6、7)と前記動力伝達軸(5)の軸方向に移動可能なクラッチ体(8)とが軸支され、一対の前記小傘歯車(6,7)と直交する方向であって、前記架台(2)に歯車軸(12)に軸支された前記チエーンホイール(13)と同軸に取付けられてしかも転動ピン(11a)を有する大傘歯車(11)を有し、同じく前記架台(2)に揺動可能に取付けられしかも一端にクラッチピン(9b)を有したT字形タペット(9)の前記クラッチピン(9b)を前記クラッチ体(8)に係合させ、前記大傘歯車(11)の回転とともに前記T字形タペット(9)を介して前記クラッチ体(8)の移動にともなって前記大傘歯車(11)の回転方向を変換する請求項1、2、3、4のいずれかに記載のワイヤソー切断装置。
【請求項6】
前記ワイヤガイド(15)は前記架台(2)に揺動可能に取付けた請求項1に記載のワイヤソー切断装置。
【請求項7】
前記ワイヤソー(14)はチエ−ン(14a)とワイヤー(14c)とを無端状に結合してループ状とした請求項1に記載のワイヤソー切断装置。
【請求項8】
前記ワイヤー(14c)は複数本のワイヤーをワイヤーロープ状により合わせて形成した請求項7に記載のワイヤソー切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−157967(P2012−157967A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33885(P2011−33885)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(508265295)
【出願人】(511044179)
【出願人】(511044180)
【Fターム(参考)】