説明

ワイヤハーネスの放熱構造

【課題】外装材に複数本の電線からなるワイヤハーネスを挿通した場合に、外装材内の空気層の熱篭りを防止してワイヤハーネスを構成する電線の温度上昇を抑制する。
【解決手段】ゴムまたはエラストマーで形成された筒状のワイヤハーネス用外装材12の内周面に、周方向に連続する環状の突条部13が軸線方向に間隔をあけて設けられ、ワイヤハーネス10を構成する複数本の電線11が突条部13に接触した状態でワイヤハーネス用外装材12に挿通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネスの放熱構造に関し、詳しくは、外装材に複数本の電線からなるワイヤハーネスを挿通した場合に該外装材内の空気層の熱篭りを防止してワイヤハーネスを構成する電線の温度上昇を抑制するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に配索する複数本の電線からなるワイヤハーネスを外部干渉材等から保護するために、例えば特開平9−107615号公報(特許文献1)では、図4に示すような樹脂チューブからなる外装材2にワイヤハーネス1を挿通している。また、特開2003−348736号公報(特許文献2)では、屈曲や捩れが生じるワイヤハーネスを挿通、保護する外装材3として、ゴム等の弾性部材で蛇腹状に形成されたグロメット(図5)を用いている。
【0003】
一方、電気自動車やハイブリッド自動車のモータとインバータとの間やバッテリとインバータとの間等に配索するワイヤハーネスでは、通電電流が大きいため電線の発熱量が増大するうえ、前記ワイヤハーネスを図4、図5に示すような外装材2、3に挿通すると、外装材2、3内に形成された空気層に熱篭りが生じて電線周囲の温度も上昇するため、電線温度が大幅に上昇するという問題がある。前記問題に対しては、耐熱温度の高い電線を用いたり、電線径の大きな電線を用いたりすることで対処可能であるが、耐熱温度の高い電線を用いるとコストが増大し、また、電線径の大きな電線を用いると重量増加に繋がると共に大きな配索スペースを必要とするためレイアウト上の問題が生じる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−107615号公報
【特許文献2】特開2003−348736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外装材に複数本の電線からなるワイヤハーネスを挿通した場合に、外装材内の空気層の熱篭りを防止してワイヤハーネスを構成する電線の温度上昇を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、ゴムまたはエラストマーで形成された筒状のワイヤハーネス用外装材の内周面に、周方向に連続する環状の突条部が軸線方向に間隔をあけて設けられ、
ワイヤハーネスを構成する複数本の電線が前記突条部に接触した状態で前記ワイヤハーネス用外装材に挿通されていることを特徴とするワイヤハーネスの放熱構造を提供している。
【0007】
前記のように、本発明では、ゴムまたはエラストマーで形成したワイヤハーネス用外装材(以下、外装材という)の内周面に、周方向に連続する環状の突条部を軸線方向に間隔をあけて設け、前記外装材に挿通するワイヤハーネスの複数本の電線を前記突条部に接触させる構成としている。外装材を形成する材質はゴムまたはエラストマーで、該材質は空気より熱伝導率が大であるため、外装材に挿通する各電線を前記材質からなる環状の突条部に接触させることで、電線に発生した熱が外装材内の空気層よりむしろ前記突条部側に移動し、該突条部を経て外装材の外部に効率的に放熱される。よって、電線の通電電流が大きい場合でも外装材内の空気層の熱篭りを抑制して放熱性を高め、電線の大幅な温度上昇を防止することができる。したがって、従来のように、耐熱温度の高い電線を用いたり電線径の大きな電線を用いたりする必要がなくなり、低コスト化や軽量化、省スペース化を実現することができる。なお、本発明において、外装材に挿通する電線を突条部に接触させるとは、シールド手段である金属編組線等を被せた電線を突条部に接触させる場合も含めている。
【0008】
また、各電線が接触する前記突条部は熱により部分的に硬化することがあるものの、前記突条部を外装材の軸線方向に間隔をあけて設けることで外装材全体の硬化は防止でき、外装材としての適度な弾性と強度を保持することができる。
前記外装材の内周面に間隔をあけて設ける環状の突条部は、軸線方向に所定幅を有すると共に厚さを一定として、挿通する各電線と前記突条部が軸線方向に沿って面あるいは線接触できるようにすることが好ましい。
前記突条部の寸法や軸線方向に隣接配置する突条部間の寸法は、挿通する電線や外装材によって異なるため限定することはできないが、電線から突条部が受けた熱によって外装材全体が硬化せず、かつ良好な放熱性が軸線方向全長にわたってバランスよく得られるように、前記各寸法を適宜設定すればよい。
【0009】
前記ワイヤハーネス用外装材はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)で形成されていることが好ましい。前記エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)は、外装材として適した弾性や強度を備えていると共に、空気の熱伝導率が0.0241W/m・kであるのに対しEPDMの熱伝導率が0.356W/m・kと熱伝導率が比較的高めであるため、外装材内の空気層の熱篭りを効果的に抑制して放熱性をより高めることができる。しかし、前記エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、天然ゴム(NR)等で形成することもできる。
【0010】
前記複数本の電線は電気自動車またはハイブリッド自動車のモータとインバータとの間またはバッテリとインバータとの間を接続する電線であることが好ましい。
【0011】
電気自動車またはハイブリッド自動車のモータとインバータとの間やバッテリとインバータとの間を接続する複数本の電線は通電電流が大きく発熱量が大である。よって、前記電線群に本発明の放熱構造を採用することで外装材内の空気層の熱篭りを抑制して放熱性を高め、各電線の大幅な温度上昇を防ぐことができる。
【0012】
また、内周面に前記突条部が設けられている前記外装材の外周面には、凹凸部を設けていることが好ましい。
【0013】
前記のように、突条部が設けられている前記外装材の外周面に凹凸部を設けることで外気に接触する外周面側の表面積を増大させることができ、前記突条部に移動した熱をより効率的に外気へ放出することができる。前記凹凸部は周方向に連続させて設けていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
前述したように、本発明では、ゴムまたはエラストマーで形成した外装材の内周面に、周方向に連続する環状の突条部を軸線方向に間隔をあけて設け、前記外装材に挿通するワイヤハーネスの複数本の電線を前記突条部に接触させる構成としている。即ち、外装材に挿通する各電線を、空気より熱伝導率が大であるゴムまたはエラストマーからなる環状の突条部に接触させることで、電線に発生した熱が外装材内の空気層よりむしろ前記突条部側に移動して、該突条部を経て外装材の外部へ効率的に放熱される。よって、電線の通電電流が大きい場合でも外装材内の空気層の熱篭りを抑制して放熱性を高め、電線の大幅な温度上昇を防止することができる。したがって、耐熱温度の高い電線を用いたり電線径の大きな電線を用いたりする必要がなくなり、低コスト化や軽量化、省スペース化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態のワイヤハーネスの放熱構造を示し、(A)はワイヤハーネスを挿通した外装材の軸線方向の断面図、(B)は(A)のA−A線断面図である。
【図2】外装材の要部拡大断面図である。
【図3】第2実施形態においてワイヤハーネスを挿通した外装材の軸線方向の断面図である。
【図4】従来例を示す図である。
【図5】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は本発明の第1実施形態を示している。本実施形態では、電気自動車のモータとインバータ(図示せず)との間に、芯線11a(11a−A、11a−B、11a−C)を絶縁被覆材11b(11b−A、11b−B、11b−C)で被覆した3本の電線11(11A、11B、11C)からなるワイヤハーネス10を図1および図2に示すワイヤハーネス用外装材12(以下、外装材12という)に挿通して配索している。
【0017】
外装材12は、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)で形成した略円筒形状とし、外装材12周壁の内周面には周方向に連続する環状の突条部13を間隔をあけて複数設け、環状の突条部13の内径r1を突条部13を設けていない周壁の内径r2より小としている。いずれの突条部13も、軸線方向に所定幅wを有していると共に厚さtを一定とし、外装材12に挿通する3本の電線11A、11B、11Cと突条部13とを、接触位置14A、14B、14Cで軸線方向に沿って線接触させている。突条部13の各寸法(幅w、厚さt)や軸線方向に隣接配置する突条部13間の寸法Lは、電線11A、11B、11Cから突条部13が受けた熱によって外装材12全体が硬化せず、かつ良好な放熱性が軸線方向全長にわたってバランスよく得られるように、適宜設定することができる。
【0018】
本実施形態では、電気自動車のモータとインバータとを接続する3本の電線11A、11B、11C(電線径5.3mm)からなるワイヤハーネス10を挿通する外装材12の外径r3を22mm、突条部13を設けていない周壁の内径r2を19mmとした場合に、環状の突条部13の厚さtを2mm程度、軸線方向の幅wを20mm程度、隣接する突条部13間の寸法Lを20mm程度としている。
また、内周面に突条部13を設けた外装材12周壁の外周面に、周方向に連続する環状の凹凸部15を設けている。
【0019】
前記のように、本実施形態では、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)で形成した外装材12の内周面に、周方向に連続する環状の突条部13を軸線方向に間隔をあけて設け、外装材12に挿通するワイヤハーネス10の3本の電線11A、11B、11Cを突条部13に接触させている。外装材12に挿通する各電線11A、11B、11Cを、空気より熱伝導率が大であるEPDMからなる環状の突条部13に接触させることによって、電線11A、11B、11Cに発生した熱が外装材12内の空気層16よりむしろ突条部13側に移動して、該突条部13を経て外装材12の外部へ効率的に放熱される。よって、本実施形態のように、電線11A、11B、11Cの通電電流が大きい場合でも外装材12内の空気層16の熱篭りを抑制して放熱性を高め、電線11A、11B、11Cの大幅な温度上昇を防止することができる。したがって、耐熱温度の高い電線を用いたり電線径の大きな電線を用いたりする必要がなくなり、低コスト化や軽量化、省スペース化を実現することができる。また、前記のように、内周面に突条部13を設けた外装材12周壁の外周面に周方向に連続する環状の凹凸部15を設けることで、外気に接触する外周面側の表面積を増大させることができ、突条部13に移動した熱をより効率的に外気へ放出することができるため、放熱性をさらに高めることができる。
【0020】
図3は第2実施形態を示している。
第2実施形態では、図3に示すように、外装材22を、周方向に連続する環状の山部20と谷部21が軸線方向に交互に設けられた蛇腹状とし、該蛇腹状の外装材22の内周面に突条部23を間隔をあけて設けている。その他の点は第1実施形態と同様としている。
【0021】
第2実施形態においても、外装材22内の空気層の熱篭りを抑制して放熱性を高め、電線11A、11B、11Cの大幅な温度上昇を防止することができると共に、外装材22を蛇腹状としているため、屈曲性、放熱性をさらに高めることができる。
なお、第1、第2実施形態では、電線11A、11B、11Cを突条部13、23に直接接触させているが、シールド手段である金属編組線を外周面に被せた電線を突条部13、23に接触させてもよい。また、挿通する電線本数は3本に限定されず、2本でも4本以上でもよい。
【符号の説明】
【0022】
10 ワイヤハーネス
11(11A、11B、11C) 電線
11a(11a−A、11a−B、11a−C) 芯線
11b(11b−A、11b−B、11b−C) 絶縁被覆材
12、22 ワイヤハーネス用外装材
13、23 突条部
14A、14B、14C 接触位置
15 凹凸部
16 空気層
r1 突条部の内径
r2 突条部を設けていない周壁の内径
r3 外装材の外径
t 突条部の厚さ
w 突条部の幅
L 隣接する突条部間の寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたはエラストマーで形成された筒状のワイヤハーネス用外装材の内周面に、周方向に連続する環状の突条部が軸線方向に間隔をあけて設けられ、
ワイヤハーネスを構成する複数本の電線が前記突条部に接触した状態で前記ワイヤハーネス用外装材に挿通されていることを特徴とするワイヤハーネスの放熱構造。
【請求項2】
前記複数本の電線は電気自動車またはハイブリッド自動車のモータとインバータとの間またはバッテリとインバータとの間を接続する電線である請求項1に記載のワイヤハーネスの放熱構造。
【請求項3】
内周面に前記突条部が形成されている前記ワイヤハーネス用外装材の外周面に凹凸部を設けている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスの放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244746(P2012−244746A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111836(P2011−111836)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】