説明

ワイヤハーネス用クランプ

【課題】車体側から突設するボルトにワイヤハーネス用クランプを高い保持力で固定でき、かつ前記クランプをボルトに容易に固定できる。
【解決手段】ワイヤハーネス取付部から突出させる筒部のボルト挿入側の内面よりJ字状の折り返し状に係止片を突設し、係止片と筒部の内面との間に空間をあけると共に、係止片の突出側内面にボルトのネジ溝に挿入係止する第1係止爪を突設し、かつ、筒部の反ボルト挿入側の外面より薄肉ヒンジ部を介して回転片を突設し、回転片の先端にボルトのネジ溝に挿入係止される第2係止爪を設けると共に回転片の中間位置より筒部の内面と係止片との間の空間に圧入する押圧部を設け、第1係止爪をボルトのネジ溝に係止し、回転片を筒部側に回転させて、回転片の押圧部を空間に圧入すると共に第2係止爪をネジ溝に係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネス用クランプに関し、詳しくは、車体側から突設するボルトにワイヤハーネス用クランプを高い保持力で固定でき、かつ該クランプのボルトへの固定も比較的容易に行えるものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のワイヤハーネスを所定の経路に沿って配索するために、ワイヤハーネスに取り付けたワイヤハーネス用クランプ(以下、クランプという)を車体に固定している。車体にクランプを固定する方法としては、車体から突設したボルトに対してクランプに設けた係止片を係止して固定する場合が多い。例えば、図6に示すように、車体5から突設したスタッドボルト6に差し込み挿入するためのボルト挿入孔2をクランプ1に設けると共に、該ボルト挿入孔2の内周面に沿って係止片(弾性片)3を立設し、該係止片3の内面側に突設した係止爪4をスタッドボルト6のネジ溝7に係合させることにより、クランプ1をスタッドボルト6に固定している(特開平8−140247号公報参照)。
【0003】
クランプは、より高い保持力でボルトに固定されることが望まれており、そのためには、ボルトのネジ溝に係合した係止爪が外方へ位置ズレしないようクランプの係止片の強度を高める必要がある。しかし、係止片の強度を高めると、ボルトのネジ溝に係止爪を挿入係止するために必要な挿入力も大きくなりボルトへのクランプ固定が容易に行えなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−140247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、車体側から突設するボルトにワイヤハーネス用クランプを高い保持力で固定でき、かつ前記クランプをボルトに固定する際にも大きな挿入力を必要とせず、比較的容易に固定できることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、ワイヤハーネスを車体側から突設するボルトに固定するクランプであって、
ワイヤハーネス取付部から車体取付用の筒部を突設し、
前記筒部のボルト挿入側の内面よりJ字状の折り返し状に係止片を突設し、該係止片と前記筒部の内面との間に空間をあけると共に、該係止片の突出側内面に前記ボルトのネジ溝に挿入係止する第1係止爪を突設し、かつ、
前記筒部の反ボルト挿入側の外面より薄肉ヒンジ部を介して回転片を突設し、該回転片の先端に前記ボルトのネジ溝に挿入係止される第2係止爪を設けると共に該回転片の中間位置より前記筒部の内面と係止片との間の空間に圧入する押圧部を設け、
前記第1係止爪を前記ボルトのネジ溝に係止し、前記回転片を筒部側に回転させて、該回転片の押圧部を前記空間に圧入すると共に前記第2係止爪を前記ボルトのネジ溝に係止することを特徴とするワイヤハーネス用クランプを提供している。
【0007】
前記のように、筒部のボルト挿入側の内面よりJ字状の折り返し状に係止片を突設すると共に、筒部の反ボルト挿入側の外面より薄肉ヒンジ部を介して回転片を突設し、該回転片の中間位置より前記筒部の内面と係止片との間の空間に圧入する押圧部を設けている。よって、回転片を回転させ押圧部を前記空間に圧入することにより、押圧部は係止片をボルト側に押圧し、該係止片の突出側内面に突設した第1係止爪をネジ溝にしっかりと係止させることができる。即ち、前記構成によれば、係止片の強度を従来の係止片と同程度とし、クランプをボルトに固定するための挿入力も従来と同程度に抑えながら、回転片の押圧部を前記空間に圧入することでボルトに対するクランプの保持力を高めることができる。
【0008】
また、前記係止片の突出側内面に第1係止爪を設けると共に、前記回転片の先端に第2係止爪を設けているため、第1係止爪をボルトのネジ溝に挿入係止すると共に、回転片を回転させ第2係止爪を上側の別のネジ溝に挿入係止することにより、第1係止爪および第2係止爪による2段の係止が可能となり、ボルトに対するクランプの保持力をさらに高めることができる。また、第2係止爪とボルトのネジ溝との係止によって、押圧部の前記空間からの抜けを防止し、回転片の外れを防止することができる。特に、回転片を筒部側へ回転させた状態で、前記押圧部と第2係止爪が係止片を左右から挟み込むように、押圧部と第2係止爪を配置することが好ましい。
なお、前記クランプを固定するボルトとしては、車体に溶接して突出させたスタッドボルトとし、該スタッドボルトに形成された螺旋状のネジ溝に前記第1、第2係止爪を係止することが好ましい。
【0009】
前記係止片は前記筒部の内面より少なくとも対向位置に一対設けている一方、前記回転片は前記係止片と対向する外面側に設けていることが好ましい。
【0010】
前記のように、対向する外面側に前記回転片を設けた係止片を、少なくとも対向位置に一対設けることにより、ボルトに対するクランプの保持力を一層高めることができると共に、保持力のバランスをとることができる。
【0011】
前記ワイヤハーネス取付部は断面L形状となる両側板を薄肉ヒンジ部を介して連結しており、該ワイヤハーネス取付部の一方側板の長さ方向の先端外面より支持部を介して前記筒部を設けている一方、
前記ワイヤハーネス取付部の長さ方向の他端をワイヤハーネスにテープ巻きまたはバンド締結で固定する構成としていることが好ましい。
【0012】
前記のように、断面L形状となる両側板を薄肉ヒンジ部を介して連結して、ワイヤハーネス取付部を形成することにより、取り付けるワイヤハーネスの太さに応じてワイヤハーネスの側面側に配置される前記両側板のなす角度を変えることができ、さまざまな太さのワイヤハーネスを取り付けることができる。
また、前記ワイヤハーネス取付部の一方側板の長さ方向の先端外面より、支持部を介して前記筒部を設けることによって、ワイヤハーネス取付部と筒部との接続部分の強度を高めることができる。さらに、ワイヤハーネス取付部の長さ方向の他端をワイヤハーネスにテープ巻きまたはバンド締結することにより、ワイヤハーネスをクランプに安定保持させることができる。
【発明の効果】
【0013】
前述したように、筒部の反ボルト挿入側の外面より薄肉ヒンジ部を介して回転片を突設し、該回転片の中間位置より前記筒部の内面と係止片との間の空間に圧入する押圧部を設けているため、回転片を回転させ押圧部を前記空間に圧入することにより、押圧部は係止片をボルト側に押圧し、該係止片に突設した第1係止爪をネジ溝にしっかりと係止させることができる。即ち、係止片の強度を従来の係止片と同程度とし、クランプをボルトに固定するための挿入力も従来と同程度に抑えながら、回転片の押圧部を前記空間に圧入することでボルトに対するクランプの保持力を高めることができる。
【0014】
また、筒部内面より折り返し状に突設する係止片の突出側内面に第1係止爪を設けると共に、前記回転片の先端に第2係止爪を設けているため、第1係止爪および第2係止爪による2段の係止が可能となり、ボルトに対するクランプの保持力をさらに高めることができる。また、第2係止爪とボルトのネジ溝との係止によって、押圧部の前記空間からの抜けや、回転片の外れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態のワイヤハーネス用クランプの概略斜視図である。
【図2】(A)は図1の平面図、(B)はA−A断面図、(C)はB−B断面図である。
【図3】車体側より突設したスタッドボルトのネジ溝に第1係止爪が挿入係止した状態を示す概略図であり、(A)は回転片を回転させる前、(B)は回転片を回転させた後の図である。
【図4】ワイヤハーネス用クランプの下面側から見た概略斜視図である。
【図5】ワイヤハーネスを取り付けたクランプの車体への最終固定状態を示す概略図である。
【図6】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1〜図5に本発明の実施形態を示す。本実施形態のワイヤハーネス用クランプ10(以下、クランプ10という)は、車体パネル30より突設するスタッドボルト31に固定するクランプであり、本実施形態ではポリプロピレン樹脂またはナイロン樹脂により成形している。クランプ10はワイヤハーネス取付部11の長さ方向の先端より支持部14を介して筒部15を設けており、車体パネル30より溶接で突出させたスタッドボルト31に、前記筒部15を下面側(15a)から差し込み挿入する。
【0017】
具体的には、図1〜図3に示すように、筒部15のボルト挿入側(下面側15a)の内面よりJ字状の折り返し状に係止片16を突設し、該係止片16の突出側内面に、スタッドボルト31のネジ溝32に挿入係止する第1係止爪17を設けている。ここで、筒部15の内面と係止片16との間に空間Sをあけている。本実施形態では、180度間隔となる対向位置に係止片16を一対設けている。
【0018】
また、筒部15の反ボルト挿入側(上面側15b)の外面で、前記各係止片16と対向する位置より、薄肉ヒンジ部18を介して回転片19を突設している。回転片19の先端には、スタッドボルト31のネジ溝32に挿入係止される第2係止爪20を設けていると共に、回転片19の中間位置より、筒部15の内面と係止片16との間の空間Sに圧入する押圧部21を設けている。第2係止爪20および押圧部21は、回転片19を筒部15側に回転させた状態で、第2係止爪20と押圧部21が係止片16を左右から挟み込むように配置している。
【0019】
さらに、本実施形態では、前記係止片16と90度間隔となる位置の筒部15の内面より、図2(C)に示すような係止部22を対向位置に一対突設している。係止部22もスタッドボルト31のネジ溝32に挿入係止できる形状を有している。
【0020】
一方、クランプ10のワイヤハーネス取付部11は、断面L形状となる2枚の側板12a、12bを薄肉ヒンジ部13を介して連結することにより形成している。また、前記2枚の側板12a、12bのうち、一方の側板12aの長さ方向の先端外面より、図4に示すような三角形状の3枚の支持部14を突出させ、該支持部14によりワイヤハーネス取付部11と筒部15を連結している。ワイヤハーネス取付部11にワイヤハーネスW/Hを載置し、ワイヤハーネス取付部11の長さ方向の他端をワイヤハーネスW/Hにテープ(T)巻きすることによって、ワイヤハーネスW/Hをクランプ10に取り付けている。
【0021】
以下、図3を参照しながら、スタッドボルト31へのクランプ10の固定について説明する。
まず、車体パネル30より突設したスタッドボルト31に、クランプ10の筒部15を下面側15aから差し込み挿入し、図3(A)のように、係止片16に突設した第1係止爪17をスタッドボルト31のネジ溝32に挿入係止すると共に、係止部22もネジ溝32に挿入係止する。
【0022】
続いて、回転片19をそれぞれ筒部15側に回転させ、回転片19の押圧部21を空間Sに圧入すると共に、第2係止爪20を、第1係止爪17と係合するネジ溝32より上側のネジ溝32に挿入係止させる[図3(B)]。これにより、スタッドボルト31へのクランプ10の固定が完了する。
ワイヤハーネスW/Hを取り付けたクランプ10の車体30への最終固定状態を図5に示している。
【0023】
前記のように、筒部15の反ボルト挿入側(15b)の外面より薄肉ヒンジ部18を介して回転片19を突設し、回転片19の中間位置より筒部15の内面と係止片16との間の空間Sに圧入する押圧部21を設けている。よって、回転片19を回転させ押圧部21を前記空間Sに圧入することによって、押圧部21は係止片16をスタッドボルト31側に押圧し、係止片16の突出側内面に突設した第1係止爪17をネジ溝32にしっかりと係止させることができる。即ち、係止片16の強度を従来の係止片と同程度とし、クランプ10をスタッドボルト31に固定するための挿入力も従来と同程度に抑えながら、回転片19の押圧部21を前記空間Sに圧入することでスタッドボルト31に対するクランプ10の保持力を高めることができる。
【0024】
また、筒部15内面より折り返し状に突設する係止片16の内面に第1係止爪17を設けると共に、回転片19の先端に第2係止爪20を設けているため、第1係止爪17をスタッドボルト31のネジ溝32に挿入係止すると共に、回転片19を回転させて第2係止爪20を上側のネジ溝32に挿入係止することにより、第1係止爪17および第2係止爪20による2段の係止が可能となり、スタッドボルト31に対するクランプ10の保持力をさらに高めることができる。また、第2係止爪20とスタッドボルト31のネジ溝32との係止によって、押圧部21の前記空間Sからの抜けを防止し、回転片19の外れを防止することができる。
本実施形態の構成によれば、スタッドボルト31に対するクランプ10の保持力を100N以上に高めることができると共に、クランプ10をスタッドボルト31に固定するための挿入力を40N以下に抑えることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 ワイヤハーネス用クランプ
11 ワイヤハーネス取付部
12a、12b 側板
13 薄肉ヒンジ部
14 支持部
15 筒部
16 係止片
17 第1係止爪
18 薄肉ヒンジ部
19 回転片
20 第2係止爪
21 押圧部
30 車体パネル
31 スタッドボルト
32 ネジ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを車体側から突設するボルトに固定するクランプであって、
ワイヤハーネス取付部から車体取付用の筒部を突設し、
前記筒部のボルト挿入側の内面よりJ字状の折り返し状に係止片を突設し、該係止片と前記筒部の内面との間に空間をあけると共に、該係止片の突出側内面に前記ボルトのネジ溝に挿入係止する第1係止爪を突設し、かつ、
前記筒部の反ボルト挿入側の外面より薄肉ヒンジ部を介して回転片を突設し、該回転片の先端に前記ボルトのネジ溝に挿入係止される第2係止爪を設けると共に該回転片の中間位置より前記筒部の内面と係止片との間の空間に圧入する押圧部を設け、
前記第1係止爪を前記ボルトのネジ溝に係止し、前記回転片を筒部側に回転させて、該回転片の押圧部を前記空間に圧入すると共に前記第2係止爪を前記ボルトのネジ溝に係止することを特徴とするワイヤハーネス用クランプ。
【請求項2】
前記係止片は前記筒部の内面より少なくとも対向位置に一対設けている一方、前記回転片は前記係止片と対向する外面側に設けている請求項1に記載のワイヤハーネス用クランプ。
【請求項3】
前記ワイヤハーネス取付部は断面L形状となる両側板を薄肉ヒンジ部を介して連結しており、該ワイヤハーネス取付部の一方側板の長さ方向の先端外面より支持部を介して前記筒部を設けている一方、
前記ワイヤハーネス取付部の長さ方向の他端をワイヤハーネスにテープ巻きまたはバンド締結で固定する構成としている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス用クランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−213426(P2010−213426A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55744(P2009−55744)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】