説明

ワイヤハーネス

【課題】ワイヤハーネスの枝線に形成する端末集中溶接スプライス部を絶縁樹脂製のキャップ等に挿入することなく、簡単に処理する。
【解決手段】ワイヤハーネスの幹線から分岐する複数の枝線の端末に端末集中溶接スプライス部を設け、該端末集中溶接スプライス部の先端に屈曲させた係止部を形成している一方、前記ワイヤハーネスから分岐する他の複数の枝線端末をジョイントするジョイントコネクタを設け、該ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部の収容部を付設し、該収容部内に前記係止部を係止する被係止部を設け、ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部も収容保持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に配索されるワイヤハーネスに関し、特に、該ワイヤハーネスの幹線から分岐させた複数本の枝線の端末集中溶接スプライス部分を簡単に絶縁処理するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索するワイヤハーネスを構成する多数の電線群のうち、互いに接続する必要がある回路の電線は、図7に示すように、幹線100から枝線101として分岐し、分岐した複数本の枝線101の端末で絶縁被覆101aを剥離して芯線101bを露出させ、これら芯線101bを重ね合わせて超音波溶接あるいは抵抗溶接等の溶接で一体化し、端末集中溶接スプライス部Sを形成している場合がある。
【0003】
前記端末集中溶接スプライス部Sは、特開平8−148201号公報では、図8(A)〜(C)に示すように、多数の端末集中溶接スプライス部Sをそれぞれ挿入する複数の収容ポケット151をケース150に設けると共に、該ケース150の側壁からストッパーピン161を突設したストッパー160を差し込み、収容ポケット151内に挿入する端末集中溶接スプライス部Sから分岐する電線wの間に挿入して、ケース150内に多数の端末集中溶接スプライス部Sを収納保持できるようにしている。
【0004】
また、特開平9−137881号公報では、図9に示すように、絶縁樹脂製のキャップ110に端末集中溶接スプライス部Sを挿入し、該キャップに突設したテープ巻き舌片に端末集中溶接スプライス部Sを構成する枝線を粘着テープで巻き付けている。キャップ110はワイヤハーネスの幹線100にテープ巻き固着する基板型クリップ111の基板111aの側面から突設し、該基板111aの上面からは車体係止用のクリップ部111bを突設している。また、前記基板型クリップ111に代えてバンド型クリップからキャップを突設している場合もある。
【0005】
なお、従来は、図10(A)(B)に示すように、テープ巻き舌片130aを突設したキャップ130のみを用い、該キャップに端末集中溶接スプライス部Sを挿入したのちテープ140を巻きつけて固着し、該キャップ130をワイヤハーネスの幹線100の外周に搭載してテープ巻きで固定する場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−148201号公報
【特許文献2】特開平9−137881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1では、ケースの収容ポケット151内に収容した端末集中溶接スプライス部Sから引き出された電線wの隙間にストッパーピン161を差し込んで抜け止めをしているが、端末集中溶接スプライス部S自体を収容ポケット151内に固定していないため、保持が不安定となり、かつ、枝線に引き抜き方向の負荷がかかるとストッパーピン161と枝線との間に損傷が発生する恐れがあり、改善の余地がある。
また、前記特許文献2では、基板型クリップまたはバンド型クリップから突設したキャップに端末集中溶接スプライス部Sを挿入した後に、該キャップに設けたテープ巻き舌片と端末集中溶接スプライス部Sの枝線とを粘着テープで巻き付ける必要があり、作業手数がかかる問題がある。かつ、前記キャップを突設した基板型クリップあるいはバンド型クリップは複雑な形状となるため、金型製作費が高くなり、コスト高になる問題がある。
また、樹脂製のキャップのみを用いる場合も、テープ巻き作業が必要となり、かつ、該キャップを幹線の外周面に搭載してテープ巻き固着するだけでは、端末集中溶接スプライス部の保護機能が低下する。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、端末集中溶接スプライス部を簡単に絶縁処理できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、ワイヤハーネスの幹線から分岐する複数の枝線の端末に端末集中溶接スプライス部を設け、該端末集中溶接スプライス部の先端に屈曲させた係止部を形成している一方、
前記ワイヤハーネスから分岐する他の複数の枝線端末をジョイントするジョイントコネクタを設け、該ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部の収容部を付設し、該収容部内に前記係止部を係止する被係止部を設け、ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部も収容保持していることを特徴とするワイヤハーネスを提供している。
【0010】
前記のように、本発明では、端末集中溶接スプライス部の先端に屈曲した係止部を設ける一方、ワイヤハーネスの枝線同士をジョイントするためにワイヤハーネスに搭載しているジョイントコネクタを利用し、該ジョイントコネクタに端末集中溶接スプライス部を挿入する収容部を付設し、該収容部に前記被係止部を設けておき、端末集中溶接スプライス部をジョイントコネクタを利用して簡単に絶縁保持できるようにしている。
このように、ジョイントコネクタを端末集中溶接スプライス部の収容部として利用しているため、前記特許文献1に記載のような端末集中溶接スプライス部を収容する専用ケースを設ける必要はなく、かつ、特許文献2のように樹脂製のキャップを付設した複雑な形状のクリップを設ける必要もない。
【0011】
前記端末集中溶接スプライス部の先端に設けた係止部は枝線の軸線方向に対して90度下向きに屈曲させている一方、前記被係止部は前記収容室の底壁内面から傾斜させて突設したランスからなり、該ランスを係止部に当接係止することが好ましい。
【0012】
前記端末集中溶接スプライス部の収容部は前記ジョイントコネクタの側壁の外面に設けている。
具体的には、ジョイントコネクタは、互いに導通する枝線の端末にそれぞれ接続した端子を一方側のコネクタハウジングに挿入係止しておく一方、前記各端子と嵌合接続する端子を分岐して突出したジョイントバスバーを収容している他方側のコネクタハウジングとからなる。該他方側のコネクタハウジングの側面あるいは上面に前記端末集中溶接スプライス部の収容部を付設している。端末集中溶接スプライス部が複数の場合は前記コネクタハウジングの両側側面、さらには上面の複数箇所に端末集中溶接スプライス部の収容部を付設している。また、収容部はジョイントコネクタのコネクタハウジングとは別体として設け、必要な個数だけコネクタハウジングに取り付けてもよい。
【0013】
前記ジョイントコネクタは前記ワイヤハーネスの幹線の外周面に搭載され、粘着テープが巻き付けられて前記ワイヤハーネスに固着されることが好ましい。
なお、ジョイントコネクタの外面に車体係止用のクリップを突設し、車体に固定してもよい。
【0014】
前記端末集中溶接スプライス部に設ける前記係止部は、例えば、抵抗溶接装置の下側電極に対して昇降する上側電極と、該上側電極と前記下側電極に対して直交する奥側ガイド壁との隙間で前記端末集中溶接スプライス部と同時に形成されているものである。
具体的には、複数の枝線の端末で絶縁被覆を剥離し、露出した芯線を重ね合わせた状態で前記下側電極上に搭載し、芯線の先端を前記奥側ガイド壁に突き当て、ついで、上側電極と奥側ガイド壁と隙間をあけて下側電極に向けて下降することで、上下電極間で芯線が略矩形状に一体的に溶接され、さらに上側電極の側面と奥側ガイド壁の間で上向きに屈折した係止部を同時に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
前記のように、本発明では、ワイヤハーネスの幹線から分岐した複数の枝線の端末の端末集中溶接スプライス部に係止部を設けている一方、該ワイヤハーネスの枝線同士を接続するジョイントコネクタに前記係止部を係止する被係止部を設けた端末集中溶接スプライス部の収容部を付設しているため、該収容部内に端末集中溶接スプライス部を挿入し、その係止部を収容部内の被係止部に係止するだけでよい。
よって、樹脂製のキャップの端末集中溶接スプライス部を挿入する場合に必要なテープ巻き固着作業を不要にでき、かつ、端末集中溶接スプライス部を収容するための専用ケースを設ける必要はなく、簡単、確実かつ安価に端末集中溶接スプライス部を処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】(A)は端末集中溶接スプライス部を示す斜視図、(B)要部拡大斜視図である。
【図3】端末集中溶接スプライス部を形成する抵抗溶接装置を示し、(A)は概略斜視図、(B)は平面図、(C)はガイド壁を除いた状態の側面図である。
【図4】端末集中溶接スプライス部の形成工程を示す図面である。
【図5】ジョイントコネクタと枝線との関係を示す図面である。
【図6】(A)は端末集中溶接スプライス部と収容部とを示す断面図、(B)は収容部内に係止した状態を示す断面図である。
【図7】ワイヤハーネスの枝線の端末集中溶接スプライス部を示す図面である。
【図8】(A)〜(C)は従来例を示す図面である。
【図9】他の従来例を示す斜視図である。
【図10】(A)(B)は他の従来例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図6を参照して説明する。
図1に示すように、自動車に配索するワイヤハーネス1の幹線2から多数本の枝線3(3A、3B、3C、〜3Q)が分岐し、複数本の枝線3A〜3F、3G〜3Lは図2に示すように、それぞれ端末集中溶接スプライス部10(以下、端末スプライス部10と略称する)を設けている。これら2組の端末スプライス部10(10ー1、10ー2)は幹線2の略一の周方向位置P1から分岐させている。かつ、該周方向位置P1からジョイントコネクタ5でジョイントする枝線3M〜3Qも分岐している。
【0018】
前記端末スプライス部10ー1は、枝線3A〜3Fの端末で絶縁被覆7を剥離して芯線8を露出させ、これら6本の枝線の芯線8を図2に示すように束ね、図3に示す抵抗溶接装置20で溶接して、直方体状に一体化部分10aと、該一体化部分10aの先端から直角方向に屈折させた係止部10bを設けている。
前記端末スプライス部10ー2も枝線3G〜3Lの端末に抵抗溶接装置20で溶接して一体化部分10aと係止部10bを設けている。
【0019】
前記抵抗溶接装置20は、図3に示すように、下側電極21、上側電極22、奥側ガイド壁23、左右のガイド壁24、25を備えた形状としている。
下側電極21は固定し、該下側電極の左右両側にガイド壁24、25を固定して立設し、かつ、下側電極21の奥端に奥側ガイド壁23を設けている。該奥側ガイド壁23には昇降する上側電極22の奥側端面との間に隙間28が形成される窪み23aを設けている。該奥側ガイド壁23との対向側が端末スプライス部10を形成する枝線3の挿入口26としている。上側電極22は左右のガイド壁24、25の対向面に対して摺接しながら昇降させている。
【0020】
以下に、抵抗溶接装置20を用いた端末スプライス部10の形成方法を説明する。
複数本の枝線3(3A〜3F、3G〜3L)の芯線8を重ね合わせた状態で挿入口26より下側電極21の上面側に挿入し、芯線8の先端を奥側ガイド壁23に突き当てて下側電極21上にセットする。
ついで、上側電極22を図4に示すように下降する。これにより、下側電極21との間で複数本の枝線の芯線8を溶融して一体化し、前記一体化部分10aとなる。同時に、奥側ガイド壁23と上側電極22の奥側側面との間の隙間に負圧が発生し、該負圧により芯線8の溶融体が上昇して充填されていく。この上側電極22と奥側ガイド壁23との間に生じる溶融体の部分は前記一体化部分10aの先端より直角に立ち上がる形状となり、前記係止部10bとなる。
最後に、上側電極22を上昇して下側電極21および奥側ガイド壁23より離していき、溶融体が硬化することで、先端に係止部10bが突設した端末スプライス部10を形成している。
【0021】
前記のように、枝線3M〜3Qはジョイントコネクタ5でジョイントさせている。図5に示すように、該ジョイントコネクタ5は枝線3M〜3Qの端末に圧着した各端子12をオスコネクタハウジング13の端子収容室13a内に挿入係止し、該オスコネクタハウジング13をジョイントバスバー15を収容したメスコネクタハウジング16に嵌合し、ジョイントバスバー15より分岐して突出させた端子15aに前記端子12を嵌合している。
【0022】
前記メスコネクタハウジング16の左右両側壁16aに端末スプライス部10−1、10−2をそれぞれ挿入係止する収容部18(18−1、18−2)を付設している。
なお、前記収容部18をメスコネクタハウジング16と別体として設け、端末スプライス部10の個数に応じてメスコネクタハウジング16に着脱自在に組みつけるようにしてもよい。
【0023】
前記収容部18は一つの端末スプライス部10を挿入できる中空部を有し、挿入口18aのみが開口したボックス形状であり、その底面18bより傾斜したランス状の被係止部19を突設している。
図6に示すように、該収容部18に挿入する端末スプライス部10は先端側の係止部10bが被係止部19を乗り越えて挿入され、乗り越えた時点で係止部10bに被係止部19が係止し、収容部18内に端末スプライス部10を位置決め保持できるようにしている。
【0024】
前記のように、本発明では、ワイヤハーネス1の幹線2から分岐する複数本の枝線3(3A〜3F、3G〜3L)に形成した端末スプライス部10(10−1、10−2)に係止部10bを設けておく一方、該幹線2から分岐する別の枝線3M〜3Qをジョイントするジョイントコネクタ5に端末スプライス部10の収容部18(18−1、18−2)を設け、各収容部18内に前記係止部10bを係止するランス状の被係止部19を設けている。
よって、各端末スプライス部10を各収容部18に挿入するだけでのワンタッチ作業で、前記係止部10bを被係止部19に係止して保持することができる。
【0025】
前記ジョイントコネクタ5は従来と同様に幹線2の外周面に載置し、粘着テープを巻き付けて幹線2に固着保持している。なお、ジョイントコネクタ5のメスコネクタハウジング16の外面に車体係止用のクリップを突設し、車体にジョイントコネクタ5を固定してもよい。
【0026】
本発明は前記実施形態に限定されず、例えば、ジョイントコネクタ5のメスコネクタハウジング16の上面に端末スプライス部10の収容部を所要個数突設してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ワイヤハーネス
2 幹線
3(3A〜3Q) 枝線
5 ジョイントコネクタ
8 芯線
10(10−1、10−2) 端末集中溶接スプライス部
10a 一体化部分
10b 係止部
18(18−1、18−2) 収容部
19 被係止部
20 抵抗溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスの幹線から分岐する複数の枝線の端末に端末集中溶接スプライス部を設け、該端末集中溶接スプライス部の先端に屈曲させた係止部を形成している一方、
前記ワイヤハーネスから分岐する他の複数の枝線端末をジョイントするジョイントコネクタを設け、該ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部の収容部を付設し、該収容部内に前記係止部を係止する被係止部を設け、ジョイントコネクタに前記端末集中溶接スプライス部も収容保持していることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記端末集中溶接スプライス部の先端に設けた係止部は、枝線の軸線方向に対して90度下向きに屈折している一方、前記被係止部は前記収容室の底壁内面から傾斜させて突設したランスからなる請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記端末集中溶接スプライス部の収容室は前記ジョイントコネクタの側壁の外面に設けている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記端末集中溶接スプライス部に設ける前記係止部は、抵抗溶接装置の下側電極に対して昇降する上側電極と、該上側電極と前記下側電極に対して直交する奥側ガイド壁との隙間で前記端末集中溶接スプライス部と同時に形成されているものである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−154903(P2011−154903A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15760(P2010−15760)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】