説明

ワイヤハーネス

【課題】折り曲げ加工の形状を保持する強度を有すると共に、電磁波シールド機能を有したワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】ワイヤハーネス11は、複数本の電線14からなる導電路集合体12と、導電路集合体12の外周を覆う柔軟性を有する管体13と、管体13の外周を覆う第1のシールド部材16と、第1のシールド部材16の外周に巻き付けられて管体13の外周に第1のシールド部材16を固定する水又は光で硬化する硬化性長尺部材18とで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等に配索され、電力を供給するワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に配索される従来のワイヤハーネスとしては、特許文献1に開示された構造のワイヤハーネスがある。このワイヤハーネスは複数の高圧電線と、複数の高圧電線のそれぞれを収容して保護する複数の金属保護パイプを備えている。ワイヤハーネスは高圧電線が車両に搭載されたモータとバッテリとを接続するように車両に配索される。
【0003】
ワイヤハーネスは真っ直ぐな状態の金属保護パイプのそれぞれに高圧電線を挿通した状態で配索経路に沿って折り曲げ加工を施すことにより車体フロアの外側の下面に配索される。高圧電線を覆う金属保護パイプは石跳ねや水跳ねから高圧電線を保護すると共に、高圧電線の撓みを防止し、さらには高圧電線に対する電磁波シールドを行うために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−224156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のワイヤハーネスは硬質の金属保護パイプを用いているため、折り曲げ加工が困難である欠点を有している。この欠点を解消するため、金属保護パイプに代えて樹脂やゴム等の柔軟性を有する管体を用い、この管体内に高圧電線を挿通する構造のワイヤハーネスが開発されている。
【0006】
しかしながら、柔軟性を有した管体を用いたワイヤハーネスでは、強度を確保することができず、配索用の折り曲げ加工の形状を保持することが困難となる問題を有している。又、管体が樹脂やゴム等によって形成されているため、電磁波シールド機能を有しておらず、電磁波シールドができない問題も有している。
【0007】
そこで本発明は、柔軟性を有した管体を用いた構造であっても、折り曲げ加工の形状を保持する強度を有すると共に、電磁波シールド機能を有したワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明のワイヤハーネスは、複数本の電線からなる導電路集合体と、この導電路集合体の外周を覆う柔軟性を有する管体と、この管体の外周を覆う第1のシールド部材と、この第1のシールド部材の外周に巻き付けられて管体の外周に第1のシールド部材を固定する水又は光で硬化する硬化性長尺部材とで形成されることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のワイヤハーネスであって、前記管体の外周には、第2のシールド部材が第1のシールド部材と異なる位置に設けられ、前記第1のシールド部材と第2のシールド部材の接続部に金属性のシールドリングが設けられ、前記硬化性長尺部材は前記第1のシールド部材、第2のシールド部材、シールドリングに巻き付けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のワイヤハーネスであって、前記第1のシールド部材及び第2のシールド部材は金属性の網目体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、導電路集合体を覆う管体の外周を第1のシールド部材が覆っているため、電磁波シールド機能を備えたワイヤハーネスとすることができる。又、第1のシールド部材の外周に硬化性長尺部材が巻き付けられて第1のシールド部材を管体の外周に固定しているため、ワイヤハーネスに強度を付与することができ、折り曲げ加工の形状を保持することができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、第2のシールド部材が第1のシールド部材と異なる位置に設けられ、第1のシールド部材と第2のシールド部材の接続部に金属性のシールドリングが設けられており、硬化性長尺部材がこれらの第1のシールド部材、第2のシールド部材、シールドリングに巻き付けられているため、第1のシールド部材及び第2のシールド部材の接続部に強度を付与することができ、接続部を保護することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、前記第1のシールド部材及び第2のシールド部材は金属性の網目体によって形成されているため、第1のシールド部材及び第2のシールド部材の内側の導電路集合体を電磁波シールドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】自動車に対するワイヤハーネスの配索状態を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態のワイヤハーネスの斜視図及び部分拡大正面図である。
【図3】(a)、(b)は第1のシールド部材の形態を示す斜視図である。
【図4】(a)及び(b)は図3に示す形態の第1のシールド部材を筒体に巻き付けた状態を示す斜視図及び断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態のワイヤハーネスを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。図1は本発明のワイヤハーネスが配索される自動車1を示す。自動車1はエンジン2及びモータユニット3からの動力をミックスして走行するハイブリッド車両であり、エンジン2及びモータユニット3は前輪側のエンジンルーム6内に搭載されている。モータユニット3はエンジンルーム6内に設けられたインバータユニット4を介して車体7の後部側に設けられたバッテリ5に接続されている。
【0016】
モータユニット3はモータ及びジェネレータを備え、これらがシールドケース内に配置されている。インバータユニット4は、インバータ及びコンバータを備え、これらがシールドケース内に配置されている。モータユニット3とインバータユニット4は、従前より用いられているモータ接続用高圧ワイヤハーネス8によって接続されている。
【0017】
バッテリ5は、Ni−MH系やLi−ion系のバッテリ或いはキャパシタ等の蓄電装置が用いられる。バッテリ5にはジャンクションブロック9が設けられており、インバータユニット4はこのジャンクションブロック9と本発明のワイヤハーネス11を介して接続されている。
【0018】
ワイヤハーネス11は一端部11aがインバータユニット4にコネクタ接続され、他端部11bがバッテリ5のジャンクションブロック9にコネクタ接続されている。ワイヤハーネス11はこれらの端部11a,11bを除く中間部11cが車体フロア7aの下部の外側に配索されている。このようにワイヤハーネス11の中間部11cが車体フロア7aの外側に配索されることにより車室内におけるワイヤハーネス11の配索スペースを削減することが可能となる。このようにワイヤハーネス11を車体フロア7aの外側に配索するために、ワイヤハーネス11は所定の配索経路に沿って折り曲げ成形され、この折り曲げ形状が保持される。
【0019】
図2はワイヤハーネス11を示し、導電路集合体12と、導電路集合体12の外周を覆う柔軟性を有する管体13と、管体13の外周を覆う第1のシールド部材16と、第1のシールド部材16の外周に巻き付けられる硬化性長尺部材18とによって形成されている。
【0020】
導電路集合体12は複数本(2本)の高圧電線14を束ねた集合体である。この場合、高圧電線14に加えて複数の低圧電線を束ねても良い。
【0021】
高圧電線14は銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金からなる素線を撚り合わせた導体や、銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金の単線からなる導体を絶縁被覆によって被覆した構造となっている。このような高圧電線14は電磁波シールド機能を有していない。この高圧電線14の端末にはコネクタが接続される。なお、低圧電線を併用する場合、低圧電線としては銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金からなる細い導体が絶縁被覆によって被覆されたものが用いられる。
【0022】
管体13は樹脂やゴム等の柔軟性を有する材料によって管状(チューブ状)に形成されている。管体13は導電路集合体12の略全長にわたって導電路集合体12の周囲を覆っている。管体13としては、外周面に凹凸を有したコルゲートチューブ、外周面に凹凸が形成されていないチューブ等が用いられる。これらのチューブは、内面に導電路集合体12が挿通する楕円形や円形等の断面形状に成形されている。管体13としてはスリットを有していない水密構造のチューブを用いることが好ましい。
【0023】
第1のシールド部材16は高圧電線14に対する電磁波シールドを行うものであり、管体13(導電路集合体12)の略全長にわたって管体13を覆うように設けられる。第1のシールド部材16は図2の拡大図で示すように、網目体21によって形成されている。網目体21は、銅、鉄、アルミニウム等の導電性を有した金属線22を編んだ金属性となっている。このような金属性の網目体21は電磁波が作用すると、交差している金属線22の間で電流が逆方向に流れることにより電流が相殺されるため、電磁波を遮断する電磁波シールド機能を有している。これによりワイヤハーネス11に電磁波シールド機能を付与することができる。かかる第1のシールド部材16はコネクタを介して、又は直接にインバータユニット4のシールドケース等にアース接続される。
【0024】
第1のシールド部材16の外周には、硬化性長尺部材18が巻き付けられる。硬化性長尺部材18はテープ状となっており、テープ巻きの要領で第1のシールド部材16の外周に巻き付けることができる。第1のシールド部材16への巻き付けを行うため、硬化性長尺部材18の一面(下面)には、粘着剤が塗布されている。硬化性長尺部材18はワイヤハーネス11の略全長に巻き付けても良いが、ワイヤハーネス11を折り曲げ加工する部位に巻き付けても良い。このように硬化性長尺部材18を第1のシールド部材16の外周に巻き付けることにより、第1のシールド部材16を管体13に固定することができる。
【0025】
硬化性長尺部材18は水又は光によって硬化する特性を有した長尺部材であり、第1のシールド部材16に対しては未硬化の状態で巻き付けが行われる。この巻き付けの後、ワイヤハーネス11を配索経路に沿って折り曲げ加工し、その後に水又は光を硬化性長尺部材18に供給して硬化性長尺部材18を硬化する。この硬化によりワイヤハーネス11に強度が付与され、折り曲げ加工の形状を保持することができる。すなわち硬化した硬化性長尺部材18はワイヤハーネス11に対して形状保持機能を付与する。又、硬化した硬化性長尺部材18は第1のシールド部材16を強固に保持しており、跳び石等の外部からの衝撃や変形荷重に耐えることが可能となる。
【0026】
硬化性長尺部材18が光の供給によって硬化する部材の場合には、ガラスウール、ガラスクロス、ポリエステルクロス、不織布等の基材に光硬化性樹脂組成物を含浸させて硬化性長尺部材18を形成することができる。硬化性長尺部材18が水の供給によって硬化する部材の場合には、上述した基材に水硬化性ウレタン樹脂を含浸させることにより形成することができる。なお、水の供給は硬化性長尺部材18に対し、水の噴射、滴下や水中への浸漬によって行うことができる。
【0027】
このような実施形態では、高圧電線14を有した導電路集合体12を覆う管体13に対して第1のシールド部材16を巻き付けるため、電磁波シールド機能を備えたワイヤハーネスとすることができる。又、第1のシールド部材16の外周に対して、硬化性長尺部材18を巻き付け、硬化性長尺部材18を硬化して強度を付与するため、折り曲げ加工の形状を保持することができる。これにより配索経路に沿ったワイヤハーネス11の配索を容易に行うことができ、ワイヤハーネス11の配索作業を簡単に行うことができる。
【0028】
図3は第1のシールド部材16を示し、(a)においては第1のシールド部材16がシート状に形成され、(b)においては円筒等の筒状に形成されている。これらのシールド部材16のいずれにおいても金属線22が網目状に編成された網目体21となっている。
【0029】
図4は図3に示す第1のシールド部材16を管体13の外周に巻き付けた状態を示し、(a)はシート状の第1のシールド部材16の巻き付け、(b)は筒状の第1のシールド部材16の巻き付けを示す。いずれの場合においても第1のシールド部材16は管体13の長手方向に沿って管体13の外周を覆っている。シート状の第1のシールド部材16の場合には、(a)で示すように管体13の外周に巻き付けた後、仮固定する。筒状の第1のシールド部材16の場合には、(b)で示すように導電路集合体12を覆った管体13を第1のシールド部材16に挿通し、余剰部分16cを折り畳んで仮固定する。いずれの場合においても、第1のシールド部材16が管体13内の高圧電線14を覆うため電磁波シールドを行うことができる。
【0030】
図5は本発明の別の実施形態のワイヤハーネス1を示す。導電路集合体12の外周を覆う柔軟性を有した管体13の外周に第1のシールド部材16が巻き付けられている。第1のシールド部材16は管体13の長さ方向の一側(右側)を覆うように巻き付けられており、第1のシールド部材16が巻き付けられていない他側(左側)には第2のシールド部材26が巻き付けられている。第2のシールド部材26は、第1のシールド部材16と同様に導電性金属の網目体が用いられており、管体13の他側を覆うように巻き付けられている。第2のシールド部材26はアースケーブル等に接続されるものである。このように第1のシールド部材16及び第2のシールド部材26を設けることにより、これらのシールド部材16,26の内側の導電路集合体12に対して電磁波シールドを行うことができる。
【0031】
第2のシールド部材26の巻き付け端部26aは、第1のシールド部材16の巻き付け端部16aに重なるように巻き付けられており、これにより第1のシールド部材16と第2のシールド部材26とが接続された接続部28が形成されている。この接続部28を覆うように導電性金属からなるシールドリング25が設けられている。この接続部28の外周には硬化性長尺部材18が巻き付けられる。
【0032】
硬化性長尺部材18は第1のシールド部材16の巻き付け端部16a、第2のシールド部材26の巻き付け端部26a及びシールドリング27の外周を覆うように巻き付けられる。このように硬化性長尺部材18を巻き付けることにより、シールドリング27を介して第1のシールド部材16及び第2のシールド部材26の接続部28を管体13に固定することができる。
【0033】
この巻き付けの後、硬化性長尺部材18を硬化する。これにより第1のシールド部材16及び第2のシールド部材26の接続部28に強度を付与することができ、接続部28を保護することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
11 ワイヤハーネス
12 導電路集合体
13 管体
16 第1のシールド部材
18 硬化性長尺部材
21 網目体
22 金属線
26 第2のシールド部材
27 シールドリング
28 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線からなる導電路集合体と、
この導電路集合体の外周を覆う柔軟性を有する管体と、
この管体の外周を覆う第1のシールド部材と、
この第1のシールド部材の外周に巻き付けられて管体の外周に第1のシールド部材を固定する水又は光で硬化する硬化性長尺部材とで形成されることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤハーネスであって、
前記管体の外周には、第2のシールド部材が第1のシールド部材と異なる位置に設けられ、前記第1のシールド部材と第2のシールド部材の接続部に金属性のシールドリングが設けられ、前記硬化性長尺部材は前記第1のシールド部材、第2のシールド部材、シールドリングに巻き付けられていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項3】
請求項2記載のワイヤハーネスであって、
前記第1のシールド部材及び第2のシールド部材は金属性の網目体であることを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174667(P2012−174667A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38852(P2011−38852)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】