説明

ワイヤハーネス

【課題】導電路の外装部材として可撓性を有する外装部材を単に備えるだけでなく、外装部材を所望の形状に保持することが可能であり、また、プロテクタを不要にすることも可能なワイヤハーネスを提供することである。
【解決手段】周方向に延在する山部31(33)と谷部32(34)が交互に形成されるとともに、電線18を覆うためのコルゲートチューブ16を備え、コルゲートチューブ16を曲げて形成される屈曲部20の曲げ形状を保持した状態において少なくとも屈曲部20における谷部32、34にホットメルト接着剤23が充填され硬化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一又は複数の電線を保護するための外装部材を備え経路保持の機能を有するワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたワイヤハーネスは、三本の高圧電線と、この三本の高圧電線を一本ずつ収容して保護するための三本の金属保護パイプとを備えて構成されている。高圧電線は、車両の前側に搭載されるモータと、車両の中間又は後側に搭載されるインバータとを接続するものとして備えられている。
【0003】
ワイヤハーネスは、車体フレームの外側となる車体床下を通って配索されるようになっている。このため、金属保護パイプは石跳ねや水跳ねから高圧電線を保護することができるように形成されている。金属保護パイプは、石跳ねや水跳ねから高圧電線を保護し且つ高圧電線の撓みを防止する剛性を有するとともに、金属製であることから電磁シールド機能も有している。
【0004】
ワイヤハーネスは、真っ直ぐな状態の金属保護パイプに高圧電線を挿通し、これを三本分行った後に、車体床下におけるワイヤハーネスの配索経路に沿って金属保護パイプに曲げを施すことにより製造されている。ワイヤハーネスは、ハーネスメーカーの工場で上記の如く製造された後に、自動車メーカーの組み立て工場へと搬送されて車両の所定位置に組み付けられ、これにより配索が完了するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−224156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来技術にあっては、ワイヤハーネスの搬送の際に、金属保護パイプ同士が接触したり変形したりしてしまわないようにするため、金属保護パイプ毎、及びワイヤハーネス毎に十分なスペースを確保する必要があるという問題点を有している。また、金属保護パイプを三次元的に曲げ加工していることから、立体的なスペースを確保する必要もあるという問題点を有している。
【0007】
上記問題点を解消するためとして、可撓性を有する外装部材(例えば管体)を金属保護パイプの代替部材とすることが考えられる。しかしながら上記外装部材を単に代替部材とするだけでは、次のような幾つかの問題点を解消することは困難である。
【0008】
すなわち、可撓性を有するだけの外装部材であると、ワイヤハーネスの組み付け・配索時及び配索後において、所望の形状を保持することが困難であるという問題点を有している。また、可撓性を有するだけの外装部材であると、この外装部材を車両の所定位置に組み付けるために例えばプロテクタが必要になるが、このプロテクタは配索経路に合わせて樹脂成形される部材であることから、車両毎に専用設計・専用部材になってしまうという問題点、さらには汎用性が低くコスト高になってしまうという問題点を有している。
【0009】
プロテクタに関しては、開発段階で何度も試作金型を起こす場合があることから、設計費用、金型費用、設計時間等が掛かってしまうという問題点を有している。また、プロテクタに関しては、外装部材への組み付け部分が大型化することから、地面に近づき不具合が生じてしまうという問題点を有している。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、可撓性を有する外装部材を単に備えるだけでなく、外装部材を所望の形状に保持することが可能であり、また、プロテクタを不要にすることも可能な、ワイヤハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するためになされた請求項1に記載の本発明のワイヤハーネスは、周方向に延在する凸部と凹部が長手方向に沿って交互に形成されるとともに、一又は複数の導電路を覆うための外装部材を備え、外装部材を曲げて形成される屈曲部の曲げ形状を保持した状態において少なくとも屈曲部における凹部に硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂が充填され硬化されていることを特徴とする。
【0012】
このような特徴を有する本発明によれば、外装部材に対しプロテクタでなく硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂を用いる。本発明によれば、外装部材を曲げて形成される屈曲部の凹部に硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂を充填(又は滴下)し、充填された硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂が硬化することにより、互いに隣接する凸部と凸部の間隔が固定され、外装部材が曲げ形状に保持される。
【0013】
また、請求項2に記載の本発明のワイヤハーネスは、請求項1に記載のワイヤハーネスにおいて、前記屈曲部の曲げ形状が保持された状態で前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂が硬化した後に、少なくとも前記屈曲部に前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂の脱落を防止するためのテープが巻きつけられることを特徴とする。
このような特徴を有する本発明によれば、屈曲部の曲げ形状が保持された状態において互いに隣接する凸部と凸部の間隔が確実に固定される。
【0014】
また、請求項3に記載の本発明のワイヤハーネスは、請求項1に記載のワイヤハーネスにおいて、前記屈曲部の外部全てが硬化した前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂で覆われていることを特徴とする。
このような特徴を有する本発明によれば、外部全てを覆うと硬化した接着剤又は接着剤入り樹脂が落ちにくく安定した状態を保つことができる。
また、凹部に充填する面倒な作業を行わなくてもよく簡単な作業で曲げ形状を保持することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の本発明のワイヤハーネスは、請求項1、2又は3に記載のワイヤハーネスにおいて、前記外装部材を曲げずに形成されるストレート部の少なくとも凹部にも前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂が充填され硬化されていることを特徴とする。
このような特徴を有する本発明によれば、屈曲部の曲げ形状を保持するのみならずストレート部のストレートな形状も保持することができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された本発明によれば、導電路を覆うための外装部材を所望の形状に保持することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、プロテクタを不要にして汎用性を高めることができるという効果を奏する。
また、硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂を樹脂成型プロテクタの代替として用いるため車両専用部品および金型を用いることがない。したがって、ワイヤハーネスの製造コストの低減を図ることができる。
また、上記した従来技術ではプロテクタを用いて経路保持していたのに対し、本発明では硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂を用いているだけなのでワイヤハーネスの軽量化を図ることができる。
【0017】
請求項2に記載された本発明によれば、凹部を覆うようにテープが施されているので、凹部に充填された硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂の凹部外への脱落の防止を図ることができる。このため、経路保持力を長期にわたって維持することができる。
【0018】
請求項3に記載された本発明によれば、屈曲部全体に硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂が塗布され又は滴下されるため、部分的でないことから、作業効率を向上させることができる。
【0019】
請求項4に記載された本発明によれば、屈曲部の曲げ形状を保持するのみならずストレート部のストレートな形状も保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ハイブリッド自動車に本発明のワイヤハーネスを配索した場合の一例を示した模式図である。
【図2】ワイヤハーネスを屈曲させる前の状態から屈曲させた後の状態を示した外観斜視図である。
【図3】ワイヤハーネスを屈曲させた後にコルゲートチューブの谷部に接着剤が充填された状態を示した外観斜視図である。
【図4】ワイヤハーネスの屈曲部にテープが巻き付けられた状態を示した外観斜視図である。
【図5】(a)はコルゲートチューブを屈曲させる前のワイヤハーネスの縦断面図であり、(b)はコルゲートチューブを屈曲させた後に接着剤が谷部に充填されたワイヤハーネスの縦断面図であり、(c)は屈曲部にテープが巻き付けられた状態におけるワイヤハーネスの縦断面図である。
【図6】(a)は屈曲部表面全体を接着剤で塗布した場合の外観を示した図であり、(b)は(a)の縦断面図である。
【図7】(a)はワイヤハーネスを屈曲させた後にコルゲートチューブの谷部に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図であり、(b)は屈曲部表面全体に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図であり、(c)はストレート部における屈曲させたくない部分の表面全体に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図である。
【図8】(a)は接着剤入り樹脂の滴下途中の状態を示した外観斜視図であり、(b)は滴下部分の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係るワイヤハーネスの構造の一実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、ハイブリッド自動車に本発明のワイヤハーネスを配索した場合の一例を示した模式図である。図2は、ワイヤハーネスを屈曲させる前の状態から屈曲させた後の状態を示した外観斜視図である。図3は、ワイヤハーネスを屈曲させた後にコルゲートチューブの谷部に接着剤が充填された状態を示した外観斜視図である。図4は、ワイヤハーネスの屈曲部にテープが巻き付けられた状態を示した外観斜視図である。図5(a)はコルゲートチューブを屈曲させる前のワイヤハーネスの縦断面図であり、(b)はコルゲートチューブを屈曲させた後に接着剤が谷部に充填されたワイヤハーネスの縦断面図であり、(c)は屈曲部にテープが巻き付けられた状態におけるワイヤハーネスの縦断面図である。図6(a)は屈曲部表面全体を接着剤で塗布した場合の外観を示した図であり、(b)は(a)の縦断面図である。
【0023】
本実施の形態においては、ハイブリッド自動車(電気自動車であってもよい)に本発明のワイヤハーネスを適用する例を挙げて説明するものとする。
【0024】
図1において、ハイブリッド自動車1は、エンジン2及びモータユニット3の二つの動力をミックスして駆動する車両であって、モータユニット3にはインバータユニット4を介してバッテリー5(電池パック)からの電力が供給されるようになっている。エンジン2、モータユニット3、及びインバータユニット4は、本実施の形態において前輪等がある位置のエンジンルーム6に搭載されている。また、バッテリー5は、後輪等がある自動車後部7に搭載されている(エンジンルーム6の後方に存在する自動車室内に搭載してもよい)。
【0025】
モータユニット3とインバータユニット4は、公知の高圧ワイヤハーネス8により接続されている。また、バッテリー5とインバータユニット4は、本発明のワイヤハーネス9により接続されている。ワイヤハーネス9は、高圧用のものとして構成されている。ワイヤハーネス9は、この中間部10が車体床下11に沿って配索されている。
【0026】
ワイヤハーネス9とバッテリー5は、このバッテリー5に設けられるジャンクションブロック12を介して接続されている。ジャンクションブロック12には、ワイヤハーネス9の後端13がコネクタ接続されている。ワイヤハーネス9の前端14側は、インバータユニット4にコネクタ接続されている。
【0027】
モータユニット3はモータ及びジェネレータを構成に含んでいるものとする。また、インバータユニット4は、インバータ及びコンバータを構成に含んでいるものとする。モータユニット3は、シールドケースを含むモータアッセンブリとして形成されるものとする。また、インバータユニット4もシールドケースを含むインバータアッセンブリとして形成されるものとする。バッテリー5は、Ni−MH系やLi−ion系のものであって、モジュール化してなるものとする。尚、例えばキャパシタのような蓄電装置を使用することも可能であるものとする。バッテリー5は、ハイブリッド自動車1や電気自動車に使用可能であれば特に限定されないものとする。
【0028】
以下に、ワイヤハーネス9の構造について図2ないし図5を参照して詳細に説明をする。
【0029】
ワイヤハーネス9は、二本の電線18と、電線18を一括してシールドする電磁シールド部材19と、電磁シールド部材19の外側に設けられて外装部材として機能するコルゲートチューブ16を備えて構成されている。
【0030】
電線18は、導体及び絶縁体を含む導電路であって、電気的な接続に必要な長さを有するように形成されている。導体は、銅や銅合金やアルミニウムやアルミニウム合金により製造されている。導体に関しては、素線を撚り合わせてなる導体構造のものや、断面矩形又は丸形となる棒状の導体構造(例えば平角単心や丸単心となる導体構造であり、この場合、電線自体も棒状となる)のもののいずれであってもよいものとする。電線18の端末には、コネクタ(図示せず)が設けられている。
【0031】
尚、本実施例においては高圧となる二本の電線18を電路として用いているが、この限りでないものとする。すなわち、公知のバスバーに絶縁体を設けて高圧の導電路としたものや、n系統の回路(n個の回路)を同軸で一本に構成することによりなる高圧同軸複合導電路等を用いてもよいものとする。
【0032】
電磁シールド部材19は、電線18を介して伝送される電気信号が外部からの電磁波による影響を受けないようにするためのものであり、導電性の金属箔を含むシールド部材、或いは金属箔単体などにて筒状に形成されている。電磁シールド部材19は、二本の電線18の全長とほぼ同じ長さに形成されている。
【0033】
尚、電磁シールド部材19は、本実施例において金属箔を含んでいるが、これに限定されるものではない。すなわち、電磁波対策をすることが可能であれば、例えば極細の素線を多数有する編組を用いてもよいものとする。編組は、導電性を有して筒状に形成されるものとする。
【0034】
コルゲートチューブ16は、可撓性を有する外装部材(管体)であって、外周面に凹凸を有する樹脂製又は金属製のチューブ(蛇腹管)等が挙げられる。また、本実施例のコルゲートチューブ16は、断面円形状で樹脂製のものが用いられるが、断面円形状に限らず、断面楕円形状や、断面四角形状などの形状のものであってもよい。
【0035】
ワイヤハーネス9を構成するコルゲートチューブ16は、上述したように曲げ可能な可撓性を有する外装部材であり、山部と谷部(凸部と凹部)が電線18の長手方向に沿って連続して形成されている。ここで、山部は特許請求の範囲の凸部に対応し、谷部は凹部に対応するものである。
【0036】
電線18を被覆する電磁シールド部材19を挿通した状態において、図2の矢印の方向にコルゲートチューブ16に曲げが施されると、屈曲部20が形成される。図1の例では、符号20A、20B、20Cの位置に屈曲部20が形成される。
屈曲部20は、ワイヤハーネス9の屈曲部分(曲げ部分)であるとともに、コルゲートチューブ16の屈曲部分(曲げ部分)でもあるものとする。
【0037】
屈曲部20における符号21は、曲げRが大きい側となる外側曲率形成部分を示している。また、符号22は、曲げRが小さい側となる内側曲率形成部分を示している。
【0038】
屈曲部20が形成された後、図3に示すように屈曲部20の谷部32,34にホットメルト接着剤23(図3の黒塗り部分)が充填され、その後硬化される。
【0039】
以下に、屈曲部20の曲げ形状を保持する原理について図5を参照して説明する。
コルゲートチューブ16に曲げを施す前の状態(図5(a)参照)においては、コルゲートチューブ16に何も力が加わっていないので、山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA1)と、山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA1)は等しい。
【0040】
コルゲートチューブ16に曲げを施すと、コルゲートチューブ16の外側曲率形成部分21における山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA2)はピッチA1よりも大きくなる。一方、コルゲートチューブ16の内側曲率形成部分22における山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA3)はピッチA1よりも小さくなる。
【0041】
ここで、例えば、人の手でコルゲートチューブ16に曲げを施した後に手を放すと、コルゲートチューブ16には曲げを施す前の状態に戻ろうとする力が働き、コルゲートチューブ16は図5(a)に示した元の状態に戻ってしまう。すなわち、ワイヤハーネス9が直線形状に戻ってしまい、曲げ形状が保持されない。
【0042】
そこで、本発明では、コルゲートチューブ16に曲げを施して屈曲部20が形成された後に、屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23(図5(b)の黒塗り部分)が充填される。ホットメルト接着剤23の充填後、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23が硬化するまで静置する。
【0043】
ここで、ホットメルト接着剤23は硬化性接着剤であり、例えば、常温では固体であるが加熱溶融によって液状化したものを被着体に接着させ、常温で固体に戻すタイプのものや、加熱して硬化させるタイプのものがある。ホットメルト接着剤23は短時間で被着体に接合されるので作業効率を向上させることができる。
【0044】
なお、本発明は、ホットメルト接着剤に限定されるものではなく、例えば、高剛性発泡充填剤や、2液反応型接着剤(エポキシ樹脂系接着剤等)や、ポリウレタン樹脂系接着剤、ポリエーテル系接着剤でもよい。高剛性発泡充填剤、2液反応型接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、ポリエーテル系接着剤については公知なのでここでは説明を省略する。
【0045】
ホットメルト接着剤23が硬化すると、コルゲートチューブ16の外側曲率形成部分21における山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA2)が保持される。一方、コルゲートチューブ16の内側曲率形成部分22における山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA3)も保持される。
外側曲率形成部分21における幅A2は幅A1に戻ることはなく、また、内側曲率形成部分22における幅A3も幅A1に戻ることはない。
【0046】
このため、外側曲率形成部分21において互いに隣接配置された山部33、33の間隔と内側曲率形成部分22において互いに隣接配置された山部31、31の間隔を一定に保持することができる。したがって、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態の保持(経路保持)を行うことができる。
【0047】
以下に、本発明の変形例について説明する。
本変形例は、コルゲートチューブ16に曲げを施して屈曲部20が形成された状態で谷部32、34にホットメルト接着剤23を充填した後、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23が硬化されまで静置するところまでは上記実施の形態と同様である。
【0048】
本変形例では、ホットメルト接着剤23が硬化した後に、図5(c)に示すように屈曲部20の谷部32、34に充填されたホットメルト接着剤23を覆うようにコルゲートチューブ16にテープ17が巻きつけられる。この点が上記実施の形態と異なる。
【0049】
ホットメルト接着剤23が硬化した後に、図4に示すように屈曲部20に充填されたホットメルト接着剤23を覆うようにコルゲートチューブ16の屈曲部20にホットメルト接着剤23の脱落防止用のテープ17が巻きつけられる。なお、テープ17の片面には接着剤が施されている。
【0050】
ここで、テープ17を屈曲部20へ巻きつける方法として、例えば、コルゲートチューブ16の周方向に一周巻きつけるごとに前回巻きつけたテープ17の一部を重ねて巻きつけていく、いわゆるハーフラッピング(重ね巻き)を行っている(図5(c)の拡大図参照)。
【0051】
テープ17を屈曲部全体に巻きつけることにより、谷部32、34がテープ17により塞がれるため、ホットメルト接着剤23が谷部32、34から脱落することを確実に防止することができる。
テープ17は、ホットメルト接着剤23が谷部32、34から脱落することを防止する機能さえ有すればよいので、特に材質を問わない。
【0052】
また、テープ17の色については無色、有色いずれでもよいが、有色テープを用いることにより以下の効果を得ることができる。例えば、ワイヤハーネス9は高圧用であることからオレンジ色のテープ17を用いることになる。作業者はそのワイヤハーネス9のテープの色を見てそのワイヤハーネス9が高圧電源を用いた車両に使用されるものであることを瞬時に識別することができ、作業効率の向上や作業ミスの防止を図ることができる。
【0053】
以上に説明したように、本発明では、導電路の外装部材として可撓性を有するコルゲートチューブ16を単に備えるだけでなく、コルゲートチューブ16を所望の形状に保持することが可能であり、また、プロテクタを不要にすることも可能な、低コスト、かつ、汎用性のあるワイヤハーネス9を提供することができる。
【0054】
尚、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
例えば、図6(a)、(b)に示すように、硬化性接着剤47(黒塗り部分)を屈曲部20の外側曲率形成部分21における谷部34と内側曲率形成部分22における谷部32にホットメルト接着剤47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤47を塗布するようにしてもよい。
上記構成によれば、谷部32,34にホットメルト接着剤47が充填されているだけでなく谷部32,34の周囲にもホットメルト接着剤47が塗布されているので、谷部32,34に充填されたホットメルト接着剤47が脱落するのを防止する効果が得られる。また、接着剤の充填、塗布の作業だけでよいので接着作業が簡単であり、作業時間の短縮を図ることができる。
【0055】
また、上記以外として次のような例も挙げられる。図7(a)はワイヤハーネスを屈曲させた後にコルゲートチューブの谷部に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図であり、(b)は屈曲部表面全体に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図であり、(c)はストレート部における屈曲させたくない部分の表面全体に接着剤入り樹脂が滴下された状態を示した外観斜視図である。また、図8(a)は接着剤入り樹脂の滴下途中の状態を示した外観斜視図であり、(b)は滴下部分の模式図である。
例えば図7(a)に示すように屈曲部20が形成された後、この屈曲部20の谷部32,34(図3参照)に接着剤入り樹脂53(黒塗り部分)を滴下し(又は充填し)、そして、滴下された接着剤入り樹脂53の凝固、硬化によって屈曲部20の屈曲状態を保持(経路保持)するようにしてもよい。
【0056】
上記接着剤入り樹脂53は、コルゲートチューブ16の樹脂材料(ここではポリプロピレン(PP))を溶融させてこれに接着剤を混ぜたものであり、凝固すると上記ホットメルト接着剤23と同じに機能するものである。接着剤入り樹脂53は、外装部材(管体)と同じ材質の樹脂材料に接着剤を混ぜたものである。
【0057】
例えば図8に示すようなノズル55を用いて溶融状態の接着剤入り樹脂53を滴下するとともにこれを凝固させると、屈曲部20の屈曲状態が保持(経路保持)される。
尚、溶融状態の接着剤入り樹脂53を垂らすことができればノズル55以外であってもよいものとする。接着剤入り樹脂53は、垂らさずに塗布して充填するようにしてもよいものとする。
図8(a)においては、屈曲部20の谷部32,34(図8(b)参照)が狭い所(縮まった所)に接着剤入り樹脂53を滴下しているが、これに限らないものとする。すなわち、図示とは逆側の広い所(広がった所)や、屈曲部20の側部等に接着剤入り樹脂53を滴下してもよいものとする。
【0058】
接着剤入り樹脂53は、例えば図7(b)に示すように屈曲部20の全体を覆うように滴下(又は塗布)してもよいものとする。また、例えば図7(c)に示すように、ワイヤハーネス9の(コルゲートチューブ16の)ストレート部57における屈曲させたくない部分60の表面の一部に、チューブ長手方向に沿って真っ直ぐな状態に滴下(又は塗布)してもよいものとする。
屈曲させたくない部分60の表面の一部に滴下(又は塗布)することに関しては、硬化性接着剤であるホットメルト接着剤23を用いた上記例にも適用できるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
1…ハイブリッド自動車、 2…エンジン、 3…モータユニット、 4…インバータユニット、 5…バッテリー、 6…エンジンルーム、 7…自動車後部、 8…高圧ワイヤハーネス、 9…ワイヤハーネス、 10…中間部、 11…車体床下、 12…ジャンクションブロック、 13…後端、 14…前端、 16…コルゲートチューブ(外装部材)、 17…テープ、 18…電線(導電路)、 19…電磁シールド部材、 20…屈曲部、 21…外側曲率形成部分、 22…内側曲率形成部分、 23…ホットメルト接着剤(硬化性接着剤)、 32,34…谷部(凹部)、 47…ホットメルト接着剤(硬化性接着剤)、 53…接着剤入り樹脂、 55…ノズル、 57…ストレート部、 60…屈曲させたくない部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延在する凸部と凹部が長手方向に沿って交互に形成されるとともに、一又は複数の導電路を覆うための外装部材を備え、
前記外装部材を曲げて形成される屈曲部の曲げ形状を保持した状態において少なくとも前記屈曲部における凹部に硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂が充填され硬化されている
ことを特徴とする。
【請求項2】
前記屈曲部の曲げ形状が保持された状態で前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂が硬化した後に、少なくとも前記屈曲部に前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂の脱落を防止するためのテープが巻きつけられる
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記屈曲部の外部全てが硬化した前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂で覆われている
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記外装部材を曲げずに形成されるストレート部の少なくとも凹部にも前記硬化性接着剤又は前記接着剤入り樹脂が充填され硬化されている
ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−42646(P2013−42646A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2069(P2012−2069)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】