説明

ワイヤロープおよびコントロールケーブル

【課題】本発明は、さらに屈曲疲労耐久性に優れたワイヤロープおよびそのワイヤロープを有するコントロールケーブルを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のワイヤロープは、素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランド30の周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランド20を複数本撚り合わせたワイヤロープであって、芯ストランド30はZnめっき素線からなる第1の層Iとこの第1の層Iに摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層IIとを有する複層構造であることを特徴とする。芯ストランド30の締め率は0.5〜4%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の素線を撚り合わせたワイヤロープおよびそのワイヤロープを有するコントロールケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ワイヤロープおよびコントロールケーブルは、広範囲の産業分野で適用されている。そのため、陸上や海上、また、高温、高負荷荷重といった様々な条件下で利用され、その使用条件は過酷なものとなっている。このような過酷な使用条件に耐えうる耐久性を有するワイヤロープおよびコントロールケーブルが望まれている。中でも、摺動しながら屈曲を受ける場合の疲労耐久性(屈曲疲労耐久性)の高いワイヤロープが望まれている。
【0003】
本発明者らはすでに特許文献1において、側ストランドの形付け率と締め率および側ストランドの側素線の圧縮残留応力などの最適化を図ることにより、上記の要望に対応できるワイヤロープとコントロールケーブルとを提案している。
【0004】
しかし、近年車両の組み立てにおては部品や部材のモジュール化が一般的となっており、例えば、ワイヤロープの破損時にもワイヤロープのみの交換ではなくワイヤロープを含むモジュールの交換を余儀なくされるようになった。このため交換費用が増大し、従来にもまして高い疲労耐久性が求められるようになった。
【特許文献1】特開2004−277993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、従来技術(特許文献1)を改良してさらに屈曲疲労耐久性に優れたワイヤロープおよびそのワイヤロープを有するコントロールケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ワイヤロープは小さな曲げ半径で繰り返し曲げ伸ばしを行うと、曲げ伸ばし毎に芯ストランドとその周りの側ストランドとで、曲げ半径の相違によりズレが生じ、このズレによって芯ストランドの素線と側ストランドの素線とが接触して摩耗し断線する。更に繰り返し曲げ伸ばしを行うとロープが破断する。これは、上記のようにロープを構成する素線間の摩耗が原因であり、従来からワイヤロープ内にオイルやグリスを封入して素線間の摩擦係数を小さくすることが実施されている。
【0007】
ところで、一般的に異種金属同士または同種合金同士(例えば、鋼と鋼)の素線の組み合わせは、同種純金属同士の素線の組み合わせより摩擦係数が小さいことが知られている。例えば、機械工学便覧(昭和54年版、社団法人日本機会学会発行)の第3編「力学・機械力学」によれば、同種純金属同士の摩擦係数μは0.7〜1.4であるが、異種金属同士または同種合金同士(鋼を含む)の摩擦係数μは0.3〜0.4である。
【0008】
図5は特開2004−277993号公報で提案したW(19)+8×7構造のワイヤロープの断面を模式的に示したものである。W(19)+8×7構造は周知の通りウォーリントン型の撚り構造をもち、19本の素線からなる1本の芯ストランド10と7本の素線からなる8本の側ストランド20とで構成されるロープの構造である。なお、芯ストランド10と、外接する8本の側ストランド20との隙間30は撚り油の付着部分となっている。
【0009】
具体的には、1本の芯素線15の周囲に6本の第1側素線11を配し、第1側素線11の周囲であって隣り合う第1側素線11の間に位置するように6本の第3側素線13を配し、隣り合う第3側素線の間に6本の第2側素線12を配す。これらの側素線11〜13を同時に同一ピッチ、同一方向へ撚り合わせ、各素線が互いに線接触するように平行撚りを行う。また、側ストランド20は、芯素線25の周囲に6本の側素線21を撚り合わせる。そして先の芯ストランド10の周囲にこの側ストランド20を撚り合わせて、図5に示す断面を有するワイヤロープとしたものである。
【0010】
各素線にはめっきが施されており、芯ストランド20を形成する素線(芯素線および第1〜3側素線)と側ストランド20の芯素線25とは亜鉛めっき(以後、Znめっきという)鋼線(○で表示)であり、側ストランド20の側素線21は亜鉛とアルミニウムの合金めっき(以後、Zn−Al合金めっきという)鋼線(●で表示)である。
【0011】
ZnめっきとZn−Al合金めっきは異種金属同士の組み合わせであり、上記のように摩擦係数が小さい。従って、撚り油の潤滑作用も相まって芯ストランド10と側ストランド20との摺動は滑らかなものとなる。しかし、19本の素線からなる1本の芯ストランド10では、全ての素線にZnめっきが施されているために素線同士の摺接は純金属同士の組み合わせとなり摩擦係数は極めて高い。すなわち、小さな曲げ半径で繰り返し曲げ伸ばしを行うと、芯ストランドの素線同士が摩耗して断線し、それが起点となってロープ破断に繋がるわけである。すなわち、ワイヤロープの耐久性をより一層高めるためには、芯ストランド10と側ストランド20との滑り性のみならず芯ストランドを構成する素線同士の滑り性をも向上させなければならないことを見出した。
【0012】
このような知見から本発明者らは芯ストランドの素線も異種金属の組み合わせとすれば上記のような断線を防止できるということに想到し、鋭意研究の結果本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明のワイヤロープは、素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランドの周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランドを複数本撚り合わせたワイヤロープにおいて、芯ストランドはZnめっき素線からなる第1の層とこの第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造であることを特徴とする。
【0014】
本発明のワイヤロープにおいては、側ストランドの側素線はZn−Al合金めっき素線であることが望ましい。
【0015】
また、本発明のワイヤロープの好適な態様は、芯ストランドの芯素線はZnめっき素線であり、この芯素線に外接する側素線はZn−Al合金めっき素線であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明のワイヤロープの好適な態様は、芯ストランドの芯素線はZn−Al合金めっき素線であり、この芯素線に外接する側素線はZnめっき素線としてもよい。
【0017】
本発明のワイヤロープは、芯ストランドの締め率が0.5〜4%であることが望ましい。
【0018】
また、本発明のワイヤロープは、ワイヤロープの最外端部に位置する側ストランドの側素線はその圧縮残留応力が600MPa以上で、側ストランドはその形付け率が83〜103%であり、さらにその締め率が6〜10%であることが望ましい。
【0019】
本発明のコントロールケーブルは、ワイヤロープと、このワイヤロープを摺動可能に挿通する導管とを有するコントロールケーブルにおいて、ワイヤロープは、素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランドの周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランドを複数本撚り合わせて形成されており、
芯ストランドはZnめっき素線からなる第1の層とこの第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のワイヤロープは、芯ストランドがZnめっき素線からなる第1の層とこの第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造である。異種金属同士の摺接面は摩擦係数が小さいのでZnめっき素線のみの単層の芯ストランドより滑り性に優れる。従って、従来のワイヤロープよりも更に一層疲労耐久性に優れたワイヤロープとなり、本発明のワイヤロープを有するコントロールケーブルもまた、従来よりもさらに耐久性に優れ、長寿命となる。
【0021】
また、芯ストランドの締め率を0.5〜4%に限定することでさらにワイヤロープの寿命延長効果を高めることができる。
【0022】
本発明のワイヤロープは、ワイヤロープの最外端部に位置する側ストランドの側素線はその圧縮残留応力が600MPa以上で、側ストランドはその形付け率が83〜103%であり、さらにその締め率が6〜10%とすることにより、安定して高い耐久性を維持するすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明のワイヤロープおよびコントロールケーブルを実施するための最良の形態を説明する。
【0024】
[ワイヤロープ]
本発明のワイヤロープは、素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランドの周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランドを複数本撚り合わせたいわゆる複撚り構造のワイヤロープであり、その芯ストランドは、Znめっき素線からなる第1の層と、この第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造であることを特徴とする。
【0025】
本発明の好適な実施の形態を図1に示す。図1は図5と同様にW(19)+8×7構成のワイヤロープの断面模式図であるが、ここで、本実施の形態と図5に示す従来技術との違いは、従来技術では芯ストランド10の19本の素線が全てZnめっき素線である一種類のめっき素線のみからなる単層構造となっているのに対して、本実施の形態では芯ストランド30の6本の第1側素線11aはZn−Al合金めっき素線であり、芯素線15、第2側素線12および第3側素線13は全てZnめっき素線であることである。すなわち、芯ストランド30はZnめっきの芯部(芯素線15)にZn−Al合金めっき素線からなる第2の層II(第1側素線11a)と、さらにその上にZnめっきの第1の層I(第2側素線12および第3側素線13)を積層した2種類以上のめっき線組み合わせからなる複層構造となっている。従って、芯部と第2の層IIとの摺接は異種金属同士の組み合わせであり、また、第2の層IIと第1の層Iとの摺接も異種金属同士の組み合わせとなるので、同種純金属(Znめっき)同士の摺接である芯ストランド10に比べてその摩擦係数は格段に小さくなり、各層間の滑り性は向上する。従って、摩耗による素線の断線発生を抑制することができる。
【0026】
図3に芯ストランドが複層構造(芯ストランド30)のワイヤロープA(以後、ロープAという)と従来技術になる芯ストランドが単層構造(芯ストランド10)のワイヤロープB(以後、ロープBという)との曲げによる荷重(P)−撓み(δ)線図を示す。図3は、荷重(P)−撓み(δ)線図を概念的に示したものであり、実線aがロープAの荷重(P)−撓み(δ)線図(以後、線図aという)であり、点線bはロープBの荷重(P)−撓み(δ)線図(以後、線図bという)である。なお、ロープAとロープBとは上記のように芯ストランドの構成は異なるが、側ストランドの構成や各素線の太さ、あるいは撚り線工程などその他の構成要因や製造条件は同一として形成されたものである。
【0027】
図3(a)の荷重(P)−撓み(δ)線図は、次のようにして得ることができる。線図bを例に取ると、まず撚り合わせられたロープBから所定長さLの試料Sbを採取して図3(b)に示すように試料Sbの一端側cを固定する。負荷速度を一定として他端dに荷重Pを負荷する。ロープBは弾性体であるので荷重Pの増加に比例して撓みδも増加する(点線OQ1)。所定の荷重PQでは撓みはδQ1となるがここで除荷を開始する。除荷速度は方向は逆であるが負荷速度と同じとする。ロープBは内部摩擦があるので除荷開始と同時には復元を開始しない。すなわち、荷重PがΔP1除荷されるまでは撓みδQ1は一定のままで維持される(点線Q11)。その後荷重Pの減少に比例して撓みδも減少し撓みδT1で荷重Pは0となる(点線R11)。このようにしてロープBの線図b(O→Q1→R1→T1→O)を得ることができる。ここで除荷後(荷重Pを0としても)撓みδT1は残るが、この撓みδT1は内部摩擦による抵抗分であり、時間の経過と共に解消されて略0となる。 ロープAについても同様にして線図a(O→Q0→R0→T0→O)を得ることができる。
【0028】
線図aと線図bとを比較すると次の(ア)〜(エ)が分かる。(ア)同一荷重Pを負荷するとロープAの方がロープBよりも撓みは大きい(例えば、PQでδQ1<δQ0)。(イ)同一撓みではロープA方がロープBよりも荷重が小さい(δQ1でPq<PQ)。(ウ)ロープAの方がロープBよりも復元開始が早い(ΔP0<ΔP1)。(エ)ロープAの方がロープBよりも除荷後の撓みが少ない(δT0<δT1)。これら(ア)〜(エ)の現象はロープAとロープBとの芯ストランドの構成の違いによって生じるものであり、ロープAの芯ストランドがZnめっき素線とZn−Al合金めっき素線との複層構造であり、その摺接面における摩擦係数が小さく滑り性に優れるためである。
【0029】
このような優れた滑り性を有する芯ストランド30の締め率は0.5〜4%である。締め率がこの範囲にないと十分な屈曲疲労耐久性を有するワイヤロープを得ることができない。
【0030】
図4から分かるように、ロープA(○)はロープB(△)に比べていずれの締め率においても耐久性は高い。そして、芯ストランドの締め率が2%までは締め率の増加と共に耐久性は増加するが、それ以降は締め率の増加に伴って耐久性は減少する。すなわち、芯ストランドの締め率は0.9〜3%がより好ましいことが分かる。なお、この耐久試験を実施するに当たり、芯ストランドの締め率(%)は、芯ストランド製造時の(計算外径−実外径)/計算外径×100とし、供試ロープの形付け率は97%、締め率は7.4%とした。
【0031】
本実施の形態における芯ストランドの上記のような作用は図1に示すW(19)+8×7構成のワイヤロープのみならずその他の構成ワイヤロープでも同様に得ることができる。図2に7×7構成のワイヤロープの断面模式図を示す。この構成は、芯ストランド40が側ストランド20と同様に1本の芯素線15aと6本の側素線11とで構成されている。ここで、芯素線15aをZn−Al合金めっき素線とし、6本の側素線11をZnめっき素線とすれば、芯素線15aが第2の層IIで側素線11が第1の層Iである複層構造とすることができる。従って、従来のZnめっき素線のみの単層構造に比べて芯素線と側素線との摺接面における摩擦係数を小さくすることができ耐久性の高いワイヤロープとすることができる。
【0032】
Znめっきと良好な滑り性を有するZn−Al合金めっき層は、アルミニウムを1〜20wt%含むのが好ましく、より好ましくは2〜15wt%である。2層以上の側ストランドからなる場合は少なくとも最外層の側ストランドに、Zn−Al合金めっきを施すとよい。Zn−Al合金めっきを施すことにより、ワイヤロープの耐食性をも向上することができる。
【0033】
Zn−Al合金めっきを施す方法としては、伸線加工前の鋼線材(母材)を溶融状態の合金めっき浴に浸漬する方法(ディッピング)のほか、電気めっき法など、従来用いられている方法でよい。また、母材に形成するZn−Al合金めっき層の厚さは、10〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。
【0034】
なお、伸線加工前の鋼線材(母材)にZn−Al合金めっきを施すと、Zn−Al−Fe3元金属間化合物層が得られる。アルミニウムは、金属間化合物層の靭性を高める働きがあり、このZn−Al−Fe3元金属間化合物層の硬さ・厚さは、ワイヤロープの耐久性に影響を及ぼす。そこで、Zn−Al−Fe3元金属間化合物層の硬さを90〜200Hv、より好ましくは100〜160Hvとし、さらに、厚さを3〜15μm、より好ましくは4〜10μmとすることで、伸線加工後の素線の耐久強度を向上することができる。
【0035】
以上のような本発明のワイヤロープにおいては、芯ストランドの構成以外の構成要因や製造条件などは、特許文献1(特開2004−277993号公報)に開示されている構成や条件を適用することができる。すなわち、各素線は、炭素鋼、ステンレス鋼などの合金鋼からなる鋼線など、通常のワイヤロープに用いられている鋼線であればよく、伸線加工前後の素線の減面率は90〜99.5%、より好ましくは95〜99.5%である。
【0036】
また、素線の形状は、円形の断面をもつ丸線が好ましく、また、素線の太さにも特に限定はない。素線の硬さは、ビッカース硬さが600〜800Hv、より好ましくは670〜770Hvである。
【0037】
芯ストランドは、束ねられたり撚り合わされた複数本の素線からなるものであるが、内層の素線と外層の素線とが点接触する交差撚りでも、内層の素線と外層の素線とが線接触する平行撚りでも、その他の撚りかたでもかまわない。より好ましくはウォーリントン撚りである。ウォーリントン撚りは、実断面積が高い密な撚りかたであるため、引張り強度に優れる。
【0038】
側ストランドは、芯素線と芯素線の周囲に撚り合わされた側素線とからなる。芯素線の周囲に撚り合わされた側素線(第1側素線)の周囲に別の側素線(第2側素線)を撚り合わすというように、2層以上の側素線からなる側ストランドも使用可能である。2層以上の側素線を撚り合わせる場合には、交差撚りでも平行撚りでもその他の撚りかたでもよい。また、芯素線および側素線の本数に特に限定はないが、1本の芯素線と6本の側素線とからなるのが好ましい。2層以上の側素線からなる側ストランドの場合には、他の層と摺接する側素線同士が異種金属の組み合わせとなるようにめっき組成を選択することが望ましい。
【0039】
芯ストランドと側ストランドとの撚り構造は、通常のワイヤロープに用いられる撚り構造であれば特に限定はない。1本の芯ストランドに側ストランドを複数本撚り合わせる以外にも、芯ストランドの周囲に撚り合わされた側ストランド(第1側ストランド)の周囲に同一または別の種類の側ストランド(第2側ストランド)を撚り合わすというように、2層以上の側ストランドからなる構造でもよい。芯ストランドと側ストランドとの撚り構造として特に好ましいのは、W(19)+8×7構造である。
【0040】
本発明のワイヤロープは、最外端部に位置する側ストランドの側素線の圧縮残留応力が600MPa以上、より好ましくは700〜1000MPaである。側ストランドが2層以上からなる場合は、最外層に位置する側ストランドが最外端部に位置する側ストランドとなる。
【0041】
また、側ストランドはその形付け率が83〜103%、より好ましくは91〜100%である。さらにワイヤロープの締め率が6〜10%、より好ましくは7〜10%である。
【0042】
最外端部に位置する側ストランドの側素線の圧縮残留応力、形付け率、締め率の値がそれぞれ上記範囲にないと、十分な屈曲疲労耐久性を有するワイヤロープを得ることができない。
【0043】
また、本発明のワイヤロープは、SAE動粘度グレードが#1000以下(40℃)の撚り油で撚り合わされた素線からなるのが好ましい。より好ましくは、#80〜#550の撚り油により撚り合わされる。
【0044】
さらに、本発明のワイヤロープの表面は、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール樹脂などの樹脂で覆われるのが好ましい。ワイヤロープの表面を樹脂で覆うことにより、耐久性がより向上し、ワイヤロープをコントロールケーブルの導管などに挿通して用いる場合の摺動性がよくなる。
【0045】
[コントロールケーブル]
本発明のコントロールケーブルは、前述した本発明のワイヤロープとそのワイヤロープを摺動可能に挿通する導管とからなる。
【0046】
導管は、鋼線などを断面矩形状に圧延し、巻線したアウタスプリングから構成される一般的な構造の導管でよい。導管は、樹脂製で筒状のライナー上にアウタスプリングを螺旋状に密着して巻いた構造でもよい。樹脂製のライナーをもつコントロールケーブルは、ワイヤロープの摺動性がよく、操作性に優れる。ライナーの材質としては、ポリエチレン、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート、フッ素樹脂などが好ましい。さらに、アウタスプリングの外周に樹脂製のアウターコートを装着してもよい。
【0047】
本発明のコントロールケーブルは、ワイヤロープが引き方向または押し引き双方向に導管内を摺動するのが好ましく、自動車などのアクセル、スロットル、クラッチ、ブレーキ、ウィンドウレギュレータ等の各種装置の操作に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例(ロープA)と比較例(ロープB)とによって本願発明を更に詳しく説明する。
【0049】
(試料の作成)
母線として鋼線(SWRH62A)を用意した。この母線の表面にZnめっき層(厚さ30μm)をディッピングにて形成し、伸線して芯ストランドの芯素線、第1(ロープB)・第2・第3側素線および側ストランドの芯素線を得た。また、芯ストランドの第1側素線(ロープA)および側ストランドの側素線は、母線の表面にアルミニウムを含むZn−Al合金めっき層(厚さ30μm)をディッピングにて形成し、この母線を伸線した。伸線後の各素線の外径は、表1に示す値とした。なお、伸線加工による各素線の減面率は97〜99%であり、硬さは700〜750Hvであった(表2参照)。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
これらの素線を組み合わせて芯ストランドがZnめっき素線とZn−Al合金めっき素線との複層構造の供試ロープAと芯ストランドがZnめっき素線のみの単層構造の供試ロープBとを得た。なお、各ロープの構成はW(19)+8×7構成である。
【0053】
この時、側ストランドの側素線と供試ロープAの芯ストランドの第1側素線のめっきの種類と、側ストランドの側素線の硬さ、残留応力、形付け率および各素線の撚り油粘度などの組み合わせを、表2の組み合わせ条件1〜17のように選択して、同一番号の組み合わせ条件でそれぞれ供試ロープAと供試ロープBとを作製した。すなわち、組み合わせ条件1で得られた供試ロープAを試料A01、また同様にして得られた供試ロープBを試料B01として、試料A01〜試料A17と試料B01〜試料B16の合計33個の試料を作製した。
【0054】
なお、試料A16、試料B16とは、組み合わせ条件16で作製した各供試ロープの撚り油を超音波洗浄で除去して得られた試料である。また、試料A17は芯ストランドの19本の全素線をZn−Al合金めっき素線とし、供試ロープの撚り油を超音波洗浄で除去して得られたものである。また、供試ロープの締め率は7.4%、また、芯ストランドの締め率は2%で一定とした。
【0055】
(試験および評価)
以上の33個の試料について、特開2004−277993号公報に開示の方法で屈曲疲労耐久試験(以後、単に耐久試験という)を実施した。結果を表2に併記して示す。表2には試料番号は記載されていないが、例えば、組み合わせ条件1の供試ロープAの欄:250×103回は試料A01の耐久試験結果であり、組み合わせ条件1の供試ロープBの欄:190×103回は試料B01の耐久試験結果である。以下同様に供試ロープAの欄は各試料A02〜17の、供試ロープBの欄は試料B02〜16の耐久試験結果である。なお、耐久試験は固定プーリ耐久試験と回転プーリ耐久試験とを実施したが、固定プーリ耐久試験では供試ロープAと供試ロープBとの全ての試料について「破断なし」の結果であった。従って、表2の耐久試験結果は回転プーリによるものである。
【0056】
表2から全ての組み合わせ条件で供試ロープAの方が供試ロープBよりも耐久性の高いことが分かる。特に好適な組み合わせ条件である1〜7では、供試ロープAの方が供試ロープBよりも耐久性が40,000〜60,000回も増加しており改良効果の高いことが分かる。供試ロープAは180、000回以上の耐久性を示し、中でも試料A01、06、07では250,000回まで破断することなく安定した耐久性を維持することができた。これらのことから芯ストランドの複層化がワイヤロープの長寿命化に大きく寄与していることが分かる。
【0057】
また、撚り油を除去して素線同士の摺接だけとした場合(組み合わせ条件16)の耐久性は、試料A16では30,000回であり、試料B16では20,000回であった。これはZnめっき同士の摺接面における摩擦係数よりもZnめっきとZn−Al合金めっきとの摺接面における摩擦係数の方が小さいことをより顕著に示す結果である。
【0058】
さらに、試料A17は芯ストランドの19本の全素線をZn−Al合金めっき素線とし、供試ロープの撚り油を超音波洗浄で除去して得られたものであるが、耐久性は30,000回と試料A16のそれと変わらなかった。すなわち、芯ストランドをZn−Al合金めっきとZnめっきとの複層構造とすれば、ロープの寿命延長効果が得られることが分かった。
【0059】
一方、組み合わせ条件8〜12の場合には、いずれも供試ロープBよりも供試ロープAの方が耐久性は高いが、好適な組み合わせ条件である1〜7で得られた供試ロープBの耐久性より低く満足できるものではなかった。また、組み合わせ条件13〜15の場合には、比較的高い耐久性(210×103回)が得られたが、撚り油動粘度が#300〜#1000と高いために生産性を低下させるおそれがあり量産化するには適当ではない。
【0060】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することができる。本発明は、硬鋼線などの炭素鋼系の素線に各種のめっき処理を施し、ワイヤロープの各層で異種のめっき層の組み合わせとなるように撚り構成したワイヤロープに関するものであるが、ステンレス鋼線の場合には、めっきを施さないで他のめっき素線と組み合わせて撚り構成としてもよい。また、実施例ではZnめっきとZn−Alめっきとの組み合わせで説明したが、これらのめっきの他にSnめっきなどその他のめっきを使用して、異種のめっき鋼線同士の組み合わせとすることもできる。さらに、側ストランドおよび芯ストランドのいずれの場合も、上記の異種めっき層を有する素線に代えて、各めっき材質に相当する材質の素線(金属線)を用いてもよい。
【0061】
また、ワイヤロープの単撚り(1×7、1×12)など、あるいは麻芯ロープの側ストランドや芯ストランドなどの断面中心から放射状方向で相接する素線に適用してもよい。この場合にも上記実施例と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のワイヤロープ及びワイヤケーブルは、自動車などのアクセル、スロットル、クラッチ、ブレーキ、ウィンドウレギュレータ等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例であるワイヤロープAの断面模式図である。
【図2】本発明の他の態様であるワイヤロープ(7×7)の断面模式図である。
【図3】ワイヤロープAとワイヤロープBの荷重−撓み線図を説明する説明図である。(a)は荷重−撓み線図の概念図であり、(b)は測定方法の概要図である。
【図4】芯ストランドの締め率による耐久性の変化を示すグラフである。
【図5】比較例であるワイヤロープBの断面模式図である。
【符号の説明】
【0064】
10、30:芯ストランド 11:第1側素線 12:第2側素線 13:第3側素線 15:芯ストランドの芯素線 20:側ストランド 21:側ストランドの側素線 25:側ストランドの芯素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランドの周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランドを複数本撚り合わせたワイヤロープにおいて、
前記芯ストランドは、Znめっき素線からなる第1の層と該第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造であることを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
前記側ストランドの側素線はZn−Al合金めっき素線である請求項1に記載のワイヤロープ。
【請求項3】
前記芯ストランドの芯素線はZnめっき素線であり、該芯素線に外接する側素線はZn−Al合金めっき素線である請求項1または2に記載のワイヤロープ。
【請求項4】
前記芯ストランドの芯素線はZn−Al合金めっき素線であり、該芯素線に外接する側素線はZnめっき素線である請求項1または2に記載のワイヤロープ。
【請求項5】
前記芯ストランドの締め率が0.5〜4%である請求項2又は3に記載のワイヤロープ。
【請求項6】
前記ワイヤロープの最外端部に位置する前記側ストランドの側素線はその圧縮残留応力が600MPa以上で、前記側ストランドはその形付け率が83〜103%であり、さらにその締め率が6〜10%である請求項1〜5のいずれかに記載のワイヤロープ。
【請求項7】
ワイヤロープと、該ワイヤロープを摺動可能に挿通する導管とを有するコントロールケーブルにおいて、
前記ワイヤロープは、素線を多数本撚り合わせて形成した芯ストランドの周りに、素線を多数本撚り合わせて形成した側ストランドを複数本撚り合わせて形成されており、
前記芯ストランドは、Znめっき素線からなる第1の層と該第1の層に摺接するZn−Al合金めっき素線からなる第2の層とを有する複層構造であることを特徴とするコントロールケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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