説明

ワイヤロープの防錆剤圧入方法及び装置

【課題】吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部の内部に防錆剤を充填させる。
【解決手段】ワイヤロープの下端部の防錆処理対象部に、ワイヤロープの周面を被覆するように上側パッキン26と下側パッキン24を装着する工程と、ワイヤロープの下端部に設けたソケットの上に底部パッキンを配設する工程と、断面半円の半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とされる覆体14を、ソケットの上に底部パッキンを介して載せ、かつ覆体14でパッキン24、26を防錆処理対象部に押圧する状態にパッキン24、26を覆う工程と、覆体14の下端部をソケットに上方から押し付ける状態にするとともにその状態を保持する工程と、パッキン24、26の間の覆体14における注入口20から覆体14の内部に防錆剤を注入し、防錆処理対象部に防錆剤を圧入する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの内部に防錆剤を充填する橋梁用のワイヤロープの防錆剤圧入方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤロープを防錆処理する方法として、手作業ではけ塗りする方法、または非特許文献1及び非特許文献2に記載されている装置を用いて行う方法とが存在する。
【0003】
非特許文献1及び非特許文献2に記載されている装置は、吊り橋に使用するハンガーロープに塗料を塗装する装置であり、塗料を入れるための塗料槽を備え、この塗料槽にハンガーロープを挿通させるための貫通孔が形成されている。
【0004】
そして、この貫通孔に前記ハンガーロープが挿通され、塗料が貯留された前記塗料槽を前記ハンガーロープに沿って移動させることにより前記ハンガーロープを塗装する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】菊田、梶浜、松村、長大橋ハンガーロープの自動塗装装置の開発、塗装の研究、No.110、p56−p59
【非特許文献2】梶浜、吊橋ハンガーロープ自動塗装実施例、社)日本防錆技術協会、「防錆管理」85年5月号、p2−p6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の塗装方法では、ワイヤロープに沿って塗料槽を移動させるので、ワイヤロープを長い範囲にわたり塗装を行うことができるが、図10に示す吊り橋100に張り渡したケーブル101に上端が支持されたワイヤロープ102の下端部により吊り下げられる主桁103の近傍のワイヤロープ部分を処理対象にすることができない。つまり、図11(吊り橋100の幅方向から見た正面図)及び図12(図11と直交する方向から見た側面図)に示すように主桁103は、上下に水平な2枚の長尺水平板104、105が、これらの間の2枚の垂直片106、107により支持された構成となっていて、上側水平板104と下側水平板105とをワイヤロープ102が貫通するように設けられているため、上側水平板104及び下側水平板105が移動の邪魔になるからである。また、このような下端部近くのワイヤロープ102部分は、抜け止め用ソケット108が取り付けられていて錆などが溜まり易いので、従来から、ワイヤロープの内部にまで塗料やグリース等の防錆剤を充填させることが望まれていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部の内部に防錆剤を充填させることができるワイヤロープの防錆剤圧入方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のワイヤロープの防錆剤圧入方法は、吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部の内部に、前記ソケットを利用して防錆剤を圧入する方法であって、前記ワイヤロープの周面を被覆するものであってかつ少なくとも一部を開口させた周面用パッキンを前記防錆処理対象部に装着する装着工程と、前記ソケットの上に底部パッキンを配設する底部パッキン配設工程と、断面が半円の2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とされる覆体を用い、前記ソケットの上に前記底部パッキンを介して前記覆体を載せ、かつ前記覆体で前記周面用パッキンを前記防錆処理対象部に押圧する状態に前記周面用パッキンを覆う被覆工程と、前記覆体の下端部を前記ソケットに上方から下方に向けて押し付ける状態にするとともにその状態を保持する押付保持工程と、前記覆体の下端部を前記ソケットに押し付ける状態を保持して、前記周面用パッキンの開口した部分に対応させて前記覆体に設けられた注入口から前記覆体の内部に防錆剤を注入し、前記防錆処理対象部に前記防錆剤を圧入する圧入工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、前記周面用パッキンとして、下側パッキン及び上側パッキンを用い、前記下側パッキンで前記注入口よりも下側であって前記ソケット直上の前記防錆処理対象部の下部領域を覆い、前記上側パッキンで前記注入口よりも上側であって前記防錆処理対象部の上部領域を覆うことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、前記被覆工程は、前記突き合わせ面どうしの間に突き合わせ面パッキンを、その突き合わせ面パッキンの下端部が前記下側パッキンに、前記突き合わせ面パッキンの上端部が前記上側パッキンに重なるように配設することを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、前記覆体は、互いに分断された前記覆体の下端部材とその上側の覆体主部とを有し、前記覆体の下端部材を前記覆体主部に対して摺動可能にかつ両者間をシール状態にして嵌合させることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、前記覆体の下端部材を前記覆体主部に対して押圧手段により下方に押圧させることを特徴とする。
【0013】
本発明のワイヤロープの防錆剤圧入装置は、吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部の内部に、前記ソケットを利用して防錆剤を圧入する装置であって、前記防錆処理対象部の周面を被覆するように装着され、少なくとも一部を開口させた周面用パッキンと、断面が半円の2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とされるもので、前記ソケットの上に載せ、かつ前記周面用パッキンを前記防錆処理対象部に押圧する状態に覆う覆体と、前記2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とする締め付け手段と、前記ソケットと前記覆体との間に設けられる底部パッキンと、前記覆体の下端部を前記ソケットに上方から下方に向けて押し付ける押圧手段と、前記覆体の前記周面用パッキンの開口した部分に対応させて予め設けられた注入口から前記覆体の内部に防錆剤を注入し、前記防錆処理対象部に前記防錆剤を圧入する圧入手段とを具備することを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、前記周面用パッキンは、前記ソケット直上の前記防錆処理対象部の下部領域を覆う下側パッキンと、前記下部領域から適長離隔した前記防錆処理対象部の上部領域を覆う上側パッキンとを有し、前記下側パッキン、前記上側パッキン及び前記底部パッキンが、前記ワイヤロープに嵌合する嵌合孔を有することを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、請求項7に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、前記ワイヤロープが複数のストランドを螺旋状に捩れた形状に撚り合わされたもので、前記下側パッキン、前記上側パッキン及び前記底部パッキンが、前記ワイヤロープの周面に密着し得るように、内周面に前記ストランドに応じた螺旋状の溝を有することを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明は、請求項6乃至8のいずれか1つに記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、前記覆体は、覆体の下端部材と、その上側の覆体主部とを有し、前記覆体主部は軸方向に複数に分断されていて、その分断された複数のものが前記ワイヤロープに沿って積み重ねられる構成となっていることを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明は、請求項9に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、前記覆体主部を構成し軸方向に複数に分断されているものの1つで、前記下側パッキンの上部と前記上側パッキンの下部とが前記防錆処理対象部に押圧されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明方法による場合には、ワイヤロープの下端部の防錆処理対象部に周面用パッキンを装着し、これと前後してソケットの上に底部パッキンを配設し、その後ソケットの上に前記底部パッキンを介して覆体を載せるとともに周面用パッキンを防錆処理対象部に押圧する状態に覆体で覆い、次に覆体の下端部をソケットに上方から下方に向けて押し付けることで底部パッキンを押圧した状態に保持し、その状態を保持して周面用パッキンの開口部分に対応する位置に設けられた注入口から覆体内に防錆剤を注入し、ワイヤロープの内部を主たる通路として防錆処理対象部に防錆剤を圧入する。すると、防錆処理対象部の内部に防錆剤を充填させることができる。
【0019】
請求項2の発明による場合には、一体の周面用パッキンを用いる場合よりも、下側パッキンと上側パッキンとに分かれた周面用パッキンを用いる場合の方が、各パッキンが短くかつ軽くなるので、取り扱い性に優れる。
【0020】
請求項3の発明による場合には、覆体の各突き合わせ面どうしの間に配設した突き合わせ面パッキンの上端部が上側パッキンに重なり、突き合わせ面パッキンの下端部が下側パッキンに重なるので、上側パッキンから底部パッキンまでの密閉状態を向上させ得る。但し、注入口と上側パッキンよりも上側は非密閉状態となっている。
【0021】
請求項4の発明による場合には、覆体を、下端部材とその上側の覆体主部とで構成すると、覆体主部をワイヤロープに周面用パッキンを介して強固に固定しても、覆体の一部である下端部材を比較的容易にソケットに押し付けることが可能になる。このとき、下端部材が覆体主部に対して摺動可能である必要性があるとともに両者間をシール状態にして嵌合させる必要性があるが、これらを充足し得ることとなる。
【0022】
請求項5の発明による場合には、押圧手段が下端部材を覆体主部に対して下方に押圧させるので、底部パッキンからの防錆剤の漏れを防止することができる。
【0023】
本発明装置による場合には、ワイヤロープの下端部の防錆処理対象部に周面用パッキンを装着し、かつソケットの上に底部パッキンを配設し、ソケットの上に前記底部パッキンを介して覆体を載せるとともに周面用パッキンを防錆処理対象部に押圧する状態に覆体で覆い、覆体の下端部をソケットに上方から下方に向けて押し付けることで底部パッキンを押圧した状態に保持し、その状態を保持して周面用パッキンの開口部分に対応する位置に設けられた注入口から覆体内に防錆剤を注入し、ワイヤロープの内部を主たる通路として防錆処理対象部に防錆剤を圧入する。すると、防錆処理対象部の内部に防錆剤を充填させることができる。
【0024】
請求項7の発明による場合には、防錆処理対象部の周面と底面とを、下側パッキン、上側パッキン及び底部パッキンにより、一部を除いて隙間無く覆うことができる。
【0025】
請求項8の発明による場合には、ワイヤロープが複数のストランドを螺旋状に捩れた形状に撚り合わされたものであっても、防錆処理対象部の周面と底面とをパッキンで隙間無く覆うことができる。
【0026】
請求項9の発明による場合には、覆体が、下端部材と、複数に分断された覆体主部とで構成されているため、各部品の重量を軽量化することが可能となり、これにより覆体の全体を一度に運ぶことは困難であっても、個々の部品を1つずつ運ぶことが可能となる。そして、防錆剤圧入に際して、各部品をワイヤロープに沿って積み重ねれば、覆体が組立てられる。
【0027】
請求項10の発明による場合には、この構成により覆体主部を軸方向に複数に分断しても、防錆剤の漏れが発生する隙間の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイヤロープの防錆剤圧入装置を示す正面図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】防錆剤圧入装置を示す正面断面図である。
【図4】第2ブロックの底面図である。
【図5】ワイヤロープの断面図である。
【図6】上側パッキンと下側パッキンの平面図である。
【図7】底部パッキンの平面図である。
【図8】ワイヤロープの下端部を示す正面図である。
【図9】(a)は支圧プレートの平面図、(b)はロックプレートの平面図、(c)は調整プレートの平面図である。
【図10】吊り橋を示す正面図である。
【図11】吊り橋のケーブルから主桁までの一部を示す正面図である。
【図12】図11の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0030】
図1は本発明の一実施形態に係るワイヤロープの防錆剤圧入装置を示す正面図で、図2は図1の右側面図で、図3は防錆剤圧入装置を示す正面断面図である。なお、図11及び図12と同一部分には同一番号を付している。
【0031】
この防錆剤圧入装置10は、鉛直方向に延びたワイヤロープ102の下端部に取り付けたソケット108の直ぐ上側のワイヤロープ102部分である防錆処理対象部5に防錆剤を圧入する装置である。防錆処理対象部5は、本実施形態では下側水平部105よりも下側から上側水平部104よりも上側までの領域である(図11参照)。
【0032】
防錆剤圧入装置10の具体的な構成としては、防錆処理対象部5に装着される周面用パッキン12と、ソケット108の上に載せかつ周面用パッキン12を防錆処理対象部5に押圧する状態で周面用パッキン12を覆うための覆体14と、ソケット108と覆体14との間に設けられる底部パッキン16と、覆体14の下端部14aをソケット108に上方から下方に向けて押し付ける押圧手段18と、覆体14に予め設けられた注入口20から覆体14の内部に防錆剤を注入し、防錆処理対象部5に防錆剤を圧入する圧入手段22とを具備する。
【0033】
周面用パッキン12は、本実施形態では下側パッキン24と上側パッキン26とを有する。下側パッキン24はソケット108の直上から注入口20よりも下側までであって防錆処理対象部5の下部領域の周面を覆い、一方、上側パッキン26は注入口20よりも上側であって防錆処理対象部5の上部領域の周面を覆う。なお、周面用パッキン12としては、下側パッキン24と上側パッキン26の2つを用いる必要性は必ずしもなく、一体的なものを用いてもよい。但し、一体的な周面用パッキンを用いる場合には、少なくとも注入口20に対応する部分を開口させたものを用いる必要がある。また、上側パッキン26は、後述する第3ブロック33よりも上方位置で上下2つに分断された分断パッキン26d、26eを用いることもある(図3参照)。
【0034】
覆体14は、全体として筒状のもので、その軸方向に4つのブロックに分かれていて、覆体14の下端部材としての第1ブロック31、その上の第2ブロック32、第2ブロック32の上の第3ブロック33、第3ブロック33の上の第4ブロック34を備える。ここで、第2ブロック32から第4ブロック34までの3つを覆体14の主部という。
【0035】
上記第1ブロック31は、共に断面が半円の2つの半割部材31a、31bの突き合わせ面31cどうしを突き合わせて、締め付け手段としてのボルト35により締め付けることで筒状とされる。なお、この第1ブロック31には、エア抜き口31dが設けられている。
【0036】
第2ブロック32は、共に断面が半円の2つの半割部材32a、32bの突き合わせ面32cどうしを突き合わせて、締め付け手段としてのボルト35により締め付けることで筒状とされる。この第2ブロック32の突き合わせ面32cどうしの間には、縦長の突き合わせ面パッキン36が配設される。
【0037】
第3ブロック33は、共に断面が半円の2つの半割部材33a、33bの突き合わせ面33cどうしを突き合わせて、締め付け手段としてのボルト35により締め付けることで筒状とされる。第4ブロック34は、共に断面が半円の2つの半割部材34a、34bの突き合わせ面34cどうしを突き合わせて、締め付け手段としてのボルト35により締め付けることで筒状とされる。
【0038】
上記第1ブロック31は、ソケット108の上に底部パッキン37を介して載せられる。第1ブロック31は、内周側に、上方に円筒状に突出した案内部31eを有し(図3参照)、この第1ブロック31の上に、第2ブロック32が載せられる。第2ブロック32は、案内部31eが内側に入る円筒状の被案内部32eが下側へ突出するように形成されていて(図3参照)、第2ブロック32は被案内部32eの内側に案内部31eを入れて載せられる。つまり、覆体14の下端部材としての第1ブロック31は、その上の第2ブロック32に対して上下方向に摺動可能となっている。上記案内部31eの外周面には、Oリング38が設けられていて、案内部31eの外周面と被案内部32eの内周面との間をシール状態に保持されるようになっている。この第2ブロック32の上には第3ブロック33が、第3ブロック33の上には第4ブロック34がそれぞれ載せられる。
【0039】
上記第1ブロック31は、ボルト35による締め付けで下側パッキン24を防錆処理対象部5の周面に押圧する。また、第2ブロック32は、その下端部32fで下側パッキン24を防錆処理対象部5の周面に押圧し、第2ブロック32の上端部32gで上側パッキン26を防錆処理対象部5の周面に押圧する。また、第2ブロック32の突き合わせ面32cに設けた突き合わせ面パッキン36の下端部36aは下側パッキン24に重なり、一方突き合わせ面パッキン36の上端部36bは上側パッキン26に重なる。
【0040】
上記第3ブロック33及び第4ブロック34は、共にボルト35による締め付けで上側パッキン26を防錆処理対象部5の周面に押圧する。上側パッキン26の上端は、図示例では第4ブロック34の上端とほぼ同じ高さ位置となっているが、異なる高さに設定してもよい。
【0041】
上記第2ブロック32には、図4(底面図)に示すように、油圧シリンダ40が周方向に複数、図示例では4つ設けられており、これら油圧シリンダ40のシリンダロッド40aは上下方向にスライドするようになっている。また、第2ブロック32には、例えば油圧手動ポンプ42が取り付けられ、この油圧手動ポンプ42と上記油圧シリンダ40とは、第1ブロック31を下方へ押圧するための前記押圧手段18として機能し、油圧手動ポンプ42により油圧シリンダ40を駆動させてシリンダロッド40aで第1ブロック31を下方へ押圧するようになっている。このとき、覆体14の主部32〜34は、ボルト35による締め付けで下側パッキン24及び上側パッキン26を防錆処理対象部5の周面に押圧しているので、上記油圧シリンダ40の駆動で第1ブロック31を下方へ押圧することが可能となっている。そして、この下方への押圧に伴い、底部パッキン37が第1ブロック31によりソケット108に押し付けられ、底部パッキン37がシール状態にされる。
【0042】
上記注入口20は、覆体14の高さ方向中央部よりも下側の位置に設けられていて、図示の例では第2ブロック32に設けられている。この注入口20には、前記防錆処理対象部5に防錆剤を圧入する圧入手段22として、例えば電動ポンプ44が接続されている。電動ポンプ44(22)の作動により、注入口20から覆体14の内部であって、下側パッキン24及び上側パッキン26の内側、つまり防錆処理対象部5の内部を主たる通路として防錆剤が圧入していき、ワイヤロープ102の下端部である防錆処理対象部5の内部に防錆剤が充填される。
【0043】
上記防錆剤としては、例えばグリースや錆止め剤、或いは塗料などが用いられる。
【0044】
ワイヤロープ102は、図5(断面図)に示すように、複数(図示例では7つ)のストランド102aを螺旋状に捩れた形状に撚り合わされたものであり、各ストランド102aの間に空洞102bを有する。本発明は、前記空洞102bを前記防錆剤の通路として用いている。下側パッキン24と上側パッキン26は、図6(平面図)に示すように半径方向の1つの分断線24a、26aを有し、中央部にはワイヤロープ102の周面に嵌合する嵌合孔24b、26bが形成されている。分断線24a、26aは、ワイヤロープ102の側方からワイヤロープ102に下側パッキン24と上側パッキン26を取り付けるために設けられている。また、上記嵌合孔24b、26bは、各ストランド102aに応じた螺旋状の溝24c、26cを有する。
【0045】
底部パッキン37は、図7(平面図)に示すように半径方向の1つの分断線37aを有し、中央部にはワイヤロープ102の周面に嵌合する嵌合孔37bが形成されている。分断線37aは、ワイヤロープ102の側方からワイヤロープ102に底部パッキン37を取り付けるために設けられている。また、上記嵌合孔37bは、各ストランド102aに応じた螺旋状の溝37cを有する。
【0046】
次に、このように構成される本実施形態のワイヤロープの防錆剤圧入装置による防錆剤圧入方法を説明する。
【0047】
まず、準備作業を行う。即ち、図8に示すように、吊り橋の主桁を構成する上下2つの水平部、例えば上側水平板(図示せず)及び下側水平板105のうち、下側水平板105と上端面108aが平坦なソケット108との間に設けられた支圧プレート51、ロックプレート52及び調整プレート53を取り外す。
【0048】
図9(a)は支圧プレート51の平面図、同(b)はロックプレート52の平面図、同(c)は調整プレート53の平面図である。支圧プレート51、ロックプレート52及び調整プレート53は、支圧プレート51の四隅に設けられるボルト54を取り外すことで、水平方向にスライドさせることで取り外し得る。
【0049】
次に、底部パッキン配設工程を実行する。即ち、ソケット108の平坦な上端面108aの上に底部パッキン37を載せる。
【0050】
次に、装着工程を実行する。つまり、底部パッキン37の上であって防錆処理対象部5の下端領域に下側パッキン24を装着し、下側パッキン24の上方の所定位置に上側パッキン26を装着する。この装着工程は、前記底部パッキン配設工程よりも先に行ってもよい。
【0051】
次に、被覆工程を行う。つまり、防錆処理対象部5の側方から覆体14の下端部としての第1ブロック31を、案内部31aが上側に位置するように取り付ける。この取り付けは、ボルト35による締め付けで下側パッキン24を防錆処理対象部5の周面に押圧するように行う。続いて、第1ブロック31の上のワイヤロープ102に第2ブロック32を取り付ける。この取り付けは、突き合わせ面32cどうしの間に突き合わせ面パッキン36を配設し、更に被案内部32aの内側に案内部31aを入れた状態でボルト35を締め付けることで行われる。これに伴い、下側パッキン24及び上側パッキン26を防錆処理対象部5の周面に押圧し、かつ突き合わせ面パッキン36の上端部が上側パッキン26に重なり、突き合わせ面パッキン36の下端部が下側パッキン24に重なる。続いて、第2ブロック32の上のワイヤロープ102に第3ブロック33、第4ブロック34を順次取り付ける。これらの取り付けも、上側パッキン26を防錆処理対象部5の周面に押圧する状態に行われる。これにより被覆工程が終了する。
【0052】
次に、押付保持工程を実行する。即ち、第2ブロック32に油圧手動ポンプ42を取り付け、この油圧手動ポンプ42により油圧シリンダ40を駆動させてシリンダロッド40aで第1ブロック31を下方へ押付ける。この押圧は、後述する防錆剤の圧入が完了するまで保持する。なお、油圧手動ポンプ42は、予め第2ブロック32に取り付けた一体化状態に形成していてもよい。
【0053】
次に、圧入工程を実行する。つまり、注入口20に圧入手段22としての電動ポンプ44を接続し、注入口20から防錆剤を注入して、防錆処理対象部5の内部に防錆剤を圧入する。この防錆剤の圧入に際し、前記エア抜き口31dや、上側パッキン26の上端よりも上側に露出したワイヤロープ102の隙間(主として前記空洞102b)からエアが除去されるので、防錆処理対象部5の上端及び下端まで防錆剤の圧入を容易に行うことが可能となる。また、上述したように注入口20が覆体14の高さ方向中央部よりも下側の位置に、つまりソケット108側に寄った位置に設けられているので、錆等が溜まり易いソケット部分にまで防錆剤を容易に充填することが可能となり、その結果として錆等を溜まり難くすることができ、ワイヤロープ102の寿命をより長くすることが可能になる。
【0054】
防錆剤圧入の圧力は、0.5〜1.7MPaが好ましい。その理由は、防錆剤の種類や粘性度、粘性度に影響を及ぼす外気温、ワイヤロープ102の内部の状況などにより異なるものの、防錆処理対象部5の内部への圧入を可能とするためであり、0.5MPa未満の場合には防錆処理対象部5の下端や上端にまで防錆剤を圧入させることができず、逆に1.7MPaよりも高い場合には突き合わせ面パッキン36や底部パッキン37から防錆剤が漏れ出す虞があるからである。
【0055】
上記圧入工程は、防錆剤が上側パッキン26(または第4ブロック34)の上端を越えて、所定高さ分だけ高くなると、防錆剤の圧入を停止することを含む。また、防錆剤に固化時間を要する場合には、その固化時間を経過するまで圧入停止状態を維持することになるが、その維持することも、上記圧入工程に含まれる。更に、上記圧入工程は、上述した分断パッキン26d、26eのうち、下側の分断パッキン26eを前記装着工程において装着するとともにその分断パッキン26eを前記被覆工程において第3ブロック33で被覆しておき、残りの上側の分断パッキン26dをこの圧入工程において分断パッキン26eの上側に装着し、続いて第4ブロック34で分断パッキン26dを被覆することを含む。このようにした場合は、下側の分断パッキン26eを少し越えるまで防錆剤を圧入させることにより防錆剤の上昇位置の確認をより低い位置で行い得、その後における上側の分断パッキン26dよりも少し上の位置まで、つまり防錆処理対象部5の上端までの防錆剤の圧入状況の把握を容易にすることが可能になる。また、覆体14の全長は防錆処理対象部5よりも若干短い寸法に設定していても、防錆処理対象部5の全範囲を処理することが可能である。
【0056】
その後、次の準備作業を行う。つまり、次のワイヤロープ102の防錆処理対象部5に防錆剤を圧入するために、覆体14や各種パッキン24、26、36、37などを取外す。なお、本実施形態では、覆体14を4つのブロック31〜34に分割しているが、これは持ち運びを容易にするためであり、持ち運び性と組立性とを考慮して2つ又は3つ、或いは5つ以上に分割してもよい。
【0057】
そして、以上の工程を繰り返すことにより、吊り橋100のケーブル101に吊り下げられた全ワイヤロープ102の防錆処理対象部5に対し防錆剤を充填する。
【0058】
したがって、本実施形態による場合には、ワイヤロープ102の下端部の防錆処理対象部5に周面用パッキン12(上側パッキン26と下側パッキン24)を装着し、これと前後してソケット108の上に底部パッキン37を配設し、その後ソケット108の上に前記底部パッキン37を介して覆体14を載せるとともに周面用パッキン12を防錆処理対象部5に押圧する状態に覆体14で覆い、次に覆体14の下端部14aをソケット108に上方から下方に向けて押し付けることで底部パッキン37を押圧した状態に保持し、その状態を保持して周面用パッキン12の開口部分に対応する位置に設けられた注入口20から覆体14内に防錆剤を注入し、ワイヤロープ102の内部を主たる通路として防錆処理対象部5に防錆剤を圧入する。すると、防錆処理対象部5の内部に防錆剤を充填させることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態では覆体14の各ブロック31等を構成する半割部材31a等、31b等における、周方向2箇所の突き合わせ面31c等どうしを、ボルト35により締め付ける構成としているが、本発明はこれに限らず、一方の突き合わせ面31cの箇所をヒンジ等で開閉可能な連結構造としてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では複数のストランド102aを螺旋状に捩れた形状に撚り合わされたワイヤロープ102を対象として防錆剤の圧入を実行しているが、本発明はこれに限らず、内部に圧入を可能とする空洞を有するワイヤロープ一般(例えばスパイラルロープなど)にも適用することができる。
【0061】
更に、本発明は、上述した上下2つの水平部(上側水平板と下側水平板)の間に2つの垂直片が設けられた構成をした主桁を備える吊り橋に限らず、上下2つの水平部の間に1または3以上の垂直片が設けられた主桁を備える吊り橋などにも適用することができる。要は、前述の非特許文献1に示されるような装置を用いた方法では防錆剤を貯留した槽をワイヤロープに沿って移動させることができない箇所であっても、本発明は防錆処理対象部とすることができ、その防錆処理対象部の内部に防錆剤を圧入することができる。
【符号の説明】
【0062】
5 防錆処理対象部
10 防錆剤圧入装置
12 周面用パッキン
14 覆体
14a 下端部
16 底部パッキン
18 押圧手段
20 注入口
22 圧入手段
24 下側パッキン
26 上側パッキン
24b、26b、37b 嵌合孔
24c、26c、37c 螺旋状の溝
31 第1ブロック(下端部材)
32 第2ブロック(主部)
33 第3ブロック(主部)
34 第4ブロック(主部)
31a、31b、32a、32b、33a、33b、34a、34b 半割部材
31c、32c、33c、34c 突き合わせ面
35 ボルト(締め付け手段)
36 突き合わせ面パッキン
37 底部パッキン
40 油圧シリンダ(押圧手段)
42 油圧手動ポンプ(押圧手段)
44 電動ポンプ(圧入手段)
102 ワイヤロープ
102a ストランド
108 ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部の内部に、前記ソケットを利用して防錆剤を圧入する方法であって、
前記ワイヤロープの周面を被覆するものであってかつ少なくとも一部を開口させた周面用パッキンを前記防錆処理対象部に装着する装着工程と、
前記ソケットの上に底部パッキンを配設する底部パッキン配設工程と、
断面が半円の2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とされる覆体を用い、前記ソケットの上に前記底部パッキンを介して前記覆体を載せ、かつ前記覆体で前記周面用パッキンを前記防錆処理対象部に押圧する状態に前記周面用パッキンを覆う被覆工程と、
前記覆体の下端部を前記ソケットに上方から下方に向けて押し付ける状態にするとともにその状態を保持する押付保持工程と、
前記覆体の下端部を前記ソケットに押し付ける状態を保持して、前記周面用パッキンの開口した部分に対応させて前記覆体に設けられた注入口から前記覆体の内部に防錆剤を注入し、前記防錆処理対象部に前記防錆剤を圧入する圧入工程とを含むことを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入方法。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、
前記周面用パッキンとして、下側パッキン及び上側パッキンを用い、前記下側パッキンで前記注入口よりも下側であって前記ソケット直上の前記防錆処理対象部の下部領域を覆い、前記上側パッキンで前記注入口よりも上側であって前記防錆処理対象部の上部領域を覆うことを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入方法。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、
前記被覆工程は、前記突き合わせ面どうしの間に突き合わせ面パッキンを、その突き合わせ面パッキンの下端部が前記下側パッキンに、前記突き合わせ面パッキンの上端部が前記上側パッキンに重なるように配設することを含むことを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、
前記覆体は、互いに分断された前記覆体の下端部材とその上側の覆体主部とを有し、前記覆体の下端部材を前記覆体主部に対して摺動可能にかつ両者間をシール状態にして嵌合させることを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入方法。
【請求項5】
請求項4に記載のワイヤロープの防錆剤圧入方法において、
前記覆体の下端部材を前記覆体主部に対して押圧手段により下方に押圧させることを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入方法。
【請求項6】
吊り橋の主桁を吊り下げるワイヤロープの下端部に設けられたソケットの上側の防錆処理対象部の内部に、前記ソケットを利用して防錆剤を圧入する装置であって、
前記防錆処理対象部の周面を被覆するように装着され、少なくとも一部を開口させた周面用パッキンと、
断面が半円の2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とされるもので、前記ソケットの上に載せ、かつ前記周面用パッキンを前記防錆処理対象部に押圧する状態に覆う覆体と、
前記2つの半割部材の突き合わせ面どうしを突き合わせて筒状とする締め付け手段と、
前記ソケットと前記覆体との間に設けられる底部パッキンと、
前記覆体の下端部を前記ソケットに上方から下方に向けて押し付ける押圧手段と、
前記覆体の前記周面用パッキンの開口した部分に対応させて予め設けられた注入口から前記覆体の内部に防錆剤を注入し、前記防錆処理対象部に前記防錆剤を圧入する圧入手段とを具備することを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入装置。
【請求項7】
請求項6に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、
前記周面用パッキンは、前記ソケット直上の前記防錆処理対象部の下部領域を覆う下側パッキンと、前記下部領域から適長離隔した前記防錆処理対象部の上部領域を覆う上側パッキンとを有し、前記下側パッキン、前記上側パッキン及び前記底部パッキンが、前記ワイヤロープに嵌合する嵌合孔を有することを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入装置。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、
前記ワイヤロープが複数のストランドを螺旋状に捩れた形状に撚り合わされたもので、前記下側パッキン、前記上側パッキン及び前記底部パッキンが、前記ワイヤロープの周面に密着し得るように、内周面に前記ストランドに応じた螺旋状の溝を有することを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1つに記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、
前記覆体は、覆体の下端部材と、その上側の覆体主部とを有し、前記覆体主部は軸方向に複数に分断されていて、その分断された複数のものが前記ワイヤロープに沿って積み重ねられる構成となっていることを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入装置。
【請求項10】
請求項9に記載のワイヤロープの防錆剤圧入装置において、
前記覆体主部を構成し軸方向に複数に分断されているものの1つで、前記下側パッキンの上部と前記上側パッキンの下部とが前記防錆処理対象部に押圧されることを特徴とするワイヤロープの防錆剤圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−270449(P2010−270449A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120877(P2009−120877)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(505440631)本州四国連絡高速道路株式会社 (6)
【出願人】(592185585)株式会社ブリッジ・エンジニアリング (7)
【出願人】(000220642)東京電設サービス株式会社 (21)
【Fターム(参考)】