説明

ワイヤーハーネスの製造方法、及びワイヤーハーネス

【課題】封止部の気密性が高く、防水性に優れるワイヤーハーネスの製造方法の提供。
【解決手段】導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられ、各露出導体同士が束ねられ接合された露出束部7と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた被覆束部8と、前記露出束部7と、被覆束部8の端部とを閉じ込める封止部3と、を備えるワイヤーハーネスの製造方法であって、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む第一組成物液を、前記露出束部と、被覆束部の端部に付与して内層31を形成する内層形成工程と、光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む第二組成物液を、前記内層31上に付与して外層32を形成する外層形成工程と、前記内層31及び前記外層32からなる封止部3に光を照射し、該封止部を光硬化させる光照射工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水等の目的でスプライス部が樹脂で封止されたワイヤーハーネスの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等には、ワイヤーハーネスが配索されている。この種のワイヤーハーネスは、導体を絶縁層で覆った複数本の電線の束からなり、各電線同士を電気的に接続したスプライス部を有する。このスプライス部は、各電線の絶縁層を剥いで露出させた導体同士を、溶接、半田付け、圧着等により接合して形成される。
【0003】
前記スプライス部等の露出した導体からなる部分は、そのままの状態であると、漏電、水の接触による腐食等の虞がある。そのため、このスプライス部等には、漏電防止、防水(止水)等の目的で樹脂からなる封止部が形成される。
【0004】
なお、スプライス部以外の各電線の露出した導体からなる個所は、導体が束状になっており、細い隙間を有する。そのため、封止部を形成する場合には、このような隙間にも樹脂を確実に充填させる必要がある。
【0005】
前記封止部は、スプライス部等の露出した導体からなる部分と共に、このスプライス部等と隣接する絶縁層で覆われた束状の電線の端部にも形成する必要がある。特に、各電線間には長手方向に沿った隙間が存在しているため、この隙間が充填されるように封止部を形成する必要がある。この電線間の隙間が封止部によって塞がれていないと、電線束の他端等から侵入した水がこの隙間を伝ってスプライス部等まで達する虞がある。
【0006】
この種のワイヤーハーネスは、エンジンルーム等の水と接触し易い個所に配索される場合がある。このような場合、特に、前記電線間の隙間等を確実に充填する封止部が求められる。
【0007】
特許文献1は、ワイヤーハーネスのスプライス部等を、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂で封止する技術を開示する。特許文献1の熱硬化性樹脂は、硬化の進行が比較的遅い温度範囲で加熱される。そのため、硬化による急激な粘度上昇が抑制される。この特許文献1に記載の技術によれば、束状の電線間の隙間、束状の露出した導体間等の狭小な隙間にも樹脂を充分、浸透させることができる。
【0008】
特許文献2は、ワイヤーハーネスのスプライス部等を、光硬化型樹脂で封止する技術を開示する。特許文献2では、ワイヤーハーネスのスプライス部等を光硬化型樹脂液中に浸漬し、その後、スプライス部等を引き上げ、スプライス部等に付着した光硬化型樹脂液を、光(紫外線)を照射して硬化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−317470号公報
【特許文献2】特開2005−347167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の技術では、急激な粘度上昇を抑制するため、加熱温度が低く設定されている。そのため、硬化時間が長くなり、封止部の形成に時間がかかるという問題がある。また、熱硬化性樹脂は、主剤と硬化剤の2液を適切に混合することが求められる。そのため正確に液を計量、注入、塗布等できる設備を整える必要があり、コストが高くなるという問題がある。
【0011】
特許文献2に記載の技術のように、封止部に光硬化性樹脂を利用した場合、条件によっては、硬化時間を非常に短くできる(例えば、数秒)。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、ワイヤーハーネスの束状の電線間の隙間、露出した束状の導体部分の隙間等を確実に樹脂で封止できないという問題がある。なぜならば、これらの隙間には、光硬化性樹脂を硬化させるための光が届かず、これらの個所の光硬化性樹脂を充分、硬化できないからである。つまり、特許文献2に記載の技術によっては、隙間に充分樹脂が充填された封止部を形成することができない。
【0012】
また、今日では、より気密性の高い封止部を形成することが求められている。具体的には、従来、問題視されていなかった各電線の導体(撚線)と絶縁層との間に存在するごく僅かな隙間をも充填できる封止部の提供が望まれている。このようなごく僅かな隙間をも充填する封止部を、短時間でスプライス部に形成できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るワイヤーハーネスの製造方法は、導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスの製造方法であって、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む第一組成物液を、前記電線束の前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部に付与して内層を形成する内層形成工程と、光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む第二組成物液を、前記内層上に付与して外層を形成する外層形成工程と、前記内層及び前記外層からなる封止部に光を照射し、該封止部を光硬化させる光照射工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、透明容器内に、上層が第一組成物液、下層が第二組成物液となるようにそれぞれの組成物液を入れ、その二層からなる組成物液の上面から、露出束部と隣接する被覆束部の端部が漬かるまで電線束を該組成物液に入れて、該露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とに、順次、内層及び外層を形成することにより内層形成工程及び外層形成工程を行い、前記透明容器の外側から光を照射することにより光照射工程を行う、ことが好ましい。このようにすると、ワイヤーハーネスの生産性が向上する。
【0015】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、第一組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマーと、チオール化合物とを含み、第二組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとを含むことが好ましい。
【0016】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、第一組成物液の粘度が、10mP・s〜1000mP・sであり、第二組成物液の粘度が、10mP・s〜1000mP・sであることが好ましい。
【0017】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、光照射工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0018】
前記ワイヤーハーネスの製造方法は、外層形成工程において、透明容器内の第二組成物液内に、内層が形成された電線束を浸漬して、該内層上に外層を形成し、光照射工程において、前記透明容器の電線束の外層に向けて、該透明容器の外側から光を照射してもよい。
【0019】
本発明に係るワイヤーハーネスは、導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込め、光硬化した樹脂からなる封止部と、を備えるワイヤーハーネスであって、前記封止部が、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを覆う内層と、この内層を包む外層と、を有し、前記内層がレドックス重合により硬化した樹脂を含むことを特徴とする。
【0020】
前記ワイヤーハーネスにおいて、内層が、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む第一組成物液の硬化物からなり、外層が、光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む第二組成物液の硬化物からなることが好ましい。
【0021】
前記ワイヤーハーネスにおいて、第一組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマーと、チオール化合物とを含み、第二組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとを含むことが好ましい。
【0022】
前記ワイヤーハーネスにおいて、内層の密着力が、100N/m以上であることが好ましい。
【0023】
前記ワイヤーハーネスにおいて、外層の硬化度が90%以上であり、前記内層の硬化度が90%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法によれば、光が届かず光硬化できない封止部の個所も、レドックス重合によって硬化されるため、気密性の高い封止部を備えたワイヤーハーネスを提供できる。
【0025】
本発明のワイヤーハーネスは、封止部の気密性が高く、防水性(止水性)に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】端末にスプライス部を有する電線束の概略を示す説明である。
【図2】一実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。
【図3】一実施形態に係るワイヤーハーネスの概略を示す説明図である。
【図4】図3で示されるワイヤーハーネスのA−A'直線における断面を示す説明図である。
【図5】他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。
【図6】中間部分にスプライス部を有する電線束の概略を示す説明図である。
【図7】他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。
【図8】他の実施形態に係るワイヤーハーネスの概略を示す説明図である。
【図9】ワイヤーハーネスの止水性能試験の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
〔ワイヤーハーネスの製造方法〕
(第1実施形態)
本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法は、電線束に封止部を形成してなるワイヤーハーネスを製造する方法である。先ず、本実施形態で封止部が形成される電線束について説明する。
【0029】
図1は、電線束の概略を示す説明図である。図1に示されるように、電線束2は、複数本の絶縁電線4の束からなり、公知のものから適宜選択できる。絶縁電線4は、線状の導体5と、該導体5の表面を被覆する絶縁層6とからなる。導体5は、銅等の導電性材料からなり、絶縁層6は、ポリ塩化ビニル等の絶縁性材料からなる。
【0030】
電線束2の各絶縁電線4の端末部分は、導体5が絶縁層6で覆われておらず、露出している。つまり、端末部分の導体5が露出するように、絶縁層6が導体5の表面に形成されている。
【0031】
本明細書において、電線束2の各絶縁電線4の露出した導体5(露出導体)からなる個所を露出束部7と称し、各絶縁電線4の絶縁層6で被覆された導体5(被覆導体)からなる個所を被覆束部8と称する。
【0032】
前記露出束部7は、各絶縁電線4の露出した導体5の端末同士が接合されたスプライス部9を有する。このスプライス部9において、電線束2の絶縁電線4同士が互いに電気的に接続される。スプライス部9は、圧着(溶融圧着)、溶接等の公知の接合方法によって接合され、形成される。
【0033】
前記露出束部7のうち、スプライス部9以外の個所は、各絶縁電線4から露出した導体5が束状になっている。この束状の導体5間には、隙間が存在している。
【0034】
前記被覆束部8には、絶縁電線4間に形成される隙間が存在している。この隙間は、前記露出束部7の導体5間の隙間と、繋がっている。
【0035】
本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法では、前記電線束2の露出束部7、及びこの露出束部7と隣接する被覆束部8の端部に、樹脂からなる封止部を形成する。本実施形態において形成される封止部は、前記露出束部7と、該露出束部7と隣接する被覆束部8の端部とを共に閉じ込める内層と、該内層を包む外層とからなる。
【0036】
図2は、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。図2に示されるように、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、内層形成工程(a)、外層形成工程(b)、及び光照射工程(c)を有する。
【0037】
<内層形成工程>
内層形成工程は、電線束2の露出束部7及び露出束部7と隣接する被覆束部8に、第一組成物液を付与して、内層を形成する工程である。
【0038】
第一組成物液(プライマー)は、レドックス触媒と反応してラジカルを生成する熱ラジカル重合開始剤を含み、かつレドックス重合で硬化可能な光硬化性樹脂液からなる。このような第一組成物液としては、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液がある。
【0039】
前記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、オルソベンゾイン安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン誘導体、チオキサントンとその誘導体、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイン誘導体、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、モノアシルホスフィンオキサイド、ビスアシルホスフィンオキサイド、アクリルフェニルグリオキシレート、ジエトキシアセトフェノン、チタノセン化合物等が挙げられる。光重合開始剤は、硬化速度、黄変性等等を考慮して適宜選択できる。光重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
具体的な光重合開始剤の組合せとしては、例えば、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、イルガキュア184とイルガキュア907(共にチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0040】
前記光重合開始剤の第一組成物液中における含有量は、0.5〜5質量%の範囲が好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、光が十分当たる個所であっても、光硬化できない場合があり、5質量%を超えると未反応の光重合開始剤が多く残存することがある。残存した光重合開始剤は、熱、光等により活性化して、硬化後の封止部を変色させ、物性劣化を引き起こすことがある。
【0041】
前記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド(BPO)、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキサイド等の過酸化合物が挙げられる。
【0042】
前記熱ラジカル重合開始剤の第一組成物液中における含有量は、0.5〜5質量%の範囲が好ましい。
【0043】
前記重合性化合物としては、アクリレート系化合物が、樹脂粘度、硬化速度、硬度、ヤング率、破断伸び等の調整のし易さの観点から好ましい。特に、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーとを組み合わせたものが好ましい。
【0044】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;ポリテトラメチレングリコール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート等が挙げられる。これらのオリゴマーは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記アクリレートモノマーとしては、鎖状アクリレートモノマー、及び環状アクリレートモノマーが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとは、脂環、芳香環等の環状構造を有するアクリレートモノマーのことである。前記環状アクリレートモノマーとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリンが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。前記環状アクリレートモノマーとしては、IBXA(大阪有機工業化学製)、アロニックスM−111、M−113、M−114、M−117、TO−1210(以上、東亜合成製)を使用できる。本明細書において、鎖状アクリレートモノマーとは、環状構造を含まない直鎖状又は分岐鎖状アクリレートモノマーのことである。鎖状アクリレートモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ブチル−2エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアセテート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0046】
前記アクリレート系化合物と共に、メタクリレート系化合物も使用してもよい。メタクリレート系化合物としては、例えば、ジ−2−メタクリロキシエチルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ジフェニルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ホスフェート、トリス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、及び特開平11−100414号公報においてO=P(−R1)(−R2)(−R3)として示される化合物等が挙げられる。
【0047】
なお、本発明の封止部の特性を損なわない範囲で、その他の重合性化合物を適宜、併用してもよい。
【0048】
前記重合性化合物の第一組成物液中における含有量は、第一組成物液の粘度等に応じて、適宜設定される。
【0049】
前記第一組成物液の粘度(室温条件下)は、1000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以下が更に好ましい。
【0050】
前記粘度の測定は、JIS−K7117−1Dに準拠して行う。測定装置として、B型粘度計(25℃条件下)を用いることができる。
【0051】
前記第一組成物液の接触角は、20°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。
【0052】
前記接触角は、銅・PVCからなる基材に対する接触角である。その測定は、JIS−K2396に準拠して行う。測定装置は、例えば、FACE(CA−X)(協和界面科学社製)を使用できる。
【0053】
前記第一組成物液の硬化物のヤング率は、10MPa〜1000MPaが好ましい。ヤング率がこの範囲であると、封止部の耐外傷性、ハンドリング性等がよい。また、前記ヤング率は、100MPa〜500MPaがより好ましい。ヤング率がこの範囲であると、更に、耐加圧変形性、耐摩耗性と柔軟性のバランスが良くなる。
【0054】
前記硬化物は、第一組成物液を250μmの厚みのアプリケーターバーを用いてPETフィルム上に塗布し、コンベヤー式のUV照射器によって1J/cmのUV照射を行って、硬化させて得られたフィルム状のものである。前記ヤング率の測定は、JIS−K7133に準拠して行うものである。測定装置としては、例えば、島津製作所製引張り試験機AGSを利用できる。
【0055】
また、前記第一組成物液の硬化物(内層)の密着力は、100N/m以上が好ましく、200N/m以上がより好ましい。このような密着力を達成するには、組成物液中に極性基を有するアクリレート系オリゴマー、前記環状アクリレートモノマー等の極性モノマーを配合することが好ましい。
さらに、望ましい密着力を達成するために、チオール化合物、特に多官能のチオール化合物を、第1組成物液に対して0.5質量%以上添加することが好ましい。このチオール化合物の具体例としては、Karenz MTシリーズ:BD1,NR1,PE1(昭和電工製)、SC有機化学工業製チオール:TMMP(トリメチロールプロパントリス),PEMP(ペンタエリスリトールテトラキス),DPMP(ジペンタエリスリトールヘキサキス),TEMPIC(トリス[(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート)等が挙げられる。前記チオール化合物としては、3官能以上の多官能チオールが好ましい。特にチオール化合物は、導体である金属に対する密着力を向上させるとともに、重合性組成物の硬化における硬化促進剤的な働きをするため、硬化樹脂の硬化度が増大することによるPVC電線等の電線被覆樹脂に対する密着力向上を実現できる。また、導体である金属に対しては、例えば、リン酸エステル系の化合物やキレート化合物を、密着性助剤として重合性化合物の性状を損なわない程度に添加してもよい。
【0056】
前記硬化物の密着力は、銅・PVCからなる基材上に、前記組成物液からなる樹脂を厚み500μmで形成し、これを硬化させた樹脂フィルムに対して、JIS−Z0237に準拠して90°ピール試験ないしはTピール試験を行うことにより求められる。
【0057】
また、前記第一組成物液の硬化物の破断伸び(%)は、少なくとも50%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。
【0058】
前記硬化物の破断伸び(%)の測定は、JIS−K7113に準拠して行うものである。測定装置としては、例えば、島津製作所製引っ張り試験機AGSを使用できる。
【0059】
前記組成物液には、その他、適宜、本発明の封止部の特性を損なわない範囲で、例えば、酸化防止剤、着色材、紫外線吸収剤、光安定剤、シランあるいはチタン系などのカップリング剤、消泡材、硬化促進剤、チオール化合物やリン酸エステル系などの密着性助剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、重合禁止剤、可塑剤、滑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗膜改良剤、樹脂等が添加されてもよい。
【0060】
前記第一組成物液の付与は、本実施形態においては、図2に示されるように、前記第一組成物液L1を入れた所定の容器20(例えば、PVCキャップ)内に、電線束2を、露出束部7と隣接する被覆束部8の端部まで第一組成物液に漬かるように、浸漬して行う。浸漬時間としては、露出束部7等に第一組成物液が充分、付着できる時間が確保されればよく、例えば、1〜5秒程度でよい。
【0061】
このようにして、露出束部7と、この露出束部7と隣接する被覆束部8の端部に、第一組成物液の塗膜からなる内層31が形成される。なお、他の実施形態においては、噴霧装置等を用いて第一組成物液を電線束2に吹き付けて内層31を形成してもよい。
内層31が形成された後の電線束2は、前記容器20内から引き抜かれ、次の工程に供される。
【0062】
<外層形成工程>
外層形成工程は、前記内層31上に第二組成物液L2を塗布し、外層を形成する工程である。
【0063】
第二組成物液(主剤)は、レドックス触媒を含む光硬化性樹脂液からなる。このような第二組成物液としては、光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液がある。
【0064】
前記光重合開始剤としては、前記第一組成物液で使用されるものと同様のものを使用できる。
【0065】
前記レドックス触媒としては、レドックス作用を有する金属化合物であればよく、脂肪族カルボン酸金属塩、芳香族カルボン酸金属塩、脂環式カルボン酸金属塩等のカルボン酸金属塩;金属キレート錯体等を使用できる。特に、コバルト、マンガン、スズ、バナジウム、銅からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含むとよい。
また、ナフテン酸塩類、上記金属のオクテン酸塩類、上記特定金属のリン酸エステル類、上記特定金属のアセチルアセトネート錯体等も挙げられる。例えば、エチルヘキサノエート銅(II)がある。
更には、有機化合物であるN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、インドリン、キノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、6−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、トリメチルアミン等も使用可能である。また、前記の触媒のうち芳香族アミン、若しくはヒドラジン誘導体は、サッカリンと共に共促進剤系としても使用可能である。
【0066】
前記レドックス触媒の前記第二組成物液中の含有量は、0.1〜1質量%である。
【0067】
前記重合性化合物としては、前記第一組成物で使用されるものと同様のものを使用できる。
第二組成物液に用いられる重合性化合物としては、アクリレート系化合物と、環状N−ビニルポリマーとの組合せが、樹脂粘度、硬化速度、硬度、ヤング率、破断伸び等の調整のし易さの観点から好ましい。
【0068】
前記アクリレート系化合物としては、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーとを組み合わせたものが好ましい。
【0069】
前記アクリレートモノマーとしては、鎖状アクリレートモノマー、及び環状アクリレートモノマーが挙げられる。鎖状アクリレートモノマー及び環状アクリレートモノマーとしては、それぞれ第一組成物液に使用されるものを適用できる。
【0070】
前記第二組成物液の粘度(室温条件下)は、1000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以下が更に好ましい。
【0071】
前記粘度の測定は、前記第一組成物液の粘度と同様の方法で測定できる。
【0072】
前記第二組成物液の接触角は、20°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。
【0073】
前記接触角は、銅・PVCからなる基材に対する接触角である。その測定は、JIS−K2396に準拠して行う。測定装置は、例えば、FACE(CA−X)(協和界面科学社製)を使用できる。
【0074】
前記第二組成物液の硬化物のヤング率は、10MPa〜1000MPaが好ましい。ヤング率がこの範囲であると、封止部の耐外傷性、ハンドリング性等がよい。また、前記ヤング率は、100MPa〜500MPaがより好ましい。ヤング率がこの範囲であると、更に、耐加圧変形性、耐摩耗性と柔軟性のバランスが良くなる。
【0075】
前記硬化物は、組成物液を250μmの厚みのアプリケーターバーを用いてPETフィルム上に塗布し、コンベヤー式のUV照射器によって1J/cmのUV照射を行って、硬化させて得られたフィルム状のものである。前記ヤング率の測定は、JIS−K7133に準拠して行うものである。測定装置としては、例えば、島津製作所製引張り試験機AGSを使用できる。
【0076】
また、前記第二組成物液の硬化物(外層)の密着力は、100N/m以上が好ましく、200N/m以上がより好ましい。このような密着力を達成するには、組成物液中に極性基を有するアクリレート系オリゴマー、環状N−ビニルモノマーや前記環状アクリレートモノマー等の極性モノマーを配合することが好ましい。
【0077】
前記硬化物の密着力は、銅・PVCからなる基材上に、前記組成物液からなる樹脂を厚み500μmで形成し、これを硬化させた樹脂フィルムに対して、JIS−Z0237に準拠して90°ピール試験ないしはTピール試験を行うことにより求められる。
【0078】
また、前記第二組成物液の硬化物の破断伸び(%)は、少なくとも50%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。
【0079】
前記硬化物の破断伸び(%)の測定は、JIS−K7113に準拠して行うものである。測定装置としては、例えば島津製作所製引っ張り試験機AGSを使用できる。
【0080】
前記組成物液には、その他、適宜、本発明の封止部の特性を損なわない範囲で、例えば、酸化防止剤、着色材、紫外線吸収剤、光安定剤、シランあるいはチタン系などのカップリング剤、消泡材、硬化促進剤、チオール化合物やリン酸エステル系などの密着性助剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、重合禁止剤、可塑剤、滑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗膜改良剤、樹脂等が添加されてもよい。
【0081】
前記第二組成物液の付与は、本実施形態においては、図2に示されるように、前記第二組成物液L2を入れた所定の透明容器21(例えば、PVCキャップ)内に、内層31が形成された電線束2を、内層31部分がすべて漬かるように、浸漬して行う。
【0082】
このように、内層部分がすべて第二組成物液中に漬かるようにすれば、第一組成物液の塗膜からなる内層31と、第二組成物液の塗膜からなる外層32との接触を確実に行うことができる。
【0083】
前記浸漬時間は、制限はなく目的に応じて適宜設定される。本実施形態においては、1秒〜5秒程度で充分である。
【0084】
第二組成物液に電線束を浸漬した際、該第二組成物液を撹拌、混合する必要はないが、所望により、第二組成物液を撹拌等してもよい。
【0085】
このようにして、内層上に第二組成物からなる塗膜が形成され、外層が形成される。
【0086】
第一組成物液の塗膜からなる内層は、熱ラジカル重合開始剤を含んでおり、第二組成物液の塗膜からなる外層は、レドックス触媒を含んでいる。熱ラジカル重合開始剤にレドックス触媒が作用すると、熱ラジカル重合開始剤からラジカルが生成して、レドックス重合が開始される。
【0087】
<光照射工程>
光照射工程は、電線束の露出束部等上に形成された内層及び外層を、光硬化させるために、前記外層に対して光を照射する工程である。この光照射工程において、内層及び外層の硬化を、可能な限り行う。
本実施形態においては、外層形成工程において第二組成物液中に浸漬された透明容器内の電線束に対し、該透明容器の外側から紫外線等の光が照射される。なお、該透明容器は、封止部を形成するための型となっている。この型の中で封止部の硬化を完了できる。
【0088】
照射する光の種類(波長)は、使用する開始剤の種類に応じて、適宜選択される。例えば、紫外線が照射される。
【0089】
光照射工程において、光を照射する手段としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択される。例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ等の公知の光照射装置を利用できる。光照射装置からの光を、反射ミラー等によって集光して、その集光された光を電線束の封止部に照射してもよいし、スポット型の光照射装置(例えば、UVスポット照射装置)で、均一に近い照射光を電線束の封止部に照射してもよい。
【0090】
被覆電線束部の各電線間の隙間、露出束部の各導体間の隙間等の光が届かない(光が届きにくい)個所に浸透している組成物液の硬化は、レドックス重合により行われる。
【0091】
なお、本実施形態においては、光硬化の前に既にレドックス重合が開始し得るが、本実施形態におけるレドックス重合の速度は光硬化速度と比べて充分遅いため、光が当たる殆どの個所は光硬化する。
【0092】
本実施形態において、光照射時間は樹脂の硬化速度が比較的速く、照射する紫外線の照度が250mW/cm以上を有していれば、塗膜が数mm程度の厚みであっても、数秒程度で充分硬化される。
【0093】
なお、光照射工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。光照射工程を、不活性ガス雰囲気下で行うと、酸素によるレドックス重合の硬化阻害が抑制される。
【0094】
光照射工程の後、図2に示されるように、前記透明容器が外れるように電線束を引き上げると、電線束に封止部が形成される。前記透明容器は、離型性を有する材料からなることが好ましい。
このようにして、電線束の端末に封止部が形成されてなるワイヤーハーネスを製造できる。
【0095】
図3は、本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法によって製造された、ワイヤーハーネス1の概略を示す説明図である。図4は、図3で示されるA−A'直線におけるワイヤーハーネス1の断面を示す説明図である。
図4等に示されるように、ワイヤーハーネス1は、電線束2、及び封止部3を備える。
【0096】
内層31は、光重合により硬化した樹脂と共に、レドックス重合により硬化した樹脂を含む。内層31のうち、被覆束部8の外周、及び露出束部7の外周等の硬化の為に必要な外部からの光が届く個所は、光重合によって硬化した個所であり、露出束部7の導体5間の隙間部分等の外部から光が届かない個所(又は届きにくい個所)は、レドックス重合によって硬化した個所である。
【0097】
内層31には、レドックス触媒と反応して、ラジカルを生成し、レドックス重合を開始する熱ラジカル重合開始剤の残留物が含まれている。
【0098】
外層32は、主として、光重合により硬化した樹脂からなる。外層32は、前記内層31の表面を包むように形成される。外層32は、通常、外部からの硬化の為に必要な光が到達する個所からなり、光重合により硬化した樹脂からなる。
【0099】
以下、他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法について説明する。
(第2実施形態)
図5は、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、上記第1実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法と同様、内層形成工程(a)、外層形成工程(b)、及び光照射工程(c)を有する。
【0100】
本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法は、内層形成工程(a)、及び外層形成工程(b)において、透明容器22内に、上層が第一組成物液L1、下層が第二組成物液L2となるようにそれぞれの組成物液を入れ、その二層からなる組成物液の上面から、電線束2を露出束部7と隣接する被覆束部8の端部が漬かるまで該組成物液に入れ、内層及び外層を形成することを特徴としている。
【0101】
前記透明容器22としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、フッ素樹脂(PFA,FEP)等の樹脂、石英等の透明な材料からなる容器を使用できる。
【0102】
本実施形態で使用する第一組成物液と、第二組成物液は、原則、上記第1実施形態で使用したものと同様のものを使用できる。ただし、所定の下層に第二組成物液を配置し、上層に第一組成物液を配置するためには、第一組成物液の比重が、第二組成物液の比重よりも小さくなっていることが必要である。ただし、その差は、0.01g/cmオーダーの微小な差で十分である。
【0103】
なお、電線束2を透明容器22内の組成物液中に入れた後、該透明容器22を回転し、又は上下方向に動かして、該透明容器22内の組成物液に振動を与えて、混合を促進させてもよい。
【0104】
また、本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法では、前記内層形成工程(a)、及び外層形成工程(b)において形成された、内層及び外層が形成された電線束に、光照射工程(c)において、前記透明容器22の外側から光を照射することを特徴としている。この光照射工程において、電線束2に形成された内層31及び外層32を、光硬化させる。なお、光が届かず光硬化できない個所は、上記実施形態と同様、レドックス重合により硬化される。
【0105】
なお、前記二層の組成物液において、上層の第一組成物液の体積は、下層の第二組成物液の体積に対して、0.5倍以下に設定することが好ましい。0.5倍を超えると、第一組成物液に含まれている熱ラジカル重合開始剤と反応する、第二組成物液中のレドックス触媒の量が不足することがある。
【0106】
本実施形態においても、光照射工程を、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0107】
前記光照射工程後、図5に示されるように、前記透明容器22が外れるように電線束2を引き上げると、電線束2に封止部3が形成される。このようにして、電線束2の端末に封止部3が形成されてなるワイヤーハーネス1を製造できる。
【0108】
以下、更に、他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法について説明する。
(第3実施形態)
本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、封止部3が形成される電線束2の形状が異なる。本実施形態で用いられる電線束12は、その途中(中間部分)にスプライス部9を有する。図6は、中間部分にスプライス部9を有する電線束12の概略を示す説明図である。
【0109】
図6に示されるように、この電線束12の各絶縁電線4の途中(中間部分)は、導体5が絶縁層6で覆われておらず、露出している。つまり、中間部分の導体5が露出するように、絶縁層6が導体5の表面に形成されている。この露出した中間部分の導体5同士が接合されて、スプライス部9が形成されている。この電線束12は、露出束部7が、2つの被覆束部8によって挟まれている。
【0110】
前記露出束部7のうち、スプライス部9以外の個所は、各絶縁電線4から露出した導体5が束状になっている。この束状の導体5間には、隙間が存在している。
【0111】
前記被覆束部8には、絶縁電線4間に形成される隙間が存在している。この隙間は、前記露出束部7の導体5間の隙間と、繋がっている。
【0112】
本実施形態においては、露出束部7と、この露出束部7と隣接する2つの被覆束部8のそれぞれの端部を覆うように、封止部が形成される。
【0113】
図7は、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、上記第1実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法と同様、内層形成工程(a)、外層形成工程(b)、及び光照射工程(c)を有する。なお、本実施形態において用いられる第一組成物液、第二組成物液等は、上記第1実施形態と同様である。
【0114】
本実施形態の内層形成工程では、第一組成物液が、電線束12の露出束部7及び該露出束部7と隣接する2つの被覆束部8のそれぞれ端部に付与される。第一組成物液の付与は、例えば、第一組成物液を、ガーゼ棒等の塗布手段で、電線束12の露出束部7等に塗布することによって行う。他の実施形態においては、第一組成物液に、電線束12の露出束部7等を浸漬してもよい。
この内層形成工程において、第一組成物液が付与され、電線束12に第一組成物液の塗膜からなる内層31が形成される。
【0115】
本実施形態の外層形成工程では、外層を形成するために石英等の透明材料からなる型23が用いられる。内層31が形成された電線束12は、前記型23の中(キャビティ内)に入れられる。型23のキャビティ内において、露出束部7が略中央に位置するように電線束12がセットされる。電線束12をセットした後、キャビティに通ずる注入口40から、第二組成物液が注がれる。すると、キャビティ内は第二組成物液で満たされ、内層31が形成された電線束12は、第二組成物液中に浸漬される。なお、前記型23のキャビティの大きさは、電線束12に形成される外層の大きさに応じて適宜、設定されるものである。
このようにして、電線束12の内層31の周囲に外層32が形成される。
【0116】
本実施形態の光照射工程では、外層が形成された電線束2は、前記型23に入れたままの状態で、光が照射される。型23の外から外層等を硬化させるための光(本実施形態においては、紫外線)が照射されると、電線束12の外層等が光硬化する。なお、本実施形態においても、この光照射工程を、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0117】
前記光照射工程後、図7に示されるように、型23から電線束12を取り出すと、電線束12の中間部分に封止部3が形成されたワイヤーハーネス11が得られる。
【0118】
図8は、本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法によって製造された、ワイヤーハーネス11の概略を示す説明図である。図8に示されるように、このワイヤーハーネス11は、電線束12の途中にスプライス部9を含む露出束7部が、封止部3によって、その露出束部7の両隣の被覆束部8の端部と共に、覆われている。
【実施例】
【0119】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0120】
〔実施例1〕
<第一組成物液の調製>
下記の各化合物を混合して、第一組成物液を調製した。
【0121】
・2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤)[BASF社製、ルシリンTPO]・・・・・・2重量部
・ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド(光重合開始剤)[チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184]・・・・・・1重量部
・クメンペルハイドロパーオキサイド(熱ラジカル重合開始剤)[化薬アクゾ社製、カヤクメン]・・・・・・4重量部
・ウレタンアクリレートオリゴマー(重合性化合物)[JSR社製]・・・・・・40重量部
・アクリレートモノマー(鎖状重合性化合物)・・・・・・50重量部
・イソボルニルアクリレートモノマー(環状重合性化合物)[日本触媒社製]・・・・・・15重量部
・チオール化合物(密着性助剤・硬化促進剤):TMMP(堺化学工業社製)・・・・・・1重量部
・エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)〕プロピオネート(酸化防止剤)〔チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガノックス245〕・・・・・・0.3重量部
【0122】
前記第一組成物液の粘度は、200mPa・sであり、比重は1.04g/cmであった。
【0123】
<端末にスプライス部を有する電線束>
外径1.8mmのPVC電線9本からなり、端末にスプライス部を有する電線束を用意した。
【0124】
<内層形成工程>
開口径約8mmのPVCキャップに、上記第一組成物液を1ml注入し、その後、この第一組成物液の中に、前記電線束を、被覆束部の端部まで漬かるように露出束部から入れ、5秒間浸漬し、内層を形成した。その後、第一組成物液の中から、電線束を引き上げた。
【0125】
<第二組成物液の調製>
下記の各化合物を混合して、第二組成物液を調製した。
【0126】
・2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤)[BASF社製、(商品名)ルシリンTPO]・・・・・・2重量部
・ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド(光重合開始剤)[チバ・スぺシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184]・・・・・・1重量部
・エチルヘキサノエート銅II(レドックス触媒)・・・・・・0.4重量部
・ウレタンアクリレートオリゴマー(重合性化合物)[JSR社製]・・・・・・35重量部
・アクリレートモノマー(鎖状重合性化合物)・・・・・・35重量部
・N−ビニルピロリドン(環状重合性化合物)[日本触媒社製]・・・・・・ 30重量部
・エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)〕プロピオネート(酸化防止剤)[チバ・スぺシャリティ・ケミカルズ社製、イルガノックス245]・・・・・・0.3重量部
【0127】
前記第二組成物液の粘度は、120mPa・sであり、比重は1.03g/cmであった。
【0128】
<外層形成工程>
内層形成工程で用いたPVCキャップと同等のPVCキャップ(透明キャップ)を、別途用意し、このPVCキャップ内に、上記第二組成物液を1ml注入した。このPVCキャップ内の第二組成物液中に、電線束を内層が全部漬かるように入れた。このようにして内層の周囲に外層となる第二組成物液を配置した。
【0129】
<光照射工程>
上記のように第二組成液中に浸漬されたままの電線束を、メタルハライドランプと集光型コールドミラーからなる800Wのオーク製作所製UV照射装置の集光部(焦点領域)に配置した。その状態で5秒間、紫外線を照射し、第二組成物液等の紫外線硬化を行った。
【0130】
その後、UV照射装置から、電線束を取り出しPVCキャップを外すと、電線束の露出束部及び被覆束部の端部を包む封止部を備えたワイヤーハーネスが得られた。
封止部の長さ(ワイヤーハーネスの長手方向における長さ)は、露出束部の端部(端末)から約10mmであった。
【0131】
<止水性能試験>
図9は、ワイヤーハーネスの止水性能試験の様子を模式的に表した説明図である。図9に示されるように、得られたワイヤーハーネスを、封止部側の端末が水中に沈むように配置し、他方の端末側から200kPaの圧縮空気を圧入して、封止部から空気漏れが発生するか否か、目視で確認した。
その結果、実施例1で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
【0132】
<硬化度測定>
実施例1で得たワイヤーハーネスの封止部の外層部分の硬化度と、内層の露出束部の導体間の部分(素線間で硬化した部分)の硬化度とを、FT−IRを用いて求めた。
第一組成物液の硬化度(内層部分の硬化度)は、以下のようにして求めた。
未硬化の第一組成物液において、硬化度にかかわらず変化しない2900cm−1におけるメチレン基由来の吸収ピークを基準ピークとし、このピーク面積をAcとした。他方、硬化度によって変化する810cm−1におけるアクリル基由来のピークの面積をAaとした。未硬化の第一組成物液におけるそれらの面積比をAa/Ac=RL(硬化度0%)とした。
500mJ/cmのUV光照射(窒素雰囲気下)で作製した膜厚130μmの第一組成物液からなる硬化フィルムにおける面積比をAa/Ac=Rc(硬化度100%)とした。
求めたい部位の硬化度Dsは、この部位における2つのピーク面積比Aa/Ac=Rsとして、次式より求めた。
Ds={(Rs−RL)/(RL−Rc)}×100(%)
第一組成物液を第二組成物液に代えたこと以外は、上記内容と同様にして、第二組成物液の硬化度(外層部分の硬化度)も求めた。
その結果、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、95%であった。
このようにして、内層の紫外線が届かない部分の硬化状態は、紫外線が当たる部分の硬化状態と遜色がないことが確かめられた。
【0133】
〔実施例2〕
実施例1のPVCキャップに代えて、ポリエチレン製の透明キャップを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成して、ワイヤーハーネスを製造した。なお、透明キャップを封止部から取り外す際、透明キャップに切り込みを入れ、その切り込みを広げて封止部を取り出した。なお透明キャップの取り外しの際に、封止部の外層部分に外傷、変形等の支障は生じなかった。
【0134】
実施例2のワイヤーハーネスについても、実施例1と同様の止水性能試験、及び硬化度測定を行った。
その結果、実施例2のワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、93%であった。
【0135】
〔実施例3〕
実施例1のUV照射装置に代えて、照度750mW/cmの5ΦのスポットUVバンドル4本(UVスポット照射装置:浜松ホトニクス社製LC8)を用い、第二組成液中に浸漬されたままのPVCキャップ内の電線束に向けて、外側4方向から15秒間、紫外線を照射したこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成して、ワイヤーハーネスを製造した。
【0136】
実施例3のワイヤーハーネスについても、実施例1と同様の止水性能試験、及び硬化度測定を行った。
その結果、実施例3のワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、94%であった。
【0137】
〔実施例4〕
<第一組成物液の調製>
下記の各化合物を混合して、第一組成物液を調製した。
【0138】
・2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤)[BASF社製、(商品名)ルシリンTPO]・・・・・・2重量部
・ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド(光重合開始剤)[チバ・スぺシャリティ・ケミカルズ社製、(商品名)イルガキュア184]・・・・・・1重量部
・ベンゾイルパーオキサイド(熱ラジカル重合開始剤)[化薬アクゾ社製、パーカドックス(商品名)]・・・・・・2重量部
・ウレタンアクリレートオリゴマー(重合性化合物)[JSR社製]・・・・・・35重量部
・アクリレートモノマー(鎖状重合性化合物)・・・・・・25重量部
・イソボルニルアクリレートモノマー(環状重合性化合物)[日本触媒社製]・・・・・・15重量部
・チオール化合物(密着性助剤・硬化促進剤):TMMP(堺化学工業社製)・・・・・・1重量部
・エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)〕プロピオネート(酸化防止剤)〔チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガノックス245〕・・・・・・0.3重量部
【0139】
前記第一組成物液の粘度は、180mPa・sであり、比重は1.02g/cmであった。
【0140】
<第二組成物液の調製>
下記の各化合物を混合して、第二組成物液を調製した。
【0141】
・2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤)[BASF社製、ルシリンTPO]・・・・・・2重量部
・ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド(光重合開始剤)[チバ・スぺシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184]・・・・・・1重量部
・サッカリン(レドックス触媒)[大東化学工業社製]・・・・・・0.2重量部
・ウレタンアクリレートオリゴマー(重合性化合物)[JSR社製]・・・・・・35重量部
・アクリレートモノマー(鎖状重合性化合物)・・・・・・35重量部
・N−ビニルピロリドン(環状重合性化合物)[日本触媒社製]・・・・・・ 30重量部
【0142】
前記第二組成物液の粘度は、100mPa・sであり、比重は1.04g/cmであった。
【0143】
<端末にスプライス部を有する電線束>
外径1.8mmのPVC電線9本からなり、端末にスプライス部を有する電線束を用意した。
【0144】
<内層形成工程、及び外層形成工程>
開口径約8mmのPVCキャップ(透明キャップ)に、先ず、上記第二組成物液(主剤)を0.5ml注入し、次いでその第二組成物液の上に、上記第一組成物液(プライマー)を配置し、上層が第一組成物液、下層が第二組成物液の2層からなる組成物液を得た。上層、及び下層は、速やかには拡散混合しない状態であった。この状態のうちに、上記電線束を、被覆束部の端部まで漬かるように露出束部から、2層からなる組成物液に入れ、浸漬した。
【0145】
<光照射工程>
次いで、上記組成物液中に浸漬されたままの電線束を、実施例1と同様のUV照射装置の集光部(焦点領域)に配置した。その状態で10秒間、紫外線を照射し、第二組成物液等の紫外線硬化を行った。
【0146】
その後、UV照射装置から、電線束を取り出しPVCキャップを外すと、電線束の露出束部及び被覆束部の端部を包む封止部を備えたワイヤーハーネスが得られた。封止部の長さ(ワイヤーハーネスの長手方向における長さ)は、露出束部の端部(端末)から約10mmであった。
【0147】
実施例4のワイヤーハーネスについても、実施例1と同様の止水性能試験、及び硬化度測定を行った。
その結果、実施例4のワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、92%であった。
【0148】
〔実施例5〕
実施例4のPVCキャップに代えて、ポリフルオロアセテート(PFA)製の透明キャップを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成して、ワイヤーハーネスを製造した。なお、透明キャップを封止部から取り外す際、透明キャップに切り込みを入れ、その切り込みを広げて封止部を取り出した。なお透明キャップの取り外しの際に、封止部の外層部分に外傷、変形等の支障は生じなかった。
【0149】
実施例5のワイヤーハーネスについても、実施例1と同様の止水性能試験、及び硬化度測定を行った。
その結果、実施例5ワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、92%であった。
【0150】
〔実施例6〕
光照射工程の前に、PFAキャップのみを外部の駆動措置により、上下5mmの振幅移動5回と、±45°の回転5回とを同時に行って、2層の組成物液に振動を与えたこと以外は、実施例4と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成して、ワイヤーハーネスを製造した。
【0151】
実施例6のワイヤーハーネスについても、実施例1と同様の止水性能試験、及び硬化度測定を行った。
その結果、実施例6ワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、
92%であった。
【0152】
〔実施例7〕
<中間部分にスプライス部を有する電線束>
外径1.8mmのPVC電線5本を用意し、各電線の中間部分の絶縁層を除去し、露出した導体同士を圧接により一括接続してスプライス部を形成して、中間部分にスプライス部を有する電線束を得た。
【0153】
<第一組成物液、及び第二組成物液>
それぞれ、実施例1と同じものを使用した。
【0154】
<内層形成工程>
上記電線束の中間部分のスプライス部を含む露出束部と、この電線束部の両隣の被覆束部の端部とに対し、第一組成物液をガーゼ棒で塗布した。塗布の際、露出束部等の全表面に第一組成物液が行き渡るようにした。このようにして、電線束に内層が形成された。
【0155】
<外層形成工程>
次いで、フッ素系離型剤が薄く塗布された石英ガラスの型内に、前記電線束の内層が形成された部分をセットし、その型の注入口から第二樹脂組成物液を注いで、電線束の内層の周囲を第二組成物液で満たした。
【0156】
<光照射工程>
電線束がセットされた型を、実施例1と同様のUV照射装置の集光部(焦点領域)に配置し、型へ向けて、紫外線を5秒間照射した。なお、電線束のスプライス部は、集光部(焦点領域)に静置させた。
【0157】
その後、UV照射装置から、電線束を取り出し型を外すと、電線束の中間部分の露出束部及び両隣の被覆束部の端部を包む封止部を備えたワイヤーハーネスが得られた。
封止部の長さ(ワイヤーハーネスの長手方向における長さ)は、約15mmであった。
【0158】
<止水性能試験>
得られたワイヤーハーネスを、中間部分の封止部が水中に沈むように配置し、両端から200kPaの圧縮空気を圧入して、封止部から空気漏れが発生するか否か、黙視で確認した。
その結果、実施例7で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
【0159】
<硬化度測定>
実施例7で得たワイヤーハーネスの封止部の外層部分の硬化度と、内層の露出束部の導体間の部分(素線間で硬化した部分)の硬化度とを、実施例1と同様のFT−IR法により求めた。
その結果、外層部分の硬化度は、98%であり、内層の素線間で硬化した部分の硬化度は、92%であった。
【0160】
〔比較例1〕
実施例1に用いた第一組成液から熱ラジカル重合開始剤を抜き、第二組成液からレドックス触媒を抜いた組成液を用いて、実施例1と同様な構造の封止部を形成した。200kPaの圧縮空気を電線端末から圧入したところ、他の電線端末と封止部(電線束と封止部との接触部)の両方から空気漏れが観察された。また、外層部分の硬化度は、97%と実施例1と同程度であったが、内層の電線間の樹脂の硬化度は5%以下であり、殆ど未硬化状態の液状であった。
【0161】
〔比較例2〕
実施例4に用いた第一組成液から熱ラジカル重合開始剤を抜き、第二組成液からレドックス触媒を抜いた組成液を用いて、実施例4と同様な構造の封止部を形成した。200kPaの圧縮空気を電線端末から圧入したところ、他の電線端末と封止部(電線束と封止部との接触部)の両方から空気漏れが観察された。また、外層部分の硬化度は、97%と実施例4と同程度であったが、内層の電線間の樹脂の硬化度は5%以下であり、殆ど未硬化状態の液状であった。
【0162】
〔比較例3〕
実施例7に用いた第一組成液から熱ラジカル重合開始剤を抜き、第二組成液からレドックス触媒を抜いた組成液を用いて、実施例7と同様な構造の封止部を形成した。200kPaの圧縮空気を電線端末から圧入したところ、他の電線端末と封止部(電線束と封止部との接触部)の両方から空気漏れが観察された。また、外層部分の硬化度は、97%と実施例7と同程度であったが、内層の電線間の樹脂の硬化度は5%以下であり、殆ど未硬化状態の液状であった。
【符号の説明】
【0163】
1、11 ワイヤーハーネス
2、12 電線束
3 封止部
31 内層
32 外層
4 絶縁電線
5 導体
6 絶縁層
7 露出束部
8 被覆束部
9 スプライス部
L1 第一組成物液
L2 第二組成物液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、
前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスの製造方法であって、
光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む第一組成物液を、前記電線束の前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部に付与して内層を形成する内層形成工程と、
光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む第二組成物液を、前記内層上に付与して外層を形成する外層形成工程と、
前記内層及び前記外層からなる封止部に光を照射し、該封止部を光硬化させる
光照射工程と、を有することを特徴とするワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項2】
透明容器内に、上層が第一組成物液、下層が第二組成物液となるようにそれぞれの組成物液を入れ、その二層からなる組成物液の上面から、露出束部と隣接する被覆束部の端部が漬かるまで電線束を該組成物液に入れて、該露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とに、順次、内層及び外層を形成することにより内層形成工程及び外層形成工程を行い、
前記透明容器の外側から光を照射することにより光照射工程を行う、請求項1に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項3】
第一組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマーと、チオール化合物とを含み、第二組成物液の重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとを含む請求項1又は2に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項4】
導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、
前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込め、光硬化した樹脂からなる封止部と、を備えるワイヤーハーネスであって、
前記封止部が、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを覆う内層と、この内層を包む外層と、を有し、
前記内層がレドックス重合により硬化した樹脂を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項5】
内層が、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む第一組成物液の硬化物からなり、
外層が、光重合開始剤と、レドックス触媒と、重合性化合物とを少なくとも含む第二組成物液の硬化物からなる、請求項4に記載のワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−113692(P2011−113692A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266979(P2009−266979)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】