説明

ワイヤ放電加工方法、プログラム生成装置、及びワイヤ放電加工装置

【課題】コアレス加工における加工時間を短縮できるワイヤ放電加工方法を得ること。
【解決手段】ワイヤ放電加工方法は、ワイヤ放電加工機により、被加工物における中子部分を徐々にスラッジ状にして前記被加工物から前記中子部分を除去するコアレス加工を行うワイヤ放電加工方法であって、中子部分における仕上げ加工代に近接する環状縁部領域がワイヤ径及び放電ギャップに応じたオフセットに応じて分割された複数の部分領域のそれぞれにおいて、内側から目標輪郭線へ略垂直に近づく第1の加工経路と前記第1の加工経路に続いて前記目標輪郭線に沿って進む第2の加工経路と前記第2の加工経路に続いて前記目標輪郭線から略垂直に内側へ遠ざかる第3の加工経路とを含む第1の加工パスで加工する第1の加工ステップと、前記仕上げ加工代において、前記目標輪郭線に沿った第2の加工パスで加工する第2の加工ステップとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工方法、プログラム生成装置、及びワイヤ放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機を用いて行う加工に、被加工物における所望の輪郭形状の中子部分をスラッジ状に加工し、被加工物から中子部分を除去するコアレス加工がある。コアレス加工では、加工開始点より輪郭形状に沿ったパスを一定のピッチで拡大してゆくのが一般的である。
【0003】
特許文献1には、加工すべき輪郭形状の中心線を求め、この中心線に対して直交するとともに取り代と同一間隔で並ぶ複数の垂直線を求め、輪郭形状から仕上げ代、放電ギャップ、及びワイヤ電極の半径だけ縮小した相似形の中子形状を求め、各垂直線と中子形状との2つの交点を求めることが記載されている。これにより、特許文献1によれば、加工経路が同一垂直線上における2つの交点の間を往復する経路として決定されるので、NCプログラムが短く、作成が容易であるとされている。
【0004】
また、ワイヤ放電加工機を用いて行う加工には、コアレス加工以外の加工もある。
【0005】
特許文献2には、微細な円形穴を加工する際に、ワイヤ電極を円形穴の中心となる位置まで挿入し、ワイヤ電極を円形穴の半径方向に相対移動させる動きを、角度を変えながら繰り返すことが記載されている。これにより、特許文献2によれば、切れ粉との接触によりワイヤ電極が外側に逃げることがなく、その後にワイヤ電極を円周方向に相対移動させる円形状加工を行えば、厚みにあるワークに微細な円形穴を真円形状に放電加工できるとされている。
【0006】
特許文献3には、プレス金型のポンチとダイとを同時に加工する際に、ポンチの被加工面からオフセット量を加えて設定された加工軌跡とダイの被加工面からオフセット量を加えて設定された加工軌跡との間をワイヤ電極の軸心が交互に通るようにワイヤ電極を揺動させながら加工を行うことが記載されている。これにより、特許文献3によれば、プレス金型のポンチとダイとの間にワイヤ電極の直径よりも大きな間隙寸法が要求されている場合に、ポンチとダイとの間の加工拡大代寸法をワイヤ電極の直径に比して格段に大きくすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−117519号公報
【特許文献2】特開2002−307245号公報
【特許文献3】特開平4−2415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、被加工物の板厚が100mm以上と厚い場合、ワイヤ電極がたわみ、ワイヤ走行方向の形状となる真直精度を維持することが困難である。また、コアレス加工では、輪郭形状に沿ったパスを一定のピッチで何度も加工してゆくため、前段加工の真直誤差が累積され、徐々に真直精度が悪化する傾向にある。その結果、累積された真直誤差を修正するために仕上げ加工に要する時間が長くなりやすい。
【0009】
特許文献1に記載の技術では、所望の輪郭形状に対してその長手方向に中心線を定め、その中心線に対して垂直なスラッジ加工経路(加工パス)を生成しているため、短手方向は輪郭形状に沿う形で加工される。そのため、ワイヤの移動終点となる垂直線上の交点においてワイヤ電極のたわみの影響を受けやすく、前段加工の真直誤差が累積されてゆき、形状修正のため、仕上げ加工に要する時間が長くなりやすい。
【0010】
特許文献2に記載の技術では、円形穴の中心から放射状に加工軌跡(加工パス)が生成される。円周(目標輪郭線)に向かって垂直に加工した後、同じ軌跡を戻るため円周(目標輪郭線)に沿った加工がなされない。その結果、目標輪郭線に向かって垂直に加工する回数が増加するため、特許文献2に記載の技術をコアレス加工に適用した場合、加工時間が長くなりやすい。
【0011】
特許文献3に記載の技術では、2つの被加工面の間において、被加工面に沿った方向の加工軌跡(加工パス)と被加工面に交差する方向の加工軌跡(加工パス)とでワイヤを揺動させている。すなわち、2つの被加工面のうちの一方の被加工面に沿って加工し、一方の被加工面に対して交差する方向に加工し、他方の被加工面における前回の加工終点位置まで戻った後、他方の被加工面に沿って加工し、他方の被加工面に対して交差する方向に加工し、一方の被加工面における前回の加工終点位置まで戻る。そのため、放電ギャップ、ワイヤ径を考慮すると加工パスが重なるため、加工が過剰となり、加工面の品位が低下しやすい。さらに、特許文献3に記載の技術をコアレス加工に適用した場合、除去すべき中子部分まで加工することになるため、加工パスが無駄に長くなりやすく、加工時間が長くなりやすい。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コアレス加工における加工時間を短縮できるワイヤ放電加工方法、プログラム生成装置、及びワイヤ放電加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかるワイヤ放電加工方法は、ワイヤ放電加工機により、被加工物における中子部分を徐々にスラッジ状にして前記被加工物から前記中子部分を除去するコアレス加工を行うワイヤ放電加工方法であって、前記被加工物では、前記中子部分の周囲に仕上げ加工代を介して目標輪郭線が配され、前記ワイヤ放電加工方法は、前記中子部分における前記仕上げ加工代に近接する環状縁部領域がワイヤ径及び放電ギャップに応じたオフセットに応じて分割された複数の部分領域のそれぞれにおいて、内側から前記目標輪郭線へ略垂直に近づく第1の加工経路と前記第1の加工経路に続いて前記目標輪郭線に沿って進む第2の加工経路と前記第2の加工経路に続いて前記目標輪郭線から略垂直に内側へ遠ざかる第3の加工経路とを含む第1の加工パスで加工する第1の加工ステップと、前記仕上げ加工代において、前記目標輪郭線に沿った第2の加工パスで加工する第2の加工ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荒加工時における真直誤差の累積を抑制できるので、仕上げ加工に要する時間を短縮できる。この結果、コアレス加工における加工時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態1におけるワイヤ放電加工機の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工方法の加工パスを示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1にかかるワイヤ放電加工方法の加工パスを示す図である。
【図4】図4は、比較例にかかるワイヤ放電加工方法の加工パスを示す図である。
【図5】図5は、比較例における課題を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかるワイヤ放電加工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
実施の形態1.
実施の形態1にかかるワイヤ放電加工方法では、図1に示すようなワイヤ放電加工機130によりコアレス加工を行う。コアレス加工は、被加工物Wにおける中子部分CRを徐々にスラッジ状にして、被加工物Wから中子部分CRを除去するような加工である。図1は、ワイヤ放電加工機130の概略構成を示す図である。
【0018】
ワイヤ放電加工機130は、数値制御の下に被加工物Wを所定形状に放電加工する加工機本体80と、該加工機本体80の動作を数値制御する制御装置110と、有線または無線により制御装置110に接続されて該制御装置110に指令やデータ等を入力する入力部115と、制御装置110に入力された指令やデータ等あるいは加工機本体80の運転状況等を表示する表示部120とを具備している。
【0019】
加工機本体80は、被加工物Wの板厚方向に走行するワイヤ電極1に高周波パルス電圧を印加し、ワイヤ電極1と被加工物Wとの間に生じる放電により被加工物Wを加工する。被加工物WはX−Y平面(水平面)上で移動可能なテーブル5に載置され、ワイヤ電極1は張力が付与された状態で被加工物Wをその板厚方向に横切るように走行する。
【0020】
ワイヤ電極1を所定方向に走行させるために、テーブル5の上方にはワイヤボビン10、テンションローラ12a、ガイドローラ14a、およびワイヤガイド16aが配置され、テーブル5の下方にはワイヤガイド16b、ガイドローラ14b、およびテンションローラ12bが配置されている。ワイヤボビン10に巻回されたワイヤ電極1は、テンションローラ12aにより引き出され、ガイドローラ14a、ワイヤガイド16a、ワイヤガイド16b、およびガイドローラ14bにより鉛直方向に案内された後にテンションローラ12bに引き取られて、ワイヤ回収用箱18内に回収される。テンションローラ12bによるワイヤ電極1の引取り速度の方がテンションローラ12aによるワイヤ電極1の引き出し速度よりも速くなるようにワイヤテンション設定部70により設定される結果として、ワイヤ電極1は張力が付与された状態で被加工物Wをその板厚方向に横切るように走行する。
【0021】
また、ワイヤ電極1に高周波パルス電圧を印加するために、一対の給電部20a,20bがテーブル5の上下に分かれて配置されている。テーブル5の上方に配置された上側給電部20aは、ワイヤガイド16aの上方に位置しており、テーブル5の下方に配置された下側給電部20bはワイヤガイド16bの下方に位置している。
【0022】
電圧検出装置50は、各給電部20a,20bと被加工物Wとの電位差を検出し、検出結果を後述の演算・制御部90に伝える。
【0023】
テーブル駆動装置55は、被加工物Wを放電加工する間、テーブル5を所定方向に移動させる。すなわち、テーブル駆動装置55は、ワイヤ電極1と被加工物Wとを相対的に移動させる。例えば、テーブル駆動装置55は、ワイヤ電極1の位置を固定してテーブル5を移動させても良いし、テーブル5の位置を固定してワイヤ電極1の位置を移動させても良いし、ワイヤ電極1の位置とテーブル5との両方を移動させても良い。なお、テーブル5はリニアエンコーダやロータリーエンコーダ等の速度センサ(図示せず。)を備えており、該速度センサの検出結果を基に速度計測装置(図示せず。)がテーブル5の駆動速度を計測して、計測結果を後述の演算・制御部90に伝える。
【0024】
また、被加工物Wの放電加工時におけるワイヤ電極1の過熱を抑えて当該ワイヤ電極1の断線を防止するために、被加工物Wの放電加工時には、加工液供給装置60から上側ノズル65aと下側ノズル65bとを介して被加工物Wとワイヤ電極1との間に加工液が供給される。上側ノズル65aは被加工物Wの上方に配置されており、下側ノズル65bは被加工物Wの下方に配置されている。加工液供給装置60は、上側ノズル65aへの加工液の供給量(流量)および下側ノズル65bへの加工液の供給量(流量)をそれぞれ別個に計測する流量計測機能を有している。また、加工液供給装置60は、上側ノズル65aへの加工液の液圧及び下側ノズル65bへの加工液の液圧をそれぞれ別個に変更する液圧変更機能を有している。
【0025】
なお、加工機本体80は、上記の構成以外に、第1スイッチング素子部25a、第2スイッチング素子部25b、メイン電源30、第1パルス発振器35a、第2パルス発振器35b、サブ電源40、第3スイッチング素子部45a、及び第4スイッチング素子部45bなども備えている。
【0026】
一方、制御装置110は、後述するような加工パス等を規定する加工プログラムを生成するとともに、加工プログラムに従って加工機本体80の動作を制御する。制御装置110は、演算・制御部90と、記憶部85と、パルス発振制御部95とを備えている。
【0027】
演算・制御部90は、入力部115を介してユーザから入力された指示等に基づき、後述するような加工パスPP−1〜PP−k(図2参照)等を規定する加工プログラムを生成して記憶部85に格納する。記憶部85には、加工プログラムが格納されている。演算・制御部90は、記憶部85に格納されている加工プログラムに従って、テーブル駆動装置55等の動作を制御する。被加工物Wの放電加工時には、加工プログラムに基づいてテーブル駆動装置55の動作が制御されてテーブル5が所定方向に移動する。
【0028】
ここで、仮に、図4に示すようにコアレス加工を行う場合について考える。図4に示すコアレス加工では、被加工物W100における加工開始点SP100にワイヤ電極1を位置させ、ワイヤ電極1を加工開始点SP100から目標輪郭線CT100に沿った加工パスPP100で移動させながら、加工パスPP100を一定のピッチで拡大してゆく。すなわち、図4に示すコアレス加工では、被加工物W100における加工開始点SP100から一定のピッチで螺線状に拡大していく加工パスPP100に沿って中子部分CR100をスラッジ状に加工する荒加工を行う。その後、目標輪郭線CT100に沿ってワイヤ電極1を走行させる仕上げ加工を行う。
【0029】
このとき、図5(a)に示すように被加工物Wが100mm以上と高板厚である場合、ワイヤ走行方向の精度を示す真直精度が悪化する傾向にある。一般的なワイヤ放電加工では、荒加工時において、被加工面の鉛直方向における中央部分が上下部分に比べて凹む、いわゆるタイコ形状が形成されることがある。一方、コアレス加工では、図5(b)に示すように、荒加工の大きなエネルギーで同じ面を一定ピッチで徐々に寄せて加工するため、加工の進行に伴い、鉛直方向における中央部分が上下部分に比べて膨らみ、逆タイコ形状となりやすい。例えば、初期段階の被加工面WS1で形成された逆タイコ形状は、次の加工段へも影響を与えるため、次加工段の被加工面WS2では、さらに逆タイコ形状が大きくなり真直精度が悪化しやすい。その次の被加工面WS3では、さらに逆タイコ形状が大きくなり真直精度が悪化しやすい。したがって、加工を進めるにつれて徐々に真直精度は悪化してゆき、最終の目標輪郭線CT100を形成する仕上げ加工では累積された真直誤差を修正しなければならないために、仕上げ加工に要する時間が長くなる傾向にある。なお、被加工物Wが難削材である場合にも、同様の課題が生じる傾向にある。
【0030】
それに対して、実施の形態1では、図2及び図3に示すようなコアレス加工を行う。図2に示すコアレス加工では、被加工物Wにおいて、中子部分CRの周囲に仕上げ加工代FAを介して目標輪郭線CTが配されている。そして、荒加工において、目標輪郭線CTに対して、仕上げ加工代FAを残し、仕上げ加工代FAに近接する中子部分CRの加工パスを、ワイヤ径及び放電ギャップに応じたオフセットOF(図3(b)参照)に応じて複数の加工パスPP−1〜PP−kに細分化する。具体的には、目標輪郭線CTに対して垂直となる加工パスと目標輪郭線CTに沿った加工パスとを含むコの字状の加工パスPP−1〜PP−kで加工する(図3(a)参照)。なお、仕上げ加工代FAに近接しない中子部分CRにおける内側部分IRは、従来どおりの螺線状の加工パスでもよいし、九十九折状の加工パスで加工してもよい。
【0031】
すなわち、被加工物Wにおける中子部分CRでは、環状縁部領域CERがオフセットOFに応じて複数の部分領域PR−1〜PR−kに分割されている。環状縁部領域CERは、中子部分CRにおける仕上げ加工代FAに近接する領域であり、例えば図2に示す細い実線と破線とで挟まれた環状の領域である。各部分領域PR−1〜PR−kは、図2に一点鎖線で示す領域であり、例えば、目標輪郭線CTに沿った方向の幅がオフセットOFの約2倍である。オフセットOFは、例えば、ワイヤ径すなわちワイヤ電極1の直径と、放電ギャップとを合わせたものである。環状縁部領域CERでは、例えば、目標輪郭線CTの直線部分に対応した部分領域PR−1、PR−2同士が重ならないように、目標輪郭線CTの曲線部分に対応した部分領域PR−1、PR−k同士が部分的に重なるように、分割されていても良い。あるいは、例えば、環状縁部領域CERでは、全ての部分領域同士が重ならないように分割されていても良い。
【0032】
荒加工では、各部分領域PR−1〜PR−k(図2参照)において、図3(a)、(b)に示すようなコの字状の加工パスPP−1〜PP−k(図2参照)で加工する。図3(a)、(b)は、仕上げ加工代FAと近接する中子部分CRすなわち各部分領域PRを拡大して示したものである。図3(a)は、仕上げ加工代FAと近接する中子部分の加工パスを拡大したものであり、図3(b)は、その加工パスをさらに拡大したものである。
【0033】
各部分領域PRにおけるコの字状の加工パスPPは、第1の加工経路PP1、第2の加工経路PP2、及び第3の加工経路PP3を含む。第1の加工経路PP1は、内側から目標輪郭線CTへ略垂直に近づく経路である。第1の加工経路PP1は、例えば、図3(b)に示す位置Aから位置Bへ進む経路である。第2の加工経路PP2は、第1の加工経路PP1に続いて、目標輪郭線CTに沿って進む経路である。第2の加工経路PP2は、例えば、図3(b)に示す位置Bから位置Cへ進む経路である。第3の加工経路PP3は、第2の加工経路PP2に続いて、目標輪郭線CTから略垂直に内側へ遠ざかる経路である。第3の加工経路PP3は、例えば、図3(b)に示す位置Cから位置Dへ進む経路である。このようなコの字状の加工パスPPに沿って加工すると、図3(c)に示すような仕上げ加工代FAのパターンとなる。
【0034】
仕上げ加工では、荒加工時に発生するひずみ、形状誤差を仕上げ加工にて修正を行う。すなわち、仕上げ加工代FAにおいて、目標輪郭線CTに沿った加工パスで加工する(図2参照)。このとき、図3(c)に示すような仕上げ加工代FAのパターンであれば、仕上げ加工代FAにおける真直誤差が小さいので、仕上げ加工が簡単である。
【0035】
以上のように、実施の形態1では、中子部分CRの環状縁部領域CERの各部分領域PR−1〜PR−kにおいて、内側から目標輪郭線CTへ略垂直に近づく第1の加工経路PP1と第1の加工経路PP1に続いて目標輪郭線CTに沿って進む第2の加工経路PP2と第2の加工経路PP2に続いて目標輪郭線CTから略垂直に内側へ遠ざかる第3の加工経路PP3とを含むコの字状の加工パスPPで荒加工を行う。その後、仕上げ加工代FAにおいて、目標輪郭線CTに沿った加工パスで仕上げ加工を行う。これにより、荒加工時における真直誤差の累積を抑制できるので、仕上げ加工に要する時間を短縮できる。この結果、コアレス加工における加工時間を短縮できる。
【0036】
また、実施の形態1では、環状縁部領域CERがワイヤ径及び放電ギャップに応じたオフセットOFに応じて複数の部分領域PR−1〜PR−kに分割されている。各部分領域PR−1〜PR−kは、例えば、目標輪郭線CTに沿った方向の幅がオフセットOFの約2倍である。これにより、ワイヤ径及び放電ギャップ径を考慮した場合における加工パスの重なりを低減できるので、加工効率のよいパスを生成することができる。
【0037】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかるワイヤ放電加工方法について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0038】
被加工物Wの板厚が大きくなるほど、ワイヤ電極1のたわみにより、図1に示す制御装置(例えば、NC装置)110上のワイヤ電極位置と実際のワイヤ電極位置とに遅れが生じる。そのため、制御装置110上のワイヤ電極位置が加工パスPPの第1の加工経路PP1の先端部分となる例えば位置B(図3(b)参照)に達しても、実際にはワイヤ電極1が位置Bまで到達していない可能性がある。
【0039】
このとき、仮に、そのまま、方向転換を行い、図3(b)に示す位置Bから位置Cへ進むように加工すると、短絡が発生したり、最悪の場合ワイヤ電極1が断線したりする可能性がある。
【0040】
そこで、第1の加工経路PP1の先端部分となる位置Bでドウェルを挿入する。すなわち、図1に示す制御装置110上のワイヤ電極位置が位置Bに達したとき、演算・制御部90は、テーブル制御装置55を制御して、加工機本体80における軸送りを一時的に停止させる。このときの停止時間は、例えば、板厚100mmでおよそ2〜3secである。
【0041】
なお、この停止時間は、被加工物Wの板厚、材質に応じて変更すればよく、板厚が大きい場合や融点が高い耐熱材の場合には長く、板厚が小さい場合には短くしてもよい。
【0042】
あるいは、停止時間は固定ではなく、位置Bに達したときの被加工物Wとワイヤ電極1との極間電圧を電圧検出装置50により検出し、検出された極間電圧が閾値以上に上がり始めるまで停止させるのでもよい。
【0043】
このように、実施の形態2では、各部分領域PR−1〜PR−kにおいて、第1の加工経路PP1の先端部分となる位置Bでドウェルを挿入する。これにより、ワイヤ電極1のたわみが生じやすい位置におけるワイヤ電極1のたわみを低減でき、ワイヤ電極1のたわみによる真直誤差を低減できる。これにより、荒加工時における真直誤差を低減できるので、仕上げ加工に要する時間をさらに短縮できる。
【0044】
なお、図3(b)に示す位置Bで生じるワイヤ電極1のたわみを低減するために、ドウェルを挿入する代わりに、位置Bで一時的にワイヤテンションを強くしてもよい。すなわち、図1に示す制御装置110上のワイヤ電極位置が位置Bに達したとき、演算・制御部90は、ワイヤテンション設定部70を制御して、ワイヤ電極1に与える張力を一時的に強くしても良い。これによっても、ワイヤ電極1のたわみが生じやすい位置におけるワイヤ電極1のたわみを低減でき、ワイヤ電極1のたわみによる真直誤差を低減できる。
【0045】
あるいは、図3(b)に示す位置Bで生じるワイヤ電極1のたわみを低減するために、ドウェルを挿入する代わりに、位置Bで一時的に加工液の液圧を下げてもよい。すなわち、図1に示す制御装置110上のワイヤ電極位置が位置Bに達したとき、演算・制御部90は、加工液供給装置60を制御して、上側ノズル65aへの加工液の液圧及び下側ノズル65bへの加工液の液圧をそれぞれ一時的に下げてもよい。これによっても、ワイヤ電極1のたわみが生じやすい位置におけるワイヤ電極1のたわみを低減でき、ワイヤ電極1のたわみによる真直誤差を低減できる。
【0046】
あるいは、図3(b)に示す位置Bで生じるワイヤ電極1のたわみを低減するために、ドウェルを挿入することと、ワイヤテンションを一時的に強くすることと、加工液の液圧を一時的に下げることとは、いくつかあるいは全てを組み合せて制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明にかかるワイヤ放電加工方法は、コアレス加工に有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 ワイヤ電極
5 テーブル
10 ワイヤボビン
12a、12b テンションローラ
14a、14b ガイドローラ
16a、16b ワイヤガイド
18 ワイヤ回収用箱
20a、20b 給電部
25a 第1スイッチング素子部
25b 第2スイッチング素子部
30 メイン電源
35a 第1パルス発振器
35b 第2パルス発振器
40 サブ電源
45a 第3スイッチング素子部
45b 第4スイッチング素子部
55 テーブル駆動装置
60 加工液供給装置
65a 上側ノズル
65b 下側ノズル
70 ワイヤテンション設定部
80 加工機本体
85 記憶部
90 演算・制御部
95 パルス発振制御部
110 制御装置
115 入力部
120 表示部
130 ワイヤ放電加工機
CR、CR100 中子部分
CT、CT100 目標輪郭線
PP、PP100 加工パス
SP100 加工開始点
W、W100 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工機により、被加工物における中子部分を徐々にスラッジ状にして前記被加工物から前記中子部分を除去するコアレス加工を行うワイヤ放電加工方法であって、
前記被加工物では、前記中子部分の周囲に仕上げ加工代を介して目標輪郭線が配され、
前記ワイヤ放電加工方法は、
前記中子部分における前記仕上げ加工代に近接する環状縁部領域がワイヤ径及び放電ギャップに応じたオフセットに応じて分割された複数の部分領域のそれぞれにおいて、内側から前記目標輪郭線へ略垂直に近づく第1の加工経路と前記第1の加工経路に続いて前記目標輪郭線に沿って進む第2の加工経路と前記第2の加工経路に続いて前記目標輪郭線から略垂直に内側へ遠ざかる第3の加工経路とを含む第1の加工パスで加工する第1の加工ステップと、
前記仕上げ加工代において、前記目標輪郭線に沿った第2の加工パスで加工する第2の加工ステップと、
を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工方法。
【請求項2】
前記第1の加工ステップでは、前記第1の加工経路の先端部分においてドウェルが挿入される
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項3】
前記第1の加工ステップでは、前記第1の加工経路の先端部分においてワイヤテンションを強くする
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項4】
前記第1の加工ステップでは、前記第1の加工経路の先端部分において加工液の液圧を下げる
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法に従った加工プログラムを生成する
ことを特徴とするプログラム生成装置。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラム生成装置を備えたことを特徴とするワイヤ放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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