説明

ワクチン及び遺伝子治療に用いる改変したアデノウイルス・ベクター

本発明は、ウイルス感染による樹状細胞など、抗原提示細胞のCTL感受性に影響を与えるための新規な方法および手段を提供するものである。本発明は、ワクチン接種および/または遺伝子治療など、種々の治療設定において有用な新規な遺伝子送達媒介体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野、特に改変したアデノウイルス・ベクターを用いたワクチン接種の分野に関するものである。本発明は、さらに遺伝子治療の分野、及び導入遺伝子を運ぶアデノウイルスのような、ウイルス・ベクターで治療された被験者における改変された免疫応答のための方法及び手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在利用可能なワクチンの例には、弱毒化ワクチン、全体不活化ウイルス、サブユニット・ワクチン(組み換えタンパク質に基づくもの、または基づかないもののいずれか)、ペプチド・ワクチン、(裸の)DNAワクチン、及び組み換えワクシニア・ウイルス(MVA)のような免疫原担体、組み換えアデノウイルス、ポックス・ウイルスあるいはアルファウイルスなどである。多くのヒトの疾患について、免疫系のどの構成要素が防御(抗体及び/またはT細胞)を提供しているか未知であるため、理想的なワクチンは、強力な細胞性応答と体液性応答の両方を引き起こすべきである。アデノウイルスは、高い力価で産生することができるので、本技術分野の多くの当業者に好まれており、アデノウイルスは種々の病原体に対して極めて効果的なワクチン媒介体であることが一貫して示されており(Bruna-Romero et al. 2001; Sullivan et al. 2000)、そして、例えばMVAを用いた直接比較研究において、アデノウイルスは、非ヒト霊長類HIVモデルでの攻撃に対する免疫の誘導及び防御に関して優れていることが確認された(Shiver et al. 2002)。さらに、アデノウイルスは、挿入された抗原、または包囲された核酸によってコードされるタンパク質に対する体液性(抗体)及び細胞性(細胞傷害性Tリンパ球)免疫応答の両方を誘導すると思われる(Bruna-Romero et al. 2001; Shi et al. 2001; Shiver et al. 2002; Sullivan et al. 2000)。従って、異なる種類の病原体(ウイルス、バクテリアなど)に由来する抗原タンパク質をコードする遺伝子の挿入、または腫瘍特異性タンパク質(腫瘍ワクチン接種)の組み換えアデノウイルスへの利用によって、宿主の免疫系は、基本的にこれら抗原に対して初回抗原刺激(プライム)され、結果として病原体の感染に対する防御(予防免疫ワクチン接種)あるいは罹患及び/または感染細胞の除去(治療的ワクチン接種)をもたらす。
【0003】
ワクチンにおけるそれらの潜在的な役割に加えて、アデノウイルスは、遺伝子治療の設定で広範に用いられる。両方の治療上の用途で用いられるその他のウイルス・ベクター系の例は、アルファウイルス(例えば、セムリキ森林熱ウイルス、シンドビス・ウイルス及びベネズエラ・ウマ脳炎ウイルス)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ポックス・ウイルス及びインフルエンザ・ウイルスである。アデノウイルスが用いられる場合に遭遇する問題の1つは、ヒトの人口のうちの大部分が一生の間にいくつかのアデノウイルス感染をうけて、異なる血清型の多くに対する抗体を中和する(高い)力価をもたらすという事実に関連するものである。本技術分野で認識される主要な課題の1つは、この問題を回避することと、一般に用いられるアデノウイルス(例えば、Ad2、Ad3、Ad5、Ad7及びAd12)よりも中和されることが著しく少なく、それでも尚所定の標的細胞を感染させるような(組み換え)アデノウイルスを提供することであった。これらの問題に対する多くの解決法が提供されてきたが(例えば、キメラ・アデノウイルスまたは不完全に中和された血清型を用いることによって(特許文献1、特許文献2及び特許文献3)、感染のレベルで、上記組み換えウイルスは、用いられる血清型または以前の感染でもたらされた抗体の中和の存在に限定されない細胞過程の故に、限定的な効果のみを尚選別可能なことが現在明らかになっている。
【0004】
いくつかの研究によって、アデノウイルスの直接の適用は、挿入される抗原に対する強力な免疫応答をもたらす結果となることが示されてきた。この点について、どの投与経路が適用されるかは問題ではないと思われる。しかし、重要なことは、少数の研究だけしか、B細胞またはT細胞媒介免疫応答の誘発における多種多様な細胞タイプの寄与を取り扱っていないことである(Shi et al. 2001; Xiang et al. 2002)。筋肉内へのアプローチは、本技術分野で用いられる最も一般的な免疫化経路である。骨格筋で利用可能な細胞タイプは、主として筋肉線維または筋細胞、内皮細胞及び線維芽細胞、そしてその程度はずっと少ないが、筋芽細胞、樹状細胞及びマクロファージである。
【0005】
1つの研究で、免疫応答の誘発における多種多様な細胞タイプの寄与に関して、内皮細胞、樹状細胞または骨格筋細胞をex vivoで培養及び形質導入し、続いて同系マウスの形質導入細胞を一定数移植することによって詳細な研究がなされた(Mercier et al. 2002)。挿入された抗原(この事例ではβ-Gal)に対する免疫応答に関する上記マウスの経過観察を通じて、すべての細胞タイプが、β-Galに対する抗体応答を誘導することができるが、樹状細胞を移植されたマウスだけが、β-Gal に対するCD8+T細胞応答も誘導することができることが報告された。そうした研究は、樹状細胞が、B細胞及びT細胞媒介免疫を誘発する上で重要な役割を果たすことを明らかに示している。
【0006】
免疫系の両方のメカニズムを誘導することを目的とするワクチンによる方法は、抗原を、ワクチン投与の組織中に存在する樹状細胞へ送達することが可能な生物製剤で構成されるべきである。アデノウイルス血清型5(Ad5、遺伝子治療及びワクチン接種に一般に用いられる)に関して、霊長類及び齧歯類樹状細胞の両方で、挿入された抗原のこれらの細胞内での何らかの発現を得るために形質導入するには、高度のウイルス添加が必要とされることが知られている(Rea et al. 2001)。Ad5に対する樹状細胞のこの低い感受性は、Ad5レセプター:コクサッキー・アデノウイルス・レセプター(CAR)の欠如または低発現によるものであると考えられている。アデノウイルス・ベクターが樹状細胞を効果的に形質導入することができるような、異なる親和性を有するアデノウイルス・ベクターは本技術分野で周知であり、例えば、外皮タンパク質の交換(例えばファイバー、ヘキソン、ペントン及び/またはファイバーの一部)による新規な親和性を獲得したキメラ・アデノウイルス・ベクター、及びAd11、Ad35、及びC亜群以外のその他の亜群に由来するその他の血清型のような、Ad5親和性とは異なる天然の親和性を有するアデノウイルス血清型である(Farina et al. 2001; Havenga et al. 2002; Mastrangeli et al. 1996; Rea et al. 2001)。
【0007】
樹状細胞は、異種抗原に対する強力な免疫応答を引き起こすために極めて重要であることが、本技術分野で一般に理解されている(Guermonprez et al. 2002; Lanzavecchia et al. 2001)。樹状細胞は、in vivoで種々の段階で(成熟及び未成熟)存在し、その段階は、IL-4及びGM-CSFのような一連の限定的な成長因子の存在下で、細胞を組織細胞皿で培養することによって、in vitroで模倣することが可能である。免疫学に関して今日までに蓄積され集積された知識によれば、未成熟樹状細胞は抗原スカベンジャーであり、従って、抗原を効果的に捕獲し、プロセシングする。抗原を捕獲すると、成熟経路が誘導される。このプロセスの間、表面上でのペプチドMHC複合体の数の上方制御(アプレギュレーション)、共刺激分子の発現増加、及び細胞のリンパ器官への移動が観察される。CD4+T細胞の助けを借りて完全に活性化すると、未処置CD8+T細胞は、樹状細胞によって刺激されて細胞傷害性Tリンパ球(CTL)群となり、初回抗原刺激(プライム)を受けて、上記抗原を含んでいる体内のすべての細胞を死滅させる(Lanzavecchia 1998)。それら細胞の「死滅状態」を獲得したCTLは、それらの標的細胞に少なくとも2つのメカニズムを介してアポトーシスを誘発する。1つのメカニズムは、グランザイムBと称されるCTL産生タンパク質の取り込みを通じてDNAの断片化をもたらし、もう1つのメカニズムは、細胞死受容体の架橋結合に関与する。そのメカニズムの両方とも、極めて迅速であり、未処置T細胞の樹状細胞媒介活性の間に著しく誘発される(Liu et al. 1989)。この後者の現象は、樹状細胞がCTLをいったん活性化すると、樹状細胞それ自体が死滅するのかどうかという疑問を提起した。もしそうであれば、これは、極めて不適切であり、潜在的に、抗原に対する極めて限定的なT細胞応答という結果をもたらす。重要なことに、in vitroの研究で、ウイルス感染樹状細胞は、感染数日後にCTL死滅に対して感受性があるらしいことが実際に見いだされた(Knight et al. 1997)。
【0008】
この現象とは対照的に、本技術分野における一般的な概念によれば、ウイルスとは、多種多様な方法を用いて免疫系から逃れ、感染した宿主細胞に対する免疫応答を避ける生物体である。そのようなプロセスで役割を果たすタンパク質をコードするウイルス・ゲノムの多くの領域が特定されている。例えば、アデノウイルスは、早期発現領域であるE3を含んでおり、そこ由来のいくつかのタンパク質は、例えば、細胞MHC分子発現を下方制御(ダウンレギュレート)し、宿主免疫応答を軽視することができる。本本技術分野における一般的な見解によれば、アデノウイルスのようなウイルスは、一定のレベルまで宿主免疫応答を逃れるために進化している。
【0009】
ウイルス誘導免疫抑制の興味深い研究が、Borrowら(1995)によって行われ、そこで、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)がマウスに用いられて、そのウイルスの自然宿主となった。この研究によって、LCMV株「アームストロング」を有する成体マウスは、結果として上記微粒子を速やかに排除し、それによってマウスは引き続き免疫応答性を持ったままであったことが示された。対照的に、マウスが、「クローン3」として示される変異LCMV株(親株とは2つのアミノ酸が異なる)を接種された場合、持続的に感染し、明らかに免疫抑制されるという結果になった。上記2つのLCMV株に関するその後の生物学的分析によって、LCMVクローン3は、アームストロング株とは対照的に、樹状細胞を極めて効果的に感染させて、これらの細胞の排除をもたらすことが示された。LCMVクローン3に感染した樹状細胞の排除が増大して持続的なウイルス感染に至ることは、明らかにCD8+T細胞媒介死滅と関連していた。明らかに、LCMVクローン3は、アームストロング株と比較して、樹状細胞に対するその親和性が異なっており、ウイルス病原性における親和性の重要な役割を示している。明らかに、いくつかのウイルスは、速やかに樹状細胞を死滅させることによって持続感染を確立する能力がある。ここに述べられた研究の成果を踏まえて、LCMVクローン3は、樹状細胞に親和性を有するアデノウイルス血清型と同様に、CD8+T細胞の能力に影響を及ぼして樹状細胞を効果的に死滅させており、従って、非樹状細胞標的ウイルスとは異なる免疫回避戦略を展開してきたという可能性が十分にある。
【0010】
【特許文献1】国際公開第 00/03029号
【特許文献2】国際公開第 02/24730号
【特許文献3】国際公開第 00/70071号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、樹状細胞のウイルス感染が、その樹状細胞の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)感受性の増大という結果をもたらすことができることを明確に理解した。従って、樹状細胞特異的組み換えアデノウイルス(例えば、Ad35またはAd5.fib35のようなキメラ・ウイルス)を用いて、樹状細胞を感染させる場合、この細胞は、初めはCTL死滅に対して比較的抵抗性があるものの、感染した樹状細胞は、アデノウイルス感染によって誘導される効果の故にCTLによって速やかに除去される可能性が最も高い。これは明らかに、(腫瘍)ワクチン接種に関する限り、効果的で強力な医薬品組成物の探求に新たな潜在的問題を提起するものである。恐らくは、より強力なワクチンを産生するために、樹状細胞で免疫原性導入遺伝子がより長期に発現することが望まれるであろう。興味深いことに、他方においては、遺伝子治療の目的のためには、医薬品組成物において遺伝子送達媒介体として用いられるウイルス・ベクターに対して免疫応答が極めて限定的であることは、明らかに有利である。樹状細胞とは異なる所定の標的組織内で導入遺伝子発現の寿命を伸ばすことが実際に望まれている。このため、樹状細胞CTLカスケードが迅速な応答を有して、適用されるウイルス・ベクターに対する低い免疫応答を確保することは有益である。結論として、ワクチンでは、感染樹状細胞の高いCTL応答及び抗原提示がより長く存在することが望まれるのに対して、遺伝子治療医薬品では、ウイルス抗原を提示する樹状細胞に対する速やかなCTL応答を有することが有利であり、その結果、媒介体のタンパク質に対するより低い免疫応答がもたらされ、従って、所定の組織を感染させた媒介体によって提供される導入遺伝子の存在及び活性が長くなる。別の用途は、治療用遺伝子を運ぶウイルス・ベクターを使って不要な細胞を標的化することである。CTL関連死滅に対して細胞を感作するために、治療用核酸配列を運ぶベクターに異種核酸配列を含めることが提案されるが、その異種核酸配列は発現した時には、上記細胞のPI-9を下方制御(ダウンレギュレート)する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここで認識された問題の少なくともいくつかを克服するために、本発明は、異種核酸を、遺伝子送達媒介体に受容性を持つ細胞へ送達することが可能なウイルス・ベクターのような新規な遺伝子送達媒介体を提供し、上記遺伝子送達媒介体は、細胞内で発現した場合に、細胞内のタンパク質分解酵素インヒビター9(PI-9)のレベルを増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する(異種)核酸で構成される。また、本発明は、遺伝子送達媒介体に受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターのような新規な遺伝子送達媒介体も提供し、上記遺伝子送達媒介体は、細胞内で発現した場合に、細胞内のPI-9の機能性を増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する(異種)核酸で構成される。
【0013】
別の実施の形態で、本発明は、遺伝子送達媒介体に受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターのような新規な遺伝子送達媒介体を提供し、上記遺伝子送達媒介体は、細胞内で発現した場合に、細胞内のPI-9のレベル及び/または機能性を減少させる(異種)核酸で構成される。本発明による遺伝子送達媒介体は、遺伝子治療及び/またはワクチン接種のような多くの治療設定において有用である。
【0014】
さらに、本発明は、細胞のCTL感受性を制御する方法を提供し、上記方法は、上記細胞を本発明による遺伝子送達ベクターに感染させる段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の1つの目的は、上に概要が説明された問題のうち少なくともいくつかに対する解決法を提供し、ワクチン接種の間にウイルス・ベクターに感染した樹状細胞のCTL感受性の増加を妨げ、そして、遺伝子治療への適用において遺伝子送達媒介体として用いられるウイルス・ベクターに対する免疫応答を確実に減少させることである。このため、本発明は、上記異種DNAに受容性を持つ細胞へ異種DNAを送達することが可能なウイルス・ベクターを提供し、上記ウイルス・ベクターは、上記細胞内で発現した場合に、PI-9のレベルを増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する核酸配列で構成される。別の実施の形態で、本発明は、上記異種DNAに受容性を持つ細胞へ異種DNAを送達することが可能なウイルス・ベクターを提供し、上記ウイルス・ベクターは、上記細胞内で発現した場合に、PI-9のレベルを減少させる核酸配列で構成される。
【0016】
本発明は、上記ウイルス・ベクターに受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターのような遺伝子送達媒介体を提供し、上記遺伝子送達媒介体は、細胞内で発現した場合に、細胞内のタンパク質分解酵素インヒビター9(PI-9)のレベルを増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する異種核酸配列を含んで成る。1つの好ましい実施の形態で、本発明によるウイルス・ベクターは、アデノウイルス、アルファウイルス、ポックス・ウイルス、ワクシニア・ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びインフルエンザ・ウイルスで構成される群から選択される。より好ましい実施の形態で、上記ウイルス・ベクターは、(組み換え)アデノウイルス、またはその機能的類縁体である。さらにより好ましいのは、B亜群からのアデノウイルス血清型であり、そこで、上記B亜群からのアデノウイルス血清型は、Ad11、Ad26、Ad35及びAd50で構成される群から選択される。極めて好ましいのは、その特異的な血清型の野生型または組み換えアデノウイルスに以前感染したために、抗体を中和するレベルが低い組み換えアデノウイルス・ベクターである。そのようなアデノウイルスの例は国際公開第 00/70071号に述べられており、そこで、Ad35の機能的同等物は、Ad35と同様に、初めて投与を受ける宿主の約10%未満に既存免疫が見られる。あるいは、投与される宿主の約90%以上に免疫応答を回避または減少させることが可能なアデノウイルス血清型である。
【0017】
本発明の1つの特定の態様で、本発明による組み換えアデノウイルスは、少なくとも2つの異なったアデノウイルス血清型由来のタンパク質及び/またはタンパク質断片でからなるキメラ・カプシドで構成される。アデノウイルスのような組み換えウイルス・ベクターが特定の標的細胞を標的化する目的のために、異なるアデノウイルス血清型に由来する断片を適用することが可能であることが本技術分野で周知であり、そこで、バックボーン血清型は、例えば異種核酸(例えば、治療用遺伝子)を運び、そして、上記カプシドは、2つ以上のアデノウイルス血清型からの断片で構成される。そのような「キメラ」ベクターの例は、例えば、Ad11、Ad16またはAd35由来のファイバーの全長または断片を運ぶアデノウイルス血清型5(Ad5)に由来するアデノウイルスである。Ad5.fib11、Ad5.fib16またはAd5.fib35としても知られる、そのようなベクターは、例えばアデノウイルス・ベクターを、樹状細胞のような抗原提示細胞(APC)へ標的化するために用いることができる。腫瘍細胞、APC、平滑筋細胞、肺細胞、ある種の血液細胞及び上皮細胞など広範囲な種々の標的組織及び細胞を標的にするために、数多くの交換を生み出し、適用できることが本技術分野において現在知られている。従って、1つの実施の形態で、本発明は、本発明によるウイルス・ベクターを提供し、そこで、上記細胞はAPCである。1つの好ましい実施の形態で、上記細胞は樹状細胞またはB細胞であり、そこで、上記樹状細胞は未成熟または成熟している。標的にすることが可能な樹状細胞のその他の例は、指状嵌入樹状細胞(peri-arterial inter-digitating dendritic cells)である。
【0018】
本発明は、本発明による別のウイルス・ベクターも提供し、そこで、上記異種核酸は、PI-9をコードする核酸、またはその機能的同等物で構成される。機能的同等物は、PI-9またはその同等物が正常に発現する細胞のCTL感受性を制御及び/または調節する時にも尚機能的である類縁体、断片、部分、突然変異体などでもよい。尚、CTL感受性を調節するために同様に機能するPI-9の相同物が存在する場合、これらの機能物(及び/または配列相同物)は、ここに検討されるような目的に到達するために同様な遺伝子媒介体で用いることが可能である。
【0019】
別の実施の形態で、本発明は、上記ウイルス・ベクターに受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターを提供し、上記ウイルス・ベクターは、上記細胞内で発現した場合に、上記細胞内のPI-9のレベル及び/または機能性を減少させる異種核酸配列を含んで成る。好ましくは、そのようなウイルス・ベクターは、アンチセンスPI-9 RNAまたはその機能的同等物をコードする核酸で構成される。標的細胞内でPI-9のレベル及び/または機能性を減少させるいずれの核酸も機能的同等物である。尚、PI-9の機能を抑制及び/またはPI-9のタンパク質レベルを減少させる因子をコードする遺伝子が存在する場合、ここに検討されるような目的に到達するために、そうした遺伝子を本発明によるウイルス・ベクターにも適用することが可能である。
【0020】
さらに別の実施の形態で、本発明は、本発明によるウイルス・ベクター、及び薬学的に許容できる担体で構成される医薬品組成物を提供することができる。さらに、本発明は、本発明による遺伝子送達媒介体に接触した及び/または感染した樹状細胞を提供する。
【0021】
本発明の別の態様で、細胞のCTL感受性を調節する方法が提供され、上記方法は、上記細胞内で発現した場合に、上記細胞内のPI-9のレベル及び/または活性を増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する異種核酸配列を含んで成るウイルス・ベクターに上記細胞を感染させる段階を含み、一方、別の態様で、細胞のCTL感受性を調節する方法が提供され、上記方法は、上記細胞内で発現した場合に、上記細胞内のPI-9のレベル及び/または活性を減少させる異種核酸配列を含んで成るウイルス・ベクターに上記細胞を感染させる段階を含む。
【0022】
CTL死滅に感受性を持つ細胞内でPI-9及び/またはその同等物のレベル及び/または機能性を増加または減少させるために、いくつかの方法を想定することが可能である。好ましい方法は、遺伝子送達ベクターを用いることである。遺伝子送達ベクターの例は、ウイルス・ベクター、及び送達される核酸で構成される微粒子である。ウイルス・ベクターの例は、DNAウイルス及びRNAウイルスである。従って、本発明による所定の細胞へ送達される核酸はRNA及びDNAでもよい。
【0023】
本明細書で用いられる場合、「異種」とは、それが組み込まれる遺伝子送達ベクターにとって異質なすべての核酸を意味する。例えば、「異種」核酸がアデノウイルス・ゲノムにクローニングされる場合、これは、異種核酸が、その特定のアデノウイルスの野生型には存在しないことを意味する。異種核酸の例は、腫瘍抗原をコードする遺伝子、バクテリア及びウイルスのような病原体からの免疫原性抗原、アポトーシス誘導タンパク質、ホルモン及びサイトカインである。異種核酸は、それが組み込まれる血清型以外の別な血清型に由来するものでもよい。
【0024】
ヒトタンパク質分解酵素インヒビター9(PI-9)及び、マウス・セリンタンパク質分解酵素インヒビター6(PI-6)のような、多くのその配列的、分布的、及び機能的相同物は本技術分野で周知である(Sprencher et al. 1995; Sun et al. 1997)。SPI-6は、セルピンタンパク質ファミリーのメンバーである。上記タンパク質は、グランザイムBを特異的に不活性化し(以下を参照)、それによってCTL誘発アポトーシスを抑制する。最近の研究によって、マウス及びヒト由来の未成熟樹状細胞はCTL死滅に感受性を持つが、成熟すると、樹状細胞を破壊するCTLの能力は失われることが示された(Medema et al. 2001)。樹状細胞をCTL媒介死滅から防御することが可能な細胞メカニズムが存在するという仮説が立てられている。このCTL感受性の減少は、マウス樹状細胞におけるSPI-6の発現増加の結果であると経験的に考えられてきている。未処置の成熟樹状細胞は、SPI-6/PI-9の上方制御(アプレギュレーション)によってCTL細胞死滅に対して防御されることが解明されたが、1つの興味深い論点は、SPI-6/PI-9の上方および下方制御(ダウンレギュレーション)に伴う生物学的経路に関するものである。上に述べられたように、それは、SPI-6/PI-9の細胞発現に直接影響を与えるウイルスに由来するタンパク質であるか、あるいは、それは、タンパク質分解酵素阻害剤の上方及び下方制御をもたらす樹状細胞からのストレス応答である可能性がある。
【0025】
樹状細胞のCTL死滅は、少なくとも2つのメカニズムによって引き起こされる。第1のメカニズムは、孔形成分子であるパーフォリン、及び細胞傷害性タンパク質であるグランザイムBの放出を含んでいる(Heusel et al. 1994; Kagi et al. 1994)。CTLの分泌の際、グランザイムBは、マンノース-6-リン酸受容体と結合し、受容体媒介エンドサイトーシスを介して標的細胞によって取り込まれる(Motyka et al. 2000)。エンドソームから標的細胞の細胞質へのグランザイムBの放出は、パーフォリンを介して生じる(Shi et al. 1997)。いったんグランザイムBが細胞質ゾルに存在するとすぐに、グランザイムBは、カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ8、及びBid(カスパーゼ活性DNAアーゼの阻害剤)のような細胞基質の切断を通じてアポトーシスを誘導し、DNAの断片化という結果に至る(Trapani et al. 2000)。CTLによってその標的を死滅させるために用いられる第2のメカニズムは、細胞死受容体の架橋結合を介するものである。このプロセスは、標的細胞の死滅をもたらすカスパーゼ経路を誘導するFas-Fasリガンドの相互作用を含んでいる(Berke 1995)。
【0026】
上に述べられたように、組み換えアデノウイルスのようないくつかの遺伝子送達媒介体が、遺伝子治療及びワクチン接種の目的のために開発されてきている。ワクチン接種に関しては、抗原に対する効果的なT細胞応答を得るため、挿入された抗原に対する免疫応答を高めることで成功している。この戦略に関して、ベクターに対する不十分なT細胞応答も、抗原に対して不十分な、または最適状態に及ばないT細胞応答という結果を招くであろう。この直接的in vivoワクチン接種法の次に、アデノウイルス・ベクターを用いて、抗原をex vivoで、その免疫応答が腫瘍細胞または感染を制御するのに不十分である患者に由来する樹状細胞に添加することが可能である(Dhodapkar et al. 1999; Steinman et al. 2001; Zhong et al. 2000)。樹状細胞に所定の抗原を添加した後、上記細胞が、腫瘍またはウイルス特異的免疫性を高めるために患者に再注入される。近年認識された1つの問題は、注入された抗原添加樹状細胞は、CTLの攻撃の標的となり(Hermans et al. 2000)、そして、恐らくは、注入された樹状細胞のCTL媒介死滅の故に2回目の注入は効果がより少なく、記憶T細胞応答の再活性化及び増大を妨げるという点である(Ludewig et al. 2001; Ribas et al. 2000; Ronchese et al. 2001)。明らかに、数日間の期間にわたって可能になった樹状細胞によるCTLの活性化によって、数時間しか持続しない活性期間と比較して、抗体に対する、より多くのT細胞及び、より広範なT細胞レパートリーが結果としてもたらされる。同じことが、投与の繰り返し(2回以上)によるCTLの活性化についても大抵の場合に言える。従って、ここで述べられた実験に基づく研究成果を再び用いて、挿入された抗原に対するT細胞応答を誘導する上でより強力な、アデノウイルスに基づいたワクチン送達媒介体を得ることができる。例えば、SPI-6またはそのヒト相同物PI-9をコードする遺伝子をそのゲノムに保有する、組み換えアデノウイルス・ベクターを、この核酸を強力な真核生物プロモータの制御下に置くことによって産生することが可能である。未成熟樹状細胞内でアデノウイルス感染の数時間以内に、高レベルのPI-9(またはSPI-6)タンパク質が得られる。その結果、この増強された発現は2つの目的に適う。(i)それは、(例えば)グランザイムBの活性を低下させることによってCTL媒介死滅から成熟樹状細胞を防御し、そして、(ii)それは、未成熟樹状細胞が防御されないので、さもなければ効果的である、死滅に抵抗するウイルスを含んでいる未成熟樹状細胞の生存を可能にする。両方のメカニズムによって、より多くの樹状細胞が、未処置のT細胞を初回抗原刺激するために確実に利用可能になり、成熟樹状細胞の寿命が確実に伸び、最終的に両方のメカニズムによってT細胞の数が増えることになる。ウイルス感染時にPI-9レベルが減少しないことを確実にする別の方法は、そうしたレベルに減少させる、ウイルスによって用いられているメカニズムを決定することである。これらのメカニズムが直接的あるいは間接的であろうとも、このメカニズムを遮断する適切な方法は、PI-9転写/翻訳制御に関与する機能領域またはドメインを欠失する組み換えウイルスを適用することである。従って、本発明では、高レベルのPI-9タンパク質を十分に確保し、それによって、感染した樹状細胞を、CTL死滅を通じた排除から防御するための少なくとも2つの方法が開示される。1つは、核酸をコードするPI-9またはその相同物(SPI-6など)をウイルス・バックボーンの強力なプロモータの制御下で含むことであり、第2の方法は、感染細胞のPI-9発現を下方制御(ダウンレギュレーション)することに関与するウイルス・バックボーンの領域の機能性を削除するか、または弱めることである。上記2つの異なるメカニズムの組み合わせも、本発明の一部である。
【0027】
遺伝子治療の分野の範囲内では、少し例を挙げると、遺伝性蓄積性障害(ゴーシェ、ポンぺ、ハーラー、シャイエ、ハンター、サンフィリポ、モルキオ、ファーバー、ニーマン・ピック、クラッベ、異染性白質萎縮症、地中海貧血など)、心臓血管疾患及び適用(狭窄、再狭窄、静脈移植)、及び関節炎など多くの異なる致命的なヒトの疾患の潜在的な治療のために、多くの異なるウイルス系が研究中である。そうした疾患の多くを効果的に治療するために、導入遺伝子の長期発現が成功している。これは、従って、ワクチン接種法とは異なるメカニズムを必要としており、すなわち、ワクチン接種のためには、抗原に対するより強力で長期にわたる免疫応答が必要であろう。遺伝子治療において、適用されている遺伝子送達媒介体に対する強力な応答は望まれておらず、従って、遺伝子送達媒介体に感染した樹状細胞は、応答が弱く、速やかに消失することがより好まれる。(天然の親和性によって)樹状細胞及び所定の標的組織細胞を感染させる遺伝子送達媒介体が用いられる場合、樹状細胞CTL経路を通じた可能な限り弱い応答が望まれるであろう。この弱いCTL応答の効果は、例えば、PI-9の以下の一つを適用することによって達成することが可能である。そのための1つの方法は、組み換えアデノウイルスに、樹状細胞内で、例えば、SPI-6またはヒト相同物PI-9の発現を効果的に相殺することが可能な遺伝子、リボザイム、アンチセンス及び/またはその他の核酸を挿入することである。そのような戦略は、原則として、未成熟樹状細胞内のアデノウイルスの感染後数時間でSPI-6またはPI-9の発現劣化及び/または低下を招き、結果として成熟樹状細胞内で低レベルのSPI-6またはPI-9遺伝子産物をもたらすであろう。換言すると、これは、直接のCTL媒介死滅を招き、最終的に、導入遺伝子を送達するために用いられる組み換えアデノウイルス・ベクターのような、治療用ベクターに対するT細胞の応答が大幅に阻害されることが期待される。アンチセンス核酸のようなPI-9阻害生物体は、CD83プロモータのような樹状細胞特異的プロモータの制御下に置かれてもよい。あるいは、PI-9またはその相同物の過剰発現は、例えば、遺伝子送達媒介体に挿入された治療用導入遺伝子の隣のPI-9遺伝子の共発現を通じて、CTL媒介死滅からの感染標的細胞の防御、及び治療用(免疫原性)遺伝子の長期発現をもたらす結果となり、それはワクチン接種において極めて有益である。
【0028】
本技術分野で「腫瘍ワクチン接種」として一般に周知である別の設定では、ウイルス・バックボーンに存在する核酸によってコードされる抗原に対する強力な応答を有することが必要とされるであろう。従って、CTL応答が低下することが有益であろうし、従って、速やかなCTL応答ではなく、PI-9タンパク質またはその機能的相同物が過剰発現することがより好ましいであろう。この方法は、従って、本発明において、遺伝子治療への適用ではなく、ワクチン接種の目的であるとみなされる。本明細書に開示されるように、CTL死滅に対する防御は、上記細胞がアデノウイルス・ベクターに感染した場合に弱められるかどうかが詳細に調べられた。アデノウイルスに感染した成熟樹状細胞は、CTL死滅に対して防御されないこと、そして、成熟及び未成熟ペプチド添加樹状細胞の両方が、非感染ペプチド添加樹状細胞と比較すると、CTL媒介死滅に対して高度に感受性を持つことが示されている。従って、これらの実験は、アデノウイルスが、いったん成熟樹状細胞内で上記細胞の正常な生態を変えてから、上記細胞に速やかなCTL媒介死滅に対する感受性を持たせることを示している。この抗原提示細胞の排除は、アデノウイルスに対するT細胞応答の低下を結果として招くことが可能であり、従って、宿主の免疫系を逃れるためにアデノウイルスによって用いられる新規な方法を表している。あるいは、免疫系は、このメカニズムを用いて、そうでなければCTL媒介排除から逃れてしまう、樹状細胞内での制御されないウイルス複製を妨げることができる。
【0029】
上に述べられたように、本明細書では、ウイルスに感染した成熟樹状細胞に、CTL媒介死滅に感受性を持たせる新規な免疫学的現象が開示される。さらに、宿主のT細胞免疫応答を下方制御(ダウンレギュレーション)するために適した新規なアデノウイルス・ベクター、及び用途に応じて、宿主のT細胞免疫応答を高めるためにより適した新規なアデノウイルス・ベクターが開示される。
【0030】
マウスに関連する実験におけるSPI-6及びヒトにおけるPI-9の過剰発現は、いくつかの方法で達成することができる。1つの方法は、この特定の核酸を、アデノウイルス・バックボーンのE3領域の強力なプロモータの制御下でクローニングすることであり、一方で、所定の導入遺伝子は、E1領域でクローニングすることができる。用いることができる強力なプロモータの例は、CMVプロモータ、SV40プロモータ、PGKプロモータ及びRSVプロモータである。導入遺伝子の例は数多くあるが、それらには、サイトカイン、治療用遺伝子、腫瘍抗原、抗体またはその一部、あるいは、腫瘍ワクチン接種、抗病原体ワクチン接種及び/または遺伝子治療の目的のためのタンパク質または治療用生物体をコードするあらゆる核酸などがある。
【0031】
上に述べられたように、ex vivoで標的化され、培養され、そして、上記樹状細胞が由来する個体へ再導入された樹状細胞を患者から単離して、抗原特異的免疫応答を引き出すことも可能である(Dhodapkar et al. 1999; Steinman and Dhodapkar 2001; Zhong et al. 2000)。添加される樹状細胞の寿命の延長によって、ワクチン接種の効率が潜在的に高まる。マウス樹状細胞前駆細胞は骨髄から単離され、当業者に周知の手順に従って培養される。樹状細胞の分化は、少し例を挙げると、CD11c及び/またはCD86のようなマーカーの染色によって判定され、その後FACS分析が行われる。上記ベクターは、抗原提示のために導入遺伝子を、そして、樹状細胞の生存のためにSPI-6遺伝子(またはPI-9)を導入する。これは、1つは抗原(導入遺伝子)を運ぶベクター、もう1つはE1領域(またはE3領域)でSPI-6(PI-9)を運ぶベクターである2つのベクターで、またはその逆での同時感染、あるいは、E1ドメインで抗原(導入遺伝子)を運ぶベクター、及び例えばE3領域のPI-9(SPI-6)で、またはその逆での単独感染のいずれかによって、達成することが可能であるが、その他の領域も、抗原またはPI-9遺伝子のようなそれぞれの導入遺伝子に適用することが可能である。一般に、マウスの利用が含まれる実験では、SPI-6をコードする組み換えベクターが必要になるが、本発明では、ヒトの疾患治療のための組み換えベクターも包含されること、従って、PI-9をコードする核酸が必要になることが理解されるべきである。上に述べられたように、PI-9 またはSPI-6の下方制御(ダウンレギュレーション)を必要とする設定には、当然のことながら、種特異的遺伝子の発現を特に標的にする設定などが含まれる。
【0032】
別の態様で、本発明は、上記抗原に対する樹状細胞媒介CD8+T細胞応答を引き出すことが可能なシステムで抗原に対する免疫応答を調節するための方法を提供し、上記方法は、上記システムに上記抗原、及び上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための手段を提供する段階を含む。
【0033】
上記抗原に対する樹状細胞媒介CD8+T細胞の応答を引き出すことが可能なシステムは、in vitroシステムでもよい。樹状細胞及び未処理T細胞は、in vitroで上記抗原の存在下で共培養されることが可能であり、それによって結果として、CD8+T細胞に、上記抗原に対する特異性が生じる。このin vitro培養に種々の方法で添加を行なって、上記CD8+T細胞の産生の効率を向上させることが可能である。そのような添加は、リンパ節、胸腺、またはその他の担体(の一部)で構成されてもよい。1つの好ましい実施の形態で、上記システムは、個体を含んで成る。この実施の形態で、本発明は、免疫応答、及び特に上記個体における抗原特異的CD8+T細胞の産生を調節するために用いられる。上記抗原は、種々の方法で上記システムに供給することができる。1つの好ましい実施の形態で、上記抗原はウイルス・ベクターによって提供される。ウイルス・ベクターは、抗原及び/または核酸を標的細胞に送達するために特に適している。本明細書で上に述べられたように、本発明による方法で用いることができる多くのタイプのウイルス・ベクターが存在する。特に好ましい実施の形態で、上記ウイルス・ベクターは、アデノウイルス・ベクターで構成される。
【0034】
1つの実施の形態で、上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を減少させるための手段を提供することによって、上記免疫応答は増強される。上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を減少させることによって、上記樹状細胞の生存可能性、従って、上記樹状細胞が免疫システムをさらに教育することに関与する可能性が高められる。これは、上記免疫システムにおける上記抗体に特異的なCD8+T細胞のプールが増大する効果を持つ。本発明のこの態様は、強力な抗原特異的免疫応答が望まれるワクチン接種の用途において特に有用である。
【0035】
別の実施の形態で、上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を増強するための手段を提供することによって、上記免疫応答は低下する。上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を増強することによって、上記樹状細胞の生存可能性、従って、上記樹状細胞が免疫システムをさらに教育することに関与する可能性は減少する。これは、上記免疫システムにおけるCD8+T細胞のプールが減少する効果を持つ。本発明のこの態様は、いわゆる機能獲得の用途において特に有用である。これら機能獲得の用途は、必ずというわけではないが、通常は、例えば典型的な遺伝子治療用途におけるようなウイルス・ベクターと共に(現在でも)開発されている。機能獲得は、多くの場合、細胞に所定の遺伝子を提供することによって達成され、そこで、所定の細胞は、上記細胞に追加的な機能性を提供する。所定の遺伝子の生成物及びウイルス・ベクターに関連する生成物は、本発明によるシステムで抗原として機能することが可能であり、それによって上記抗原に特異的な免疫応答を刺激する。機能獲得の用途において、本発明は、所定の遺伝子の生成物またはウイルス・ベクターに関連する生成物に対する望ましくない免疫応答の少なくとも一部を回避するために好適に用いることが可能である。
【0036】
樹状細胞のCD8+T細胞媒介死滅は、いくつかの方法で達成することが可能である。非限定的な例は序論に挙げられており、樹状細胞におけるDNA断片化を誘導するための少なくとも2つのメカニズムが含まれる。少なくとも1つのメカニズムは、グランザイムBと称されるCTL産生タンパク質の取り込みを含んで成り、少なくとももう1つのメカニズムは、1つ以上のタイプの細胞死受容体の架橋結合を含んで成る。本発明において、樹状細胞のCD8+T細胞媒介死滅のための少なくとも1つの経路の活性は、本発明による手段によって調節される。1つの好ましい実施の形態で、グランザイムB媒介DNA断片化経路の活性が調節される。この経路は、操作のために特に適している。1つの好ましい実施の形態で、樹状細胞の破壊のためのグランザイムBの有効性が調節される。1つの好ましい実施の形態で、上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための上記手段は、PI-9タンパク質またはその機能的同等物で構成される。この好ましい実施の形態の利点は、本明細書で上に詳述されている。別の好ましい実施の形態で、上記手段は、上記樹状細胞にPI-9遺伝子の少なくとも一部、またはその類縁体及び/または類縁物質で構成される核酸を提供することによって、上記樹状細胞へ提供される。上記核酸は、PI-9遺伝子の転写領域のどの部分で構成されてもよい。上記部分は、通常この領域の少なくとも20塩基を含んで成る。好ましくは、それは連続塩基である。しかし、特定の設計に応じて、例えば、mRNAへのスプライシングの提供または干渉のような妨害が可能である。この実施の形態で、細胞内でのPI-9の発現は、例えば、通常少なくとも20ヌクレオチドであるPI-9アンチセンス核酸、または上記細胞内の条件下でPI-9 (m)RNAをハイブリダイズすることが可能な上記アンチセンスの相同物を提供することによって、下方へ調節することが可能である。
【0037】
1つの好ましい実施の形態で、上記手段は、PI-9タンパク質またはタンパク質分解酵素活性部、類縁体及び/またはその類縁物質をコードする核酸で構成される。この実施の形態で、グランザイムB経路の活性は、少なくとも一部が減少する。
【0038】
1つの好ましい実施の形態で、上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための上記手段は、ウイルス・ベクターによって提供される。1つの特に好ましい実施の形態で、上記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための上記抗原と上記手段の両方が、同じウイルス・ベクターによって提供される。この方法で、樹状細胞は、上記抗原及び上記手段と同時に提供されることが可能であり、それによって全体の効率が向上させられて、本発明による方法の実施が容易になる。この実施の形態で、上記ウイルス・ベクターは、好ましくは、樹状細胞の効率的な形質導入を可能にする親和性を含んで成る。
【0039】
別の態様で、本発明は、樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための抗原及び手段を含んで成る組成物を提供する。さらに、樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための抗原及び手段を含んで成る部品のキットが提供される。
【0040】
1つの実施の形態で、上記組成物生物または部品のキットはウイルス・ベクターで構成され、そこで、上記ベクターは、好ましくは、上記抗原及び/または上記抗原をコードする核酸で構成される。
【0041】
本発明は、樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を特に調節するための手段を含んで成るウイルス・ベクターをさらに提供する。1つの実施の形態で、本発明は、個体における抗原特異的CD8+T細胞応答を調節するための薬剤調製のための本発明によるウイルス・ベクターの用途を提供する。好ましくは、その用途において、上記調節は、上記ウイルス・ベクターによって提供される抗原に特異的である。
【実施例】
【0042】
実施例1 成熟樹状細胞のCTL媒介溶解からの防御
初めに、未成熟樹状細胞のCTL媒介死滅に対する感受性及び成熟樹状細胞の防御に関して他の研究者が報告した研究成果を再現するために実験を行った。これに関して、健康なヒト個体からの血液を単離し、次にそれを用いて、末梢血単核細胞をフィコール・段階を介して単離した。当業者に周知のVariomacs技術、及びCD14特異性抗体(Miltenyi Biotec GmbH)を用いて、単球を上記細胞群から単離した。これらの単球を6日間100 ng/mlのIL-4(Bioscource International, Inc.)及び800 IU/mlのGM-CSF(Leucomax; Novartis)の存在下で培養し、未成熟樹状細胞を得た。未成熟樹状細胞に対する単球の適切な分化を、抗体(BD Pharmingen)で検出される細胞表面発現を介してFACScaliber装置を用いてモニターした。一般免疫学の技術分野における当業者に周知のように、マーカーCD1a、CD86、HLA ABC及びHLA DRは、未分化CD14+単球と比較すると、未成熟樹状細胞で上方制御されるので、成熟樹状細胞は、CD83の発現によって識別される。図1は、この単離/分化法を用いて得られた結果を示し、さらに、その細胞で実験を続けるかを決定する根拠となる質に関する基準を提供する。明らかに、用いられた技術によって、未成熟樹状細胞の本質的に純粋な細胞群が、ヒト個体の血液から得られた。
【0043】
in vitroで樹状細胞を人工的に成熟させるために、多くの異なる刺激を未成熟樹状細胞の培地に添加して、そのような完全に成熟した樹状細胞を得ることができる。これらの刺激は、別々に用いることが可能であり、200 ng/mlのリポ多糖類(LPS)、50μg/mlの Poly:IC(いずれもSigma)、30%(最終容積)単球条件培地(MCM)、CD40L、または100 ng/mlのTNF-α(PreproTech, Inc.)などがある。成熟プロセスは、FACScaliber及び特異的抗体(CD1a、CD14、CD83、CD86、HLA-A、-B、-C及び/または-DR)を用いてモニターした。その結果を図1に示す。
【0044】
培養6日後、成熟及び未成熟樹状細胞を、10 mMのユーロピウム、25 mMのDTPA及び硫酸デキストラン(Sigma)の混合物中で30分間氷上でラベル付けした。上記細胞を、5分間氷上で100 mMのCaCl2(Sigma)の培養段階によって回収する。この培養の後、上記細胞を洗浄し、30から60分室温(RT)に放置し、もう1度洗浄して、ユーロピウムの自然発生的な漏出の大部分を除去した。
【0045】
次の段階で、細胞を、CTLクローンによって認識される抗原に添加した。この点について、周知のgp100黒色腫抗原を、マウスKbハプロタイプとヒトHLA-A2ハプロタイプ(Dr R. Offringa, Dept. Immunohematology, LUMC, The Netherlandsより寄贈)の両方との関連でgp100タンパク質を認識するgp100特異的CTLクローン8Jと組み合わせて用いた。成熟または未成熟樹状細胞を、2000細胞/ウェルの濃度で96ウェル・プレートでRPMI培地を用いて培養した。続いて、8J CTLを効果細胞として成熟または未成熟樹状細胞へ異なるエフェクター対標的細胞の比率、25:1、12.5:1、及び6.25:1で加えた。
【0046】
最後に、10μg/mlの合成的に産生したペプチド(gp100ペプチド、アミノ酸154-162)を上記細胞に加え、細胞を4時間37℃で培養した。20μlの上清を回収し、200μl/ウェルの増強溶液(Wallac/Perkin Elmer Life Science)を入れた平底マイクロタイター・プレート(Maxisorp F-96, Nunc)へ移した。成熟及び未成熟樹状細胞のCRL媒介溶解を示すユーロピウムの放出を、時間分解蛍光光度計(Wallac/Perkin Elmer Life Science)を用いて検出した。これらの実験から得られた結果を図2Aに示すが、文献(Medema et al. 2001)で述べられているように、未成熟樹状細胞はCTL媒介溶解に感受性を持つのに対して、成熟樹状細胞は防御されることが示されている。従って、これらの結果によって、抗原提示細胞を感作することに基づくウイルス免疫逃避メカニズム免疫を研究するために用いられるアッセイが有効とされる。
【0047】
実施例2 成熟樹状細胞のアデノウイルス媒介感作
ヒト末梢血単核細胞から成熟及び未成熟樹状細胞を得るための手順、ユーロピウムの細胞への添加、及びgp100ペプチドの添加は、概ね上に述べられた通りであった。樹状細胞を48時間、複製欠損アデノウイルス・ベクター(1細胞あたり1000個のウイルス粒子(vp/細胞))で培養した。コントロールは、アデノウイルスを用いずに培養した。用いられたアデノウイルスは、アデノウイルス血清型5(Ad5)に基づいているが、完全なアデノウイルスE1領域は欠失している。また、用いられるベクターは、アデノウイルス血清型35に由来するファイバー分子を運ぶために遺伝子操作され、それによって樹状細胞に対するより良好な親和性が与えられている。異なる(他の)血清型からのファイバーを保有するAd5ウイルスの産生は、国際公開第 00/03029号及び国際公開第 02/24730号に広範に述べられている。上記ベクターは、B型肝炎ウイルスに由来するポリアデニル化シグナルを3’末端に有するポリリンカーの上流のCMVプロモータから成る真核細胞発現カセットを、E1領域内に含んでいる。ホタル・ルシフェラーゼタンパク質をコードするcDNAを述べられたように上記ポリリンカーでクローニングした(国際公開第 00/03029号、国際公開第 00/31285号)。
【0048】
感染させられ、ユーロピウムを添加され、そして、gp100ペプチドを添加された細胞で行なったユーロピウム・アッセイの結果を図2Bに示す。アデノウイルスに暴露された成熟及び未成熟樹状細胞の両方とも、CAL媒介死滅に対して極度に感受性を有する。これらの結果によって、E1を欠失するアデノウイルス(第1世代遺伝子導入ベクターとも称される)は、上記樹状細胞を感作し、その結果CTL媒介死滅をもたらすことが示される。
【0049】
どのアデノウイルスタンパク質が関与しているかをさらに詳しく調べるために、上に述べられたような実験を、E1、E2A、E3、E4に関してポジティブまたはネガティブであるか、あるいは、例えばE4発現で減弱されたアデノウイルス・ベクターを用いて繰り返した。E1及びE2Aの欠失のような、異なる欠失/突然変異の組み合わせを保有するウイルスも実験される。そのようなウイルスは、当業者に周知の技術を用いて産生することが可能であり、アデノウイルス・パッケージング細胞株の欠失領域のウイルス・バックボーン及びトランス相補性からのそのような領域の欠失を含んでいる(国際公開第 01/05945号、国際公開第 01/07571号、国際公開第 01/20014号)。これらの実験によって、初期アデノウイルスタンパク質が、成熟樹状細胞の感作に関与しているかどうかの識別が可能になる。
【0050】
実施例3 組み換えアデノウイルスによる成熟樹状細胞感作の調節
文献で報告されているように、マウスにおけるSPI-6またはヒトにおけるPI-9の上方制御またはレベルの維持は、CTL媒介死滅に対して防御するため、成熟樹状細胞によって用いられる生物学的経路に少なくとも部分的に関与している。アデノウイルスが、PI-9経路を介して樹状細胞を感作しているかどうかを詳しく調べるために、2つの異なる実験法を行う。(1)アデノウイルス・ベクターに暴露させるか、または暴露させない、いずれかのヒト樹状細胞におけるPI-9のタンパク質及び/またはRNA発現レベルを判定するためのウェスタン・ブロット分析及び/または逆転写PCR。(2)PI-9 cDNAを運ぶアデノウイルス・ベクターを産生し、次に成熟及び未成熟樹状細胞を感染させ、CTL媒介死滅へのPI-9過剰発現の効果を判定する方法。
【0051】
PI-9の発現レベルを判定するために、成熟及び未成熟樹状細胞に由来するヒト単球を上に述べられたように得る。上記細胞を、3つの6ウェル・プレートに1ウェルあたり細胞2.5 x 106個の濃度で播種する。次に、ウイルス無し、または1000 vp/細胞のAd5,ルシフェラーゼ(ネガティブ・コントロール)またはAd5.PI-9ウイルスを加えて、感染を24時間進行させる(成熟及び未成熟ヒト樹状細胞の両方を用いて、各実験要素について同じものを3つずつ)。24時間後、各ウェルの細胞を回収して、ユーロピウム細胞溶解アッセイのために用い(1ウェル)、タンパク質溶解物を生成し(1ウェル)、そして、逆転写酵素PCRのために細胞群からRNAを単離する(1ウェル)。ユーロピウム細胞溶解アッセイを上に述べられたように行なう。PI-9タンパク質発現レベルを判定するためにウェスタン・ブロット分析を、合計10μgのタンパク質全体をタンパク質分離ゲル(Invitrogen、NP0321、Nupage 4-12% Bis-Tris GelまたはBiorad、Criterionゲル)上に添加することによって、製造業者によって提供される使用説明書を用いて行う。タンパク質は、Immunobilon-Program PVDF膜(孔径:0.45μm)へ移される。上記膜は、ブロッキング用緩衝液(5%粉乳、及びPBS中の0.1%Tween-20)で1時間ブロッキングされる。PI-9タンパク質を視覚化するために、抗血清MoAb17及び/またはPI9-Kを用いる。マウス・モノクローナル抗体MoAb17(サブタイプIgG1)は、ヒトPI-9タンパク質に特異的であり、マウスSPI-6タンパク質と効果的に交差反応する(Bladergroen et al. 2001)。PI-9タンパク質の検出のために、MoAb17をPBS(3.6 μg/ml)に希釈し、ウェスタン・ブロットに加えて、3時間室温でインキュベートする。その後、上記抗体溶液を、10 mlのPBSで2回ブロットを洗浄することによって除去する。MoAb17とブロットの結合を、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)-標識付け二次抗マウスIgG1抗体及びECL検出システムを用いて、製造業者(Amersham)によって提供された使用説明書に従って、当業者に周知の一般的な方法を用いて視覚化する。
【0052】
PI-9発現レベルを逆転写PCRで判定するために、すべてのRNAを1群あたり106個の細胞からTRIzol(Life Technologies)を用いて、製造業者によって提供された使用説明書に従って単離する。得られたRNAを無RNAse水に溶解し、製造業者の指示に従ってDNAse(Life technologies)でインキュベートする。次に、そのRNAse溶液を、70℃で10分間1μgのオリゴdTプライマー及び100 ngのランダム六量体プライマーの存在下で総量15μlでインキュベートする。RNAを氷上に保持し、dNTP、DTT、5μlのファースト・ストランド緩衝液、及び1ユニットのRNAseH-スーパースクリプト II逆転写酵素を添加し(すべての試薬はInvitrogenから入手)、42℃で50分間インキュベートした。その反応は、70℃で10分間のインキュベートによって停止する。PI-9特異的PCRについては、1μlのcDNA溶液をPCR反応で用いる。1つのエクソン内に位置するフォワード・プライマー(PI-9F:5’−GGC ATT TGG GAA TTG TTG ATG−3’)及びリバース・プライマー(PI-9R:5’−TGG CGA TGA GAA CCT GCC AC−3’)を、1反応1プライマーあたり10 pmolの濃度で添加する。さらに、1反応あたり、2mmolのdNTP、1x MgCl2、2.5 U Taqポリメラーゼ、1x Taq緩衝液(すべてInvitrogenから)、及びH2Oが50μl の容量に添加される。PCR反応は、一般に、以下の基本的なプログラムを用いて行われる。 94℃で5分間、その後、94℃で1分間、60℃で30秒間、そして72℃で1分間を35サイクル行う。20サイクルの後、3サイクルごとに、5μlのPCR生成物を反応チューブから等分し、アガロース・ゲル電気泳動法によって分析し、PI9 PCR生成物の量を半定量的に決定する。
【0053】
成熟及び未成熟樹状細胞におけるPI-9タンパク質の過剰発現が、感受性を持つ細胞のCTL死滅に対する防御を結果としてもたらすかどうかを判定するために、そのような成熟及び未成熟樹状細胞を、ヒトPI-9 cDNAを保有するアデノウイルスに感染させることは有用である。初めに、PI-9 cDNAをクローニングしなければならない。このため、RNA全体を、約5x105個の成熟ヒト単球由来樹状細胞から、TRIzol試薬(Life Technologies)及び製造業者によって提供された使用説明書を用いて単離する。cDNAを、この細胞RNAから、逆転写PCRを介してランダム六量体RT-PCRキット(Applied Biosystems, N808-0234)を用いて、製造業者によって提供された使用説明書に従って産生する。次に、上記cDNAをテンプレートとして用いて、PCRによってヒトPI-9の完全なコード領域を増幅する。この点に関して、オリゴヌクレオチドPI-9Forw(5’−GGG GTA CCG CCA CCA TGG AAA CTC TTT CTA AGT GG−3’)及びPI-9Rev(5’−CGG GAT CCT TAT GGC GAT GAG AAC CTG C−3’)を合成する(InvitroGen)。PI-9ForwはKpnI制限酵素認識部位を含んでおり、PI-9RevはBamHI制限酵素認識部位を含んでいる。以下のPCRプログラムを適用する。 94℃で5分間、その後、94℃で1分間、59℃で30秒間、そして、72℃で1分間を30サイクル行う。PCR反応は、72℃で10分間のインキュベーションによって終了させる。5μlのPCR生成物をアガロース・ゲル電気泳動法によって分析する。PCR増幅生成物は、1153塩基対の断片である。その後、20μlのPCR生成物を、プラスミドpAdapt(国際公開第 00/63403号)のように、制限酵素KpnI及びBamHIで消化する。簡潔に述べると、pAdaptは、約5000塩基対のAd5ゲノムの左末端を含んでいる。このアデノウイルス領域内で、E1タンパク質をコードするドメインを完全に除去し、CMVプロモータ及びBGA ポリAで構成される真核生物発現カセットによって置換する。その後、上記KpnI/BamHI消化PI-9核酸を、KpnI/BamHI消化pAdaptプラスミドへ、分子生物学の技術分野の当業者に周知の一般的な方法を用いてクローニングする。pAdaptへの正確な挿入及びヒトPI-9コード配列の正確な増幅は、制限消化パターン及び/または配列によって確認する。PI-9核酸を運ぶ組み換えアデノウイルスを得るために(そこで、上記ウイルスは、ヒト樹状細胞に対して親和性を有する)、PI-9配列を運ぶpAdaptプラスミドを初めにPacIで消化し、上記プラスミドからウイルス配列を除去し、その後、PER.C6TM細胞のようなパッケージング細胞に、残り31,000塩基対のAd5ゲノムの右末端を含んでいるPacI消化コスミドと共にトランスフェクトする(これらの手順の詳細は国際公開第 99/55132号を参照)。樹状細胞に対する親和性は、Ad5バックボーンのファイバー部を、樹状細胞特異的親和性を保有する別の血清型からのファイバー部に置換するか、あるいは、樹状細胞のような細胞に天然の親和性を有するアデノウイルス血清型を用いることのいずれかによって、提供される。例えば樹状細胞に対する親和性を有するアデノウイルスの例は、アデノウイルス血清型11及び35(Ad11及びAd35)である。本実施例は、Ad5fib35.PI-9キメラ・ウイルスの利用に限定されているが、Ad11及び/またはAd35バックボーンを用いるその他の実験も行われ、そこで、これらのアデノウイルス・ベクターは、PI-9タンパク質をコードする核酸を保有する。これらの場合に、ファイバーまたはファイバーの一部、またはウイルス外皮のその他の部分を交換する必要はない。そのような標的にする目的のためのAd11、Ad35及びその他の非C群アデノウイルスの利用について記述されてきた(国際公開第 00/70071号及び国際公開第 02/40665号)。トランスフェクションの後、機能的アデノウイルス・ゲノムが形成され、上記アデノウイルス・ゲノムは、パッケージング細胞によって提供されるヘルパー機能によって複製を行い、子孫ウイルスを形成するためにパッケージングされ、宿主細胞の溶解のために培地へ放出される。ウイルスの産生、精製及び滴定は、アデノウイルス産生の技術分野の当業者に十分周知の技術及び手順を用いて行われる。上記キメラ・ウイルスは、コードされたAd5.Fib35.PI-9である。
【0054】
成熟及び未成熟樹状細胞を上に述べられたように産生する。成熟及び未成熟樹状細胞の両方を、1ウェルあたり細胞1 x 106個の濃度の6ウェル・プレートに播種し、Ad5.Fib35(導入遺伝子なし)またはAd5.Fib35.PI-9のいずれかの1000 vp/細胞に、コントロールとして非感染細胞を用いて暴露する。48時間後、細胞を回収し、細胞溶解物を上に述べられたように調製する。MoAb17及びウェスタン・ブロット分析を用いて、PI-9タンパク質発現レベルを成熟及び未成熟樹状細胞内で判定する。PI-9タンパク質発現の上方及び下方制御が相互に関連があるか、従って、成熟及び未成熟樹状細胞は、CTL媒介死滅に対して防御されているかをさらに判定するために、上に述べられた実験を平行して行うが、細胞をユーロピウム細胞毒性アッセイのために取り出す。成熟及び未成熟樹状細胞の両方とも、Ad.lucウイルスに感染した場合、主としてCTL応答によって死滅するが、PI-9遺伝子を運ぶウイルスを用いる場合、かなりの程度で生き延びる。
【0055】
実施例4 SPI-6をコードするウイルスでの抗アデノウイルス体液性及び細胞性応答の有効性のin vivoにおける判定
抗アデノウイルス体液性及び細胞性応答に対する未成熟及び成熟抗原提示細胞における過剰発現するPI-9のin vivoでの効果を詳しく調べるために、ヒトPI-9のマウス相同物、すなわちセリンタンパク質分解酵素インヒビター6(SPI-6)をコードするcDNAを運ぶアデノウイルス・ベクターも産生する。これに関して、先ずSPI-6 cDNAを産生する。SPI-6 cDNAをPCR増幅するために、細胞RNA全体を、肺、脾臓、腎臓あるいは心臓のような、SPI-6 RNAを高発現するマウス樹状細胞または組織から単離し、続いて上に述べられたようにcDNAに転換する。完全なコード配列を、プライマーSPI-6 F(5’ -GGG GTA CCG CCA CCA TGA ATA CTC TGT CTG AAG G- 3’)及びSPI-6 R(5’ -CGG GAT CCT TAT GGA GAT GAG AAC CTG CC- 3’)でPCRによって増幅し、1147塩基対のPCR生成物を産生する。この生成物を、上に述べられたようにKpnI及びBamHIで消化した後、pAdAptにクローニングする。続いて、Ad5.Fib35.SPI-6と称されるキメラ・ベクターを用いて、PER.C6TMのような、宿主細胞内の組み換え非複製ウイルスを産生する。その後、ウイルスを上に述べられたように本技術分野の当業者に周知の方法を用いて精製、滴定する。
【0056】
コントロールとしてのAd5.Fib35.ウイルス及びAd5.Fib35.SPI-6ウイルスを別々のマウスに1010個のウイルス粒子の投与量で筋肉注射する。注射から2週間後、これらのマウスからの脾臓を、ウイルスに対する抗体応答のためのT細胞応答及び血清について分析する。中和アッセイ、IFN-γ産生及び細胞内染色などこれらの分析は、免疫応答の分野の当業者に十分周知の技術及び手順を用いて行う。これらの実験によって、in vivoでアデノウイルス・ベクターに対する体液性及び細胞性免疫応答の誘起に関するSPI-6の役割を特定することが可能になる。
【0057】
実施例5 ウイルス・ベクターに対する免疫SPI-6の役割
Ad5.Fib35.及びAd5.Fib35.SPI-6を別々のマウスに1010個のウイルス粒子の投与量で筋肉注射する。2週間後、Ad5.Fib35.lucの1010個のウイルス粒子を各マウスに筋肉注射し、1、2、4、8及び12日後にマウス群を致死させ、筋肉組織を単離する。組織を600μlの冷たいPO4緩衝液pH 7.8でホモジナイズし、続いて400μlの溶解緩衝液(PO4緩衝液pH 7.8、1mMのDTT + 0.1 % Triton X-100)を加える。溶解された筋肉サンプルを凍結融解し、20μlをホワイト・クリニプレート(Thermo Lifescience)に移す。プレートをルミノスキャン(Thermo Lifescience)に載置し、20μlのルシフェラーゼ基質(Luciferase-assey systems, Promega)を加え、ルシフェラーゼ活性を10秒間測定する。ルシフェラーゼ活性の量は、導入遺伝子を発現させる筋肉細胞の数を表す。この活性は、Ad5.Fib35.SPI-6の初回抗原刺激を受けたマウスで上記ベクターに対する免疫が増強されるために、従って、Ad5.Fib35.(導入遺伝子なし)の初回抗原刺激を受けたマウスの長期発現と比較しても、減少するのであろう。空ベクターを予備注射したマウスには、かなりの抗ベクターT細胞応答が引き起こされる。注射を受けたマウスのルシフェラーゼ活性はすぐに増加し、数日後、アデノウイルス感染筋肉細胞のT細胞除去によって減少する。対照的に、Ad5.Fib35.SPI-6を予備注射したマウスは、コントロール・マウスと比較して、より弱いベクター特異的T細胞免疫を備えることが予想され、筋肉細胞内にルシフェラーゼの長期発現を有することが予想される。
【0058】
結論として、抗原提示細胞を標的にする上で、CMVプロモータのような強力なプロモータの制御下でPI-9をコードする核酸と組み合わせて、標的抗原をコードする異種核酸を運ぶウイルス・ベクターを用いることによって、通常であればCTL死滅に対して感作されるであろう、その細胞内の標的抗原の発現中にPI-9の過剰発現という結果がもたらされるであろう。その後、この過剰発現は、上記細胞がCTL応答によって除去されるのを防ぎ、従って、標的抗原に対する、より長い(そして恐らくより強力な)免疫応答という結果に至るであろう。これは、ワクチン接種の用途において極めて有益であろう。
【0059】
対照的に、遺伝子治療の用途(例えば、腫瘍細胞を標的にするため)にウイルス・ベクター、−ここで、これらウイルス・ベクターは、核酸またはPI-9発現を下方制御する生物体と組み合わせて治療用タンパク質をコードする所定の遺伝子を運ぶ−を用いることによって、適用されているウイルス・ベクターに対する免疫応答は結果として減少するであろうが、その理由は、上記ウイルスからの抗原を提示する抗原提示細胞が速やかに除去されるからであろう。その後、これらウイルス抗原提示細胞のこの速やかな排除によって、標的にされている腫瘍細胞に対する、より強力で長期の効果という結果がもたらされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】CD14+細胞(単球)、未成熟樹状細胞(グレー太線)及び成熟樹状細胞(黒細線)、そして、アデノウイルスに感染した未成熟及び成熟樹状細胞を、示されるような6つの異なるαヒトmABで染色した。単球だけがCD14を発現した。単球の未成熟樹状細胞への分化は、CD14の喪失、及びCD86、HLA ABC(MHCクラスI)及びHLA DR(MHCクラスII)の発現によって証明される。樹状細胞の成熟は、CD83発現の誘導、及びCD86、HLA ABC及びHLA DRの発現増加によって証明される。アデノウイルス感染は、発現レベルの有意な相違を示さなかった。
【図2】成熟(白記号)及び未成熟(黒記号)樹状細胞のCTL死滅を示す図。図2(A):ペプチドを添加された成熟樹状細胞は、穏やかに死滅したのみであるのに対して、未成熟樹状細胞は、CTL媒介死滅に感受性を有していた。図2(B):アデノウイルス・ベクターに感染した場合、成熟及び未成熟樹状細胞の両方が、死滅に対する高度な感受性を有していた。
【0061】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス・ベクターに受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターにおいて、前記ウイルス・ベクターが、前記細胞内で発現したときに、前記細胞内のタンパク質分解酵素インヒビター9(PI-9)のレベル及び/または活性を増加させるか、または本質的に安定なレベルに維持する異種核酸配列を含んで成ることを特徴とする、前記ウイルス・ベクター。
【請求項2】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルス、アルファウイルス、ポックス・ウイルス、ワクシニア・ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びインフルエンザ・ウイルスで構成される群から選択されることを特徴とする請求項1記載のウイルス・ベクター。
【請求項3】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルスまたはその機能的類縁体であることを特徴とする、請求項2記載のウイルス・ベクター。
【請求項4】
前記アデノウイルスが、B亜群由来のアデノウイルス血清型であることを特徴とする、請求項3記載のウイルス・ベクター。
【請求項5】
前記B亜群由来のアデノウイルス血清型が、Ad11、Ad26、Ad35及びAd50で構成される群から選択されることを特徴とする、請求項4記載のウイルス・ベクター。
【請求項6】
前記アデノウイルスが、少なくとも2つの異なるアデノウイルス血清型由来のタンパク質及び/またはタンパク質断片でからなるキメラ・カプシドで構成されることを特徴とする、請求項3記載のウイルス・ベクター。
【請求項7】
前記細胞が抗原提示細胞(APC)であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項8】
前記細胞が、樹状細胞またはB細胞であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項9】
前記樹状細胞が未成熟であることを特徴とする、請求項8記載のウイルス・ベクター。
【請求項10】
前記樹状細胞が成熟していることを特徴とする、請求項8記載のウイルス・ベクター。
【請求項11】
前記樹状細胞が、動脈周囲指状嵌入樹状細胞であることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項12】
前記異種核酸が、PI-9をコードする核酸またはその機能的同等物で構成されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項13】
ウイルス・ベクターに受容性を持つ細胞へ異種核酸を送達することが可能なウイルス・ベクターにおいて、前記ウイルス・ベクターは、前記ウイルス・ベクターが前記細胞内で発現した場合に、前記細胞内のPI-9のレベル及び/または機能性を減少させる異種核酸配列を含んで成ることを特徴とする、前記ウイルス・ベクター。
【請求項14】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルス、アルファウイルス、ポックス・ウイルス、ワクシニア・ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びインフルエンザ・ウイルスで構成される群から選択されることを特徴とする、請求項13記載のウイルス・ベクター。
【請求項15】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルスまたはその機能的類縁体であることを特徴とする、請求項14記載のウイルス・ベクター。
【請求項16】
前記アデノウイルスが、B亜群由来のアデノウイルス血清型であることを特徴とする、請求項15記載のウイルス・ベクター。
【請求項17】
前記B亜群由来のアデノウイルス血清型が、Ad11、Ad26、Ad35及びAd50で構成される群から選択されることを特徴とする、請求項16記載のウイルス・ベクター。
【請求項18】
前記アデノウイルスが、少なくとも2つの異なるアデノウイルス血清型由来のタンパク質及び/またはタンパク質断片からなるキメラ・カプシドで構成されることを特徴とする、請求項15記載のウイルス・ベクター。
【請求項19】
前記細胞が、抗原提示細胞(APC)であることを特徴とする、請求項13から18のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項20】
前記細胞が、樹状細胞またはB細胞であることを特徴とする、請求項13から19のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項21】
前記樹状細胞が未成熟であることを特徴とする、請求項20記載のウイルス・ベクター。
【請求項22】
前記樹状細胞が成熟していることを特徴とする、請求項20記載のウイルス・ベクター。
【請求項23】
前記樹状細胞が、動脈周囲指状嵌入樹状細胞であることを特徴とする、請求項20から22のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項24】
前記異種核酸が、アンチセンスPI-9 RNAをコードする核酸またはその機能的同等物で構成されることを特徴とする、請求項13から23のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか1項に記載のウイルス・ベクター、及び薬学的に許容できる担体で構成される医薬品組成物。
【請求項26】
請求項1から24のいずれか1項に記載のウイルス・ベクターに接触した及び/または感染した樹状細胞。
【請求項27】
細胞のCTL感受性を調節する方法において、上記方法が、前記細胞内で発現した場合に、前記細胞内のPI-9のレベル及び/または活性を増加させるか、あるいは本質的に安定なレベルに維持する異種核酸配列を含んで成るウイルス・ベクターに、前記細胞を感染させる段階を含む方法。
【請求項28】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルス、アルファウイルス、ポックス・ウイルス、ワクシニア・ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びインフルエンザ・ウイルスで構成される群から選択されることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルスまたはその機能的類縁体であることを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記アデノウイルスが、B亜群由来のアデノウイルス血清型であることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記B亜群由来のアデノウイルス血清型が、Ad11、Ad26、Ad35及びAd50で構成される群から選択されることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記アデノウイルスが、少なくとも2つの異なるアデノウイルス血清型由来のタンパク質及び/またはタンパク質断片でからなるキメラ・カプシドで構成されることを特徴とする、請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が抗原提示細胞(APC)であることを特徴とする、請求項27から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が、樹状細胞またはB細胞であることを特徴とする、請求項27から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記樹状細胞が未成熟であることを特徴とする、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記樹状細胞が成熟していることを特徴とする、請求項34記載の方法。
【請求項37】
前記樹状細胞が、動脈周囲指状嵌入樹状細胞であることを特徴とする、請求項34から36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記異種核酸が、PI-9をコードする核酸またはその機能的同等物で構成されることを特徴とする、請求項27から37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
細胞のCTL感受性を調節する方法において、上記方法が、前記細胞内で発現した場合に、前記細胞内のPI-9のレベル及び/または活性を減少させる異種核酸配列を含んで成るウイルス・ベクターに、前記細胞を感染させる段階を含む方法。
【請求項40】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルス、アルファウイルス、ポックス・ウイルス、ワクシニア・ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びインフルエンザ・ウイルスで構成される群から選択されることを特徴とする、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルスまたはその機能的類縁体であることを特徴とする、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記アデノウイルスが、B亜群由来のアデノウイルス血清型であることを特徴とする、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記B亜群由来のアデノウイルス血清型が、Ad11、Ad26、Ad35及びAd50で構成される群から選択されることを特徴とする、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記アデノウイルスが、少なくとも2つの異なるアデノウイルス血清型由来のタンパク質及び/またはタンパク質断片でからなるキメラ・カプシドで構成されることを特徴とする、請求項41記載の方法。
【請求項45】
前記細胞が抗原提示細胞(APC)であることを特徴とする、請求項39から44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記細胞が、樹状細胞またはB細胞であることを特徴とする、請求項39から45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記樹状細胞が未成熟であることを特徴とする、請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記樹状細胞が成熟していることを特徴とする、請求項46記載の方法。
【請求項49】
前記樹状細胞が、動脈周囲指状嵌入樹状細胞であることを特徴とする、請求項46から48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記核酸が、アンチセンスPI-9 RNAをコードする核酸またはその機能的同等物で構成されることを特徴とする、請求項39から49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記抗原に対する樹状細胞媒介CD8+T細胞応答を引き出すことが可能なシステムで抗原に対する免疫応答を調節するための方法において、上記方法が、前記システムに前記抗原、及び前記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための手段を提供する段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項52】
前記抗原がウイルス・ベクターによって提供されることを特徴とする、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記ウイルス・ベクターが、アデノウイルス・ベクターを含むことを特徴とする、請求項51または請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を減少させるための手段を提供することによって、前記免疫応答が増大することを特徴とする、請求項51から53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を増強するための手段を提供することによって、前記免疫応答が減少することを特徴とする、請求項51から53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記手段が、グランザイムB媒介DNA断片化経路を調節できることを特徴とする、請求項54または請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記手段が、PI-9タンパク質またはその機能的同等物で構成されることを特徴とする、請求項56記載の方法。
【請求項58】
PI-9遺伝子またはその類縁体及び/または類縁物質の少なくとも一部で構成される核酸を前記樹状細胞に提供することによって、前記手段が前記樹状細胞へ提供されることを特徴とする請求項56記載の方法。
【請求項59】
前記手段が、PI-9タンパク質またはタンパク質分解酵素の活性部分をコードする核酸、その類縁体及び/または類縁物質で構成されることを特徴とする、請求項57または請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための前記手段が、ウイルス・ベクターによって提供されることを特徴とする、請求項51から59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための抗原及び手段を含んで成る組成物。
【請求項62】
樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を調節するための抗原及び手段を含んで成る部品のキット。
【請求項63】
ウイルス・ベクターを含んで成る、請求項61に記載の組成物または請求項62に記載のキット。
【請求項64】
樹状細胞の抗原特異的CD8+T細胞媒介死滅を特異的に調節するための手段を含んで成るウイルス・ベクター。
【請求項65】
個体において抗原特異的CD8+T細胞応答を調節するための薬剤を調製するための請求項1から24、または64のいずれか1項に記載のウイルス・ベクターの使用方法。
【請求項66】
前記調節が、前記ウイルス・ベクターによって提供される抗原に特異的であることを特徴とする、請求項65記載の使用方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−500029(P2006−500029A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538051(P2004−538051)
【出願日】平成14年9月20日(2002.9.20)
【国際出願番号】PCT/NL2002/000608
【国際公開番号】WO2004/027073
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(301055549)クルセル ホランド ベー ヴェー (27)
【Fターム(参考)】