説明

ワクチン抗原およびアジュバントの粘膜送達のためのヒアルロン酸ポリマーの使用

【課題】広範な種々の抗原の免疫原性を増強するための、安全かつ有効なアプローチを提供すること。
【解決手段】ワクチン抗原、および必要に応じてアジュバントと組み合せたヒアルロン酸誘導体を含む、粘膜送達のための組成物が提供される。この組成物の生成方法、およびそれを用いた免疫方法もまた提供される。本発明は、一般に、生体接着性ポリマー系に関する。特に、本発明は、ワクチン抗原およびアジュバントの粘膜送達のためのヒアルロン酸ポリマーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、一般に、生体接着性ポリマー系に関する。特に、本発明は、ワクチン抗原およびアジュバントの粘膜送達のためのヒアルロン酸ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
粘膜免疫は、広範な種々の病原体に対して重要な防御機構を提供する。この点に関して、胃腸管、気道、および尿生殖器管の粘膜表面は、潜在的に感染性の細菌、ウイルスおよび時には寄生生物を含む外来抗原に連続的に曝露される。粘膜免疫応答は、このようなチャレンジに対して防御し、そして別個のかつ特殊化した特徴を有する。
【0003】
例えば、粘膜免疫系により産生される主な免疫グロブリンは、分泌IgAである。腸管のパイアー斑または鼻咽頭のリンパ系組織における特殊化された抗原取り込み細胞(マイクロフォールドまたはM細胞と呼ばれる)は、抗原を下層の粘膜結合リンパ組織(MALT)に輸送する。粘膜上皮の他の領域(例えば、多列気道上皮)において、樹状細胞は、抗原提示細胞として作用し、そして局所リンパ球またはMALTに移動する。抗原プロセシングおよび抗原提示がMALT中で生じ、その結果、抗原特異的IgA B細胞の活性化を生じる。引き続く活性化IgA−B細胞の、粘膜免疫系の他の構成要素(例えば、気道、腸管および生殖管)への輸送および再循環は、「共通の粘膜系」全体に散在する局所粘膜IgA応答を提供する。従って、粘膜免疫系は、粘膜表面により遭遇する抗原性チャレンジの型に対する応答に比類なく適合し、そして特定の病原体に対して最も有効な型の免疫応答を提供し得る。従って、粘膜免疫系を標的化する抗原送達機構は、免疫を達成するのに魅力的な手段を提供する。
【0004】
薬物の粘膜送達のために生体接着ポリマーを使用する試みがなされている。生体接着物は、長い期間、生物的基材に接着し得る、合成物質または天然に存在する物質である。例えば、カルボポール(Carbopol)およびポリカルボフィル(共に、ポリ(アクリル酸)の合成架橋誘導体である)は、インビトロで非常に良好な接着特性を示す。しかし、これらの生体接着物の性能は、インビボでは繰り返されなかった。さらに、このような生体接着物は、局所刺激をもたらし得る。よって、生体接着物送達系は、ほとんど市販されていない。
【0005】
従って、天然に存在する物質(例えば、レクチンおよび線毛タンパク質)に基づく生体接着物送達系の開発が注目された。これらの生体接着物は、レセプター媒介機構を介して粘膜細胞表面に接着する。別の天然の生体接着物は、ヒアルロン酸(ヒアルロナンとしてもまた公知である)である。ヒアルロン酸は、天然に存在するムコ多糖であり、D−グルクロン酸の残基およびN−アセチル−D−グルコサミンからなる。ヒアルロン酸は、結合組織ならびに滑液および眼の硝子体液および房水を含む脊椎動物の細胞外組織マトリックスにおいて見出されている。ヒアルロン酸は、インビボおよびインビトロの両方において生体接着性であることが示されている。
【0006】
ヒアルロン酸のエステル化誘導体は、生体適合性および生分解性であるミクロスフェアを産生するために使用されている。例えば、非特許文献1;特許文献1を参照のこと。これらのミクロスフェアは、多くの物質の粘膜送達に使用されている。例えば、特許文献2を参照のこと。例えば、非特許文献2は、ラットにおけるカルトシニンの腟送達の使用を記載する。さらに、非特許文献3および特許文献1は、ヒツジにおけるインスリンの鼻腔内送達のためのヒアルロン酸エステルミクロスフェアの使用を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第517,565号明細書
【特許文献2】国際公開第WO96/29998号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cortivoら、Biomaterials(1991)12:727〜730
【非特許文献2】Richardsonら、(Int.J.Pharm.(1995)115:9〜15)
【非特許文献3】Illumら、J.Controlled Rel.(1994)29:133〜141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ワクチン抗原を送達するためのヒアルロン酸誘導体の使用は、これまでのところ記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の開示)
本発明は、粘膜免疫およびヒアルロン酸送達技術を用いて、哺乳動物被験体における免疫応答を誘発するための有効な方法を提供する。本発明は、目的の抗原および必要に応じてアジュバントと組み合わせた、ヒアルロン酸誘導体(例えば、エステル化ヒアルロン酸ポリマーおよび自己架橋ヒアルロン酸ポリマー)の粘膜送達は、それらと同時投与された抗原の免疫原性を増強するように作用するという知見に基づく。特定の理論に結びつけられることを望まないが、ヒアルロン酸ポリマーの生体接着特性は、鼻腔からの粘膜線毛(mucociliary)クリアランスの速度を減少させ、それ故抗原と吸収する膜との間のより長い接触時間を可能にすると考えられている。さらに、粘膜上皮細胞間の密着結合において一過的な拡大(widening)が生じて、目的の抗原のより効率的な輸送を可能にする。ヒアルロン酸ポリマーの使用は、広範な種々の抗原の免疫原性を増強するための、安全かつ有効なアプローチを提供する。
【0011】
従って、1つの実施態様において、本発明は、ヒアルロン酸エステルポリマーおよび選択された抗原を含む組成物に関し、ここで、その抗原は、ヒアルロン酸ポリマーに対して約0.1%〜約40%(w/w)の抗原量で存在する。
【0012】
特に好ましい実施態様において、このヒアルロン酸エステルは、約75%〜約100%の遊離のカルボキル基が1つ以上のアルキル基でエステル化されたヒアルロン酸、およびこのヒアルロン酸ポリマーのこのカルボキシル基の約0.5%〜約20%が同じかまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基に架橋したヒアルロン酸の架橋誘導体からなる群より選択される。
【0013】
別の実施態様において、本発明は、(a)約75%〜約100%の遊離のカルボキシル基が1つ以上のアルキル基でエステル化されたヒアルロン酸、およびヒアルロン酸ポリマーのこのカルボキシル基の約0.5%〜約20%が同じかまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基に架橋した内部エステルを含むヒアルロン酸の架橋誘導体からなる群より選択されるヒアルロン酸エステルから構成されるミクロスフェア;(b)このミクロスフェア中に封入または吸着されている選択された抗原であって、ここでこの抗原は、ヒアルロン酸ポリマーに対して約2%〜約25%(w/w)の抗原量で存在する、選択された抗原;ならびに(c)免疫学的アジュバント、を含む組成物に関する。
【0014】
なおさらなる実施態様において、本発明は、上記の組成物を薬学的に受容可能な粘膜賦形剤と組み合わせる工程を包含する、薬学的組成物を作製する方法、および治療有効量のこの薬学的形組成物を、脊椎動物被験体に粘膜投与する工程を包含する免疫方法に関する。
【0015】
本発明は例えば、以下を提供する。
(項目1) ヒアルロン酸エステルポリマーおよび選択された抗原を含む組成物であって、該抗原が、ヒアルロン酸ポリマーに対して約0.1%〜約40%(w/w)の抗原量で存在する、組成物。
(項目2) 前記抗原が、ヒアルロン酸ポリマーに対して約2%〜約25%(w/w)の抗原量で存在する、項目1に記載の組成物。
(項目3) 前記ヒアルロン酸エステルが、約75%〜約100%の遊離のカルボキシル基が1つ以上のアルキル基でエステル化されたヒアルロン酸、および前記ヒアルロン酸ポリマーの該カルボキシル基の約0.5%〜約20%が同じまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基と架橋したヒアルロン酸の架橋誘導体からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
(項目4) 免疫学的アジュバントをさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目5) 前記アジュバントが、LT−K63およびLT−R72からなる群より選択される細菌性ADPリボシル化毒素の無毒化変異体である、項目4に記載の組成物。
(項目6) 前記選択された抗原がウイルス抗原である、項目1に記載の組成物。
(項目7) 前記選択された抗原がインフルエンザ抗原である、項目6に記載の組成物。
(項目8) 前記ヒアルロン酸エステルが、ミクロスフェアの形態で提供される、項目1に記載の組成物。
(項目9) 前記選択された抗原が、前記ミクロスフェア中に封入されている、項目8に記載の組成物。
(項目10) 前記選択された抗原が、前記ミクロスフェアに吸着されている、項目8に記載の組成物。
(項目11) 組成物であって、(a)約75%〜約100%の遊離のカルボキシル基が1つ以上のアルキル基でエステル化されているヒアルロン酸、およびヒアルロン酸ポリマーの該カルボキシル基の約0.5%〜約20%が同じまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基と架橋したヒアルロン酸の架橋誘導体からなる群より選択される、ヒアルロン酸エステルポリマーから構成されているミクロスフェア;(b)該ミクロスフェア中に封入、または吸着されている選択された抗原であって、該抗原が、ヒアルロン酸ポリマーに対して約2%〜約25%(w/w)の抗原量で存在する、抗原;ならびに(c)免疫学的アジュバント、を含む、組成物。
(項目12) 前記選択された抗原が前記ミクロスフェア中に封入されている、項目11に記載の組成物。
(項目13) 前記選択された抗原が前記ミクロスフェアに吸着されている、項目11に記載の組成物。
(項目14) 項目1に記載の組成物を薬学的に受容可能な粘膜賦形剤と組み合わせる工程を包含する、薬学的組成物を生成する方法。
(項目15) 項目11に記載の組成物を薬学的に受容可能な粘膜賦形剤と組み合わせる工程を包含する、薬学的組成物を生成する方法。
(項目16) 治療有効量の、項目14に記載の薬学的組成物を脊椎動物被験体に粘膜投与する工程を包含する、免疫方法。
(項目17) 治療有効量の、項目15に記載の薬学的組成物を脊椎動物被験体に粘膜投与する工程を包含する、免疫方法。
(項目18) 前記投与が鼻腔内でなされる、項目16に記載の方法。
(項目19) 前記投与が鼻腔内でなされる、項目17に記載の方法。
(項目20) 粘膜免疫のための医薬品の製造におけるヒアルロン酸エステルポリマーの使用であって、該医薬品が該ポリマーおよび選択された抗原を含み、ここで、該抗原がヒアルロン酸ポリマーに対して約0.1%〜約40%(w/w)の抗原量で存在する、使用。
【0016】
本発明のこれらの実施態様および他の実施態様は、本明細書中の開示を考慮すると当業者には容易に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、HAのみを筋肉内に(白抜きの棒)、HAおよびアジュバントLT−K63を鼻腔内に(黒塗りの棒)、ならびにHYAFF微粒子およびLT−K63とともにHAを鼻腔内に(斜交平行線の棒)投与されたブタにおける抗HA IgGの力価を示す。
【図2】図2は、HAのみを筋肉内に(白抜きの棒)、HAおよびアジュバントLT−K63を鼻腔内に(黒塗りの棒)、ならびにHYAFF微粒子およびLT−K63とともにHAを鼻腔内に(斜交平行線の棒)投与されたブタにおける抗HA IgAの力価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に示されない限り、化学、生化学、分子生物学、免疫学および薬理学の当該分野の技術範囲内の従来の方法を用いる。そのような技術は、文献において十分に説明される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(Easton、Pennsylvania:Mack Publishing Company、1990);Methods In Enzymology(S.ColowickおよびN.Kaplan編、Academic Press、Inc.);およびHandbook of Experimental Immunology、第I〜IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986、Blackwell Scientific Publications);およびSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989)を参照のこと。
【0019】
本明細書中で引用される(前出または後出に関わらず)全ての刊行物、特許および特許出願は、本明細書中でその全体において参考として援用される。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」および「その(the)」は、その内容が明らかに他のものを示すのでない限り、複数の参照を含む。従って、例えば、「抗原(an antigen)」に対する参照は、2つ以上のそのような因子の混合物を含む。
【0021】
(I.定義)
本発明を記載する際、以下の用語を使用し、そして以下に示すように定義されることを意図する。
【0022】
用語「ヒアルロン酸」および「ヒアルロナン」は、N−アセチル−D−グルコサミンへのβ1−3グルコシド結合により連結されたD−グルコン酸の反復モノマーユニットから構成され;β1−3グルコシド結合が単一のユニットを連結している、分枝していない長鎖の分子である、当該分野で認識される酸性の多糖(構造1、以下)を示すため本明細書中で使用される。
【0023】
【化1】

【0024】
「ヒアルロン酸誘導体」は、ヒアルロン酸由来の分子であり、そして当該分野において公知である任意の種々の物質(例えば、約75%から100%の遊離のカルボキシル基がアルキル基によってエステル化されているエステル化ヒアルロン酸分子、本明細書では、集合的には「HYAFF」と称する)を示す。この用語はまた、「混合」ヒアルロン酸エステルを含み、ここで、カルボキシル基は1つより多くのアルキル基でエステル化されている。このような「混合」エステルは、以下により十分に記載される。さらに、用語「ヒアルロン酸誘導体」はまた、ヒアルロン酸の自己架橋誘導体(本明細書中では「ACP」と称する)をいい、これは、内部エステルを含み、そしてここでは、ヒアルロン酸ポリマーのカルボキシル基の約0.5%〜約20%が、同じかまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基と架橋している。そのような分子は、以下により詳細に記載される。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「ミクロスフェア」は、直径約100nm〜約150μm、より好ましくは直径約200nm〜約30μm、そして最も好ましくは直径約500nm〜約10μmのヒアルロン酸粒子をいう。ミクロスフェアのサイズは、当該分野において周知の技術(例えば、光子相関分光法、レーザー回折法および/または走査型電子顕微鏡)により容易に決定される。本明細書中で使用するためのミクロスフェアは、より詳細に記載されるように、非毒性かつ生分解性であるヒアルロン酸ポリマーおよびその誘導体から形成される。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「アルキル」とは、分枝したかまたは分枝していない1〜24個の炭素原子の飽和炭化水素基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなど)およびシクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、ベンジルなど)をいう。
【0027】
「粘膜」送達とは、粘膜表面(鼻、肺、膣、直腸、尿道、および舌下を含む)への抗原の送達かまたは口腔送達を意味する。
【0028】
「抗原」とは、抗原が提示される場合、宿主の免疫系を刺激して細胞の抗原特異的免疫応答または体液抗体応答をもたらす、1つ以上のエピトープを含む分子を意味する。通常、エピトープは、約3〜15の間、一般的には約5〜15の間のアミノ酸を含む。
【0029】
本発明の目的のために、抗原は、任意のいくつかの公知のウイルス、細菌、寄生生物および真菌由来であり得る。この用語はまた、これらのうちの、任意の種々の腫瘍抗原を意図する。さらに、本発明の目的のために、「抗原」とは、タンパク質が免疫学的応答を誘発する能力を維持する限り、ネイティブな配列に対する改変(例えば、欠失、付加および置換(一般的に性質が保存的である))を含むタンパク質をいう。これらの改変は、部位特異的変異誘発によるように、意図的であり得るか、または抗原を産生する宿主の変異によるように、偶然であり得る。
【0030】
抗原または組成物に対する「免疫学的応答」は、被験体における、目的の組成物中に存在する分子に対する体液性および/または細胞性の免疫応答の発達である。本発明の目的のために、「体液性免疫応答」とは、抗体分子により媒介される免疫応答をいい、一方、「細胞性免疫応答」は、Tリンパ球および/または他の白血球により媒介される応答である。細胞免疫の1つの重要な局面は、細胞傷害性T細胞(「CTL」)による抗原特異的応答を含む。CTLは、主要組織適合性複合体(MHC)によりコードされ、そして細胞の表面で発現されるタンパク質と会合して提示されるペプチド抗原に対して特異性を有す。CTLは、細胞内微生物の細胞内破壊またはそのような微生物に感染した細胞の溶解の誘導および促進を補助する。細胞免疫の別の局面は、ヘルパーT細胞による抗原特異的応答を含む。ヘルパーT細胞は、細胞表面上でMHC分子と会合したペプチド抗原を提示する細胞に対して非特異的なエフェクター細胞の機能の刺激を補助するように、そして活性を集中させるように作用する。「細胞性免疫応答」とはまた、サイトカイン、ケモカインならびに活性化T細胞および/または他の白血球(CD4+T細胞およびCD8+T細胞由来の白血球)により産生されるそのような他の分子の産生をいう。
【0031】
細胞性免疫応答を誘発する組成物またはワクチンは、細胞表面でMHC分子と会合した抗原の提示により脊椎動物被験体を感作するように作用し得る。細胞媒介性免疫応答は、細胞表面で抗原を提示する細胞にか、またはその近くに指向される。さらに、抗原特異的Tリンパ球を産生して、免疫化宿主の将来的防御を可能にし得る。
【0032】
特定の抗原または組成物が細胞媒介性免疫学的応答を刺激する能力は、多くのアッセイ(例えば、リンパ球増殖(リンパ球活性化)アッセイ、CTL細胞傷害性細胞アッセイによるか、または感作された被験体中の抗原に特異的なTリンパ球についてアッセイすること)によって、決定され得る。そのようなアッセイは、当該分野において周知である。例えば、Ericksonら、J.Immunol.(1993)151:4189〜4199;Doeら、Eur.J.Immunol.(1994)24:2369〜2376;および以下の実施例を参照のこと。
【0033】
従って、本明細書中で使用される場合、免疫学的応答は、CTLの産生および/またはヘルパーT細胞の産生もしくは活性化を刺激する応答であり得る。目的の抗原はまた、抗体媒介性免疫応答を誘発し得る。それ故、免疫学的応答は、1つ以上の以下の効果を含み得る:B細胞による抗体の産生;ならびに/あるいは、目的の組成物またはワクチン中に存在する抗原に特異的に指向されるサプレッサーT細胞および/またはγδT細胞の活性化。これらの応答は、感染性を中和し、そして/または抗体−補体、すなわち抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を媒介して免疫化宿主に防御を提供するように作用し得る。そのような応答は、当該分野において周知の標準的なイムノアッセイおよび中和アッセイを用いて決定され得る。
【0034】
本明細書中に記載されるように、ヒアルロン酸ポリマーと組み合せた選択された抗原を含むワクチン組成物は、それがヒアルロン酸ポリマーなしでの等量の抗原により誘発される免疫応答よりも大きな免疫応答を誘発する能力を保有する場合、「増強された免疫原性」を提示する。従って、ワクチン組成物は、「増強された免疫原性」を提示し得る。なぜならば、この抗原は、脊椎動物被験体によってより容易に吸収されるからであるか、またはこの抗原はより強力な免疫原性であるからであるか、または抗原が投与される被験体における免疫応答を達成するために、より低い用量の抗原が必要とされるからである。そのような増強された免疫原性は、ポリマー/抗原組成物および抗原コントロールを動物に投与し、そして当該分野で周知の標準的アッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイおよびELISA)を用いて、この2つに対する抗体力価を比較することによって決定され得る。
【0035】
本明細書中で提供される場合、用語「有効量」または「薬学的有効量」の薬剤とは、無毒性であるが、所望の免疫学的応答および対応する治療効果を提供するのに十分な量の薬剤をいう。以下に指摘されるように、必要とされる正確な量は、被験体の種、年齢、および一般的状態、処置される状態の重篤度、ならびに目的の特定の抗原、投与の様式などに依存して被験体間で変化する。任意の個々の症例における適切な「有効」量は、慣用的な実験を用いて当業者により決定され得る。
【0036】
本明細書中で使用される場合、「処置」とは、(i)伝統的なワクチンにおいてのように、感染または再感染の予防、(ii)症状の軽減または除去、および(iii)問題の病原体の実質的または完全な除去のいずれかをいう。処置は、予防的(感染前)または治療的(感染後)に成し遂げられ得る。
【0037】
「薬学的に受容可能な」または「薬理学的に受容可能な」とは、生物学的にまたは他の点で望ましくないことがない物質を意味し、すなわち、この物質は、任意の望ましくない生物学的効果、またはこの物質が含まれる組成物の任意の成分との有害な様式での相互作用をもたらすことなく、微粒子処方物とともに個体に投与され得る。
【0038】
「脊椎動物被験体」とは、脊索動物(cordata)亜門の任意のメンバー(ヒトおよび他の霊長類(チンパンジーおよび他の無尾もしくは短尾のサル(ape)および有尾のサル(monkey)の種のような非ヒト霊長類を含む);ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマのような農業用動物;イヌおよびネコのような家庭用哺乳動物;マウス、ラットおよびモルモットのようなげっ歯類を含む実験用動物;ニワトリ、七面鳥および他のキジ類のトリ、アヒル、ガチョウなどのような家庭用、野生および狩猟用のトリを含む鳥類、を含むが、これらに限定されない)を意味する。この用語は、特定の年齢を示さない。従って、成体被験体および新生児被験体の両方を含むことが意図される。上記の系は、任意の上記の脊椎動物種において使用されることが意図される。なぜならば、これら全ての脊椎動物の免疫系は、同様に機能するからである。
【0039】
(II.発明を実施するための形態)
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、特定の処方物または処理パラメーターはもちろん変化し得るのでこのようなものに限定されないことが理解されるべきである。本明細書中で使用される用語は、本発明の特定の実施態様を記載する目的のためだけであり、そして限定することを意図しないこともまた理解される。
【0040】
本明細書中に記載される方法および材料と類似するかまたは等価な多くの方法および材料は、本発明の実施において使用され得、好ましい材料および方法は、本明細書中に記載される。
【0041】
本発明は、粘膜感染病原体に対する免疫応答を誘発するためのヒアルロン酸媒介送達技術を利用する。この系は、抗原がそれ自体免疫原性が弱い場合でさえも、強力な免疫応答を生じる。本明細書中に記載されるワクチン組成物および方法の個々の成分は公知であったが、そのような組合わせが、それらの成分を別々に使用した場合に達成されるレベルを超えて抗原の効率を増大させることは、予期されておらずかつ驚くべきことであった。
【0042】
本発明は、任意の上記の病原体に対する免疫応答を提供するのに広く利用可能であるが、本発明は、本明細書中ではインフルエンザウイルスに関して例証される。
【0043】
本発明の方法は、細胞媒介性免疫および/または体液性抗体応答を提供する。従って、本発明の方法は、細胞性および/または体液性免疫応答が所望される任意の抗原(抗体、T細胞ヘルパーエピトープおよびT細胞細胞傷害性エピトープを誘導し得るウイルス、細菌、真菌および寄生生物である病原体由来の抗原を含む)を用いた使用を見出す。そのような抗原には、ヒトおよび動物のウイルスによりコードされる抗原が含まれるが、それらに限定されず、そして構造タンパク質または非構造タンパク質のいずれかに対応し得る。
【0044】
例えば、本発明は、ヘルペスウイルス科からの広範な種々のタンパク質(単純ヘルペスウイルス(HSV)1型および2型由来のタンパク質(例えば、HSV−1およびHSV−2の糖タンパク質gB、gDおよびgH);水痘−帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン−バーウイルス(EBV)およびサイトメガロウイルス(CMV)由来の抗原(CMVのgBおよびgHを含む);ならびに、HHV6およびHHV7のような他のヒトヘルペスウイルス由来の抗原)に対する免疫応答を刺激するための使用を見出す。(例えば、サイトメガロウイルスのタンパク質コード内容の総説について、Cheeら、Cytomegaloviruses(J.K.McDougall編、Springer−Verlag 1990)125〜169頁;HSV−1にコードされる種々のタンパク質の考察について、McGeochら、J.Gen.Virol.(1988)69:1531〜1574;HSV−1およびHSV−2のgBタンパク質およびgDタンパク質ならびにそれらをコードする遺伝子の考察について、米国特許第5,171,568号;EBVゲノム中のタンパク質コード配列の同定について、Baerら、Nature(1984)310:207〜211;ならびに、VZVの総説について、DavisonおよびScott、J.Gen.Virol.(1986)67:1759〜1816を参照のこと)。
【0045】
A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、デルタ型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)およびG型肝炎ウイルス(HGV)を含む肝炎ウイルスの科由来の抗原はまた、本明細書中に記載される技術において都合よく使用され得る。例として、HCVのウイルスゲノム配列は、その配列を得るための方法と同様に公知である。例えば、国際公開第WO89/04669号;第WO90/11089号;および第WO90/14436号を参照のこと。HCVゲノムは、E1(Eとしてもまた公知である)およびE2(E2/NSIとしても公知である)を含むいくつかのウイルスタンパク質、ならびにN末端ヌクレオカプシドタンパク質(「コア」と呼ばれる)をコードする(E1およびE2を含むHCVタンパク質の考察について、Houghtonら、Hepatology(1991)14:381〜388を参照のこと)。これらの各々のタンパク質およびそれらの抗原性フラグメントは、本発明の方法において使用を見出す。同様に、HDV由来のδ抗原についての配列は公知であり(例えば、米国特許第5,378,814号を参照のこと)、そしてこの抗原はまた、本発明の方法において都合よく使用され得る。さらに、HBV由来の抗原(例えば、コア抗原、表面抗原、sAg、および前表面(presurface)配列pre−S1およびpre−S2(以前はpre−Sと呼ばれた)、および上記の組合わせ(例えば、sAg/pre−S1、sAg/pre−S2、sAg/pre−S1/pre−S2、およびpre−S1/pre−S2))は、本明細書中で使用を見出す。例えば、HBV構造の考察について、Mackett,M.およびWilliamson,J.D.の「HBV Vaccines−from the laboratory to licence:a case study」、Human Vaccines
and Vaccination、159〜176頁;ならびに米国特許第4,722,840号、同第5,098,704号、同第5,324,513号(それらの全体において参考として本明細書中で援用される);Beamesら、J.Virol.(1995)69:6833〜6838、Birnbaumら、J.Virol.(1990)64:3319〜3330;ならびにZhouら、J.Virol.(1991)65:5457〜5464を参照のこと。
【0046】
他のウイルス由来の抗原もまた、本願の方法における使用を見出す。その抗原は、例えば以下の科のメンバー由来のタンパク質であるがそれらに限定されない:ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルスなど);カリチウイルス科;トガウイルス科(例えば、風疹ウイルス、デング熱ウイルスなど);フラビウイルス科;コロナウイルス科;レオウイルス科;ビルナウイルス科;ラブドウイルス科(Rhabodoviridae)(例えば、狂犬病ウイルスなど);フィロウイルス科;パラミクソウイルス科(例えば、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルスなど);オルトミクソウイルス科(例えば、A型、B型およびC型のインフルエンザウイルスなど);ブンヤウイルス科;アレナウイルス科;レトロウイルス科(例えば、HTLV−I;HTLV−II;HIV−1(HTLV−III、LAV、ARV、hTLRなどとしてもまた公知である))(とりわけ、単離体HIVIIIb、HIVSF2、HIVLAV、HIVLAI、HIVMN;HIV−1CM235、HIV−1US4;HIV−2;サル免疫不全ウイルス(SIV)由来の抗原を含むが、これらに限定されない)。さらに、抗原はまた、ヒトパピローマウイルス(HPV)およびダニ媒介脳炎ウイルス由来であり得る。例えば、これらのおよび他のウイルスの説明について、Virology、第3版(W.K.Joklik編、1988);Fundamental Virology、第2版(B.N.FieldsおよびD.M.Knipe編、1991)を参照のこと。
【0047】
より詳細には、任意の上記のHIV単離体(HIVの種々の遺伝子サブタイプのメンバーを含む)由来のgp120エンベロープタンパク質は、公知でありそして報告されている(例えば、種々のHIV単離体のエンベロープ配列の比較について、Myersら、Los Alamos Database、Los Alamos National Laboratory、Los Alamos、New Mexico(1992);Myersら、Human Retroviruses and Aids、1990、Los Alamos、New
Mexico:Los Alamos National Laboratory;およびModrowら、J.Virol.(1987)61:570〜578を参照のこと)。そして、任意のこれらの単離体由来の抗原は、本発明の方法における使用を見出す。さらに、本発明は、任意の種々のエンベロープタンパク質(例えば、gp160およびgp41)、gag抗原(例えば、p24gagおよびp55gag)、およびpol領域由来のタンパク質を含む、任意の種々のHIV単離体由来の他の免疫原性タンパク質に等しく適用可能である。上記で説明するように、インフルエンザウイルスは、本発明が特に有用であるウイルスの別の例である。詳細には、インフルエンザAのエンベロープ糖タンパク質HAおよびNAは、免疫応答を生じるために特に重要である。インフルエンザAの多くのHAサブタイプが同定されている(Kawaokaら、Virology(1990)179:759〜767;Websterら、「Antigenic variation among type A influenza viruses」、127〜168頁、P.PaleseおよびD.W.Kingsbury(編)、Genetics of influenza viruses、Springer−Verlag、New York)。従って、任意のこれらの単離体由来のタンパク質はまた、本明細書中に記載される免疫技術において使用され得る。
【0048】
本明細書中に記載される方法はまた、多くの細菌性抗原(例えば、ジフテリア、コレラ、結核、破傷風、百日咳、髄膜炎および他の病的状態を引き起こす生物体(Meningococcus A、BおよびC、Hemophilus influenza B型(HIB)、およびHelicobacter pyloriを含むが、これらに限定されない))由来の細菌性抗原を用いた使用を見出す。寄生生物性抗原の例は、マラリアおよびライム病を引き起こす生物体由来の抗原である。
【0049】
さらに、本明細書中に記載される方法は、種々の悪性の癌を処置するための手段を提供する。例えば、本発明の系は、問題の癌に対して特異的な特定のタンパク質(例えば、活性化癌遺伝子、胎児の抗原または活性化マーカー)に対する体液性免疫応答および細胞媒介性免疫応答の両方を増大させるために使用され得る。そのような腫瘍抗原は、とりわけ、MAGE1、2、3、4など(Boon,T.、Scientific American(1993年3月):82〜89)を含む任意の種々のMAGE(メラノーマ関連抗原E);任意の種々のチロシナーゼ;MART1(T細胞によって認識されるメラノーマ抗原)、変異体ras;変異体p53;p97メラノーマ抗原;CEA(癌胎児抗原)を含む。
【0050】
本発明を使用して、広範な種々の疾患を予防または処置し得ることが容易に明らかである。
【0051】
選択された抗原は、引き続いての粘膜送達のためにヒアルロン酸ポリマーと組み合わせられる。本発明の組成物における使用のためのヒアルロン酸ポリマーは、例えば、Fidia Advanced Biopolymers Srl(Abano Terme、Italy)より入手可能である。例えば、本明細書中に記載される方法において有用なポリマーは、ヒアルロン酸のエステル化誘導体および自己架橋誘導体を含むが、これらに限定されない。これらのポリマーは、種々の分子量で入手可能であり、そして所定の抗原を用いる使用に適切な分子量は、当業者によって容易に決定される。従って、例えばエステル化誘導体について、適切な分子量は、約2,000〜300,000、より好ましくは約50,000〜約250,000、さらにより好ましくは約75,000〜約200,000、および最も好ましくは約100,000〜約150,000の桁である。
【0052】
特に有用な、ヒアルロン酸のエステル化形態は、約75%〜100%のカルボキシル基が、エチル、プロピル、ペンチル、ベンジル、ドデシルなどのようなアルキル基でエステル化され、遊離のカルボキシル基と対応するアルコールとの反応によって形成されるものである。このような誘導体は、その生体適合性およびエステル結合の加水分解により生分解される能力により、特に好ましい。上記のアルキル基でエステル化されない残基は、C1020の脂肪族アルコール由来の脂質鎖/アルキル残基と反応して「混合」エステルを生成し得る。この実施態様において、好ましくは75%のカルボキシル基が、例えばベンジル基でエステル化され、そして少なくとも約5%の残りの基が脂肪族アルコールでエステル化される。例えば、国際公開第WO97/07833号を参照のこと。
【0053】
エステル化ヒアルロン酸の代表的な構造は、以下に構造2として示され、ここで、Rは、上記のようなアルキル基を表す。
【0054】
【化2】

【0055】
このような誘導体は、例えば、米国特許第4,851,521号および同第4,965,353号、および欧州特許公開第517,565号に記載され、そして例えば、Fidia Advanced Biopolymers Srl(Abano Terme、Italy)より入手可能である。代表的な処方物としては、HYAFF7(エチルエステル)、HYAFF9(プロピルエステル)、HYAFF11(ベンジルエステル)、HYAFF21(ペンチルエステル)、HYAFF73(ドデシルエステル)など(これらは約100%エステル化されている):ならびにHYAFF11p50(ベンジルエステル)、HYAFF7p75(エチルエステル)、およびHYAFF11p75(ベンジルエステル)など(これらは約50〜75%エステル化されている)として公知の処方物が、挙げられる。
【0056】
これらの誘導体は、ヒアルロン酸中に存在する遊離のカルボキシル基と、触媒をする物質(例えば、強無機酸または酸型のイオン交換体)の存在下で、アルコールとの反応によって、または無機塩基もしくは有機塩基の存在下で、所望のアルコール性残基を導入し得るエーテル化剤との反応によって容易に生成される。例えば、ヒアルロン酸の第四アンモニウム塩は、欧州公開第216,453号に記載されるとおりにエーテル化剤(例えば、非プロトン性有機溶媒)を用いて処理され得る。また、本明細書中にその全体が参考として援用される、欧州公開第433,133号ならびに米国特許第4,851,521号および同第4,965,353号を参照のこと。
【0057】
エステル化の程度および型は、変更され得、そして主に選択の問題であり、以下でより詳細に記載されるように、同時投与される抗原、所望される生体接着の程度、ならびに所望される送達速度に部分的に依存する。エステル化の適切な百分率および型は、問題の抗原および障害の性質に基づいて当業者によって容易に決定される。
【0058】
上記に説明されるように、ACPとして公知のヒアルロン酸誘導体はまた、本明細書中のワクチン抗原を送達するための用途を見出す。一般に、本発明とともに用いるためのACPは、ヒアルロン酸ポリマーの約0.5%〜約20%、好ましくは約3%〜約10%、そして最も好ましくは約4%〜約5%のカルボキシル基が、同じまたは異なるヒアルロン酸分子のヒドロキシル基に架橋されているACPである。この分子の残りの部分は、塩化され得る。本明細書中で使用するための1つの好ましい形態のACPは、粘性のゲル様組成物である。例えば、国際公開第WO 97/07883号を参照のこと。
【0059】
ACP誘導体は、遊離のカルボキシル基または塩化されるカルボキシル基のいずれかを有するヒアルロン酸を、カルボキシル官能基を活性化する薬剤を用いて最初に活性化することにより作製される。代表的な薬剤としては、カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ベンジルイソプロピルカルボジイミド、ベンジルエチルカルボジイミド、エトキシアセチレン、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素または芳香族炭化水素由来のハロゲン誘導体などが挙げられる。中間体活性化誘導体および/または第三級有機塩基(例えば、トリエチルアミン)もしくは第三級無機塩基の形成に好都合な補助的な薬剤が存在し得る。
【0060】
活性化は、有機性の非プロトン性溶媒中で、例えば、DMSO中で実施され、そしてこの混合物は、熱または照射(特にUV光)に曝露される。このようにして、触媒の添加後および/または温度の高い状態でのリンスに続いていずれかで自発的に分離する不安定な中間体が形成され、それにより、同じまたは他のヒアルロン酸分子のヒドロキシルとの内部エステル結合が形成される。例えば、これらの誘導体を生成するための方法については、欧州公開第341,745号および国際公開第WO 97/07883号を参照のこと。
【0061】
上記のヒアルロン酸誘導体は、当該分野で周知のいくつかの技術のいずれかを用いて、吸着されたかまたは物理的に取り込まれた(封入された)かのいずれかの抗原とともにミクロスフェアとして提供され得る。例えば、ミクロスフェアは、溶媒エバポレーション技術および抽出技術を用いて作製され得る。一般に、これらの方法は、不連続相および連続相と呼ばれる、混合不可能な2つの液体のエマルジョンを調製することを必要とする。不連続相は、(封入されるべきである場合)抗原を含むポリマー/溶媒溶液の微小滴(microdroplets)を含む。不連続相は、続いて、粒子安定剤/界面活性剤を含む連続水相と混合される。このエマルジョンが安定化された後、不連続相は、エバポレーションまたは抽出によって除去される。例えば、Benedettiら、J.Controlled Rel.(1990)13:33−41;Ghezzoら、Int.J.Pharm.(1992)87:21−29;Illumら、J.Controlled Rel.(1994)29:133−141;欧州公開第517,565号を参照のこと。
【0062】
より詳細には、適切なヒアルロン酸誘導体は、溶媒中に溶解される。この溶媒は、この溶媒が、ポリマーとも抗原とも化学的に反応せず、そしてこの連続相において不混和性であるように選択される。例えば、非プロトン性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)などを含むがこれらに限定されない)のような任意の数の溶媒が用いられ得る。このポリマーは、約0.5% w/v〜約10% w/v、好ましくは約1% w/v〜約8% w/v、そして最も好ましくは約6%
w/v〜約8% w/vの濃度で添加される。用いられる抗原および所望されるローディングに依存して、ヒアルロン酸ポリマーに対して約0.1%(w/w)〜約40%(w/w)の抗原、より好ましくは約1%(w/w)〜約25%(w/w)の抗原、そしてさらにより好ましくは約2%(w/w)〜約20%(w/w)の抗原を有するミクロスフェアをもたらす量の抗原が、添加される。この混合物は、不連続相を形成する。
【0063】
第2の溶媒、一般に高粘度油(例えば、重い鉱油(heavy mineral oil)またはパラフィン油(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を含む連続相混合物が調製される。非イオン性界面活性剤のようなエマルジョン安定剤(例えば、マンニドモノオレアート(mannide monooleate)(Arlacel A(登録商標))、デキストラン70,000、ポリオキシエチレンエーテル(Triton(登録商標))、ポリグリコールエーテル(Tergitol(登録商標))など(全て、例えば、Sigma Chemical Co.,St.Louis,MOから容易に商業的に入手可能である)を含む)が存在する。界面活性剤は、約0.3%〜約10%、好ましくは約0.5%〜約8%、そしてより好ましくは約1%〜約5%の濃度で存在する。
【0064】
ミクロスフェアを生成するために、次いで、不連続相は、連続相に、約1:16の比で添加され、そして例えば、約700rpm〜1000rpmにて機械的に攪拌することにより、エマルジョンが形成される。次いで、有機溶媒は、エバポレーションまたは抽出される。エバポレーションされる場合、このエマルジョン温度を、溶媒の沸点未満に保持し、そしてこの溶媒がエバポレーションされるまで徐々に上昇させる(溶媒の沸点未満に依然として維持しながら)。例えば、米国特許第3,891,570号およびBenedettiら、J.Controlled Rel.(1990)13:33−41を参照のこと。
【0065】
抽出される場合、適切な抽出溶媒(すなわち、不連続相溶媒についての溶媒であって、ヒアルロン酸誘導体ではない)を、このエマルジョンに約2:1のv/v比で添加し、次いでこの溶液を、ミクロスフェアが形成されるまで攪拌する。例えば、DMSOを用いる場合、DMSOを、酢酸エチルまたは酢酸アセチルを用いて抽出し得る。他の適切な抽出溶媒は、当業者によって容易に決定され得る。溶媒抽出技術のさらなる説明については、例えば、Illumら、J.Controlled Rel.(1994)29:133−141;およびGhezzoら、Int.J.Pharm.(1992)87:21−29;および欧州公開第517,565号を参照のこと。
【0066】
一旦、分散相の溶媒が除去されたら、懸濁されたミクロスフェアは、遠心分離によって油相から分離される。ミクロスフェアは、適切な溶液(例えば、ヘキサン)中に再懸濁されて、過剰な鉱油および界面活性剤が除去され得、次いでこの溶液が濾過される。このプロセスは、溶媒の除去を確実にするために何回も繰り返され得る。次いで、このミクロスフェアは、風乾または減圧下で乾燥される。
【0067】
あるいは、ミクロスフェアはまた、例えば、以下に記載されるとおりに噴霧乾燥を用いて形成され得る:Kyyronenら、Int.J.Pharm.(1992)80:161−169;Ghezzoら、Int.J.Pharm.(1992)87:21−29;およびMasters,K.(1976)Spray Drying 第2版 Wiley,New York。「ナノスフェア」と称される特に小さいミクロスフェアは、国際公開第WO 96/29998号に記載されるように超臨界逆溶媒(supercritical antisolvents)(SAS)を用いて生成され得る。
【0068】
ヒアルロン酸組成物からの抗原の放出速度は、抗原をミクロスフェアと会合させるために用いられる方法に依存して改変され得る。例えば、この抗原がポリマーマトリックス中に物理的に分散される場合、放出は、ポリマーネットワークを通る抗原の分散速度によって大部分が制御される。さらに、溶媒がエバポレートされるのではなく抽出される場合、ミクロスフェアは、より多孔質の表面を含み、このことは、封入された抗原のより迅速な放出をもたらす。
【0069】
さらに、カルボキシル基のエステル化は、エステルが、生物学的基質と水素結合を形成する傾向の減少に起因して、ヒアルロン酸の生体接着性を減少させる。さらに、異なるエステルおよび架橋程度によって与えられるミクロスフェアの疎水性は、生体接着の量に影響を与える。なぜなら、粘膜組織は、生体接着についての重要な関係を有し得るかなりの疎水性を提示するようであるからである。従って、例えば、より高い程度のエステル化は一般に、封入されたタンパク質のより遅くかつ減少した放出を生じるが、生体接着特性が増強されたミクロスフェアを生成する。
【0070】
さらに、抗原の生物学的因子(例えば、毛様体うなり周波数(ciliary
beat frequency))、ならびに物理的因子(例えば、粒子の大きさ、凝集の密度および程度、ならびに水溶解度)は、生体接着および生体腐食(bioerosion)の程度に影響を与える。例えば、Pritchardら、Int.J.Pharm.(1996)129:137−145を参照のこと。
【0071】
さらに、種々のエステル、種々の量のエステル化、ならびに種々の程度の架橋を有するミクロスフェアの混合物は、所定の抗原についての所望の生体接着および放出反応速度を達成するため、ならびに一次免疫応答および二次免疫応答の両方を提供するための処方物において用途を見出す。
【0072】
一旦形成されると、特定のヒアルロン酸/抗原組合せの接着性は、当該分野で周知の任意の多数の方法を用いて、特定の処方が適切な生体接着特性を有するか否かを評価するために決定され得る。例えば、表面張力測定に基づく、インビトロでの剥離重量研究が実施され得る。例えば、Smartら、J.Pharm.Pharmacol.(1984)36:295−299を参照のこと。手短には、試験ミクロスフェアは、生物学的基質、例えば、上皮組織に適用され、そして2つの組織切片を、それらの間に挟まれた試験生体接着剤から剥離するために必要な重量を決定する装置を用いて剥離重量研究が実施される。例えば、Pritchardら,Int.J.Pharm.(1996)129:137−145を参照のこと。あるいは、粘膜毛様体輸送速度(mucociliary transport rate)が、接着性の決定因子として用いられ得る。なぜなら、試験物質の接着性が大きいほど、輸送速度が遅いからである。このような研究は、例えば、Pritchardら、前出に記載されるように、カエル(Rana pipiens)から切り出された上部口蓋の一部に沿った生体接着剤の動きをモニタリングすることにより実施され得る。
【0073】
同様に、ミクロスフェアの生体腐食速度は、問題のヒアルロン酸/抗原処方物が適切な量の抗原を所定の疾患について免疫系に提供するか否かを決定するために、当該分野で周知の標準的な技術を用いて、例えば、インビトロ放出プロフィールによって決定され得る。例えば、溶解試験は、例えば、ミクロスフェアを適切な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液またはBSA)に連続的に攪拌しながら分散させることにより、実施され得る。この溶液のサンプルを、一定の時間間隔で取り出し、そして目的の抗原について例えば、ELISAまたは任意の他の適切なアッセイを用いてアッセイする。Ghezzoら、Int.J.Pharm.(1992)87:21−29を参照のこと。
【0074】
粒子の大きさは、例えば、レーザー光分散によって、例えば、ヘリウム−ネオンレーザーを備えている分光光度計を用いて決定され得る。一般に、粒子の大きさは室温にて決定され、そして問題のサンプルの複数の分析物(例えば、5〜10回)を含み、粒子直径についての平均値が得られる。粒子の大きさはまた、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて容易に決定される。こうするために、乾燥したミクロスフェアは、金/パラジウム混合物を用いて、約100オングストロームの厚さにスパッターコーティングされ、次いで走査型電子顕微鏡を用いて調べられる。
【0075】
この抗原がミクロスフェア中に提供される場合、この抗原含量は、一般に、適切な量のミクロスフェアが、適切な免疫応答を惹起するために被験体に送達され得るように決定される。抗原含量は、当該分野で公知の方法に従って、例えば、ミクロスフェアを破壊し、そして任意の封入された抗原を抽出することにより、決定され得る。例えば、ミクロスフェアは、溶媒(例えば、DMSO)に溶解され得るか、または例えば、5%(w/v)SDSを含有する0.1M NaOH中に分散され得る。このサンプルは攪拌され、必要に応じて遠心分離され、そして上清が適切なアッセイを用いて目的の抗原についてアッセイされる。例えば、Benedettiら、J Controlled Rel.(1990)13:33−41;およびO’Haganら、Int.J.Pharm.(1994)103:37−45を参照のこと。
【0076】
あるいは、ミクロスフェアの形態であるかまたはそうでないかのいずれかのヒアルロン酸誘導体は、当該分野で周知のいくつかの方法のうちのいずれかを用いて、その中に封入された抗原ではなく、抗原と直接合わされ得る。例えば、抗原は、ミクロスフェア中に封入するのではなく、抗原とヒアルロン酸ポリマーとを適切な緩衝液中で混合し、用いたヒアルロン酸ポリマーに依存して種々の時間の間インキュベートし、そして所望の場合、この処方物を将来の使用のために凍結乾燥することにより、吸着させ得る。従って、例えば、HYAFFまたは混合型エステル誘導体が用いられる場合、この抗原は一般に、ヒアルロン酸ポリマーに対して約0.1%(w/w)〜約40%(w/w)の抗原、より好ましくは約1%(w/w)〜約25%(w/w)の抗原、そしてさらにより好ましくは約2%(w/w)〜約20%(w/w)の抗原を表す量でヒアルロン酸ポリマーと共にインキュベートされる。抗原の百分率は、以下でより詳細に議論されるように、所望の用量および処置される状態に依存する。抗原とポリマーとのインキュベーションを、約0時間〜48時間以上、好ましくは約0時間〜約24時間、より好ましくは約1時間〜約10時間、そして最も好ましくは約2時間〜約4時間の間進行させる。インキュベーション後、懸濁物は、凍結乾燥され得、そして乾燥した組成物は、免疫の前に適切なビヒクルに懸濁され得る。
【0077】
ACPを用いる場合、ACPは、ゲルとして提供され得る。国際公開第WO 97/07833号(Fidia Advanced Biopolymers
Srl(Abano Terme,Italy)から入手可能)を参照のこと。ACPゲルは、生理食塩水を用いて1:30に希釈され、そして抗原と(そして必要に応じてアジュバントと)混合される(以下をさらに参照のこと)。次いで、この溶液は、以下でより詳細に考察されるように被験体に、例えば、鼻腔内に直接投与され得る。
【0078】
一旦抗原およびヒアルロン酸誘導体が上記のように作製されると、組成物は、続いての粘膜送達のために処方される。この組成物は、一般に、粘膜送達に適切な1以上の「薬学的に受容可能な賦形剤またはビヒクル」(例えば、水、生理食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノールなど)を含む。さらに、補助的な物質(例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質など)がこのようなビヒクル中に存在し得る。
【0079】
例えば、鼻腔内処方物および肺処方物は、通常、鼻粘膜への刺激を生じず、かつ線毛の機能を有意に乱さない、ビヒクルを含む。希釈剤(例えば、水、生理食塩水または他の公知の物質)は、本発明とともに用いられ得る。鼻処方物はまた、保存剤(例えば、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムであるがこれらに限定されない)を含み得る。界面活性剤は、鼻粘膜による本タンパク質の吸収を増強するために存在し得る。
【0080】
直腸坐剤および尿道坐剤については、このビヒクル組成物は、伝統的な結合剤およびキャリア(例えば、ココアバター(カカオ脂)または他のトリグリセリド、エステル化、水素化、および/または分別により改変された植物油、グリセリンゼラチン、多価アルカリグリコール、種々の分子量のポリエチレングリコールの混合物、ならびにポリエチレングリコールの脂肪酸エステル)を含む。
【0081】
膣送達については、本発明のヒアルロン酸処方物は、ペッサリー基剤(例えば、ポリエチレントリグリセリドの混合物を含むペッサリー基剤、または油(例えば、トウモロコシ油またはゴマ油)に懸濁された、必要に応じてコロイド状シリカを含むペッサリー基剤)に取り込まれ得る。例えば、Richardsonら、Int.J.Pharm.(1995)115:9−15を参照のこと。
【0082】
特定の送達態様について使用するための適切なビヒクルのさらなる議論については、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania,第19版,1995を参照のこと。当業者は、特定の抗原および送達部位に使用するために適切なビヒクルを容易に決定し得る。
【0083】
アジュバントは、薬学的組成物の有効性を増強するために使用され得る。このアジュバントは、例えば、同じ組成物中で、または別個の組成物中で、本発明のヒアルロン酸処方物と同時に投与され得る。あるいは、アジュバントは、本発明のヒアルロン酸組成物の前にまたはその後に投与され得る。このようなアジュバントは、以下を含むがこれらに限定されない:(1)アルミニウム塩(ミョウバン)(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなど);(2)水中油型エマルジョン処方物(他の特定の免疫刺激剤(例えば、ムラミルペプチド(以下を参照のこと)または細菌細胞壁成分)を有するかまたは有さない)、例えば、(a)マイクロフルイダイザー(microfluidizer)(例えば、Model 110Y マイクロフルイダイザー(Microfluidics,Newton,MA))を用いてサブミクロンの粒子に処方された、5%スクアレン、0.5% Tween 80、および0.5% Span 85を含む(必要に応じて種々の量のMTP−PE(以下を参照のこと)を含むがその必要はない)、MF59(国際公開第WO 90/14837号)など、(b)10%スクアレン、0.4% Tween 80、5%プルロニック(pluronic)ブロックポリマーL121、およびthr−MDP(以下を参照のこと)を含む、サブミクロンエマルジョンにマイクロフルイダイズされたかまたはより大きな粒子の大きさのエマルジョンを生成するようにボルテックスされたかのいずれかの、SAF、ならびに(c)2%スクアレン、0.2% Tween 80、およびモノホスホリルリピドA(monophosphorylipid A)(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)からなる群から選択される1以上の細菌細胞壁成分(好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含む、RibiTMアジュバントシステム(RAS)(Ribi Immunochem,Hamilton,MT);(3)サポニンアジュバント(例えば、StimulonTM(Cambridge Bioscience,Worcester,MA)が用いられ得るかまたはそれから粒子が生成され得る(例えば、ISCOM(免疫刺激複合体));(4)完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA);(5)サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL−1、IL−2など)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)など);(6)細菌ADP−リボシル化毒素(例えば、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、またはE.coli熱不安定毒素(LT)、特にLT K63(ここでリジンが、野生型アミノ酸を63位で置換している)、LT R72(ここで、アルギニンが、野生型アミノ酸を72位で置換している)、CT−S 109(ここでセリンが、野生型アミノ酸を109位で置換している)、およびPT−K9/G129(ここでリジンが野生型アミノ酸を9位で置換しており、そしてグリシンが129位で置換している)(例えば、国際公開第W093/13202号および同第W092/19265号を参照のこと)の無毒化変異体;ならびに(7)免疫刺激剤として作用して、組成物の有効性を増強する他の物質。
【0084】
ムラミルペプチドとしては、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル(acteyl)−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(ノル−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル(isogluatminyl)−L−アラニン−2(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ(huydroxyphosphoryloxy))−エチルアミン(MTP−PE)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
この組成物の種々の成分は、広範な範囲の比で存在し得る。例えば、ヒアルロン酸−抗原およびアジュバント成分は、代表的に、1:50〜50:1、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは約1:3〜3:1、そして最も好ましくは約1:1の容量比で用いられる。しかし、他の比が、特定の目的のためにより適切であり得、例えば、特定の抗原が、ヒアルロン酸組成物中に組み込まれるのが困難でありかつ低い免疫原性を有するという両方の場合、より高い相対量の抗原成分が必要とされる。
【0086】
組成物は、「治療有効量」の目的の抗原を含む。すなわち、症状を予防、低減、または排除するために充分な免疫学的応答を被験体において生じさせる抗原の量が組成物中に含まれる。正確な必要量は、とりわけ、処置される被験体;処置される被験体の年齢および一般的状態;被験体の免疫系が抗体を合成する能力;所望される防御の程度;処置される状態の重篤度;選択される特定の抗原およびその投与形態などの要因に依存して変動する。適切な有効量は、当業者によって容易に決定され得る。従って、「治療有効量」は、慣用的な試験によって決定され得る比較的広範な範囲に入る。例えば、本発明の目的については、有効用量は、代表的に1用量あたり、約1μg〜約100mg、より好ましくは約5μg〜約1mg、そして最も好ましくは約10μg〜約500μgの送達される抗原の範囲である。
【0087】
一旦処方されると、本発明の組成物は、標準的な技術を用いて粘膜投与される。例えば、鼻腔内、肺、膣、および直腸の技術を含む粘膜送達技術については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania,第19版,1995を、ならびに鼻腔内投与の技術については欧州公開第517,565号およびIllumら、J.Controlled Rel.(1994)29:133−141を参照のこと。
【0088】
投薬処置は、単回用量スケジュールまたは多回用量スケジュールであり得る。多回用量スケジュールは、初期のワクチン接種過程が、1〜10回の別個の用量を用いてであり得、続いて他の用量が、免疫応答を維持および/または強化するために選択された間隔(例えば、2回目の用量については1〜4ヶ月)をおいて次回に与えられ、そして必要に応じてそれに続く用量が数ヶ月後に与えられるスケジュールである。ブーストは、一次免疫応答について与えられるのと同じ処方を用いてであり得るか、またはその抗原を含む異なる処方物を用いてであり得る。投薬レジメはまた、少なくとも部分的に、被験体の必要性によって決定され、そして開業医の判断に依存する。さらに、疾患の予防が所望される場合、このワクチンは一般に、目的の病原体による一次感染前に投与される。処置(例えば、症状または再発の低減)が所望される場合、このワクチンは一般に、一次感染後に投与される。
【0089】
処方物は、粘膜送達の研究のために開発された多数の動物モデルにおいてインビボで試験され得る。例えば、意識的なヒツジモデルは、大きな鼻腔、カニューレ挿入のための頸静脈への接近しやすさ、ならびに実験条件下でのヒツジの穏やかな気質に起因して、物質の鼻送達を試験するための当該分野で認識されたモデルである。例えば、Longeneckerら、J.Pharm.Sci.(1987)76:351−355およびIllumら、J.Controlled
Rel.(1994)29:133−141を参照のこと。それゆえ、ヒツジは、この動物に手短に鎮静剤を飲ませて投与の間のくしゃみを予防し、そして経口チューブ/鼻チューブを問題のワクチンとともにヒツジの外鼻孔の規定の深さまで挿入することにより、試験物質が投与され得る。次いで、通常、粉末の凍結乾燥形態であるワクチンは、鼻腔に吹き込まれる。次いで、血液サンプルが、投与の前および投与に続いて、カニューレ挿入された頸静脈から収集される。血液サンプルは、上記のように、当該分野において公知の標準的な技術を用いて抗体力価についてアッセイされ得る。細胞免疫応答はまた、上記の通りにモニタリングされ得る。
【0090】
容易に明らかなように、本発明の組成物は、ウイルス、細菌、寄生生物および真菌によって引き起こされる広範な種々の疾患および感染を処置および/または予防するために、ならびに種々の腫瘍抗原に対する免疫応答を刺激するために有用である。上記のように、この組成物は治療的または予防的にのみ用いられ得るのではなく、この組成物は、例えば、診断目的のためにポリクローナルおよびモノクローナルの両方の抗体を調製するためにも、ならびに目的の抗原の免疫精製(immunopurification)のためにも用いられ得る。ポリクローナル抗体が所望される場合、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)が、本発明の組成物を用いて免疫される。この動物は通常、2〜6週間後に1以上の抗原投与によってブーストされる。次いで、ポリクローナル抗血清が、免疫された動物から得られ、そして公知の手順に従って処理される。例えば、Jurgensら(1985)J.Chrom.348:363−370を参照のこと。
【0091】
モノクローナル抗体は、一般に、KohlerおよびMilstein,Nature(1975)256:495−96の方法またはその変法を用いて調製される。代表的には、マウスまたはラットは、上記の通りに免疫される。しかし、血清を抽出するために動物から採血するよりも、脾臓(および必要に応じていくつかの大きなリンパ節)を取り出し、そして単細胞に解離する。所望の場合、脾臓細胞は、細胞懸濁物を、タンパク質抗原でコーティングしたプレートまたはウェルに適用することにより、(非特異的接着細胞を除去した後に)スクリーニングされ得る。この抗原に特異的な膜結合型免疫グロブリンを発現するB細胞は、このプレートに結合し、そして残りの懸濁物を用いるリンスによっては流されない。次いで、得られるB細胞または全ての解離した脾臓細胞は、ミエローマ細胞と融合するように誘導されて、ハイブリドーマを形成し、そして選択培地(例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン培地である「HAT」)中で培養される。得られるハイブリドーマは、限界希釈によってプレーティングされ、そして免疫した抗原に特異的に結合する(そして関連のない抗原に結合しない)抗体の生成についてアッセイされる。次いで、選択された、モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマは、インビトロ(例えば、組織培養瓶もしくは中空繊維リアクターにおいて)またはインビボ(マウスにおいて腹水として)のいずれかで培養される。例えば、M.Schreierら、Hybridoma Techniques(1980);Hammerlingら、Monoclonal
Antibodies and T−cell Hybridomas(1981);Kennettら、Monoclonal Antibodies(1980)を参照のこと;米国特許第4,341,761号;同第4,399,121号;同第4,427,783号;同第4,444,887号;同第4,452,570号;同第4,466,917号;同第4,472,500号、同第4,491,632号;ならびに同第4,493,890号もまた参照のこと。目的のポリペプチドに対して生成されたモノクローナル抗体のパネルは、種々の特性(すなわち、アイソタイプ、エピトープ、親和性など)についてスクリーニングされ得る。
【0092】
(III.実験)
以下は、本発明を実施するための特定の実施態様の実施例である。これらの実施例は、例示の目的のためにのみ提供され、そして本発明の範囲を如何様にも限定することは意図しない。
【0093】
用いた数字(例えば、量、温度など)に関して精度を確実にするように努力したが、いくつかの実験誤差および偏差が、もちろん許容されるべきである。
【0094】
(実施例1:インフルエンザ抗原を含むHYAFF処方物の調製および使用)
HYAFF11ポリマーのプラシーボ(ブランク)微粒子(ベンジルアルコールを用いて約100%エステル化した)は、Fidia Advanced Biopolymers Srl(Abano Terme,Italy)によって供給された。これらの微粒子の平均の大きさは、Malvern Mastersizer Instrumentによって決定した場合、約8ミクロンであった(大きさの分布の一部は1ミクロン未満であり、そして一部は10ミクロンを超えていた)。
【0095】
10μgのインフルエンザ抗原H3N2(「HA」)(Chiron Vaccines,Sienna,Italy)および10〜25μgのLT−K63(国際公開第WO 93/13202号)の用量を達成するために、微粒子への1% w/wのHA/LT−K63ローディングを標的化した。このようにするために、1mgのHAおよび1mgのLT−K63(84mM Na2HPO4、11mM KH2PO4、82mM NaCl中)を、PBS中の100mgのブランクミクロスフェアとともに、4℃にて3時間インキュベートした。次いで、懸濁物を、−80℃にて凍結し、そして一晩凍結乾燥した。
【0096】
実際の抗原/アジュバント負荷量を、微粒子を加水分解し、そしてSharifおよびO’Hagan,Int.J.Pharm.(1995)115:259−263に記載される通りに微量−BCAにより総タンパク質含量を評価することにより確認した。実際の負荷量は、微粒子に対して約0.8% w/w〜1.0% w/wの抗原/LT−K63の範囲であった。
【0097】
免疫の前に、約20mgの乾燥した微粒子処方物を、通常の生理食塩水中に懸濁し、その後、動物に鼻腔内送達した。マウスについては、この処方物を、50μ1の生理食塩水中に懸濁した;モルモットについては、この処方物を、250μlの生理食塩水中に懸濁した;そしてミニブタ(micro pig)については、この処方物を500μl中に懸濁した。
【0098】
Balb/Cマウスを、6つの群に分け、そして以下に示す処方物を、微量ピペットを用いて鼻腔内投与した。動物を、28日後にブーストした。
【0099】
群1 生理食塩水中抗原(HA)単独
群2 0.5mgのHYAFFプラシーボ微粒子と同時凍結乾燥したHA
群3 生理食塩水中のLT−K63(10μg)を有するHA
群4 0.5mgのHYAFFプラシーボ微粒子および10μgのLT−K63と同時凍結乾燥したHA
群5 生理食塩水中のLT−K63(25μg)を有するHA
群6 0.5mgのHYAFFプラシーボ微粒子および25μgのLT−K63と同時凍結乾燥したHA
動物を、42日目に採血し、そして抗HA力価を、ELISAによってサンプル血清中の総抗HA IgG力価を評価することにより決定した。表1に示すように、アジュバントありおよびなしの両方で、HYAFFと組み合わせて抗原を投与した動物は、抗原単独で投与した動物よりも高い抗体力価を有していた。HYAFFおよびアジュバントとともに抗原を投与した動物は、最大の力価を有していた。
【0100】
【表1】

【0101】
(実施例2:インフルエンザ抗原を含むACP処方物の調製および使用)
自己架橋した多糖(ACP)ヒアルロン酸ゲルを、Fidia Advanced Biopolymers Srl(Abano Terme,Italy)から入手し、そして輸送されるとともに用いた。このゲルに、10μgのHAおよび10μg〜25μgのLT−K63を水溶液中で添加し、ゲル対水の比を1:30とした。
【0102】
50μlの粘性溶液を、微量ピペットを用いて、以下の表2に示すように各群5匹の動物からなる3群のBalb/Cマウスに鼻腔内投与した。処方物を、調製してから60分以内に投与した。動物を、28日後にブーストし、42日目に採血し、そして抗HA力価をELISAにより決定した。鼻洗浄物からのIgA力価もまた、アッセイした。
【0103】
表2に示すように、ACPおよびアジュバントと組合せて抗原を投与した動物は、抗原単独で投与した動物よりも高い抗体力価を有していた。
【0104】
【表2】

【0105】
上記の研究を、各群5匹の動物からなる3群のモルモットを用いて繰り返した。用いた方法は、モルモットに表3に示す200μlの処方物を投与し、そして28日目に1回および56日目に1回の2回ブーストしたこと以外は、上記の通りであった。表3に示すように、ACPおよびアジュバントと組合せて抗原を投与した動物は、抗原単独で投与した動物よりも高い抗体力価を有していた。
【0106】
【表3】

【0107】
(実施例3:HYAFF処方物とACP処方物との比較)
HYAFFおよびACPゲルにおけるHA抗原の免疫原性を、ミニブタ(Yucatan)において評価した。12匹のブタを、表4に示すように、各群4匹からなる3つの群に分けた。適切な用量を達成するために、ブタに、16ゲージのTeflonカテーテルを用いて、500μlのACP処方物または50mgのHYAFF処方物を鼻腔内投与した。コントロールのブタに、500μlの抗原単独を与えた。ブタに、28日目にブーストし、そして血清を採集し、そして抗HA血清IgGレベルについてELISAを用いてアッセイした。
【0108】
表4からわかり得るように、HYAFFまたはACPとともに抗原を投与したブタの群は両方とも、抗原単独を投与したブタよりも高い力価を有しており、HYAFF処方物を投与したブタが最大の力価を有していた。
【0109】
【表4】

【0110】
(実施例4:筋肉内で送達された処方物と鼻腔内で送達された処方物との比較)
筋肉内(i.m.)または鼻腔内(i.n.)のいずれかで送達された、表5に指定される処方物が免疫応答を誘発する能力を、ミニブタ(Yucatan)において評価した。詳細には、12匹のブタを、表5に示すように、各群4匹のブタからなる3群に分けた。ブタを、25μgのHA抗原でi.m.にて(群1)、25μgのHA抗原および100μgのLT−K63でi.n.にて(群2)、またはHYAFFミクロスフェアを有する25μgのHAおよび100μgのLT−K63でi.n.にて(群3)のいずれかで免疫した。ブタを、0週目および4週目に免疫した。血清および鼻分泌物を、28日目、42日目および56日目に採集し、そして抗HA血清IgGレベルおよびIgAレベルについてELISAを用いてアッセイした。
【0111】
図1および図2においてわかり得るように、HYAFF処方物を投与されたブタは、HYAFFを欠くi.m.群またはi.n.群のいずれよりも有意に高い応答を生じた。HYAFF処方物はまた、より高いHA特異的鼻IgA応答を与えた。血球凝集阻害(HI)力価(表5を参照のこと)もまた、HYAFF免疫群の動物において最大であった。
【0112】
本実施例は、HYAFFを有する抗原の鼻腔内投与が、抗原単独の筋肉内投与よりも良好な結果を達成することを示す。
【0113】
【表5】

【0114】
従って、ワクチン抗原を送達するためのヒアルロン酸誘導体の使用が記載される。本発明の好ましい実施態様がいくぶん詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、明らかな改変が行われ得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−163432(P2010−163432A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298887(P2009−298887)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願2000−551801(P2000−551801)の分割
【原出願日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(591076811)ノバルティス バクシンズ アンド ダイアグノスティックス,インコーポレーテッド (265)
【出願人】(503082088)フィディア ファルマチェウティチ ソシエタ ペル アチオニ (2)
【Fターム(参考)】