説明

ワクチン抗原表皮デリバリー用溶解性3層マイクロニードル・アレイ・パッチ

【課題】経皮ワクチン用多層マイクロニードル・アレイにおいて、ワクチン抗原の最適の配置部位が未解決であった。
【解決手段】水溶性の曵糸性高分子物質を基剤とする多層性の溶解性マイクロニードルにおいて、先端部に抗原を配置する2層マイクロニードル・アレイよりも、先端から160〜220μmの部位に相当する第2番目の層に抗原を配置した3層マイクロニードル・アレイの方が、皮膚への投与後、抗原をランゲルハンス細胞の分布する表皮層にデリバリーでき、より効率良く免疫応答である循環血液中の抗体価の上昇を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い効率で抗体価を得るための溶解性3層マイクロニードル・アレイの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルは、皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された針であり、皮膚の最も外側に位置して外界からの細菌やウィルスの進入から体内を防御している角質層を物理的に突破して、従来の技術では経皮的に投与を行っても吸収が望めない薬物、化粧品用化合物あるいは吸収率が極めて低い薬物、化粧品用化合物の吸収率を改善する製剤技術である。マイクロニードルの材質としては、従来の注射針と同じ金属の他、シリカ等も用いられている(特許文献1〜52)。
【0003】
マイクロニードル・アレイは、注射針と同様の中空構造を有し、薬液を注入するタイプであったり、ポリ乳酸などの生分解性高分子製のマイクロニードル・アレイであったりする。さらに、水溶性物質を基剤とする溶解型のマイクロニードルも開発されている。すなわち、水溶性物質の基剤に目的物質を保持させておき、皮膚に挿入した後、基剤が皮膚内の水分により溶解することにより、目的物質を経皮的に投与することができる。例えば、麦芽糖を基剤とするマイクロニードルが開示されている(特許文献1〜3、40〜43)。また、マイクロニードルを介して薬物を注入する装置、器具、あるいはマイクロニードルの素材、形状、製法などに関する特許も多数公知である(特許文献4、特許文献7〜50)。
【0004】
本発明者は上記麦芽糖を基剤とするマイクロニードルの欠点を克服したマイクロニードルとして、水溶性の洩糸性高分子物質を基剤とするマイクロニードルを特許出願した(特許文献5)。当該発明は、遺伝子組み換え蛋白薬、ワクチン、遺伝子DNAなどの高分子薬、水溶性の難・低経皮吸収性薬物など皮膚透過性が低いために従来の経皮投与では十分な効果が期待できない薬物の皮膚透過性を高めたものである。
【0005】
さらに本発明者は水溶性の洩糸性高分子物質であるコンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸などを基剤とするマイクロニードルの工業的製造法を発明して特許出願を行った(特許文献6)。マイクロニードルデバイスおよびマイクロニードル送達装置に関する特許も考案されている(特許文献9)。さらに本発明者は多層マイクロニードル・アレイを表面に形成したパッチ剤を考案した(特許文献51)。
【0006】
また、本発明者は、ワクチン抗原などの高分子、インスリンなどのペプチド・蛋白薬を目的物質とし、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸、などを基剤に用いて、長さ約500μm、底部直径約300μmの溶解性マイクロニードルを例えば1平方センチメートルのパッチ上に10行10列で100本構築したマイクロニードル・アレイの製造法を発明した(特許文献52)。さらにマイクロニードル・アレイを構築するのに適した多孔性の基盤を発明した(特許文献53)。また、マイクロニードル・アレイ・パッチを皮膚に対して垂直に挿入するための投与器具と一体化した密封包装投与システムに関する特許も出願した(特許文献54)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】特開2005−154321号公報
【特許文献3】特開2005−152180号公報
【特許文献4】特表2006−500973号広報
【特許文献5】国際公開2006/080508号パンフレット
【特許文献6】特願2007−150574号公報
【特許文献7】特表2006−513811号公報(WO2005/044364号)
【特許文献8】特表2006−502831号公報(WO2004/035105号)
【特許文献9】特表2005−533625号公報(WO2004/009172号)
【特許文献10】特表2005−514179号公報(WO2003/059431号)
【特許文献11】特表2005−503194号公報(WO2002/100474号)
【特許文献12】特表2005−501615号公報(WO2003/020359号)
【特許文献13】特表2004−532698号公報(WO2002/100476号)
【特許文献14】特表2004−507371号公報(WO2002/017985号)
【特許文献15】特表2004−504120号公報(WO2002/007813号)
【特許文献16】特表2002−526273号公報(WO00/16833号)
【特許文献17】特開2008−46507号公報
【特許文献18】特開2008−29710号公報
【特許文献19】特開2008−29559号公報
【特許文献20】特開2008−6178号公報
【特許文献21】特開2007−130030号公報
【特許文献22】特開2006−335754号公報
【特許文献23】特開2005−246595号公報
【特許文献24】特表2007−523771号公報(WO2005/082596号)
【特許文献25】特表2007−511318号公報(WO2005/049107号)
【特許文献26】WO2007/030477号公報
【特許文献27】WO2004/000389号公報
【特許文献28】WO2007/091608号公報
【特許文献29】WO2007/116959号公報
【特許文献30】特開2008−011959号公報
【特許文献31】特開2008−074763号公報
【特許文献32】特開2008−125864号公報
【特許文献33】特開2008−237675号公報
【特許文献34】特開2008−296037号公報
【特許文献35】特開2009−061212号公報
【特許文献36】特開2009−072270号公報
【特許文献37】特開2009−078074号公報
【特許文献38】特表2009−501066号公報(WO2008/010681号)
【特許文献39】特表2009−502261号公報(WO2007/012144号)
【特許文献40】特開2009−254756号公報
【特許文献41】特開2009−273872号公報
【特許文献42】特開2009−201956号公報
【特許文献43】特開2009−273772号公報
【特許文献44】特開2009−233170号公報
【特許文献45】特開2009−241357号公報
【特許文献46】特開2009−241358号公報
【特許文献47】特開2009−254876号公報
【特許文献48】特表2009−507573号公報(WO2007/030477号)
【特許文献49】特表2009−533197号公報(WO2008/004781号)
【特許文献50】特表2009−540984号公報(WO2007/147671号)
【特許文献51】WO2009/066763号
【特許文献52】特開2009−195583号公報
【特許文献53】特願2010―031317号
【特許文献54】特願2010―201875号
【特許文献55】Ghartey-Tagoe Esi ら、United States Patent Application20090155330
【非特許文献1】J. C. Birchall, Stratum corneum bypassed or removed. In Enhancement inDrug Delivery, ed by E. Touitou and B. W. Barry, CRC Press, 2007, pp.337-351.
【非特許文献2】Sparber,F.他,Immunobiology, 215, 770-779, 2010.
【非特許文献3】Parton,M.他,Vaccine, 28, 6104-6113, 2010.
【非特許文献4】Romani,N.他,Immunol. Cell Biol., 88, 424-430, 2010.
【非特許文献5】Furmanov,K.他,J. Immunol., 184, 4889-4897, 2010.
【非特許文献6】Flacher,V.他,J. Inves. Derm., 130, 755-762, 2010.
【非特許文献7】Rozis,G.他,Eur. J. Immunol., 35, 2617-2626, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロニードルの大きさに関しては数多くの研究が行われており、本発明者も水溶性の洩糸性高分子物質であるコンドロイチン硫酸やデキストランを用いて種々の長さの溶解性マイクロニードルを作成してきたが、操作性および皮膚への突刺時における強度の点から鑑みて、実用上、長さ500μm、底部の直径300μmのマイクロニードル・アレイがほぼ最適であるとの結論に至った。皮膚の生理学的構造として、ヒトの角質層の厚さは10-20μm、表皮層の厚さは50-150μmであるといわれている(非特許文献1および2)。また、真皮層は皮膚の表面から数mmの深さまで存在する。
【0009】
実験動物の表皮層の厚さはラットで11.58±1.02μm、イヌで22.47±2.40μmであると報告されている(非特許文献3)。しかし、マイクロニードル・アレイ・パッチを指で加圧して皮膚に刺しても、500μmのマイクロニードルの全長を皮膚内へ挿入することはできない。ヘアレスラットおよび除毛したラットの皮膚への投与を行った実験では先端から約半分までが皮膚内に挿入された。一方、経皮ワクチンの場合、表皮層に多く分布するLangerhans細胞、さらに真皮層に多く分布するDendritic細胞のいずれの免疫系細胞が経皮的に投与された抗原蛋白を主として認識するのかという問題に関しては、免疫学分野において数多くの研究が行われてきているにもかかわらず、未だに結論に至っていない(非特許文献2から7)。多層マイクロニードル・アレイを利用したワクチンの経皮デリバリーに関する特許も出願されているが(特許文献55)、第1層であるマイクロニードルの先端部に抗原を高濃度で配置し、第2層を主として基剤で形成するという技術である。なお、当該特許文献においては、第1層と第2層の具体的な長さについては明示していない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、先にも述べたように操作性および強度の観点から実用的なマイクロニードルのサイズとしては、長さが約500μm、底部の直径が約300μmのマイクロニードルに集約される。本発明者が先に特許出願を行った水溶性の洩糸性高分子物質を基剤とする溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチの密封包装投与システム(特許文献54)を用いれば、一定の加圧力でマイクロニードル・アレイ・パッチを皮膚へ投与することができ、再現性良くマイクロニードルの先端から同じ長さの部分を皮膚内へ挿入することができる。そこでマイクロニードル・アレイを3層構造とし、最先端である第1層には抗原を入れず基剤である水溶性の洩糸性高分子物質にて形成し、先端から第2番目の部分にはLangerhans細胞の多く分布する皮膚表皮層へデリバリーするためのワクチン抗原を配置し、3番目に相当する根元部分には基剤を配置することによりより高い効率でワクチンの効果を得ることに成功し、上記の問題を解決した。
【0011】
より具体的には、本発明のマイクロニードルは、
ワクチン抗原を効率良く皮膚表皮層へデリバリーするための3層構造から成る溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。
【0012】
また、前記溶解性3層マイクロニードル・アレイにおいて用いる基剤は水溶性の洩糸性高分子物質である溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。
【0013】
また、前記3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいてニードルの最先端部分に相当する第1番目の層は基剤である水溶性の洩糸性高分子物質により形成される溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。
【0014】
また、前記3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいて先端から2番目の層にはワクチン抗原が配置されている溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。
【0015】
また、前記3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいて先端から3番目の層は基剤である水溶性の洩糸性高分子物質により形成されている溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。
【0016】
また、前記の3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいてマイクロニードルのサイズが長さ500μm、底部の直径300μmである場合、最先端である第1番目の層の長さは先端から160μm、第2番目の層は先端から160〜220μmの部位、第3番目の層は先端から220〜500μmの部分に相当する溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチである。なお、これらの数値はラットでの検証実験において得た数値であり、人間の場合には若干の変動がある。
【発明の効果】
【0017】
3層構造を有する溶解性マイクロニードル・アレイを皮膚に突き刺すと、最先端部は溶解しながら皮膚の真皮内に入っていくので、3層構造からなるマイクロニードル・アレイにおいて先端から2番目の部分にワクチン抗原を配置することにより、皮膚表皮層に広範に分布する抗原認識細胞であるLangerhans細胞へのデリバリーを達成することができる。
【0018】
なお、マイクロニードル・アレイの先端から第3番目の層は皮膚に突き刺さらない部分になるので、抗原を配置する必要はない。
【0019】
長さが約500μm、底部の直径が約300μmのマイクロニードルの場合、具体的には、先端から160μmまでの第1層については基剤である水溶性の洩糸性高分子物質を用いて形成し、先端からの長さが160から220μmに相当する第2番目の層についてはワクチン抗原を配置することにより、皮膚表皮層への効率的な抗原のデリバリーが可能となった。先端からの長さが220μm以上の第3層であるマイクロニードルの根元部分については第1層と同様に水溶性の洩糸性高分子物質を用いて成形する。このような3層構造を有するマイクロニードル・アレイを構築したパッチとすることにより、上記の問題を解決することができる。なお、上記の長さに関する数値はラットでの検証実験の結果によるものであり、人間の皮膚に適用する場合には若干の変動がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に実施例をあげて具体的な実施形態を説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
1平方センチメートルあたりに深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの逆円錐状細孔を有するシリコン製基盤の上に、375mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウム(ナカライテスク)に精製水700μlを加えて作成した粘調液を塗布した。サランラップ(クレハ化学)を被せ、卓上遠心分離器(クボタ4000)を用いて毎分3500回転で樹脂基盤ごと15分間回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。サランラップを取り除き、30分間同条件で回転させ乾燥を行った。次に、モデルワクチン抗原として卵白アルブミン(シグマ社、米国)の20mg、微量のエバンスブルー(ナカライテスク)および35mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウムに精製水170μlを加えて調製した粘性濃厚液を塗布した。卓上遠心分離器にて毎分3500回転で樹脂基盤ごと20分間回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。サランラップを取り除き、卓上遠心分離器にて同条件で30分間回転させ、乾燥を行った。樹脂基盤上の残留物を除去した後、コンドロイチン硫酸Cナトリウムの1gに精製水1mlを加えて作成した粘調液を樹脂基盤上の穴に塗布した。樹脂基盤ごと卓上遠心分離器にて3500回転で30分間回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。コンドロイチン硫酸Cナトリウムの粘調液を塗布した円形基盤を樹脂基盤の上に被せ、加重下で乾燥を行った。6時間後に円形基盤を引き離すことにより、3層マイクロニードル・アレイ・パッチを得た。調製した3層マイクロニードル・アレイ・パッチの10個を取り出し、ビデオマイクロスコープ(VH−Z、キーエンス製)で観察を行い、透明な第1層および青色に着色した第2層の長さを測定したところ次に示す結果を得た。
第1層、160.2±7.2μm
第2層、 58.7±4.2μm
【0022】
(実施例2)
実施例1で用いたのと同様の樹脂基盤の上に、卵白アルブミンの20mg、微量のエバンスブルーおよび35mgのコンドロイチン硫酸Cナトリウムに精製水170μlを加えて調製した粘性濃厚液を塗布した。サランラップを被せ、卓上遠心分離器にて毎分3500回転で樹脂基盤ごと45分間回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。サランラップを取り除き、15分間同条件で回転させ乾燥を行った。樹脂基盤上の残留物を除去した後、コンドロイチン硫酸Cナトリウムの1gに精製水1mlを加えて作成した粘調液を樹脂基盤上の穴に塗布した。シリコン樹脂基盤ごと卓上遠心分離器にて3500回転で30分間回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。コンドロイチン硫酸Cナトリウムの粘調液を塗布した円形基盤を樹脂基盤の上に被せ、加重下で乾燥を行った。6時間後に円形基盤を引き離すことにより、2層マイクロニードル・アレイ・パッチを得た。調製した2層マイクロニードル・アレイ・パッチの10個を取り出し、ビデオマイクロスコープで観察を行い、青色に着色した第1層の長さを測定したところ次に示す結果を得た。
第1層、153.7±7.4μm
【0023】
(実施例3)
実施例1および2で作成したマイクロニードル・アレイ・パッチ中の卵白アルブミン含量をLawry法を用いて蛋白量として測定した。その結果、
実施例1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチ、 211.2±31.1μg
実施例2の2層マイクロニードル・アレイ・パッチ、 226.9±25.6μg
【0024】
(実施例4)
体重約300グラムの雄性ラットにペントバルビタール麻酔をかけ、手術台の上に仰向けに固定した。腹部の体毛を除毛した後、手術台に固定した。頸静脈より約0.2mL採血した後、実施例1および2で作製したモデル抗原である卵白アルブミンを含有する経皮ワクチンパッチを除毛したラットの腹部に押し当てることにより投与した。ポシティブコントロールとして卵白アルブミンの注射液を作成してラットに1000μgの投与量で皮下注射にて投与を行った。投与2週間後にペントバルビタール麻酔下、ラットより採血を行うとともに2回目の卵白アルブミンを含有する経皮ワクチンパッチおよび卵白アルブミン注射液のブースター投与を行った。1回目および2回目の投与後に回収したマイクロニードル・アレイ・パッチ中における卵白アルブミンの含有量を残存量としてLawry法にて測定したところ以下の結果を得た。
実施例1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチ、7.0±2.6μg
実施例2の2層マイクロニードル・アレイ・パッチ、 7.1±2.0μg
従って、経皮的に投与された卵白アルブミン量を算出したところ次のような結果となった。
実施例1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチ、 204.2±2.6μg
実施例2の2層マイクロニードル・アレイ・パッチ、 219.8±2.0μg
【0025】
2週間後および4週間後にラットから採血を行って得た血漿試料を用いてELISA法(Rat
anti-ovalbumin Ig ELISA kit, ALPHA DIAGNOSTICS社)にて血漿中の卵白アルブミン抗体価を測定したところ以下の結果を得た。
2週間後の血漿試料
実施例1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチ投与群、54.99±7.08単位/ml
実施例2の2層マイクロニードル・アレイ・パッチ投与群、8.93±2.78単位/ml
皮下注射による投与群、98.34±3.82 単位/ml
4週間後の血漿試料
実施例1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチ投与群、1578.57±182.59単位/ml
実施例2の2層マイクロニードル・アレイ・パッチ投与群、351.27±156.52単位/ml
皮下注射による投与群、655.70±118.01単位/ml
以上より、先端から2番目の層にモデル抗原蛋白である卵白アルブミンを含有する本発明の3層マイクロニードル・アレイ・パッチは2層マイクロニードル・アレイ・パッチよりも循環血漿中の高い抗体価を誘導し、経皮ワクチンとしての優秀性が示された。
【0026】
(実施例5)
実施例1および2に示した方法でフルオレッセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識を行った卵白アルブミンを含有する3層および2層マイクロニードル・アレイ・パッチを作成した。ペントバルビタール麻酔下で雄性ラット腹部の除毛皮膚に投与した後、経時的に切除して得た皮膚切片を用いて、蛍光照射下にてビデオマイクロスコープにて撮影を行った。実施例1で作成した3層マイクロニードル・アレイ・パッチをラットの皮膚に投与した後、30秒後には皮膚の表面に近い表皮層に強い蛍光が観察された。2分後においても表皮層に強い蛍光発光が観察され、FITC卵白アルブミンの表皮層へのデリバリーが確認された。実施例2で作成した2層マイクロニードル・アレイ・パッチをラットの皮膚に投与した後、30秒後および2分後において、皮膚表面から離れた真皮層に強い蛍光発光が観察され、卵白アルブミンの真皮層へのデリバリーが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
より高い効率で経皮ワクチンの効果を得るためには、ワクチン抗原のデリバリー部位を免疫系細胞であるLangerhans細胞が主として分布する皮膚表皮層とするかそれともDendritic細胞が主として分布する真皮層とするか、いずれの部位が最適の部位であるかという問題は長年の論争の的となっていた。それゆえ、溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチを経皮ワクチンのデリバリーに用いる場合、多層マイクロニードル・アレイ・パッチとし、いずれの層にワクチン抗原を配置するのが最適であるのかという課題を解決する必要があった。本発明により、長さ約500μm、底部の直径約300μmのマイクロニードルの先端から2番目の層に相当する先端から160から220μmの部分にワクチン抗原を配置すればワクチン抗原の表皮層へのデリバリーを達成でき、より効果的な薬理効果を引き出すことができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン抗原を効率良く皮膚表皮層へデリバリーするための3層構造から成る溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。
【請求項2】
請求項1の溶解性3層マイクロニードル・アレイにおいて用いる基剤は水溶性の洩糸性高分子物質である溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。
【請求項3】
請求項1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいてニードルの最先端部分に相当する第1番目の層は基剤である水溶性の洩糸性高分子物質により形成される溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。
【請求項4】
請求項1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいて先端から2番目の層にはワクチン抗原が配置されている溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。
【請求項5】
請求項1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいて先端から3番目の層は基剤である水溶性の洩糸性高分子物質により形成されている溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。
【請求項6】
請求項1の3層マイクロニードル・アレイ・パッチにおいてマイクロニードルのサイズが長さ500μm、底部の直径300μmである場合、最先端である第1番目の層の長さは先端から160μm、第2番目の層は先端から160〜220μmの部位、第3番目の層は先端から220〜500μmの部分に相当する溶解性マイクロニードル・アレイ・パッチ。なお、これらの数値はラット実験における数値であり、人間の場合には若干の変動がある。


【公開番号】特開2012−90767(P2012−90767A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240609(P2010−240609)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】