説明

ワクチン接種および遺伝子治療のためのマイクロカプセル化DNA

【課題】現存のワクチン接種および遺伝子治療技術を改善し、かつインビボにおいて効果的であるか、または公知の組成物および方法において同定されたいくつかの問題または不利益を少なくとも克服する、新規の組成物およびそれらの投与方法を提供すること。
【解決手段】微粒子およびDNAを含む組成物であって、ここで、該DNAは、該微粒子内にあり、かつポリペプチドをコードする配列を含み、ここで、該微粒子は、レシピエントへの投与後にそのコード配列の発現を誘導するように適合されている、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル化DNA、マイクロカプセル化DNAを含むワクチン、微粒子中のDNAの投与を含むワクチン接種方法および遺伝子治療方法、DNAを含む微粒子を調製する方法、およびDNA含有粒子を含む乾燥化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーであるポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)(PLG)は、インビボにおいて微粒状の形態で薬物および生物学的製剤を送達するために製薬産業によって長年使用されてきた。米国FDAは、前立腺ガンの処置において使用される酢酸ロイプロリド(Lupran Depot(登録商標))に対するPLGマイクロスフェア30日送達系を承認した。ワクチン用途についてのポリマーマイクロカプセル化技術の可能性の有用な総説は、William Morrisら、Vaccine, 1994, 12巻、1号、5〜11頁において見出される。
【0003】
カプセル化に対する代替として、例えば、Eppstein, D.A.ら、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 1988, 5(2), 99−139頁に記載されたように、リポソームと呼ばれるリン脂質ベシクルにおいて抗原を送達することもまた知られている。コレラ毒素、マラリアスポロゾイトタンパク質、および破傷風トキソイドを含む多くの抗原が、リポソームを使用して腹腔内に送達されてきたこと、ならびにインフルエンザ抗原が鼻内から送達されることが報告されている。
【0004】
特定の状況下において、組織への裸のDNAの注入が、そのDNAによってコードされる遺伝子産物の発現を導き得ることもまた知られている。例えば、1984年に、米国NIHでの研究は、リス肝炎に対する裸のクローン化プラスミドDNAの肝臓内注入が、リスにおいてウイルス感染および抗ウイルス抗体の形成の両方を生じたことを報告した。
【0005】
WO−A−95/05853は、生物学的に活性なペプチドをコードする裸のポリヌクレオチドの投与のための方法、組成物、およびデバイスを記載する。この公開された適用は、とりわけ、裸のDNAのレシピエントにおいて抗体を惹起することを目的とした免疫原性抗原をコードする裸のDNAの注入を記載する。
【0006】
DNAのリポソームの送達も公知であり、そして、例えば、EP−A−0475178において記載されている。
【0007】
所望の遺伝子産物の発現を得るための代替の方法は、EP−A−0161640において記載されており、ここでは、ウシ成長ホルモンを発現するマウス細胞がカプセル化され、そして乳産生を増加するために雌牛に移植される。
【0008】
EP−A−0248531は、マイクロカプセル中に直鎖ポリ(I:C)をカプセル化すること、そしてこれらをインターフェロン産生の誘導のために使用することを記載する。
【0009】
WO−A−94/23738は、DNAの細胞取り込みを促進し、そして標的化する結合体と組合わせたDNAを含む微粒子を記載することを意図する。実施例において、タングステンを含む微粒子による細胞のボンバードメントが記載されている。これらの実施例は、DNAコート金属粒子を用いる従来のボンバードメントとほとんど違わないように思える。さらに、超音波処理が、微粒子製造において提唱されている(これは、DNA損傷の危険を冒すことが知られる工程である)が、示されたデータは、カプセル化DNAの完全性を決定するには不十分であり、かつ不適切である。
【0010】
本発明では、通常、活性な真核生物のプロモーターの制御下に置かれる、免疫原性、酵素的、または他の有用な生物学的活性を有するタンパク質をコードするDNAを、インビボにおいて送達することが望まれる。本発明の目的は、当該分野で公知のワクチン接種治療に対する改善および先行技術の遺伝子治療方法に対する改善を含む。
【0011】
現存の組成物および方法の改善またはそれに対する代替が望ましい。なぜなら、これらの現存の方法は多くの欠点を含むことが知られているからである。
【0012】
WO−A−95/05853は所望の遺伝子産物をコードする裸のポリヌクレオチドの投与を記載する。しかし、この刊行物における組成物および方法は、無菌的手順を必要とする、それ自身不快であり不便な投与経路である注射に対してのみ適切である。
【0013】
WO−A−94/23738は、インビボにおける達成された実施例は提示されていないが、カプセル化DNAがレシピエントの体内において粒子から放出され、そして次に細胞によって取り込まれるプロセスを提供することを意図する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、現存のワクチン接種および遺伝子治療技術を改善し、かつインビボにおいて効果的であるか、または公知の組成物および方法において同定されたいくつかの問題または不利益を少なくとも克服する、新規の組成物およびそれらの投与方法を提供することを求める。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)微粒子およびDNAを含む組成物であって、ここで、該DNAは、該微粒子内にあり、かつポリペプチドをコードする配列を含み、ここで、該微粒子は、レシピエントへの投与後にそのコード配列の発現を誘導するように適合されている、組成物。
(項目2)経口投与後に前記コード配列の発現を誘導するように適合されている、項目1に記載の組成物。
(項目3)環状DNAを含む、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)(i)プラスミドDNA、および(ii)1以上の挿入、欠失、および置換によってプラスミドDNAから誘導されたDNAから選択される二本鎖DNAを含む、項目3に記載の組成物。
(項目5)上記DNAが、上記コード配列の転写を促進する配列を含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目6)上記微粒子が、非毒性で、かつ薬学的に受容可能であり、かつ生分解性ポリマーからなるかまたはこれを含む、上記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目7)上記ポリマーが、ラクチド含有ポリマーである、項目6に記載の組成物。
(項目8)上記ポリマーが、グリコリド含有ポリマーである、項目6または7に記載の組成物。
(項目9)上記ポリマーが、ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)を含む、項目7または8に記載の組成物。
(項目10)上記微粒子の少なくとも50%が、0.01μm〜30μmの大きさ範囲にある、項目1から9のいずれかに記載の微粒子を含む組成物。
(項目11)上記微粒子の少なくとも50%が、1μm〜10μmの大きさ範囲にある、項目10に記載の微粒子を含む組成物。
(項目12)実質的に全ての微粒子が、30μm未満の大きさ範囲にある、項目10または11に記載の微粒子を含む組成物。
(項目13)免疫原をコードするDNA配列を含み、かつ経口投与または非経口投与後にレシピエントにおいて該免疫原の発現を誘導するように適合されている、項目1から12のいずれかに記載の組成物。
(項目14)上記レシピエントにおいて、上記免疫原に特異的な抗体の産生を誘導するように適合されている、項目13に記載の組成物。
(項目15)IgA抗体の産生を誘導するように適合されている、項目14に記載の組成物。
(項目16)哺乳動物のワクチン接種のために適合された、項目13から15のいずれかに記載の組成物であって、ここで、該ワクチン接種が、上記免疫原に応答した哺乳動物による抗体の産生によって得られ、該免疫原自身は、上記DNAコード配列の発現によって産生される、組成物。
(項目17)項目1から16のいずれかに記載の組成物および薬学的に受容可能なキャリアを含む、免疫原に対する抗体を誘起するためのワクチンであって、ここで上記DNA配列が該免疫原をコードする、ワクチン。
(項目18)上記免疫原が、ウイルスまたは細菌または他の病原性微生物の免疫原性成分であるか、またはそれらの免疫原性フラグメントもしくは改変体である、項目17に記載のワクチン。
(項目19)上記DNA配列が、ウイルスタンパク質をコードする、項目18に記載のワクチン。
(項目20)味覚増強剤をさらに含む、項目17から19のいずれかに記載のワクチン。
(項目21)第1および第2のワクチン成分を含む、項目17から20のいずれかに記載のワクチンであって、該第1のワクチン成分が微粒子内にあるDNAを含み、ここで、該DNAが免疫原をコードする配列を含み、かつ該微粒子がインビボでの第1の半減期を有し、そして第2のワクチン成分が微粒子中にあるDNAを含み、ここで、該DNAが免疫原をコードする配列を含み、かつ該微粒子がインビボでの第2の半減期を有する、ワクチン。
(項目22)上記第1のワクチン成分の上記免疫原および上記第2のワクチン成分の上記免疫原が、同一である、項目21に記載のワクチン。
(項目23)上記第1および第2の半減期がそれぞれ、2週間まで、そして2週間を超える、項目21または22に記載のワクチン。
(項目24)上記第1および第2の半減期の比が、少なくとも2:1である、項目21または22に記載のワクチン。
(項目25)レシピエントにおいて、所望の非免疫原性遺伝子産物の発現を誘導するように適合されている、項目1から12のいずれかに記載の組成物。
(項目26)所望の非免疫原性産物の発現を誘導するための、項目25に記載の組成物であって、この産物は、(i)以前に実質的に発現されていないか、または(ii)増加することが所望されるレベルで以前に発現されている、組成物。
(項目27)遺伝子産物が発現しないこと、発現の減少、または遺伝子産物の不在によって生じる疾患の処置または予防のための、項目25または26に記載の組成物であって、ここで、該組成物の該DNAコード配列は、該遺伝子産物をコードする、組成物。
(項目28)遺伝子治療のための、項目25から27のいずれかに記載の組成物。
(項目29)ポリマーカプセル化DNAを含み、かつ水分含有量が5%未満である、組成物。
(項目30)ポリマーカプセル化DNAを含み、かつ水分含有量が5%未満であり、項目1から28のいずれかに記載の組成物を凍結乾燥することによって得られる、組成物。
(項目31)貯蔵用の組成物を調製する方法であって、DNAを含むポリマー粒子の水溶液を調製する工程、および該溶液を5%未満の水分含有量まで乾燥させる工程を包含する、方法。
(項目32)以下の工程を包含する、微粒子を作製する方法:
i.DNAと微粒子前駆体との混合物を調製する工程;
ii.DNAを含有する微粒子を形成する工程;および
iii.該混合物からDNA含有微粒子を分離する工程、ここで、該DNA含有微粒子中のDNAは、ポリペプチドをコードする配列を含み、かつ該微粒子が、レシピエントにおける該コード配列の発現を誘導するように適合されている、方法。
(項目33)a.前記DNAがそのコード配列の発現を誘導する能力が、微粒子形成前にそのコード配列の発現を誘導する能力の少なくとも25%であるような条件下で、複数の微粒子を形成する工程、を包含する、項目32に記載の方法。
(項目34)項目33に記載の方法であって、カプセル化されたDNAのうちの少なくとも10%が、そのコード配列の発現を誘導する能力を保持しているような、剪断応力が減少した条件下で、エマルジョンを形成する工程を包含する、方法。
(項目35)カプセル化されたDNAの少なくとも25%が、そのコード配列の発現を誘導する能力を保持している、項目34に記載の方法。
(項目36)DNAとアルコールとの混合物を調製する工程、および微粒子前駆体を該混合物に添加する工程を包含する、項目32〜35のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)アルコール含有量が10〜40%で、DNAおよびアルコールの溶液を調製する工程を包含する、項目36に記載の方法。
(項目38)上記大きさ範囲が0.01μm〜30μmである微粒子を形成する工程を包含する、項目32から37のいずれかに記載の方法。
(項目39)上記DNAが、環状のプラスミドDNAである、項目32から38のいずれかに記載の方法。
(項目40)上記微粒子を凍結乾燥する工程をさらに包含する、項目32から39のいずれかに記載の方法。
(項目41)微粒子中にDNAをカプセル化するための方法であって、ここで、該DNAは、ポリペプチドをコードする配列を含み、かつコード配列の発現を誘導するように適合されており、該DNAと微粒子の形成に適切な水中油中水エマルジョンとの混合物を調製する工程、DNAを含む微粒子を形成する工程、および遠心分離によって該混合物からDNA含有微粒子を分離する工程を包含し、該DNAがそのコード配列の発現を誘導するその能力を保持していることで特徴付けられる、方法。
(項目42)項目17から24のいずれかに記載のワクチンを投与する工程を包含する、ワクチン接種方法。
(項目43)ワクチン接種が、上記コード配列から発現された上記免疫原に対する抗体を誘起することによって得られる、項目42に記載のワクチン接種方法。
(項目44)発現されるべき遺伝子産物を同定する工程、項目26から28のいずれかに記載の組成物を調製する工程、ここで、上記コード配列が該遺伝子産物をコードし、および該組成物を投与する工程を包含する、遺伝子治療方法。
(項目45)投与が、経口または鼻内である、項目42から44のいずれかに記載の方法。
(項目46)投与が、注射による、項目42から44のいずれかに記載の方法。
(項目47)粘膜免疫を誘導するための医薬の製造における、項目1から16のいずれかに記載の組成物の使用。
(項目48)IgA抗体の産生を誘導するための医薬の製造における、項目1から16のいずれかに記載の組成物の使用。
(項目49)予防的または治療的免疫応答を誘導するための医薬の製造における、項目1から6のいずれかに記載の組成物の使用。
【0016】
DNAは、もはや遺伝子産物の発現を誘導できなくなるように、容易に損傷を受けることが知られている。驚くべきことに、本発明者らは、ポリマー粒子中にDNAをカプセル化するための技術を発明することに成功し、その結果、DNAは、それによってコードされた遺伝子産物の発現を誘導するのに十分な完全性を保持する。本発明者らは、哺乳動物のワクチン接種または遺伝子治療に適切なDNA含有微粒子を発明することにも成功した。
【0017】
従って、本発明の第1の局面は、ポリマー中にカプセル化されたDNAを含む薬学的組成物を提供し、このDNAは、ポリペプチドをコードする配列を含み、ここでこの組成物は、レシピエントにおいてコード配列の発現を誘導するように適合されている。好ましくは、コード配列は、その配列の発現を促進するプロモーターを付随する。薬学的組成物が哺乳動物で使用される場合、真核生物のプロモーター、および特に広範な種々の組織タイプで作動するプロモーターを使用することが都合が良い。本発明の特定の実施態様では、組織または細胞のタイプに特異的なプロモーターが使用される。
【0018】
使用において、薬学的組成物は経口投与され、そしてコード配列が発現されて、所望の治療効果を導く。
【0019】
ワクチン接種に適切な本発明の組成物は、免疫原をコードする配列を含む。その組成物の投与後、発現された免疫原は、レシピエント内で抗体の産生を誘起し、それによってレシピエントのワクチン接種に貢献する。
【0020】
以下の実施例において記載される本発明の特定の実施態様は、タンパク質をコードするDNA配列を含む。それは、インビボにおいて投与されており、そしてそのタンパク質の哺乳動物における発現を誘導することが分かっている。その発現は、そのタンパク質に対して特異的な抗体の産生の測定によって検出された。本発明の特定の実施態様の組成物は、約10μmまでの大きさである微粒子を含む。
【0021】
一般に、本発明の微粒子は、ファゴサイトーシス(例えば、マクロファージまたは他の抗原提示細胞によるファゴサイトーシス)によってレシピエントの細胞に入ることが意図される。続いて、微粒子本体は細胞内隙で分解し、そしてDNAが放出される。本発明の微粒子は0.01μm〜30μmの大きさであることが好ましい。1μm〜10μmがより好ましい範囲である。これらの大きさが、DNAのインビボにおける発現を確実に達成することに対して適切であることが見出された。微粒子の大きさが取り込みを決定するので、DNAの取り込みを促進する薬剤が、本発明の微粒子において必要とされないこともまた注目されるべきである。
【0022】
本発明による別の組成物は、非免疫原性の産物をコードする配列を含む。そのような組成物は特に遺伝子治療において有用であり、ここでは、レシピエントにおいて、発現されていないか、または増加することが望ましいレベルで発現されている遺伝子産物を発現することが望ましい。この場合、本発明の組成物は、所望の産物をコードするDNA配列を含み、そしてここでは組成物の投与後、コード配列の発現により、所望の産物のレベルが増大し、遺伝子治療の効果を与える、
また、遺伝子治療適用のための微粒子は、ファゴサイトーシスによるそれらの取り込みを標的化するために、0.01μm〜30μm、より好ましくは1μm〜10μmの範囲の大きさを有することが本発明の特徴である。
【0023】
ワクチン接種における使用のための本発明の特定の実施態様は、ウイルス、細菌、または他の病原性微生物のタンパク質もしくはその免疫原性組成物、またはそれらの免疫原性フラグメントもしくは改変体をコードするDNA配列を含む。タンパク質は、例えば、HIVタンパク質、インフルエンザウイルスタンパク質、麻疹ウイルスタンパク質、肝炎ウイルスタンパク質(例えば、肝炎表面抗原)、または百日咳菌タンパク質である。さらに、組成物が経口的に使用される場合、それは、好都合には、味覚増強剤もまた含み得る。用語「味覚増強剤」は、甘味料、香味料、および組成物の他の成分由来のいかなる不快な味覚をも隠蔽する薬剤を包含することが意図される。それは、好都合には、腸溶性にコートされ得るか、または適切な制酸剤処方物と同時投与され得る。
【0024】
以下に記載された特定の実施態様において、微粒子の調製物は、麻疹ウイルスタンパク質をコードするDNA配列を含む。微粒子の経口投与は、そのタンパク質に対して特異的な抗体における増加を誘起した。同様に、別の微粒子調製物は、ロタウイルスタンパク質をコードするDNA配列を含む。これらの微粒子調製物の経口投与は、抗ロタウイルスタンパク質抗体、およびウイルスによるチャレンジに対する防御効果を誘起した。
【0025】
遺伝子治療に適切な本発明の特定の実施態様は、遺伝性疾患の処置のために必要とされる酵素または別のタンパク質をコードするDNA配列を含む。例えば、グルコセレブロシダーゼをコードするDNA配列は、ゴーシェ病の処置のために適切である。
【0026】
従って、本発明者らは、所望の遺伝子産物をコードするDNAの能力がカプセル化プロセスによって実質的に影響を受けないようにポリマー内にカプセル化されたDNAを提供した。DNAが、乳化およびポリマー粒子の産生のために必要な他の工程によって、容易に損傷され得ることが知られている。本発明者らは、カプセル化DNAの投与に際して得られるべき生物学的効果のために、十分に効力のあるDNAがカプセル化されるような、DNAのカプセル化を提供した。
【0027】
本発明は、カプセル化DNAが経口投与に適切であり、先行技術に記載の注射用DNA調製物に関連した不快であり不便な局面が避けられるという点で、利点を提供する。以下に記載の実施例に記載の特定の実施態様は、本発明の組成物の経口投与に応じて免疫原特異的抗体を誘導することにおいて成功している。さらに、カプセル化DNA処方物は乾燥(例えば、凍結乾燥)に適切であり、長期間にわたって安定であり、かつ保存に適切な形態になる。さらに、多くのワクチン適用について、全身体液媒介性および細胞媒介性免疫応答と同様に、粘膜表面での免疫もまた惹起され得れば有益である。以下に記載の本発明の特定の実施態様は、経口投与後に特定のIgA抗体の有意な増大を誘起することが示された。従って、本発明は、DNAをポリマー粒子と共に含む薬学的組成物を提供し、このDNAは、ポリペプチドをコードし、そしてこの組成物は、レシピエントにおいて粘膜ポリペプチド特異的IgA抗体を誘導するように適合されている。
【0028】
本発明の微粒子のポリマーは、好ましくは、生分解性および非毒性の両方である。適切なポリマーは、ラクチド含有ポリマーおよびグリコリド含有ポリマー、および0−100:100−0ラクチド:グリコリドのコポリマーを包含する。本発明の特定の実施態様では、ポリマーは、ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)(他に記されていなければ、PLGという)を含む。これは、ヒトおよび獣医学的用途について認可されているので選択した。
【0029】
本発明の産物は、代表的には、動物(特に、動物)におけるインビボ用途のためである。従って、微粒子のポリマーは、インビボで非毒性であり、かつ薬学的用途に適切であるべきである。ポリマーはさらに、レシピエントにおいてそのDNAを放出するので、生分解性(生分解性ポリマーからなるか、または生分解性ポリマーを含むのいずれかにより)であるべきである。当該分野には、ヒトおよび動物の経口用途に適切なポリマーに関する広範な文献が存在し、そして当業者は、困難なく当該分野のポリマーを本発明の微粒子に適合させ得る。これに関連して、EP−A−0451390、WO−A−95/31184およびWO−A−95/31187の開示内容を参考のために本明細書において援用する。
【0030】
粒子内に含有されるDNAは、代表的には、二本鎖DNAを含む。本発明における使用に適切なDNA配列の構築は、当業者により理解される。配列が転写プロモーターおよび遺伝子コード配列の両方を含むことが好ましい。DNA配列が転写終結およびポリアデニル化をコード配列の下流に提供することが、さらに好ましい。
【0031】
DNAは、二本鎖で環状スーパーコイル化されていることが特に好ましい。粒子の製造の間、DNAは強い剪断力を受けることが観察されている。特定の穏やかな粒子製造条件を用いて、(一部、予めスーパーコイル化したDNAが、進行中に開環形態に変換され得ることが観察されたが)、本発明者らは、機能的DNAを保持するよう首尾よく成し遂げた。
【0032】
プラスミドDNAは特に適切であり、そして以下に記載の本発明の特定の実施態様において用いられる。プラスミド製造に関しては広範な文献があるので、当業者は、本発明の微粒子に適切なプラスミドを容易に調製できる。一般に、任意の真核生物プロモーター配列を取り込むプラスミドが適切である。
【0033】
本発明のさらなる随意の特性は、DNA含有ポリマー粒子が、インビボにおいて異なる半減期を有するように製造され得ることである。ワクチン接種の間に抗原を投与するとき、抗原ができるだけ長い時間枠にわたって送達されることが有益であり得る。本発明の特定の実施態様は、第1および第2のワクチン成分を含むワクチンを提供し、第1のワクチン成分は、ポリマーカプセル化DNAを含み、ここでDNAは、免疫原をコードする配列を含み、そしてここでポリマーは、インビボにおける第1の半減期を有し、そして第2のワクチン成分は、ポリマーカプセル化DNAを含み、ここでDNAは、免疫原をコードする配列を含み、そしてここでポリマーは、インビボにおける第2の半減期を有する。それぞれの半減期は、5日まで、および5日より多い半減期であり得る。一例では、第1および第2のワクチン成分の免疫原は同一である。あるいは、それぞれのワクチン成分は、異なる免疫原をコードするDNA配列を含み得る。
【0034】
本発明の一実施態様では、第1および第2のそれぞれのワクチン成分の半減期は、2日まで、そして2週間より多い半減期である。さらなる実施態様では、第1および第2の半減期は、少なくとも一桁異なる。
【0035】
以下の実施例に記載の本発明の特定の実施態様の使用では、ルシフェラーゼをコードするプラスミドが、ヒトサイトメガロウイルス即時型プロモーターの制御下にあり、そして約2μmの大きさの粒子中のPLG内にカプセル化される。このカプセル化DNAは、マウスに投与され、そして抗ルシフェラーゼ抗体を誘起した。この抗体は、数週間にわたって検出された。本発明のカプセル化DNAに応じた抗体の産生を、裸のDNAの腹腔内投与および経口投与に応じた抗体産生と比較した。両方の場合において、カプセル化DNAは、同等または有意に高い量のIgGおよびIgMを誘起し、そしてまた有意なIgA応答を惹起した。
【0036】
本発明の第2の局面は、DNAの生物学的活性が有意な程度保持されるように、ポリマー中にDNAをカプセル化する方法を提供する。第2の局面の一実施態様では、ポリマー粒子内にDNAをカプセル化する方法(このDNAは、DNA内でコード配列の発現を誘導し得る)は、水中(油中水)エマルジョンを調製して微粒子を形成させる工程、および続いて生成されたDNA含有微粒子を遠心分離により分離する工程を包含する。得られた微粒子は、好ましくは、0.01μmから30μm、より好ましくは、1μmから10μmの範囲の大きさを有する。
【0037】
本発明の方法は、DNAの少なくとも一部が、粒子製造の間に損傷されず、そしてそれによりその遺伝子コード配列の発現を誘導する能力を保持することを確実にする条件下で実施される。
【0038】
DNAが微粒子中に取り込まれ、そしてDNA取り込みが、DNA+アルコールの溶液を調製し、微粒子ポリマーを添加し、そしてそれから微粒子を形成することにより増大されることが必須である。溶液のアルコール含有量は、適切には、1%と60%との間、そして好ましくは、5%と40%との間で変動する。本発明の特定の実施態様では、アルコール含有量は、PLGから作製された微粒子について約15〜35%であり、より特定すると20〜30%であり、25%およびそれより多く、50〜60%までのDNA取り込みを生じる。エタノールが特に適切である;メタノールおよびプロパノールならびにDNAを変性しない他のアルコール類もまた適切であり、そしてアルコールは、好ましくは、直鎖または分枝鎖のC−C10アルコールである。
【0039】
本方法の乳化工程(単数または複数)は、剪断応力を減少した条件下で実施されることがまた好ましく、そしてこれは、エマルジョンを得、そして所望の大きさ範囲の微粒子を形成するのに十分であるが、過剰な剪断によって全てのDNAが損傷されるほどには高くない乳化速度の使用により、必要に応じて達成される。以下に記載の本発明の一実施態様では、乳化ミキサー速度は、少なくとも25%のDNA活性(コンピテント細菌の形質転換または培養細胞のトランスフェクションによりアッセイされる)が、DNAを含有する得られた微粒子中で保持されるように調整される。適切な速度は、8000rpm以下であり、好ましくは6000rpm以下であり、そして以下に記載の特定の実施態様では、速度は約3000rpmである。
【0040】
本方法は、室温で実施され得(これは実験室および工業目的のために便利である)、そしてカプセル化手順の間のプラスミドDNAの安定性を改善する室温以下でも実施され得る。本方法の温度は、20℃以下、10℃以下、または5℃以下にさえ下げられ得る。本発明の一実施態様では、本方法は、室温で用いられる量に比較して減少された量の微粒子前駆体を用いて、室温以下で実施される。
【0041】
従って、本方法のパラメーターは、10μm以下の直径の微粒子の形成を促進し、そして微粒子中へのDNAの取り込みを促進し、そしてそのDNAがレシピエントで発現され得ないようなDNAに対する損傷を避けるように選択される。
【0042】
ポリマーおよびDNAの任意の特定の選択に応じて、本方法の変更が、最良の結果を得るために必要であり得る。方法の効率は、形質転換またはトランスフェクションアッセイにより評価され得る。本発明者らにより用いられる形質転換アッセイにおいて、DNAは、有機溶媒での溶解により微粒子から回収され、定量され、そして細菌の形質転換に用いられる。アンピシリン選択は、形質転換体の成功を決定する。トランスフェクションアッセイにおいて、回収されたDNAは、培養物中で真核生物細胞をトランスフェクトするために用いられ、次いでこの培養物が抗原または遺伝子治療産物の存在についてアッセイされる。これらのアッセイは、本発明の方法により生成された微粒子から回収されたDNAが、元のDNAの活性の50〜60%および80%までを保持し得ることを実証した。このことは、微粒子中への機能的DNAの高い取り込み効率を示す。
【0043】
本発明のさらなる実施態様では、薬学的組成物を作製する方法が提供され、この方法は、構築物内にコード配列の発現のためにDNA構築物を調製する工程、および構築物の周囲に0.01μmと30μmとの間の大きさのポリマー粒子を形成する工程を包含し、ここでこの構築物は、コード配列の発現を誘導させ得る状態にある。使用において、構築物が粒子から分離されるとき、これは、コード配列の発現を誘導する。粒子は、好ましくは、ポリマー+DNA+アルコールの溶液を乳化することにより形成される。
【0044】
本発明の方法は、本発明の第1の局面の薬学的組成物を生成するように適合される。本方法の工程は、多くのDNA含有ポリマー粒子を含有する得られた組成物において、有用な割合の粒子が、活性なDNA(すなわち、本方法によりそのコード配列の発現を誘導する能力が失われるような損傷をうけなかったDNA)を含有するように適合される。DNA活性は、粒子形成工程の前に、活性%として測定される。
【0045】
DNA生物学的活性の受容可能なレベルは、少なくとも10%であり、好ましくは、少なくとも25%である。一方、特に脆弱なDNAについては、使用において、治療効果が組成物により示される限り、より低い%が受容可能であり得る。
【0046】
本発明の特定の実施態様では、組成物は、コード配列および真核生物プロモーターを含む二本鎖のスーパーコイル化DNAのプラスミド溶液を調製することにより作製される。別個に、ポリマー溶液が調製される。2溶液が一緒に混合され、1000rpmと4000rpmとの間の速度で乳化される。次いで、安定剤の溶液が添加され、そして新たな混合物が1000rpmと4000rpmとの間の速度で乳化される。粒子の遠心分離および再懸濁後、その中のDNAは、その活性の25%を保持する。
【0047】
本発明の第3の局面は、ポリマーカプセル化DNAを含み、そして減少した水分含有量(例えば、5重量%未満)を有する薬学的組成物を提供する。この組成物は、長期貯蔵するのに適切であり、一方、レシピエントへの投与の際に、このDNA内のコード配列の発現を誘導するDNAの能力を保持している。
【0048】
貯蔵用の薬学的組成物を調製する方法は、本発明の第1の局面の薬学的組成物を乾燥(例えば、凍結乾燥により)することである。(正確な水含有量は、用いられる乾燥の期間により決定されるが)乾燥した組成物は、5%未満の水含有量を有することが好ましい。
【0049】
本発明の第4の局面は、ワクチン接種方法を提供し、この方法は、本発明の第1の局面のワクチンを投与する工程を包含する。従って、ワクチン接種は、遺伝子コード配列から発現された免疫原に対する抗体を誘起することにより得られ得る。理解されるように、免疫原は、ウイルスまたは細菌、あるいは他の病原性微生物の成分であり得るか、あるいはこの免疫原のアナログであり得る。このアナログに対する抗体は、病原体自身に対して有効である。
【0050】
本発明の第5の局面では、遺伝子治療方法が提供され、この方法は、個体において発現されるべき遺伝子産物を同定する工程、所望の遺伝子産物の発現のために本発明の第1の局面の組成物を調製する工程、およびこの組成物を投与する工程を包含する。発現されることが所望される遺伝子産物は、代表的には、遺伝子治療を受けている患者において、以前には完全または適切に発現されていないか、あるいは全く発現されていない遺伝子産物である。
【0051】
遺伝子治療は、経口または鼻内投与、あるいは注射により都合よく達成され得る。
【0052】
本発明の第6の局面によると、IgA抗体の産生を誘導するための医薬の製造における、本発明の第1の局面の微粒子の使用が提供される。
【0053】
本発明の第7の局面によると、遺伝子治療のための医薬の製造における、本発明の第1の局面の微粒子の使用が提供される。
【0054】
以下の実施例に記載の本発明の特定の実施態様では、粒子材料はPLGである。本発明の方法により生成される粒子の大きさは、一般に、0.01〜30μm、好ましくは、1〜10μmの範囲である。本発明のDNA含有粒子のための他の適切なポリマー処方物は、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシヴァレレート、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヴァレレート)、エチルセルロース、デキストラン、ポリサッカライド、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリ−メチル−メタクリレート、ポリ(e−カプロラクトン)、およびこれら全ての成分の混合物を包含する。
【0055】
以下の実施例に記載の本発明の特定の実施態様の使用において、本発明の微粒子の調製物は、タンパク質ルシフェラーゼをコードするDNAを含む。当業者により理解されるように、広範なDNA配列および構築物が本発明における使用に適切である。特に、本発明は、当該分野において既によく知られ、そして特徴づけられている広範なプラスミドベクターを取り込んで実施され得る。代表的には、本発明で用いられるプラスミドベクターは、所望の遺伝子産物をコードするcDNAを含む。DNA配列のさらなる成分(例えば、プロモーター、レポーター遺伝子、および転写終結配列)の選択は、公知のプラスミドベクターの構築に関する通常の常識に従って当業者により行われ得る。
【0056】
本発明の組成物のための好ましい投与経路は、経口経路である。本発明の組成物は、好ましくは、高い酸レベルを有する胃を通過する際に顕著な分解を避けるように設計されるべきであることが意図される。
【0057】
10μm未満の大きさの微粒子の取り込みがとりわけ腸のM細胞内で生じ、従ってこの大きさ範囲のDNA含有粒子の封入が、この腸位置での取り込みを促進するのに有利であり得ることが知られている。ポリマーの性質および特性および成分に対する他の変更は、本発明の概念内で行われ得る。
【0058】
以下の図面を伴って、本発明の特定の実施態様の説明を続ける。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明のDNA含有粒子への取り込みに適切なタンパク質発現プラスミドの成分の模式図である;
【図2】図2は、実施例3の結果、すなわち、PLGカプセル化プラスミドDNAによるルシフェラーゼ特異的血清抗体の誘導を示す。ここでは、左欄は、3週間後の抗体価を示し、そして右欄は6週間後の抗体価を示す(i.m.は、筋肉内を示し、i.p.は腹腔内を示し、各欄の底部はIgGレベルを示し、最上部はIgMレベルを示す);
【図3】図3は、各場合においてIgG、IgM、およびIgAの力価を用いた、カプセル化DNAの注射投薬および経口投薬についての用量応答データを示す;
【図4】図4は以下を示す:A−2000rpmおよび8000rpmでの0〜300秒のSilversonミキサーでのホモジナイズ後のプラスミドDNAのアガロースゲル電気泳動;およびB−カプセル化の前および後のDNAのアガロースゲル電気泳動;
【図5】図5は、PLG微粒子内のDNAに対する便抗ルシフェラーゼIgA応答を示す;
【図6】図6は、麻疹ウイルスNタンパク質を発現するPLGカプセル化DNAの経口投与の結果を示す;そして
【図7】図7は、ロタウイルスVP6遺伝子を発現するPLGカプセル化DNAの経口投与の結果を示す:A−糞便ロタウイルス特異的IgA応答、B−経口免疫マウスのチャレンジ後に排泄したロタウイルス。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
(PLG微粒子におけるプラスミドDNAのカプセル化方法)
装置:
1)エマルザースクリーン(emulsor screen)に備え付けられた3/4”プローブを有するSilverson Laboratoryミキサー。
2)高速遠心分離機。
3)通常の実験用ガラス器具、ビーカー、測定シリンダー、スターラーなど。
試薬:
1)ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)溶液−500mg(3mlジクロロメタン中)。
2)プラスミドDNA(水中12mg/ml)。
3)ポリビニルアルコール(PVA)溶液(水中8% w/v)。
4)無水エタノール。
5)TEN緩衝液(10mM tris pH 8.0+1mM EDTA+50mM NaCl)。
方法:
1)200μlプラスミドDNA溶液を250μl TENと混合し、そして150μlエタノールを撹拌しながら添加する。よく混合する。
2)この混合物を3ml PLG溶液に添加し、そしてSilversonミキサー中で3000rpmで2分間乳化する。
3)このエマルジョンを100ml PVAに添加し、そして3000rpmで2分間乳化する。
4)2重エマルジョンを1リットルの水に添加し、そして1分間活発に撹拌する。
5)微粒子の懸濁液を遠心分離容器中に分配し、そして10,000×gavで30分間遠心分離する。
6)微粒子ペレットを25mlの水中に再懸濁し、そして大きなクリアランス(0.5mm)を有する手動ホモジナイザーでホモジナイズし、均質な懸濁液にする。200mlの水で希釈し、そして上述のように再度遠心分離する。
7)工程6を3回繰り返す。
8)微粒子ペレットを25mlの水中に上述のように再懸濁し、凍結乾燥に適した容器に移し、イソプロパノール/ドライアイス混合物中で表面を凍結し、そして48時間凍結乾燥する。
【0061】
この方法では、工程1〜3を室温で行う。DNAは、微粒子中に約25%の効率で取り込まれた。
【0062】
(実施例2)
(インビボ送達後のタンパク質の発現用のプラスミド)
本発明の微粒子での使用に適切なプラスミドは、以下の成分からなる(図1を参照のこと):
1.プラスミド骨格 プラスミド骨格は、複製起点、およびその細菌宿主におけるプラスミドの維持を可能にする抗生物質耐性遺伝子または他の選択マーカーを有する。高いコピー数を提供する骨格は、プラスミドDNAの産生を容易にする。一例は、pUCプラスミドベクターに由来する。
【0063】
2.転写プロモーター配列 所望のタンパク質の発現は、mRNAの合成を開始する(代表的には真核生物の)転写プロモーターにより駆動される。一般には、広範な種々の組織タイプおよび動物種において機能する強力なプロモーターが用いられるべきである(例えば、ヒトサイトメガロウイルス即時型(hCMV IE)プロモーター)。しかし、特に遺伝子治療適用については、組織または細胞のタイプに特異的なプロモーターがより適切であり得る。
【0064】
3.コード配列 コード配列は、目的とするタンパク質をコードするDNA配列を含有する。それは、タンパク質合成の開始に好ましい配列情況で、転写開始コドンATGを含有する。コード配列は、転写終結コドンで終わる。発現されるべきタンパク質は、以下を包含する:a)レポーター酵素(例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ);b)防御免疫応答を誘導し得る病原性微生物成分(例えば、ダニ媒介脳炎ウイルスのNS1タンパク質、麻疹ウイルスのN、HまたはFタンパク質、ヒト免疫不全ウイルス1のgp120タンパク質);c)遺伝性疾患の処置について意図される酵素または他のタンパク質(例えば、ゴーシェ病の処置のためのグルコセレブロシダーゼ)。
【0065】
4.転写終結配列 発現レベルの改善は、mRNA転写の終結を引き起こす配列がコード配列の下流に取り込まれるいくつかの状況下で得られる。これらの配列はまた、しばしば、ポリAテイルのmRNA転写物への付加を引き起こすシグナルを含有する。この役割において用いられ得る配列は、hCMV主要即時型タンパク質遺伝子またはSV40ウイルスDNAまたは他のいずれかに由来し得る。
【0066】
(実施例3)
本発明者らは、ヒトサイトメガロウイルス即時型(hCMV IE)プロモーターの転写制御下で、昆虫タンパク質ルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAを構築し、そしてインビトロでトランスフェクトされた細胞におけるルシフェラーゼ活性を実証した。
【0067】
本発明者らは、実施例1のプロトコルを用いて、中程度(約25%)の効率を有する、大きさが約2μmのPLG微粒子中に精製プラスミドDNAをカプセル化した。アガロースゲル電気泳動では、初めの閉環状スーパーコイル化DNAのある割合が、カプセル化プロセスにおける剪断応力の結果として、よりゆっくりと移動する形態(おそらくは弛緩された環)への変換を受けることが示される。カプセル化DNAは、粒子から放出され、そしてエレクトロポレーションによる細菌形質転換および培養細胞へのトランスフェクション後のルシフェラーゼ発現のアッセイにおいて、そのインビボでの生物学的活性の有意な割合を保持することが示された。
【0068】
マイクロカプセル化DNA(50μg)を、腹腔内(i.p.)注射および経口によりマウスに投与した。コントロール動物は、非カプセル化DNAを同じ経路により受け、そしてポジティブコントロールとして標準的な筋肉内(i.m.)注射により受けた。ルシフェラーゼ特異的血清抗体を、DNA投与の3および6週間後にELISAにより分析した。結果を図2に示す。
【0069】
図2に示すように、中程度の特異的IgGおよびIgM応答が、i.m.注射後に、予測したように見られた。カプセル化DNAは、i.p.注射後に強いIgGおよびIgM応答を惹起した。一方、非カプセル化DNAは、ずっと弱い応答を与えた。同様に、経口投与したカプセル化DNAは、良好なIgG応答を惹起した。これには、非カプセル化DNAは匹敵しなかった。IgGおよびIgM抗体応答から、ルシフェラーゼ発現および免疫系への提示が、PLG微粒子中にカプセル化されたプラスミドDNAの投与後に、標準的なi.m.経路で見られたより高く、かつ非カプセル化DNAの比較投与において見られたより高い効率で生じたことが示される。
【0070】
(実施例4)
さらなる実験において、実施例1の方法により作製したマイクロカプセル化DNAを、用量(1〜50μg DNA)の範囲で、腹腔内(i.p.)注射または経口により異系交配マウスの群に投与した。IgG、IgM、およびIgAクラスのルシフェラーゼ特異的血清抗体を、DNA投与の3、6、および9週間後にELISAにより分析した。
【0071】
図3において、PLGカプセル化DNAのi.p.注射が良好なIgGおよびIgM応答、ならびにおよび中程度のIgA応答を惹起したことが見られ得る。経口投与したカプセル化DNAは、3つの全ての抗体クラスにおいて良好な応答を惹起した。DNA投与後の時間に伴って抗体価が増大するという傾向があり、そして応答は、多かれ少なかれ用量関連的でもある。たった1μgの量のDNAが有意な応答を、特に投与後のより長い時間で惹起し得ることが明らかである。これらの抗体応答により、ルシフェラーゼ発現は、PLG微粒子中にカプセル化されたプラスミドDNAのi.p.注射または経口のいずれかによる投与後に生じることが、再度確認される。それらはまた、抗原が、IgG、IgM、およびIgAの抗体クラスを惹起するような様式で、これらの手段により免疫系に提示されることを実証する。
【0072】
(実施例5)
本発明者らは、プラスミドDNAの物理的完全性および生物学的機能に対する高速ホモジナイズ工程(カプセル化プロセスにおける中間体である必要な水−油−水エマルジョンを生成するために用いた)の効果を試験した。
【0073】
最初の実験では、スーパーコイル化プラスミドDNAを、マイクロカプセル化実験において用いられるべき濃度および容積に類似した濃度および容積に調整し、そしてSilverson laboratoryホモジナイザーでホモジナイズした。試料を、アガロースゲル電気泳動による分析(図4A)のために、0〜300秒の間隔で取り出した。このような分析手順は、スーパーコイル化(sc)DNA、開環(oc)DNA(一本鎖に切り目が入っている)、および線状(l)DNA(両鎖が近接点で切断されている)の間を識別し得る(例えば、GarnerおよびChrambach 1992. Resolution of circular, nicked and linear DNA, 4.4 kb in length, by electrophoresis in polyacrylamide solutions. Electrophoresis 13, 176−178の図2Cを参照のこと)。このような条件にわずか10秒の時間曝すことにより、sc形態からoc形態に変換されることが明らかである。8000rpmでは、線状形態へのさらなる変換、および最終的にはより広範囲にわたる分解が生じる。しかし、2000rpmの減少速度では、DNAのoc形態は、PLGカプセル化に関与するエマルジョン中間体の形成に典型的に必要とされる時間にわたって、比較的安定である。従って、これらの研究は、プラスミドDNAが剪断誘導損傷に無防備であり、そして変化が最小であるDNAのカプセル化を得るためには、正確な条件に対して、慎重な注意が必要であることを示す。
【0074】
この原理から、本発明者らは、大きさが約2μmのPLG微粒子中に精製プラスミドDNAを中程度(約25%)の効率でカプセル化するための条件を開発した。アガロースゲル電気泳動(図4B)は、初めの閉環状スーパーコイル化DNAが、カプセル化プロセスにおける剪断応力の結果として、oc形態への変換を受けることを示す。微粒子から放出されたDNAの生物学的活性を、エレクトロポレーションによる細菌形質転換および培養細胞へのトランスフェクション後のルシフェラーゼ発現のアッセイにおいて評価した。粒子から放出されたDNAは、これらの両アッセイにおいて、そのインビトロ活性の有意な割合(約25%)を保持している。
【0075】
(実施例6)
実施例3の方法により作製されたルシフェラーゼをコードするPLGカプセル化DNAはまた、発現タンパク質に対して粘膜免疫応答を惹起し得る。ルシフェラーゼに特異的なIgG、IgM、およびIgA抗体のレベルを、PLGカプセル化DNAの1、5、20、または50μgのi.p.または経口投薬を受けたマウスの便試料において、ELISAにより評価した。有意なレベルのIgGまたはIgM抗体は、どの群のマウスの便試料においても見出されなかった。幾分限定されたIgA応答が、i.p.注射マウスにおいて見られた;しかし、経口投与によって、便試料中に有意なレベルのルシフェラーゼIgA抗体が生じた(図5)。これらは、50μgのPLGカプセル化DNAを受けたそれらのマウスにおいて異常に高いレベルに達した。これらの結果は、単回用量のPLGカプセル化プラスミドDNAの経口投与が、全身抗体応答と同様に粘膜応答を惹起し得ることを示す。これは、粘膜表面での感染に対する防御が望ましい適用(例えば麻疹またはAIDS)において、PLGカプセル化DNAワクチンの有用な特質であり得る。
【0076】
(実施例7)
本発明者らは、ルシフェラーゼを発現するカプセル化プラスミドDNAの経口投与が全身抗体応答を誘起し得るという本発明者らの観察を拡張するために、麻疹ウイルス(MV)ヌクレオカプシドタンパク質(N)を発現するプラスミドを開発した。N−発現構築物は、ルシフェラーゼを発現する構築物(実施例3に記載)と、コード配列をEdmonston株MVNコード配列で置換したことを除いて、同一である。精製プラスミドDNAを、PLGカプセル化した(実施例1に記載の方法を用いる)。
【0077】
同系交配C3Hマウスを、経口栄養補給により投与した、0.1M 重炭酸ナトリウムに懸濁した2回の投薬(13日間隔)で免疫した;各用量には、50μg DNAが含まれていた。マウスのコントロール群は、PBS単独、またはコード配列を含まないプラスミドベクターDNA含有PLG粒子を受けた。マウスを時々採血し、そしてMV Nに特異的なIgGの血清レベルを、昆虫細胞において発現された組換えMV Nを抗原として用いてELISAにより測定した。図6Aに示されるように、MV Nを発現するPLGカプセル化DNAでの免疫により、有意なレベルのN特異的抗体が生じた:示した結果は、2回目のDNA投与53日後に採取した1/100希釈血清における平均吸光度である。これらの実験におけるDNA免疫に対する個々のマウスの応答には、かなりの程度の変動があるようであった(図6B)が、非常に高いレベルの抗体(10を超える代償的な(reciprocal)力価、追跡実験で測定)が存在する動物もいる。これらの結果から、PLGカプセル化DNAの経口送達は、重要な病原体に対する免疫応答を誘起する有効な方法であることが実証された。
【0078】
(実施例8)
(PLG微粒子中のプラスミドDNAのカプセル化のさらなる方法)
装置:
1)エマルザースクリーンに備え付けられた3/4’’プローブを有するSilverson
Laboratory ミキサー
2)高速遠心分離機
3)通常の実験用ガラス器具、ビーカー、測定シリンダー、スターラーなど。
試薬:
1)ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)溶液−3mlのジクロロメタン中500mg
2)プラスミドDNA(>TE緩衝液中10mg/ml)
3)ポリビニルアルコール(PVA)溶液(水中8% w/v)
4)無水エタノール
5)TE緩衝液(10mM tris pH8.0+1mM EDTA+50mM NaCl)。
方法:
1)450μlのプラスミドDNA溶液を、150μlのエタノールと攪拌しながら混合する。よく混合する。
2)この混合物を3mlのPLG溶液に添加し、そしてSilversonミキサー中で、2000rpmで2分半の間乳化する。
3)このエマルジョンを100mlのPVAに添加し、そして2000rpmで2分半の間乳化する。
4)この2重エマルジョンを1リットルの水に添加し、そして1分間活発に攪拌する。
5)微粒子の懸濁液を遠心分離容器に分配し、そして10,000×gavで30分間遠心分離する。
6)微粒子ペレットを25mlの水中に再懸濁し、そして大きなクリアランス(0.5mm)を有する手動ホモジナイザーでホモジナイズして、均質な懸濁液にする。200mlの水で希釈し、そして上記のように再度遠心分離する。
7)工程5および6を4回繰り返す。
8)微粒子ペレットを上記のように25mlの水中に再懸濁し、そして凍結乾燥に適した容器に移し、イソプロパノール/ドライアイス混合物中で表面を凍結し、そして48時間凍結乾燥する。
【0079】
この方法では、工程1〜3を室温で行う。効率は、実施例1に比較して、30〜40%効率まで改善された。
【0080】
(実施例9)
(PLG微粒子中のプラスミドDNAのカプセル化のさらなる方法)
装置:
1)エマルザースクリーンに備え付けられた3/4’’プローブを有するSilverson
Laboratory ミキサー
2)高速遠心分離機
3)通常の実験用ガラス器具、ビーカー、測定シリンダー、スターラーなど。
試薬:
1)ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)溶液−3mlのジクロロメタン中400mg
2)プラスミドDNA(>TE緩衝液中10mg/ml)
3)ポリビニルアルコール(PVA)溶液(水中8% w/v)
4)無水エタノール
5)TE緩衝液(10mM tris pH8.0+1mM EDTA。
方法:
1)450μlのプラスミドDNA溶液を、150μlのエタノールと攪拌しながら混合する。よく混合する。
2)この混合物を3mlのPLG溶液に添加し、そしてSilversonミキサー中で、2000rpmで2分半の間乳化する。
3)このエマルジョンを100mlのPVAに添加し、そして2000rpmで2分半の間乳化する。
4)この2重エマルジョンを1リットルの水に添加し、そして1分間活発に攪拌する。
5)微粒子の懸濁液を遠心分離容器に分配し、そして10,000×gavで30分間遠心分離する。
6)微粒子ペレットを25mlの水中に再懸濁し、そして大きなクリアランス(0.5mm)を有する手動ホモジナイザーでホモジナイズして、均質な懸濁液とする。200mlの水で希釈し、そして上記のように再度遠心分離する。
7)工程5および6を4回繰り返す。
8)微粒子ペレットを上記のように25mlの水に再懸濁し、そして凍結乾燥に適した容器に移し、表面を凍結し、そして48時間凍結乾燥する。
【0081】
この方法では、工程1〜3を4℃で行う。微粒子中へのDNAの取り込みの効率は、50〜60%であった。
【0082】
(実施例10)
マウスロタウイルス(幼若マウス流行性下痢(EDIM)ウイルス)のVP6遺伝子を発現するプラスミドDNA(pCMVIA/VP6)を、University of Massachusetts Medical Centerで構築した。VP6をコードする遺伝子を、ベクター(pJW4303)中に、即時型転写プロモーターの配列およびヒトサイトメガロウイルスのイントロンAおよびtPA由来分泌シグナル配列の下流に挿入した。この遺伝子には、ウシ成長ホルモン遺伝子由来の転写終結配列およびポリアデニル化配列が続く。精製プラスミドDNAを、実施例1に記載の方法を用いてPLGカプセル化した。
【0083】
同系交配Balb/cマウスを、PLG微粒子中にカプセル化された50マイクログラムのVP6発現DNAを含む用量を経口投与することによって免疫した。マウスのコントロール群は、カプセル化ベクターDNAの同様の用量を受けた。マウスを、隔週間隔で、腸ロタウイルス特異的IgAについて、EDIMウイルスを抗原として用いて、ELISAによって試験した。免疫の9週間後、動物をEDIMウイルスでチャレンジし、そしてモノクローナル抗体に基づくELISAを用いて、便中のウイルスの排出をモニターした。
【0084】
図7Aに示すように、VP6を発現するPLGカプセル化DNAでの免疫によって、コントロール動物と比較して、有意なレベルのロタウイルス特異的腸IgA抗体が生じた。これは特筆すべきである。なぜなら、VP6発現プラスミドDNAの他の投与経路によっては、ウイルスチャレンジの前に検出可能なレベルの腸ウイルス特異的IgAは誘起されなかったからである。EDIMウイルスでのチャレンジ後、コントロール群と比較して、PLGカプセル化VP6発現プラスミドDNAを受けたマウスにおけるロタウイルス流出は減少した(図7B)。
【0085】
これらの結果は、ウイルス流出の減少に現れるように、経口投与されたPLGカプセル化プラスミドDNAが、a)特異的腸IgA応答、およびb)ウイルスチャレンジに対する防御を誘導し得ることを示す。
【0086】
本発明の組成物および方法は、DNAワクチンの送達のための遅発放出系において適用を有する;免疫原の発現が延長されることによって、有効な単回用量の初回投与および追加投与が可能になり、結果として長期の記憶応答が有効に誘導される。別の適用は、ワクチンの経口送達のためのビヒクルにある;ワクチン投与のための簡単かつ受容可能な手段は、ワクチン取り込み率を改善するようである;さらに、凍結乾燥したカプセル化プラスミドDNAは、非常に安定で、かつ環境条件に非感受性であるようである。さらなる適用は、遺伝子治療のための遅発放出系にある;DNAの長期放出および続く発現は、反復処置の必要性をおそらく低減させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−47620(P2010−47620A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275960(P2009−275960)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【分割の表示】特願平9−518000の分割
【原出願日】平成8年11月11日(1996.11.11)
【出願人】(503191210)ヘルス プロテクション エージェンシー (19)
【Fターム(参考)】