説明

ワスレグサ属植物の花汁およびその残渣の製造方法

【課題】アキノワスレグサ等のヘメロカリス属植物の花に多く含まれているクリプトキサンチンを破壊せず、また有機溶媒を含まず、かつ低コストな抽出方法を提供する。
【解決手段】ワスレグサ属植物の花を氷点下で凍結し、その後解凍して絞ることにより花汁を得るワスレグサ属植物の花汁の製造方法。また、ワスレグサ属植物の花を1℃〜30℃で、または30℃以上の室温で容器または装置内に放置し、その後絞ることによって花汁を得るワスレグサ属植物の花汁の製造方法。さらに、前記の方法によりワスレグサ属植物の花汁を得た残渣を乾燥して、粉体を得るワスレグサ属植物の花汁残渣の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワスレグサ属(=ヘメロカリス属)植物の花から、抗酸化ビタミンの豊富な花汁並びにその残渣を製造する方法に関する。
ここで、ワスレグサ属植物には、アキノワスレグサをはじめユリ科ワスレグサ属植物および品種改良されて花の色が変化したヘメロカリス等すべてを含むものとする。
【背景技術】
【0002】
ワスレグサ属は学名をHemerocallisと表記するため、日本の成書にもヘメロカリス属と書かれることがある。
従来より、アキノワスレグサの植物の成分が人体に薬効を示すことが知られている。
【0003】
特許文献1には、アキノワスレグサの抽出物を有効成分として含有する肝臓障害抑制剤が記載されており、アキノワスレグサの茎、葉、根等の植物組織のいずれの部分を使用しても良いが、特に、肝臓障害抑制作用を示す有効成分は茎、葉の部分に多く含まれているため、これらの組織を用いることが好ましいとされている。
【0004】
特許文献2には、アキノワスレグサを含む生物素材の乾燥粉末又は抽出物中の成分が、血糖上昇抑制および血圧上昇抑制作用を奏するように、乾燥および抽出条件を定めた血糖上昇抑制(抗糖尿病・抗肥満)剤および血圧上昇抑制(抗高血圧症)剤が記載されており、アキノワスレグサとしては葉を用いることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、アキノワスレグサの発酵処理物を有効成分とする睡眠改善剤及び/又はACE阻害剤が記載されており、その発明の発酵処理物の製造方法においては、アキノワスレグサの葉、茎、根、花あるいは全草等の生体又は乾燥体を、3mm以下、好ましくは0.5〜1.0mmの粒径まで粉砕することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、ユリ科ワスレグサ属に属する植物の抽出物を含有する皮膚外用剤が記載されている。ワスレグサ属植物の抽出物の調製は、該植物の種子、葉、蕾、茎、根、全草など適宜の部分、好ましくは蕾を被抽出物として用い、必要に応じてこれを予め水洗、乾燥、細切もしくは粉砕した上、浸漬法、向流抽出法、超臨界抽出法など適宜の手段により抽出溶媒と接触せしめることによって行うことが記載されている。
【0007】
特許文献5には、麦若葉由来の素材又は桑葉等の青汁素材とクエン酸類又は酢酸類の成分を含む健康補助食品が記載されており、青汁素材として、アキノワスレグサを含むことが開示されている。
【0008】
特許文献6には、パパイアの種子単独、またはパパイアの種子および未熟果を主原料とし、当該原料の、加熱乾燥粉末、凍結乾燥粉末、水または熱水抽出物、泡盛抽出物、およびエタノール抽出物から選ばれた1以上の物を含む健康食品が記載されており、さらに、アキノワスレグサの花や茎の白い部分や根の加熱乾燥粉末、凍結乾燥粉末、水または熱水抽出物、泡盛抽出物、およびエタノール抽出物から選ばれた1以上の物を含むことも記載されている。
【0009】
特許文献7には、ユリ科ワスレグサ属の植物及び/又はその抽出物を酵母で発酵させて得られる発酵物を配合した化粧料が記載されており、それらユリ科ワスレグサ属植物及び/又はその抽出物を酵母で発酵する場合、該植物の発酵部位には特に限定はなく、全草、葉、花、雄しべ、雌しべ、茎、根茎、種子(子実)など適宜の部位を用いることができるが、得られる酵母発酵物の有効性の点から、蕾の使用が好ましく、なかでもワスレグサ属植物の蕾を基原とする生薬である金針菜の使用が最も好ましいことが記載されている。
【0010】
特許文献8には、ヘメロカリス属植物の乾燥物と、山羊脂、牛脂、豚脂、シソ油、椿油、オリーブ油又はごま油との混合物と、グァバの果実の乾燥粉末又はボタンボウフウの乾燥粉末を混合したヘメロカリス属植物の加工食品が記載されており、前記のヘメロカリス属の植物がアキノワスレグサ花であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−10968号公報
【特許文献2】特開2004−75638号公報
【特許文献3】特開2006−62998号公報
【特許文献4】特開2006−143670号公報
【特許文献5】特開2006−304785号公報
【特許文献6】特開2007−6804号公報
【特許文献7】特開2008−50326号公報
【特許文献8】特許第3469163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前掲の特許文献1に記載された薬剤では、肝臓障害抑制作用を示す有効成分はアキノワスレグサの茎、葉の部分に多く含まれているとされている。
特許文献2では、アキノワスレグサの葉が特に、血糖上昇抑制および血圧上昇抑制作用を奏する成分を含むとされている。
特許文献3に記載された睡眠改善剤、ACE阻害剤では、アキノワスレグサの葉、茎、根、花あるいは全草等の生体又は乾燥体を粉砕して発酵させて製造する。
特許文献4に記載された皮膚外用剤では、ワスレグサ属植物の種子、葉、蕾、茎、根、全草など適宜の部分、好ましくは蕾を用い、これを粉砕して製造する。
特許文献5に記載された健康補助食品では、アキノワスレグサの葉を用いる。
特許文献6に記載された健康食品では、アキノワスレグサの花や茎の白い部分や根の加熱乾燥粉末、凍結乾燥粉末、水または熱水抽出物、泡盛抽出物、およびエタノール抽出物を含む。
特許文献7に記載された化粧料では、ワスレグサ属植物及び/又はその抽出物を酵母で発酵する場合、該植物の発酵部位には特に限定はなく、全草、葉、花、雄しべ、雌しべ、茎、根茎、種子(子実)など適宜の部位を用いることができるが、得られる酵母発酵物の有効性の点から、蕾の使用が好ましいとされている。
特許文献8に記載された加工食品では、アキノワスレグサ花の乾燥物を用いる。
このように、従来においては、アキノワスレグサの薬効を奏する部位として、葉、茎、根が主に使用されており、花を使用する場合も、粉砕したり乾燥したりしている。
【0013】
本発明者は、アキノワスレグサの花は、クリプトキサンチンを2600マイクログラム/100g、ビタミンCを30mg/100g含んでいることに注目した。対照的に、葉・茎、根のクリプトキサンチンは検出限界以下であった。ちなみに、現在食品標準成分表では、最高は渋抜きかき(生)の2100マイクログラムである。すなわち、日本及び米国の食品に比較して含有量は最高値である。クリプトキサンチンは、抗癌作用、抗疲労作用など多くの研究が報告されている。しかし、クリプトキサンチンは加熱に弱いという報告もなされている。
【0014】
そこで本発明は、アキノワスレグサ等のヘメロカリス属植物の花に多く含まれているクリプトキサンチンを破壊せず、また有機溶媒を含まず、かつ低コストな抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は、次の構成を有する。
[1]ワスレグサ属植物の花を氷点下で凍結し、その後解凍して絞ることにより花汁を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁の製造方法。
[2]ワスレグサ属植物の花を1℃〜30℃で、または30℃以上の室温で容器または装置内に放置し、その後絞ることによって花汁を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁の製造方法。
[3][1]または[2]に記載の方法によりワスレグサ属植物の花汁を得た残渣を乾燥して、粉体を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁残渣の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アキノワスレグサ等のヘメロカリス属植物の花に多く含まれているクリプトキサンチンを破壊せず、また有機溶媒を含まず、かつ低コストなワスレグサ属植物の花汁およびその残渣を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態のワスレグサ属植物の花汁の製造方法は次の通りである。
1)ワスレグサ属の花を氷点下で凍結し、その後解凍することによって花汁を得る。
ワスレグサ属の花は朝咲いて夕方しぼむ1日花であり、毎日収穫する必要がある。収穫後、活用までの間、しばしば冷凍保存されるが、解凍時にかなりな量の液体が出る。この液は捨てられることが多いけれども、本発明では、計画的に冷凍し、かつ解凍し、そのとき出来る花の汁を活用しようとするものである。
2)ワスレグサ属の花を1℃〜30℃で放置するかまたは、30℃以上の室温で容器または装置内に置くことによって花汁を得る。30℃以上で加熱したものをいったん凍結し、1)と同様な方法で、花汁を得ることもできる。
3)1)と2)の処置をした花は、液体回収用の容器の上に設置した網状の物の上に置き、液体を自然落下させることもできる。また、圧搾することもできる。さらに、遠心力で液体と固形物を分離することもできる。
【0018】
以下に、本発明による花汁の製造実験例を示す。
実験1.凍結保存したアキノワスレグサ花400gを解凍し、袋に入れて手で搾ることによりドリップ(花汁)170mLが得られた。
実験2.凍結保存したアキノワスレグサ花1kgを解凍し、袋に入れて手で搾ることによりドリップ(花汁)約500mLが得られた。したがって、圧搾や遠心力により、初期重量の50%以上の花汁を作成できる。
実験3.100g当たり3mgのGABA(γ−アミノ酪酸)を含むアキノワスレグサの新鮮花から花汁を得て、加熱または凍結乾燥により濃縮し、100g当たり23mgのGABAを含む液体とした。乾燥の程度によりさらに高濃度のGABA含量とすることもできる。
【0019】
以下に、各実験例で得られた試料についての分析結果を示す。
<実施例1>
アキノワスレグサ新鮮花(凍結保存)のビタミンA,C,E、K、葉酸および抗酸化活性を示すDPPHラジカル消去活性値、ORAC(活性酸素吸収能力)値を測定し、表1に示した。特筆すべきは、クリプトキサンチンが、日本食品標準成功分表収載のどの食品よりも高値を示している点である。
【0020】
【表1】

【0021】
<実施例2>
アキノワスレグサ新鮮花(凍結保存)のミネラル類を測定し表2に示した。
【0022】
【表2】

【0023】
<実施例3>
アキノワスレグサ新鮮花(凍結保存)のアミノ酸類を測定して表3に示した。γ―アミノ酪酸は遊離の成分である。他は加水分解の後に測定し、蛋白質を含めた総アミノ酸値である。
【0024】
【表3】

(液体を含めて試験した。)
【0025】
<実施例4>
アキノワスレグサ(葉、根元から10cm以内)のビタミンA関連成分を測定して表4に示した。
【0026】
【表4】

【0027】
<実施例5>
アキノワスレグサ(根、瘤あり、生)のビタミンA関連成分を測定して表5に示した。
【0028】
【表5】

【0029】
<実施例6>
アキノワスレグサ抽出物のビタミンA関連成分を測定して表6に示した。ここでいう抽出物とは、アキノワスレグサ花を凍結して、搾った液体そのもののことである。
【0030】
【表6】

【0031】
この実施例6では、本発明の主たる目的のひとつである、アキノワスレグサ花を凍結−解凍−搾汁によってえられた液体中の抗酸化ビタミンを測定し、水溶性ビタミンであるビタミンCが28mg/100g含まれていることを示した。また、クリプトキサンチンも50μg/100g含まれていた。
【0032】
<実施例7>
アキノワスレグサ花の加熱乾燥物の抗酸化ビタミン関連成分を測定して表7に示した。
【0033】
【表7】

【0034】
実施例7は、アキノワスレグサ花を収穫後1−2日、冷蔵保存の後に、最高70℃までの温度で、水分が約7%になるまで加熱乾燥し、抗酸化ビタミン関連物質を測定したものである。通常、加熱に弱いとされるクリプトキサンチンが高濃度に保持されていることを示している。したがって、花汁を、凍結−解凍−搾汁した残渣にもかなりの量の抗酸化ビタミン関連成分が残っており、加熱乾燥すれば、乾燥野菜として、また加工食品、健康食品、清涼飲料水、石鹸、化粧品、寝具、衣類、家屋の壁紙、建具等の原料として活用可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の花汁は、捨てられることが多かった解凍後の花汁にビタミンCやクリプトキサンチンが含まれていることが示され、加工食品、健康食品、清涼飲料水、石鹸、化粧品、寝具、衣類、家屋の壁紙、建具等の原料への混合等、各種の分野において利用することができる。また、極めて安価にビタミンC溶液を得ることができる。
本発明の花乾燥物である花汁残渣は、花茶、乾燥野菜、加工食品、健康食品、清涼飲料水、石鹸、化粧品、寝具、衣類、家屋の壁紙、建具等の原料への混合等、各種の分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワスレグサ属植物の花を氷点下で凍結し、その後解凍して絞ることにより花汁を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁の製造方法。
【請求項2】
ワスレグサ属植物の花を1℃〜30℃で、または30℃以上の室温で容器または装置内に放置し、その後絞ることによって花汁を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によりワスレグサ属植物の花汁を得た残渣を乾燥して、粉体を得ることを特徴とするワスレグサ属植物の花汁残渣の製造方法。

【公開番号】特開2010−168317(P2010−168317A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13275(P2009−13275)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(508347144)
【Fターム(参考)】