ワックス微分散体の製造方法
【課題】 ワックス微分散体の製造方法において、破砕粉などの不純物が混じらないワックス微分散体を、簡素かつ小型の設備を用いて効率的に製造することができるようにする。
【解決手段】 ワックスを溶解した溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、曲線100または101に示すように、その複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの溶液の温度を流れ方向に沿って、ワックスの析出温度範囲の上限のT1より高温の第1段階と、ワックスの析出温度範囲内の温度T1〜T2の第2段階と、ワックスの析出温度範囲の下限のT2より低温の第3段階とに順次変化させ、少なくとも第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させる方法とする。
【解決手段】 ワックスを溶解した溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、曲線100または101に示すように、その複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの溶液の温度を流れ方向に沿って、ワックスの析出温度範囲の上限のT1より高温の第1段階と、ワックスの析出温度範囲内の温度T1〜T2の第2段階と、ワックスの析出温度範囲の下限のT2より低温の第3段階とに順次変化させ、少なくとも第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させる方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス微分散体の製造方法に関する。例えば、トナー製造用などに用いる平均粒径が数μm以下程度に微粒子化されたワックス微分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワックスの添加を容易にするためにワックスを数μm以下程度に微粒子化する技術が知られている。例えば、複写機やレーザプリンタなどに用いるトナーに添加するワックスは、トナー表面に均一に分散するように、微粒子化されたワックスが用いられる。近年、トナー性能の向上のため、トナーの微粒子化が求められており、それに伴ってトナー用のワックスも粒径の均一性やさらなる微粒子化が強く求められている。
例えば、特許文献1には、トナー用ワックスの微粒子化技術として、乳化・分散機器等を用いる機械的粉砕法、溶解析出法、気相蒸発法があることが記載されている。
溶解析出法は、「トナー作製時に用いる溶剤と相溶し、かつ室温ではワックスを溶解させない適当な溶剤を用い、上記溶剤にワックスを添加し加熱溶解させた後、室温まで徐々に冷却し、ワックスの微細粒子を析出させる方法」である。
気相蒸発法は、「ヘリウムなどの不活性ガス中でワックスを加熱蒸発させ気相中で粒子を作製した後、この粒子を冷却したフィルム等に付着回収した後に、溶剤に分散させる方法」である。
なお、機械的粉砕法に用いる機器としては、例えばビーズミルなどが知られている。
また、特許文献2には、バッチ方式の溶融冷却法(溶解析出法)を改良し、「ワックスを有機溶剤および/または重合性単量体とともにいったん加熱しワックスを溶解した後、攪拌しながら冷却してワックスを析出させワックス分散体を得る溶融析出法を連続化」したワックス分散法が記載されている。
【特許文献1】特開平10−207116号公報(第6−7頁)
【特許文献2】特公平8−16161号公報(図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のワックス微分散体の製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術のうち、機械的粉砕法では、例えば、ビーズミルを用いる場合、ビーズ径をより小さくすることで微粒子化を図ることができるものの、ビーズ間をすり抜けることにより比較的大径に粉砕されるものが出てくる。そのため粒径分布がブロードとなってしまうという問題がある。
また、ビーズ同士の衝突や、ビーズとベッセル(容器)内面との衝突により破砕粉が発生し、ワックス微分散体に不純物として残留するという問題がある。これをトナー製造に用いると、例えばトナーの発色がにごり、画質に影響してしまうという問題がある。
また従来の溶解析出法では、不純物が混じることなくワックス微分散体を形成することができるものの、特許文献1に記載されているように、「室温まで徐々に冷却」する工程を伴うので、製造に長時間を要するという問題がある。
また気相蒸発法では、気相中で粒子を作製するため、ワックス微分散体を量産するためには大型の設備が必要となるという問題がある。
また冷却したフィルム等に付着回収して、溶剤に分散させなくてはならないので、工程が複数のプロセスに分断されて、複雑なものとなるという問題もある。
また、特許文献2に記載の技術では、ワックスを溶解する加熱ゾーン、ワックスを析出させる冷却ゾーンを連続して設け、加熱工程、冷却工程を連続プロセスにより行うため、バッチ方式に比べて効率的な製造が可能となるものの、冷却ゾーンではワックスと有機溶剤および/または重合性単量体とからなる加熱混合物を攪拌しながら冷却するので、「高速剪断混合機、超音波ホモジナイザーおよび管内混合機からなる群から選ばれたいずれかの撹拌装置」とその冷却装置とを用いる必要がある。そのため、製造設備が複雑化し、占有スペースもとられてしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、破砕粉などの不純物が混じらないワックス微分散体を、簡素かつ小型の設備を用いて効率的に製造することができるワックス微分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明のワックス微分散体の製造方法は、ワックスを溶解した溶液から前記ワックスを析出させて微粒子化し、前記溶液の溶媒中に分散させたワックス微分散体を製造するワックス微分散体の製造方法であって、前記溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、前記複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの前記溶液の温度を流れ方向に沿って、前記ワックスの析出温度範囲より高温の第1段階と、前記ワックスの析出温度範囲内の第2段階と、前記ワックスの析出温度範囲より低温の第3段階とに順次変化させ、少なくとも前記第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させる方法とする。
この発明では、ワックスを溶解した溶液を複数のマイクロ流路に一定プロセス流量で流し、複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの溶液の温度を流れ方向に沿って、ワックスが未析出である第1段階、ワックスが析出する第2段階、析出されたワックスの微粒子が溶媒中で再溶解しない第3段階にそれぞれ温度変化させる。第2段階の状態では、温度を流れ方向に沿って単調減少させる。
そのため、第2段階でワックスが析出し、第2段階のプロセス時間を適宜設定することにより、一定範囲の粒径分布を有する微粒子に微粒子化される。そして、第3段階を経て粒径成長が抑制された状態で排出される。
したがって、上流の入口側と下流の出口側とでは、いずれも新たにワックスが析出しないので、例えば滞流などが生じても、ワックス析出していないか(第1段階)、析出していても完全な固相となっている(第3段階)ので、マイクロ流路の内面に付着しにくくなっており、マイクロ流路が目詰まりしにくいため安定した流れを維持することができる。
また、第2段階での温度が流れ方向に沿って単調減少するので、流れ方向と析出の時間的進行とが一致し、ワックスが再溶解して流れが乱れたりすることなく、ワックスを安定して析出させることができる。
また、複数のマイクロ流路が、それぞれ幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmと、微細な断面を有するので、溶液への伝熱が良好となり、流路断面内の溶液の温度分布を安定させることができる。マイクロ流路の幅と高さまたは内径が1μmより小さいと、流路断面に占めるワックス微粒子の径が大きくなりすぎ、マイクロ管路の閉塞が起こりやすくなる。また、同じく幅と高さまたは内径が1000μmより大きいと、流路断面の径方向の温度分布が大きくなりすぎ、流路断面内の析出の均一性が悪化する。
このようなワックス微分散体の製造方法は、複数のマイクロ流路を用いるため簡素かつ小型の設備で連続的なプロセスにより行うことができる。また機械的粉砕によらないので、ワックス微分散体に破砕粉が不純物として混入するおそれがない。
【発明の効果】
【0006】
本発明のワックス微分散体の製造方法によれば、複数のマイクロ流路にワックスを溶解した溶液を流し、その流路方向の温度分布を変化させてワックスを析出させ、微粒子化する工程を連続的に行うので、粉砕粉などの不純物が混じらないワックス微分散体を、簡素かつ小型の設備により効率的に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記第2段階が終了するまでの間に、前記複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を、相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるようにすることが好ましい。
この場合、第2段階が終了するまでの間に、複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるので、第2段階の全体もしくは後半が、それ以前の段階より急峻に温度降下し、第2段階の継続時間が短縮される。そのため、ワックスの析出時間が制御され、より長時間かけて析出させる場合に比べて、ワックスをより微粒子化することができる。
【0008】
また、本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記複数のマイクロ流路の上流側近傍に前記第1の温度を有する第1流体を流通し、前記複数のマイクロ流路の下流側近傍に前記第2の温度を有する第2流体を流通することにより前記複数のマイクロ流路を温度変化させることが好ましい。
この場合、温度がそれぞれ第1、第2の温度からなる第1、第2流体を複数のマイクロ流路の上流側近傍、下流側近傍に流通することにより、第2段階に係るマイクロ流路の冷却温度を2段階に切り替えるので、プロセス流量に応じて第1、第2流体の温度、流量を適宜設定することにより、第2段階における溶液の温度変化を制御することができる。そのため、ワックスの粒径を容易に制御することができる。
【0009】
また本発明の第2流体を用いてマイクロ流路を冷却するワックスの微分散体の製造方法では、前記第2流体を、前記複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通させることが好ましい。
この場合、第2流体が、複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通されるので、第2流体と複数のマイクロ流路との熱交換が流路方向に沿って発生する。そのため、第2流体が流路に直交もしくは交差する方向に流通される場合のように、第2流体の流れ方向の温度変化により複数のマイクロ流路間で温度分布を持つことがない。その結果、各マイクロ流路は流路方向の温度分布が略等しくなり、各マイクロ流路内で略等しい温度分布によりワックスが析出され、各マイクロ流路でのワックス微粒子の粒径の大きさおよび粒径分布の均一化を図ることができる。
なお、第2流体を流通させる方向は、マイクロ流路の流路方向に略沿っていれば、溶液と反対方向であってもよいが、同方向であることがより好ましい。
【0010】
また本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記ワックスが、カルナバワックスからなることが好ましい。
【0011】
以下では、本発明の実施形態に係る実施例について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施例が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【実施例】
【0012】
本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法について説明する。
図1、2は、本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す水平断面図、および斜視図である。図3は、図2における2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
本実施例のワックス微分散体の製造方法は、溶媒中に、例えば数μm以下程度に微粒子化されたワックスが分散したワックス微分散体を、製造するための方法であり、図1〜図3に示すようなマイクロ熱交換器1を用いて行うことができるものである。
【0013】
まず、マイクロ熱交換器1の概略構成について説明する。
マイクロ熱交換器1は、例えば同一の長方形板状からなる第1プレート2と第2プレート3とが複数交互に積層されて構成されている。各1枚の第1プレート2と第2プレート3とを組み合わせた積層単位には、それぞれ後述するように、例えば3系統のマイクロ流路が設けられている。そして、それらの供給口および排出口が、マイクロ熱交換器1の端面1b、1c、側面1d、1eの各領域に分散して配置され、それら領域に各マイクロ流路内に流すためのコネクタ30とジョイント部31とからなる継手部32がそれぞれ連結されている(図1参照)。
これらの継手部を介して、ワックス溶液A(溶液)が端面1bから供給されて端面1cに排出され、温調流体B(第1流体)が側面1eから供給されて側面1dに排出され、温調流体C(第2流体)が側面1dから供給され側面1eに排出されるようになっている。
【0014】
マイクロ熱交換器1の平面視形状は図示のような長方形とは限定されず、正方形状、または端面1b、1c間よりも側面1d、1e間が長い長方形状としてもよいが、以下では簡単のために、本実施例の図示形状に即して、端面1bから端面1cに向かう方向をマイクロ熱交換器1、第1プレート2、第2プレート3の長手方向、側面1dから側面1eに向かう方向を同じく短手方向と称することにする。
【0015】
第1プレート2は、図3に示すように、一方の面2aに断面凹溝形状のマイクロ流路4を第1プレート2の長手方向に貫通して延し、短手方向に所定間隔p0で複数本配列したものである。マイクロ流路4の長さをLとする。断面形状は、幅w0、深さd0とする。
マイクロ流路4の断面形状は、ワックス溶液Aの種類、微粒子のプロセス流量や流路長さLに応じて適宜設定することができるが、断面内の温度分布の均一性を確保するために、幅w0、深さd0は、それぞれ1μm〜1000μmの範囲に設定している。
本実施例では、各マイクロ流路4内に処理すべきワックス溶液Aが流され、図1、2に矢印で示すように、一方の端面2b側から供給されて他方の端面2c側へ排出される。
【0016】
第2プレート3は、図2、3に示すように、一方の面3aに断面凹溝形状の第1温調流路5、第2温調流路6が互いに所定の間隔だけ離れ、独立・分離して別個の領域に設けられている。そのため、第1温調流路5、第2温調流路6は相互に温度の影響を受けにくい位置関係を有している。
第1温調流路5は、第1プレート2におけるマイクロ流路4の上流側領域に配置され、マイクロ流路4の流路方向に略直交する方向、すなわち第2プレート3の短手方向に貫通して延された複数の主流路5aが平行に配列されたものである。第2プレート3の長手方向における第1温調流路5の幅はL1(ただし、L1<L)とする。
主流路5aの本数は、図2、3では模式図のため4本しか記載していないが、熱交換効率を考慮して適宜の本数を採用することが出きる。例えば数本から数十本程度が好ましく、配列ピッチはできるだけ細かいことが好ましい。
【0017】
第2温調流路6は、第2プレート3の長手方向に沿って複数本配列された主流路6aと、主流路6aの上流側及び下流側端部でそれぞれ第1温調流路5の主流路5aとほぼ平行に配置されて各主流路6aに連通する供給側流路6bおよび排出側流路6cとを備えている。供給側流路6bと排出側流路6cは2回直角に屈曲して第2プレート3の側面3d、3eからそれぞれ外部に開口している。
第2プレート3の長手方向における第2温調流路6の幅はL2(ただし、L2<L、かつ(L1+L2)<L)とする。
第2温調流路6の各流路の本数は、第2温調流路6の主流路6a部分のみが複数本配列され、供給側流路6bおよび排出側流路6cはそれぞれ1本で構成されている。
なお、第2温調流路6の各主流路6aについては、第1温調流路5との位置関係は任意であるが、マイクロ流路4に対しては、第2プレート3の短手方向において、マイクロ流路4が分布する範囲を積層方向に重なる範囲に設けられる。
そして、好ましくは各主流路6aが、隣り合う2本のマイクロ流路4、4間に位置するように積層方向に配列し、さらに好ましくは、各主流路6aが各マイクロ流路4に積層方向に重なるように配列する。
【0018】
各複数の第1プレート2、第2プレート3は、各第1プレート2、第2プレート3を同一方向に交互に重ねて積層され、互いに固着されている。
そのため、マイクロ熱交換器1の形態において、各マイクロ流路4、第1温調流路5、第2温調流路6は、凹溝の開口面が上に積層されるプレートの下面により覆われ、両端が開口する長方形断面のトンネル形状とされる。
【0019】
このような各第1プレート2、第2プレート3は、適宜の金属材料を用いることができるが、例えばステンレス鋼板にエッチング加工を施すことによりマイクロ流路4、第1温調流路5、第2温調流路6などを形成し、流路面を電解研磨仕上げするなどして製作することができる。
【0020】
次に、マイクロ熱交換器1の動作とともに、本実施例のワックス微分散体の製造方法について説明する。
図4は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。横軸は時間軸であり、縦軸は溶液の温度(単位は、℃)を示す。図5は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法により得られたワックス微粒子の一例を示す電子顕微鏡写真である。図6は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法によって得られた平均粒径の実験結果を示すグラフである。横軸はプロセス流量(単位は、g/min)、縦軸は対数目盛の平均粒径(単位は、μm)を示す。図7(a)、(b)は、図6に示す実験例における粒径分布の例を示すヒストグラムである。横軸は粒径(単位は、μm)、縦軸は頻度(単位は、%)を示す。
【0021】
マイクロ熱交換器1に流すワックス溶液Aについて説明する。
ワックス溶液Aは、微粒子化するワックスを適宜溶媒に溶解した溶液である。ワックスの種類は、一定の温度範囲で、溶解される溶媒を有するものであれば、天然ワックスでも合成ワックスでもよい。また、ワックスの析出を妨げない範囲で、任意の添加物を混合してもよい。例えば、ワックスとして、ポリプロピレンワックスなどを好適に採用でき、添加物として、例えば、イプゾールなどを混合してもよい。
本実施例では、ワックスの一例として、電子写真用トナーに添加して、例えば滑り性など特性を向上させるのに好適なカルナバワックスを溶解させた例で説明する。
本実施例のワックス溶液Aは、カルナバワックス12wt%をカルナバワックスに好適な溶媒であるMEK(メチルエチルケトン)60wt%に溶解し、さらにポリエステル樹脂28wt%を添加したものである。
ここで、ポリエステル樹脂は、凝集を防止するために添加したもので、例えば粒径500μm程度の粒状体である。
このようなワックス溶液Aは、温度T1〜T2(ただし、T1>T2)の析出温度範囲を有する。そのため、温度T1より高温にすることによりカルナバワックスが融解しMEKに溶解される。そして、温度T1〜T2の範囲で、過飽和のカルナバワックスが固体として析出する状態となる。また、温度T2より低温では、カルナバワックスが固相となるため、析出が終了する。例えば、上記の配合例では、T1=70℃、T2=55℃である。
【0022】
したがって、ワックス溶液Aを温度T1より高温に加熱して、カルナバワックスが溶解したワックス溶液Aを温度T1以下に冷却し、析出時間toutを経た後に温度T2より低温とすれば、固体粒子状のカルナバワックスが溶媒内に析出する。
このとき、カルナバワックスの析出量は、ワックス溶液A中のカルナバワックスの濃度と、温度に応じたワックス溶液Aの飽和濃度により決まるが、ワックス溶液Aの温度分布が不均一であると、温度分布に応じて析出も不均一になり、粒径のバラツキが大きくなる。一方、ワックス溶液Aの温度分布が均一であれば、析出も均等化されるため、粒径のバラツキが少ない微粒子群が得られる。
【0023】
そこで、本実施例では、ワックス溶液Aを、T1=70℃以上の温度、例えば75℃に加温して、図1の端面1b側の継手部32から、マイクロ熱交換器1のマイクロ流路4に供給し、ワックス溶液Aを一定のプロセス流量P(流速VP)で流す。
このとき、第1温調流路5にワックス溶液Aを徐冷するために、マイクロ流路4に供給されるワックス溶液Aの温度より低温の温度H1(第1の温度)の温調流体Bを継手部32を介して供給し、反対側の継手部32から排出する。温調流体Bは、ワックス溶液Aと略直交する方向に流れるが、このような流れを、以下直交流と称する。
また、第2温調流路6に対して、供給側流路6b側の継手部32から温度H1より低温の温度H2(第2の温度)の温調流体Cを供給し、各主流路6aに流通させて排出側流路6c側の継手部32から排出する。温調流体Cは、ワックス溶液Aと平行かつ同方向に流れるが、このような流れを、以下並流と称する。反対に、排出側流路6cから温調流体Cを供給し、供給側流路6bから排出することで、主流路6aをワックス溶液Aとは逆方向に流すこともできるが、この流れは向流と称する。
なお、温調流体A、Bは、互いに独立の流路を流通し、ワックス溶液Aと混入することもないので、それぞれ適宜の流体を採用することができる。本実施例ではいずれも水を採用している。
【0024】
これにより、第1温調流路5が設けられた各第2プレート3の長手方向の幅L1の面状領域に、温度H1の定常冷却源が形成されるとともに、第2温調流路6が設けられた各第2プレート3の長手方向の幅L2の面状領域に温度H2の定常冷却源が形成される。
すなわち、マイクロ流路4は、温度H1からH2に不連続に変化する冷却温度を有する第2プレート3により冷却される。
【0025】
一方、第1プレート2上の各マイクロ流路4は、75℃のワックス溶液Aがプロセス流量Pで流れているので、上下に積層された第2プレート3、3により流路方向に沿って2段階に冷却されつつ、排出される。そのため、各マイクロ流路4内のワックス溶液Aは、流路方向に、例えば、図4に示すような温度分布を有する定常流れとなる。
【0026】
図4に示す実験例の条件は、マイクロ流路4、主流路5a、6aの流路断面寸法をw0=0.4mm、d0=0.2mm、配置ピッチが0.6mmピッチ、プロセス流量P=75g/min、流速VP=0.31m/minに設定した。そして、冷却温度をH1=50℃、35℃、H2=5℃としている。図中の時間tL1(=t2−t1)、tL2(=t3−t4)は、それぞれ、第1温調流路5、第2温調流路6の領域を通過する時間の範囲を示す。また、横軸のt=0、tEは、それぞれ、マイクロ熱交換器1に流入する時刻と、排出される時刻を示す。
【0027】
点p1、p2、p3、p4を通る曲線100は、H1=50℃の場合の温度分布の例である。第1段階では、75℃(点p1)から略直線的に緩やかに温度降下し、第2温調流路6の領域に到達する時刻で、略温度T1となる(点p2)。第2段階では、第2温調流路6により冷却温度が温度H2に切り替わる結果、急激に冷却が進み、より大きな温度勾配で冷却されて、温度T2に至る(点p3)。第3段階では、温度勾配は次第に緩やかになり、時刻tEにおいて約50℃で排出される(点p4)。
第1段階は、ワックス溶液Aをマイクロ流路4の入口付近で確実に温度T1以上の温度に保持するための段階である。これによりマイクロ流路4の入口付近で滞流が起こっても、ワックスによる目詰まりが起こらず、長時間の連続処理が可能となる。
第2段階は、ワックスをワックス溶液Aから析出させ、析出時間tout1のうちに粒径成長させる段階である。この曲線100の場合には、第2温調流路6により急激に冷却されることで析出時間tout1を短縮することができ、析出する粒径を制御することができる。この間のワックス溶液Aの温度はこのとき、マイクロ流路4の断面積は析出する粒子径より大きく、断面内の温度分布を十分均一化できるほど小さいものとなっている。
第3段階は、ワックスがすべて固相となる温度範囲に冷却することで、粒径成長を抑えるとともに、マイクロ流路4内面への付着を防止する段階である。このため、出口付近で滞流が生じても、目詰まりを起こさないようにすることができる。
【0028】
もし、単一温度の冷却源により冷却すると、ワックス溶液Aの温度分布は、なだらかな曲線もしくは単一勾配を有する直線状になるので、粒子径を低減するためには、入口温度からの温度差が大きい低温源とする必要があり、そのため、マイクロ熱交換器1の入口付近で急激な温度低下を起こし、曲線100のように入口付近で十分な長さを温度T1以上に確保することができない。
流路方向に、温度が連続的に低減する冷却源を用いることも考えられるが、この場合、冷却源として複雑な流路や制御回路などを含む構成が必要となり、高価な装置となってしまう。
そのため、冷却源は、本実施例のように、異なる冷却温度を有する少なくとも2つの冷却源を流路方向に配置することが好ましい。
【0029】
このように、第1〜3段階を経ることで、ワックス溶液Aは、溶媒中に粒径分布が制御された微粒子のカルナバワックスが分散したワックス微分散体としてマイクロ熱交換器1から排出される。この工程は、一定プロセス流量で連続して行われ、破砕粉などの不純物を除去したり、粒径分布を整えるために分粒したりする必要がないので、きわめて効率的にワックス微分散体を製造することができる。
図5に、本実施例により微粒子化されたカルナバワックスの電子顕微鏡写真を示した。写真撮影の都合でワックスの微粒子のみを取り出しているため凝集しているが、ワックス溶液Aの中では、孤立して写っている粒子径程度のワックス微粒子がワックス溶液A中に分散されている。図5によれば、カルナバワックスが、全体として大きくても約2μm〜3μm程度とされ、粒径の均一性が高いワックス微粒子が得られていることが分かる。
【0030】
点q1、q2、q3、q4を通る曲線101(図4参照)は、H1=35℃の場合の温度分布の例である。第1段階では、曲線100の場合よりも低温のH1で冷却するので、75℃(点q1)から曲線100よりも急峻に温度降下し、第1温調流路5の領域の範囲で、温度T1に到達する(点q2)。第2段階では、第1温調流路5により冷却温度がH1のまま冷却され、さらに第2温調流路6の領域に達して冷却温度が温度H2で冷却され、曲線100の場合より早い時刻に温度T2に至る(点q3)。第3段階では、冷却温度H2で冷却が進行し、時刻tEでは、曲線100の場合よりも低温の約40℃で排出される(点q4)。
本実験例は、第1〜3段階を経てワックス溶液Aを排出するので曲線100の場合と同様に効率的にワックス微分散体を製造することが出きる。
ただし、本実験例は、第2段階を温度H1、H2で冷却する場合の例になっている。この場合、より低温の温度H1のみで冷却する曲線100の場合に比べて、析出時間tout2が長くなる(tout1<tout2)。そのため粒径はより大きくなる。
このように本実験例は、温調流体Bの温度を可変することにより、粒径の大きさを制御することができる場合の例となっている。
【0031】
次に、本実施例におけるカルナバワックスの平均粒子径、および粒径分布の実験結果について説明する。
図6は、上記の実験例の平均粒径を、プロセス流量Pを15g/min、45g/minに変化させた他の実験結果とともに示したグラフである。図7(a)、(b)は、それぞれ、プロセス流量Pが75g/minのときの、温度H1が35℃(丸印)、50℃(菱形印)の場合の粒径分布を示すヒストグラムである。ここで、粒径は、例えば、堀場製作所(株)製の遠心沈降式流動分布計を用いて、重量平均に基づいて測定した値である。
【0032】
図6より、いずれの場合も、温度H1=50℃の場合の方が、平均粒径が小さくなっており、温度H1=35℃場合には、プロセス流量Pの増大とともに、平均粒径が増大する傾向があることが分かる。
図4を参照して説明したように、H1の温度を50℃と35℃とに変えたことで、プロセス流量が一定であれば、それぞれの析出時間が、tout1<tout2となり、H1=50℃の方が平均粒径は小さくなると考えられる。
図7(a)、(b)によると、H1=35℃の場合には、74%が2μm〜3μmとなっており、H1=50℃の場合に比べて粒径分布が大きい粒径に集中している。一方、H1=50℃の場合は、粒径分布がブロードになる、すなわち広範囲に分布する傾向が見られるが、粒径の最大値は小さいため、粒径分布から見ても、H1=50℃の方が微粒子化されている。
このように、本実施例の方法では、プロセス流量の幅広い範囲で、微粒子化が達成されており、プロセス流量を増大して生産性を向上することができるものである。
【0033】
次に、本実施例における温調流体Cの流し方を変えた場合の作用について、他の実験例により説明する。
図8は、第2流体の流し方を並流、向流、直交流とした場合のそれぞれの平均粒径の測定結果を示すグラフである。横軸はプロセス流量(単位は、g/min)、縦軸は対数目盛の平均粒径(単位は、μm)を示す。図中の菱形印、正方形印、三角印、それぞれ並流、向流、直交流の値を表す。図9(a)、(b)は、図8の実験例における向流、直交流の場合の粒径分布の例を示すヒストグラムである。横軸は粒径(単位は、μm)、縦軸は頻度(単位は、%)を示す。
【0034】
図8に示すのは、マイクロ流路4が上記実験例と同様の断面形状、長さとし、温調流体Cの流し方を、並流、向流、直交流とし、それぞれの場合について、流通プロセス流量を、75g/min、45g/min、15g/minに変えて実験し、そのワックス微分散体の平均粒径を測定した実験結果である。冷却温度は、H1=50℃、H2=5℃としている。
向流は、第2温調流路6において、温調流体Cを排出側流路6cから供給し、供給側流路6bから排出させることにより実現した。
直交流は、マイクロ熱交換器1の第2プレート3に代えて、第1温調流路5を隣接させたプレートを取り付けたマイクロ熱交換器を製作して実現した。
【0035】
図8によれば、いずれのプロセス流量においても、並流の平均粒径がもっとも小さい。向流と直交流とでは、プロセス流量が小さい場合には同等であるが、プロセス流量が大きいと直交流よりも向流の方が、平均粒径が小さくなっている。
一方、この場合の向流、直交流の粒径分布は、それぞれ図9(a)、(b)に示す通り、それぞれ、2μm〜3μmに集中している。ただし、向流は3μm以下に分布しているのに対し、直交流では10μmまでのブロードな分布を有するため、平均粒径としては向流の方が小さい結果となっている。
したがって、粒径バラツキを小さくするためには、直交流よりは向流、向流よりは並流とすることが好ましいことが分かる。
【0036】
これらの実験結果について、図10〜12を参照して説明する。
図10、11、12は、温度H2=5℃で冷却する領域において、ワックス溶液Aの入口温度を75℃として、それぞれ並流、向流、直交流とした場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。ワックス溶液Aは、図示の上側から下側に流れるものとし、温調流体Cの流れとの関係が分かるように、それぞれに対応する第2温調流路を実線で示している。等温線は、それぞれ75℃(実線)、55℃(破線)、45℃(一点鎖線)、25℃(二点鎖線)を示した。
なお、実際の等温線は、流路の配置ピッチに応じた細かな波形の変化を示すが、見にくくなるので、平均温度をプロットしている。
【0037】
並流の場合の温度分布は、図10に示すように、ワックス溶液Aの流れ方向には、75℃から45℃までは、短い流路長さの範囲で時間的には急峻に冷却され、それ以下の温度では、流路方向にやや緩やかに冷却されている。また、図示横方向に対応するマイクロ流路4の流路直交方向(以下、単に流路直交方向と称する)では、マイクロ流路4が存在する範囲において、ワックスの析出が起こる75℃〜55℃の範囲でほとんど温度差が見られない。そして、45℃、25℃となるにしたがって、供給側流路6bの入口側より排出側流路6cの出口側の方が高温になっている。
これは、温調流体Cが、供給側流路6bを通って、流路直交方向に移動する間に熱交換して蓄熱されるため、ワックス溶液Aとの温度差が小さくなるとその差が熱交換効率の差となって顕著に現われるからである。
【0038】
向流の場合の温度分布は、図11に示すように、図10と比べると、ワックス溶液Aの流れ方向には温度勾配が緩やかであり冷却に必要な流路長さが長くなっている。すなわち、時間的にやや緩慢に冷却されている。また、流路直交方向では、流路直交方向の中央部で温度が上昇する図示下向きの山形の温度分布を示している。ただし、75℃〜55℃の範囲では、その差は小さく略平坦になっている。
これは、向流では、ワックス溶液Aの下流側で略温度H2の低温の温調流体Cが供給されるものの、温調流体Cが図示上側に流れるにつれ、新たに供給されるワックス溶液Aと熱交換して蓄熱され、その結果、ワックス溶液Aの流入側の冷却効率が悪化するためである。流路直交方向での山形の温度分布となるのは、ワックス溶液Aが流れない図示左右方向の外周部が低温部となっているためである。
【0039】
直交流の場合の温度分布は、図12に示すように、図10、11と比べると、ワックス溶液Aの流れ方向には、最も温度勾配が緩やかであり冷却に必要な流路長さが最長となっている。すなわち、時間的に緩慢に冷却されている。また、流路直交方向では、温調流体Cの流れ方向に沿って昇温され温度分布が不均一になっていることが分かる。
【0040】
これらの温度分布から、直交流では流路直交方向および流路方向沿って大きな温度差を有し、全体として最も温度バラツキが大きいことが分かる。また、並流と向流とでは、いずれも、直交流よりは温度分布の均一性に優れるが、並流の方がより均一性が高いことが分かる。このように、温調流体Cの流し方により冷却の均一性が異なるものである。
平均粒径のバラツキが、並流、向流、直交流の順に大きくなった理由は、温調流体Cの流し方により冷却の不均一性が増大し、析出時間の場所によるバラツキがこの順に大きくなるためであると考えられる。
【0041】
次に、本実施例で、マイクロ流路4の流路断面を変えた場合の作用について、他の実験例により説明する。
図13は、マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。グラフ軸は、図4と同様である。図14は、マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における平均粒径の実験結果を示すグラフである。グラフ軸は図5と同様である。
【0042】
図13において点r1、r2、r3、r4を通る曲線108は、図4の曲線100で示す実験例において、マイクロ流路4、主流路5a、6aの断面をw0=0.2mm、d0=0.15mmに、配置ピッチを0.4mmに変更し、他を同条件とした実験例の温度分布である。対比のため、図4の曲線100を再掲している。
図13に示すように、各流路の断面積が縮小されて、配置本数が増えることで、伝熱面積が拡大したため、熱交換の効率が高まり、第2段階でより急激な温度変化を起こしている。すなわち、析出時間tout3が、曲線100のtout0より短縮される(点r3、p3参照)とともに、出口である時刻tEでの温度が、曲線100の場合が約50℃(点p4)であるのに対し、曲線108では約30℃(点r4)に低下している。
【0043】
図14には、曲線108の条件で、プロセス流量のみ、15g/min、45g/min、75g/min、90g/minに変えて実験し、平均粒径を曲線100の条件で同様の測定を行った結果とともに示した。図中で菱形印は断面が0.4mm×0.2mmの場合、正方形印は0.2mm×0.15mmの場合をそれぞれ示す。
それぞれの結果は、プロセス流量が少ない領域では、大きな差がないが、プロセス流量が増えると、断面積の小さい方が、平均粒径が徐々に低下し、断面積の大きい方は次第に平均粒径が増大する傾向を示す。そして、0.2mm×0.15mmの場合には、プロセス流量90g/minであっても、1μm以下の平均粒径が得られている。
これは、流路断面積を小さくして熱交換の効率を向上した方が、ワックス溶液Aの温度分布が均一となり、しかも析出時間が短くなるからであると考えられる。
このように本実施例では、流路断面の大きさを適宜に設定することで、ワックス溶液Aのプロセス流量が大きい場合でも、安定した微粒子を得ることができる。したがって、ワックス微分散体の生産性を向上することができるものである。
【0044】
従来技術では、例えば、1μm〜2μm程度の粒径のワックスをビーズミルにより製造する場合、所望の粒径となるまで粉砕を繰り返すので、約3〜4時間程度の粉砕工程を行う必要があった。また、0.5μm以下程度の微細粉が多量に発生するなどして、所望の粒径分布に比べてブロードな粒径分布となり、製造効率がよくなかった。
これに対し、本実施例のワックス微分散体の製造方法によれば、マイクロ流路を通過する過程でビーズミルの場合に比べて粒径分布が狭い微粒径のワックスを析出させるので、例えば数秒程度の析出工程で連続的に製造でき、冷却温度、プロセス流量や流路断面積などを適宜設定することにより生産性を向上することができる。
【0045】
なお、上記の説明では、マイクロ流路の断面形状を矩形状とした例で説明したが、三角形断面、U字状断面、半円形、円形や楕円形断面であってもよい。円形や楕円形の場合、幅と高さとに代えて、直径、または短径および長径が1μm〜1000μmであればよい。
【0046】
また、上記の説明では、第1温調流路、第2温調流路もマイクロ流路と同様な流路断面で形成した例で説明した。このようにすれば、マイクロ流路を流れる溶液との熱交換の効率が向上できるので好ましいが、プレートの温度を面状領域で低下させる冷却源を形成できれば、第1温調流路、第2温調流路の流路断面はそれぞれ溶液を流すマイクロ流路と異なる大きさを備えていてもよい。例えば、伝熱効率の高い流体を用いたり、流速を向上したりといった他の手段により熱交換効率を向上できれば、1000μmより大きな幅を有する流路としてもよい。
【0047】
また、上記の説明では、第2段階が終了する以前に1回だけ、マイクロ流を冷却する温度を下げる例で説明したが、複数段階にわたって、あるいは連続的に下げてもよい。
また、第1段階および第3段階では、ワックスの析出に影響を与えないので、溶液の温度を流れ方向に単調減少させなくてもよい。
【0048】
また、上記の説明では、第1流体の温度を溶液の温度より低く設定した例で説明したが、溶液をマイクロ流路の入口付近で、析出開始温度より高温に保持することができれば、供給される溶液の温度より高温としてもよい。この場合、第1流体が流れる流路は加熱源となる。
【0049】
また、上記の説明では、複数のマイクロ流路を温度変化させる熱源として、第1流体、第2流体をマイクロ流路近傍に流通して、熱交換する例で説明したが、複数のマイクロ流路を温度変化させる熱源は、これに限定されず、例えば、発熱体を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す水平断面図である。
【図2】本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す斜視図である。
【図3】図2における2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。
【図5】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法により得られたワックス微粒子の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法によって得られた平均粒径の実験結果を示すグラフである。
【図7】図6に示す実験例における粒径分布の例を示すヒストグラムである。
【図8】第2流体の流し方を並流、向流、直交流とした場合のそれぞれの平均粒径の測定結果を示すグラフである。
【図9】図8の実験例における向流、直交流の場合の粒径分布の例を示すヒストグラムである。
【図10】第2流体が並流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図11】第2流体が向流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図12】第2流体が直交流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図13】マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。
【図14】マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における平均粒径の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 マイクロ熱交換器
4 マイクロ流路
5 第1温調流路
5a、6a 主流路
6 第2温調流路
A ワックス溶液(溶液)
B 温調流体(第1流体)
C 温調流体(第2流体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス微分散体の製造方法に関する。例えば、トナー製造用などに用いる平均粒径が数μm以下程度に微粒子化されたワックス微分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワックスの添加を容易にするためにワックスを数μm以下程度に微粒子化する技術が知られている。例えば、複写機やレーザプリンタなどに用いるトナーに添加するワックスは、トナー表面に均一に分散するように、微粒子化されたワックスが用いられる。近年、トナー性能の向上のため、トナーの微粒子化が求められており、それに伴ってトナー用のワックスも粒径の均一性やさらなる微粒子化が強く求められている。
例えば、特許文献1には、トナー用ワックスの微粒子化技術として、乳化・分散機器等を用いる機械的粉砕法、溶解析出法、気相蒸発法があることが記載されている。
溶解析出法は、「トナー作製時に用いる溶剤と相溶し、かつ室温ではワックスを溶解させない適当な溶剤を用い、上記溶剤にワックスを添加し加熱溶解させた後、室温まで徐々に冷却し、ワックスの微細粒子を析出させる方法」である。
気相蒸発法は、「ヘリウムなどの不活性ガス中でワックスを加熱蒸発させ気相中で粒子を作製した後、この粒子を冷却したフィルム等に付着回収した後に、溶剤に分散させる方法」である。
なお、機械的粉砕法に用いる機器としては、例えばビーズミルなどが知られている。
また、特許文献2には、バッチ方式の溶融冷却法(溶解析出法)を改良し、「ワックスを有機溶剤および/または重合性単量体とともにいったん加熱しワックスを溶解した後、攪拌しながら冷却してワックスを析出させワックス分散体を得る溶融析出法を連続化」したワックス分散法が記載されている。
【特許文献1】特開平10−207116号公報(第6−7頁)
【特許文献2】特公平8−16161号公報(図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のワックス微分散体の製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術のうち、機械的粉砕法では、例えば、ビーズミルを用いる場合、ビーズ径をより小さくすることで微粒子化を図ることができるものの、ビーズ間をすり抜けることにより比較的大径に粉砕されるものが出てくる。そのため粒径分布がブロードとなってしまうという問題がある。
また、ビーズ同士の衝突や、ビーズとベッセル(容器)内面との衝突により破砕粉が発生し、ワックス微分散体に不純物として残留するという問題がある。これをトナー製造に用いると、例えばトナーの発色がにごり、画質に影響してしまうという問題がある。
また従来の溶解析出法では、不純物が混じることなくワックス微分散体を形成することができるものの、特許文献1に記載されているように、「室温まで徐々に冷却」する工程を伴うので、製造に長時間を要するという問題がある。
また気相蒸発法では、気相中で粒子を作製するため、ワックス微分散体を量産するためには大型の設備が必要となるという問題がある。
また冷却したフィルム等に付着回収して、溶剤に分散させなくてはならないので、工程が複数のプロセスに分断されて、複雑なものとなるという問題もある。
また、特許文献2に記載の技術では、ワックスを溶解する加熱ゾーン、ワックスを析出させる冷却ゾーンを連続して設け、加熱工程、冷却工程を連続プロセスにより行うため、バッチ方式に比べて効率的な製造が可能となるものの、冷却ゾーンではワックスと有機溶剤および/または重合性単量体とからなる加熱混合物を攪拌しながら冷却するので、「高速剪断混合機、超音波ホモジナイザーおよび管内混合機からなる群から選ばれたいずれかの撹拌装置」とその冷却装置とを用いる必要がある。そのため、製造設備が複雑化し、占有スペースもとられてしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、破砕粉などの不純物が混じらないワックス微分散体を、簡素かつ小型の設備を用いて効率的に製造することができるワックス微分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明のワックス微分散体の製造方法は、ワックスを溶解した溶液から前記ワックスを析出させて微粒子化し、前記溶液の溶媒中に分散させたワックス微分散体を製造するワックス微分散体の製造方法であって、前記溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、前記複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの前記溶液の温度を流れ方向に沿って、前記ワックスの析出温度範囲より高温の第1段階と、前記ワックスの析出温度範囲内の第2段階と、前記ワックスの析出温度範囲より低温の第3段階とに順次変化させ、少なくとも前記第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させる方法とする。
この発明では、ワックスを溶解した溶液を複数のマイクロ流路に一定プロセス流量で流し、複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの溶液の温度を流れ方向に沿って、ワックスが未析出である第1段階、ワックスが析出する第2段階、析出されたワックスの微粒子が溶媒中で再溶解しない第3段階にそれぞれ温度変化させる。第2段階の状態では、温度を流れ方向に沿って単調減少させる。
そのため、第2段階でワックスが析出し、第2段階のプロセス時間を適宜設定することにより、一定範囲の粒径分布を有する微粒子に微粒子化される。そして、第3段階を経て粒径成長が抑制された状態で排出される。
したがって、上流の入口側と下流の出口側とでは、いずれも新たにワックスが析出しないので、例えば滞流などが生じても、ワックス析出していないか(第1段階)、析出していても完全な固相となっている(第3段階)ので、マイクロ流路の内面に付着しにくくなっており、マイクロ流路が目詰まりしにくいため安定した流れを維持することができる。
また、第2段階での温度が流れ方向に沿って単調減少するので、流れ方向と析出の時間的進行とが一致し、ワックスが再溶解して流れが乱れたりすることなく、ワックスを安定して析出させることができる。
また、複数のマイクロ流路が、それぞれ幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmと、微細な断面を有するので、溶液への伝熱が良好となり、流路断面内の溶液の温度分布を安定させることができる。マイクロ流路の幅と高さまたは内径が1μmより小さいと、流路断面に占めるワックス微粒子の径が大きくなりすぎ、マイクロ管路の閉塞が起こりやすくなる。また、同じく幅と高さまたは内径が1000μmより大きいと、流路断面の径方向の温度分布が大きくなりすぎ、流路断面内の析出の均一性が悪化する。
このようなワックス微分散体の製造方法は、複数のマイクロ流路を用いるため簡素かつ小型の設備で連続的なプロセスにより行うことができる。また機械的粉砕によらないので、ワックス微分散体に破砕粉が不純物として混入するおそれがない。
【発明の効果】
【0006】
本発明のワックス微分散体の製造方法によれば、複数のマイクロ流路にワックスを溶解した溶液を流し、その流路方向の温度分布を変化させてワックスを析出させ、微粒子化する工程を連続的に行うので、粉砕粉などの不純物が混じらないワックス微分散体を、簡素かつ小型の設備により効率的に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記第2段階が終了するまでの間に、前記複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を、相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるようにすることが好ましい。
この場合、第2段階が終了するまでの間に、複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるので、第2段階の全体もしくは後半が、それ以前の段階より急峻に温度降下し、第2段階の継続時間が短縮される。そのため、ワックスの析出時間が制御され、より長時間かけて析出させる場合に比べて、ワックスをより微粒子化することができる。
【0008】
また、本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記複数のマイクロ流路の上流側近傍に前記第1の温度を有する第1流体を流通し、前記複数のマイクロ流路の下流側近傍に前記第2の温度を有する第2流体を流通することにより前記複数のマイクロ流路を温度変化させることが好ましい。
この場合、温度がそれぞれ第1、第2の温度からなる第1、第2流体を複数のマイクロ流路の上流側近傍、下流側近傍に流通することにより、第2段階に係るマイクロ流路の冷却温度を2段階に切り替えるので、プロセス流量に応じて第1、第2流体の温度、流量を適宜設定することにより、第2段階における溶液の温度変化を制御することができる。そのため、ワックスの粒径を容易に制御することができる。
【0009】
また本発明の第2流体を用いてマイクロ流路を冷却するワックスの微分散体の製造方法では、前記第2流体を、前記複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通させることが好ましい。
この場合、第2流体が、複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通されるので、第2流体と複数のマイクロ流路との熱交換が流路方向に沿って発生する。そのため、第2流体が流路に直交もしくは交差する方向に流通される場合のように、第2流体の流れ方向の温度変化により複数のマイクロ流路間で温度分布を持つことがない。その結果、各マイクロ流路は流路方向の温度分布が略等しくなり、各マイクロ流路内で略等しい温度分布によりワックスが析出され、各マイクロ流路でのワックス微粒子の粒径の大きさおよび粒径分布の均一化を図ることができる。
なお、第2流体を流通させる方向は、マイクロ流路の流路方向に略沿っていれば、溶液と反対方向であってもよいが、同方向であることがより好ましい。
【0010】
また本発明のワックス微分散体の製造方法では、前記ワックスが、カルナバワックスからなることが好ましい。
【0011】
以下では、本発明の実施形態に係る実施例について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施例が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【実施例】
【0012】
本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法について説明する。
図1、2は、本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す水平断面図、および斜視図である。図3は、図2における2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
本実施例のワックス微分散体の製造方法は、溶媒中に、例えば数μm以下程度に微粒子化されたワックスが分散したワックス微分散体を、製造するための方法であり、図1〜図3に示すようなマイクロ熱交換器1を用いて行うことができるものである。
【0013】
まず、マイクロ熱交換器1の概略構成について説明する。
マイクロ熱交換器1は、例えば同一の長方形板状からなる第1プレート2と第2プレート3とが複数交互に積層されて構成されている。各1枚の第1プレート2と第2プレート3とを組み合わせた積層単位には、それぞれ後述するように、例えば3系統のマイクロ流路が設けられている。そして、それらの供給口および排出口が、マイクロ熱交換器1の端面1b、1c、側面1d、1eの各領域に分散して配置され、それら領域に各マイクロ流路内に流すためのコネクタ30とジョイント部31とからなる継手部32がそれぞれ連結されている(図1参照)。
これらの継手部を介して、ワックス溶液A(溶液)が端面1bから供給されて端面1cに排出され、温調流体B(第1流体)が側面1eから供給されて側面1dに排出され、温調流体C(第2流体)が側面1dから供給され側面1eに排出されるようになっている。
【0014】
マイクロ熱交換器1の平面視形状は図示のような長方形とは限定されず、正方形状、または端面1b、1c間よりも側面1d、1e間が長い長方形状としてもよいが、以下では簡単のために、本実施例の図示形状に即して、端面1bから端面1cに向かう方向をマイクロ熱交換器1、第1プレート2、第2プレート3の長手方向、側面1dから側面1eに向かう方向を同じく短手方向と称することにする。
【0015】
第1プレート2は、図3に示すように、一方の面2aに断面凹溝形状のマイクロ流路4を第1プレート2の長手方向に貫通して延し、短手方向に所定間隔p0で複数本配列したものである。マイクロ流路4の長さをLとする。断面形状は、幅w0、深さd0とする。
マイクロ流路4の断面形状は、ワックス溶液Aの種類、微粒子のプロセス流量や流路長さLに応じて適宜設定することができるが、断面内の温度分布の均一性を確保するために、幅w0、深さd0は、それぞれ1μm〜1000μmの範囲に設定している。
本実施例では、各マイクロ流路4内に処理すべきワックス溶液Aが流され、図1、2に矢印で示すように、一方の端面2b側から供給されて他方の端面2c側へ排出される。
【0016】
第2プレート3は、図2、3に示すように、一方の面3aに断面凹溝形状の第1温調流路5、第2温調流路6が互いに所定の間隔だけ離れ、独立・分離して別個の領域に設けられている。そのため、第1温調流路5、第2温調流路6は相互に温度の影響を受けにくい位置関係を有している。
第1温調流路5は、第1プレート2におけるマイクロ流路4の上流側領域に配置され、マイクロ流路4の流路方向に略直交する方向、すなわち第2プレート3の短手方向に貫通して延された複数の主流路5aが平行に配列されたものである。第2プレート3の長手方向における第1温調流路5の幅はL1(ただし、L1<L)とする。
主流路5aの本数は、図2、3では模式図のため4本しか記載していないが、熱交換効率を考慮して適宜の本数を採用することが出きる。例えば数本から数十本程度が好ましく、配列ピッチはできるだけ細かいことが好ましい。
【0017】
第2温調流路6は、第2プレート3の長手方向に沿って複数本配列された主流路6aと、主流路6aの上流側及び下流側端部でそれぞれ第1温調流路5の主流路5aとほぼ平行に配置されて各主流路6aに連通する供給側流路6bおよび排出側流路6cとを備えている。供給側流路6bと排出側流路6cは2回直角に屈曲して第2プレート3の側面3d、3eからそれぞれ外部に開口している。
第2プレート3の長手方向における第2温調流路6の幅はL2(ただし、L2<L、かつ(L1+L2)<L)とする。
第2温調流路6の各流路の本数は、第2温調流路6の主流路6a部分のみが複数本配列され、供給側流路6bおよび排出側流路6cはそれぞれ1本で構成されている。
なお、第2温調流路6の各主流路6aについては、第1温調流路5との位置関係は任意であるが、マイクロ流路4に対しては、第2プレート3の短手方向において、マイクロ流路4が分布する範囲を積層方向に重なる範囲に設けられる。
そして、好ましくは各主流路6aが、隣り合う2本のマイクロ流路4、4間に位置するように積層方向に配列し、さらに好ましくは、各主流路6aが各マイクロ流路4に積層方向に重なるように配列する。
【0018】
各複数の第1プレート2、第2プレート3は、各第1プレート2、第2プレート3を同一方向に交互に重ねて積層され、互いに固着されている。
そのため、マイクロ熱交換器1の形態において、各マイクロ流路4、第1温調流路5、第2温調流路6は、凹溝の開口面が上に積層されるプレートの下面により覆われ、両端が開口する長方形断面のトンネル形状とされる。
【0019】
このような各第1プレート2、第2プレート3は、適宜の金属材料を用いることができるが、例えばステンレス鋼板にエッチング加工を施すことによりマイクロ流路4、第1温調流路5、第2温調流路6などを形成し、流路面を電解研磨仕上げするなどして製作することができる。
【0020】
次に、マイクロ熱交換器1の動作とともに、本実施例のワックス微分散体の製造方法について説明する。
図4は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。横軸は時間軸であり、縦軸は溶液の温度(単位は、℃)を示す。図5は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法により得られたワックス微粒子の一例を示す電子顕微鏡写真である。図6は、本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法によって得られた平均粒径の実験結果を示すグラフである。横軸はプロセス流量(単位は、g/min)、縦軸は対数目盛の平均粒径(単位は、μm)を示す。図7(a)、(b)は、図6に示す実験例における粒径分布の例を示すヒストグラムである。横軸は粒径(単位は、μm)、縦軸は頻度(単位は、%)を示す。
【0021】
マイクロ熱交換器1に流すワックス溶液Aについて説明する。
ワックス溶液Aは、微粒子化するワックスを適宜溶媒に溶解した溶液である。ワックスの種類は、一定の温度範囲で、溶解される溶媒を有するものであれば、天然ワックスでも合成ワックスでもよい。また、ワックスの析出を妨げない範囲で、任意の添加物を混合してもよい。例えば、ワックスとして、ポリプロピレンワックスなどを好適に採用でき、添加物として、例えば、イプゾールなどを混合してもよい。
本実施例では、ワックスの一例として、電子写真用トナーに添加して、例えば滑り性など特性を向上させるのに好適なカルナバワックスを溶解させた例で説明する。
本実施例のワックス溶液Aは、カルナバワックス12wt%をカルナバワックスに好適な溶媒であるMEK(メチルエチルケトン)60wt%に溶解し、さらにポリエステル樹脂28wt%を添加したものである。
ここで、ポリエステル樹脂は、凝集を防止するために添加したもので、例えば粒径500μm程度の粒状体である。
このようなワックス溶液Aは、温度T1〜T2(ただし、T1>T2)の析出温度範囲を有する。そのため、温度T1より高温にすることによりカルナバワックスが融解しMEKに溶解される。そして、温度T1〜T2の範囲で、過飽和のカルナバワックスが固体として析出する状態となる。また、温度T2より低温では、カルナバワックスが固相となるため、析出が終了する。例えば、上記の配合例では、T1=70℃、T2=55℃である。
【0022】
したがって、ワックス溶液Aを温度T1より高温に加熱して、カルナバワックスが溶解したワックス溶液Aを温度T1以下に冷却し、析出時間toutを経た後に温度T2より低温とすれば、固体粒子状のカルナバワックスが溶媒内に析出する。
このとき、カルナバワックスの析出量は、ワックス溶液A中のカルナバワックスの濃度と、温度に応じたワックス溶液Aの飽和濃度により決まるが、ワックス溶液Aの温度分布が不均一であると、温度分布に応じて析出も不均一になり、粒径のバラツキが大きくなる。一方、ワックス溶液Aの温度分布が均一であれば、析出も均等化されるため、粒径のバラツキが少ない微粒子群が得られる。
【0023】
そこで、本実施例では、ワックス溶液Aを、T1=70℃以上の温度、例えば75℃に加温して、図1の端面1b側の継手部32から、マイクロ熱交換器1のマイクロ流路4に供給し、ワックス溶液Aを一定のプロセス流量P(流速VP)で流す。
このとき、第1温調流路5にワックス溶液Aを徐冷するために、マイクロ流路4に供給されるワックス溶液Aの温度より低温の温度H1(第1の温度)の温調流体Bを継手部32を介して供給し、反対側の継手部32から排出する。温調流体Bは、ワックス溶液Aと略直交する方向に流れるが、このような流れを、以下直交流と称する。
また、第2温調流路6に対して、供給側流路6b側の継手部32から温度H1より低温の温度H2(第2の温度)の温調流体Cを供給し、各主流路6aに流通させて排出側流路6c側の継手部32から排出する。温調流体Cは、ワックス溶液Aと平行かつ同方向に流れるが、このような流れを、以下並流と称する。反対に、排出側流路6cから温調流体Cを供給し、供給側流路6bから排出することで、主流路6aをワックス溶液Aとは逆方向に流すこともできるが、この流れは向流と称する。
なお、温調流体A、Bは、互いに独立の流路を流通し、ワックス溶液Aと混入することもないので、それぞれ適宜の流体を採用することができる。本実施例ではいずれも水を採用している。
【0024】
これにより、第1温調流路5が設けられた各第2プレート3の長手方向の幅L1の面状領域に、温度H1の定常冷却源が形成されるとともに、第2温調流路6が設けられた各第2プレート3の長手方向の幅L2の面状領域に温度H2の定常冷却源が形成される。
すなわち、マイクロ流路4は、温度H1からH2に不連続に変化する冷却温度を有する第2プレート3により冷却される。
【0025】
一方、第1プレート2上の各マイクロ流路4は、75℃のワックス溶液Aがプロセス流量Pで流れているので、上下に積層された第2プレート3、3により流路方向に沿って2段階に冷却されつつ、排出される。そのため、各マイクロ流路4内のワックス溶液Aは、流路方向に、例えば、図4に示すような温度分布を有する定常流れとなる。
【0026】
図4に示す実験例の条件は、マイクロ流路4、主流路5a、6aの流路断面寸法をw0=0.4mm、d0=0.2mm、配置ピッチが0.6mmピッチ、プロセス流量P=75g/min、流速VP=0.31m/minに設定した。そして、冷却温度をH1=50℃、35℃、H2=5℃としている。図中の時間tL1(=t2−t1)、tL2(=t3−t4)は、それぞれ、第1温調流路5、第2温調流路6の領域を通過する時間の範囲を示す。また、横軸のt=0、tEは、それぞれ、マイクロ熱交換器1に流入する時刻と、排出される時刻を示す。
【0027】
点p1、p2、p3、p4を通る曲線100は、H1=50℃の場合の温度分布の例である。第1段階では、75℃(点p1)から略直線的に緩やかに温度降下し、第2温調流路6の領域に到達する時刻で、略温度T1となる(点p2)。第2段階では、第2温調流路6により冷却温度が温度H2に切り替わる結果、急激に冷却が進み、より大きな温度勾配で冷却されて、温度T2に至る(点p3)。第3段階では、温度勾配は次第に緩やかになり、時刻tEにおいて約50℃で排出される(点p4)。
第1段階は、ワックス溶液Aをマイクロ流路4の入口付近で確実に温度T1以上の温度に保持するための段階である。これによりマイクロ流路4の入口付近で滞流が起こっても、ワックスによる目詰まりが起こらず、長時間の連続処理が可能となる。
第2段階は、ワックスをワックス溶液Aから析出させ、析出時間tout1のうちに粒径成長させる段階である。この曲線100の場合には、第2温調流路6により急激に冷却されることで析出時間tout1を短縮することができ、析出する粒径を制御することができる。この間のワックス溶液Aの温度はこのとき、マイクロ流路4の断面積は析出する粒子径より大きく、断面内の温度分布を十分均一化できるほど小さいものとなっている。
第3段階は、ワックスがすべて固相となる温度範囲に冷却することで、粒径成長を抑えるとともに、マイクロ流路4内面への付着を防止する段階である。このため、出口付近で滞流が生じても、目詰まりを起こさないようにすることができる。
【0028】
もし、単一温度の冷却源により冷却すると、ワックス溶液Aの温度分布は、なだらかな曲線もしくは単一勾配を有する直線状になるので、粒子径を低減するためには、入口温度からの温度差が大きい低温源とする必要があり、そのため、マイクロ熱交換器1の入口付近で急激な温度低下を起こし、曲線100のように入口付近で十分な長さを温度T1以上に確保することができない。
流路方向に、温度が連続的に低減する冷却源を用いることも考えられるが、この場合、冷却源として複雑な流路や制御回路などを含む構成が必要となり、高価な装置となってしまう。
そのため、冷却源は、本実施例のように、異なる冷却温度を有する少なくとも2つの冷却源を流路方向に配置することが好ましい。
【0029】
このように、第1〜3段階を経ることで、ワックス溶液Aは、溶媒中に粒径分布が制御された微粒子のカルナバワックスが分散したワックス微分散体としてマイクロ熱交換器1から排出される。この工程は、一定プロセス流量で連続して行われ、破砕粉などの不純物を除去したり、粒径分布を整えるために分粒したりする必要がないので、きわめて効率的にワックス微分散体を製造することができる。
図5に、本実施例により微粒子化されたカルナバワックスの電子顕微鏡写真を示した。写真撮影の都合でワックスの微粒子のみを取り出しているため凝集しているが、ワックス溶液Aの中では、孤立して写っている粒子径程度のワックス微粒子がワックス溶液A中に分散されている。図5によれば、カルナバワックスが、全体として大きくても約2μm〜3μm程度とされ、粒径の均一性が高いワックス微粒子が得られていることが分かる。
【0030】
点q1、q2、q3、q4を通る曲線101(図4参照)は、H1=35℃の場合の温度分布の例である。第1段階では、曲線100の場合よりも低温のH1で冷却するので、75℃(点q1)から曲線100よりも急峻に温度降下し、第1温調流路5の領域の範囲で、温度T1に到達する(点q2)。第2段階では、第1温調流路5により冷却温度がH1のまま冷却され、さらに第2温調流路6の領域に達して冷却温度が温度H2で冷却され、曲線100の場合より早い時刻に温度T2に至る(点q3)。第3段階では、冷却温度H2で冷却が進行し、時刻tEでは、曲線100の場合よりも低温の約40℃で排出される(点q4)。
本実験例は、第1〜3段階を経てワックス溶液Aを排出するので曲線100の場合と同様に効率的にワックス微分散体を製造することが出きる。
ただし、本実験例は、第2段階を温度H1、H2で冷却する場合の例になっている。この場合、より低温の温度H1のみで冷却する曲線100の場合に比べて、析出時間tout2が長くなる(tout1<tout2)。そのため粒径はより大きくなる。
このように本実験例は、温調流体Bの温度を可変することにより、粒径の大きさを制御することができる場合の例となっている。
【0031】
次に、本実施例におけるカルナバワックスの平均粒子径、および粒径分布の実験結果について説明する。
図6は、上記の実験例の平均粒径を、プロセス流量Pを15g/min、45g/minに変化させた他の実験結果とともに示したグラフである。図7(a)、(b)は、それぞれ、プロセス流量Pが75g/minのときの、温度H1が35℃(丸印)、50℃(菱形印)の場合の粒径分布を示すヒストグラムである。ここで、粒径は、例えば、堀場製作所(株)製の遠心沈降式流動分布計を用いて、重量平均に基づいて測定した値である。
【0032】
図6より、いずれの場合も、温度H1=50℃の場合の方が、平均粒径が小さくなっており、温度H1=35℃場合には、プロセス流量Pの増大とともに、平均粒径が増大する傾向があることが分かる。
図4を参照して説明したように、H1の温度を50℃と35℃とに変えたことで、プロセス流量が一定であれば、それぞれの析出時間が、tout1<tout2となり、H1=50℃の方が平均粒径は小さくなると考えられる。
図7(a)、(b)によると、H1=35℃の場合には、74%が2μm〜3μmとなっており、H1=50℃の場合に比べて粒径分布が大きい粒径に集中している。一方、H1=50℃の場合は、粒径分布がブロードになる、すなわち広範囲に分布する傾向が見られるが、粒径の最大値は小さいため、粒径分布から見ても、H1=50℃の方が微粒子化されている。
このように、本実施例の方法では、プロセス流量の幅広い範囲で、微粒子化が達成されており、プロセス流量を増大して生産性を向上することができるものである。
【0033】
次に、本実施例における温調流体Cの流し方を変えた場合の作用について、他の実験例により説明する。
図8は、第2流体の流し方を並流、向流、直交流とした場合のそれぞれの平均粒径の測定結果を示すグラフである。横軸はプロセス流量(単位は、g/min)、縦軸は対数目盛の平均粒径(単位は、μm)を示す。図中の菱形印、正方形印、三角印、それぞれ並流、向流、直交流の値を表す。図9(a)、(b)は、図8の実験例における向流、直交流の場合の粒径分布の例を示すヒストグラムである。横軸は粒径(単位は、μm)、縦軸は頻度(単位は、%)を示す。
【0034】
図8に示すのは、マイクロ流路4が上記実験例と同様の断面形状、長さとし、温調流体Cの流し方を、並流、向流、直交流とし、それぞれの場合について、流通プロセス流量を、75g/min、45g/min、15g/minに変えて実験し、そのワックス微分散体の平均粒径を測定した実験結果である。冷却温度は、H1=50℃、H2=5℃としている。
向流は、第2温調流路6において、温調流体Cを排出側流路6cから供給し、供給側流路6bから排出させることにより実現した。
直交流は、マイクロ熱交換器1の第2プレート3に代えて、第1温調流路5を隣接させたプレートを取り付けたマイクロ熱交換器を製作して実現した。
【0035】
図8によれば、いずれのプロセス流量においても、並流の平均粒径がもっとも小さい。向流と直交流とでは、プロセス流量が小さい場合には同等であるが、プロセス流量が大きいと直交流よりも向流の方が、平均粒径が小さくなっている。
一方、この場合の向流、直交流の粒径分布は、それぞれ図9(a)、(b)に示す通り、それぞれ、2μm〜3μmに集中している。ただし、向流は3μm以下に分布しているのに対し、直交流では10μmまでのブロードな分布を有するため、平均粒径としては向流の方が小さい結果となっている。
したがって、粒径バラツキを小さくするためには、直交流よりは向流、向流よりは並流とすることが好ましいことが分かる。
【0036】
これらの実験結果について、図10〜12を参照して説明する。
図10、11、12は、温度H2=5℃で冷却する領域において、ワックス溶液Aの入口温度を75℃として、それぞれ並流、向流、直交流とした場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。ワックス溶液Aは、図示の上側から下側に流れるものとし、温調流体Cの流れとの関係が分かるように、それぞれに対応する第2温調流路を実線で示している。等温線は、それぞれ75℃(実線)、55℃(破線)、45℃(一点鎖線)、25℃(二点鎖線)を示した。
なお、実際の等温線は、流路の配置ピッチに応じた細かな波形の変化を示すが、見にくくなるので、平均温度をプロットしている。
【0037】
並流の場合の温度分布は、図10に示すように、ワックス溶液Aの流れ方向には、75℃から45℃までは、短い流路長さの範囲で時間的には急峻に冷却され、それ以下の温度では、流路方向にやや緩やかに冷却されている。また、図示横方向に対応するマイクロ流路4の流路直交方向(以下、単に流路直交方向と称する)では、マイクロ流路4が存在する範囲において、ワックスの析出が起こる75℃〜55℃の範囲でほとんど温度差が見られない。そして、45℃、25℃となるにしたがって、供給側流路6bの入口側より排出側流路6cの出口側の方が高温になっている。
これは、温調流体Cが、供給側流路6bを通って、流路直交方向に移動する間に熱交換して蓄熱されるため、ワックス溶液Aとの温度差が小さくなるとその差が熱交換効率の差となって顕著に現われるからである。
【0038】
向流の場合の温度分布は、図11に示すように、図10と比べると、ワックス溶液Aの流れ方向には温度勾配が緩やかであり冷却に必要な流路長さが長くなっている。すなわち、時間的にやや緩慢に冷却されている。また、流路直交方向では、流路直交方向の中央部で温度が上昇する図示下向きの山形の温度分布を示している。ただし、75℃〜55℃の範囲では、その差は小さく略平坦になっている。
これは、向流では、ワックス溶液Aの下流側で略温度H2の低温の温調流体Cが供給されるものの、温調流体Cが図示上側に流れるにつれ、新たに供給されるワックス溶液Aと熱交換して蓄熱され、その結果、ワックス溶液Aの流入側の冷却効率が悪化するためである。流路直交方向での山形の温度分布となるのは、ワックス溶液Aが流れない図示左右方向の外周部が低温部となっているためである。
【0039】
直交流の場合の温度分布は、図12に示すように、図10、11と比べると、ワックス溶液Aの流れ方向には、最も温度勾配が緩やかであり冷却に必要な流路長さが最長となっている。すなわち、時間的に緩慢に冷却されている。また、流路直交方向では、温調流体Cの流れ方向に沿って昇温され温度分布が不均一になっていることが分かる。
【0040】
これらの温度分布から、直交流では流路直交方向および流路方向沿って大きな温度差を有し、全体として最も温度バラツキが大きいことが分かる。また、並流と向流とでは、いずれも、直交流よりは温度分布の均一性に優れるが、並流の方がより均一性が高いことが分かる。このように、温調流体Cの流し方により冷却の均一性が異なるものである。
平均粒径のバラツキが、並流、向流、直交流の順に大きくなった理由は、温調流体Cの流し方により冷却の不均一性が増大し、析出時間の場所によるバラツキがこの順に大きくなるためであると考えられる。
【0041】
次に、本実施例で、マイクロ流路4の流路断面を変えた場合の作用について、他の実験例により説明する。
図13は、マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。グラフ軸は、図4と同様である。図14は、マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における平均粒径の実験結果を示すグラフである。グラフ軸は図5と同様である。
【0042】
図13において点r1、r2、r3、r4を通る曲線108は、図4の曲線100で示す実験例において、マイクロ流路4、主流路5a、6aの断面をw0=0.2mm、d0=0.15mmに、配置ピッチを0.4mmに変更し、他を同条件とした実験例の温度分布である。対比のため、図4の曲線100を再掲している。
図13に示すように、各流路の断面積が縮小されて、配置本数が増えることで、伝熱面積が拡大したため、熱交換の効率が高まり、第2段階でより急激な温度変化を起こしている。すなわち、析出時間tout3が、曲線100のtout0より短縮される(点r3、p3参照)とともに、出口である時刻tEでの温度が、曲線100の場合が約50℃(点p4)であるのに対し、曲線108では約30℃(点r4)に低下している。
【0043】
図14には、曲線108の条件で、プロセス流量のみ、15g/min、45g/min、75g/min、90g/minに変えて実験し、平均粒径を曲線100の条件で同様の測定を行った結果とともに示した。図中で菱形印は断面が0.4mm×0.2mmの場合、正方形印は0.2mm×0.15mmの場合をそれぞれ示す。
それぞれの結果は、プロセス流量が少ない領域では、大きな差がないが、プロセス流量が増えると、断面積の小さい方が、平均粒径が徐々に低下し、断面積の大きい方は次第に平均粒径が増大する傾向を示す。そして、0.2mm×0.15mmの場合には、プロセス流量90g/minであっても、1μm以下の平均粒径が得られている。
これは、流路断面積を小さくして熱交換の効率を向上した方が、ワックス溶液Aの温度分布が均一となり、しかも析出時間が短くなるからであると考えられる。
このように本実施例では、流路断面の大きさを適宜に設定することで、ワックス溶液Aのプロセス流量が大きい場合でも、安定した微粒子を得ることができる。したがって、ワックス微分散体の生産性を向上することができるものである。
【0044】
従来技術では、例えば、1μm〜2μm程度の粒径のワックスをビーズミルにより製造する場合、所望の粒径となるまで粉砕を繰り返すので、約3〜4時間程度の粉砕工程を行う必要があった。また、0.5μm以下程度の微細粉が多量に発生するなどして、所望の粒径分布に比べてブロードな粒径分布となり、製造効率がよくなかった。
これに対し、本実施例のワックス微分散体の製造方法によれば、マイクロ流路を通過する過程でビーズミルの場合に比べて粒径分布が狭い微粒径のワックスを析出させるので、例えば数秒程度の析出工程で連続的に製造でき、冷却温度、プロセス流量や流路断面積などを適宜設定することにより生産性を向上することができる。
【0045】
なお、上記の説明では、マイクロ流路の断面形状を矩形状とした例で説明したが、三角形断面、U字状断面、半円形、円形や楕円形断面であってもよい。円形や楕円形の場合、幅と高さとに代えて、直径、または短径および長径が1μm〜1000μmであればよい。
【0046】
また、上記の説明では、第1温調流路、第2温調流路もマイクロ流路と同様な流路断面で形成した例で説明した。このようにすれば、マイクロ流路を流れる溶液との熱交換の効率が向上できるので好ましいが、プレートの温度を面状領域で低下させる冷却源を形成できれば、第1温調流路、第2温調流路の流路断面はそれぞれ溶液を流すマイクロ流路と異なる大きさを備えていてもよい。例えば、伝熱効率の高い流体を用いたり、流速を向上したりといった他の手段により熱交換効率を向上できれば、1000μmより大きな幅を有する流路としてもよい。
【0047】
また、上記の説明では、第2段階が終了する以前に1回だけ、マイクロ流を冷却する温度を下げる例で説明したが、複数段階にわたって、あるいは連続的に下げてもよい。
また、第1段階および第3段階では、ワックスの析出に影響を与えないので、溶液の温度を流れ方向に単調減少させなくてもよい。
【0048】
また、上記の説明では、第1流体の温度を溶液の温度より低く設定した例で説明したが、溶液をマイクロ流路の入口付近で、析出開始温度より高温に保持することができれば、供給される溶液の温度より高温としてもよい。この場合、第1流体が流れる流路は加熱源となる。
【0049】
また、上記の説明では、複数のマイクロ流路を温度変化させる熱源として、第1流体、第2流体をマイクロ流路近傍に流通して、熱交換する例で説明したが、複数のマイクロ流路を温度変化させる熱源は、これに限定されず、例えば、発熱体を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す水平断面図である。
【図2】本発明の実施例のワックス微分散体の製造方法に用いるマイクロ熱交換器の継手部を含めた概略全体構成を示す斜視図である。
【図3】図2における2種類のプレート構造を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。
【図5】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法により得られたワックス微粒子の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例に係るワックス微分散体の製造方法によって得られた平均粒径の実験結果を示すグラフである。
【図7】図6に示す実験例における粒径分布の例を示すヒストグラムである。
【図8】第2流体の流し方を並流、向流、直交流とした場合のそれぞれの平均粒径の測定結果を示すグラフである。
【図9】図8の実験例における向流、直交流の場合の粒径分布の例を示すヒストグラムである。
【図10】第2流体が並流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図11】第2流体が向流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図12】第2流体が直交流の場合のプレートの温度分布を流動解析シミュレーションにより求めた結果の概念図である。
【図13】マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における溶液の温度変化について説明する模式的なグラフである。
【図14】マイクロ流路の断面の大きさを変えた実験例における平均粒径の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 マイクロ熱交換器
4 マイクロ流路
5 第1温調流路
5a、6a 主流路
6 第2温調流路
A ワックス溶液(溶液)
B 温調流体(第1流体)
C 温調流体(第2流体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスを溶解した溶液から前記ワックスを析出させて微粒子化し、前記溶液の溶媒中に分散させたワックス微分散体を製造するワックス微分散体の製造方法であって、
前記溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、
前記複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの前記溶液の温度を流れ方向に沿って、前記ワックスの析出温度範囲より高温の第1段階と、前記ワックスの析出温度範囲内の第2段階と、前記ワックスの析出温度範囲より低温の第3段階とに順次変化させ、
少なくとも前記第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させることを特徴とするワックス微分散体の製造方法。
【請求項2】
前記第2段階が終了するまでの間に、前記複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を、相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるようにした請求項1に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項3】
前記複数のマイクロ流路の上流側近傍に前記第1の温度を有する第1流体を流通し、前記複数のマイクロ流路の下流側近傍に前記第2の温度を有する第2流体を流通することにより前記複数のマイクロ流路を温度変化させる請求項2に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項4】
前記第2流体を、前記複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通させるようにした請求項3に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項5】
前記ワックスが、カルナバワックスからなる請求項1〜3のいずれかに記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項1】
ワックスを溶解した溶液から前記ワックスを析出させて微粒子化し、前記溶液の溶媒中に分散させたワックス微分散体を製造するワックス微分散体の製造方法であって、
前記溶液を、幅と高さまたは内径が1μm〜1000μmの断面を有する複数のマイクロ流路に一定のプロセス流量で供給し、
前記複数のマイクロ流路の入口から出口に至るまでの前記溶液の温度を流れ方向に沿って、前記ワックスの析出温度範囲より高温の第1段階と、前記ワックスの析出温度範囲内の第2段階と、前記ワックスの析出温度範囲より低温の第3段階とに順次変化させ、
少なくとも前記第2段階での温度を流れ方向に沿って単調減少させることを特徴とするワックス微分散体の製造方法。
【請求項2】
前記第2段階が終了するまでの間に、前記複数のマイクロ流路を温度変化させるための熱源温度を、相対的に高温の第1の温度から相対的に低温の第2の温度に切り替えるようにした請求項1に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項3】
前記複数のマイクロ流路の上流側近傍に前記第1の温度を有する第1流体を流通し、前記複数のマイクロ流路の下流側近傍に前記第2の温度を有する第2流体を流通することにより前記複数のマイクロ流路を温度変化させる請求項2に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項4】
前記第2流体を、前記複数のマイクロ流路の流路方向に略沿って流通させるようにした請求項3に記載のワックス微分散体の製造方法。
【請求項5】
前記ワックスが、カルナバワックスからなる請求項1〜3のいずれかに記載のワックス微分散体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−119549(P2007−119549A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311233(P2005−311233)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(599132580)ディックテクノ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(599132580)ディックテクノ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
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