説明

ワッペン

【課題】専用の読取装置を必要とせずに真贋判定を容易に行うことができ、専用の読取装置を用いれば十分な情報が得られる、ワッペンを提供する。
【解決手段】表面側に識別体を有する表側被覆体2と、表側被覆体2の裏面側に貼設された非接触ICインレット4とを備えたワッペン1である。表側被覆体2には窓部7が形成されている。非接触ICインレット4は、表側被覆体2側に配置される透明なインレット基材8と、インレット基材8の裏面側に設けられた光学変化デバイス(機能層9)と、インレット基材8の裏面側に設けられた、外部の読取装置と非接触でデータ通信が可能なICチップ12と、を備えてなる。非接触ICインレット4は、光学変化デバイス(機能層9)がインレット基材8を介して表側被覆体2の窓部7内に臨むように、配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料品やバッグ等に取り付けられるワッペンに関する。
【背景技術】
【0002】
衣料品やバッグ、靴、帽子、スポーツ用品、各種小物などでは、ワッペン(エンブレム)が取り付けられたものがある。このようなワッペンは、各種の模様や文字・数字、さらにはその組み合わせ等により、装飾性・意匠性を発揮したり、他のものとの識別性を発揮する等の機能を有している。
また、近年では、ICチップとアンテナ部とを備えて構成された、いわゆるICタグが提案されている。このようなICタグは、記録情報量が多く、高速に情報を読み取ることができ、また、非接触で情報を読み取ることができ、さらに、セキュリティー性が高い等の利点があるため、様々な用途への利用が期待されている。
このような背景のもとに、ICタグをワッペンに組み込むことにより、ワッペンによる装飾性等と、ICタグによる情報性・セキュリティー性を兼ね備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3104950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の特許文献1に記載されたワッペンでは、その偽造品や模倣品が出た際、真贋判定を行うためには専用の読取装置が必要であるため、一般のユーザーでは判定を行うのが困難である。すなわち、このようなワッペンが取り付けられていることにより、ブランドや品質等が識別できるように製造された衣料品やバッグなどでは、ワッペンそのものが偽造品や模倣品である場合、これを見ただけでは一般のユーザーには真贋判定が難しく、結果的にセキュリティー性が十分に確保されていないのが現状である。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ワッペンそのものの真贋判定が、専用の読取装置を必要とすることなく容易に行うことができ、しかも、専用の読取装置を用いることで十分な情報が得られ、良好なセキュリティー性が確保された、ワッペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のワッペンは、表面側に識別体を有する表側被覆体と、該表側被覆体の裏面側に貼設された非接触ICインレットとを備え、
前記表側被覆体には窓部が形成され、
前記非接触ICインレットは、前記表側被覆体側に配置される透明なインレット基材と、前記インレット基材の裏面に設けられた光学変化デバイスと、前記インレット基材の裏面に設けられた、外部の読取装置と非接触でデータ通信が可能なICチップと、を備えてなり、
前記非接触ICインレットは、前記光学変化デバイスが前記インレット基材を介して前記表側被覆体の窓部内に臨むように、配置されていることを特徴としている。
【0007】
このワッペンによれば、非接触ICインレットの光学変化デバイスが、表側被覆体の窓部内に臨むように配置されているので、この窓部内の光学変化デバイスを視認することにより、ワッペンの真贋判定が容易に行えるようになる。また、非接触ICインレットにICチップが備えられているので、予めこのICチップに書き込まれた情報を読取装置によって非接触で読み込むことにより、真贋判定はもちろん、各種の情報が機械的に得られるようになる。さらに、表側被覆体の表面側に設けられた識別体により、ワッペンとしての機能、すなわち装飾性・意匠性や、他のものとの識別性などが得られる。
【0008】
また、前記ワッペンにおいては、前記非接触ICインレットの裏面側に、該非接触ICインレットを前記表側被覆体とともに挟み込んだ状態で、裏側被覆体が貼設されているのが好ましい。
このようにすれば、表側被覆体と裏側被覆体とにより、非接触ICインレットが良好に保護されるようになる。
【0009】
また、前記ワッペンにおいて、前記非接触ICインレットは、前記ICチップが前記窓部内に位置することなく、前記表側被覆体で覆われるように、配置されているのが好ましい。
このようにすれば、ICチップが表側被覆体に覆われることでこれに保護されるため、ICチップの耐久性が向上し、非接触ICインレットのデータ通信についての信頼性が良好になる。
【0010】
なお、このワッペンにおいて、前記非接触ICインレットは、前記ICチップのアンテナとして機能する導電層と、前記ICチップと電気的に接続された接続層と、前記導電層と前記接続層との間に設けられ、前記導電層と前記接続層とを静電容量結合させるための絶縁層と、をさらに備え、前記接続層が前記窓部内に位置することなく、前記表側被覆体で覆われるように、配置されているのが好ましい。
このようにすれば、ICチップに加えて接続層も表側被覆体に覆われ、これに保護されるため、ICチップや接続層の耐久性が向上し、非接触ICインレットのデータ通信についての信頼性がより良好になる。
【0011】
また、前記ワッペンにおいては、前記非接触ICインレットは、パウチ加工により、その全体がバリア性を有するフィルムで覆われていてもよい。
このようにすれば、非接触ICインレットの耐水性などが高まることにより、その耐久性が向上する。具体的には、このワッペンが雨に濡れた場合や、これが取り付けられた衣料品などが洗濯されることで水に接触した場合、あるいはこの衣料品が汗で濡れた場合に、水(汗)に直接触れるのが防止されるため、非接触ICインレットの耐久性が向上する。
【0012】
また、前記ワッペンにおいて、前記非接触ICインレットは、その裏面がバリア性基材で覆われていてもよい。
このようにすれば、非接触ICインレットはその表面側がインレット基材によって覆われ、裏面側がバリア性基材で覆われることにより、その耐久性が高まる。
【0013】
また、前記ワッペンにおいては、前記表側被覆体と前記非接触ICインレットとの間に、少なくとも前記窓部を覆った状態で透明なバリア性基材が貼設されているのが好ましい。
このようにすれば、窓部からの水や汗などの浸入が防止され、これら水や汗などによる非接触ICインレットの劣化が防止される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワッペンにあっては、窓部内の光学変化デバイスを視認することでワッペンの真贋判定が容易に行えるので、このワッペンによって保証されたブランドや品質等をより容易に識別することができる。したがって、一般のユーザーであっても、専用の読取装置を用いることなく、容易にかつ確実に、ワッペンやこれを取り付けた衣料品等の各種製品の真贋を判定することができる。よって、本発明のワッペンは、ワッペンとしての装飾性や識別性に加え、良好なセキュリティー性を有し、さらにはICチップによって各種の情報のデータ通信を行うことができる、優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のワッペンの一実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明のワッペンの一実施形態を示す底面図である。
【図3】図1のA−A線矢視断面図である。
【図4】OVD(光学変化デバイス)としてのホログラム(機能層)のデザインを示す平面図である。
【図5】接続層及びICチップの拡大図である。
【図6】接続層の、ICチップ実装部位周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1〜図3は本発明のワッペンの一実施形態を示す図であり、図1はワッペンの表面側を示す平面図、図2はワッペンの裏面側を示す底面図、図3は図1のA−A線矢視断面図である。なお、エンブレムやアップリケ、バッジといった言葉もワッペンと同義語であり、本発明においては、これらの総称(段表する言葉)として、「ワッペン」を用いている。また、本発明のワッペンは、各種の制服やユニフォーム等を含む衣料品、バッグ、靴、帽子、スポーツ用品、各種小物等に取り付けられて用いられる。
【0017】
図1〜図3において符号1はワッペンであり、このワッペン1は、表側被覆体2と、裏側被覆体3と、これらの間に設けられた非接触ICインレット4と、を備えて構成されている。
表側被覆体2は、従来の一般的なワッペンと同様に機能するもので、被覆材5の表面側に識別体6を設けたものである。被覆材5は、従来の一般的なワッペンと同様の材料からなり、例えば樹脂やゴム、皮革、人工皮革、布、セラミックス等によって形成されたものである。ただし、後述するICチップ(非接触ICインレット4)のデータ通信性を確保するため、その誘電率が、2〜10程度のものが好ましい。
【0018】
具体的には、ポリエステルやウレタン等の樹脂、アクリル繊維等からなる布などが用いられる。一例として、ポリエステルを50重量%以上、ウレタン樹脂を2重量%以上、アクリル繊維を40重量%以上含有してなる生地が用いられる。なお、この被覆材5の大きさや形状、色等については、求められる装飾性や意匠性、識別性に応じて、適宜に決定される。
【0019】
識別体6は、各種の模様や文字・数字、さらにはこれらが組み合わされてなるもので、被覆材5とともに装飾性や意匠性を発揮し、さらには、ブランド名やサイズ、製造情報等の識別性を発揮するものである。図1に示した本実施形態では、太陽をイメージしたデザインからなっている。この識別体は6、被覆材5に対して印刷された染料や顔料を含むインクによって形成されていてもよく、被覆材5と同様に、樹脂やゴム、皮革、人工皮革、布等によって形成されたものであってもよい。
【0020】
例えば、シリコーン樹脂やシリコーンゴムは、後述する非接触ICインレット4のデータ通信性を低下させることなく、むしろこれを向上させること傾向にあることから、好適とされる。なお、被覆材5が樹脂やゴム、布等によって形成されている場合には、この被覆材5は、被覆材5に対して接着や加熱圧着、縫いつけなどの公知の手法により、取り付けられる。また、このような識別体6は、被覆材5に対して異なる形状や大きさのものが複数設けられ、これら複数のものによって、識別体6が構成されていてもよい。
【0021】
また、この表側被覆体2には、窓部7が形成されている。窓部7は、表側被覆体2をその表面側から裏面側にかけて貫通した開口からなるもので、本実施形態では、前記太陽をイメージしたデザインからなる識別体6の中心部に、形成配置されている。この窓部7は、後述するように前記非接触ICインレット4の光学変化デバイス(機能層9)を臨ませ、外側から視認可能にするためのものである。したがって、容易に視認できるよう、その径が5mm以上、好ましくは1cm以上とされる。ただし、大き過ぎると、識別体6の装飾性等を損なうおそれがあるため、例えばその径を3cm以下とするのが好ましい。
【0022】
また、この窓部7は、これ自体もワッペン1の装飾性や意匠性、識別性の一部を担うため、その形状については、図1に示した楕円形以外にも、星型やハート型、ダイヤ型、さらには各種角形型等の任意のものが採用される。例えば、窓部7の形状により、このワッペン1が取り付けられた衣料品のサイズを表すように、構成することができる。さらに、この窓部7は、一つでなく複数形成されていてもよく、その場合に、該窓部7の配置場所も、装飾性や意匠性、識別性の一部を担うようになる。
【0023】
裏側被覆体3は、前記表側被覆体2と同じ形状に形成されたもので、表側被覆体2と同様に、樹脂やゴム、皮革、人工皮革、布、セラミックス等によって形成されたものであり、誘電率が2〜10程度のものが好適とされる。なお、通常は表側被覆体2と同じ材質のものが用いられるが、これと異なるものであってもよい。また、特にその一部または全部に、前述したシリコーン樹脂やシリコーンゴムを用いてもよく、その場合に、非接触ICインレット4のデータ通信性を向上させる効果が期待できる。さらに、この裏側被覆体3の裏面には、粘着剤や接着剤からなる粘着層(接着層)が設けられ、さらにこれを覆って剥離紙が設けられていてもよく、このように構成することで、衣料品やバッグ等へのワッペン1の貼着を容易にすることができる。
【0024】
非接触ICインレット4は、表側被覆体2の外側にはみ出さないよう、全体が表側被覆体2より十分に小さく形成されたもので、図3に示すように、前記表側被覆体2の裏面側に配設された透明なインレット基材8と、インレット基材8の裏面に設けられた機能層9と、機能層9の裏面に設けられた導電層10と、導電層10の裏面側に設けられた接続層11と、接続層11に実装されたICチップ12と、を備えて構成されたものである。
【0025】
インレット基材8は、機能層9が視認できるような透明の樹脂等からなっている。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂(ABS)等のバリア性を有する樹脂からなる透明なシート状の材料が、好適に用いられる。ここで、バリア性とは、主に本発明のワッペン1が衣料品等に取り付けられ、身につけられたときの耐性、及び、これが洗濯されたときの耐性を意味している。すなわち、身につけたときの汗や脂(体脂)に対する耐性や、洗濯に用いられる水や洗剤(界面活性剤)、さらにはドライクリーンニングに用いられる溶剤(トリクロロエチレンやパークロロエチレンなどの石油系溶剤)に対する耐性を、意味している。なお、インレット基材8は、裏面側の機能層9が視認できれば、必ずしも無色でなくてもよく、透明性を有する有色の材料で形成されてもよい。
【0026】
機能層9は、ユーザーが見る角度によって色の変化を生じる多層薄膜であって、光学変化デバイス(optical variable device: OVD)として機能するものである。光学変化デバイス(OVD)は、光の干渉を用いて立体画像や特殊な装飾画像を表現できるホログラムや回折格子、光学特性の異なる薄膜を重ねることで見る角度により色の変化を生じる多層薄膜の総称である。
【0027】
このような機能層9としては、立体画像が表現されたり、見る角度によって色が変化するカラーシフトを生じたりする層状の構造であり、レリーフ型や体積型のホログラム、複数種類の回折格子が画素として配置されたグレーティングイメージやピクセルグラム等の回折格子画像、カラーシフトを生じるセラミクスや金属材料の薄膜積層体等が、適宜選択され、公知の方法によって形成されている。これらの中では、量産性やコストを考慮すると、レリーフ型ホログラム(回折格子)や多層薄膜方式のものが好ましい。
【0028】
このような構成からなるOVDは、立体画像や色の変化といった独特な印象を与えるため、優れた装飾効果を有している。さらに、OVDは高度な製造技術を要することから、偽造防止手段として十分なセキュリティー機能も有している。
本実施形態では、図4に示すように機能層9は、桜をデザインしたホログラムによって形成されている。そして、このホログラムからなるOVD(機能層9)は、図1に示したように透明なインレット基材8を介して前記表側被覆体2の窓部7内に臨んで配置されており、これによってOVD(機能層9)は、ワッペン1の外側から窓部7内を覗くことで、容易に視認できるようになっている。
【0029】
図3に示すように導電層10は、アルミニウム等の金属が機能層9上に蒸着されたことにより、蒸着膜として形成されたものである。このような構成により、機能層9及び導電層10は、後述するICチップ12のアンテナとして機能するようになっている。なお、このような機能層9及び導電層10は、十分にアンテナとして機能するため、35mm×9mmの矩形状の大きさと同じかそれ以上に形成されているのが好ましい。また、導電層10は、ポリアミドイミド等からなる所望の形状のマスク層(絶縁層)13で被覆され、金属蒸着が部分的に取り除かれるディメタライズ処理が施されたことにより、所望の形状に形成され、意匠性が高められている。本実施形態では、前述したように、機能層9に対応して桜のデザインに形成されている。
【0030】
このような導電層10は、マスク層13を挟んで接続層11と静電容量結合しており、これによって導電層10とICチップ12とは電気的に接続され、ICチップ12の非接触通信が可能になっている。また、導電層10により、機能層9が発揮する視覚効果も高められている。すなわち、機能層9の視覚効果は、その裏面に導電層10が設けられていなくても、一応視認可能であるが、特に機能層9がレリーフホログラムや回折格子等の場合には、機能層9の裏側に導電層10が設けられることにより、これらの視覚効果が高められる。したがって、導電層10を裏面側に備えることにより、機能層9はより美麗なデザイン性を奏するとともに、より高い偽造防止効果を発揮するようになる。
【0031】
マスク層13の裏面及びインレット基材8の裏面のうち、導電層3が形成されていない領域には、非接触ICインレット4をそのインレット基材8側から見たとき、接続層11を可視光下で視認不能にするための隠蔽層14が設けられている。隠蔽層14としては、黒色のいわゆる墨印刷層等が好適に採用されるが、他の色彩を有するものであってもよい。また、この隠蔽層14は、図4に示すように前記機能層9の外側にまで所定の幅で形成されており、これにより、後述する接続層やICチップを水等から保護している。なお、隠蔽層14を形成するインキ等の材料を適宜選択すれば、その裏面側に形成する接続層11を良好に定着させることができるようになる。
【0032】
図5は、接続層11及びICチップ12の拡大図である。ICチップ12と導電層10とを電気的に接続する接続層11は、図3に示したように、導電性粒子を含む導電性インキを用いて隠蔽層14の裏面に公知の方法で印刷されることにより、図5に示したように細長い矩形状に形成されている。導電性インキとしては、銀ペースト等が好適に用いられている。
【0033】
ICチップ5は、シリコンの単結晶等からなり、図3に示すように、バンプ15が異方性導電性接着剤(ACP)16等を用いて加熱加圧接着されることにより、接続層4に電気的に接続され、実装されたものである。なお、ICチップ12は、ACP16を用いた実装に代えて、超音波実装、ACF等によって接続層4に実装されていてもよい。
【0034】
導電層10と接続層11とは、両者の間に介在する絶縁性のマスク層13及び隠蔽層14を誘電体として静電容量結合され、電気的に接続されている。このような構成によってICチップ12は、外部の読取装置との間で、電波方式の非接触データ通信が可能になっている。ICチップ12と外部の読取装置との交信に使用可能な周波数は、マイクロ波帯(2.45ギガヘルツ以上)及びUHF波帯(850〜950メガヘルツ)となっているが、マイクロ波帯を使用するものを用いると、接続層4及び導電層3の寸法をより小さくすることができ、非接触ICインレット4をより小型化することが可能になる。
【0035】
ICチップ12は、図5に示すように細長い矩形状の接続層11の裏面において、長辺の長さ方向における中心付近の領域R1に実装されており、ICチップ12の両側に延びる接続層11の長さが略同一となっている。そして、ICチップ12の周囲には、導電層10のインピーダンスとICチップ12の内部インピーダンスとが同等となるように調節するためのインピーダンス調節部17が設けられている。
【0036】
図6にさらに拡大して示すように、インピーダンス調節部17は、接続層11の幅方向(短辺の長さ方向)に延びる第1スリット18と、接続層11の長辺の長さ方向に延びる第2スリット19との2本のスリットから形成されている。なお、図6においては、図を見やすくするため、ICチップ12を除いて示している。また、図5、図6ではインピーダンス調節部17を、第1スリット18と第2スリット19とによるT型の形状としたが、これ以外にも、例えばY型やγ型などの形状を採用することもできる。
【0037】
第1スリット18は、接続層11の幅方向の一方の端部から接続層11の幅方向に延び、接続層11を2つに分断しないように、もう一方の端部の手前の任意の位置で終わるように形成されている。第2スリット19は、第1スリット18と連通するように形成されている。そして、ICチップ12は、バンプ15が第1スリット18を挟んで両側に位置するように、接続層11に実装されている(図3参照)。
【0038】
このように実装されたICチップ12及び接続層11においては、実装されたICチップ12よりも第2スリット19側の接続層がコイル状のループを形成し、一方のバンプ15から当該ループを通って他方のバンプ15に流れる電流のループを形成する。この電流によって生じるリアクタンスはインピーダンス調節部17の形状によって変化するため、インピーダンス調節部17の形状を適宜変更することにより、導電層10のインピーダンスとICチップ12のインピーダンスとのマッチングを行うことが可能になる。
【0039】
導電層10のインピーダンスはその形状によって変化するため、インピーダンス調節部17の形状もそれに伴って適宜変更することが必要である。具体的には、第1スリット18の長さL1、第2スリット19、19の端部間の距離L2及びその幅、さらにICチップ12の実装位置等のパラメータを適宜変更しながら、外部読取装置との通信可能距離を計測することにより、所望の通信特性が確保できる各パラメータ値を確定してインピーダンス調節部17の形状を決定することができる。
【0040】
このほか、非接触ICインレット4の通信特性は、これを覆う表側被覆体2、裏側被覆体3の誘電率や、接続層11の導電層10に対する位置関係によっても変化する。したがって、インピーダンス調節部17の形状を決定するにあたっては、非接触ICインレット4を表側被覆体2と裏側被覆体3との間に挟み込んだ状態で、インピーダンス調節部17の形状を変化させたり、接続層11と導電層10との位置関係を変化させることにより、最適な条件を求めてこれに決定するのが好ましい。
【0041】
また、ICチップ12については、1個1個異なる識別コード(ユニークID、以下、「UID」と称する。)が書き換え不能に記録されたものが用いられてもよい。このようなICチップを用いると、UIDを読み取り利用することにより、そのICチップ(又はそのICチップが付いた非接触ICインレット4)のトレーサビリティが確保され、セキュリティー性が一層向上する。このようなICチップとしては、例えばミューチップ(商品名:株式会社日立製作所製)が好適に用いられる。ミューチップは、通信周波数として2.45ギガヘルツ以上のマイクロ波帯を使用するものであるため、非接触ICインレット4を小型化するにあたっても好都合である。
【0042】
図3に戻って、ICチップ12及び接続層11を含む隠蔽層14の裏面側には、接着層20を介してバリア性基材21が設けられている。このバリア性基材21は、前記インレット基材8と同様に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂(ABS)等の樹脂からなっている。ただし、このバリア性基材21は、インレット基材8と異なり透明である必要はない。また、このバリア性基材21のバリア性は、前記インレット基材8において記したバリア性と同じで意味である。
【0043】
なお、このバリア性基材21の裏面には、必要に応じて、図3に示したように接着剤又は粘着剤からなる接着層22が設けられていてもよい。この接着層22は、非接触ICインレット4を表側被覆体2と裏側被覆体3との間に挟み込む際、裏側被覆体3に接着することにより、その位置決め(仮止め)を容易にすることができる。
【0044】
また、このような構成からなる非接触ICインレット4は、前述したようにホログラムからなるOVD(機能層9)が、透明なインレット基材8を介して前記表側被覆体2の窓部7内に臨み、したがって窓部7内全体にOVD(機能層9)が視認可能となるように、表側被覆体2の裏面に配置されている。一方、この機能層9(OVD)の裏面側に配置されるICチップ12、及び接続層11については、図1、図2において破線で示すように、窓部7内に位置することなく、表側被覆体2で覆われるように配置されている。このような構成によってICチップ12及び接続層11は、表側被覆体2や裏側被覆体3に保護されてその耐久性が向上し、非接触ICインレット4のデータ通信についての信頼性が良好になっている。なお、ICチップ12については、前記窓部7からの距離を0〜50mmの範囲とするのが好ましく、このような範囲内にすれば、ICチップ12(非接触ICインレット4)のデータ通信性が良好に確保される。
【0045】
このような構成の非接触ICインレット4は、例えば以下のような手順で製造される。まず、インレット基材8の裏面に機能層9を形成し、機能層9の裏面に導電層10を形成するための金属蒸着膜を設ける。次に、マスク層13を用いて導電層10を所望の形状に形成し、さらに導電層10の裏面に隠蔽層14及び接続層11を順番に印刷法で設け、ICチップ12を接続層11に実装する。最後に、接着層20、バリア性基材21、接着層22をこの順に設ける。
なお、隠蔽層14及び接続層11については、例えば、多色スクリーン印刷機で最初に隠蔽層14を印刷し、続いて接続層11を印刷し、さらにこの印刷直後に乾燥することにより、効率的に製造することができる。
【0046】
また、このようにして製造した非接触ICインレット4を表側被覆体2と裏側被覆体3との間に挟み込み、ワッペン1を製造するには、まず、前記接着層22を利用して非接触ICインレット4を裏側被覆体3の表面(内面)に貼着し、その位置決め(仮止め)を行う。その際、表側被覆体2の窓部7の位置を確認しておき、前記機能層9(OVD)がこの窓部7内に位置し、かつ、前記ICチップ12及び接続層11は窓部7内に位置しないようにする。
【0047】
続いて、この裏側被覆体3に対して表側被覆体2を重ね合わせ、予めこれら表側被覆体2、裏側被覆体3の内面に塗布した接着層を加熱加圧し、または高周波ウェルダー加工する。これにより、非接触ICインレット4を挟み込んだ状態で裏側被覆体3に表側被覆体2を接着(貼着)する。加熱圧着または高周波ウェルダー加工時の温度と時間については、例えば150℃で10秒程度とする。このようにして接着(貼着)する際、表側被覆体2の裏面の前記窓部7を除く位置に接着剤を配しておき、これら表側被覆体2と非接触ICインレット4のインレット基材8との間を、液密に封止するのが好ましい。これにより、本実施形態のワッペン1が得られる。
【0048】
このようなワッペン1によれば、前述したように各種の制服やユニフォーム等を含む衣料品、バッグ、靴、帽子、スポーツ用品、各種小物等に取り付けられて用いられることにより、優れた装飾性・意匠性を発揮し、さらに、他のものとの識別性などを発揮することができる。すなわち、表側被覆体2の大きさ・形状や色、識別体6のデザインや配色、さらには窓部7の形状や大きさ、位置、数により、装飾性・意匠性に加え、視覚的な情報による識別性を発揮することもできる。
【0049】
また、OVD(機能層9)が、表側被覆体2の窓部7内に臨んだ状態に配置されているので、この窓部7内のOVD(機能層9)を視認することにより、ワッペン1の真贋判定を容易に行うことができる。したがって、このワッペン1によって保証されたブランドや品質等をより容易に識別することができることから、一般のユーザーであっても、専用の読取装置を用いることなく、容易にかつ確実に、ワッペン1やこれを取り付けた衣料品等の各種製品の真贋を判定することができる。
【0050】
また、非接触ICインレット4にICチップ12が備えられているので、予めこのICチップ12に書き込まれた情報を読取装置によって非接触で読み込むことにより、真贋判定はもちろん、各種の情報を機械的に得ることができる。
よって、本実施形態のワッペン1は、ワッペン1としての装飾性や識別性に加え、良好なセキュリティー性を有し、さらには、ICチップ12によって各種の情報のデータ通信を行うことができる、優れたものとなる。
【0051】
また、このワッペン1は、前記非接触ICインレット4の裏面側が裏側被覆体3によって保護されているので、非接触ICインレット4の耐久性が良好になる。
さらに、ICチップ12及び接続層11が、窓部7内に位置することなく、表側被覆体2で覆われるように配置されているので、表側被覆体2に保護されてその耐久性が向上し、非接触ICインレット4のデータ通信についての信頼性が良好になる。すなわち、このワッペン1が雨に濡れた場合や、これが取り付けられた衣料品などが洗濯されることで水に接触した場合、あるいはこの衣料品が汗で濡れた場合に、窓部から入った水(汗)等が浸み込んでICチップ12や接続層11に直接触れるのが抑制されるため、これらICチップ12や接続層11の劣化が防止され、その耐久性が良好になる。
【0052】
さらに、非接触ICインレット4の裏面がバリア性基材21で覆われているので、非接触ICインレット4はその表面側がインレット基材8によって覆われ、裏面側がバリア性基材21で覆われることにより、その耐久性が高まる。
【0053】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、前記非接触ICインレット4については、パウチ加工により、バリア性を有するフィルムで非接触ICインレット4の全体を覆うようにしてもよい。バリア性を有するフィルムとしては、前記インレット基材8と同様の透明樹脂からなり、したがって同様のバリア性を有するフィルムが好適に用いられる。また、その場合には、図3に示した構造において、その裏面側に設けた接着層20、バリア性基材、接着層22を無くし、ICチップ12の裏面を直接フィルムで覆うようにしてもよい。
【0054】
このような非接触ICインレット4をパウチ加工するには、非接触ICインレット4をフィルムで挟み込み、その周辺部をヒートシールする公知の方法により、行うことができる。フィルムの厚さは50μm〜250μm程度とされ、溶着温度(ヒートシール温度)は100℃程度とされる。
【0055】
このようにパウチ加工を行えば、非接触ICインレット4の耐水性などが高まることにより、その耐久性をさらに向上することができる。すなわち、このワッペン1が雨に濡れた場合や、これが取り付けられた衣料品などが洗濯されることで水に接触した場合、あるいはこの衣料品が汗で濡れた場合に、非接触ICインレット4が水(汗)に直接触れるのを防止できるため、非接触ICインレットの耐久性をより向上することができる。
【0056】
また、表側被覆体2と非接触ICインレット4との間に、少なくとも窓部7を覆った状態で、透明なバリア性基材を貼設してもよい。この透明なバリア性基材としては、前記インレット基材8と同じのものが用いられる。
このようにすれば、透明なバリア性基材によって窓部7からの水や汗などの浸入を確実に防止することができ、したがって、水や汗などによる非接触ICインレット4の劣化をより良好に防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…ワッペン、2…表側被覆体、3…裏表側被覆体、4…非接触ICインレット、6…識別体、7…窓部、8…インレット基材、9…機能層(光学変化デバイス)、10…導電層、11…接続層、12…ICチップ、13…マスク層、14…隠蔽層、21…バリア性基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に識別体を有する表側被覆体と、該表側被覆体の裏面側に貼設された非接触ICインレットとを備え、
前記表側被覆体には窓部が形成され、
前記非接触ICインレットは、前記表側被覆体側に配置される透明なインレット基材と、前記インレット基材の裏面側に設けられた光学変化デバイスと、前記インレット基材の裏面側に設けられた、外部の読取装置と非接触でデータ通信が可能なICチップと、を備えてなり、
前記非接触ICインレットは、前記光学変化デバイスが前記インレット基材を介して前記表側被覆体の窓部内に臨むように、配置されていることを特徴とするワッペン。
【請求項2】
前記非接触ICインレットの裏面側には、該非接触ICインレットを前記表側被覆体とともに挟み込んだ状態で、裏側被覆体が貼設されていることを特徴とする請求項1記載のワッペン。
【請求項3】
前記非接触ICインレットは、前記ICチップが前記窓部内に位置することなく、前記表側被覆体で覆われるように、配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワッペン。
【請求項4】
前記非接触ICインレットは、前記ICチップのアンテナとして機能する導電層と、前記ICチップと電気的に接続された接続層と、前記導電層と前記接続層との間に設けられ、前記導電層と前記接続層とを静電容量結合させるための絶縁層と、をさらに備え、前記接続層が前記窓部内に位置することなく、前記表側被覆体で覆われるように、配置されていることを特徴とする請求項3記載のワッペン。
【請求項5】
前記非接触ICインレットは、パウチ加工により、その全体がバリア性を有するフィルムで覆われていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のワッペン。
【請求項6】
前記非接触ICインレットは、その裏面がバリア性基材で覆われていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のワッペン。
【請求項7】
前記表側被覆体と前記非接触ICインレットとの間に、少なくとも前記窓部を覆った状態で透明なバリア性基材が貼設されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のワッペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−277186(P2010−277186A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126872(P2009−126872)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(393031966)株式会社マーケテック (1)
【出願人】(505287689)株式会社HILLS (3)
【Fターム(参考)】