説明

ワークの欠陥検査方法及び欠陥検査装置

【課題】ワークに対して余分なエネルギを付与することなく、ワークが保持する熱の温度分布を画像処理して欠陥検査を実施できるようにする。
【解決手段】被検査物1を製品として出荷する前の段階での加工時、例えばショットブラストやショットピーニング処理で発生した熱を利用して(ステップS1)熱画像を取得し(ステップS2)、この熱画像に基づいてコンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。熱画像の取得には、赤外線サーモグラフィからなる赤外線撮像装置3を使用し、取得した熱画像データに基づいて制御回路5が欠陥の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの欠陥を検査するワークの欠陥検査方法及び欠陥検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、ワークを加熱装置により加熱または冷却装置により冷却して、その表面の温度分布を赤外線カメラで撮影した後画像処理することで、ワークの欠陥を検査するワークの欠陥検査方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−327755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の欠陥検査方法では、温度分布を画像処理するために、ワークに対し加熱装置や冷却装置を用いて加熱または冷却する必要があり、余分なエネルギをワークに付与することになって、設備コストの上昇を招いている。
【0005】
そこで、本発明は、ワークに対して余分なエネルギを付与することなく、温度分布を画像処理して欠陥検査を実施できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ワークを加工する際に発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワークに対して余分なエネルギを付与することなく、ワークが保持する熱の温度分布を画像処理して欠陥検査を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は本発明によるワークの欠陥検査方法の基本となる検査工程を示すフローチャート、(b)は(a)の検査方法に使用する検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1における被検査物に対する加工として、ショットブラストまたはショットピーニングを実施する第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】図1における被検査物に対する出荷前の加工として、焼入れ処理を実施する第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図4】図1における被検査物に対する出荷前の加工として、温間鍛造または冷間鍛造を実施する第3の実施形態を示すフローチャートである。
【図5】図1における被検査物に対する出荷前の加工として、熱間鍛造を実施する第4の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0010】
図1(a)は、本発明によるワークの欠陥検査方法の基本となる検査工程を示すフローチャートである。ここでのワークは、例えば鍛造加工後の粗材を図1(b)に示す被検査物1としている。
【0011】
上記した被検査物1に対し、被検査物1を製品として出荷する前の段階での加工時に発生した熱を利用して(ステップS1)熱画像を取得し(ステップS2)、この熱画像に基づいてコンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。ここで欠陥と判定されなかった被検査物1は、防錆処理した後(ステップS4)出荷する(ステップS5)。
【0012】
具体的には、図1(b)に示すように赤外線サーモグラフィからなる熱画像取得手段としての赤外線撮像装置3を使用し、この赤外線撮像装置3が、被検査物1から放射される赤外線エネルギを検出して被検査物1の表面の温度分布を熱画像として取得し、この画像データを基にして制御手段である欠陥判定手段としての制御回路5がコンピュータの演算により欠陥の有無を判定し、その結果を表示手段であるディスプレイ7に表示する。
【0013】
被検査物1の欠陥としては、例えば、傷であり、傷が存在すると、この傷による凹部内に熱がこもりやすくなるので、傷のある部位は、傷のない他の部位に比較して高温となりやすい。また、鍛造加工によって、表面の一部が剥がれるようにして捲れ上がり、この捲れ上がった一部が被検査物1の表面に重なるような場合の欠陥では、重なり合った隙間に熱がこもりやすくなって高温となる。
【0014】
このように、被検査物1に欠陥が発生している部位は、他の部位に対して高温となって温度差が発生するで、表面の温度分布を画像処理することで、欠陥を検出することができる。その際、本例では、ワークである被検査物1を製品として出荷する前の加工時で発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得しているので、被検査物1に対して余分なエネルギを付与することなく、温度分布を画像処理して欠陥検査を実施することができる。
【0015】
[第1の実施形態]
図2は、上記図1における被検査物1に対する出荷前の加工として、ショットブラストまたはショットピーニングを実施する第1の実施形態を示すフローチャートである。
【0016】
すなわち、ショットブラストまたはショットピーニングにより、被検査物1に対しショットを投射することで、被検査物1の表面に対し物理的な刺激によって表面処理することになり、この際被検査物1の表面に発生した熱を利用して(ステップS1A)熱画像を取得し(ステップS2)、その後コンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。以後は、図1のフローチャートと同様である。
【0017】
これにより、本実施形態においては、被検査物1を製品として出荷する前の物理的な刺激による表面処理で発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得しているので、図1の例と同様に、被検査物1に対して余分なエネルギを付与することなく、温度分布を画像処理して欠陥検査を実施することができる。
【0018】
なお、上記したショットブラストでは、鍛造加工での加熱によって被検査物1の表面に発生する酸化スケールを除去しており、この酸化スケールを除去するために、被検査物1の表面をブラシにより擦る作業(研掃)を行ってもよく、その際発生する熱を利用して熱画像を取得することができる。また、ショットピーニングでは表面の硬化処理を行う。
【0019】
[第2の実施形態]
図3は、上記図1における被検査物1に対する出荷前の加工として、焼入れ処理を実施する第2の実施形態を示すフローチャートである。
【0020】
すなわち、鍛造加工後の被検査物1に対し焼入れ処理を施し、この際発生した熱を利用して(ステップS1B)熱画像を取得し(ステップS2)、その後コンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。ここで欠陥と判定されなかった被検査物1は、次工程へ搬送する(ステップS6)。
【0021】
したがって、本実施形態においては、被検査物1を製品として出荷する前の焼入れ処理で発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得しているので、図1の例と同様に、被検査物1に対して余分なエネルギを付与することなく、温度分布を画像処理して欠陥検査を実施することができる。
【0022】
特に、ここでの具体的な焼入れ処理としては、高周波焼入れ(IHQ)を実施している。高周波焼入れは、被検査物1をコイルの中に挿入した状態で行うので、欠陥検査としては、焼入れ作業後に被検査物1を高周波焼入れ装置から取り出した状態で実施するだけでなく、焼入れ作業中であっても、被検査物1とコイルとの隙間を通して被検査物1の表面を赤外線撮像装置3で撮像可能であるので、焼入れ作業と欠陥検査作業とを同時に行えて作業時間の短縮を図ることができ、作業コスト低減に寄与することができる。
【0023】
さらに、高周波焼入れ作業中に欠陥検査を実施する際には、赤外線撮像装置3を上記した被検査物1とコイルとの隙間に沿って移動させることで全周にわたり欠陥検査を行え、極めて効率よく被検査物1の周囲全体を検査することが可能となる。
【0024】
なお、上記した焼入れ処理としては、高周波焼入れだけでなく、例えば浸炭焼入れ処理でもよい。
【0025】
また、焼入れ処理における冷却後であっても、被検査物1には熱が保持されているので、欠陥検査を実施することができる。
【0026】
[第3の実施形態]
図4は、上記図1における被検査物1に対する出荷前の加工として、温間鍛造または冷間鍛造を実施する第3の実施形態を示すフローチャートである。
【0027】
すなわち、ここでは、温間鍛造または冷間鍛造加工した後の被検査物1に発生している熱を利用して(ステップS1C)熱画像を取得し(ステップS2)、その後コンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。ここで欠陥と判定されなかった被検査物1は、次工程へ搬送する(ステップS6)。
【0028】
したがって、本実施形態においては、被検査物1を製品として出荷する前の温間鍛造または冷間鍛造で発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得しているので、図1の例と同様に、被検査物1に対して余分なエネルギを付与することなく、温度分布を画像処理して欠陥検査を実施することができる。
【0029】
なお、温間鍛造では、被検査物1への加熱により発生した熱を利用し、冷間鍛造では、鍛造時に発生した塑性発熱を利用する。
【0030】
特に、ここでは、被検査物1に対する加熱温度が約800℃以下と低い温間鍛造、または冷間鍛造加工後に欠陥検査を行っているので、常温加工の冷間鍛造はもちろんのこと温間鍛造であっても被検査物1の表面に酸化スケールが発生しにくく、したがって酸化スケールによる誤判定を抑制して欠陥検査を精度よく行うことができる。
【0031】
なお、上記第3の実施形態では、温間鍛造または冷間鍛造加工後に、例えば被検査物1を金型から取り出して欠陥検査を実施することになるが、鍛造加工中の金型が開いたときに赤外線撮像装置3で被検査物1の表面を撮像して欠陥検査を行うこともできる。これにより、鍛造加工と同時に欠陥検査を行うことができ、作業時間の短縮を図って、作業コスト低減に寄与することができる。
【0032】
[第4の実施形態]
図5は、上記図1における被検査物1に対する出荷前の加工として、熱間鍛造を実施する第4の実施形態を示すフローチャートである。
【0033】
すなわち、ここでは、熱間鍛造加工した後の被検査物1に発生している熱を利用して(ステップS1D)熱画像を取得し(ステップS2)、その後コンピュータ演算により欠陥を判定する(ステップS3)。ここで欠陥と判定されなかった被検査物1は、次工程へ搬送する(ステップS6)。なお、熱間鍛造では、前記した温間鍛造と同様に、被検査物1に対する加熱により発生した熱を利用する。
【0034】
なお、上記した熱間鍛造加工でも、前記した温間鍛造または冷間鍛造と同様に、鍛造加工中の金型が開いたときに赤外線撮像装置3撮像して欠陥検査を行うこともできる。熱間鍛造では、温間鍛造よりも高い温度に加熱するので被検査物1の表面に酸化スケールが発生しやすいが、鍛造時の衝撃によって酸化スケールがほぼ振り落とされるので、熱間鍛造であっても加工中の正確な欠陥検査が可能である。
【0035】
また、上記した酸化スケールの除去には、金型が開いたときにエアを吹き付けて行ってもよく、これにより酸化スケールの除去をより確実に行え、欠陥検査精度をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 被検査物(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークが保持する熱の温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査するワークの欠陥検査方法であって、前記ワークを加工する際に発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査することを特徴とするワークの欠陥検査方法。
【請求項2】
前記ワークに対する加工は、前記ワークの表面に対する物理的な刺激による表面処理であることを特徴とする請求項1に記載のワークの欠陥検査方法。
【請求項3】
前記ワークに対する加工は焼入れ処理であることを特徴とする請求項1に記載のワークの欠陥検査方法。
【請求項4】
前記ワークに対する加工は鍛造加工であることを特徴とする請求項1に記載のワークの欠陥検査方法。
【請求項5】
前記焼入れ処理は高周波焼入れであって、この高周波焼入れ中に前記熱画像を取得することを特徴とする請求項3に記載のワークの欠陥検査方法。
【請求項6】
前記鍛造加工中の金型が開いたときに前記熱画像を取得することを特徴とする請求項4に記載のワークの欠陥検査方法。
【請求項7】
ワークが保持する熱の温度分布を熱画像として取得して欠陥の有無を検査するワークの欠陥検査装置であって、前記ワークを加工する際に発生する熱に基づく温度分布を熱画像として取得する熱画像取得手段と、この熱画像取得手段が取得した熱画像データを基にしてワークの欠陥の有無を判定する欠陥判定手段とを有することを特徴とするワークの欠陥検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−210270(P2010−210270A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53815(P2009−53815)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】