説明

ワークの表面の加工方法

【課題】加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できるワークの表面の加工方法を提供すること。
【解決手段】軸部111及び刃部112を備える切削工具11を、軸部111を中心に所定方向に回転させながら、ワーク26の表面に設けられた複数の往路27a及び複数の復路27bが交互に並ぶ経路27に沿って往復移動させつつ往路27a及び復路27bに直交するピックフィード方向に移動させることで、ワーク26の表面を切削する三次元形状を有するワークの表面の加工方法において、軸部111を、ワーク26の表面に直交する方向から、ピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向に所定角度傾け、かつ、軸部111を、ワーク26の表面の面内方向における経路27に沿った方向からの傾きが±45度未満となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状を有するワークの表面を切削加工する加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型等の三次元形状を有するワークを加工する場合、仕上げの段階において、軸部及びこの軸部の先端側に設けられる刃部を備え、軸部を中心に所定方向に回転するボールエンドミル等の切削工具を用いる。ボールエンドミルは、球面形状の先端部分を有し、刃部は、球面形状における軸方向に沿った側面に設けられている。ボールエンドミルを、軸部を中心に回転させながら、先端部分がワークに突き当たるようにワークの表面の上を移動させることで、ボールエンドミルの回転に伴って動く刃部によって、ワークの表面が切削される。
【0003】
ボールエンドミルを用いた加工方法は、ワークの表面に対して刃部を当てる向きによって大きく二つに分類される。具体的には、刃部をワークの表面に対して下から上に当ててすくい取るように切削するアップカットと、刃部をワークの表面に対して上から下に当てて押さえ込むように切削するダウンカットと、に分類される。
【0004】
ここで、アップカットによりワークの表面を加工した場合、刃部にかかる抵抗が大きくボールエンドミルがビビるため、ワークの表面にムシレが生じることがある。ムシレが生じたワークを、例えば、自動車のフロントバンパ等の樹脂製品を成型する金型として用いた場合、ムシレによる凹凸が樹脂製品に転写されてしまうことがある。
一方、ダウンカットによりワークの表面を加工した場合には、ワークの表面にムシレが生じにくく、加工の精度がよい(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、従来、ワークの表面を隙間なく切削するために、ボールエンドミルを移動させる経路として、一定の方向に並ぶ複数の路を設定する。ボールエンドミルを経路に沿って移動させる態様としては、一般的に、一方向に川の字を書くように移動させるワンウェイ方式と、つづら折り形状となるように往復移動させるツーウェイ方式と、がある。
【0006】
ワンウェイ方式では、切削条件が不変であり刃部を当てる方向が一定に保たれるので、常にダウンカットとしてワークの表面を均一に加工できるが、ボールエンドミルを各路の終点から次の路の始点に移動させる距離が長く時間が余計に必要となり、加工時間が延びる。
一方、ツーウェイ方式では、ワンウェイ方式のように加工時間が延びることはないが、切削条件が変動して刃を当てる方向が一定に保たれず、アップカットとダウンカットとを繰り返すこととなり、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できない(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−011020号公報
【特許文献2】特開2009−202258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の加工方法では、加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できなかった。
【0009】
従って、本発明は、加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できるワークの表面の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のワークの表面の加工方法は、軸部(例えば、後述の軸部111)及び該軸部の先端側に設けられる刃部(例えば、後述の刃部112)を備える切削工具(例えば、後述のエンドミル11)を、前記軸部を中心に所定方向に回転させながら、ワーク(例えば、後述のワーク26)の表面に設けられた複数の往路(例えば、後述の往路27a)及び複数の復路(例えば、後述の復路27b)が交互に並ぶ経路(例えば、後述の経路27)に沿って往復移動させつつ該往路及び該復路に直交するピックフィード方向に移動させることで、前記ワークの表面を切削する三次元形状を有するワークの表面の加工方法において、前記軸部を、前記ワークの表面に直交する方向から、前記ピックフィード方向の側に位置する前記刃部が回転する方向に所定角度(例えば、10度を超える角度)傾け、かつ、該軸部を、前記ワークの表面の面内方向における前記経路に沿った方向からの傾きが±45度未満となるようにすることを特徴とするワークの表面の加工方法に関する。
【0011】
この発明によれば、切削工具を、ワークの表面に直交する方向からピックフィード方向の側に位置する刃が回転する方向に所定角度傾け、かつ、切削工具のワークの表面の面内方向における経路に沿った方向からの傾きを±45度未満とした。これにより、ワークの表面に設けられた往路及び復路を含むすべての経路をダウンカットにより加工できる。よって、加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できる。
【0012】
この場合、前記切削工具を、前記軸部を中心とした回転及び三次元方向それぞれへの平行移動が可能となるように保持すると共に、該切削工具を、鉛直方向から所定角度傾けた姿勢で鉛直軸回りの回転が可能となるように保持することが好ましい。
【0013】
この発明によれば、切削工具を、鉛直軸に対して所定角度傾けた状態で、三次元方向それぞれへの平行移動、及び鉛直軸を中心とした回転移動が可能に保持させる。よって、切削工具を4軸方向に移動させてワークの表面の加工を行えるので、ワークの表面の加工の精度をより向上できる。
【0014】
この場合、前記切削工具における前記ピックフィード方向の側に位置する前記刃部が回転する方向への前記ワークの表面に直交する方向からの傾き角度が10度以下になった場合に、前記切削工具を鉛直軸回りに回転させると共に、前記経路の方向を切り替えることが好ましい。
【0015】
切削工具の軸部を鉛直軸に対して所定角度傾けた姿勢に維持して3次元形状を有するワークの表面を加工する場合、ワークの表面の角度によっては、ワークの表面に直交する方向からの切削工具におけるピックフィード方向の側に位置する刃が回転する方向への傾きが10度以下になる場合がある。
そこで、この発明によれば、切削工具におけるピックフィード方向の側に位置する刃部が回転する方向へのワークの表面に直交する方向からの傾き角度が10度以下になった場合に、切削工具を鉛直軸回りに回転させると共に経路の方向を切り替える。これにより、切削工具のワークの表面に対する傾き及びピックフィード方向を切り替えられるので、切削工具の軸部を、切削工具におけるピックフィード方向の側に位置する刃部が回転する方向へのワークの表面に直交する方向からの傾き角度を、10度を超える角度にした状態でワークの表面を加工できる。よって、ワークの表面に設けられたすべての経路をダウンカットにより加工できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、切削工具を、ワークの表面に直交する方向からピックフィード方向の側に位置する刃が回転する方向に所定角度傾け、かつ、ワークの表面の面内方向における経路に沿った方向からの傾きを±45度未満とした。これにより、ワークの表面に設けられた往路及び復路を含むすべての経路をダウンカットにより加工できる。よって、加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワークの表面を滑らかに加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の加工方法に使用するボールエンドミルを備えた切削加工装置の斜視図である。
【図2】ボールエンドミルの正面図である。
【図3】ボールエンドミルを移動させる経路を説明する斜視図である。
【図4】ボールエンドミルを傾ける方向及び角度を説明する図であり、(A)はワークの表面の上面図であり、(B)は(A)に示す矢印Aの方向に視た図である。
【図5】ダウンカットとなることを説明する図である。
【図6】ボールエンドミルを傾ける方向及び角度を説明する図である。
【図7】金型の斜視図である。
【図8】ボールエンドミルを傾ける方向及びボールエンドミルを移動させる経路を説明する図であり、(A)は図7に示す矢印Bの方向に視た金型の断面図であり、(B)は(A)に示す矢印Cの方向に視た図であり、(C)は(A)に示す矢印Dの方向に視た図であり、(D)は金型を上面側から視た図であり一対の側面を展開した状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る加工方法を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の加工方法に使用する切削加工装置1の斜視図である。図2は、切削加工装置1が使用する切削工具としてのボールエンドミル(以下、エンドミルと略す。)11の正面図である。
【0019】
図1に示すように、切削加工装置1は、エンドミル11を使用して金型等の三次元ワーク(以下、ワークと略す。)を切削加工する装置である。
切削加工装置1は、ワークを切削するエンドミル11と、このエンドミル11を駆動させる工作機械12と、この工作機械12を制御するNC装置(Numerical Control unit)13と、を備える。
【0020】
工作機械12は、門型の構造を有しており、その両脇の門柱を構成する一対の側壁16と、この側壁16同士の間に架けられたY軸方向(水平方向)に延びる一対のメインレール17と、このメインレール17をY軸方向に走行する一対の走行部18と、この走行部18同士の間に架けられたX軸方向(Y軸方向に直交する水平方向)に延びる一対のクロスレール19と、このクロスレール19同士の間をX軸方向に走行するテーブル20と、このテーブル20の下部に取り付けられたスピンドルヘッド21と、を備える。
【0021】
一対の側壁16同士の間には、切削加工の対象となるワーク(図7参照)が、固定用の治具(図示せず)によって固定される。
【0022】
一対のメインレール17の両端は、各側壁16の上方の両脇に連結されている。
一対の走行部18は、サーボモータ等で構成される駆動機構(図示せず)を内蔵している。一対の走行部18は、NC装置13の制御下において駆動機構が駆動されることで、相互に連動して走行する。
【0023】
一対のクロスレール19の両端は、各走行部18の両脇に連結されている。
テーブル20は、サーボモータ等で構成される駆動機構(図示せず)を内蔵している。テーブル20は、NC装置13の制御下において駆動機構が駆動されることで走行する。
【0024】
スピンドルヘッド21は、Z軸方向(鉛直方向)に昇降可能、かつZ軸回りに回転可能となっている。スピンドルヘッド21は、エンドミル11等の切削工具を、鉛直方向から所定角度(例えば、30度)傾けた姿勢で保持する。本実施形態では、エンドミル11を保持する場合を例に説明する。
本実施形態では、スピンドルヘッド21に保持されたエンドミル11は、軸部111を中心として右回り(時計回り)の方向に回転される。
【0025】
エンドミル11の球面形状部分11aは、スピンドルヘッド21がZ軸回りに回転することで、XY平面内で真円を描くように旋回する。
エンドミル11は、テーブル20がクロスレール19を走行することでX軸方向に移動する。エンドミル11は、走行部18がメインレール17を走行することでY軸方向に移動する。エンドミル11は、スピンドルヘッド21が昇降することでZ軸方向に移動する。エンドミル11は、スピンドルヘッド21がZ軸回りに回転することによって、鉛直方向からの傾きの方向が変わる。
【0026】
エンドミル11の軸回りの回転速度は、使用する工作機械12に予め定められている範囲内で適宜設定される。
【0027】
図2に示すように、エンドミル11は、軸部111と、この軸部の先端側に設けられ刃部112を有する球面形状部分11aとを備えている。球面形状部分11aは、切削加工の際、ワークに突き当てられる。
刃部112は、球面形状部分における軸方向の側面に設けられている。
【0028】
次に、この切削加工装置1を用いて、ワークの表面を切削加工する加工方法について説明する。尚、図面及び説明の簡略化のため、三次元ワークの代わりに板形状の二次元ワーク26を用いて説明する。
図3は、エンドミル11を移動させる経路を説明する二次元ワーク(以下、ワークと略す。)26の斜視図である。図4は、エンドミル11を傾ける方向及び角度を説明する図であり、(A)は上面図であり、(B)は(A)に示す矢印Aの方向に視た図である。図5は、エンドミル11による切削方法がダウンカットとなることを説明する図である。図6は、エンドミル11を傾ける方向及び角度を説明する図である。
【0029】
図3に示すように、エンドミル11の球面形状部分11aを、ワーク26の表面26aに突き当てておく。
次に、エンドミル11を、軸部111を中心として回転させながら、ワーク26の表面26aの上に設定されている経路27に沿って、表面26aの上を隙間なく移動させる。
【0030】
経路27は、一定の方向に延びる複数の往路27aと複数の復路27bとが交互に並ぶつづら折り形状を有している。
複数の往路27aと複数の復路27bとが延びる方向を、往復方向という。この往復方向に直交する方向であって、エンドミル11を往路27aと復路27bとの間を折り返す際に移動させる方向を、ピックフィード方向(以下、ピック方向と略す。)という。
【0031】
エンドミル11を経路27に沿って移動させた場合、エンドミル11のピック方向の側に位置する刃部112によって、ワーク26の表面26aが切削される。
【0032】
図4(A)に示すように、経路27を移動しているエンドミル11は、軸部111を中心として右回りの方向に回転している。エンドミル11のピック方向の側に位置する刃部112は、矢印Aの方向に視て右方向に回転している。
矢印Aの方向に視た図4(B)に示すように、エンドミル11は、ワーク26の表面26aに直交する方向から、往復方向のうち、ピック方向の側(図面の奥側)に位置する刃部112が回転する方向である右方向に所定の角度θ傾けられている。
【0033】
言い換えると、エンドミル11が角度θ傾けられている方向が、エンドミル11の往復方向として設定される。また、エンドミル11が角度θ傾けられている方向に向かって回転する刃部112が位置する側(図面の奥側)が、ピック方向として設定される。
【0034】
エンドミル11を上記の方向に上記の角度傾けることで、図5に示すように、エンドミル11の刃部112は、ワーク26の表面26aに対して上から下に当たり、押さえ込むように切削するダウンカットが実現される。
尚、角度θは、エンドミル11の刃部112によりワークの表面を好適に切削する観点から10度を超える角度であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の加工方法においては、図6に示すように、エンドミル11を、ワーク26の表面26aの面内方向における、経路27に沿った往復方向からの傾きが±45度未満の角度θとなるように制御する必要がある。この角度θを±45度未満とすることで、往路27a及び復路27bを含むすべての経路27において好適にダウンカットによる切削を行える。これは、角度θをピックフィード方向成分と往復方向成分とに分解した場合に、角度θが±45度未満の状態においては、ピックフィード方向成分よりも往復方向成分の方が大きい状態が保たれることが理由として考えられる。尚、角度θは、0度に近いほど、ワーク26の表面26aを好適に加工できる。
【0036】
次に、三次元ワークである金型31の表面を切削加工する場合について説明する。
図7は、金型31の斜視図である。図8(A)〜図8(D)は、それぞれ、エンドミル11を移動させる経路を説明する図であり、図8(A)は、図7に示す矢印Bの方向に視た金型31の断面図である。図8(B)は、図8(A)に示す金型31を矢印Cの方向に視た図であり、エンドミル11を、図8(A)に示す状態からZ軸回りに90度回転させた状態を示す図である。図8(C)は、図8(A)に示す金型31を矢印Dの方向に視た図であり、エンドミル11を、図8(A)に示す状態からZ軸回りに90度回転させた状態を示す図である。図8(D)は、金型31を上面側から視た図であり、一対の側面34、35を展開した状態で示す図である。
【0037】
図7に示すように、ワークとなる金型31は、左右対称の形状を有している。金型31は、樹脂製品を成型するための成型面32を有している。
成型面32は、底面33と、この底面33に対して立直する一対の側面34、35と、底面33と各側面34、35と接続する一対の傾斜面36、37と、を備えている。
【0038】
底面33は、略水平に配置されている。金型31が左右対称の形状を有しているから、底面33は、左半分の第一底面33aと、右半分の第二底面33bと、に分けて扱われる。
一対の傾斜面36、37はそれぞれ、水平方向に対して略30度傾いている。一対の側面34、35はそれぞれ、略鉛直に配置されている。
【0039】
本実施形態では、エンドミル11を移動させる経路が、側面34から、傾斜面36、第一底面33a、第二底面33b、傾斜面37、側面35の順に設定されている場合を説明する。
【0040】
まず、図8(A)に示すように、鉛直方向から30度傾けた姿勢でスピンドルヘッド21に保持されているエンドミル11を、側面34に突き当てた場合、エンドミル11は、側面34に直交する方向から鉛直上方向の側に略60度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0041】
図8(D)に示すように、側面34では、エンドミル11が鉛直方向の側に傾けられるので、鉛直方向がエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、側面34では、エンドミル11が鉛直上方向の側に傾けられるので、鉛直上方向に向かって回転する刃部112が位置する側である、金型31の手前側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように側面34の上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における側面34の面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0042】
次に、図8(A)に示すように、側面34の場合における姿勢を保ったまま、エンドミル11を傾斜面36に突き当てたとすると、エンドミル11は、傾斜面36から略直交する(エンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への傾斜面36に直交する方向からの傾き角度が10度以下になる)こととなり、ダウンカットを実現できない。
【0043】
そこで、スピンドルヘッド21をZ軸回りに−90度回転させて、傾斜面36に直交する方向からのエンドミル11の傾きを変更すると共に、経路の方向を90度切り替える。すると、図8(B)に示すように、エンドミル11は、傾斜面36に直交する方向から金型31の手前側に略30度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0044】
また、図8(D)に示すように、傾斜面36では、エンドミル11が金型31の手前側に傾けられるので、金型31の手前側と奥側とがエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、金型31の手前側の方向に向かって回転する刃部112が位置する側である、金型31の右側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように傾斜面36の上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における傾斜面36の面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0045】
次に、図8(A)に示すように、第一底面33aでは、スピンドルヘッド21をZ軸回りに90度回転させて、エンドミル11の姿勢を側面34の場合と同じにする。エンドミル11は、第一底面33aに直交する方向から金型31の右側に略30度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0046】
図8(D)に示すように、第一底面33aでは、エンドミル11が金型31の右側に傾けられるので、金型31の左右方向がエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、金型31の右側の方向に向かって回転する刃部112が位置する側である、金型31の奥側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように、第一底面33aの上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における第一底面33aの面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0047】
次に、図8(A)に示すように、第二底面33bでは、スピンドルヘッド21をZ軸回りに180度回転させて、エンドミル11の姿勢を第一底面33aの場合と左右反転にする。エンドミル11は、第二底面33bに直交する方向から金型31の左側に略30度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0048】
図8(D)に示すように、第二底面33bでは、エンドミル11が金型31の左側に傾けられるので、金型31の左右方向がエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、金型31の左側の方向に向かって回転する刃部112が位置する側である、金型31の手前側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように、第二底面33bの上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における第二底面33bの面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0049】
次に、図8(A)に示すように、第二底面33bの場合における姿勢を保ったまま、エンドミル11を傾斜面37に突き当てたとすると、エンドミル11は傾斜面37から略直交する(エンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への傾斜面37に直交する方向からの傾き角度が10度以下になる)こととなり、ダウンカットを実現できない。
【0050】
そこで、スピンドルヘッド21をZ軸回りに90度回転させて、傾斜面37に直交する方向からのエンドミル11の傾きを変更すると共に、経路の方向を90度切り替える。すると、図8(C)に示すように、エンドミル11は、傾斜面37に直交する方向から金型31の手前側に略30度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0051】
また、図8(D)に示すように、傾斜面37では、エンドミル11が金型31の手前側に傾けられるので、金型31の手前側と奥側とがエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、金型31の手前側の方向に移動する刃部112が位置する側である、金型31の右側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように傾斜面37の上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における傾斜面37の面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0052】
次に、図8(A)に示すように、側面35では、スピンドルヘッド21をZ軸回りに−90度回転させて、エンドミル11の姿勢を第二底面33bの場合と同じにする。エンドミル11は、側面35に直交する方向から鉛直上方向の側に略60度、即ち、10度を超える角度θ傾けられる。
【0053】
図8(D)に示すように、側面35では、エンドミル11が鉛直方向に傾けられるので、鉛直方向がエンドミル11の往復方向として設定される(図4(B)参照)。また、側面35では、エンドミル11が鉛直上方向の側に傾けられるので、鉛直上方向に移動する刃部112が位置する側である、金型31の奥側がピック方向として設定される(図5参照)。
このように側面35の上に設定される経路に沿ってエンドミル11を移動させる。尚、この状態では、エンドミル11における側面35の面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、0度、即ち、±45度未満となっている。
【0054】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)エンドミル11を、ワーク26の表面26aに直交する方向から、ピック方向の側に位置する刃部112が移動する方向に10度を超える角度θ傾け、かつ、ワーク26の表面26aの面内方向における経路27に沿った方向からの傾きを±45度未満とした。これにより、ワーク26の表面26aに設けられた往路27a及び復路27bを含むすべての経路27をダウンカットにより加工できる。よって、加工時間を延ばすことなく、かつ、ムシレを生じることなくワーク26の表面26aを滑らかに加工できる。
【0055】
(2)エンドミル11を、Z軸(鉛直軸)に対して30度傾けた状態で、三次元方向それぞれへの平行移動、及びZ軸(鉛直軸)を中心とした回転移動が可能に保持させた。よって、エンドミル11を4軸方向に移動させて3次元形状を有する金型31の成型面32(底面33、一対の側面34、35及び一対の傾斜面36、37)の加工を行えるので、金型31の成型面32の加工の精度をより向上できる。
【0056】
(3)エンドミル11の軸部111をZ軸(鉛直軸)対して30度傾けた姿勢に維持して3次元形状を有する金型31の成型面32(底面33、一対の側面34、35及び一対の傾斜面36、37)を加工する場合、成型面32の角度によっては、成型面32の表面に直交する方向からのエンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への傾きが10度以下になる場合がある。
そこで、エンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への成型面32の表面に直交する方向からの傾き角度が10度以下になった場合に、エンドミル11をZ軸(鉛直軸)回りに回転させると共に経路27の方向を切り替える。これにより、エンドミル11の軸部111を、Z軸(鉛直軸)を中心に、例えば90度回転させることで、エンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への成型面32の表面に直交する方向からの傾き角度を、10度を超える角度にした状態で成型面32を加工できる。よって、成型面32に設けられたすべての経路27をダウンカットにより加工できる。
【0057】
(4)スピンドルヘッド21によってエンドミル11をZ軸(鉛直軸)回りに回転させることで、エンドミル11のワークに対する傾きを変更し、エンドミル11をZ軸(鉛直軸)回りに回転させる前と後とで経路27の方向を切り替える。よって、簡単な構成でありながら、三次元形状を有する金型31の成型面32を加工できる。
【0058】
尚、本発明は前記実施形態に制限されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、スピンドルヘッド21は、エンドミル11を鉛直方向から30度傾けた姿勢で保持したが、傾ける角度はこれに限らない。例えば、エンドミルを鉛直方向から10度を超え、かつ鉛直方向から80度未満の角度傾けるようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、エンドミル11における金型31の成型面32の面内方向の経路に沿った方向からの傾きを、常に0度として加工を行ったが、これに限らない。即ち、エンドミルにおける金型の成型面の面内方向の経路に沿った方向からの傾きは、±45度未満であればよい。
【0060】
また、本実施形態では、エンドミル11におけるピックフィード方向の側に位置する刃部112が回転する方向への成型面32の表面に直交する方向からの傾き角度が10度以下になった場合に、エンドミル11をZ軸(鉛直軸)回りに90度回転させたが、これに限らない。即ち、エンドミルのZ軸(鉛直軸)回りの回転角度は、90度未満であってもよく90度を超えてもよい。つまり、回転後のエンドミルにおける金型の成型面の面内方向の経路に沿った方向からの傾きが±45度未満であればよい。
【0061】
また、本実施形態では、切削工具としてボールエンドミル11を用いたが、これに限らない。即ち、切削工具としてラジアスエンドミルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11 ボールエンドミル(切削工具)
111 軸部
112 刃部
26 ワーク
26a 表面
27 経路
27a 往路
27b 復路
31 金型(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部及び該軸部の先端側に設けられる刃部を備える切削工具を、前記軸部を中心に所定方向に回転させながら、ワークの表面に設けられた複数の往路及び複数の復路が交互に並ぶ経路に沿って往復移動させつつ該往路及び該復路に直交するピックフィード方向に移動させることで、前記ワークの表面を切削する三次元形状を有するワークの表面の加工方法において、
前記軸部を、前記ワークの表面に直交する方向から、前記ピックフィード方向の側に位置する前記刃部が回転する方向に所定角度傾け、かつ、該軸部を、前記ワークの表面の面内方向における前記経路に沿った方向からの傾きが±45度未満となるようにすることを特徴とするワークの表面の加工方法。
【請求項2】
前記切削工具を、前記軸部を中心とした回転及び三次元方向それぞれへの平行移動が可能となるように保持すると共に、該切削工具を、鉛直方向から所定角度傾けた姿勢で鉛直軸回りの回転が可能となるように保持することを特徴とする請求項1に記載のワークの表面の加工方法。
【請求項3】
前記切削工具における前記ピックフィード方向の側に位置する前記刃部が回転する方向への前記ワークの表面に直交する方向からの傾き角度が10度以下になった場合に、前記切削工具を鉛直軸回りに回転させると共に、前記経路の方向を切り替えることを特徴とする請求項2に記載のワークの表面の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251401(P2011−251401A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128857(P2010−128857)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】