説明

ワーク加工装置

【課題】ワークの円筒状外面を高精度を確保するように加工する。
【解決手段】Z軸方向にのびた軸線を有しかつ軸線周りに回転させられるワークWの円筒状外面を、先端に刃先22を有しかつ回転軸線Crを有する工具18によって加工する装置は、ワーク軸線C1を通ってZ軸方向に直交するX軸方向にのびたX軸軸線Cxから工具回転軸線CrがY軸方向に刃先回転半径R以上隔てられ、かつワーク軸線C1を通ってZ軸方向およびX軸方向に直交するY軸方向にのびたY軸軸線Cyから刃先22がX軸方向にワーク仕上寸法半径Dに相当する距離だけ隔てられる位置から、工具回転中心線CrがX軸軸線Cxを超える位置まで工具18を回転させながらY軸方向に移動させる移動手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主軸または主軸に対する偏心ピンのようなワークの円筒状外面を加工するワーク加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のワーク加工装置としては、Z軸方向にのびた軸線を有しかつ軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を、先端に刃先を有しかつ回転軸線を有する工具によって加工する装置であって、ワーク軸線を通ってZ軸に直交するX軸方向にのびたX軸軸線に工具回転軸線を一致させた状態で、刃先がワーク外面に接近させられるように工具を回転させながらX軸方向に移動させるものが知られている(例えば、特許文献1。)。
【0003】
上記加工装置では、工具として、一般的に、フラットエンドミルが用いられる。フラットエンドミルの刃先端面は、フラットと称されてはいるが、実際には、中心に向かって窪んだ凹凸をなしている。このような刃先端面をX軸方向、すなわち、ワーク外面の半径方向に移動させて加工する場合、刃先端面の外周に近い凸の部分のみが先にワーク外面に接触する。このような状態で、加工が進行すると、刃先端面の凹凸の形がそのままワーク外面に転写され、刃先端面の凹凸に対応する凹凸がワーク外面の軸方向に形成されてしまう。そのため、加工されたワーク外面の真円度、円筒度、面粗度等の精度確保が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−267915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、ワークの円筒状外面を高精度を確保するように加工することのできるワーク加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による第1のワーク加工装置は、Z軸方向にのびた軸線を有しかつ軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を、先端に刃先を有しかつ回転軸線を有する工具によって加工する装置であって、ワーク軸線を通ってZ軸に直交するX軸方向にのびたX軸軸線から工具回転軸線がY軸方向に刃先回転半径以上隔てられ、かつワーク軸線を通ってZ軸およびX軸に直交するY軸方向にのびたY軸軸線から刃先がX軸方向にワーク仕上寸法半径に相当する距離だけ隔てられる位置から、工具回転中心線がX軸軸線を超える位置まで工具を回転させながらY軸方向に移動させる移動手段を備えているものである。
【0007】
この発明による第1のワーク加工装置では、回転させられる工具の刃先は、刃先回転径に相当する一定の円周を描く加工円上を移動させられる。工具をY軸方向、すなわち、工具の回転半径方向に移動させるため、刃先の描く加工円は、完全フラットとなる。このような加工円をワーク外面の接線方向にそって移動させて、ワーク外面と交差させ、これにより、その交差部分に対応するワーク外面が加工される。このことは、言うならば、ワーク外面が平坦状加工面で切取られることを意味する。これにより、加工されたワーク外面の軸方向に凹凸が形成されることは無い。したがって、軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を高精度に加工することができる。
【0008】
この発明による第2のワーク加工装置は、Z軸方向にのびた主軸軸線に対する偏心軸線を有しかつ主軸軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を、先端に刃先を有しかつ回転軸線を有する工具によって加工する装置であって、主軸軸線周りの回転にともなうワークに移動の対して、ワークおよび工具の相対的加工関係が一定に保持されるようにワークに工具をZ軸に直交するX軸方向およびZ軸とX軸の双方に直交するY軸方向に追従させる追従手段と、追従手段によってワークに工具が追従させられている間に、偏心軸線と交差してX軸方向にのびたX軸軸線から工具回転軸線がY軸方向に刃先回転半径以上隔てられ、かつ偏心軸線と交差してY軸方向にのびたY軸軸線から刃先がX軸方向に仕上げ寸法のワーク半径に相当する距離だけ隔てられる位置から、工具の回転中心線がX軸軸線を超える位置まで工具を回転させながらY軸方向に移動させるように追従手段による工具のY軸方向の移動を修正する修正手段とを備えているものである。
【0009】
この発明による第2のワーク加工装置では、第1のワーク加工装置によるワークをその軸線周りに回転させながら加工する場合と同様に、主軸軸線に対する偏心軸線を有するワークの円筒状外面を高精度に加工することができる。
【0010】
さらに、工具が、ワーク外面の軸方向長さの2分の1と一致させられた刃先回転半径を有しており、ワーク外面の軸方向長さを2分するZ方向位置に工具回転軸線を位置決めする位置決手段を備えていると、ワーク外面の軸方向長さの全長を、1サイクルの加工で完了することができるので、ワーク外面の軸方向長さの半分未満の工具を用いてワークの軸方向位置を変更して繰り返し加工する場合に比べ、ワーク表面に段差などを生じさせることのない高精度な加工が可能となる。
【0011】
また、工具の刃先回転半径が、調節自在であると、ワーク外面の軸方向長さの任意の長さをもつワークに対応することができる。
【0012】
また、工具の刃先が、1枚のみであると、複数の刃先の高さの差によるワーク表面の凹凸を生じないので、加工精度をさらに向上させることを期待できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ワークの円筒状外面を高精度を確保することのできるワーク加工装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明によるワーク加工装置の斜視図である。
【図2】同ワーク加工装置によって加工されるワークの側面図である。
【図3】同ワークの主軸を加工する様子を順を追って示す説明図である。
【図4】図3に示す加工の様子をワーク側面側から見た説明図である。
【図5】図3に示す加工の様子をワーク平面側から見た説明図である。
【図6】同ワークの偏心ピンを加工する際に、偏心ピンに工具を追従させる様子を示す説明図である。
【図7】偏心ピンを加工する様子を順を追って示す図3相当の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、ワーク加工装置は、ベッド11上前部に左右相対するように装備されかつワークWを保持している主軸台12および心押台13と、これら主軸台12および心押台13の後方のベッド11上をZ軸方向(左右方向)に移動自在であるZ軸テーブル14と、Z軸テーブル14上をZ軸方向に直交するY軸方向(前後方向)に移動自在であるY軸テーブル15と、Y軸テーブル15上に立てられているコラム16と、コラム16にそってZ軸方向およびY軸方向に直交するX軸方向(垂直方向)に移動自在であるサドル17と、サドル17に装備されかつ垂直下向きの工具18を有している工具ユニット19とを備えている。
【0016】
ワークWは、図2に示すように、主軸軸線C1を有する前後端および中央の主軸Mと、主軸Mの間に設けられかつ主軸軸線C1に対する偏心軸線C2をそれぞれ有する反対向きの2つの偏心ピンPとよりなる。主軸Mおよび偏心ピンPの外面の双方が加工対象である。
【0017】
まず、図3を参照しながら、主軸Mのうち中央部分の外面を加工する場合を説明する。図3は、主軸Mの外面を主軸軸線C1方向から見たものである。
【0018】
図3において、主軸軸線C1およびZ軸軸線Czは、一致させられている。主軸軸線C1を通って垂直方向にのびた縦軸がX軸軸線Cxであり、主軸軸線C1を通って水平方向にのびた横軸がY軸軸線Cyである。
【0019】
工具18は、垂直状回転軸線Crを有する垂直丸棒状シャンク21と、シャンク21外面下端に側方突出状に取付られかつ回転半径Rを有している1枚の刃先22とよりなる。
【0020】
図3(a)が加工開始時を、図3(b)および(c)が加工中間時を、図3(d)が加工終了時をそれぞれ示している。
【0021】
図3(a)において、工具18は、以下に説明する位置にセットされている。工具回転軸線Crは、X軸軸線CxからY軸方向に刃先回転半径R以上の距離L1だけ隔てられている。刃先22は、Y軸軸線CyからX軸方向にワーク仕上寸法D径の1/2に相当する距離L2だけ隔てられている。ワーク仕上寸法Dとは、加工前のワークWを、ワークWの1回転によって加工する予定の寸法である。つまり、加工前のワークは、ワーク仕上寸法Dより加工代分だけ、加工後のワークより大である。
【0022】
図3(a)では、刃先22は、Y軸方向に加工代分に相当する距離だけ、ワークWの外面から離れている。つまり、L1>Rである。図3(d)では、X軸軸線Cxに対し工具18の回転軸線Cxがほぼ一致、厳密には、刃先22がワークW外面からY軸方向に遠去かる方向に、X軸軸線Cxを工具18の回転軸線Crが超えている。
【0023】
図3(a)の状態から、Y軸テーブル15とともに工具18を左方(Y軸方向)に移動させると、図3(b)に示すように、L1が刃先回転半径Rと等しくなり、さらには、図3(c)に示す状態を経過して、図3(d)に示す状態となり、1サイクルの加工が完了する。次回のサイクルでは、図3(a)に示す状態において、サドル17とともに工具18を下方(X軸方向)に、次回の加工代分だけ、移動させる。上記の手順と同じように、加工を繰り返す。
【0024】
図4および図5に、図3(a)〜(d)に対応して、主軸W外面を側面および平面からそれぞれ見た様子が示されている。
【0025】
図4おいて、主軸Mの外径と、破線で示す仕上寸法Dの間が加工範囲となる。図4は主軸M外面の軸方向長さの2分の1と刃先回転半径とが一致させられている場合である。加工は、図4(a)に示すように、主軸M外面の軸方向長さの中央1カ所で始まる。この加工カ所は、加工の進行に伴い左右に拡がり、やがて刃先がX軸軸線Cxと一致するところで図4(b)に示す通り中央部分が仕上寸法Dに達する。さらに加工を進めると、仕上寸法Dの部分が左右に拡がり、図4(c)の状態になる。さらに加工を進めて工具回転軸線CrがX軸軸線Cxと一致すると、加工範囲が主軸Mの軸方向長さ全体に達し、図4(d)に示すように、主軸M全体が仕上寸法Dとなり加工完了される。1サイクルの加工によって、主軸W外面がその全長にわたって加工される。
【0026】
つぎに、偏心ピンPを加工する場合を説明する。図6に示すように、主軸軸線C1を中心に、ワークWが回転させられると、偏心ピンPは、主軸軸線C1を中心とする偏心円E上を移動させられる。つまり、ワークWの1回転により、偏心ピンPは、偏心円E上を公転しながら、偏心軸線C2周りに自転させられる。
【0027】
ワークWの公転に対して、これに追従するように、工具18は、ワークWおよび工具18の相対的加工関係が一定に保持されるようにX軸方向およびY軸方向に移動させられる。例えば、図6においては、工具18の刃先18が偏心軸線C2を通る垂直線と一致させられた状態に保持されている。
【0028】
上記において、偏心ピンPに工具18を追従させる動作を行う間において、工具18には、以下の修正動作を行わせる。つまり、追従動作および修正動作を加算した動作が、工具18の真の加工動作となる。
【0029】
上記相対的加工関係が一定に保持されている場合、工具18および偏心ピンPの相対関係は、偏心ピンPが偏心軸線C2周りに回転するものと想定することが可能である。
【0030】
したがって、修正動作とは、図3において説明した主軸の加工動作と同一の動作である。これを、図7に示す。
【0031】
図7において、偏心軸線C2は、Z方向にのびており、偏心軸線C2を通って垂直方向にのびた縦軸がX軸軸線Cxであり、偏心軸線C2を通って水平方向にのびた横軸がY軸軸線Cyである。
【0032】
図7(a)〜(d)に示す加工動作は、図3(a)〜(d)に示すものと対応する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明によるワーク加工装置は、主軸または主軸に対する偏心ピンのようなワークの円筒状外面を加工することを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0034】
18 工具
22 刃先
C1 ワーク軸線
Cx X軸軸線
Cy Y軸軸線
Cr 工具回転軸線
R 刃先回転半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z軸方向にのびた軸線を有しかつ軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を、先端に刃先を有しかつ回転軸線を有する工具によって加工する装置であって、ワーク軸線を通ってZ軸に直交するX軸方向にのびたX軸軸線から工具回転軸線がY軸方向に刃先回転半径以上隔てられ、かつワーク軸線を通ってZ軸およびX軸に直交するY軸方向にのびたY軸軸線から刃先がX軸方向にワーク仕上寸法半径に相当する距離だけ隔てられる位置から、工具回転中心線がX軸軸線を超える位置まで工具を回転させながらY軸方向に移動させる移動手段を備えているワーク加工装置。
【請求項2】
Z軸方向にのびた主軸軸線に対する偏心軸線を有しかつ主軸軸線周りに回転させられるワークの円筒状外面を、先端に刃先を有しかつ回転軸線を有する工具によって加工する装置であって、主軸軸線周りの回転にともなうワークの移動に対して、ワークおよび工具の相対的加工関係が一定に保持されるようにワークに工具をZ軸に直交するX軸方向およびZ軸とX軸の双方に直交するY軸方向に追従させる追従手段と、追従手段によってワークに工具が追従させられている間に、偏心軸線と交差してX軸方向にのびたX軸軸線から工具回転軸線がY軸方向に刃先回転半径以上隔てられ、かつ偏心軸線と交差してY軸方向にのびたY軸軸線から刃先がX軸方向に仕上げ寸法のワーク半径に相当する距離だけ隔てられる位置から、工具の回転中心線がX軸軸線を超える位置まで工具を回転させながらY軸方向に移動させるように追従手段による工具のY軸方向の移動を修正する修正手段とを備えているワーク加工装置。
【請求項3】
工具が、ワーク外面の軸方向長さの2分の1と一致させられた刃先回転半径を有しており、ワーク外面の軸方向長さを2分するZ方向位置に工具回転軸線を位置決めする位置決手段を備えている請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項4】
工具の刃先回転半径が、調節自在である請求項1〜3のいずれか1つに記載のワーク加工装置。
【請求項5】
工具の刃先が、1枚のみである工具を用いる請求項1〜4のいずれか1つに記載のワーク加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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