説明

ワーク把持ハンドの作動制御方法

【課題】一対の把持指が互いに接近する閉動作と互いに離間する開動作を繰り返し行うワーク把持ハンドにおいて、特定の歯に対して駆動負荷が集中することにより発生する偏摩耗を抑制することができる、ワーク把持ハンドの作動制御方法を提供する。
【解決手段】ピニオンギア8を間に挟んで相対する一対のラックギア5a、5bには、それぞれ把持指7a、7bが一体的に設けられている。ピニオンギアをモータにより正・逆回転させて一対の把持指7a、7bを互いに接近又は離間させることにより、ワークの把持および離脱動作を繰り返し行う。把持および離脱動作の繰り返しごとに一対の把持指7a、7bの待機位置を変化させることによって、ラックギア5a、5bのピニオンギア8との歯のかみ合い位置を変化させて、駆動負荷が集中するのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットに用いられるワーク把持ハンドの作動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は特許文献1に開示されたマニピュレータを示す斜視図である。一対のラックギア105の間にはステッピングモータ102Aにより回転駆動されるピニオンギア109が配備されている。ステッピングモータ102Aをデジタル制御し、ステッピングモータ102Aを正・逆回転させることによって、一対の把持指107、108を開閉動作させてワーク114の把持および離脱を行う。
【0003】
特許文献1に開示されたワーク把持ハンドでは、通常、同一種類のワークに対する把持指の待機位置(閉動作により把持を行う場合は開位置、開動作により把持を行う場合は閉位置)として、一定の開き幅又はワークの寸法に一定値を加えた位置が指定される。つまり、待機位置において歯車のある特定の一つの歯が毎回噛み合わせに使用された状態で停止することとなる。このとき、前記の特定の一つの歯に歯車の動作開始・終了時に大きな駆動負荷がかかる。このワーク把持ハンドで同一種類のワークを30秒間あたり5回把持させるような使い方をすると、24時間で14400回の開閉動作が行われる。その結果、前記の特定の一つの歯は他の歯と比べて摩耗が激しくなり、偏摩耗状態が生じることがある。歯車に偏摩耗状態が生じると、正確な把持動作を行うことができなくなるなどの問題が起こることがある。
【0004】
このような偏摩耗状態が発生する問題を解決する手段として、特許文献2に、回転体回転装置及び画像形成装置において、停止位置で噛み合わせに使われる歯が特定の歯に集中することを避ける構成が開示されている。具体的には、回転体に取り付けられた従動歯車の歯数の(1/停止位置数)を駆動手段に取り付けられた駆動歯車の歯数の非整数倍にするという構成が開示されている。
【0005】
従動歯車の歯数の(1/停止位置数)が駆動歯車の歯数の整数倍であると、駆動歯車で噛み合わせに使われる歯が回転体の回転動作を行う前と後で変化せず、その歯に対して大きな駆動負荷が繰り返しかかることとなる。従動歯車の歯数の(1/停止位置数)を駆動歯車の歯数の非整数倍とすることで、回転動作を1回行うごとに噛み合わせに使われる歯が変化する。更に次の回転動作によって同一方向に歯車が回転するため、更に別の歯が噛み合わせに使われることとなる。歯数は有限であるため、一定回数の回転動作の後には再び同じ歯が使われることとなるが、歯数を整数倍としたときと比べるとある一つの歯に大きな駆動負荷がかかる回数を減少させ、駆動負荷を分散することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−212688号公報
【特許文献2】特開2002−5244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示された、繰り返し同一動作を行った際に発生する偏摩耗を抑制する手段は、同一方向に回転する歯車には有効な手段である。しかしながら、開動作と閉動作をそれぞれ正・逆回転により実現するワーク把持ハンドでは、開動作で噛み合わせに使う歯を変えたとしても、次の閉動作で元の歯に戻ってしまうため、駆動負荷の分散を行うことはできない。
【0008】
本発明は、一対の把持指の開閉動作を繰り返し行うワーク把持ハンドにおいて、ラックギアの特定の歯に対して駆動負荷が集中することにより発生する偏摩耗を抑制することができる、ワーク把持ハンドの作動制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のワーク把持ハンドの作動制御方法は、ピニオンギアを間に挟んで相対する一対のラックギアと、前記一対のラックギアのそれぞれに一体的に設けられた一対の把持指を備え、前記ピニオンギアを正・逆回転させて前記一対の把持指と開閉動作させるワーク把持ハンドの作動制御方法において、前記一対の把持指を待機位置から互いに接近又は離間させることによって、前記ワークを前記一対の把持指の間又は前記一対の把持指の外側にて把持する動作を繰り返し行う際に、前記待機位置を変化させることによって前記一対のラックギアと前記ピニオンギアとの歯のかみ合い位置を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
大きな駆動負荷がかかるラックギアの噛み合わせに使う歯を複数の歯へと分散させ、偏摩耗の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用できるワーク把持ハンドの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すワーク把持ハンドの動作を制御するための制御回路を表すブロック図である。
【図3】図2による位置目標値の動作を示すフローチャートである。
【図4】図2の減速器内部の遊星歯車機構を示す図である。
【図5】特許文献1に開示されたマニピュレータを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明を適用できるワーク把持ハンドを示す斜視図である。図1に示すように、箱状のベース1の内側にモータ2が配備されている。ベース1の上面1aには間隔をおいて相対する一対のガイドベース3a、3bが取り付けられており、各ガイドベース3a、3bの対向面にそれぞれガイドレール4a、4bが取り付けられている。各ガイドレール4a、4bにはそれぞれラックギア5a、5bの背面に設けられたガイド溝6a、6bが摺動自在に嵌合されている。一対のラックギア5a、5bの上面にはそれぞれ把持指7a、7bが一体的に設けられており、一対のラックギア5a、5bがモータ2の出力軸2cに取り付けられたピニオンギア8に両側からかみ合わされている。そのため、モータ2の出力軸2cを正・逆回転させることで、一対の把持指7a、7bが互いに離間する開動作および一対の把持指7a、7bが互いに接近する閉動作を行う。つまり、ワークをワーク把持ハンドの一対の把持指の間又は前記一対の把持指の外側にて把持する動作を繰り返し行う。
【0013】
図2は、図1に示したワーク把持ハンドのモータ2の駆動を制御する制御回路を示すものである。図2の制御回路において、動作指令制御部11は図示しない上位制御装置から把持または離脱のどちらかの動作指令を受け、位置目標値発生器12に対して把持又は離脱の動作の指令と、把持位置と、待機位置の最小、最大の基準値を出力する。動作指令制御部11は更にモータドライバ14に対して現在の動作モードを出力する。位置目標値発生器12は動作指令制御部11からの入力に基づいて、把持又は離脱の動作に対応して後述の動作フローによって決定される位置目標値を出力する。
【0014】
比較器13は位置目標値発生器12が出力する位置目標値とエンコーダ2aが出力する位置の比較を行う。比較器13はエンコーダ2aの出力値が前記の位置目標値を超えるまでの間、モータドライバ14に動作指令を出力する。比較器13から動作指令が出力されている間、モータドライバ14は、モータ2に対して正転又は逆転方向の駆動電流を流す。前記正転又は逆転の方向は、動作指令制御部11から出力される把持又は離脱の動作の別に応じて決定される。エンコーダ2aはモータの現在の位置を比較器13に出力する。減速器2bは、モータ2の回転駆動を減速して出力軸2cに伝達する。
【0015】
図3は、位置目標値発生器12の動作を示すフローチャートである。ステップS20は位置目標値発生器12に把持動作指令又は離脱動作指令が与えられるまで待機するステップである。ステップS21は与えられた動作指令が把持動作指令と離脱動作指令のどちらであるかによって、以降の処理を切り替える分岐処理である。与えられた動作指令が把持動作指令のときに通過するステップS22では出力値が把持位置基準値に決定される。与えられた動作指令が把持動作指令のときに通過するステップS23では0から1の範囲の一様乱数を生成し、変数rに記憶する。続くステップS24では前記の変数rの値を使い、出力値を待機位置の最小値から最大値の範囲で決定する。変数rが0であるときに最小値、1であるときに最大値が選択される。ステップS25で決定した出力値を位置目標値として比較器13に出力する。
【0016】
把持動作指令が与えられたときは、前記の把持位置基準値がモータ2の位置目標値として出力される。離脱動作指令が与えられたときは、待機位置の最小値以上最大値以下の範囲から離脱動作指令1回ごとに一つの値が選択され、位置目標値として出力される。
【0017】
図4は減速器2bに使われる遊星歯車機構の上面図である。モータ2の駆動軸に太陽歯車30が組み付けられている。遊星歯車31は、前記太陽歯車30とモータ2の外装に固定された内歯車33の間でキャリア32とともに回転する。キャリア32の回転が出力軸2cに伝達される。
【0018】
以上の構成により、この制御回路は、把持動作または離脱動作の指令に応じて一対の把持指7a、7bを開閉動作させる制御を行う。動作指令制御部11が把持動作指令を受けると、モータドライバ14はモータ2に対して正転方向の電流を出力し、把持指7a、7bは閉じる方向に移動する。エンコーダ2aが出力する位置が、位置目標値発生器12の出力する位置目標値に到達するとモータ2は停止し、一対の把持指7a、7bは前記位置目標値に把持位置で停止する。動作指令制御部11が離脱動作指令を受けると、モータドライバ14はモータ2に対して逆転方向の電流を出力し、把持指7a、7bは開く方向に移動する。エンコーダ2aが出力する位置が、位置目標値発生器12の出力する位置目標値に到達するとモータ2は停止し、把持指7a、7bは前記位置目標値に対応する待機位置で停止する。
【実施例】
【0019】
本実施例では、減速器2bの減速比を1/4、ピニオンギア8の歯数を18、ラックギア5a、5bの1歯あたりのピッチは1.2mmである。また、減速器2bの構成は太陽歯車30、遊星歯車31、内歯車33の歯数はそれぞれ16、16、48である。把持位置基準値として、把持するワークの寸法とワーク把持ハンドの組付により決定した値を用いている。待機位置の最小値として把持位置基準値は2.4mm、最大値は把持位置基準値から4.8mmの値を用いている。
【0020】
以上に示した構成によれば、把持指7a、7bの開き幅は2.4mmから4.8mmの間で変化する。つまり、ラックギア5a、5bが停止する位置が2つの歯の範囲で変化する。この範囲は、出力軸2cの回転角度でいえば1/9回転、モータ2の駆動軸でいえば4/9回転に、減速器2bを構成する歯車の歯では7歯と1/9に相当する。つまり、減速器2bを構成する歯車の歯ではおよそ8歯の範囲で停止位置が変化する。これにより、ラックギア5a、5bの一つの歯に大きな駆動負荷がかかる回数は、離脱動作時の位置目標値として常に一定の値を出力したときと比べておよそ1/2となる。同様に減速器2bを構成する歯車の歯ではおよそ1/8となる。そのため、それぞれの歯車の偏摩耗が抑制される。
【0021】
このように、上述した方法によりワーク把持ハンドの作動制御を行うことで、歯車の材質の変更、焼き入れ・表面処理、歯の形状の変更などの手段に比べて安価に偏摩耗を抑制することができる。また、コストの増加を許容することができるのであれば、上述した手段を同時に組み合わせることによって、更なる抑制効果を得ることができる。
【0022】
また、上記実施例で示した各歯車の歯数、減速比、把持位置基準値などは一例に過ぎず、この構成に限定されるものではない。歯数、減速比の構成と、待機位置最小値と最大値の間隔によって度合いは異なるが、上述の効果を得ることができる。
【0023】
また、図3で示した動作フローは、離脱動作指令を受けるごとに毎回乱数を発生させ、位置目標値を変化させる例である。このとき重要なことは長期間の繰り返しを行うと、位置目標値がある範囲で分散することである。そのため、1回ごとに乱数を発生させるのではなく、数回おきに乱数を発生させる動作フローとしてもよい。更にいえば、乱数を用いるのではなく、事前に決めておいたいくつかの値を循環的に使用する動作フローとしても良い。
【0024】
また、図2で示した制御回路のうち、動作指令制御部11、位置目標値発生器12、比較器13をマイクロコンピュータに置き換えることができる。この場合、本発明の特徴部である位置目標値発生器12を追加するコストがかからず、全体として安価に構成することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 ベース
2 モータ
2a エンコーダ
2b 減速器
2c 出力軸
5a、5b ラックギア
7a、7b 把持指
8 ピニオンギア
11 動作指令制御部
12 位置目標値発生器
13 比較器
14 モータドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアを間に挟んで相対する一対のラックギアと、前記一対のラックギアのそれぞれに一体的に設けられた一対の把持指を備え、前記ピニオンギアを正・逆回転させて前記一対の把持指を開閉動作させるワーク把持ハンドの作動制御方法において、
前記一対の把持指を待機位置から互いに接近又は離間させることによって、ワークを前記一対の把持指の間又は前記一対の把持指の外側にて把持する動作を繰り返し行う際に、前記待機位置を変化させることによって前記一対のラックギアと前記ピニオンギアとの歯のかみ合い位置を変化させることを特徴とするワーク把持ハンドの作動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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