説明

ワーク搬送方法及びワーク搬送装置

【課題】磁性体でなる薄板状のワークを垂直に立てた状態でワーク搬送元からワーク搬送先まで移動させ、かつ、搬送元と搬送先でワーク両面に触れないでワークの着脱を行うことができるワーク搬送装置を提供する。
【解決手段】磁性体よりなる薄板状のワークWを、ワーク搬送元Aに位置する非磁性体よりなるワーク受承体11に垂直に立てて載せ、かつ、ワーク受承体11の背面に磁石14を密着させることでワークWを垂直に立てた状態を維持し、この状態でワーク搬送先まで移動し、ワーク搬送先で磁石14をワーク受承体11の背面から離間させることでワークWをワーク受承体11から取り外せる状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や産業機械等の部品等、或いはCDやDVD等のワーク生産ラインにおいて、円板状或いは円環板状の磁性体で成るワークを垂直に立てた状態でワーク搬送元からワーク搬送先まで移動させるためのワークを垂直に保持して搬送するワーク搬送方法及びワーク搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CDやDVD等のワークの製造工程において、ワーク両面に直接触れて搬送すると表面に油分や汚れが付着し、或いは傷を付けてしまう虞がある。このほか、円板状或いは円環板状の磁性体でなる部品、例えば自動車部品や産業機械部品の両面に対して例えば塗装或いはアルコール洗浄等を行い、該ワークを次工程の処理位置(搬送先)へ搬送する場合、ワーク両面に直接触れて搬送すると塗装面が汚れ又は表面に汚れが付着し或いは傷を付けてしまう虞がある。このため、ワークを垂直に立てた状態でワークの端面を保持しワーク搬送元からワーク搬送先まで移動することが必要となる。
【0003】
従来、ワークを垂直に立てた状態で搬送する方法及び装置としては、特許文献1の円盤状基盤搬送装置が提案されている。この特許文献1の円盤状基盤搬送装置は、図6(A)及び(B)に示すように、垂直に立てた円盤状基板100の外周端部がネジ山間に介在するように円盤状基板100の中心軸Xの長手方向に平行に配置した複数の送りネジ110と、軸回転駆動する回転駆動手段120とを有し、この円盤状基盤搬送装置を利用した方法として、回転駆動手段120によって各送りネジ110を同一速度で回転させて円盤状基板100を方向Aへ回転させながら搬送する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−235741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の搬送方法は、送りねじ110を複数使用しているため、円盤状基板100の外周面に沿って配置することが難しく、円盤状基板100に反りや歪み等を与えてしまう傾向にある。また、送りねじ110が回転し、円盤状基板100も回転しているため円盤状基板100と送りネジ110との間で滑りを生じて円盤状基板100の端面を傷める可能性があるばかりか、そもそも搬送速度が遅く、また搬送元と搬送先での着脱を円盤状基板100の両面に触れないで行うことが難しいという問題がある。
さらには、円盤状基板100の両面同士が近接しているため、円盤状基板100の両面にさらに接着剤を塗布したい場合は、特許文献1に開示されている円盤状基盤搬送装置の構造では難しい。
【0006】
本発明は、上述した点に鑑み案出したもので、薄肉状で周面が平面になっていて垂直に立てられる磁性体で成るワークを垂直に立てた状態でワーク搬送元からワーク搬送先まで移動させ、かつ、搬送元と搬送先でワーク両面に触れないでワークの着脱を行うことができる、ワーク搬送方法及びワーク搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のワーク搬送方法は、磁性体でなる薄板状のワークを、ワーク搬送元に位置する非磁性体でなるワーク受承体に垂直に立てて載せ、かつ、ワーク受承体の背面に磁石を密着又は近接させることによってワークを垂直に立てた状態で維持し、この状態でワークをワーク搬送先まで移動させ、ワーク搬送先で磁石をワーク受承体の背面から離間させることによってワークをワーク受承体から取り外せる状態にすることを特徴としている。なお、本発明において、薄板状とは、薄肉で内側に穴を備えない平たい板形状だけでなく、内側に穴を有する環型で薄肉の板形状を含む概念である。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明のワーク搬送装置は、磁性体でなる薄板状のワークを垂直に立てた状態で受承する非磁性体でなるワーク受承体と、ワーク受承体を支持してブラケット移動手段によってワーク搬送元からワーク搬送先まで移動されるブラケットと、ワーク受承体のワーク受承部の背面に密着又は近接してワークの立てた状態を維持する磁石と、ワーク受承体がワーク搬送先以外に位置されるとき磁石を上記背面に密着又は近接し、ワーク受承体がワーク搬送先に位置されるとき背面より離隔させる磁石移動手段と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワーク受承体が非磁性体でなり、ワーク受承体の背面に磁石を密着又は近接させることでワーク受承体にワークを垂直に立てた姿勢を保持し、またワーク受承体の背面から磁石を離間させることでワークを垂直に立てた状態を解除する構成であるので、磁性体よりなるワークを垂直に立てた状態でワーク搬送元からワーク搬送先まで移動させ、かつ、搬送元と搬送先でワーク両面に触れないでワークの着脱を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〔実施形態1〕
まず、ワーク搬送装置の構成を説明する。図1に示すように、ワーク搬送装置10は、ワーク受承体11と、ブラケット12と、ブラケット移動手段13と、磁石14と、磁石移動手段15とを備えている。ワークWは、円環型で薄板状に構成されており、ワーク搬送元Aの位置の上方から垂直下方へワーク搬送装置10に供給される。このワークWの供給には落下による供給も含まれる。
【0011】
ワーク搬送装置10は、ワーク搬送元の位置でワークWを立てた状態で受承し、この状態を磁力によって維持したまま水平方向にワークWを移送し、ワーク搬送先B(図2参照)に到達したら、磁力を解除する構成である。
【0012】
ブラケット12は、例えば鉄製の構成であり、ブラケット移動手段13に結合されたキャリアプレート12aと、このキャリアプレート12a上に組み立てられたM字フレーム12bとを備え、M字フレーム12bのV面には矩形孔が開けられ、図3に示すように各矩形孔を塞ぐように一対のワーク受承体11が固設されている。
キャリアプレート12aは下面にリニアガイド16を備えている。このリニアガイド16は、両端を固定フレーム17に支持されたリニアガイドレール18に係合支持されている。これにより、ブラケット12がワーク搬送元Aの位置とワーク搬送先Bの位置(図2参照)との間を移動可能に構成されている。
【0013】
ワーク受承体11は、磁場を遮らない非磁性体の薄板、例えば適宜のプラスチックプレート又は非磁性のステンレスであるオーステナイト系ステンレス、例えばSU304などからなり、傾斜上面がワーク受承面となっているとともに、傾斜下面(背面)が磁石被密着面となっている。各ワーク受承体11は、上方から垂直姿勢で降下されるワークWの周縁の一箇所を受承する。
【0014】
ブラケット移動手段13は、モータ13aと、例えばプーリーなどのタイミングベルト捲き掛け機構13bとを備え、タイミングベルト13cが連結ブラケット21と結合固定されてなり、モータ13aが図示しないコントローラによって往復回転制御されることで駆動され、ブラケット12をワーク搬送元とワーク搬送先との間を往復移動させる。
【0015】
磁石14は、例えば強磁性のネオジウム磁石が用いられ、ワーク受承体11の裏面(傾斜下面)に密着又は近接しうる方形板状である。磁石14は、ワーク受承体11の裏面に密着状態に位置された状態では、ワーク受承体11の傾斜上面に磁力吸引作用が及んでいて、ワークWを垂直状態にしてワーク受承体11の傾斜上面に当接すると、磁力吸引力が、このワークWを垂直状態に保持する保持力となる。磁石14をワーク受承体11の裏面より離間させれば、ワークWを垂直状態に保持する保持力を失う。
【0016】
磁石移動手段15は、磁石上昇手段と磁石下降手段とからなる。磁石上昇手段は、磁石保持ブラケット15aとガイドロッド15bとコイルばね15cとからなる。磁石保持ブラケット15aは、M字形のフレーム12b内に組み込まれ磁石14の下面側を保持する。ガイドロッド15bは、キャリアプレート12aに立設され磁石保持ブラケット15aを昇降可能に案内する。コイルばね15cは、キャリアプレート12aと磁石保持ブラケット15aとの間に設けられ磁石保持ブラケット15aを持ち上げて磁石14をワーク受承体11の傾斜下面(背面)に密着又は近接するよう付勢するものである。
【0017】
磁石下降手段は、キャリアプレート12aの両側面部に設けられた一対のカムフォロア19と、固定フレーム17に固定支持された一対のカム20とからなる。なお、磁石下降手段は、この構成に限定されない。
【0018】
磁石移動手段15は、図2に示すように、キャリアプレート12aがワーク搬送先Bの位置に来るときに、カムフォロア19がカム20によって下降されることで、磁石保持ブラケット15aがコイルばね15cの付勢に抗して下降され、磁石14をワーク受承体11の傾斜下面(背面)から離間させ、また、キャリアプレート12aがワーク搬送先Bの位置から離れると、カムフォロア19がカム20から離れることで、磁石保持ブラケット15aがコイルばね15cにより付勢されて上昇し、磁石14をワーク受承体11の傾斜下面(背面)より密着させるように構成されている。
【0019】
ワーク搬送装置10は、図1に示すワーク搬送元Aの位置で、薄肉の円板状あるいは円環板状の磁性体からなり周面が平面になっていて垂直に立てられるワークWをワーク受承体11の部分で垂直に立てた状態で受承し、ワーク受承体11の背面に磁石14を接近移動することでワークWを垂直に立てた姿勢で保持し、ブラケット移動手段13によって図2に示すワーク搬送先Bの位置へワークWを水平搬送し、ワーク搬送先Bの位置で磁石14を離間移動させることでワークWを垂直に立てた状態を解除する構成である。
【0020】
本発明のワーク搬送装置10は、大きさの異なる円環板状の複数のワークをそれぞれ垂直に立てて保持することができる。
例えば大小2つのワークW1、W2を同じ装置で搬送したい場合、図4に示す例では、大きなワークW1が実線で、このワークW1よりも直径が小さいワークW2が二点鎖線で示す状態のように、それぞれワーク搬送装置10に保持されて搬送される。この図示例において、ワークW1の中心軸X1と直交する水平線δ1と磁石14との関係を見ると、ワークW1がワーク搬送装置10に保持された状態で水平線δ1より下方の位置に磁石14が配置されている。一方、ワークW1よりも小さいワークW2との関係では、磁石14がワークW2の中心軸X2と直交する水平線δ2上に配置されるため、ワークW2の周縁と二つのワーク受承体11との各接触点P1,P2を結んだ仮想線Lを軸としてワークW2は回転運動を行い、ワークW2の垂直に立った姿勢が崩れる虞がある。
このような事態を防止し、ワークW1が垂直に起立した姿勢をより一層安定して保持させるために、本発明のワーク搬送装置10は、大きさの異なる複数のワークとの関係で磁石14を配置するのが望ましい。具体的には、磁石14は、ワーク搬送装置10で搬送させる最小径のワークがM字フレーム12bのV面で互いに離間して設けられた二つのワーク受承体11に周縁を当接させた状態で、該最小径のワークの中心軸に直交する水平線より下方の位置に配置するのが望ましい。例えば、図4のワークW2を確実に垂直姿勢で保持させるためには、図5に示すように、ワークW2の中心軸X2に直交する水平線δ2より下方に、磁石14を設ける。なお、ワーク搬送装置10で搬送可能な最大径のワークとの関係では、該最大径のワークの周縁が当接する位置にワーク受承体11が設けられ、さらにその当接位置に対応したワーク受承体11の裏側に磁石14が配置されるのが望ましい。
また、同じ装置で搬送可能なワークの種類は大小2つのワークW1、W2に限らず、3つ以上の異なる複数のワークであってもよい。
【0021】
〔その他の実施形態〕
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
(1)本発明は、CDやDVD等のワークの製造工程や、円板状あるいは円環板状の磁性体でなる部品、例えば自動車部品や産業機械部品の両面に対して例えば塗装あるいはアルコール洗浄等を行い、該ワークを次工程の処理位置(搬送先)へ搬送する場合などにおいて、ワークを垂直に立てた状態でワークの端面を保持しワーク搬送元からワーク搬送先まで移動する場合に適用できる。
【0022】
(2)実施形態では、円形薄板状のワークを対象としているが、多角形薄板状、円環薄板状、多角形環状薄板状の各種ワークを対象とすることができる。さらに、四角形、三角形の場合などでも、磁性体で成る薄板状のワークであれば、それに対応した受承面を用意すれば、ワークを垂直に立てた状態にワークの端面を保持しワーク搬送元からワーク搬送先まで移動することができるから、本発明に含まれる。
【0023】
(3)ワーク受承体移動手段は、ワーク受承体をワーク搬送元とワーク搬送先との二位置を往復移動させるように構成されたシリンダ装置やリニアモータやカムとレバーを用いた往復式移動手段を採用する場合も本発明に含まれる。さらに、ワーク受承体移動手段は、エンドレスチェーンを垂直面内に捲き掛けてなるエンドレスチェーン捲き掛け機構を備え、エンドレスチェーンに等ピッチに備えた複数のワーク搬送装置を垂直面内に巡回させる構成も本発明に含まれる。
【0024】
(4)上記実施形態では、ワークを立てた状態を維持してワークを水平方向に搬送する構成であるが、ワークを立てた状態で立体経路を搬送する構成も本発明に含まれる。また、ワークを立てた状態に保持し、該ワークを垂直面内に移動させる場合に限定されず、ワークを垂直面内に直行する方向に移動させる場合も、本発明に含まれる。すなわち、産業用ロボットのロボットハンドとしてワーク搬送装置が備えられ、二位置をフレキシブルに移動する場合も本発明に含まれることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ワーク搬送元の位置で磁力によってワークを垂直に立てた状態のワーク搬送装置を示す正面図である。
【図2】ワーク搬送先の位置にワークを搬送し磁力を解除した状態のワーク搬送装置を示す正面図である。
【図3】図1におけるIII−III矢視図である。
【図4】ワーク搬送装置が大きさの異なるワークを保持できることを説明する図である。
【図5】大きさの異なるワークを保持するワーク搬送装置において、好ましい磁石の配置位置を説明するための図である。
【図6】(A)はワークを垂直に立てた状態で搬送する従来装置の正面図であり、(B)は側面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 ワーク搬送装置
11 ワーク受承体
12 ブラケット
13 ブラケット移動手段
14 磁石
15 磁石移動手段
W ワーク
A ワーク搬送元
B ワーク搬送先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体でなる薄板状のワークを、ワーク搬送元に位置する非磁性体でなるワーク受承体に垂直に立てて載せ、かつ、上記ワーク受承体の背面に磁石を密着又は近接させることによって上記ワークを垂直に立てた状態を維持し、この状態で上記ワークをワーク搬送先まで移動させ、該ワーク搬送先で上記磁石を上記ワーク受承体の背面から離間させることによってワークを上記ワーク受承体から取り外せる状態にすることを特徴とする、ワーク搬送方法。
【請求項2】
磁性体でなる薄板状のワークを垂直に立てた状態で受承する非磁性体でなるワーク受承体と、
上記ワーク受承体を支持してブラケット移動手段によってワーク搬送元からワーク搬送先まで移動されるブラケットと、
上記ワーク受承体のワーク受承部の背面に密着又は近接して上記ワークの立てた状態を維持する磁石と、
上記磁石を上記背面から離隔させる磁石移動手段と、を備えたことを特徴とする、ワーク搬送装置。
【請求項3】
大きさの異なる複数のワークが別々に前記ワーク受承体によって受承されて立てられた状態において、前記磁石が上記各ワークの中心と直交する水平線より下方の位置に配設されていることを特徴とする、請求項2に記載のワーク搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−196796(P2009−196796A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42244(P2008−42244)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(508056109)株式会社ネツレンタクト (10)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】