説明

ワーク表面装飾方法及びワーク表面装飾システム

【課題】表面凸部の有無又は表面凸部のデザインが相違する複数種類の製品を従来より安価に製造することが可能なワーク表面装飾方法及びワーク表面装飾システムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明のワーク表面装飾方法は、ワーク90の装飾面90Aに表面凸部93を形成して立体装飾部94を有した製品を製造する場合に、ワーク90の装飾面90Aに対してパッド印刷を行う。即ち、凹版13のインク溝13Aに残ったインク14をパッド12によって凹版13から装飾面90Aに転写する。また、装飾面90Aに付着したインク14に紫外線を照射して速やかに固化させる。固化したインク14により表面凸部93が形成され、この表面凸部93と、装飾面90Aの文字又は模様とが融合した立体装飾部94が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面に表面凸部と文字又は模様とが融合した立体装飾部を形成するためのワーク表面装飾方法及びワーク表面装飾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワーク表面装飾方法としては、射出成形金型のキャビティ内面に表面凸部を成形するための凹部を設けておき、キャビティ内に射出された樹脂の圧力によって、キャビティ内にインサートされた模様付きのシートをワーク表面及びキャビティ内面に密着させることで、ワークと立体装飾部とを同時成形する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−184376号公報(第2頁〜第4頁、第11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来のワーク表面装飾方法では、表面凸部を有した製品とは別に表面凸部を有しない(模様のみで装飾した)製品を製造する場合、或いは、立体装飾部における表面凸部のデザインが異なる複数種類の製品を製造する場合に、製品毎に別々の射出成形金型が必要になり、これら射出成形金型の制作費が嵩んで製品価格が高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、表面凸部の有無又は表面凸部のデザインが相違する複数種類の製品を従来より安価に製造することが可能なワーク表面装飾方法及びワーク表面装飾システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るワーク表面装飾方法は、ワークのうち文字又は模様が付された装飾面にパッド印刷にてインクを盛り付けて固化させることで表面凸部を形成し、その表面凸部と文字又は模様とが融合した立体装飾部を形成するところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のワーク表面装飾方法において、ワークの装飾面の文字又は模様を撮影し、その撮影画像に基づいてパッド印刷用の版下を作成するところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のワーク表面装飾方法において、インクに紫外線硬化剤を含有させておき、ワークの装飾面にインクを付着させた状態で紫外線を照射してインクを固化させるところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1又は2に記載のワーク表面装飾方法において、インクに紫外線硬化剤を含有させておき、パッド印刷用の原版にインクを盛り付けた状態で紫外線を照射して、インクの粘度を上げるところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のワーク表面装飾方法において、ワークの表面に形成された凹部に閉塞部材を嵌めて凹部の開口を塞いでからパッド印刷を行い、パッド印刷後に閉塞部材を除去するところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明に係るワーク表面装飾システムは、ワークのうち文字又は模様が付された装飾面にパッド印刷にてインクを盛り付けて固化させることで表面凸部を形成し、その表面凸部と文字又は模様とが融合した立体装飾部を形成するワーク表面装飾システムであって、ワークの装飾面の文字又は模様を撮影するためのワーク撮影装置と、ワーク撮影装置による撮影画像に基づいて文字又は模様に対応した版下を作成する版下作成手段と、版下作成手段によって作成した版下をインクにて原版上に印刷するプリンタと、原版及びワークに押し付けられて原版から写し取ったインクをワークの装飾面に転写するパッドとを備えたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載のワーク表面装飾システムにおいて、インクは紫外線硬化剤を含有しており、原版上に印刷されたインクに紫外線を照射して粘度を上げると共に、ワークの装飾面にパッド印刷されたインクに紫外線を照射してインクを固化させるための紫外線照射装置を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
[請求項1の発明]
請求項1によれば、ワークの装飾面に表面凸部を設けて立体装飾部を有した製品を製造する場合にはワークの装飾面に対してパッド印刷を行い、表面凸部を有しない(文字又は模様のみで装飾した)製品を製造する場合には、パッド印刷の工程を省略すればよいので、表面凸部の有無が相違する二種類の製品を従来より安価に製造することができる。
【0014】
また、立体装飾部における表面凸部のデザインが相違する複数種類の製品を製造する場合には、パッド印刷用の原版をデザインの種類毎に用意しておけばよい。ここで、パッド印刷用の原版は射出成形金型より安価に製作することができるので、表面凸部のデザインが相違する複数種類の製品を従来より安価に製造することができる。
【0015】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、立体装飾部おける表面凸部と文字又は模様との一体感を高めることができる。例えば、表面凸部を文字又は模様と同一デザインにすることで、文字又は模様を視覚だけでなく手触りでも認識することが可能になる。また、文字又は模様と概ね重なった位置に表面凸部を形成することで、文字又は模様に立体感を与え、見た目と手触りの一体感を一層向上させることが可能になる。
【0016】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、ワークの装飾面に盛り付けたインクが流動してインク厚が薄くなることを防ぎ、立体装飾部における表面凸部の厚みをより大きくすることが可能になる。
【0017】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、パッドを原版に押し付ける前に原版に盛り付けたインクが流動してインク厚さが薄くなることを防ぎ、立体装飾部における表面凸部の厚みをより大きくすることが可能になる。
【0018】
[請求項5の発明]
ワークの装飾面に形成された凹部の開口を塞がずにパッド印刷を行うと、凹部の開口近傍でパッドが変形して印刷に歪みが生じる。これに対し、請求項5の発明によれば、凹部の開口を閉塞部材にて塞いだ状態でパッド印刷を行うから、印刷の歪みを防止することができる。
【0019】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、ワークの装飾面に表面凸部を設けて立体装飾部を有した製品を製造する場合にはワークの装飾面に対してパッド印刷を行い、表面凸部を有しない(文字又は模様のみで装飾した)製品を製造する場合には、パッド印刷の工程を省略すればよいので、表面凸部の有無が相違する二種類の製品を従来より安価に製造することが可能になる。
【0020】
また、立体装飾部における表面凸部のデザインが異なる複数種類の製品を製造する場合には、パッド印刷用の原版をデザインの種類毎に用意しておけばよい。ここで、パッド印刷用の原版は、射出成形金型より安価に製作することができるので、表面凸部のデザインが異なる複数種類の製品を従来より安価に製造することができる。
【0021】
また、本発明によれば、文字又は模様を撮影した撮影画像に基づいて文字又は模様に対応した版下を作成するようにしたので、立体装飾部おける表面凸部と文字又は模様との一体感を高めることができる。例えば、表面凸部を文字又は模様と同一デザインにすることで、文字又は模様を視覚だけでなく手触りでも認識することが可能になる。また、文字又は模様と概ね重なった位置に表面凸部を形成することで、文字又は模様に立体感を与え、見た目と手触りの一体感を一層向上させることが可能になる。
【0022】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、パッドを原版に押し付ける前に、原版に印刷されたインクが流動してインク厚が薄くなることを防ぐと共に、ワークの装飾面に盛り付けたインクが流動してインク厚が薄くなることを防ぎ、立体装飾部における表面凸部の厚みをより大きくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係るワーク表面装飾方法の工程を示す概念図
【図2】第2実施形態に係るワーク表面装飾方法の工程を示す概念図
【図3】版下作成の概念図
【図4】第3実施形態のワーク表面加飾システムのうち版下作成に係る構成の概念図
【図5】パッド印刷工程を示す概念図
【図6】カメラによる装飾面の撮影工程を示す概念図
【図7】(A)パッドの斜視図、(B)パッドの三面図
【図8】第4実施形態に係るワーク表面装飾システムの概念図
【図9】スイッチベースの斜視図
【図10】(A)パッドの斜視図、(B)パッドの三面図
【図11】版下作成工程の概念図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1に基づいて説明する。ワーク90は、基材91の表面のうちドーム状に盛り上がった湾曲面を被膜92で覆ってなり、被膜92で覆われた部分が装飾面90Aになっている。被膜92は、透明な表面保護層92Aと表面保護層92Aの内側に積層された着色層92Bとからなる。着色層92Bは、基材91の表面に、例えば、公知な水圧転写又はスプレー塗装を行うことにより形成されている。着色層92Bにより、基材91の素地が隠され、ワーク90の装飾面90Aに所定の文字又は模様(例えば、木目模様や金属のヘアライン模様)が付与されている。表面保護層92Aは、透明な塗料を着色層92Bに重ねてスプレー塗装した塗膜であり、表面保護層92Aを通して着色層92の文字又は模様を視認可能となっている。なお、表面保護層92Aの膜厚は、例えば、5〜100[μm]である。
【0025】
ワーク表面装飾システムは、パッド印刷装置11と紫外線照射装置15とを備えている。パッド印刷装置11は、パッド12と凹版13(本発明の「原版」に相当する)とを備えている。凹版13は、例えば、金属板又は樹脂板の表面をエッチングしてインク溝13Aを形成したものであり、インク溝13Aは、着色層92Bの文字又は模様に対応したデザインとなっている。パッド12は、シリコンゴム等の柔軟な素材で構成されている。パッド12は、ワーク90の装飾面90Aに押し付けられて弾性変形し、このとき、装飾面90Aにおけるドーム状の湾曲面に密着可能なインク転写面12Aを備えている。インク転写面12Aは、その外縁部から中央部に向かってドーム状に盛り上がった湾曲面で構成されている。
【0026】
パッド印刷に用いるインク14は紫外線硬化剤を含有しており、紫外線照射装置15による紫外線照射で速やかに固化すると共に固化状態で無色透明である。以下に説明するように、インク14が装飾面90A上で固化することで表面凸部93が形成され、文字又は模様と表面凸部93とが融合した立体装飾部94が形成される。
【0027】
次にワーク表面装飾方法について説明する。ワーク90は、スプレー塗装又は加飾シートの水圧転写により基材91の表面に着色層92Bを形成した後、その着色層92Bに透明な塗料を上塗りして表面保護層92Aを形成することで製作される。立体装飾部94(表面凸部93)を必要としない製品はこれで完成であり、立体装飾部94(表面凸部93)を必要とする製品については、以下のパッド印刷工程が続く。
【0028】
まず、凹版13の表面全体にインク14を塗布し、インク溝13Aに入らなかった余分なインク14を掻き取る。次に、パッド12を凹版13に押し付けて、インク溝13A内のインク14をパッド12のインク転写面12Aに写し取る。
【0029】
次に、パッド12をワーク90の装飾面90Aに押し付けて、インク転写面12Aから装飾面90Aにインク14を転写する。すると、インク溝13Aの深さに応じたインク厚で装飾面90Aにインク14が盛り付けられる。
【0030】
次いで、装飾面90Aに盛り付けられたインク14に紫外線照射装置15にて紫外線を照射しインク14を固化させる。すると、固化したインク14によってワーク90の装飾面90Aに表面凸部93が形成され、文字又は模様と表面凸部93とが融合した立体装飾部94が形成される。なお、表面凸部93の厚みは、手触りで凹凸が認識可能な厚さ(例えば、数十[μm])である。
【0031】
具体的には、例えば、ワーク90の装飾面90Aに付された木目模様に対応して木目状の表面凸部93が形成される。或いは、金属のヘアライン模様に対応してヘアライン状の表面凸部93が形成される。或いは、アルファベット文字に対応して同一のアルファベット文字形の表面凸部93が形成される。これにより、視覚だけでなく手触りでも文字又は模様を認識することが可能になる。
【0032】
このように、本実施形態によれば、ワーク90の装飾面90Aに表面凸部93を形成して立体装飾部94を有した製品を製造する場合にはワーク90の装飾面90Aに対してパッド印刷を行い、表面凸部93を有しない(文字又は模様のみで装飾した)製品を製造する場合には、パッド印刷の工程を省略すればよいので、表面凸部93の有無が相違する二種類の製品を従来より安価に製造することができる。
【0033】
また、立体装飾部94における表面凸部93のデザインが異なる複数種類の製品を製造する場合には、パッド印刷用の凹版13をデザインの種類毎に用意しておけばよい。ここで、凹版13は射出成形金型より安価に製作することができるので、表面凸部93のデザインが異なる複数種類の製品を従来より安価に製造するすることができる。
【0034】
[第2実施形態]
本実施形態は、図2に示すように、ワーク90の装飾面90Aに付された文字又は模様を撮影するためのデジタルカメラ20と、そのデジタルカメラ20の撮影画像に基づいてパッド印刷用の版下を作成する本発明の「版下作成手段」としてのコンピュータ30と、作成された版下をパッド印刷用の原版21に印刷するプリンタ22とを備えている点が、上記第1実施形態とは異なる。
【0035】
コンピュータ30は、ワーク90の装飾面90Aに付された文字又は模様と概ね重なる位置にパッド12を介してインク14が転写されるように、版下を作成する。
【0036】
例えば、図3(A)に示すように、コンピュータ30には、版下のベースとなる版下ベースデータD2と、版下ベースデータD2をワーク90の装飾面90Aに反映させた装飾面データD1と、装飾面データD1を版下ベースデータD2に変換するための変換アルゴリズムとが組み込まれている。
【0037】
そして、装飾面データD1に、デジタルカメラ20による装飾面90Aの撮影画像D3を合成すると共に、その合成データにおける装飾面データD1を変換アルゴリズムによって版下ベースデータD2に変換することで、撮影画像D3を装飾面データD1と共に変形して、変形後の撮影画像D3における文字又は模様を、原版21に印刷する版下の出力データとする。
【0038】
より具体的には、例えば、図3(B)に示すように、原版21に印刷した所定のメッシュ模様をパッド12を介してワーク90の装飾面90Aに印刷し、原版21に印刷されたメッシュ模様をデジタルカメラ20で撮影して版下ベースデータD2としてコンピュータ30に取り込んでおくと共に、装飾面90Aに印刷されたメッシュ模様をデジタルカメラ20で撮影して装飾面データD1として取り込んでおく。そして、デジタルカメラ20による撮影画像D3を装飾面データD1に合成して、その合成データのうち、装飾面データD1のメッシュ模様が版下ベースデータD2のメッシュ模様と合致するように変換アルゴリズムによって装飾面データD1を変形させる際に、装飾面データD1に合成された撮影画像D3を同一の変換アルゴリズムによって変形させる。
【0039】
デジタルカメラ20は、ワーク90の装飾面90Aに付された文字又は模様をワーク90毎に毎回撮影し、コンピュータ30は、その撮影画像に基づいて、ワーク90毎に個別に版下を作成する。従って、例えば、加飾シートを水圧転写することでワーク90に文字又は模様を付与した場合のように、文字又は模様がワーク90毎に異なる場合であっても、それら文字又は模様のデザインと一致した版下を作成することができる。
【0040】
ここで、装飾面90Aの撮影は、着色層92Bを形成した直後に行ってもよいし、着色層92Bに重ねて表面保護層92Aを形成した後で行ってもよい。但し、着色層92Bと表面保護層92Aとを何れもスプレー塗装によって形成する場合は、塗装工程の途中で撮影するよりも、塗装工程終了後(表面保護層92Aを形成後)に撮影を行う方が効率的である。
【0041】
プリンタ22は、コンピュータ30によって作成された版下を、所定のインク厚で原版21の印刷面21Aに印刷する。また、印刷面21に所定のインク厚で付着したインク14に対し、直ちに、図示しない紫外線照射装置によって弱い紫外線が短時間照射される。紫外線によってインク14の粘度が上がることで、インク14が印刷面21A上で流動してインク厚が薄くなることを防ぐことができる。その他の構成は、上記第1実施形態と同一である。
【0042】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同等の効果を奏すると共に、装飾面90Aに付された文字又は模様と、表面凸部93のデザインとを一致させることができる。また、文字又は模様と概ね重なった位置に表面凸部93を形成することで、文字又は模様に立体感を与え、見た目と手触りの一体感を一層向上させることが可能になる。
【0043】
[第3実施形態]
図4に示すように、本実施形態のワーク表面装飾システムは、ワークとしてのステアリングホイール100に立体装飾部94を形成するための構成となっている。具体的には、ステアリングホイール100に備えた円環状のリム部101のうち、例えば、上下二箇所の円弧部の全周に、例えば、木目模様の装飾面101Aが形成されており、その装飾面101Aにパッド印刷によって表面凸部93を形成するために、パッド12の形状がリム部101の装飾面101Aに対応した形状になっている。その他の構成は、上記第2実施形態と同一である。
【0044】
パッド12は、図7(A)及び同図(B)に示すように、平板状のベース部120からパッド本体121が隆起した構造をなし、ステアリングホイール100の周方向に沿って円弧状に湾曲している。パッド本体121は、所謂、蒲鉾形状をなしており、インク転写面121Aはパッド本体121の幅方向の両側部から中央部に向かって盛り上がった山形の湾曲面となっている。パッド本体121は、リム部101の表面に押し付けられて弾性変形し、このときインク転写面121Aが、装飾面101Aのうちパッド12と対向した側の半周分の表面に密着可能となっている。従って、リム部101の装飾面101Aの全周に表面凸部93を形成する場合は、ステアリングホイール100の正面側と裏面側とからパッド印刷を行う。
【0045】
次に、ワーク表面装飾方法について説明する。リム部101の装飾面101Aに立体装飾部94を形成する場合には、先ず、一台又は複数台のデジタルカメラ20によって装飾面101Aのうち、ステアリングホイール100の正面側又は裏面側の半周分を撮影する(図6参照)。
【0046】
このとき、ステアリングホイール100をその周方向に回転させながら、固定した複数台のデジタルカメラ20で装飾面101Aを異なる方向から撮影してもよいし(図4参照)、ステアリングホイール100を移動不能に固定しておき、デジタルカメラ20を装飾面101Aに沿って移動させながら装飾面101Aを撮影してもよい。
【0047】
デジタルカメラ20の撮影画像に基づき、上記第2実施形態で説明したようにコンピュータ30にて版下を作成する。この版下は、装飾面101Aのうちステアリングホイール100の正面側又は裏面側の半周分に対応したものである。
【0048】
次に、インク14にて原版21の印刷面21Aに版下を印刷する。また、印刷面21Aに付着したインク14に弱い紫外線を短時間照射してインク14の流動を抑制しておく。
【0049】
次いで、図5に示すように、原版21の印刷面21Aにパッド12を押し付けて原版21に付着したインク14をパッド12のインク転写面121Aに写し取り、そのインク転写面121Aをリム部101の装飾面101Aに押し付ける。すると、装飾面101Aのうちステアリングホイール100の正面側又は裏面側の半周分にインク14が転写される。また、装飾面101Aに転写されたインク14に紫外線を照射してインク14を速やかに固化させる。以上で、装飾面101Aのうち、ステアリングホイール100の正面側又は裏面側の半周分に、木目調の表面凸部93が形成される。
【0050】
装飾面101Aの残りの半周分についても同様に、デジタルカメラ20の撮影画像に基づいて版下を作成し、パッド印刷により装飾面101Aにインク14を転写して木目調の表面凸部93を形成する。これにより、装飾面101Aの全体に木目模様と木目調の表面凸部93とが概ね重なった立体装飾部94が形成される。なお、ステアリングホイール100において立体装飾部94を形成する部分は、リム部101に限定するものではなく、リム部101以外の部分に形成してもよい。本実施形態によっても、上記第2実施形態と同等の効果を奏する。
【0051】
[第4実施形態]
本実施形態のワーク表面装飾システム10は、ワークとしてのスイッチベース200に立体装飾部94を形成するための構成となっており、パッド12の形状が、スイッチベース200の装飾面200Aに対応した形状である点が上記第2実施形態とは異なる。
【0052】
図9に示すように、スイッチベース200は、自動車のインナドアパネルに組み付けられる樹脂部材であって、天板部201と天板部201の一側縁から折れ曲がった側板部202とを備えている。スイッチベース200の外面全体は、木目模様(図示せず)の加飾シートで被覆されて装飾面200Aになっている。この装飾面200Aにパッド印刷によって表面凸部93が形成されて立体装飾部94が形成される。
【0053】
ここで、天板部201には、例えば、パワーウインドウ用のスイッチボタン(図示せず)を収容するための複数の凹部203が形成され、凹部203の開口が装飾面200Aに開放している。仮に、この凹部203の開口を塞ぐこと無く装飾面200Aに対してパッド印刷を行うと、凹部203の開口縁でパッド12が大きく変形してしまい、印刷に歪みが生じ得る。このような事態を回避するために、本実施形態では、凹部203に閉塞部材50を嵌めて凹部203の開口を塞いでからパッド印刷を行う。
【0054】
図10に示すように、パッド12は、平板状のベース部120から船底形のパッド本体121が隆起した構造をなしており、インク転写面121Aが、パッド本体121の短手方向の両側部から中央部に向かって盛り上がった湾曲面で構成されている。そして、パッド本体121は、スイッチベース200に押し付けられて弾性変形し、インク転写面121Aが装飾面200A全体に密着し得るように構成されている。
【0055】
次に、本実施形態のワーク表面装飾方法について説明する。まずは、デジタルカメラ20によってスイッチベース200の装飾面200Aの全体を撮影する(図8参照)。
【0056】
このとき、搬送台に載って移動するスイッチベース200を、固定された複数台のデジタルカメラ20にて撮影してもよいし、スイッチベース200を固定しかつデジタルカメラ20を装飾面200Aに沿って移動させてもよい。
【0057】
次に、デジタルカメラ20の撮影画像に基づいてコンピュータ30にて版下を作成する。即ち、撮影画像D3を装飾面データD1に合成し(図11(A)参照)、次に、その合成データD4aにマスク処理を行ってパッド印刷を行わない部分(閉塞部材50で塞がれた凹部203の部分)を削除し(同図(B)参照)、最後に、マスク処理後の合成データD4bにおける装飾面データD1を変換アルゴリズムによって版下ベースデータD2に変換することで、合成データD4bにおける撮影画像D3を装飾面データD1と共に変形して、原版21に印刷する版下の出力データD5とする(同図(C)参照)。
【0058】
このようにして作成された版下を、図8に示すように、インク14にて原版21の印刷面21Aに印刷する。また、印刷面21Aに付着したインク14に、弱い紫外線を短時間、照射してインク14の流動を抑制しておく。
【0059】
次いで、原版21にパッド12を押し付けて印刷面21Aに付着したインク14をパッド12に写し取り、そのパッド12をスイッチベース200の装飾面200Aに押し付けて、装飾面200Aにインク14を転写する。また、装飾面200Aに転写されたインク14に紫外線を照射してインク14を速やかに固化させる。以上により、装飾面200Aの全体に木目模様と木目調の表面凸部93とが概ね重なった立体装飾部94が形成される。最後に、凹部203に嵌めておいた閉塞部材50を取り除けば、スイッチベース200に対する表面装飾は完了である。本実施形態によっても、上記第2実施形態と同等の効果を奏する。
【0060】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0061】
(1)上記実施形態では、ワーク90の基材91を被覆した着色層92Bに重ねて表面凸部93を形成していたが、基材91の表面に直接、表面凸部93を形成し、基材91の表面が本来有する模様と表面凸部93とを融合させて立体装飾部94を形成してもよい。
【0062】
(2)上記実施形態では、表面保護層92Aの上にインク14をパッド印刷して表面凸部93を形成していたが、着色層92Bの上にインク14をパッド印刷して表面凸部93を形成してもよい。また、表面凸部93に重ねて表面保護層92Aを形成してもよい。
【0063】
(3)上記実施形態では、湾曲面で構成された装飾面に表面凸部93を形成していたが、平坦面で構成された装飾面にパッド印刷によって表面凸部93を形成してもよい。
【0064】
(4)上記実施形態では、無色透明なインク14で表面凸部93を形成していたが、有色透明又は有色不透明なインクで表面凸部93を形成してもよい。
【0065】
(5)上記実施形態では、1回のパッド印刷で表面凸部93を形成していたが、パッド印刷を複数回繰り返して重ね印刷を行うことで、より厚みのある表面凸部93を形成してもよい。
【0066】
(6)上記実施形態では、本発明に係る「ワーク撮影装置」としてデジタルカメラ20を例示したが、このデジタルカメラ20は、撮影画像が静止画であるスチルカメラでもよいし、撮影画像が動画であるビデオカメラでもよい。また、「ワーク撮影装置」としてイメージスキャナを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 ワーク表面装飾システム
11 パッド印刷装置
12 パッド
13 凹版(原版)
14 インク
15 紫外線照射装置
20 デジタルカメラ(ワーク撮影装置)
21 原版
22 プリンタ
30 コンピュータ(版下作成手段)
50 閉塞部材
90 ワーク
90A 装飾面
93 表面凸部
94 立体装飾部
100 ステアリングホイール(ワーク)
101A 装飾面
200 スイッチベース(ワーク)
200A 装飾面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークのうち文字又は模様が付された装飾面にパッド印刷にてインクを盛り付けて固化させることで表面凸部を形成し、その表面凸部と前記文字又は模様とが融合した立体装飾部を形成することを特徴とするワーク表面装飾方法。
【請求項2】
前記ワークの装飾面の文字又は模様を撮影し、その撮影画像に基づいて前記パッド印刷用の版下を作成することを特徴とする請求項1に記載のワーク表面装飾方法。
【請求項3】
前記インクに紫外線硬化剤を含有させておき、
前記ワークの装飾面に前記インクを付着させた状態で紫外線を照射して前記インクを固化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク表面装飾方法。
【請求項4】
前記インクに紫外線硬化剤を含有させておき、
前記パッド印刷用の原版に前記インクを盛り付けた状態で紫外線を照射して、前記インクの粘度を上げることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク表面装飾方法。
【請求項5】
前記ワークの表面に形成された凹部に閉塞部材を嵌めて前記凹部の開口を塞いでから前記パッド印刷を行い、前記パッド印刷後に前記閉塞部材を除去することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載のワーク表面装飾方法。
【請求項6】
ワークのうち文字又は模様が付された装飾面にパッド印刷にてインクを盛り付けて固化させることで表面凸部を形成し、その表面凸部と前記文字又は模様とが融合した立体装飾部を形成するワーク表面装飾システムであって、
前記ワークの装飾面の文字又は模様を撮影するためのワーク撮影装置と、
前記ワーク撮影装置による撮影画像に基づいて前記文字又は模様に対応した版下を作成する版下作成手段と、
前記版下作成手段によって作成した前記版下を前記インクにて原版上に印刷するプリンタと、
前記原版及び前記ワークに押し付けられて前記原版から写し取った前記インクを前記ワークの装飾面に転写するパッドとを備えたことを特徴とするワーク表面装飾システム。
【請求項7】
前記インクは紫外線硬化剤を含有しており、
前記原版上に印刷された前記インクに紫外線を照射して粘度を上げると共に、前記ワークの装飾面にパッド印刷された前記インクに紫外線を照射して前記インクを固化させるための紫外線照射装置を備えたことを特徴とする請求項6に記載のワーク表面装飾システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−156847(P2011−156847A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22859(P2010−22859)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】