説明

一体化された静電エネルギーフィルタを有する荷電粒子源

【課題】 本発明は、一体化されたエネルギーフィルタを備える荷電粒子フィルタに関する。
【解決手段】 使用されている大抵のフィルタは、曲率の大きな光軸を有するので、作製の困難な形状の部品を用いるが、本発明による荷電粒子源は、まっすぐな光軸を取り囲む電極を使用する。驚くべきことに、本願発明者は、電極の一部(114、116、120、122)が120°/60°/120°/60°で構成されているとすると、エネルギー選択スリット108にて相当なエネルギー分散を示す、光軸104からかなり離れた荷電粒子ビーム106aを、補正不可能なコマ収差又は非点収差を導入することなく、偏向させることが十分可能であることを発見した。前記電極は、セラミックスの接着又は真鍮により、互いに取り付けられて良い。かなり同心円のボアの列が、たとえば電界放電によって形成されて良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子装置で用いられる、一体化された静電エネルギーフィルタを有する荷電粒子源に関する。当該荷電粒子源は:
− 軸を中心とする荷電粒子ビームを生成する荷電粒子エミッタ;
− 前記エミッタによって生成されるビームの一部を選択するビーム制限アパーチャであって、前記軸を中心として設けられることで、前記ビームの軸部分を選択する、ビーム制限アパーチャ;
− 前記ビーム制限アパーチャを通過したビームの一部からの所望のエネルギー広がりを有する粒子を選択する、エネルギー選択ダイアフラム内のエネルギー選択ダイアフラム;
− 前記エネルギー選択ダイアフラム上に前記荷電粒子の焦点を生成する電極;及び、
− 前記ビームを偏向させる静電双極場を生成する電極;
を有する。
【背景技術】
【0002】
係る粒子源は、一体化されたオメガフィルタを有する荷電粒子源について記載した特許文献1から既知である。前記荷電粒子源は、ある軸に沿って錐体状に荷電粒子を放出するイオン又は電子エミッタ−たとえばショットキーエミッタ−を有する。ビームを限定するアパーチャは前記ビームの軸部分を選択する。集束電極は、さらに前記軸に沿って前記荷電粒子源からの荷電粒子を結像する。偏向器として機能する第1半球キャパシタは前記軸を曲げて、その後第2半球キャパシタは、前記軸を、本来の方向に対して平行に曲げる。しかしその曲げられた軸は変位している。第3及び第4半球キャパシタは、前記軸を元に戻るように曲げる。それにより前記軸は本来の方向−つまり前記軸が前記第1偏向器に入り込む前の方向−と平行かつ一致する。前記フィルタの軸は、ギリシャ文字Ωに似ている。
【0003】
前記第2偏向器と第3偏向器との間では、前述した集束電極が、前記荷電粒子源の非点収差像を生成する。前記軸が偏向されるので、前記像はエネルギー分散を示す。エネルギー選択アパーチャ又はスリットは前記像平面内に設けられる。所望のエネルギー広がりを有する前記ビームの一部は、前記ビームから選択され、かつ透過する。その一方で、前記所望のエネルギー広がりを超えたエネルギー広がりを有する電子は阻止される。よって、前記電極表面の機械的に対称な軸が前記フィルタの光軸となるのは明らかである。
【0004】
既知の荷電粒子源が、2つの方法のうちのいずれか一の方法で動作することに留意して欲しい。第1の設定では、エネルギーのフィルタリングは、前記半球キャパシタによって、前記軸つまりはビームを曲げて、前記エネルギー選択アパーチャ上に像を生成することによって実現される。第2の設定では、前記の4つの半球キャパシタは励起されず、かつ前記軸は、放出される荷電粒子から、前記第1半球キャパシタと第4半球キャパシタの電極内の小さな穴を介して、前記荷電粒子源の出力までまっすぐに延在する。この第2設定では、エネルギーの選択は起こらない。
【0005】
前記半球キャパシタが軸を外していること、及び、これらの半球キャパシタを構成する機械部品の加工及び位置合わせが複雑であることは、既知の荷電粒子源の欠点である。
【0006】
特許文献1で論じられたフィルタの一般化されたものは、特許文献2で与えられている。ここでは非点収差の除去に必要な光学系として、Ωフィルタだけではなく、αフィルタについても論じられている。特許文献2によると、当業者は、モノクロメータの軸の形状−たとえばΩ又はα−を最初に選ばなければならない。その結果、特許文献について述べた欠点と同様の欠点が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6770878号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/029273
【特許文献3】米国特許第7034315号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G.H. Jansen, 1990, “Coulomb Interactions in ParticleBeams”, Adv. Electron. Electron Phys., Suppl. 21, (1990), Academic Press, NewYork
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記欠点を解決する手段の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のため、本発明による荷電粒子源は、荷電粒子エミッタ、集束電極、及び偏向電極が直進軸を中心として配置されることを特徴とする。
【0011】
本発明は、たとえ荷電粒子ビームが軸から大きく外れているとしても、前記荷電粒子源を適切に設計することで、電極(多重極を含む)が前記直進軸を中心とする設計が可能である、という知見に基づいている。このことは、可能な場合には、モジュール内で、たとえば非点収差及びコマ収差が発生しないように、電極は前記ビームを中心としなければならないという当業者の信念(あるいは偏見)とは対照的である。本発明はさらに、前記電極のすべてを同一の前記直進軸上に設けることによって、前記電極は、高精度の同心円部材を形成するのに適した加工方法で形成することができる、という知見に基づいている。本願発明者は、たとえば電極を作製する金属プレートを最初に(たとえば前記電極に高温でろう付けされたセラミックス又は電極に対して鋳型成型されたエポキシ樹脂によって、互いに分離及び絶縁されて)互いに接した状態で載置することによって機械的部材を接合することが可能であると理解していた。同心円状に加工する方法−たとえば放電加工又は旋盤の使用−の結果、同心円度の高い電極が実現される。よって後続のエミッタ及び(エネルギー選択スリットを有する)ダイアフラムの載置の結果、荷電粒子源は高い同心円度を有し、よってほとんど回転誤差が生じなくなる。当業者には知られているように、回転誤差の小さな製品が、小さな収差を実現するには必要である。前記部材を同心円状の部材として形成することによって回転誤差の小さな荷電粒子源を作製するのは、非同心円状の設計において同程度の位置の誤差を得るよりも容易かつ安価である。
【0012】
前記電極の面に対して平行な位置の誤差(つまりz方向における変位)は大きな誤差とはならず、大抵の場合において、モジュールのわずかに異なる励起によって補償されうる。よってたとえば、前記集束電極のレンズ作用がわずかに異なる程度である。
【0013】
一体化したエネルギーフィルタを有する他の粒子源は特許文献3から既知であることに留意して欲しい。ここで、エミッタ及びレンズは軸上に設けられ、かつ、ビームを制限するアパーチャは、前記粒子源によって放出されるビームの軸から外れた部分を選択する。この軸から外れたビームは、軸からはずれた状態でレンズを照射する。前記レンズは前記ビームの軸から外れた部分の焦点を生成する。前記ビームは同心円状なので、前記の生成された焦点は色収差を示す。その結果、エネルギー分散を有する線の集束が起こる。ここで前記の生成された焦点内にエネルギー選択スリットを設けることによって、選ばれたエネルギーを有する電子のみが前記スリットを透過する。偏向器は、前記軸に沿った電子を偏向させるのに用いられる。
【0014】
この粒子源の欠点は、前記粒子源を飛び出す電子が、各異なるエネルギーで各異なる擬似的なスポットを示すことである。換言すると、この粒子源によって生成される電子は、前記電子のエネルギーに依存した位置から放出されるように見えて、ある種の擬似的な「虹」の発生源が生成される。他の欠点は、前記エミッタが、軸外れ許容角で高輝度となる放出パターンが用いられなければならないことである。この粒子源のさらに他の欠点は、前記スリット上でのエミッタの像がコマ収差を示してしまうことで、その大きさは、前記スリットへ流れる電流の量が制限され、そのために前記スリットを透過する電流も制限されるほどである。エネルギー選択が実現できないため、前記像のサイズは、エネルギー分散よりも大きくてはならないことに留意して欲しい。
【0015】
本発明による粒子源のエネルギー選択アパーチャは、MEMS構造内のスリットとして形成されることが好ましい。前記軸からのビームのずれが小さい−典型的には1〜5nm−ため、エネルギー分散もまた小さく−典型的には1〜5μm−なる。このため、100nmオーダーの幅を有する小さなスリットが必要となる。これは、半導体材料を用いたMEMSプロセスで得られる最良値である。前記粒子源のエネルギー分散は、前記電極の励起、物理的形状、及び位置に依存し、かつ、他の透過エネルギー広がり、射出エネルギー等が利用されても良い。
【0016】
光学について論じるため、前記電極の効果は、2つの部分に分けることで最良に論じられる。第1の部分は、エミッタとダイアフラムとの間に電極を有するスリット通過前の光学系である。第2の部分は、前記ダイアフラムの他の面上に電極を有するスリット通過後の光学系である。双極場及び(弱い)四重極場を発生させる四重極として、1つ以上のスリット通過前の電極を形成することによって、前記ダイアフラム上でのエミッタの像の非点収差及び/又はコマ収差を打ち消すことが可能で、必要なときには、X方向及びY方向における(絶対的な)拡大を同一にすることで、前記スリットの面上のエミッタの像が環状の像とすることが可能である。前記スリット通過前の光学系と同様に、(スリット通過後の電極によって形成される)スリット通過前の光学系も、前記スリット上の像から前記粒子源モジュールを飛び出すビームまで|Mx|=|My|の条件を満たすだけではなく、残るコマ収差及び非点収差をも完全に打ち消すことで、コマ収差及び非点収差を発生させることなく、前記粒子源モジュールから飛び出すビームが、環状の疑似スポットから放出される。
【0017】
前記ビームを前記軸に戻すように偏向させることによって、エネルギー分散を打ち消すことが可能である。その結果、前記粒子源を飛び出すビームは、特許文献3に記載された粒子源とは対照的に、全てのエネルギーについて、同一の擬似的位置を示す。
【0018】
本発明による荷電粒子源の他の実施例では、前記ダイアフラムは少なくとも2つのエネルギー選択アパーチャを有する。前記エネルギー選択アパーチャは、異なる寸法及び/又は前記軸からの位置を有する。
【0019】
各異なる位置に各異なるアパーチャを有するダイアフラムを備えることによって、エネルギー分散及び/又はスリット幅は、前記少なくとも2つのアパーチャで異なって良い。よって少なくとも2つの異なるエネルギー幅、つまりは異なる透過ビームの電流が可能となる。
【0020】
本発明による荷電粒子源の好適実施例では、前記エネルギー選択ダイアフラムは少なくとも2つのエネルギー選択アパーチャを有する。一のアパーチャは、エネルギーフィルタを通過しない中心ビームが通過する軸に設けられる。
【0021】
前記偏向器の電極が駆動するとき、前記粒子源は単色化した粒子源であって、低エネルギー広がりを有するだけでなく、荷電粒子の一部が前記エネルギー選択ダイアフラムによって止められることで、低電流となる荷電粒子ビームを生成する。中心穴−好適には前記ダイアフラム上のエミッタの像の直径よりも大きな直径を有する−を供することによって、前記偏向電極が駆動しないときには、前記粒子源によって大電流を発生させることが可能である。あるいはその代わりに、前記アパーチャは、前記ビーム電流を所望の値に制限する、ビームを制限するアパーチャとして用いられる。その場合、クロスオーバーは前記アパーチャ内には設けられない。
【0022】
本発明による荷電粒子源のさらに他の実施例では、前記粒子エミッタは、熱イオン源、熱電界エミッタ、冷電界エミッタ、ショットキーエミッタ、カーボンナノチューブ、及び半導体材料からなる群の電子源、又は、液体金属イオン源、気体イオン源、及び液体ヘリウム源からなる群のイオン源である。
【0023】
本発明による荷電粒子源のさらに他の実施例では、使用中、前記エネルギー選択ダイアフラム上に生成された像のコマ収差は、前記エミッタの幾何学的な像のサイズよりも小さな直径を有する。
【0024】
前記エネルギー選択ダイアフラム上に生成された像のコマ収差が、前記エミッタの幾何学的な像のサイズよりも小さくなるように、前記粒子源を設計及び操作することによって、前記アパーチャ下方でのエネルギー広がりは、前記コマ収差によって影響され(劣化し)ない。
【0025】
本発明による荷電粒子源のさらに他の実施例では、前記エミッタとエネルギー選択ダイアフラムとの間でのクロスオーバーを生成するため、追加の電極が存在する。
【0026】
さらに他のレンズ電極を追加することによって、前記エネルギー選択ダイアフラム上でのエミッタの拡大又は縮小が可能である。これにより、幾何学的な像とエネルギー分散との間のトレードオフが可能となる。当業者は、大きな直径を有するエミッタ−たとえばLaB6源−が好適には縮小されることで、像のサイズとエネルギー分散との比がより好ましくなることを理解する。他方、冷電界エミッタは好適には拡大されることで、前記ダイアフラムでの幾何学的エミッタ像が大きくなり、かつ前記直径と(軸から外れた)収差との比がより好ましくなる(前記収差を前記幾何学的スポットサイズよりも小さくするのが容易になる)。また前記冷電界エミッタの開口角の縮小は有利となる。なぜならとりわけ、このことにより、収差が小さくなるからである。
【0027】
当該荷電粒子源は、走査型電子顕微鏡鏡筒及び/又は透過型電子顕微鏡鏡筒及び/又は集束イオンビーム鏡筒を備えた装置で用いられて良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による粒子源の第1実施例を概略的に図示している。
【図2】前記粒子源によって生成されるエネルギー分布を概略的に図示している。
【図3】120°/60°/120°/60°に区分けされた電極を概略的に図示している。
【図4】A及びBは、本発明による粒子源の第3実施例を概略的に図示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明について、図面に基づいてさらに説明する。図中、同一参照番号は対応する構成要素を表す。
【0030】
図1は、本発明による粒子源の第1実施例を図示している。図1は、荷電粒子エミッタ102−本実施例ではショットキーエミッタ−を有する粒子源100を図示している。引き出し電極112によって生成される引き出し電場のため、エミッタ102は、軸104を中心として荷電粒子ビーム106を放出する。引き出し電極112はまた、エミッタ102によって放出される電流の一部のみを透過させるビーム制限アパーチャとしても機能する。ビームがX方向において偏向されることで、前記ビームのx-z平面上での投影106a及び前記ビームのy-z平面上での投影106bが図示される。電極112、114、及び116の間で生成される軸集束電場の結果、ビームは、エネルギー選択ダイアフラム上に集束する。これらの電極は、単電位レンズを構成しない。還元すると、電子が電極116を離れるときのエネルギーは、電子が電極112へ入り込むときのエネルギーとは同一ではないことに留意して欲しい。ビームは、電極116によって生成される偏向場によって軸から偏向され、かつエネルギー選択アパーチャ−好適にはスリット108の形態をとる−へ向かうように案内される。前記スリットは、位置(x,y,z)上で軸から外れた状態で設けられる。本実施例においては、x=1.67mm、y=0mm、及びz=4.8mmだが、他の位置が用いられても良い。図示された実施例では、約4倍の倍率のエミッタ102の二重焦点(つまり環状の像)がスリット上に形成される。ただし他の倍率が用いられても良い。
【0031】
アパーチャを通過した後、ビームは、電極120によって生成された偏向場によって軸へ戻るように偏向される。電極122は、軸104上のビームを偏向させる。その結果、そのビームは、その軸に対して平行に荷電粒子源を飛び出す。わずかな集束が、電極120、122、及び124の間で生じる電場によって起こる。その結果、擬似的なクロスオーバーは、ダイアフラム110の位置とは同一でなくなる。光学的誤差は最良には2つの群に分割される。エネルギー選択ダイアフラム上に生成される像の誤差に関与するスリット通過前の誤差と、ダイアフラムから粒子源の終端までの擬似的像内での誤差に関与するスリット通過後の誤差である。これらは、好適には良好な(擬似的)像を保持して、エネルギー分散を打ち消す。
【0032】
スリット通過前のコマ収差を排除するため、双極場及び四重極場が、電極114、116、118、及び122によって生成される。双極場はコマ収差を排除するのに用いられ、かつ、四重極場は、ビームの偏向の結果生じる非点収差を補正することを主な目的とする。このようなMx=Myの設計の幾何学的特性に起因して、スリット通過前の四重極場は、表1に示されているように(電極116)、1つしか必要としない。
【0033】
エネルギーのフィルタリングを行うことなく高ビーム電流の利用を可能にするため、(軸104上−つまり位置を(x,y,z)で表すとx=y=0でz=4.8mm−の)中心開口部126が利用可能である。その場合、ビームは偏向されず、コマ収差と偏向非点収差の補正も必要なくなる。この開口部の直径は、エネルギー選択アパーチャの直径よりも大きくて良い。よってダイアフラムに衝突する全電流が通過する。
【0034】
区分けされた電極上の電圧は通常、多重極の多重励起を生じさせる。干渉縞の場を無視する(つまり無限長を有する多重極を仮定する)と、軸での軸ポテンシャルΦは、r(軸からの距離)とφ(角度配向)の関数として以下のように書くことができる。
【0035】
【数1】

ここで、2kは多重極の数で、Rは電極のボア半径で、Φk(ハット)は多重極の励起である(多重極のフーリエ電圧とも呼ばれる)。k=1は二重極に対応し、k=2は四重極に対応し、かつk=3は六重極に対応し、k=4は八重極といったように対応することに留意して欲しい。
【0036】
フーリエ電圧Φk(ハット)は、Φ(R,φ)が(区分けされた)電極の電圧分布と等しいという境界条件によって決定される。
【0037】
120°/60°/120°/60°に区分けされた多重極の特別な場合では、電圧π/(2√3)Vを120°の区分のうちの一の区分へ(角度配向φで)印加し、かつ電圧-π/(2√3)Vを前記一の区分に対向する区分へ(角度配向φ+πで)印加することによって、四重極又は六重極を励起することなく、1Vの多重励起(フーリエ電圧)を有する双極場は生成される。1Vの多重励起(フーリエ電圧)を有する双極場は、2つの60°区分とアースとを接続する。
【0038】
120°/60°/120°/60°の対称性故に、六重極場(k=3)は励起されない。とはいえ高次(奇数次の)多重極(k=5…∞)は励起される。当業者には知られているように、励起は高次の多重極数では小さくなり、かつそれらの効果は無視できる。同様に、電圧π/(6√3)Vを2つの120°の区分へ印加し、かつ電圧-π/(3√3)Vを60°の区分へ印加することによって、1Vの多重励起(フーリエ電圧)を有する双極場(k=2)は励起される。
【0039】
一定電圧が、多重極励起を変化させることなく全ての区分に加えられて良いことに留意して欲しい。このことは、軸に沿って進行する荷電粒子ビームへの一定電圧の印加、又は、隣接する電極間に電場を発生させることで環状のレンズを励起する軸に沿った電場を発生させるのに必要になると考えられる。
【0040】
環状レンズでは、電極の全区分の励起は同一である。その結果、電極面内での半径方向の電場は発生しないが、別なz位置で異なる電極間での電位差は、電極間に電場を導入することで、レンズ作用を引き起こす。軸に沿った1つ以上の電場に依拠した静電レンズの作用は当業者には既知である。
【0041】
表1は、本発明の第1実施例の各異なる電極上で用いられる(フーリエ電圧とも呼ばれる)励起の概略を与えている。
【0042】
【表1】

コマ収差は、エネルギー選択アパーチャ上のショットキーエミッタの像のサイズに対して無視できるので、電極とショットキーエミッタとを完全に位置合わせするのに、電極114上での双極励起は必要ないことに留意して欲しい。しかし通常、この位置での双極場は、軸に対する電極及び/又はエミッタのわずかな位置合わせのずれの効果に対抗するため、好適である。
【0043】
表1で与えられる励起の結果、スリットでのエネルギー分散は1.8μm/Vとなり、かつ4倍のエミッタ倍率となる。約30nm(ショットキーエミッタの典型的な値)のエミッタサイズでは、到達可能なエネルギー幅は約0.08eVである。
【0044】
この実施例では、エミッタは、ショットキーエミッタで通常用いられている約4600Vのポテンシャルで動作し、かつ、粒子源を飛び出す電子の最終的なエネルギーは1keVであることに留意して欲しい。ただし他のポテンシャル及びエネルギーが用いられても良い。
【0045】
ショットキーエミッタでは、非特許文献1で確かめられているように、引き出し電極(電極112)を透過する電流が約30nA未満のとき、この実施例の電子−電子相互作用(クーロン相互作用及び軌道の変位)は無視できることに留意して欲しい。
【0046】
この構成では、エネルギー選択アパーチャでの像は、スリット通過前の光学系により環状の像となることに留意して欲しい。電極112、114、及び116の環状レンズ励起は、スリット上でのエミッタの結像に用いられ、電極116の四重極作用の結果、x-z平面での倍率はy-z平面での倍率と同一になり、かつ、集束は、電極114と116によって引き起こされる複合的な偏向の結果、コマ収差の存在しない集束となる。
【0047】
この配置とこれらの励起の結果、粒子源はdx/dU=0となり、かつ、擬似的な粒子源の位置はエネルギーに依存しないことにさらに留意して欲しい。dx’/dU≠0の結果、エネルギー依存する許容開口角となることに留意して欲しい。しかしこのことは大抵の場合、如何なる帰結をも生じない。
【0048】
本発明による荷電粒子の第2実施例では、電極の機械的な配置は、第1実施例の電極の配置と同一である。しかしスリット通過後の電極の励起は異なる。スリット通過後の光学系(電極120、122、及び124)を調節することによって、擬似的クロスオーバーのコマ収差dx/dUとdx’/dUのいずれもゼロにすることができる。よって擬似的粒子源の位置がエネルギーに独立である(dx/dU=0)だけではなく、エミッタからの許容開口角もエネルギーに独立である(dx’/dU=0)。
【0049】
表2は、本発明の第2実施例の各異なる電極上で用いられる(フーリエ電圧とも呼ばれる)励起の概略を与えている。
【0050】
【表2】

スリット通過前の光学系は第1実施例と同一であるので、ショットキーエミッタについては、引き出し電極(電極112)が透過させる電流が約30nA未満のとき、この実施例のクーロン相互作用は無視できることに留意して欲しい。
【0051】
図3は、120°/60°/120°/60°に区分された電極を図示している。
【0052】
電極は、4つの区分301…340を有する。中心ボア305が軸104を中心として配置されている。第1区分301は、φ=0で配置された120°の電極である。残り2つの区分である302と304はそれぞれ、φ=π/2とφ=-π/2(又はφ=3π/2)で設けられている。ボア305の端部306では、電極に電圧が印加されることで、半径Rでの式[1]の境界条件となる。
【0053】
120°/60°/120°/60°に区分された電極とは異なる対称性を有する電極が、四重極を励起するのに用いられて良いことに留意して欲しい。しかし他の対称性であれば、より多くの区分が必要となる(ので電極の励起はより複雑になる)。あるいは同時に六重極の励起は、誤差を導入する恐れがある。
【0054】
この構成では、四重極又は六重極を励起することなく双極励起が可能であることにさらに留意して欲しい。
【0055】
図4A及び図4Bは、本発明による粒子源の第3実施例を概略的に図示している。図4Aは、電極の配置を概略的に図示している。図4Bは粒子線を概略的に図示している。
【0056】
図4Aは、荷電粒子エミッタ102を有する粒子源100を図示している。引き出し電極112は、エミッタ102から電子を引き出す。電極402は、電子ビームを軸から偏向させる。他方電極404は、前記電子ビームを、前記軸の方向に戻るように偏向させる。ドリフト電極406は、電極404及び402と共に、レンズとして機能する。他方電極の「内部」はドリフト空間として機能する。焦点は、エネルギー選択ダイアフラム110の位置に生成される。電極408は、前記軸と平行になるように前記ビームを曲げる。それにより前記粒子源を飛び出すビームは、前記エミッタにより放出されたビームと、平行になり、かつ位置合わせされる。電極408の後、他のドリフト電極410が設けられる。前記他のドリフト電極410は、全電極上でドリフト電極406と同一の電圧を有するので、2つのドリフト電極は、より複雑な形態を有する1つのドリフト電極と考えることができる。
【0057】
表3は、本発明の第3実施例の各異なる電極に用いられる励起の概略を与えている。
【0058】
【表3】

図4Bは、第3実施例の粒子源のx-z平面(420)及びy-z平面(422)での粒子線を図示している。
【0059】
第1及び第2実施例とこの実施例とを比較しての利点は、構成が単純である(電極が少なくなり、制御電圧も小さくなる)ことと、電圧が低くなる結果、電子機器が安価になり、かつ放電の危険性が少なくなることである。第3実施例では、スリット通過前のコマ収差が補正されていることに留意して欲しい。
【0060】
第1及び第2実施例とこの実施例とを比較しての欠点は、スリット後の分散が防止されない(dx/dU≠0)ことと、そのために粒子源から見た擬似的な粒子源の位置がエネルギーに依存するので、図示されたような虹が現れることである。
【0061】
表3に図示された励起では、エネルギー選択ダイアフラムで生成された像は、-2.65倍の倍率を有する。エネルギー分散は1.54μm/Vで、よって粒子源サイズとエネルギー分散との比は、第1及び第2実施例で示された比よりも良好である。
【0062】
他の実施例でのように、G.H.Jansenの式に従うと、エネルギー選択ダイアフラムに流れる電流が30nA未満であれば、ベルシュ効果及び軌道の変位は(無視できる程度にしか)起こらない。
【0063】
3つすべての実施例について、双極場が存在しないときには、エネルギー選択ダイアフラム内の中心穴が照射されることに留意して欲しい。明らかに、ビームを操作するのに四重極場は必要ない。このようにして、中心穴は、エネルギーのフィルタリングを行うことなく、大ビーム電流を得るのに用いることができる。軸に対してエミッタの位置がずれると、たとえば引き出し電極のすぐ後の電極(114,402)によって生じる補償双極場を必要とすると考えられる。
【0064】
当業者は、本発明が多くの実施例に適用できることを理解している。各実施例は、像拡大の異方性、コマ収差補正、様々なエネルギーでの疑似粒子源の位置の補正(dx/dU=0)、エミッタの倍率の選択、粒子源を飛び出すビームの選択、エネルギー幅の選択、ビーム電流の選択、クーロン相互作用等について利点も欠点も有している。
【符号の説明】
【0065】
100 粒子源
102 荷電粒子エミッタ
104 軸
106 粒子線の軌道の投影
106a x-z平面での粒子線の軌道の投影
106b y-z平面での粒子線の軌道の投影
108 スリット
110 エネルギー選択ダイアフラム
112 引き出し電極
114 電極
116 電極
118 電極
120 電極
122 電極
124 電極
126 中心開口部
301 区分けされた電極
302 区分けされた電極
303 区分けされた電極
304 区分けされた電極
305 中心ボア
306 中心ボアの端部
402 電極
404 電極
406 ドリフト電極
408 電極
410 ドリフト電極
420 x-z平面での軌道
422 y-z平面での軌道


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子装置で用いられる、一体化された静電エネルギーフィルタを有する荷電粒子源であって、
当該荷電粒子源は:
軸を中心とする荷電粒子ビームを生成する荷電粒子エミッタ;
前記エミッタによって生成されるビームの一部を選択するビーム制限アパーチャであって、前記軸を中心として設けられることで、前記ビームの軸部分を選択する、ビーム制限アパーチャ;
前記ビーム制限アパーチャを通過したビームの一部からの所望のエネルギー広がりを有する粒子を選択する、エネルギー選択ダイアフラム内のエネルギー選択ダイアフラム;
前記エネルギー選択ダイアフラム上に前記荷電粒子の焦点を生成する電極;及び、
前記ビームを偏向させる静電双極場を生成する電極;
を有し、
前記荷電粒子エミッタ及び電極は、直進軸を中心として配置されることを特徴とする、
荷電粒子源。
【請求項2】
前記電極のうちの少なくとも一部は、前記粒子源を飛び出すビームの非点収差を補正するため、弱い四重極場を生成するように備えられる、
請求項1に記載の荷電粒子源。
【請求項3】
作動中の前記電極は、前記粒子源を飛び出すビームがエネルギー分散を示さないように励起される、請求項1又は2に記載の荷電粒子源。
【請求項4】
少なくとも2つのエネルギー選択アパーチャを有する請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源であって、
各異なるエネルギー幅及び/又は各異なるビーム電流を有する荷電粒子を通過させる前記2つのエネルギー選択アパーチャは、異なる寸法及び/又は前記軸からの距離を有する、
荷電粒子源。
【請求項5】
前記エネルギー選択アパーチャのうちの一が、エネルギーのフィルタリングを行うことなく荷電粒子ビームを通過させるため、前記軸に設けられている、請求項4に記載の荷電粒子源。
【請求項6】
前記粒子エミッタは、熱イオン源、熱電界エミッタ、冷電界エミッタ、ショットキーエミッタ、カーボンナノチューブ、及び半導体材料からなる群の電子源、又は、液体金属イオン源、気体イオン源、及び液体ヘリウム源からなる群のイオン源である、請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源。
【請求項7】
前記電極のうちの少なくとも一が、120°/60°/120°/60°に区分けされた電極である、請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源。
【請求項8】
使用中、前記エネルギー選択ダイアフラム上に生成される像のコマ収差は、前記エミッタの幾何学的な像のサイズよりも小さな直径を有する、請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源。
【請求項9】
追加の電極が、前記エミッタと前記エネルギー選択ダイアフラムとの間でのクロスオーバーを形成するために存在する、請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源。
【請求項10】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の荷電粒子源を備えた荷電粒子装置。
【請求項11】
走査型電子顕微鏡(SEM)鏡筒及び/又は透過型電子顕微鏡(TEM)鏡筒及び/又は集束イオンビーム(FIB)鏡筒が備えられている、請求項10に記載の荷電粒子装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−104483(P2012−104483A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244456(P2011−244456)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】