一体的排出溝を備える側流装置プリントヘッド
本発明は、側流装置ノズルプレート(42)と、このプレートの少なくとも一つのインクノズルと、ノズルプレートと一体的で排出溝(32)を含む一体的上部構造(46,48,52,54)とを有するインクジェットプリントヘッドを提供する。このインクジェットプリントヘッドを使用する方法も、開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ねインクジェット印刷装置の分野、詳しくは、多数のノズルを単一の基板に一体化し、電気機械的手段により印刷用の液滴が選択される液体インクプリントヘッドに関連する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、その非衝撃式および低騒音という特徴やシステム単純性などのため、デジタル制御による電子印刷分野で優位に立つものと認識されている。これらの理由から、インクジェットプリンタは、家庭およびオフィスでの使用や他の分野において商業的な成功を収めている。インクジェット印刷機構は、連続式(CIJ)またはドロップ・オン・デマンド式(DOD)に分類される。1970年にKyser et al.に発行された下記特許文献1には、必要に応じて圧電結晶に高電圧を印加し、結晶を屈曲させ、インク容器に圧力を印加し、液滴を噴射するDODインクジェットプリンタが開示されている。圧電DODプリンタでは、家庭およびオフィス用プリンタについて720dpiより高いイメージ解像度で商業的な成功を収めている。しかし、圧電印刷機構は通常、複雑な高電圧駆動回路構成および比較的大きい圧電結晶アレイを必要とし、プリントヘッドの長さばかりでなく、プリントヘッドの単位長さあたりのノズルの数に関して、これは不都合である。一般的に、圧電プリントヘッドは多くても数百本のノズルを含む。
【0003】
1979年にEndo et al.に発行された下記特許文献2においては、ノズルの水性インクと熱接触状態にあるヒータへ電力パルスを印加する電熱的ドロップ・オン・デマンド式インクジェットプリンタが開示されている。少量のインクが急速に蒸発して気泡を形成し、こうしてヒータ基板のエッジに沿った小孔からインクの滴を排出させる。この技術は、サーマルインクジェットまたはバブルジェット(登録商標)として知られている。
【0004】
サーマルインクジェット印刷においては、一般的に、気泡の急速な形成を引き起こす400℃近くの温度までインクを加熱するのに充分なエネルギー衝撃をヒータが発生させる必要がある。この装置で要求される高い温度は、特殊なインクの使用を必要とし、ドライバ電子機器を複雑にし、空洞化および焦げつきによりヒータ要素の劣化を促進する。焦げつきとは、破片となってヒータを被覆するインク燃焼副産物が蓄積したものである。このような被覆破片はヒータの熱効率を妨げて、プリントヘッドの動作寿命を短くする。また、各ヒータの高い能動的電力消費は、低コストで高速のページ幅プリントヘッドの製造の妨げとなる。
【0005】
連続インクジェット印刷そのものは、少なくとも1929年まで遡る。この技術は、1929年にHansellに発行された下記特許文献3に開示されている。
【0006】
1968年3月にSweet et al.に発行された下記特許文献4には、印刷されるインク滴が選択的に帯電して記録媒体へ偏向される連続インクジェットノズルのアレイが開示されている。この技術は、複偏向連続インクジェット印刷として知られ、ElmjetおよびScitexを含む数社のメーカーで使用されている。
【0007】
1968年12月にHertz et al.に発行された下記特許文献5には、連続インクジェット印刷において印刷箇所の光学密度を可変にする方法が開示されている。帯電した滴ストリームの静電気分散は、小孔を通過する小滴の数を調整するのに役立つ。この技術は、Iris製のインクジェットプリンタで使用されている。
【0008】
1982年8月24日にCarl H.Hertzの名で発行された下記特許文献6には、「小滴への電荷を制御するための方法および装置およびこれを取り入れたインクジェット記録装置」という名称の発明が開示されている。この文献においては、小滴への静電電荷を制御するためのCIJシステムが開示されている。電界を持つ静電帯電トンネルに配置される滴形成点で加圧液体ストリームを中断させることにより、小滴が形成される。小滴の形成は、所望される所定の電荷がどのようなものであれ、これに対応する電界中の点で実施される。実際に液滴を偏向させるには、帯電トンネルに加えて偏向プレートが使用される。特許文献6のシステムでは、生成された小滴を帯電させ、これを、次に排出溝または印刷媒体へ偏向させる必要がある。帯電・偏向機構は、その構造が比較的大きく、プリントヘッドあたりのノズルの数を著しく制限する。
【0009】
上述したような従来の連続インクジェット技術は、ストリーム内で滴が形成される点の近くに設けられた、一形状または別の形状の静電帯電トンネルを利用する。トンネル内では、個々の滴が選択的に帯電する。選択された滴は帯電し、大きな電位差を間に持つ偏向プレートが存在することで、下流へ偏向される。インクストリームは、「非印刷」モードと「印刷」モードとの間で偏向されるので、帯電滴を傍受して非印刷モードを確立するのに通常は排出溝(「捕捉部」と呼ばれることもある)が使用されるのに対して、印刷モードでは未帯電の滴が記録媒体に自由に衝突する。
【0010】
最近、上述した静電帯電トンネルを不要にする新規の連続インクジェットプリンタシステムが開発された。これは、さらに、(1)小滴形成と(2)小滴偏向の機能をより良い形で結合するものである。このシステムは譲受人を同じくするJames Chwalek、Dave Jeanmaire、Constantine Anagnostopoulosの名で出願された「非対称的加熱滴偏向による連続インクジェットプリンタ」という名称の下記特許文献7に開示され、その内容は参考としてここに取り入れられている。この特許文献には、連続インクジェットプリンタにおいてインクを制御するための装置が開示されている。この装置は、インク送出流路と、インク送出流路との連通状態にある加圧インク供給源と、インク送出流路に開口するボアを含み連続インクストリームがそこから流出するノズルとを有する。ヒータによって弱い熱パルスをストリームに周期的に印加すると、ノズルから離間した位置で、印加された熱パルスと同時にインクストリームが複数の小滴に細分される。小滴は、(ノズルボア内の)ヒータからの増加熱パルスにより偏向されるが、このヒータは選択的操作区分、つまりノズルボアの一部分のみと関連する区分を有する。特定ヒータ区分の選択的操作とは、ストリームへの非対称的な熱印加と呼ばれていたものに相当する。ここでは区分を交互に使用すると、この非対称的な熱が供給される方向が交互することで、(記録媒体へ向かう)「印刷」方向と(「捕捉部」に戻る)「非印刷」方向との間においてインク滴の偏向などを行う。下記特許文献7には、プリントヘッドあたりのノズルの数、プリントヘッドの長さ、電力使用量、有効インクの特性に関連する先行技術の問題を克服するための重大な改良が行われた液体印刷システムが提供されている。
【0011】
熱が非対称的に印加された結果、ジェットの偏向が生じ、その規模は、ノズルの幾何学的および熱的な性質、印加される熱の量、印加される圧力、インクの物理的、化学的、熱的性質などいくつかの要因に左右される。溶剤ベース(特にアルコールベース)のインクはかなり良好な偏向パターンを持ち、非対称な加熱が行われる連続インクジェットプリンタでは高いイメージ品質を達成するが、水性インクには問題が多い。水性インクはあまり偏向せず、そのためその動作はロバストでない。非対称的に加熱される連続的インクジェット印刷システムでのインク小滴偏向の規模を向上させるため、譲受人を同じくするDelametter et al.の名で1999年12月22日に出願された米国特許出願第09/470,638号には、側流特徴を強化することにより、またインク送出流路での幾何学的障害物によりインク滴の偏向を向上させた、特に水性インクのための連続インクジェットプリンタが開示されている。
【0012】
後に説明する発明は、低コストの製造、および好ましくはページ幅を持つプリントヘッドに適した連続インクジェットプリントヘッドの構成に関する下記特許文献7および下記特許文献8の成果に基づいている。
【0013】
後に説明する発明は、ページ幅プリントヘッドであるとは見なされないインクジェットプリントヘッドに使用されてもよいが、例えばコスト、サイズ、速度、品質、信頼性、小型のノズルオリフィスサイズ、小さな小滴サイズ、低い電力使用量、動作構造の単純性、耐久性、製造可能性について長所を提供する改良型インクジェット印刷システムの必要性は、依然として広く認識されている。これに関して、ページ幅で高解像度のインクジェットプリントヘッドの製造可能性については、特に、長期にわたって必要性が存在する。ここで、「ページ幅」の語は、約4インチの最短長のプリントヘッドを指す。高解像度とは、各インク色について、最低で1インチあたり約300ノズルから最高で1インチあたり約2400ノズルまでのノズル密度を意味する。
【0014】
印刷速度の上昇に関してページ幅プリントヘッドを充分に利用するには、多数のノズルが含まれなければならない。例えば、従来の走査型プリントヘッドは、インク色あたり数百のノズルを有するに過ぎない。写真の印刷に適した4インチページ幅のプリントヘッドは、数千のノズルを有するべきである。機械的にページ上で左右に移動させる必要があるため走査型プリントヘッドは減速するが、ページ幅プリントヘッドは静止したままで用紙が移動する。理論的には1回の通過でイメージが印刷され、ゆえに印刷速度をかなり上昇させる。
【0015】
ページ幅・高生産性インクジェットプリントヘッドを実現する際には、二つの主な問題が存在する。第一は、ノズルが、中心間の間隔で10から80マイクロメートル程度に互いに近接していなければならないことである。第二は、外部回路への数千の接合部または他のタイプの接続部を設けようとすることは現在では非実用的なので、ヒータおよび各ノズルを制御する電子機器へ電力を提供するドライバが各ノズルに一体化されなければならないことである。
【0016】
これらの難題を解決する方法の一つは、VLSI技術を利用してシリコンウェハにプリントヘッドを構築することと、ノズルを備える同じシリコン基板にCMOS回路を一体化することである。
【0017】
Silverbrookの特許文献8で提案されているようなカスタムプロセスが、プリントヘッドを製作するために開発されているが、コストおよび製造性の観点から見て、従来のVLSI設備にほぼ規格通りのCMOSプロセスを使用する回路を最初に製作することが好ましい。次に、ノズルおよびインク流路の製作のため、別のMEMS(マイクロ電子機械システム)設備にウェハを後処理で取り付ける。
【0018】
下記特許文献9においては、複数のノズルを有する連続インクジェットプリントヘッドが開示されている。このプリントヘッドは、プリントヘッドの動作を制御するために形成された集積回路を含むシリコン基板であって、インク流路が形成されたシリコン基板と、シリコン基板を被覆する単数または複数の絶縁層であって、ボアが形成されるとともにインク流路と連通する単数または複数の絶縁層とを有する。シリコン基板は、シリコン、二酸化ケイ素、他の材料、またはフィルム層の組合せで形成されるインク流路とボアとの間のブロック構造と、インク流路とボアとの間に設けられて、インク流路からのインクにブロック構造の周囲を流通させるとともにボアからオフセットした箇所でアクセス開口部へ流入させて、ボアへ流入する液体インクに側流成分を付与するアクセス開口部とを各ノズルに含む。
【0019】
また、下記特許文献9には、プリントヘッドの動作を制御するために形成された一連の集積回路を有するシリコン基板に形成された流路に加圧状態の液体インクを提供することと、シリコン基板を被覆する単数または複数の絶縁層に形成されたボアにインクを流入させることと、インク小滴の方向を制御するため、ヒータ要素の周囲を流れるインクを非対称的に加熱することと、ボアの直下でシリコン基板に形成されたブロック構造の周囲にインク流を設けることにより確立されるインクジェットまたはストリームに側流成分を付与することとを有する、連続インクジェットプリントヘッドの作動方法も開示されている。
【0020】
さらに、下記特許文献9には、プリントヘッドの動作を制御するための集積回路を有するシリコン基板を設けて、シリコン基板に単数または複数の絶縁層が形成され、シリコン基板に形成された回路に電気的に接続された電気導体が単数または複数の絶縁層に形成されることと、単数または複数の絶縁層にボアを形成することと、ボアと連通するためのインク流路をシリコン基板に形成することと、シリコン基板に形成されたインク流路から単数または複数の絶縁層に形成されたボアまでのインクの側流を制御するためのシリコン基板のブロック構造を形成することとを有する、連続インクジェットプリントヘッドの形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第3,946,398号明細書
【特許文献2】英国特許第2,007,162号明細書
【特許文献3】米国特許第1,941,001号明細書
【特許文献4】米国特許第3,373,437号明細書
【特許文献5】米国特許第3,416,153号明細書
【特許文献6】米国特許第4,346,387号明細書
【特許文献7】米国特許第6,079,821号明細書
【特許文献8】米国特許第5,880,759号明細書
【特許文献9】米国特許第6,439,703号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
小型であり、再循環インクが大気と接触するのを防止し、より高いイメージ品質および高い印刷速度を提供する連続インクジェット印刷のための改良型側流プリントヘッドの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、側流ノズルプレートと、このプレートの少なくとも一つのインクノズルと、排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッドに関連する。インクジェットプリントヘッドを使用する方法も開示される。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、連続インクジェット技術において先行のプリントヘッドを超えるいくつかの長所を有する。一体的排出溝上部構造を備える側流装置プリンタの利用により、インクジェットヘッドの下を移動する用紙にインクジェットのノズルが近接するので、印刷品質が改良された構造が得られる。プリントヘッドへ流入する唯一の空気は充分に制御された共線空気なので、また滴はほとんどが包囲構造内で移動するので、印刷滴は未制御の空気流に当たらず、ゆえに滴配置の精度が上昇する結果となる。また、インクジェットノズルから用紙への出口が近接しているため、用紙に達するまでの滴の偏向が少なくなることで、より良質なイメージが得られる。以上および他の長所は、以下の説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好適な実施形態によるプリントヘッドの概略断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態によるプリントヘッドの概略断面図である。
【図3A】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3B】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3C】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3D】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3E】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3F】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3G】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3H】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3I】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
側流ノズル構成は周知であり、参考として取り入れられている米国特許第6,382,782号(Anagnostopoulos et al.)を含むいくつかの特許に示されている。側流インクジェットが示されている他の特許は、米国特許第6,497,510号(Delametter et al.)および米国特許第6,439,703号(Anagnostopoulos et al.)である。側流インクジェットでは、ノズルプレートの差分加熱に応じて印刷および非印刷滴のストリームが分離される。側流分離ノズルにおける印刷滴と非印刷滴との間の分離角度は、わずか数度である。そのため、長いプリントヘッドについては特に、排出溝エッジの良好な制御とともに、ノズルアレイと排出溝のエッジとの間で非常に正確な整合が行われることが望ましい。単一の部材で製作されるものであれ、整合および接合された多数のシリコンウェハで製作されるものであれ、ノズルの下および周囲に上部構造を設けると所望の精度が得られることが分かっている。ここで使用する場合、上部構造とはノズルの下および周囲に配置されるプリントヘッドの一部を意味する。
【0027】
本発明の上部構造は、正確に形成されてノズルプレートに正確に整合および接合されるため、滴分離のための時間および距離を短縮する。好適な上部構造は、一体的上部構造を形成するようにエッチング加工されて一緒に接合されたシリコンのウェハから形成される。共線空気を運搬して非選択小滴を排出するための上部構造流路は、2から3mmの厚さであることが好ましい。これにより、ノズルから約3mmから4mmに過ぎない移動距離の後で、一般的には上部構造の底部エッジより約1mm下で印刷滴が用紙に到達できる。ノズルから用紙への距離が短いため、滴が誤誘導される距離が短くなり、用紙の適切な箇所に衝突しないことは少なくなる。
【0028】
上述した長所のほかにも、一体的上部構造は、比較的汚れた大気がノズルプレートの表面および出口オリフィスそのものと接触してジェットの誤誘導を招くことを防止する。また、制御された大気をノズルの周囲へ常に提供するばかりでなく、出口オリフィスおよびその周囲を洗浄するための溶剤および他の洗浄流体を、共線空気流路およびノズルを介して導入および導出するという選択肢も提供する。さらにUVインクが使用される場合には、上部構造が光線シールドとなるため、インクを硬化させる漏出UV硬化光線に各出口オリフィスおよびその周囲のインクが露出されて、完全または部分的に閉塞したノズルとなることはない。
【0029】
図1は、本発明による上部構造12を有するプリントヘッドの図である。側流装置は、インクの小滴16,18を放出するノズルアレイ14で構成される。ノズルアレイ14の各ノズルは、印刷滴ストリーム18および非印刷滴ストリーム22を放出する。流路24,26は、共線空気流路28へ空気を送出する。非印刷滴は、ナイフエッジ壁34の後方で排出溝32に入る。非印刷滴から回収されたインクは、周知の方法でリサイクルのため流路36を戻る。側流ノズル構成は、二組のヒータ38,42を有する。米国特許第6,382,782号に示されているような、周知の方法で作動するこれらのヒータの作用により、印刷滴の放出方向を非印刷滴と異なるようにすることができる。印刷滴ストリーム18と非印刷滴ストリーム22との間の角度44は、比較的狭く、高い動作周波数では一般的に2°から3°である。そのため、一定の比例による図ではないが、ストリーム分割の角度44が狭いので二つの滴ストリームの上部構造12内での分岐は制限されるため、非印刷滴のための排出溝32と印刷滴のための出口との配置精度が非常に重要である。図に示される「A」において測定された上部構造12の高さは、2から3mmである。図1に示されているように、四つの層46,48,52,54が設けられている。上部構造12から用紙56までの距離「B」は、0.5から1.5mmである。このようにノズル14と用紙56との間の距離が短いことで、空気ストリームにより滴が誤誘導される時間が短くなる、つまり正しい角度44でノズルから出ないために、用紙への印刷滴の付着が不正確になることが減少する。さらに、上部構造内にある間の滴は未制御の空気流から保護されているので、指向性および用紙への最終的な付着の精度が充分に維持される。
【0030】
図2には、本発明の上部構造を備える側流プリントヘッドの別の実施形態が示されている。プリントヘッド60は、同じ構造については図1のものと同様の数字で示されている。プリントヘッド60は、コアンダ排出溝62を備える。非印刷小滴22はコアンダ排出溝62と衝突するように誘導されて、排出溝62から落下して吸入流路36へ移動し、ここで吸引および毛管現象により非印刷滴インク22がリサイクルのため回収される。非印刷小滴インクは、符号64で排出溝62の底部に移動し、ここで流路に入り、新月形66となって吸引および毛管現象により流路36へ吸入される。シリコンエッチング加工によって丸みを帯びたエッジを形成するのは困難なので、この構造はあまり好適ではないと考えられる。ウェハ55の層は薄いので、距離Bの0.5から1.5mmの距離と「A」の2〜3mmの距離が、コアンダ排出溝62の使用によって著しく影響を受けることはない。
【0031】
本発明のプリントヘッドは、シリコン製品を成形するための周知の技術のいずれによっても形成される。これらは、CMOS回路製造技術、マイクロ電気機械構造製造技術(MEMS)その他を含む。好適な技術は、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスであることが分かっている。他のシリコン製造技術と比較すると、このプロセスは、このデバイスに必要とされるような大きなエッチング奥行(10マイクロメートル超)を持つ高アスペクト比構造の製造を可能にするため、好適である。後できわめて正確な方法で組み立てられるいくつかのシリコンウェハのエッチング加工を伴う、ノズルプレートおよび排出溝を含むシリコン集積構造の製造技術は、相互に正確に整合された複数ノズルアレイ連続インクジェット(CIJ)プリントヘッドの製造に特に望ましい。シリコンウェハをエッチング加工、接合、整合する方法および装置は周知である。図3A〜3Iには製造プロセスの簡単な図が挙げられている。図3Aには、シリコンにエッチング加工された模様を持たない単一のウェハ110が示されている。図3Bでは、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)二酸化ケイ素膜の層112がウェハ110に蒸着されている。図3Cでは、部分的にエッチング加工されたエリアを形成するように、フォトリソグラフィを用いて層112がパターン形成されている。図3Dでは、エッチング加工される側において表面がフォトレジスト116でコーティングされて、エッチング加工が行われるフォトレジスト116の開口部を画定するようにパターン形成されている。図3Eでは、フォトレジストマスクを用いた深堀反応性イオンエッチングプロセスを利用して、ウェハ110が部分的にエッチング加工されている。図3Fでは、酸化物ハードマスクを用いてさらにエッチング加工が実行された後で、114でウェハの一部が除去されるとともに、ウェハに孔115が形成される。図3Gでは、上部構造の一層となる形成ウェハに戻すため、酸化膜が除去されている。図3Hでは、別のウェハ117がウェハ110に接合されている。シリコンウェハ117はすでに同じプロセスによってエッチングされている。図3Iには、ウェハ・スケール・インテグレーションを介した本発明のプリントヘッドの製造についての拡大斜視図が挙げられている。図示のように、別々のウェハ111,113,129に個別エッチング加工により開口部が形成された構造であるウェハ積層体117を形成するように組み立てられた、エッチング加工ウェハ111,113,129およびノズルプレートウェハ130が設けられる。このアセンブリは、独自の一体的排出溝を各々が備える同一の側流装置ノズルアレイを多数含む。次に、さいの目状の個々の装置128がマニホルド121に固定されてプリントヘッド119を形成する。プリントヘッドへ供給される流入および流出空気の流路となる開口部123,125をマニホルド121が有することが分かる。開口部127は、マニホルドへ流体を運ぶため、または排出溝からの回収インクを吸引するためのマニホルドのオリフィスである。この図6Iは例示的なものに過ぎないことに言及しておく。図1に示された本発明のプリントヘッドは、概して、一体的排出溝シリコンプリントヘッドに必要な流路を形成するためエッチング加工による少なくとも4層のプレートまたはウェハを必要とする。
【符号の説明】
【0032】
12 上部構造、14 ノズルアレイ、16 インク滴、18 印刷滴ストリーム、22 非印刷滴ストリーム、28 共線空気流路、32 排出溝、34 ナイフエッジ壁、36 吸入流路、38,42 ヒータ、44 角度、46,48,52,54 層、55 ウェハ、56 用紙、60 プリントヘッド、62 コアンダ排出溝、64 排出溝底部、66 新月形、110 単一のウェハ、111,113 エッチング加工ウェハ、112 二酸化ケイ素膜、114 シリコンウェハ、115 孔、116 フォトレジスト、117 シリコンウェハ、119 プリントヘッド、121 マニホルド、123 マニホルド開口部、125,127 開口部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ねインクジェット印刷装置の分野、詳しくは、多数のノズルを単一の基板に一体化し、電気機械的手段により印刷用の液滴が選択される液体インクプリントヘッドに関連する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、その非衝撃式および低騒音という特徴やシステム単純性などのため、デジタル制御による電子印刷分野で優位に立つものと認識されている。これらの理由から、インクジェットプリンタは、家庭およびオフィスでの使用や他の分野において商業的な成功を収めている。インクジェット印刷機構は、連続式(CIJ)またはドロップ・オン・デマンド式(DOD)に分類される。1970年にKyser et al.に発行された下記特許文献1には、必要に応じて圧電結晶に高電圧を印加し、結晶を屈曲させ、インク容器に圧力を印加し、液滴を噴射するDODインクジェットプリンタが開示されている。圧電DODプリンタでは、家庭およびオフィス用プリンタについて720dpiより高いイメージ解像度で商業的な成功を収めている。しかし、圧電印刷機構は通常、複雑な高電圧駆動回路構成および比較的大きい圧電結晶アレイを必要とし、プリントヘッドの長さばかりでなく、プリントヘッドの単位長さあたりのノズルの数に関して、これは不都合である。一般的に、圧電プリントヘッドは多くても数百本のノズルを含む。
【0003】
1979年にEndo et al.に発行された下記特許文献2においては、ノズルの水性インクと熱接触状態にあるヒータへ電力パルスを印加する電熱的ドロップ・オン・デマンド式インクジェットプリンタが開示されている。少量のインクが急速に蒸発して気泡を形成し、こうしてヒータ基板のエッジに沿った小孔からインクの滴を排出させる。この技術は、サーマルインクジェットまたはバブルジェット(登録商標)として知られている。
【0004】
サーマルインクジェット印刷においては、一般的に、気泡の急速な形成を引き起こす400℃近くの温度までインクを加熱するのに充分なエネルギー衝撃をヒータが発生させる必要がある。この装置で要求される高い温度は、特殊なインクの使用を必要とし、ドライバ電子機器を複雑にし、空洞化および焦げつきによりヒータ要素の劣化を促進する。焦げつきとは、破片となってヒータを被覆するインク燃焼副産物が蓄積したものである。このような被覆破片はヒータの熱効率を妨げて、プリントヘッドの動作寿命を短くする。また、各ヒータの高い能動的電力消費は、低コストで高速のページ幅プリントヘッドの製造の妨げとなる。
【0005】
連続インクジェット印刷そのものは、少なくとも1929年まで遡る。この技術は、1929年にHansellに発行された下記特許文献3に開示されている。
【0006】
1968年3月にSweet et al.に発行された下記特許文献4には、印刷されるインク滴が選択的に帯電して記録媒体へ偏向される連続インクジェットノズルのアレイが開示されている。この技術は、複偏向連続インクジェット印刷として知られ、ElmjetおよびScitexを含む数社のメーカーで使用されている。
【0007】
1968年12月にHertz et al.に発行された下記特許文献5には、連続インクジェット印刷において印刷箇所の光学密度を可変にする方法が開示されている。帯電した滴ストリームの静電気分散は、小孔を通過する小滴の数を調整するのに役立つ。この技術は、Iris製のインクジェットプリンタで使用されている。
【0008】
1982年8月24日にCarl H.Hertzの名で発行された下記特許文献6には、「小滴への電荷を制御するための方法および装置およびこれを取り入れたインクジェット記録装置」という名称の発明が開示されている。この文献においては、小滴への静電電荷を制御するためのCIJシステムが開示されている。電界を持つ静電帯電トンネルに配置される滴形成点で加圧液体ストリームを中断させることにより、小滴が形成される。小滴の形成は、所望される所定の電荷がどのようなものであれ、これに対応する電界中の点で実施される。実際に液滴を偏向させるには、帯電トンネルに加えて偏向プレートが使用される。特許文献6のシステムでは、生成された小滴を帯電させ、これを、次に排出溝または印刷媒体へ偏向させる必要がある。帯電・偏向機構は、その構造が比較的大きく、プリントヘッドあたりのノズルの数を著しく制限する。
【0009】
上述したような従来の連続インクジェット技術は、ストリーム内で滴が形成される点の近くに設けられた、一形状または別の形状の静電帯電トンネルを利用する。トンネル内では、個々の滴が選択的に帯電する。選択された滴は帯電し、大きな電位差を間に持つ偏向プレートが存在することで、下流へ偏向される。インクストリームは、「非印刷」モードと「印刷」モードとの間で偏向されるので、帯電滴を傍受して非印刷モードを確立するのに通常は排出溝(「捕捉部」と呼ばれることもある)が使用されるのに対して、印刷モードでは未帯電の滴が記録媒体に自由に衝突する。
【0010】
最近、上述した静電帯電トンネルを不要にする新規の連続インクジェットプリンタシステムが開発された。これは、さらに、(1)小滴形成と(2)小滴偏向の機能をより良い形で結合するものである。このシステムは譲受人を同じくするJames Chwalek、Dave Jeanmaire、Constantine Anagnostopoulosの名で出願された「非対称的加熱滴偏向による連続インクジェットプリンタ」という名称の下記特許文献7に開示され、その内容は参考としてここに取り入れられている。この特許文献には、連続インクジェットプリンタにおいてインクを制御するための装置が開示されている。この装置は、インク送出流路と、インク送出流路との連通状態にある加圧インク供給源と、インク送出流路に開口するボアを含み連続インクストリームがそこから流出するノズルとを有する。ヒータによって弱い熱パルスをストリームに周期的に印加すると、ノズルから離間した位置で、印加された熱パルスと同時にインクストリームが複数の小滴に細分される。小滴は、(ノズルボア内の)ヒータからの増加熱パルスにより偏向されるが、このヒータは選択的操作区分、つまりノズルボアの一部分のみと関連する区分を有する。特定ヒータ区分の選択的操作とは、ストリームへの非対称的な熱印加と呼ばれていたものに相当する。ここでは区分を交互に使用すると、この非対称的な熱が供給される方向が交互することで、(記録媒体へ向かう)「印刷」方向と(「捕捉部」に戻る)「非印刷」方向との間においてインク滴の偏向などを行う。下記特許文献7には、プリントヘッドあたりのノズルの数、プリントヘッドの長さ、電力使用量、有効インクの特性に関連する先行技術の問題を克服するための重大な改良が行われた液体印刷システムが提供されている。
【0011】
熱が非対称的に印加された結果、ジェットの偏向が生じ、その規模は、ノズルの幾何学的および熱的な性質、印加される熱の量、印加される圧力、インクの物理的、化学的、熱的性質などいくつかの要因に左右される。溶剤ベース(特にアルコールベース)のインクはかなり良好な偏向パターンを持ち、非対称な加熱が行われる連続インクジェットプリンタでは高いイメージ品質を達成するが、水性インクには問題が多い。水性インクはあまり偏向せず、そのためその動作はロバストでない。非対称的に加熱される連続的インクジェット印刷システムでのインク小滴偏向の規模を向上させるため、譲受人を同じくするDelametter et al.の名で1999年12月22日に出願された米国特許出願第09/470,638号には、側流特徴を強化することにより、またインク送出流路での幾何学的障害物によりインク滴の偏向を向上させた、特に水性インクのための連続インクジェットプリンタが開示されている。
【0012】
後に説明する発明は、低コストの製造、および好ましくはページ幅を持つプリントヘッドに適した連続インクジェットプリントヘッドの構成に関する下記特許文献7および下記特許文献8の成果に基づいている。
【0013】
後に説明する発明は、ページ幅プリントヘッドであるとは見なされないインクジェットプリントヘッドに使用されてもよいが、例えばコスト、サイズ、速度、品質、信頼性、小型のノズルオリフィスサイズ、小さな小滴サイズ、低い電力使用量、動作構造の単純性、耐久性、製造可能性について長所を提供する改良型インクジェット印刷システムの必要性は、依然として広く認識されている。これに関して、ページ幅で高解像度のインクジェットプリントヘッドの製造可能性については、特に、長期にわたって必要性が存在する。ここで、「ページ幅」の語は、約4インチの最短長のプリントヘッドを指す。高解像度とは、各インク色について、最低で1インチあたり約300ノズルから最高で1インチあたり約2400ノズルまでのノズル密度を意味する。
【0014】
印刷速度の上昇に関してページ幅プリントヘッドを充分に利用するには、多数のノズルが含まれなければならない。例えば、従来の走査型プリントヘッドは、インク色あたり数百のノズルを有するに過ぎない。写真の印刷に適した4インチページ幅のプリントヘッドは、数千のノズルを有するべきである。機械的にページ上で左右に移動させる必要があるため走査型プリントヘッドは減速するが、ページ幅プリントヘッドは静止したままで用紙が移動する。理論的には1回の通過でイメージが印刷され、ゆえに印刷速度をかなり上昇させる。
【0015】
ページ幅・高生産性インクジェットプリントヘッドを実現する際には、二つの主な問題が存在する。第一は、ノズルが、中心間の間隔で10から80マイクロメートル程度に互いに近接していなければならないことである。第二は、外部回路への数千の接合部または他のタイプの接続部を設けようとすることは現在では非実用的なので、ヒータおよび各ノズルを制御する電子機器へ電力を提供するドライバが各ノズルに一体化されなければならないことである。
【0016】
これらの難題を解決する方法の一つは、VLSI技術を利用してシリコンウェハにプリントヘッドを構築することと、ノズルを備える同じシリコン基板にCMOS回路を一体化することである。
【0017】
Silverbrookの特許文献8で提案されているようなカスタムプロセスが、プリントヘッドを製作するために開発されているが、コストおよび製造性の観点から見て、従来のVLSI設備にほぼ規格通りのCMOSプロセスを使用する回路を最初に製作することが好ましい。次に、ノズルおよびインク流路の製作のため、別のMEMS(マイクロ電子機械システム)設備にウェハを後処理で取り付ける。
【0018】
下記特許文献9においては、複数のノズルを有する連続インクジェットプリントヘッドが開示されている。このプリントヘッドは、プリントヘッドの動作を制御するために形成された集積回路を含むシリコン基板であって、インク流路が形成されたシリコン基板と、シリコン基板を被覆する単数または複数の絶縁層であって、ボアが形成されるとともにインク流路と連通する単数または複数の絶縁層とを有する。シリコン基板は、シリコン、二酸化ケイ素、他の材料、またはフィルム層の組合せで形成されるインク流路とボアとの間のブロック構造と、インク流路とボアとの間に設けられて、インク流路からのインクにブロック構造の周囲を流通させるとともにボアからオフセットした箇所でアクセス開口部へ流入させて、ボアへ流入する液体インクに側流成分を付与するアクセス開口部とを各ノズルに含む。
【0019】
また、下記特許文献9には、プリントヘッドの動作を制御するために形成された一連の集積回路を有するシリコン基板に形成された流路に加圧状態の液体インクを提供することと、シリコン基板を被覆する単数または複数の絶縁層に形成されたボアにインクを流入させることと、インク小滴の方向を制御するため、ヒータ要素の周囲を流れるインクを非対称的に加熱することと、ボアの直下でシリコン基板に形成されたブロック構造の周囲にインク流を設けることにより確立されるインクジェットまたはストリームに側流成分を付与することとを有する、連続インクジェットプリントヘッドの作動方法も開示されている。
【0020】
さらに、下記特許文献9には、プリントヘッドの動作を制御するための集積回路を有するシリコン基板を設けて、シリコン基板に単数または複数の絶縁層が形成され、シリコン基板に形成された回路に電気的に接続された電気導体が単数または複数の絶縁層に形成されることと、単数または複数の絶縁層にボアを形成することと、ボアと連通するためのインク流路をシリコン基板に形成することと、シリコン基板に形成されたインク流路から単数または複数の絶縁層に形成されたボアまでのインクの側流を制御するためのシリコン基板のブロック構造を形成することとを有する、連続インクジェットプリントヘッドの形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第3,946,398号明細書
【特許文献2】英国特許第2,007,162号明細書
【特許文献3】米国特許第1,941,001号明細書
【特許文献4】米国特許第3,373,437号明細書
【特許文献5】米国特許第3,416,153号明細書
【特許文献6】米国特許第4,346,387号明細書
【特許文献7】米国特許第6,079,821号明細書
【特許文献8】米国特許第5,880,759号明細書
【特許文献9】米国特許第6,439,703号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
小型であり、再循環インクが大気と接触するのを防止し、より高いイメージ品質および高い印刷速度を提供する連続インクジェット印刷のための改良型側流プリントヘッドの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、側流ノズルプレートと、このプレートの少なくとも一つのインクノズルと、排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッドに関連する。インクジェットプリントヘッドを使用する方法も開示される。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、連続インクジェット技術において先行のプリントヘッドを超えるいくつかの長所を有する。一体的排出溝上部構造を備える側流装置プリンタの利用により、インクジェットヘッドの下を移動する用紙にインクジェットのノズルが近接するので、印刷品質が改良された構造が得られる。プリントヘッドへ流入する唯一の空気は充分に制御された共線空気なので、また滴はほとんどが包囲構造内で移動するので、印刷滴は未制御の空気流に当たらず、ゆえに滴配置の精度が上昇する結果となる。また、インクジェットノズルから用紙への出口が近接しているため、用紙に達するまでの滴の偏向が少なくなることで、より良質なイメージが得られる。以上および他の長所は、以下の説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好適な実施形態によるプリントヘッドの概略断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態によるプリントヘッドの概略断面図である。
【図3A】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3B】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3C】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3D】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3E】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3F】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3G】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3H】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【図3I】シリコンウェハからのプリントヘッド上部構造の形成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
側流ノズル構成は周知であり、参考として取り入れられている米国特許第6,382,782号(Anagnostopoulos et al.)を含むいくつかの特許に示されている。側流インクジェットが示されている他の特許は、米国特許第6,497,510号(Delametter et al.)および米国特許第6,439,703号(Anagnostopoulos et al.)である。側流インクジェットでは、ノズルプレートの差分加熱に応じて印刷および非印刷滴のストリームが分離される。側流分離ノズルにおける印刷滴と非印刷滴との間の分離角度は、わずか数度である。そのため、長いプリントヘッドについては特に、排出溝エッジの良好な制御とともに、ノズルアレイと排出溝のエッジとの間で非常に正確な整合が行われることが望ましい。単一の部材で製作されるものであれ、整合および接合された多数のシリコンウェハで製作されるものであれ、ノズルの下および周囲に上部構造を設けると所望の精度が得られることが分かっている。ここで使用する場合、上部構造とはノズルの下および周囲に配置されるプリントヘッドの一部を意味する。
【0027】
本発明の上部構造は、正確に形成されてノズルプレートに正確に整合および接合されるため、滴分離のための時間および距離を短縮する。好適な上部構造は、一体的上部構造を形成するようにエッチング加工されて一緒に接合されたシリコンのウェハから形成される。共線空気を運搬して非選択小滴を排出するための上部構造流路は、2から3mmの厚さであることが好ましい。これにより、ノズルから約3mmから4mmに過ぎない移動距離の後で、一般的には上部構造の底部エッジより約1mm下で印刷滴が用紙に到達できる。ノズルから用紙への距離が短いため、滴が誤誘導される距離が短くなり、用紙の適切な箇所に衝突しないことは少なくなる。
【0028】
上述した長所のほかにも、一体的上部構造は、比較的汚れた大気がノズルプレートの表面および出口オリフィスそのものと接触してジェットの誤誘導を招くことを防止する。また、制御された大気をノズルの周囲へ常に提供するばかりでなく、出口オリフィスおよびその周囲を洗浄するための溶剤および他の洗浄流体を、共線空気流路およびノズルを介して導入および導出するという選択肢も提供する。さらにUVインクが使用される場合には、上部構造が光線シールドとなるため、インクを硬化させる漏出UV硬化光線に各出口オリフィスおよびその周囲のインクが露出されて、完全または部分的に閉塞したノズルとなることはない。
【0029】
図1は、本発明による上部構造12を有するプリントヘッドの図である。側流装置は、インクの小滴16,18を放出するノズルアレイ14で構成される。ノズルアレイ14の各ノズルは、印刷滴ストリーム18および非印刷滴ストリーム22を放出する。流路24,26は、共線空気流路28へ空気を送出する。非印刷滴は、ナイフエッジ壁34の後方で排出溝32に入る。非印刷滴から回収されたインクは、周知の方法でリサイクルのため流路36を戻る。側流ノズル構成は、二組のヒータ38,42を有する。米国特許第6,382,782号に示されているような、周知の方法で作動するこれらのヒータの作用により、印刷滴の放出方向を非印刷滴と異なるようにすることができる。印刷滴ストリーム18と非印刷滴ストリーム22との間の角度44は、比較的狭く、高い動作周波数では一般的に2°から3°である。そのため、一定の比例による図ではないが、ストリーム分割の角度44が狭いので二つの滴ストリームの上部構造12内での分岐は制限されるため、非印刷滴のための排出溝32と印刷滴のための出口との配置精度が非常に重要である。図に示される「A」において測定された上部構造12の高さは、2から3mmである。図1に示されているように、四つの層46,48,52,54が設けられている。上部構造12から用紙56までの距離「B」は、0.5から1.5mmである。このようにノズル14と用紙56との間の距離が短いことで、空気ストリームにより滴が誤誘導される時間が短くなる、つまり正しい角度44でノズルから出ないために、用紙への印刷滴の付着が不正確になることが減少する。さらに、上部構造内にある間の滴は未制御の空気流から保護されているので、指向性および用紙への最終的な付着の精度が充分に維持される。
【0030】
図2には、本発明の上部構造を備える側流プリントヘッドの別の実施形態が示されている。プリントヘッド60は、同じ構造については図1のものと同様の数字で示されている。プリントヘッド60は、コアンダ排出溝62を備える。非印刷小滴22はコアンダ排出溝62と衝突するように誘導されて、排出溝62から落下して吸入流路36へ移動し、ここで吸引および毛管現象により非印刷滴インク22がリサイクルのため回収される。非印刷小滴インクは、符号64で排出溝62の底部に移動し、ここで流路に入り、新月形66となって吸引および毛管現象により流路36へ吸入される。シリコンエッチング加工によって丸みを帯びたエッジを形成するのは困難なので、この構造はあまり好適ではないと考えられる。ウェハ55の層は薄いので、距離Bの0.5から1.5mmの距離と「A」の2〜3mmの距離が、コアンダ排出溝62の使用によって著しく影響を受けることはない。
【0031】
本発明のプリントヘッドは、シリコン製品を成形するための周知の技術のいずれによっても形成される。これらは、CMOS回路製造技術、マイクロ電気機械構造製造技術(MEMS)その他を含む。好適な技術は、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)プロセスであることが分かっている。他のシリコン製造技術と比較すると、このプロセスは、このデバイスに必要とされるような大きなエッチング奥行(10マイクロメートル超)を持つ高アスペクト比構造の製造を可能にするため、好適である。後できわめて正確な方法で組み立てられるいくつかのシリコンウェハのエッチング加工を伴う、ノズルプレートおよび排出溝を含むシリコン集積構造の製造技術は、相互に正確に整合された複数ノズルアレイ連続インクジェット(CIJ)プリントヘッドの製造に特に望ましい。シリコンウェハをエッチング加工、接合、整合する方法および装置は周知である。図3A〜3Iには製造プロセスの簡単な図が挙げられている。図3Aには、シリコンにエッチング加工された模様を持たない単一のウェハ110が示されている。図3Bでは、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)二酸化ケイ素膜の層112がウェハ110に蒸着されている。図3Cでは、部分的にエッチング加工されたエリアを形成するように、フォトリソグラフィを用いて層112がパターン形成されている。図3Dでは、エッチング加工される側において表面がフォトレジスト116でコーティングされて、エッチング加工が行われるフォトレジスト116の開口部を画定するようにパターン形成されている。図3Eでは、フォトレジストマスクを用いた深堀反応性イオンエッチングプロセスを利用して、ウェハ110が部分的にエッチング加工されている。図3Fでは、酸化物ハードマスクを用いてさらにエッチング加工が実行された後で、114でウェハの一部が除去されるとともに、ウェハに孔115が形成される。図3Gでは、上部構造の一層となる形成ウェハに戻すため、酸化膜が除去されている。図3Hでは、別のウェハ117がウェハ110に接合されている。シリコンウェハ117はすでに同じプロセスによってエッチングされている。図3Iには、ウェハ・スケール・インテグレーションを介した本発明のプリントヘッドの製造についての拡大斜視図が挙げられている。図示のように、別々のウェハ111,113,129に個別エッチング加工により開口部が形成された構造であるウェハ積層体117を形成するように組み立てられた、エッチング加工ウェハ111,113,129およびノズルプレートウェハ130が設けられる。このアセンブリは、独自の一体的排出溝を各々が備える同一の側流装置ノズルアレイを多数含む。次に、さいの目状の個々の装置128がマニホルド121に固定されてプリントヘッド119を形成する。プリントヘッドへ供給される流入および流出空気の流路となる開口部123,125をマニホルド121が有することが分かる。開口部127は、マニホルドへ流体を運ぶため、または排出溝からの回収インクを吸引するためのマニホルドのオリフィスである。この図6Iは例示的なものに過ぎないことに言及しておく。図1に示された本発明のプリントヘッドは、概して、一体的排出溝シリコンプリントヘッドに必要な流路を形成するためエッチング加工による少なくとも4層のプレートまたはウェハを必要とする。
【符号の説明】
【0032】
12 上部構造、14 ノズルアレイ、16 インク滴、18 印刷滴ストリーム、22 非印刷滴ストリーム、28 共線空気流路、32 排出溝、34 ナイフエッジ壁、36 吸入流路、38,42 ヒータ、44 角度、46,48,52,54 層、55 ウェハ、56 用紙、60 プリントヘッド、62 コアンダ排出溝、64 排出溝底部、66 新月形、110 単一のウェハ、111,113 エッチング加工ウェハ、112 二酸化ケイ素膜、114 シリコンウェハ、115 孔、116 フォトレジスト、117 シリコンウェハ、119 プリントヘッド、121 マニホルド、123 マニホルド開口部、125,127 開口部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側流装置ノズルプレートと、排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記排出溝が前記ノズルプレートの表面から2から3mmの距離にある、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記上部構造が、前記ノズルから前記インク出口孔の底部まで150から300μmの高さを持つ、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記ノズルの列からインクが噴射される共線空気流路の幅が100から1000μmである、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記上部構造が、共線空気の開口部と、非選択インク滴を前記排出溝から除去する流路と、選択インク滴が前記プリントヘッドから出る際の出口オリフィスのみを有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記排出溝と前記ノズルプレートと上部構造とが相互に一体的である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記排出溝がナイフエッジまたは薄壁を有する、請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記排出溝がコアンダ排出溝を有する、請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記上部構造が、エッチング加工されてから結合されて一体的構造を形成するシリコンウェハを有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
側流ノズルプレートと、前記プレートの少なくとも一つのインクノズルと、前記ノズルプレートと一体的な排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッドを用意することと、
前記少なくとも一つのインクノズルから連続的にインクを排出することと、
選択された非印刷滴を捕捉することと、
選択された印刷滴に前記上部構造の出口通路を通過させることと、
前記上部構造の前記出口の下に用紙を通過させることと、
選択された前記印刷滴を前記用紙と接触させることと、
を有する印刷方法。
【請求項11】
前記ノズルプレートの前記表面から前記用紙までの距離が15mmより短い、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ノズルプレートの前記表面から前記用紙までの距離が2mmより長い、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記上部構造が、共線空気を前記上部構造に誘導する通路を備える、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記共線空気の流れが毎秒5から50メートルの速度である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
選択された滴が0.6から16ピコリットルの体積を持つ、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記上部構造に導入される唯一のガスが共線空気流ガスである、請求項10に記載の方法。
【請求項1】
側流装置ノズルプレートと、排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記排出溝が前記ノズルプレートの表面から2から3mmの距離にある、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記上部構造が、前記ノズルから前記インク出口孔の底部まで150から300μmの高さを持つ、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記ノズルの列からインクが噴射される共線空気流路の幅が100から1000μmである、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記上部構造が、共線空気の開口部と、非選択インク滴を前記排出溝から除去する流路と、選択インク滴が前記プリントヘッドから出る際の出口オリフィスのみを有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記排出溝と前記ノズルプレートと上部構造とが相互に一体的である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記排出溝がナイフエッジまたは薄壁を有する、請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記排出溝がコアンダ排出溝を有する、請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記上部構造が、エッチング加工されてから結合されて一体的構造を形成するシリコンウェハを有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
側流ノズルプレートと、前記プレートの少なくとも一つのインクノズルと、前記ノズルプレートと一体的な排出溝を含む上部構造とを有するインクジェットプリントヘッドを用意することと、
前記少なくとも一つのインクノズルから連続的にインクを排出することと、
選択された非印刷滴を捕捉することと、
選択された印刷滴に前記上部構造の出口通路を通過させることと、
前記上部構造の前記出口の下に用紙を通過させることと、
選択された前記印刷滴を前記用紙と接触させることと、
を有する印刷方法。
【請求項11】
前記ノズルプレートの前記表面から前記用紙までの距離が15mmより短い、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ノズルプレートの前記表面から前記用紙までの距離が2mmより長い、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記上部構造が、共線空気を前記上部構造に誘導する通路を備える、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記共線空気の流れが毎秒5から50メートルの速度である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
選択された滴が0.6から16ピコリットルの体積を持つ、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記上部構造に導入される唯一のガスが共線空気流ガスである、請求項10に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【公表番号】特表2010−535116(P2010−535116A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519200(P2010−519200)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/008818
【国際公開番号】WO2009/017611
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/008818
【国際公開番号】WO2009/017611
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】
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