説明

一方向クラッチ内蔵型プーリ装置

【課題】ばねと保持器間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることができる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を提供する。
【解決手段】保持器18bは、一対の円環部20の内側面で円周方向において各柱部21と整合する部分に、柱部21と略等しい円周方向幅で円環部20の外周面と略等しい高さを有する一対の剛性増加部50を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に関し、より詳細には、エンジンのクランク軸の動力によって駆動されるオルタネータ等の補機類の入力軸や、エンジンのクランク軸に動力を与えるスタータモータの出力軸等に固定して用いられる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の駆動用エンジンを駆動源として種々の補機が駆動されており、例えば自動車に必要な発電を行なうオルタネータを駆動する際には、一方向クラッチが組み込まれたクラッチ内蔵型プーリ装置を使用することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方向クラッチは、内輪と外輪との間に楔空間を構成するように、内輪或いは外輪にカム面を有し、楔空間に配置されたローラの係脱によって、ロック状態とオーバーラン状態とを繰り返す。楔空間に配置される各ローラは、保持器に形成された複数のポケット内に収容されており、保持器に係止されたばねによって、楔作用を発揮する方向、即ちロック方向に弾性的に押圧される。
【0004】
図17(a)に示すばね100は、基部101と、基部101の両側で基部101に対して折れ曲がった一対の押圧部102と、を有し、押圧部102の先端部でローラと当接する。また、図17(b)に示すばね100´は、基部101と、一対の押圧部102と、押圧部102の先端部で押圧部102に対して折れ曲がってローラと当接する一対の当接部103とを有する。
【0005】
例えば、ばね100´は、図18に示すように、保持器110の柱部111から径方向外方に延びる中央側ばね保持部112と一対の端部側ばね保持部113とで係止されて、一対の円環部114(図では、一方の円環部のみを示す。)間に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−61433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図18に示すように、一方向クラッチのオーバーラン状態においては、ばね100´はローラ120によって押圧されて屈曲するが、その際、屈曲するばね100´の押圧部102や当接部103が保持器110の柱部111と干渉する可能性がある。このため、ばね100´の保持器110との干渉を抑制し、ばね100´と保持器110間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることが求められている。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ばねと保持器間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることができる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転軸が内嵌されるスリーブと、スリーブの径方向外側にスリーブと同心に配置されたプーリと、スリーブの外周面とプーリの内周面との間に設けられ、プーリとスリーブの一方が他方に対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合のみ、プーリとスリーブとの間で回転力を伝達する一方向クラッチと、スリーブの外周面とプーリの内周面との間で一方向クラッチに対して軸方向に離間した位置に設けられ、プーリに加わるラジアル荷重を支承しつつプーリとスリーブとの相対回転を可能とするサポート軸受と、を備え、
一方向クラッチは、スリーブとプーリのうちの一方の部材と共に回転する保持器と、保持器に保持された複数の係合子と、複数の係合子を係合する方向に押圧するばねと、を備え、
保持器は、一対の円環部と、一対の円環部を連結する複数の柱部と、一対の円環部の内側面で各柱部と整合する部分に設けられた一対の端部側ばね保持部と各柱部の軸方向中央部に設けられた中央側ばね保持部とを備え、
ばねは、一対の端部側ばね保持部と中央側ばね保持部に挟持される基部と、基部の両側を屈曲部として基部に対して鋭角に折れ曲がった一対の押圧部を備える板ばねである一方向クラッチ内蔵型プーリ装置であって、
保持器は、一対の円環部の内側面で各柱部と整合する部分に、柱部と略等しい円周方向幅で円環部の外周面と略等しい高さを有する一対の剛性増加部を有していることを特徴とする一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
(2) 前記保持器の柱部には、前記ばねの接触部の可動領域を避けるように切欠きが設けられていることを特徴とする(1)に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
(3) 前記ばねには、前記押圧部の前記係合子との接触部近傍に、前記屈曲部の径方向幅よりも狭くなるように切欠きが設けられていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
(4) 前記押圧部の切欠きは、前記屈曲部側から前記接触部に向けて径方向幅を徐々に小さくしたテーパ角度β、テーパ幅B´、テーパ長さCのテーパ状切欠きであり、
前記保持器の柱部の長さをL、前記中央側ばね保持部の軸方向寸法をA、前記保持器が高速回転時に遠心力で変形する最大変形量をB、最大変形量B時の変形角度αとすると、
α>β
α=tan−1{B/((L−A)/2)}
β=tan−1(B´/C)
であることを特徴する(3)に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【発明の効果】
【0010】
また、本発明の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置によれば、保持器は、一対の円環部の内側面で各柱部と整合する部分に、柱部と略等しい円周方向幅で円環部の外周面と略等しい高さを有する一対の剛性増加部を有しているので、遠心力によって柱部が撓むことを抑制することができる。これにより、ばねが屈曲した際に、ばねの接触部が保持器と干渉するのを抑制し、ばねと保持器間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態であるクラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【図2】外輪を取り外した状態で、図1の一方向クラッチの保持器とばねを円周方向において部分的に示す上面図である。
【図3】図1の一方向クラッチのばねを示し、(a)はその側面図で、(b)はその展開図である。
【図4】第1実施形態の一方向クラッチの変形例に係るばねの先端部を示す図である。
【図5】第1実施形態の一方向クラッチの他の変形例に係るばねの先端部を示す図である。
【図6】外輪を取り外した状態で、第2実施形態の一方向クラッチの保持器とばねを円周方向において部分的に示す上面図である。
【図7】図6の一方向クラッチのばねを示し、(a)はその側面図で、(b)はその展開図である。
【図8】第2実施形態の一方向クラッチの変形例に係るばねの先端部を示す図である。
【図9】第2実施形態の一方向クラッチの他の変形例に係るばねの先端部を示す図である。
【図10】第3実施形態の一方向クラッチのばねを示し、(a)はその斜視図で、(b)はその側面図である。
【図11】第3実施形態の一方向クラッチの保持器を示し、(a)はその通常時の断面図で、(b)は、その最大変形時の断面図である。
【図12】第3実施形態の一方向クラッチの保持器最大変形時のばね及び保持器を示し、(a)はその断面図で、(b)は、(a)のXII部分拡大図である。
【図13】本発明の第4実施形態の一方向クラッチの保持器とばねを円周方向において部分的に示す斜視図である。
【図14】図13の保持器を円周方向において部分的に示す斜視図である。
【図15】第4実施形態の一方向クラッチの変形例に係る保持器とばねを円周方向において部分的に示す斜視図である。
【図16】本発明の第5実施形態の一方向クラッチの保持器とばねを円周方向において部分的に示す斜視図である。
【図17】従来の一方向クラッチのばねを示す斜視図である。
【図18】従来の一方向クラッチの保持器とばねを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、図1〜3を参照して、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、クラッチ内蔵型プーリ装置10は、オルタネータ等の補機の回転軸(図示せず)が螺合して内嵌されるスリーブ11と、スリーブ11の径方向外側にスリーブ11と同心に配設され、外周面にベルト溝12aが形成されたプーリ12とを備えている。ベルト溝12aには、エンジンのクランク軸に固定された駆動プーリ(図示せず)に懸架された駆動ベルト(図示せず)が掛け渡されている。
【0014】
また、スリーブ11の軸方向中間部における外周面とプーリ12の軸方向中間部における内周面との間には、一方向クラッチ13が配置されており、一方向クラッチ13に対して軸方向に離間した位置となる、スリーブ11の軸方向両端部における外周面とプーリ12の軸方向両端部における内周面との間には、一対の転がり軸受14が配置されている。一方向クラッチ13は、プーリ12がスリーブ11に対して所定方向に相対回転する傾向となる場合のみ、プーリ12とスリーブ11との間で回転力を伝達する。転がり軸受14は、深溝玉軸受等が使用されており、プーリ12に加わるラジアル荷重を支承しつつ、スリーブ11とプーリ12とを相対回転を可能とする。
【0015】
一方向クラッチ13は、スリーブ11の外周面に圧入固定される内輪15と、プーリ12の内周面に圧入固定される外輪16と、内輪15の外周面と外輪16の内周面との間に配置される係合子である複数のローラ17とを備える。内輪15の外周面は、複数のランプ部15aが円周方向に所定の間隔で形成されたカム面をなしており、ローラ17は外輪16の円筒面16aと各ランプ部15aとから形成される楔空間に回動自在に保持されている。
【0016】
また、一方向クラッチ13は、各ローラ17を個別に収容する複数のポケットを有する保持器18と、各ローラ17を楔空間の係合する方向に弾性的に押圧するばね19とを有している。
【0017】
図2に示すように、保持器18は、一対の円環部20と、一対の円環部20を連結する複数の柱部21とを備えている。
【0018】
一対の円環部20の内周面には、ランプ部15aの軸方向両端部と係合する図示しない凸部が形成されており、保持器18は内輪15及びスリーブ11と共に一体に回転する。また、一対の円環部20の内側面で円周方向において各柱部21と整合する部分には、一対の端部側ばね保持部22が各柱部21の外周面側から径方向外方に突出する状態で形成されている。これに対して、各柱部21の軸方向中央部には、中央側ばね保持部23が各柱部21の外周面側から径方向外方に突出する状態で形成されている。ばね19は端部側ばね保持部22の円周方向一側面と、中央側ばね保持部23の円周方向他側面との間に挟持される。
【0019】
図2及び図3に示すように、ばね19は、板ばねからなり、長手方向中間部である基部25の両側を、折曲部(最大応力が発生する部位)26として所定の位置で折り曲げることによって押圧部27を構成しており、押圧部27の先端部をローラ17が接触する接触部28としている。これによりばね19は、接触部28で各ローラ17と接触して、各ローラ17をロック方向、即ち、ランプ部15aの溝の浅い側に向けて押圧している。
【0020】
また、ばね19の接触部28は、押圧部27にかけて保持器側が矩形状に切り欠かれて、その径方向幅W1が折曲部26の径方向幅W2に比べて小さくなるように形成されている。これにより、ばね19が保持器18に配置された状態において、ばね19が屈曲した場合でも接触部28は柱部21の表面から離れて位置する。
【0021】
このように構成された一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10は、プーリ12の回転角速度が回転軸の回転角速度より速い場合、即ち、外輪16が内輪15に対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合には、ローラ17が楔作用によって外輪16の円筒面と内輪15のランプ部15aとの間の楔空間に噛み込まれて、外輪16と内輪15との間で各ローラ17を介して回転力が伝達自在となる。これにより、プーリ12とスリーブ11とが相対回転不能(ロック状態)となり、エンジンの回転力が回転軸に伝達される。一方、プーリ12の回転角速度が回転軸の回転角速度より遅い場合には、ローラ17の噛み込みが解除されて、プーリ12とスリーブ11との相対回転が自在(オーバーラン状態)となる。
【0022】
ここで、オーバーラン状態等、ローラ17が内輪15のランプ部15aの溝の深い側に位置する場合には、ばね19はローラ17によって押圧されて屈曲しているが、ばね19のローラ17との接触部28は、押圧部27にかけて保持器側が矩形状に切り欠かれているので、保持器18の柱部21の表面と干渉することがなく、ばね19と保持器18間の摩擦を低減することができる。また、ばね19が屈曲した状態において、折曲部26は最大応力が発生する最大応力部位となるが、この折曲部26の径方向幅を大きく保っているので、ばね19の強度を維持することができる。
【0023】
さらに、遠心力によって保持器18が外輪側に撓んだ場合にも、保持器18がばね19の接触部28と干渉することが防止されるので、高速回転による運転環境においてもクラッチ性能が損なわれることがない。
【0024】
従って、本実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10によれば、ばね19が板ばねによって形成され、ばね19は、ローラ17との接触部近傍において切り欠いて、ローラ17との接触部28の径方向幅W1が折曲部26の径方向幅W2より小さくなるように形成されるので、ばね19が屈曲した際や保持器18が外輪側に撓んだ際にも、ばね19の接触部28と保持器18とが干渉するのが抑制され、ばね19と保持器18間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることができる。
【0025】
なお、ばね19の押圧部27及び接触部28の形状は、本実施形態のものに限定されるものでなく、図4(a)〜(f)及び図5(a)〜(g)に示すように、接触部28の径方向幅W1が折曲部26の径方向幅W2に比べて小さくなるようなものであればいずれの形状であってもよい。
【0026】
具体的に、ばね19の押圧部27及び接触部28は、図4(a)に示すように保持器側の切りかかれた隅部30を湾曲した形状としてもよく、図4(b)〜(d)に示すように、保持器側径方向端面から軸方向端面に向けて直線状、或いは凸又は凹で曲線状に切り欠いて、軸方向端面に向かって径方向幅を徐々に小さくするようにしてもよい。また、押圧部27及び接触部28は、図4(e)及び(f)のように、保持器側を多段で切り欠いて、折曲部26側から軸方向端面に向かって径方向幅を徐々に小さくするようにしてもよい。さらに、図5(a)〜(g)に示すように、ばね19の押圧部27及び接触部28は、保持器側を上述した図3及び図4(a)〜(f)の特徴を持って形成すると共に外輪側も同様に形成し、即ち、外輪側と保持器側とを径方向において対称形状としてもよい。これにより、ばね19の径方向において方向性がなくなり、組み付け性を向上することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、図6及び図7を参照して、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は、一方向クラッチのばねの形状が第1実施形態と異なるのみであり、その他の部分については第1実施形態のものと同等であり、説明を省略或いは簡略化する。
【0028】
図6及び図7に示されるように、本実施形態のばね40は、長手方向中間部である基部41の両側を、折曲部42として所定の位置で折り曲げることによって押圧部43を構成すると共に、押圧部43の先端部を他の折曲部44として所定の位置で更に折り曲げて接触部45を構成している。
【0029】
また、図7に示すように、ばね40の接触部45と接触部側の押圧部43は、保持器側において切り欠かれており、接触部45の径方向幅W1は、折曲部42の径方向幅W2に比べて小さくなるように形成されている。即ち、接触部45の径方向幅W1は、押圧部43の径方向最大幅W2より小さく設定されている。これにより、第1実施形態と同様、ばね40が保持器18に配置された状態において、ばね40が屈曲した場合でも接触部45は柱部21の表面から離れて位置する。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0030】
なお、本実施形態においても、ばね40の接触部45と接触部側の押圧部43の形状は、本実施形態のものに限定されるものでなく、図8(a)〜(g)及び図9(a)〜(h)に示すように、接触部45の径方向幅W1が折曲部42の径方向幅W2に比べて小さくなるようなものであればいずれの形状であってもよい。
【0031】
即ち、ばね40の接触部45及び押圧部43は、図8(a)〜(c)に示すように、保持器側径方向端面から軸方向端面に向けて直線状、或いは凸又は凹で曲線状に連続に切り欠いて、軸方向端面に向かって径方向幅を徐々に小さくするようにしてもよい。或いは、図8(d)〜(f)に示すように、押圧部43の他の折曲部44まで径方向幅を徐々に小さくするように形成し、接触部45を折曲部42の径方向幅W2より小さい一様幅としてもよい。或いは、図8(g)に示すように、ばね40の接触部45及び押圧部43は、保持器側を多段で切り欠いて、折曲部26側から軸方向端面に向かって径方向幅を徐々に小さくするようにしてもよい。さらに、図9(a)〜(h)に示すように、ばね40の接触部45及び押圧部43は、外輪側と保持器側とを径方向において対称形状としてもよい。
【0032】
(第3実施形態)
次に、図10〜図12を参照して、本発明の第3実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は、第2実施形態の図9(b)に示されたばねの寸法形状を特徴とするものであり、同一部分については同一符号を付して、説明を省略或は簡略化する。
【0033】
即ち、図10に示すように、本実施形態のばね40は、その接触部45及び押圧部43は、保持器側径方向端面から軸方向端面に向けて、即ち、テーパ開始点46からテーパ終点47まで直線状に切り欠いて、軸方向端面に向かって径方向幅を徐々に小さくしたテーパ形状に形成され、且つ、外輪側と保持器側とを径方向において対称形状としている。ここで、図10(b)中、βはテーパ角度、B´はテーパ終点47におけるテーパ幅、Cはテーパ長さを表す。
【0034】
一方、保持器18の柱部21は、高速回転による遠心力が作用すると、一対の円環部20に連結された軸方向両端部から軸方向中央部に亘って、図11(b)に示すように略直線的に変形する。なお、中央側ばね保持部23が形成される領域は、肉厚により実質的に変形しない。ここで、図11(a)中、Lは、柱部長さを表し、Aは、中央側ばね保持部23の軸方向寸法を表す。また、図11(b)は、保持器18が最も変形した状態を示しており、図中Bは、保持器の最大変形量を表し、αは、その時点の変形角度を表している。
【0035】
図12は、保持器最大変形時のばね及び保持器を示している。ここで、ばね40のテーパ終点47におけるテーパ幅B´は、保持器18の最大変形量Bを考慮して決定されるが、ばね40のテーパ角度βが保持器18の変形角度αより大きい場合、保持器18が徐々に変形していくと、ばね40のテーパ終点47と接触する前に、ばね40のテーパ開始点46の位置で干渉してしまう。このため、ばね40のテーパ形状を最大に活用することができない。
【0036】
このため、本実施形態では、保持器18が最大変形量まで変形した場合に、ばね40と保持器40との干渉を防止するように、ばね40のテーパ形状のテーパ角度βを保持器18の変形角度αより小さく設定している。即ち、
α>β ・・・(1)
【0037】
また、変形角度αと、テーパ角度βは、それぞれ以下のように与えられる。
α=tan−1(B/((L−A)/2)) ・・・(2)
β=tan−1(B´/C) ・・・(3)
【0038】
従って、式(1)〜(3)、及び、最大変形量Bを考慮して決定されるテーパ幅B´から、テーパ長さCが決定され、ばね40のテーパ形状を設定することができる。また、便宜上、テーパ幅B´を最大変形量Bとした場合には、式(1)〜(3)により、
tan−1(B/((L−A)/2)) > tan−1(B/C) ・・・(4)となり、2C>L−Aに設定される。なお、ばね40を端部側ばね保持部22のみで支持する場合には、A=0に設定される。
【0039】
このようにばね40のテーパ寸法を設定することで、保持器18の変形によるばね40と保持器18の干渉が防止され、クラッチ機能の低下を防止することができる。また、本実施形態のばね40は、径方向に対称形状としているので、ばね40の径方向において方向性がなくなり、組付け性を向上することができる。
【0040】
なお、本実施形態のばね40のテーパ寸法の設定は、図8(a)に示すばね40にも適用可能であり、第1実施形態の図4(b)や図5(c)に示す折曲部を有しない構成にも適用可能である。
【0041】
また、本実施形態では、便宜上、ばね40の軸方向端面と保持器18の中央側ばね保持部23の軸方向端面の位置を一致させて計算しているが、これらの位置が一致しない場合にも適用可能であり、ばね40の軸方向端面の位置における保持器18の変形量を基に計算すればよい。
【0042】
(第4実施形態)
次に、図13及び図14を参照して、本発明の第4実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は、一方向クラッチの保持器の形状を特徴とするものであり、ばねは、図17(b)に示した従来のものが適用されている。その他の部分については第1実施形態のものと同等であり、説明を省略或いは簡略化する。
【0043】
図13及び図14に示されるように、本実施形態の保持器18aは、第1実施形態と同様、一対の円環部20と、複数の柱部21とを備え、一対の円環部20の内周面には凸部31が形成され、各柱部21の軸方向端部と軸方向中央部には、一対の端部側ばね保持部22と中央側ばね保持部23がそれぞれ形成されている。
【0044】
保持器18aの柱部21は、ばね100´のローラ17との接触部103近傍において切り欠かれた逃げ部21aを有している。逃げ部21aは、ばね100´の接触部103の可動領域を避けるように切り欠いて形成されており、本実施形態では、中央側ばね保持部23の円周方向一側面の位置まで円周方向に切り欠かれている。なお、柱部21は、ばね100´のローラ17との接触部103近傍において、ばね100´の接触部103と干渉しないように柱部21の外面側を部分的に切り欠いてもよく、逃げ部21aのように全体的に切り欠いてもよい。
【0045】
このように保持器18aが構成される本実施形態においても、オーバーラン状態等、ローラ17が内輪15のランプ部15aの溝の深い側に位置する場合には、ばね100´はローラ17によって押圧されて屈曲しているが、保持器18aの柱部21は逃げ部21aを有しているので、ばね100´の接触部103と保持器18aの柱部21とが干渉することがなく、ばね19と保持器18間の摩擦を低減することができる。また、遠心力によって保持器18aが外輪側に撓んだ場合にも、保持器18aがばね100´の接触部103と干渉することが防止されるので、高速回転による運転環境においてもクラッチ性能が損なわれることがない。
【0046】
従って、本実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10によれば、保持器18aの柱部21は、ばね100´のローラ17との接触部103近傍において切り欠かれた逃げ部21aを有しているので、ばね100´が屈曲した際や保持器18aが外輪側に撓んだ際にも、ばね100´の接触部103と保持器18aとが干渉するのが抑制され、ばね100´と保持器18a間の摩擦を低減してより良好なクラッチ性能を得ることができる。
【0047】
ここで、本実施形態の保持器18aは、第1〜第3実施形態のばねと組み合わせて使用してもよく、例えば、図15の変形例に示されるように、第2実施形態のばね40とともに使用されてもよい。
【0048】
(第5実施形態)
次に、図16を参照して、本発明の第5実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態も、一方向クラッチの保持器の形状を特徴とするものであり、ばねは、図17(b)に示した従来のものが適用されている。その他の部分については第1実施形態のものと同等であり、説明を省略或いは簡略化する。
【0049】
図16に示されるように、本実施形態の保持器18bも、第1実施形態と同様、一対の円環部20と、複数の柱部21とを備え、一対の円環部20の内周面には図示しない凸部が形成され、各柱部21の軸方向両端部と軸方向中央部には、一対の端部側ばね保持部22´と中央側ばね保持部23がそれぞれ形成されている。
【0050】
また、本実施形態の保持器18bは、一対の円環部20の内側面で円周方向において各柱部21と整合する部分に、柱部21と略等しい円周方向幅で円環部20の外周面と略等しい高さを有する一対の剛性増加部50を有している。このため、一対の端部側ばね保持部22´は、中央側ばね保持部23との間にばね100´を保持するようにして、剛性増加部50の軸方向内側に連続して形成されている。これにより、ローラ17の軸方向長さL1は、ばね100´の軸方向長さL2、即ち、保持器18bの保持部軸方向長さより長く設定される。
【0051】
これら一対の剛性増加部50により、各柱部21の根元部分での剛性を向上させることができるので、遠心力によって保持器18bの各柱部21が撓むことが抑制され、保持器18bとばね100´との干渉が防止されるので、クラッチ性能が損なわれることがなく、特に、高速回転による運転環境においても有効である。
【0052】
また、本実施形態の剛性増加部50を有する保持器18bは、第4実施形態の逃げ部21aを有してもよく、また、第1〜第3実施形態のばね19,40が適用されてもよい。
【0053】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0054】
本実施形態では、外輪の内周面を円筒面、内輪の外周面をカム面としたが、外輪の内周面をカム面、内輪の外周面を円筒面とする構成であっても良い。
本実施形態では、一方向クラッチの内輪をスリーブ、一方向クラッチの外輪をプーリに圧入しているが、内輪をスリーブと、或いは外輪をプーリと一体に形成しても良い。
本実施形態では、クラッチ内蔵型プーリ装置はオルタネータの回転軸と従動プーリ間に装着されたが、スタータのプーリと回転軸間に装着されてもよく、この場合には、スリーブがプーリに対して所定方向に相対回転する傾向となる場合にのみ、スリーブとプーリとの間で回転力の伝達が自在となる。
【0055】
また、本発明の保持器によるばねの保持方法は、本実施形態のように柱部の端部側ばね保持部と中央側ばね保持部によって保持されてもよいし、一対の円環部に設けられたばね保持部によって保持されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 クラッチ内蔵型プーリ装置
11 スリーブ
12 プーリ
13 一方向クラッチ
14 サポート軸受
15 内輪
15a ランプ部
16 外輪
17 ローラ
18 保持器
19,40 ばね
21 柱部
21a 逃げ部
26,42 折曲部(最大応力が発生する部位)
27,43 押圧部
28,45 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が内嵌されるスリーブと、前記スリーブの径方向外側に該スリーブと同心に配置されたプーリと、前記スリーブの外周面と前記プーリの内周面との間に設けられ、前記プーリと前記スリーブの一方が他方に対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合のみ、前記プーリと前記スリーブとの間で回転力を伝達する一方向クラッチと、前記スリーブの外周面と前記プーリの内周面との間で前記一方向クラッチに対して軸方向に離間した位置に設けられ、前記プーリに加わるラジアル荷重を支承しつつ前記プーリと前記スリーブとの相対回転を可能とするサポート軸受と、を備え、
前記一方向クラッチは、前記スリーブと前記プーリのうちの一方の部材と共に回転する保持器と、前記保持器に保持された複数の係合子と、前記複数の係合子を係合する方向に押圧するばねと、を備え、
前記保持器は、一対の円環部と、該一対の円環部を連結する複数の柱部と、該一対の円環部の内側面で各柱部と整合する部分に設けられた一対の端部側ばね保持部と各柱部の軸方向中央部に設けられた中央側ばね保持部とを備え、
前記ばねは、前記一対の端部側ばね保持部と前記中央側ばね保持部に挟持される基部と、該基部の両側を屈曲部として該基部に対して鋭角に折れ曲がった一対の押圧部を備える板ばねである一方向クラッチ内蔵型プーリ装置であって、
前記保持器は、前記一対の円環部の内側面で各柱部と整合する部分に、前記柱部と略等しい円周方向幅で前記円環部の外周面と略等しい高さを有する一対の剛性増加部を有していることを特徴とする一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【請求項2】
前記保持器の柱部には、前記ばねの接触部の可動領域を避けるように切欠きが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【請求項3】
前記ばねには、前記押圧部の前記係合子との接触部近傍に、前記屈曲部の径方向幅よりも狭くなるように切欠きが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【請求項4】
前記押圧部の切欠きは、前記屈曲部側から前記接触部に向けて径方向幅を徐々に小さくしたテーパ角度β、テーパ幅B´、テーパ長さCのテーパ状切欠きであり、
前記保持器の柱部の長さをL、前記中央側ばね保持部の軸方向寸法をA、前記保持器が高速回転時に遠心力で変形する最大変形量をB、最大変形量B時の変形角度αとすると、
α>β
α=tan−1{B/((L−A)/2)}
β=tan−1(B´/C)
であることを特徴する請求項3に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−184852(P2012−184852A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151682(P2012−151682)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2010−276022(P2010−276022)の分割
【原出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】