説明

一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置

【課題】 一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において低温から高温までの広い温度範囲において、ロック性能と耐摩耗性を両立させる。
【解決手段】 プーリ12と、このプーリ12の内径側にプーリ12と同心に配置されたスリーブ11と、このスリーブ11とプーリ12との間に設けられる転がり軸受2,2及び一方向クラッチ3と、を備える一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、一方向クラッチ3に充填するグリースとして、Li複合石けんを増ちょう剤として配合し、粘度圧力係数が12GPa−1以上であるものを用いる。これにより、高温から低温までの広い温度範囲にわたる断続運転時にも熱硬化せず、耐摩耗性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に関し、特に低温から高温までの広い温度範囲において、ロック性能と耐摩耗性を両立できる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オルタネータ等の自動車用補機、補機駆動装置やエンジンのクランクシャフト等には、所定方向の回転力のみを伝達するために、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を用いることが知られている(特許文献1参照)。また、この一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を潤滑するためのグリースには、一般的に増ちょう剤としてウレア化合物を含有するウレア系グリースを用いることが知られている。
【特許文献1】特開2001−12513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、自動車に用いられる場合は、低温(約−40℃)から高温までの広い温度範囲で動作性に優れることが求められるが、上記従来例では、低温から高温までの広い温度範囲でのロック性能と耐摩耗性の両立を確保できない場合があった。具体的に、ウレア系グリースは、熱硬化する性質があるので、自動車のような断続運転で使用される環境下において、高温で使用された後に停止した場合、グリースが硬化するおそれがある。グリースが硬化すると、グリースの流動性が低下するため、低温時におけるクラッチのロック性能や、高温時の耐摩耗性が劣ってしまう可能性がある。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において低温から高温までの広い温度範囲において、ロック性能と耐摩耗性を両立させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1による一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、内径側部材と、前記内径側部材の外周に前記内径側部材と同心に配置された外径側部材と、前記内径側部材と前記外径側部材との間に設けられ、前記外径側部材及び前記内径側部材の一方が他方に対して所定方向に相対回転する場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチと、前記内径側部材と前記外径側部材との間に設けられ、前記内径側部材と前記外径側部材とを相対回転自在に支持する転がり軸受と、を備え、グリースにより潤滑される一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、前記一方向クラッチを潤滑するクラッチ用グリースは、金属複合石けんを増ちょう剤として含有するものであることを特徴とする。
【0005】
増ちょう剤として金属複合石けんを配合したグリースを用いれば、高温条件下でも熱硬化しないので、低温時のロック性能や高温時の耐摩耗性にも優れる。
本発明の請求項2による一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、請求項1において、前記クラッチ用グリースは、基油の25℃における粘度圧力係数が12GPa−1以上であることを特徴とする。
このように、基油の粘度圧力係数が12GPa−1以上のグリースであれば、圧縮率の小さいかたいグリースとなる。このため、一方向クラッチがロックする際に高圧となる部材表面にも潤滑膜が形成されるので、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に優れたロック性能及び耐摩耗性を付加できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のよれば、低温から高温までの広い温度範囲において、ロック性能と耐摩耗性を両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の構成について]
図1に、本実施形態に係る自動車用オルタネータに用いられる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を示す。
一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、スリーブ(内径側部材)11と、このスリーブ11の外周にスリーブ11と同心に配置されたプーリ(外径側部材)12と、このスリーブ11とプーリ12との間に設けられる転がり軸受2,2及び一方向クラッチ3と、を備える。
【0008】
プーリ12は、略円筒状の回転部材であり、外周には軸方向に沿う断面が波形となるように凹凸が形成され、不図示の無端ベルト(ポリVベルト)が掛け渡される。無端ベルトは、図示しないが、エンジンのクランクシャフトに取り付けられた駆動プーリにも掛け渡されており、この無端ベルトを介してエンジンのクランクシャフトの駆動力がプーリ12に伝達されるようになっている。
【0009】
スリーブ11は、図1ではオルタネータ軸Sに外嵌固定された筒状部材であり、このオルタネータ軸Sに回転力を伝達する。スリーブ11の軸方向中間部には、外径寸法の大きな大径部11Aが形成されている。なお、オルタネータ軸Sには発電用ローターが固定されており、オルタネータ軸Sの回転によって発電する。
一対の転がり軸受2,2は、外輪22と、内輪21と、転動体23と、転動体23を保持する保持器24と、を備え、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に生じるラジアル荷重を支持しつつ、スリーブ11とプーリ12との相対回転を自在としている。そして、本実施形態では外輪22と内輪21の間に形成される軸受空間G1には、本発明に係るグリース(組成については後述する)が充填され、この軸受空間G1を塞ぐように設けられた一対の接触形のシール部材25,25によって密封されている。
【0010】
一方向クラッチ3は、クラッチ用内輪31と、クラッチ用外輪32と、クラッチ用内輪31及びクラッチ用外輪32の間に配された複数のローラ33と、ローラ33を保持するクラッチ用保持器34と、を備える。
クラッチ用内輪31は、スリーブ11に締まり嵌めで外嵌固定された略円筒状部材であり、その外周には円周方向に向かうにつれて徐々に窪みの深くなる凹状のカム面31aが円周方向に複数等間隔に形成されている。
【0011】
また、クラッチ用外輪32は、プーリ12に締まり嵌めで内嵌固定された略円筒状部材であり、クラッチ用内輪31に対向する内周面は通常の円筒面32bとされている。この結果、クラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32との間隔は、カム面31aでは円周方向に向かうにつれて徐々に広くあるいは狭くなっている。また、クラッチ用外輪32の両端は、スリーブ11に向かって折り曲げられて鍔32aを形成し、クラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32の間に充填されるグリースのグリース溜りとしても機能する。
【0012】
これらクラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32との間のクラッチ空間G2には、クラッチ用保持器34に保持された複数のローラ33がそれぞれ転動及び円周方向に若干移動可能に配される。これとともに、転がり軸受2,2に充填したグリースとは異なる組成であるが、本発明に係るグリースが充填されている。
クラッチ用保持器34は、ローラ33,33間に配される柱部と、この柱部に固定された板状部材よりなるばねとを備え、合成樹脂で形成されており、ローラ33は、このばねによってクラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32との間隔が狭くなる方向に弾性的に押圧される。
【0013】
前記のような構成の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置はオルタネータ軸Sに取り付けられた状態で、次のように動作する。
無端ベルトの走行により回転するプーリ12の回転速度がオルタネータ軸Sの回転速度と同等以上であるときは、ローラ33がカム面31aの窪みの浅くなる方へ移動する傾向となる。この際、クラッチ用保持器34のばねにも押圧されることで、ローラ33がクラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32の間に楔状に食い込む(ロック状態)。これにより、プーリ12からスリーブ11へ回転力が伝達されるようになり、無端ベルトの駆動力がオルタネータ軸Sに伝達される。
【0014】
一方、無端ベルトの走行が減速し、慣性で回転するオルタネータ軸Sの回転速度よりも小さくなったときは、スリーブ11とプーリ12の相対回転の方向が反転し、ローラ33がカム面31aの窪みが深くなる方へ移動する傾向となる。このため、ロック状態が解除され、クラッチ用内輪31とクラッチ用外輪32との接続が切断される。この状態では、転がり軸受2,2によって支持されて、プーリ12がスリーブ11に対して相対回転するため(オーバラン状態)、無端ベルトの減速に従ってオルタネータ軸Sも減速することなく、そのままの速度で回転を継続する。この結果、エンジンのクランクシャフトの回転角速度が変動した場合でも、無端ベルトとプーリ12が擦れ合うことを防止できるので、鳴きと呼ばれる異音の発生や、摩耗による無端ベルトの寿命低下を防止できる。これとともに、オルタネータの発電効率の低下を防止できる。
【0015】
このような、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、転がり軸受2,2及び一方向クラッチ3は、本発明のグリースにより潤滑されるので、高温条件下で運転を行っても、熱硬化しないため、広い温度範囲において耐摩耗性及びロック性能に優れる。
なお、本発明を適用する一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、以上のような構成のものに限定されない。例えば、クラッチ用外輪32の内周面にカム面31aを設けたり、あるいは、クラッチ用外輪32を省略し、プーリ12の内周面を直接、一方向クラッチ3の摺動面として利用したりすることも可能である。同様に、クラッチ用内輪31を設けずに直接スリーブ11の外周面を一方向クラッチ3の摺動面としてもよい。
【0016】
また、前記実施形態では転がり軸受2の両端部に接触形のシール部材25,25を設けているが、転がり軸受2と一方向クラッチ3とに同じグリースを用いる場合には、転がり軸受2の一方向クラッチ3に向く方の端部にはシール部材25を設けなくてもよい。しかし、シール部材25を転がり軸受2の両端部に設けると、グリースが外部に漏れるのを効果的に抑制できるので、好ましい。また、本実施形態のように異なるグリースを用いる場合には、一方向クラッチ3に向く方の端部にシール部材25を設けると、それぞれのグリースが混ざり合うことによる悪影響を低減することができるので、好ましい。
【0017】
さらに、一対の転がり軸受2,2は玉軸受に限らず、ころ軸受を採用した場合であっても、さらにはころ軸受と玉軸受の双方を採用した場合であっても、同様の効果を得られる。
また、一方向クラッチとしてローラクラッチを使用した場合について述べたが、本発明はこの一方向クラッチとして、ローラの代わりにスプラグを用いたスプラグクラッチや、ローラの代わりにカムを用いたカムクラッチ等、従来から知られている他の構造の一方向クラッチを使用してもよい。
【0018】
なお、自動車用オルタネータに用いる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置について説明したが、本発明に係る一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置はオルタネータ用途のものに限定されない。例えば、自動車用オルタネータ以外のコンプレッサ、ウォータポンプ、冷却ファン等自動車用補機の従動軸に取り付け、補機駆動装置やエンジンからの所定方向の回転力を伝達させてもよい。あるいは、アイドリングストップ車に搭載するエンジンのクランクシャフト及び補機駆動装置の駆動軸等に装着し、エンジン又は補機駆動装置の一方が運転状態、他方が停止状態にある場合に、運転状態にある一方の回転力のみを伝達し、他方の駆動軸を回転させないようにするために、用いてもよい。また、スタータモータ等の駆動装置の回転軸に取り付けて、一方向のみの回転力を伝達するために用いるものであってもよい。
【0019】
[グリースについて]
本実施形態の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の軸受空間G1及びクラッチ空間G2に充填されるグリースは、金属複合せっけんを増ちょう剤として含有する。以下、組成について詳細に説明する。
(基油について)
本発明に係るグリースに用いる基油の種類は特に限定されず、通常グリースの基油として用られるものであれば使用することができる。好ましくは、低温流動性が良好な合成油を基油全量中の50質量%以上配合するとよい。また、基油の25℃における粘度圧力係数が12GPa−1以上であることが好ましい。さらに、低温条件下での使用に耐えるよう、基油の流動点が−35℃以下であることが好ましい。また、40℃における動粘度が10mm/s以上400mm/s以下であると好ましく、20mm/s以上250mm/s以下であるとより好ましく、25mm/s以上150mm/s以下であるとさらに好ましい。10mm/s未満であると、高温下で油膜が形成が不十分となるため、焼付きを生じるおそれがある。また、400mm/sを超えると、一方向クラッチがロックできなくなるおそれがある。
【0020】
上記の具体例としては、鉱油、合成油及び天然油が挙げられる。鉱油としては、鉱油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリ−α−オレフィン(1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンのコオリゴマーなど)、又はこれらの水素化物が挙げられる。芳香族系油としては、例えば、アルキルベンゼン(モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼンなど)、アルキルナフタレン(モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなど)が挙げられる。エステル系油としては、例えば、ジエステル油(ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルリシノレートなど)、芳香族エステル油(トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなど)、ポリオールエステル油(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、二塩基酸及び一塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油が挙げられる。エーテル系油としては、例えば、ポリグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなど)、フェニルエーテル油(モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなど)が挙げられる。その他の合成油としては、トリクレジルフォスフェート、シリコーン油などが挙げられる。また、前記天然油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油、又はこれらの水素化物が挙げられる。これらの基油は、単独または混合物として用いることができ、上述した好ましい粘度圧力係数、動粘度等の値に調整される。
【0021】
(増ちょう剤について)
本発明に係るグリースには、上述したように、増ちょう剤として金属複合石けんを用いる。金属複合石けんとしては、Li金属複合石けん、Na金属複合石けん、Ba金属複合石けん、Ca金属複合石けん、Al金属複合石けんなどから選択される金属複合石けん、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、Li複合石けんを配合することが好ましい。
【0022】
(混和ちょう度について)
JIS K2220で規定された混和ちょう度測定法で220〜350になるような混和ちょう度であることが好ましい。220未満であると流動性が悪いため、低温でのトルクが大きくなる。また、350を超えるとグリース漏れを発生しやすい。特に、転がり軸受2,2は、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の端部に備え付けられているため、グリースの混和ちょう度があまりに大きいと、軸受内のグリースが外部に流出してしまう。この場合には、軸受内部にグリースが不足するため潤滑不良から焼付きを生じたり、ベルトとプーリの間にグリースが付着してベルトがスリップしたりするおそれがある。このため、混和ちょう度を350以下とした。
【0023】
(添加剤について)
なお、本発明に係るグリースには、さらに性能を高めるため、必要に応じて公知の添加剤を含有することもできる。この添加剤としては、例えば、ゲル化剤(金属石けん、ベントン、シリカゲルなど)、酸化防止剤(アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛など)、極圧剤(塩素系、イオウ系、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブテンなど)、油性剤(脂肪酸、動植物油など)、さび止め剤(石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなど)、金属不活性剤(ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなど)、粘度指数向上剤(ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなど)が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて添加することができる。この際、添加剤などの添加量は、本発明の所望の目的を達成できれば特に限定されるものではないが、グリース中に約20質量%以下の範囲で含有させるとよい。
【0024】
(製法について)
また、本発明に係るグリースを調製する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。なお、加熱温度や撹拌、混合時間等の製造条件は、使用する基油や増ちょう剤、添加剤等により適宜設定される。また、添加剤を配合後十分撹拝し、均一分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するものも有効である。
なお、軸受空間G1に充填するグリースについては、本実施形態では上述の組成としたが、これに限定されず、他の組成のものを用いてもよい。
【実施例】
【0025】
[急加減速耐久試験]
本発明の効果を確認すべく、急加減速耐久試験を行ったので説明する。
本試験には、表1に示すような各組成の実施例及び比較例のグリースを供した。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、表1中、基油に用いた「DOS」は、ジ(2−エチルヘキシル)セバケートであることを示す。また、基油に用いた「5P4E」は、ポリフェニルエーテルであることを示す。
試験は、図1の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を用いて行った。転がり軸受2,2は、内径25mm、外径37mm、幅7mmの接触ゴムシール付き深溝玉軸受であり、これに試験対象のグリースを0.95g封入した。また、一方向クラッチ3は、内径27mm、外径37mm、幅50mmであり、これに試験対象のグリースを1.4g封入した。そして、稼動が断続的に繰り返される実際の使用状態を再現するため、図2に示すように、試験時間100時間を目標として、稼動状態のパターン(1)と停止状態のパターン(2)とを交互に繰り返して試験を行った。パターン(1)では、雰囲気温度150℃、ベルト張力980Nの条件で、スリーブ11の回転速度を0min−1から10000min−1まで変化させて1サイクル(15秒)とし、20時間連続回転させた。また、パターン(2)では、4時間回転を停止させた。試験後に、カム面31aの摩耗を観察して摩耗点に換算し、摩耗が微小なもの(摩耗点1以下)を合格とした(表2参照)。なお、試験は、各試験対象のグリースにつき、3例ずつ行った。
【0028】
【表2】

【0029】
試験結果を図3のグラフに示す。同図に示すように、増ちょう剤にLi複合石けんを用いた場合には、増ちょう剤にウレア化合物を用いた場合に比べて、全体的に摩耗点が低く、高温条件下での断続運転時にも摩耗が抑制されることが確認された。これは、金属複合石けんを増ちょう剤に配合したグリースが、ウレア系グリースに比べて熱硬化しにくいことによる。また、Li複合石けん及びウレア化合物のどちらを増ちょう剤に用いた場合にも、粘度圧力係数が大きいと摩耗が低減されることが確認された。特に、Li複合石けんを用いたグリースでは、粘度圧力係数が12GPa以上−1であると(実施例1及び実施例2)、摩耗微小で合格であり、優れた耐摩耗性を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を示す図である。
【図2】試験条件を説明するグラフである。
【図3】試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
11 スリーブ
11A 大径部
12 プーリ
2 転がり軸受
21 内輪
22 外輪
23 転動体
24 保持器
25 シール部材
3 一方向クラッチ
31 クラッチ用内輪
32 クラッチ用外輪
32a 鍔
33 ローラ
34 クラッチ用保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径側部材と、
前記内径側部材の外周に前記内径側部材と同心に配置された外径側部材と、
前記内径側部材と前記外径側部材との間に設けられ、前記外径側部材及び前記内径側部材の一方が他方に対して所定方向に相対回転する場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチと、
前記内径側部材と前記外径側部材との間に設けられ、前記内径側部材と前記外径側部材とを相対回転自在に支持する転がり軸受と、
を備え、グリースにより潤滑される一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、
前記一方向クラッチを潤滑するクラッチ用グリースは、金属複合石けんを増ちょう剤として含有するものであることを特徴とする一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。
【請求項2】
前記クラッチ用グリースは、基油の25℃における粘度圧力係数が12GPa−1以上であることを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−2008(P2010−2008A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162228(P2008−162228)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】