説明

一液型下塗塗料組成物及び塗装方法

【課題】貯蔵安定性に優れており、脆弱で吸い込みが多い無機質素材に塗装しても吸い込みが少なく、下地を補強することができ、劣化した各種旧塗膜上に塗り重ねても旧塗膜のリフティングを起こすことがなく、耐溶剤性に優れた塗膜を形成することができる一液型下塗塗料組成物及び塗装方法を提供する。
【解決手段】1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、カルボニル化合物と第1級アミノ基との脱水縮合反応により得られるケチミン類化合物、及び有機溶剤からなり、該エポキシ樹脂と該ケチミン類化合物とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.5〜5.0となる配合割合で含有し、該有機溶剤の95質量%以上が沸点150℃以上の有機溶剤であり、該エポキシ樹脂及び該ケチミン類化合物は該有機溶剤中に溶解しており、顔料を含有していない一液型下塗塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一液型下塗塗料組成物及び塗装方法に関し、より詳しくは、貯蔵安定性に優れており、脆弱で吸い込みが多い無機質素材に塗装しても吸い込みが少なく、下地を補強することができ、劣化した各種旧塗膜上に塗り重ねても旧塗膜のリフティングを起こすことがなく、下地と上塗塗料との付着性を向上させることができ、また、耐溶剤性に優れた塗膜を形成することができる一液型下塗塗料組成物及びこの塗料組成物を用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は各種特性、特に接着力が優れているので、従来から、塗料をはじめ、シール剤、接着剤等の各種分野に適用されている。しかしながら、通常使用されているエポキシ樹脂はそのほとんどが主剤と硬化剤とからなる二液型であり、混合後すぐに硬化反応が進むため、そのようなエポキシ樹脂を含む塗料の使用可能な時間が極めて短く、作業性に問題があった。
【0003】
このため、可使時間を長くする方法として、例えば、ブロックイソシアネート変性エポキシ樹脂等の潜在性硬化剤を使用する方法等が知られているが、該硬化剤は本来加熱硬化型であり、常温乾燥用としては実用上満足できるものではない。
【0004】
また、硬化剤なしで常温乾燥性を有するエポキシエステル樹脂等を含む一液型エポキシ樹脂塗料についても検討されている。しかし、このような一液型エポキシ樹脂塗料は空気酸化型であるため厚膜塗装であると塗膜内部が乾燥しないうちに塗膜表面が乾燥し、塗膜内部に溶剤が残留し、塗膜内部が十分に硬化しない、所謂中うみが発生しやすい。更に、一般的には、二液型エポキシ樹脂塗料で形成される塗膜に比べて耐溶剤性が劣り、この塗膜上に塗装する上塗塗料の種類によっては、チヂミが発生するため使用可能な上塗塗料が大きく限定されるといった問題があった。
【0005】
これらの問題を解決できる塗料として、エポキシ樹脂とケチミン類化合物と脱水剤と添加樹脂(変性エポキシ樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂等)とを含有する一液型エポキシ樹脂塗料組成物で、貯蔵安定性を良くする等のために、溶剤としてケトン系溶剤等の強溶剤を多量に含有した塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この強溶剤を多量に含有する塗料組成物を旧塗膜の上に塗装した場合に、旧塗膜が該塗料組成物中の溶剤に侵され、旧塗膜のリフティングが発生するといった問題があった。
【0006】
さらに、旧塗膜のリフティングが発生する問題を解決できる塗料組成物として、脂肪族炭化水素系溶剤及び沸点が148℃以上の高沸点芳香族炭化水素系溶剤から選ばれる炭化水素系溶剤を、有機溶剤中95重量%以上含有する有機溶剤を用いた一液型エポキシ樹脂塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、該塗料組成物には、着色顔料、体質顔料等の溶剤不溶物が含有されているため、吸い込みが多く、脆弱な素材や劣化した旧塗膜に塗装したときの含浸補強性が劣るため、下地の補強が不十分で経年で塗膜が剥離し易い等の問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−217859号公報
【特許文献2】特開2001−40281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、貯蔵安定性、作業性、乾燥性に優れており、脆弱で吸い込みが多い無機質素材に塗装しても吸い込みが少なく、下地を補強することができ、劣化した各種旧塗膜上に塗り重ねても旧塗膜のリフティングを起こすことがなく、下地と上塗塗料との付着性を向上させることができ、また、上塗り適正、耐溶剤性、耐水性、耐アルカリ性等に優れた塗膜を形成することができる一液型下塗塗料組成物及びこの塗料組成物を用いた塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究の結果、エポキシ−ケチミンの湿気硬化機構を利用し、沸点が150℃以上の有機溶剤を用い、且つ、着色顔料、体質顔料等の溶剤不溶物を含有しない組成物とすることにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の塗料組成物は、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、カルボニル化合物と第1級アミノ基との脱水縮合反応により得られるケチミン類化合物(B)、及び有機溶剤(C)からなり、該エポキシ樹脂(A)と該ケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.5〜5.0となる配合割合で含有し、該有機溶剤(C)の95質量%以上が沸点150℃以上の有機溶剤であり、該エポキシ樹脂(A)及び該ケチミン類化合物(B)は該有機溶剤(C)中に溶解しており、顔料を含有していないことを特徴とする一液型下塗塗料組成物である。
【0011】
また、本発明の塗装方法は、コンクリート、モルタル、フレキシブルボード、スレート、石膏ボード、珪酸カルシウムボード、ALC板、又は押し出し成形板の表面に、或いは劣化した各種旧塗膜上に上記の本発明の一液型下塗塗料組成物を塗装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一液型下塗塗料組成物は、貯蔵安定性、作業性、含浸補強性、乾燥性に優れており、脆弱で吸い込みが多い無機質素材に塗装しても吸い込みが少なく、下地を補強することができ、劣化した各種旧塗膜上に塗り重ねても旧塗膜のリフティングを起こすことがなく、下地と上塗塗料との付着性を向上させることができ、また、上塗り適正、耐溶剤性、耐水性、耐アルカリ性等に優れた塗膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明の一液型下塗塗料組成物は、各種無機質素材に塗装されると、硬化剤であるケチミン類化合物(B)が無機質素材中や空気中に含有されている水分によって第1級アミノ化合物に加水分解し、この第1級アミノ化合物とエポキシ樹脂(A)中のエポキシ基が反応することによって硬化し、優れた基材補強性を発揮する。
【0014】
更に、本発明の一液型下塗塗料組成物は、その組成物中の有機溶剤が旧塗膜のリフティングを起こさない溶剤であるので、劣化した旧塗膜に塗り重ねても旧塗膜のリフティングを起こさず、含浸補強効果及び上塗との付着性を向上させる効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の一液型下塗塗料組成物は、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、カルボニル化合物と第1級アミノ基との脱水縮合反応により得られるケチミン類化合物(B)、及び有機溶剤(C)からなり、該エポキシ樹脂(A)と該ケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.5〜5.0となる配合割合で含有し、該有機溶剤(C)の95質量%以上が沸点150℃以上の有機溶剤であり、該エポキシ樹脂(A)及び該ケチミン類化合物(B)は該有機溶剤(C)中に溶解しており、顔料を含有していないものである。
【0016】
<エポキシ樹脂(A)>
本発明で用いる、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)は後記の有機溶剤(C)に溶解可能なエポキシ樹脂であり、好ましくはエポキシ基を2個以上含有し、数平均分子量が約350〜3,000で、エポキシ当量が約80〜1,000であるエポキシ樹脂である。
【0017】
上記のようなエポキシ樹脂として、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、その他のグリシジル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂をアルキルフェノール又は脂肪酸によって変性させた変性エポキシ樹脂、アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ基導入アルキルフェノール又はアルキルフェノールノボラック型樹脂等を挙げることができる。
【0018】
上記のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、例えば、多価アルコール、多価フェノール等と過剰量のエピハロヒドリン又はアルキレンオキシドとを反応させて得ることができる。上記の多価アルコールの例として、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール等を挙げることができる。また、上記の多価フェノールの例として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ハロゲン化ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、テトラヒドロキシフェニルエタン、1,2,3−トリス(2,3−エポキシプロポキシ)プロパン、ノボラック型多価フェノール、クレゾール型多価フェノール等を挙げることができる。
【0019】
上記のグリシジルエステル型エポキシ樹脂として、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等を挙げることができる。
【0020】
上記のその他のグリシジル型エポキシ樹脂として、例えば、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができる。
【0021】
上記の脂環族エポキシ樹脂として、例えば、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、エポリードGT300(ダイセル化学工業(株)製、商品名、3官能脂環式エポキシ樹脂)、エポリードGT400(ダイセル化学工業(株)製、商品名、4官能脂環式エポキシ樹脂)、EHPE(ダイセル化学工業(株)製、商品名、多官能脂環式エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0022】
上記の変性エポキシ樹脂は、上記のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、その他のグリシジル型エポキシ樹脂又は脂環族エポキシ樹脂である変性前のエポキシ樹脂をアルキルフェノール及び脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の変性剤によって変性したエポキシ樹脂である。上記の変性前のエポキシ樹脂はエポキシ当量が平均で約250以下であることが好適である。
【0023】
上記の変性剤として使用できるアルキルフェノールとしては炭素原子数約2〜18のアルキル基を有するアルキルフェノールが好ましく、その具体例として、パラt−ブチルフェノール、パラオクチルフェノール、ノニルフェノール等を挙げることができる。また、上記の変性剤として使用できる脂肪酸としては乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸が好適であり、その具体例として、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、キリ油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、オイチシカ油脂肪酸、魚油脂肪酸、ハイジエン脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸等を挙げることができる。上記の変性剤であるアルキルフェノール及び脂肪酸はそれぞれ1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記のような変性エポキシ樹脂は、上記の変性前のエポキシ樹脂と上記の変性剤との混合物を、必要に応じて触媒の存在下で、100〜200℃に加熱することにより得ることができる。変性前のエポキシ樹脂と変性剤との反応は、(エポキシ樹脂中の合計エポキシ基数):(アルキルフェノール中の合計水酸基数及び脂肪酸中の合計カルボキシル基数の総合計数)の比で、1:0.2〜0.6の範囲内となるように配合して反応させることが好適である。
【0025】
<ケチミン類化合物(B)>
本発明で用いる、カルボニル化合物と第1級アミノ基との脱水縮合反応により得られるケチミン類化合物(B)は、カルボニル化合物でブロックされた第1級アミノ基を1分子中に少なくとも1個有するポリアミンであり、アルジミン化合物を包含する。該ケチミン類化合物(B)は後記の有機溶剤(C)に溶解可能であり、上記のエポキシ樹脂(A)の硬化剤である。この「カルボニル化合物でブロックされた第1級アミノ基」は、例えば水分の存在によって容易に加水分解して遊離の第1級アミノ基に変わりうる保護されたアミノ基であり、典型的には、式
−N=CR12
(式中、R1は水素原子、又はアルキル基、シクロアルキル基等の1価の炭化水素基を表し、R2はアルキル基、シクロアルキル基等の1価の炭化水素基を表す。)で示すことができる。ここで、R1が水素原子の場合、アルジミン化合物である。
【0026】
カルボニル化合物でブロックされる前のポリアミン化合物は、脂肪族系、脂環族系及び芳香族系のいずれのものであってもよい。また、第1級アミノ基を有する限りはポリアミド類であってもよい。該ポリアミン化合物は、エポキシ樹脂と硬化反応を行う第1級アミノ基を有することが必要であるが、一般的には約2,000以下、好ましくは約30〜約1,000の範囲内の第1級アミノ基当量を持つことが有利である。また、該ポリアミン化合物は、一般的には約5,000以下、好ましくは約3,000以下の範囲内の数平均分子量を有することが好適である。
【0027】
上記のようなポリアミン化合物として、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等の脂肪族ポリアミン類;メタキシレンジミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;イソホロンジアミン、シクロヘキシルプロピルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン等の脂環族ポリアミン類;分子末端に第1級アミノ基を有するポリアミン類等を挙げることができる。
【0028】
上記のポリアミン化合物の中でも分子中に第2級アミノ基を含有しない、即ち第1級アミノ基のみを有するポリアミン化合物をケチミン化した化合物は、エポキシ樹脂(A)と混合した後の貯蔵安定性が良いことから特に好適である。このため分子中に第2級アミノ基を有するケチミン類化合物を使用する場合には、第2級アミノ基を前記したエポキシ樹脂と反応させたアダクト化合物として使用することが望ましい。
【0029】
上記のポリアミン化合物をケチミン化するために使用し得るカルボニル化合物として、通常用いられている任意のケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。また、ポリアミン化合物をアルジミン化するために使用し得るカルボニル化合物として、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒドを挙げることができる。
【0030】
ポリアミン化合物とカルボニル化合物との反応はそれ自体公知の方法によって実施することができ、その際、存在する第1級アミノ基の実質的にすべてがカルボニル化合物と反応するような量的割合及び反応条件を用いることが望ましい。該反応は脱水反応であり、これを容易に進行させるためには、カルボニル化合物としてメチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンのような水溶性に乏しくかつ立体障害の小さいケトン類を使用することが一般的に有利である。
【0031】
本発明の一液型下塗塗料組成物においては、上記のエポキシ樹脂(A)と上記のケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.5〜5.0となる配合割合、好ましくは0.85〜3.0となる配合割合で含有する。この範囲から外れる配合割合で用いると、塗膜の耐溶剤性や非粘着性、耐水性等の性能が低下するので好ましくない。
【0032】
本発明の一液型下塗塗料組成物には、塗膜の乾燥性を向上させるために、必要に応じて、ウレタン変性エポキシ樹脂及び/又はキシレン樹脂、トルエン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる常温で固形である樹脂を配合することができる。
【0033】
<有機溶剤(C)>
本発明の一液型下塗塗料組成物においては、塗料組成物中の固形分を均一に溶解させ、粘度を調整するために有機溶剤(C)を使用する。有機溶剤(C)として、塗料組成物を旧塗膜の上に塗り重ねたときに旧塗膜のリフティングを起こさない点と、低臭気である点を考慮して、該有機溶剤(C)の95質量%以上が沸点150℃以上の有機溶剤、好ましくは沸点が150℃以上の脂肪族炭化水素系溶剤70〜90質量%と沸点が150℃以上の芳香族炭化水素系溶剤30〜10質量%とからなる混合有機溶剤を用いる。
【0034】
沸点が150℃以上の脂肪族炭化水素系溶剤の具体例として、例えばミネラルスピリット、ミネラルターペン、ホワイトスピリット、イソパラフィン、IPソルベント1620、IPソルベント2028、IPソルベント2835(「IPソルベント」は出光石油化学株式会社製の商品名)、n−ノナン、イソノナン、n−デカン、n−ドデカン等の溶解力が小さく、臭気が少ない脂肪族炭化水素系溶剤を挙げることができる。これらの脂肪族炭化水素系溶剤は1種単独で用いても、2種以上を併用することもできる。
【0035】
沸点が150℃以上の芳香族炭化水素系溶剤の具体例として、例えばソルベントナフサ、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200(「ソルベッソ」はエクソンモービル有限会社製の商品名)、スワゾール1000、スワゾール1500、スワゾール1800(「スワゾール」はコスモ石油株式会社製の商品名)等を挙げることができる。これらの芳香族炭化水素系溶剤は1種単独で用いても、2種以上を併用することもできる。
【0036】
本発明の一液型下塗塗料組成物においては、有機溶剤の一部として上記の脂肪族炭化水素系溶剤にも芳香族炭化水素系溶剤にも該当しないその他の有機溶剤を含有していてもよい。ただし、その他の有機溶剤の含有量は、有機溶剤中5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。その他の有機溶剤の含有量が多くなると、旧塗膜に塗り重ねたときに旧塗膜のリフティングを起こしやすくなり、臭気も強くなる。
【0037】
本発明の一液型下塗塗料組成物においては、旧塗膜適正を考慮すると、最も好ましくは、沸点が150℃以上の脂肪族炭化水素系溶剤70〜90質量%と沸点が150℃以上の芳香族炭化水素系溶剤30〜10質量%とからなる混合有機溶剤を用いる。
【0038】
本発明の一液型下塗塗料組成物中の有機溶剤(C)の含有量は、特に限定されるものではなく、塗料粘度や塗装状態を適性範囲に保持できる量であればよい。通常、塗料組成物中に20〜90質量%となる量で配合する。
【0039】
本発明の一液型下塗塗料組成物は、上記したエポキシ樹脂(A)、ケチミン類化合物(B)及び有機溶剤(C)を必須成分として含有するものであり、さらに必要に応じて、増粘剤、可塑剤、分散剤、消泡剤等を含有することができるが、基板の吸い込みを防止し、脆弱な素材や劣化した旧塗膜に塗装したときの含浸補強性を増強するために、顔料を含有しないことが必要である。
【0040】
本発明の一液型下塗塗料組成物は、コンクリート、モルタル、フレキシブルボード、スレート、石膏ボード、珪酸カルシウムボード、ALC板、押し出し成形板等の無機質素材面又はこれらの素材の旧塗膜面、その他の基材表面に塗装できる。塗装方法としては、刷毛塗り、ローラーブラシ塗り、スプレー塗装、各種コーター塗装等の一般的な方法を用いることができる。
【0041】
なかでも本発明の一液型下塗塗料組成物を吸い込みの多い脆弱な素地に塗装した場合には、吸い込みを止め、下地を補強するという効果を発揮し、また、旧塗膜面上に塗装した場合には、旧塗膜面のリフティングを起こさないという効果も発揮することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。実施例及び比較例において「部」は特に断りがない限り「質量部」を示す。
【0043】
実施例1
容器に、「エピコート168V70」(ジャパンエポキシレジン株式会社製の商品名、変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、固形分70質量%)100部、「ニューソルベントA」(日本石油株式会社製の商品名、ミネラルスピリット)100部、「スワゾール1000」(コスモ石油株式会社製の商品名、C9芳香族炭化水素系溶剤を主成分とする沸点160〜170℃の有機溶剤)30部、及び「アデカハードナーEH235SK−5」(旭電化株式会社製の商品名、ポリエチレンポリアミン類のケチミンのHAWS溶液、固形分70質量%)27部を仕込み、撹拌混合して塗料組成物を得た。
【0044】
実施例2〜6及び比較例1〜4
塗料組成物の配合組成を第1表に示す通りとした以外は実施例1と同様に操作して各塗料組成物を得た。ただし、実施例4〜6においては、「エピコート168V70」の代わりに「エピクロン5900−60」(大日本インキ株式会社製の商品名、変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、固形分60質量%)を用い、比較例3においては、「アデカハードナーEH235SK−5」の代わりに「ダイトクラールD−6868」(大都産業株式会社製の商品名、変性ポリアミドアミン)を用いた。
【0045】
比較例5
容器に、「エピコート168V70」100部、ビニルトリメトキシシラン20部、ケイ酸マグネシウム70部、二酸化チタン50部、「ニューソルベントA」250部、「スワゾール1000」80部を順次仕込み混合したものを、サンドミルにてツブが60μm以下(JIS K5600−2−5による)となるまで顔料分散を行った。この顔料分散物500部に「アデカハードナーEH235SK−5」24部を仕込み、撹拌混合して塗料組成物を得た。
【0046】
比較例6
塗料組成物の配合組成を第1表に示す通りとした以外は比較例5と同様に操作して塗料組成物を得た。
【0047】
試験例
上記の実施例1〜6及び比較例1〜6で得た塗料組成物について、下記の試験方法に基づいて各種試験を行った。その試験結果は第1表に示す通りであった。
【0048】
<貯蔵安定性>
1リットルの丸缶に実施例1〜6及び比較例1〜6で得た各々の塗料組成物800gを採取し、密封して50℃で1か月間放置した後の塗料の状態を目視で観察した。評価は下記の基準に従った。
○:異常なし、△:増粘、×:ゲル化。
【0049】
<耐溶剤性>
3mm×70mm×150mmのスレート板に実施例1〜6及び比較例1〜6で得た各々の塗料組成物を塗布量がスレート板の一表面積(70mm×150mm)当たり1.0gとなるように刷毛で塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で16時間乾燥させた。この塗布面上に、弱溶剤型ウレタン樹脂塗料「DNTウレタンマイルドクリーン」(大日本塗料株式会社製)を温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で刷毛で二回塗りを行った。1回塗り当たりの塗布量はスレート板の一表面積(70mm×150mm)当たり1.0g、塗装間隔は16時間で行った。この塗装板を温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中に7日間放置した後、その塗布面上にキシレンを滴下して塗布面状態を目視で観察した。評価は下記の基準に従った。
○:異常なし、×:ちぢみが発生した。
【0050】
<含浸補強性>
6mm×70mm×150mmの低密度珪酸カルシウム板(比重0.8)に実施例1〜6及び比較例1〜6で得た各々の塗料組成物を塗布量が珪酸カルシウム板の一表面積(70mm×150mm)当たり2.0gとなるように刷毛で塗布し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で16時間乾燥させた。この塗布面上に、弱溶剤型ウレタン樹脂塗料「DNTウレタンマイルドクリーン」を温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中で刷毛で二回塗りを行った。1回塗り当たりの塗布量は珪酸カルシウム板の一表面積(70mm×150mm)当たり1.0g、塗装間隔は16時間で行った。この塗装板を温度23℃、湿度50%RHの雰囲気中に7日間放置した後、格子間隔を2mmとするJIS K5600−5−6による付着性試験を行った。評価は下記の基準に従った。
○:分類0または1、△:分類2または3、×:分類4または5。
【0051】
<旧塗膜適性>
3mm×70mm×150mmのスレート板に非水分散型アクリル樹脂塗料「ビルデック」(大日本塗料株式会社製)を1回当たりの塗布量がスレート板の一表面積(70mm×150mm)当たり1.0gとなるように刷毛で2回塗布し、温度50℃の雰囲気中で7日間乾燥させ、旧塗膜塗装板を作製した。この旧塗膜塗装板に実施例1〜6及び比較例1〜6で得た各々の塗料組成物を刷毛で塗布量がスレート板の一表面積(70mm×150mm)当たり1.0gとなるように塗装し、旧塗膜の溶解程度を観察した。評価は下記の基準に従った。
○:旧塗膜の溶解なし、×:旧塗膜の溶解あり。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1〜6で得られた本発明の一液型下塗塗料組成物は、貯蔵安定性、耐溶剤性、含浸補強性、旧塗膜適性のいずれにおいても良好な結果であった。これに対して、沸点が150℃未満の有機溶剤を用いた比較例1で得られた塗料組成物及び沸点が150℃未満の有機溶剤が50質量%を占める有機溶剤を用いた比較例2で得られた塗料組成物では旧塗膜適性が不良であった。ケチミン類化合物を用いずに変性ポリアミドアミンを用いた比較例3で得られた塗料組成物では貯蔵安定性が不良であった。エポキシ樹脂(A)とケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.3となる配合割合で含有する比較例4で得られた塗料組成物では耐溶剤性が不良であった。顔料を含有する比較例5及び6で得られた塗料組成物では貯蔵安定性、含浸補強性が不良であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(A)、カルボニル化合物と第1級アミノ基との脱水縮合反応により得られるケチミン類化合物(B)、及び有機溶剤(C)からなり、該エポキシ樹脂(A)と該ケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.5〜5.0となる配合割合で含有し、該有機溶剤(C)の95質量%以上が沸点150℃以上の有機溶剤であり、該エポキシ樹脂(A)及び該ケチミン類化合物(B)は該有機溶剤(C)中に溶解しており、顔料を含有していないことを特徴とする一液型下塗塗料組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)とケチミン類化合物(B)とを、エポキシ樹脂の合計エポキシ基数に対するケチミン類化合物の合計活性水素数の比(活性水素数/エポキシ基数)が0.85〜3.0となる配合割合で含有することを特徴とする請求項1記載の一液型下塗塗料組成物。
【請求項3】
有機溶剤(C)が、沸点が150℃以上の脂肪族炭化水素系溶剤70〜90質量%と沸点が150℃以上の芳香族炭化水素系溶剤30〜10質量%とからなることを特徴とする請求項1又は2記載の一液型下塗塗料組成物。
【請求項4】
コンクリート、モルタル、フレキシブルボード、スレート、石膏ボード、珪酸カルシウムボード、ALC板、又は押し出し成形板の表面に請求項1〜3の何れかに記載の一液型下塗塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
劣化した各種旧塗膜上に請求項1〜3の何れかに記載の一液型下塗塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2006−307050(P2006−307050A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132504(P2005−132504)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】