説明

一酸化炭素の化学的酸化用触媒

【課題】一酸化炭素の化学的酸化反応に対して高い活性と良好な選択性を示し、しかも比較的低コストで、広い温度範囲において優れた性能を発揮できる一酸化炭素の化学的酸化用触媒を提供する。
【解決手段】下記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする、一酸化炭素の化学的酸化用触媒:化学式(1):


(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、又は基:−R−COOM(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子又はアルキル基である)を示し、R〜Rの少なくとも一つは基:−R−COOMである)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択性に優れた一酸化炭素の化学的酸化用触媒に関するものであり、特に、少ない触媒の使用量で幅広い温度範囲において高い活性を有する一酸化炭素の化学的酸化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、作動温度が低いために取り扱いが容易であり、起動時間が速い等、起動性、運転操作性にも優れ、更に、電流密度が高く、小型軽量化が可能であること等から、小容量電源や移動電源として注目されている。
【0003】
しかしながら、固体高分子形燃料電池は、通常、80℃以下の低温で運転されるため、そのアノードでは、燃料中に含まれる一酸化炭素による被毒が顕著であり、使用中に触媒活性が低下するという欠点がある。例えば、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる水素を燃料とする場合には、改質によって生じた一酸化炭素が白金に強く吸着して、触媒機能を大きく低下させるという問題がある。このため、燃料である水素中に含まれる一酸化炭素は、10ppm以下に低減させる必要がある。
【0004】
通常、改質により得られた水素には、数%の一酸化炭素が含まれており、2段の水性ガ
スシフト反応によって処理されるが、それでも1%程度の一酸化炭素が残存する。
【0005】
この残存一酸化炭素は、燃料である水素を酸化することなく、一酸化炭素だけを選択的に酸化できる選択酸化触媒を用いることによって酸化除去することが可能である。
【0006】
これまで、このような選択酸化触媒としては、白金、ルテニウムを中心に、パラジウム、ロジウム等の貴金属を金属酸化物上に、通常、0.5〜1%程度担持させた触媒が用いられてきた(下記特許文献1〜5等参照)。しかしながら、これらの貴金属は高価である
ため、その使用量の削減が求められている。更に、従来知られている一酸化炭素の酸化用触媒を用いる場合には、一酸化炭素の酸化反応と同時に水素の酸化反応も進行するために、エネルギーのロスや望ましくない発熱を生じるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−279357号公報
【特許文献2】特開2008−39425号公報
【特許文献3】特開2007−186381号公報
【特許文献4】特開2006―116372号公報
【特許文献5】特開2002−263501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した様な従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、一酸化炭素の化学的酸化反応に対して高い活性と良好な選択性を示し、しかも比較的低コストで、広い温度範囲において優れた性能を発揮できる一酸化炭素の化学的酸化用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の化学
式で表されるロジウムポルフィリン化合物が、一酸化炭素の化学的酸化反応に対して良好な選択性と高活性を有することを見出した。特に、このロジウムポルフィリン化合物をカーボンなどの担体に担持させる場合には、活性成分であるロジウム金属を原子状態で分散させることができ、少ない貴金属成分の使用量で、一酸化炭素の化学的酸化反応に対して優れた性能を発揮できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の一酸化炭素の化学的酸化用触媒を提供するものである。
1. 下記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリン化合物及び化学式(2)で表されるロジウムポルフィリン化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種のロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする、一酸化炭素の化学的酸化用触媒:
(i)化学式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、又は基:−R−COOM(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子
又はアルキル基である)を示し、R〜Rの少なくとも一つは、基:−R−COOM
ある)、
(ii)化学式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12は、同一または異なって、それぞれアルキル基、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1,R4,R7及びR10は、同一又は異なって、それぞれ、
置換基として水酸基又はカルボキシル基を有するフェニル基を示す。)。
2. 化学式(1)において、R〜Rの内の2個以上が基:−R−COOM2であるロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする上記項1に記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
3. 化学式(2)において、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12が全て水素原子であるロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする上記項1に記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
4. ロジウムポルフィリンが担体に担持されたものである上記項1〜3のいずれかに記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
5. 一酸化炭素及び酸素を含む混合ガスを上記項1〜4のいずれかの記載の触媒と接触さ
せることを特徴とする、一酸化炭素の化学的酸化方法。
6. 混合ガスが、燃料電池用アノードガスである上記項5に記載の一酸化炭素の化学的酸化方法。
7. 上記項1〜4のいずれかの記載の触媒を充填した反応器を含む、燃料電池用アノー
ドガス中の一酸化炭素酸化の除去装置。
【0015】
本発明の一酸化炭素の化学的酸化用触媒は、下記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリン化合物及び化学式(2)で表されるロジウムポルフィリン化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種のロジウムポルフィリン化合物を有効成分とするものである:
(i)化学式(1):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基又は基:−R−COOM(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子又
はアルキル基である)を示し、R〜Rの少なくとも一つは、基:−R−COOMであ
る)、
(ii)化学式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12は、同一または異なって、それぞれアルキル基、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1,R4,R7及びR10は、同一又は異なって、それぞれ、
置換基として水酸基又はカルボキシル基を有するフェニル基を示す。)。
【0020】
以下、まず、本発明触媒の有効成分であるロジウムポルフィリン化合物について具体的に説明する。
【0021】
ロジウムポルフィリン化合物
(i)化学式(1)
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるロジウムポルフィリン化合物では、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、又は基:−R−COOM(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子又はアルキル基である)を示す。特に、化学式(1
)の化合物では、R〜Rの少なくとも一つが、基:−R−COOMであることが重要で
あり、特に、R〜Rの内の2個以上が基:−R−COOMであることが好ましい。この
様なロジウムポルフィリン化合物は、一酸化炭素の化学的酸化反応に対して高い活性を有するものである。
【0024】
上記化学式(1)において、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。
【0025】
基:−R−COOMにおいて、R9で表されるアルキレン基としては、例えばメチレン、
エチレン、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、1−メチルトリメチレン、メチルメチレン、エチルメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基を例示できる。M2で表されるアルキル基は、上記したものと同様である。
【0026】
上記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリンの内で、R及びRが、基:−R
−COOMである化合物は、特に優れた選択性と高い活性を有するものである。
【0027】
(ii)化学式(2)
【0028】
【化6】

【0029】
で表されるロジウムポルフィリン化合物では、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12は、同一または異なって、それぞれアルキル基、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1,R4,R7及びR10は、同一又は異なって、それぞれ、置換基として水酸基又はカルボキシル基を有するフ
ェニル基を示す。
【0030】
上記化学式(2)で表される化合物では、特に、メソ位に置換基として水酸基又はカルボキシル基を有するフェニル基が存在することが重要である。この様なメソ位に特定の置
換基を有するフェニル基が存在することによって、一酸化炭素の化学的酸化反応に対する選択性及び活性が良好となる。
【0031】
化学式(2)におけるアルキル基としては、上記化学式(1)と同様の基を例示できる。また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などを例示できる。
【0032】
化学式(2)で表される化合物は、特に、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12が、水素原子であることが好ましい。
【0033】
化学式(1)で表されるロジウムポルフィリン化合物と化学式(2)で表されるロジウムポルフィリン化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0034】
一酸化炭素の化学的酸化用触媒
上記化学式(1)又は(2)で表されるロジウムポルフィリン化合物は、下記式
CO+1/2O → CO
で表される一酸化炭素の化学的酸化反応に対する触媒として優れた活性を有し、しかも選択性が良好である。このため、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる燃料電池用改質ガス中の一酸化炭素ガスの濃度低減等の用途に用いる場合に、水素の酸化反応を殆ど進行させることがなく、一酸化炭素の酸化反応を選択的に進行できる点で有効に利用できる。
【0035】
上記したロジウムポルフィリン化合物は、一酸化炭素の化学的酸化用触媒としてそのままでも使用可能であるが、特に、担体に担持させることにより、ロジウム金属を原子状態で均一に分散させることが可能となり、一酸化炭素の化学的酸化反応に対してより高い触媒活性を有するものとなる。その結果、従来の貴金属担持触媒と比較して触媒の担持量が少ない場合であっても、一酸化炭素の選択的な化学的反応に対して高い触媒活性を発揮でき、触媒金属量を大きく低減できる。
【0036】
担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から触媒担体として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料や各種金属酸化物等を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、上記化学式で表されるロジウムポルフィリンとの相互作用が大きく、ロジウムポルフィリンを分子状態で安定化させる働きが強く、比表面積も大きいために、担体として特に好ましい物質である。
【0037】
担体の形状などについては特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。また、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が100〜800m/g程度の範囲内にあるものが好ましく、200〜300m/g程度の範囲内にあるものがより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを用いることができる。
【0038】
担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0039】
例えば、溶解乾燥法では、ロジウムポルフィリンを有機溶媒に溶解させ、この溶液に担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体にロジウムポルフィリンを吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中にロジウムポルフィリンが多量に含まれる場合には、平衡に達するまでロジウムポルフィリンを担体に吸着させた後、濾過することによって、担体に吸着していないロジウムポルフィリンを除去して、該担体と相互作用
しているロジウムポルフィリンのみを該担体の表面に残すことができる。
【0040】
この方法では、有機溶媒としては、ロジウムポルフィリンを溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、エタノール等の低級アルコールを好適に用いることができる。
【0041】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、担体との相互作用の弱いロジウムポルフィリンを洗い流すことができ、担体に強固に吸着しているロジウムポルフィリンのみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0042】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法などを公知の方法を採用できる。
【0043】
担体上に担持させるロジウムポルフィリンの量については、特に限定はなく、従来の金属担持触媒と同様に、担持触媒全体を基準として、0.5〜1重量%程度のロジウム金属成分の担持量で用いても良いが、0.2〜0.4重量%程度という非常に少ないロジウム金属成分担持量においても、優れた触媒活性を発揮できる。
【0044】
一酸化炭素の化学的酸化方法
本発明の触媒は、一酸化炭素の化学的酸化反応に対して高い活性を有するものである。反応方法については特に限定はなく、一酸化炭素と酸素を含む混合ガスを本発明の触媒に接触させることができる方法であればよい。
【0045】
例えば、反応器に触媒を充填し、一酸化炭素と酸素を含む混合ガスを該反応器内に流通させる方法によって、一酸化炭素の化学的酸化反応を進行させることができる。
【0046】
この際、触媒の形状については特に限定はないが、例えば、粉末状、ハニカム状、シート状等として用いることができる。
【0047】
反応ガス中の酸素濃度については特に限定されず、一酸化炭素を完全に酸化するための必要量以上の酸素が含まれていればよい。例えば、一酸化炭素の1/2〜3倍程度、好ましくは1.5〜3倍程度のモル濃度の酸素が存在すればよい。
【0048】
反応温度については、特に限定的ではないが、本発明の触媒によれば、特に、200℃以
下という比較的低い温度で一酸化炭素の酸化反応を進行させることができる。また、通常、一酸化炭素の酸化反応は、大きな発熱を伴うために触媒層温度を狭い範囲に固定することは困難であるが、本発明の触媒は、例えば、温度幅が50℃程度以上という広い温度範囲においても優れた活性を発揮できるので、触媒層の温度範囲を狭い範囲に固定する必要がなく、実用性の高い触媒といえる。
【0049】
触媒層の温度範囲は、通常、80〜200℃程度の範囲とすることができるが、高い選択率とするためには、140〜200℃程度とすることが好ましい。
【0050】
触媒の使用量は、混合ガス中の一酸化炭素濃度、反応条件等に応じて適宜設定すればよい。例えば、触媒を充填した反応装置に一酸化炭素と酸素を含む混合ガスを通過させる方法では、反応系に供給される全ガス量の空間速度(SV)を、10,000〜100,000hr-1
ml/g・cat(触媒1g当たりの空間速度)程度の範囲内とすればよい。
【0051】
本発明の触媒は、特に、一酸化炭素を含有する改質ガス中の一酸化炭素を選択的に酸化除去する方法において、一酸化炭素の化学酸化用触媒として有効に用いることができる。
一酸化炭素を含有する改質ガスとしては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる水素及び一酸化炭素を含む燃料電池用燃料ガスを例示できる。この様なガスの具体例としては、H2 : 40-75モル%程度, CO2 : 20-25モル%程度, CO : 0.5-2モル%程度, H2O : 0-30モル%程度の組成を有する改質ガスを例示できる。本発明の触媒は、この様な
CO、HO等の触媒毒となる物質が存在する場合も、活性が殆ど低下することがない点で非常に有用性の高い触媒である。
【0052】
この様な改質ガスについて、一酸化炭素1モルに対して、1/2モル以上の酸素を添加して本発明の触媒と接触させることによって、改質ガス中に含まれる一酸化炭素を選択性よく酸化して、一酸化炭素濃度を低下させることができる。特に、一酸化炭素1モルに対して、1モル以上の酸素を添加することが好ましい。
【0053】
従って、本発明の一酸化炭素の化学的酸化用触媒は、例えば、改質ガスをアノードガスとする固体高分子形燃料電池において、アノードガスに含まれる一酸化炭素を酸化除去するための一酸化炭素酸化除去装置における一酸化炭素酸化用触媒として有効に用いることができる。この様な一酸化炭素酸化除去装置としては、例えば、本発明の触媒を充填した反応管等の反応器を含む装置を用いることができる。
【発明の効果】
【0054】
以上の通り、本発明の触媒は、一酸化炭素の化学的酸化用触媒として優れた活性を有するものであり、水素を含む混合ガス中において、一酸化炭素を選択性良く酸化することができる。
【0055】
特に、本発明の触媒は、少ない触媒成分の使用量で優れた活性を有し、しかも広い温度範囲において使用可能であり、更に、CO、HO等の触媒毒となる物質が存在する場合にも活性が殆ど低下しない点において、非常に有用性の高い触媒である。
【0056】
よって、本発明の触媒を用いることにより、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる改質ガス中の一酸化炭素濃度を効率良く低下させることができ、改質ガスを燃料とする固体高分子形燃料電池において、アノード触媒の触媒活性の低下を抑制して長期間安定な性能を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1で得られた各触媒について、触媒層温度とCO転化率との関係を示す図面。
【図2】実施例1で得られた各触媒について、反応ガス中の酸素濃度と反応層温度100〜200℃における最大CO転化率との関係を示すグラフ。
【図3】Rh(TCPP)を触媒成分とする担持触媒について、水蒸気を含有しない反応ガスを用いた場合と、水蒸気を含有する反応ガスを用いた場合における触媒層温度とCO転化率との関係を示すグラフ。
【図4】Rh(TCPP)を触媒成分とする担持触媒を用いた長期安定性試験において、反応時間と出口CO濃度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0059】
実施例1
触媒の調製方法
下記各化学式に示すロジウム(3,7,12,17-テトラメチルポルフィリン-2,18-ジプロパン
酸)(Rh(DP))、ロジウムテトラ(メソ-テトラフェニルポルフィナト3,5,3’,5’, 3’’,
5’’,3’’’, 5’’’オクタヒドロキシル)(Rh(T(3,5-(OH)2PP)))、及びロジウム(メソ-テトラフェニルポルフィナト4,4’,4’’,4’’’テトラカルボン酸)(Rh(TCPP))を触媒成分として用いて、下記の方法でカーボンブラックに担持させた触媒を調製した。尚、比較触媒として、ロジウムオクタエチルポルフィリン(Rh(OEP))を用いて同様にし
て担持触媒を調製した。
【0060】
【化7】

【0061】
ロジウムポルフィリン担持カーボン触媒の作製
上記した各ロジウムポルフィリン錯体をジクロロメタンに約1mMの濃度で溶解させた後、
このポルフィリン溶液50 mLに、カーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を100 mg加えた。ジクロロメタンの揮発を防ぐために、容器を
密閉した後、超音波洗浄器に1分掛けることにより分散性をよくした。
【0062】
このカーボンブラックを懸濁させたポルフィリン溶液を、マグネティックスターラーで3時間攪拌したのち、東洋濾紙 (株)のNo.5C定量濾紙を用いて吸引濾過することにより溶媒を取り除いた。濾紙上のカーボンブラックを回収してロジウムポルフィリン担持カーボン触媒を得た。得られた触媒では、ロジウムポルフィリンの担持量は、カーボンブラック1gに対して20-34mmolの範囲(ロジウム重量で0.20mg〜0.35mg)であった。
【0063】
触媒活性の評価
上記した方法で得た各担持触媒について、固定床流通式反応装置を用いて一酸化炭素に対する酸化活性を評価した。
【0064】
まず、上記した触媒50mgを内径8mmの石英製のガラス管に充填し、触媒層の両端に石英
ウールを充填した。触媒の温度は、触媒に接触させた石英製保護管付き熱電対にて測定し、この温度が目標の温度になるように電気炉を制御した。
【0065】
反応ガスとしては、CO 1vol.%、O2 0.25〜3vol.%、CO2 20vol.%及び残部がH2からなる混合ガスを用いた。
【0066】
上記した触媒50mgを充填した反応管中に、反応ガスを50mL/minの流速で流通させた。
安定な触媒活性を得るための前処理として、触媒層の温度を反応ガス中で230℃まで上げ
て30分間保った。その後、100℃まで冷却し、100℃から200℃まで20℃刻みで変化させて
、各温度で出口ガスに含まれる化合物の濃度をTCD-GCにより定量分析して、活性評価を行った。図1に、各担持触媒について、触媒層の温度とCO転化率との関係を示す。
【0067】
図1から明らかなように、触媒成分として、Rh(DP)、Rh(T(3,5-(OH)2PP))、及びRh(TCPP)の各ロジウムポルフィリン化合物をカーボンブラックに担持させた本発明の触媒については、160℃を下回る触媒層温度においても高いCO転化率を示した。これに対して、Rh(OEP)を触媒成分とする比較触媒は、180℃以上の触媒層温度では高いCO転化率を示
すものの、160℃以下では、CO転化率が大きく低下した。この結果から、本発明の触媒は、広い温度範囲において一酸化炭素の酸化反応に対して高い活性を有するものであり、実用性の高い一酸化炭素の酸化用触媒であることが明らかである。
【0068】
図2には、各担持触媒について、反応ガス中の酸素濃度と反応層温度100〜200℃における最大CO転化率との関係を示す。図2から明らかなように、Rh(DP)、Rh(T(3,5-(OH)2PP))、及びRh(TCPP)の各ロジウムポルフィリン化合物をカーボンブラックに担持させた本発明の触媒は、Rh(OEP)を触媒成分とする比較触媒と比べて、低い酸素濃度において
、一酸化炭素の酸化反応に対して高い活性を有することが判る。
【0069】
水分存在時の触媒活性
CO 1vol.%、O2 2vol.%、CO2 20vol.%及び残部がH2からなる混合ガスを、60
℃の水と十分に接触させ流通させることにより、上記混合ガスに20vol%の水蒸気を含有させた。
【0070】
この水蒸気含有ガスを反応ガスとして用い、Rh(TCPP)を触媒成分とする担持触媒を用いた場合について、上記した方法と同様にして、触媒活性の評価を行った。図3のグラフには、水蒸気を含有しない反応ガスを用いた場合と、水蒸気を含有する反応ガスを用いた場合について、触媒層温度とCO転化率との関係を示す。
【0071】
図3から明らかなように、水蒸気が存在する場合であっても触媒活性は殆ど低下することがなく、150〜160℃での出口CO濃度は30ppm程度という非常に低濃度となった。
【0072】
通常、水性ガスシフト反応によって一酸化炭素濃度を低下させたガス中には、一酸化炭素と水素のほかに水蒸気が含まれるが、本発明の触媒は、この様な水蒸気の存在下においても触媒活性の低下が少なく、有用性の高い触媒であることが明らかである。
【0073】
長期安定性
上記した触媒活性試験方法において、Rh(TCPP)を触媒成分とする担持触媒を用いた場合について、触媒層温度150℃で、CO 1vol.%、O2 2vol.%、CO2 20vol.%及び残部がH2からなる混合ガスを流し、出口CO濃度を継続的に測定した。その結果を図4のグラフに示す。反応開始5〜6時間程度は若干の性能低下は見られるものの、その後は出口CO濃度を100ppm以下の保つことができた。この結果から、本発明の触媒は、長期安定性に優れたものであることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるロジウムポルフィリン化合物及び化学式(2)で表されるロジウムポルフィリン化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種のロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする、一酸化炭素の化学的酸化用触媒:
(i)化学式(1):
【化1】

(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、又は基:−R−COOM(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子
又はアルキル基である)を示し、R〜Rの少なくとも一つは基:−R−COOMであ
る)、
(ii)化学式(2):
【化2】

(式中、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12は、同一または異なって、それぞれアルキル基、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1,R4,R7及びR10は、同一又は異なって、それぞれ、
置換基として水酸基又はカルボキシル基を有するフェニル基を示す。)。
【請求項2】
化学式(1)において、R〜Rの内の2個以上が基:−R−COOM2であるロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする請求項1に記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
【請求項3】
化学式(2)において、R2,R3,R5,R6,R8,R9,R11及びR12が全て水素原子であるロジウムポルフィリン化合物を有効成分とする請求項1に記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
【請求項4】
ロジウムポルフィリンが担体に担持されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の一酸化炭素の化学的酸化用触媒。
【請求項5】
一酸化炭素及び酸素を含む混合ガスを請求項1〜4のいずれかに記載の触媒と接触させることを特徴とする、一酸化炭素の化学的酸化方法。
【請求項6】
混合ガスが、燃料電池用アノードガスである請求項5に記載の一酸化炭素の化学的酸化方
法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかの記載の触媒を充填した反応器を含む、燃料電池用アノードガス中の一酸化炭素酸化の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−214313(P2010−214313A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65395(P2009−65395)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】