説明

三次元ハニカム構造体の製造方法及び装置

【課題】セル径が均一な三次元ハニカム構造体の製造方法及び装置の提供。
【解決手段】有機高分子と溶媒を含む高分子の溶液又は分散液を二重円筒ノズルを用いて、気体と同時に押出して膨張させることによって有機高分子内部にセルを形成せしめ、前記セルを連続的に生成、積層させることによって均一なセル径を持つ三次元ハニカム構造体の製造方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一なセル径を有する三次元ハニカム構造体の製造方法及び装置に関し、更に詳しくは構造体内部に各種気体を封入した、均一なセル径を有する三次元ハニカム構造体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造体は、軽量で非常に強度に優れているため、従来から建築分野や航空機など各種産業分野における機械や構造物の内装材や外装材として幅広く利用されている。
【0003】
従来のハニカム構造体は、例えば特許文献1に示されるように、紫外線硬化性樹脂液中に複数の気泡を発生させた後、紫外線照射により気泡の集合体を硬化させることによって二次元又は三次元のハニカム構造体を製造している。
【0004】
【特許文献1】特許第3180455号公報
【0005】
しかしながら、上記方法では、ハニカム構造体の材料が紫外線硬化性樹脂に限定され、構造体選定の自由度が限定され、また製造工程が多いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記従来技術に鑑み、製造工程が少なく、構造体の形状を自由に選択でき、かつ構造材料の選択性が広いハニカム構造体の製造方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、有機高分子及び溶媒を含む有機高分子の溶液又は分散液と、気体とを、二重円筒ノズルを用いて同時に供給、押し出して有機高分子を気体によって膨張させることによって、有機高分子中に該気体を含むセルを連続的に生成させて、均一なセル径を有する三次元ハニカム構造体を製造する有機高分子の三次元ハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0008】
本発明に従えば、また、チャンバー、チャンバー内に設けた、外筒及び内筒を有する二重円筒ノズル及び捕集板並びに前記二重円筒ノズルの外筒に有機高分子及び溶媒を含む有機高分子の溶液(又は分散液)を供給する溶液(又は分散液)の供給装置及び前記二重円筒ノズルの内筒に気体を供給する気体供給装置を含んでなる前記三次元ハニカム構造体を製造する装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る三次元ハニカム構造体の製造方法及び装置は、従来技術よりも材料の自由度、構造体の形状の自由度及び製造工程の容易さなどの点において優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、二重円筒ノズルを用いて、有機高分子の溶液又は分散液と、気体とを、それぞれ、二重円筒ノズルの外側及び内側に同時に供給して、ノズル下端より押出すことによりセル径が均一なハニカム構造体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。本発明によって製造される三次元ハニカム構造体は、図1に示すように、二重円筒ノズル1の外側に有機高分子の溶液(又は分散液)を供給し、円筒の内側に気体を供給して、高分子溶液(又は分散液)と気体とを同時にノズル下端より押出すことによって製造することができる。
【0012】
本発明で使用する高分子溶液又は分散液は、有機高分子と溶媒とを含み、溶液であっても、分散液であってもよいが、溶液を使用する方が好ましい。本発明で使用することができる有機高分子としては、本発明の三次元ハニカム構造体を作製できるものであれば特に限定されるものではないが、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エーテル系樹脂、エステル系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種をあげることができる。更に具体的には例えばポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′−オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612並びにこれらの共重合体などが挙げられる。これらの有機高分子は単独又は任意の混合物として使用することができる。
【0013】
本発明に使用する有機高分子の分子量は、本発明の三次元ハニカム構造体が生成すれば特に限定はないが、分子量が高い場合には、高分子溶液の濃度を高くすると、溶液粘度が高くなり、セルを形成しにくくなるおそれがあるので、重量平均分子量で、10,000〜2,000,000の範囲であるのが好ましく、30,000〜800,000であるのが更に好ましい。
【0014】
本発明において使用する溶媒には特に限定はないが、前記有機高分子を溶解するものが好ましい。溶媒は、前記有機高分子の種類に応じて適宜選択することができ、水系溶媒であっても有機溶媒であってもよい。例えば水系溶媒、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類、ケトン類、芳香族類、含硫黄系溶媒及び含窒素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種をあげることができる。具体的には、有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メタノール及びエタノール等のアルコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、水系溶媒としては純水(蒸留水、脱イオン水を含む)や酸、アルカリ、各種塩類などを含む水溶液、含水の有機溶媒等があげられる。
【0015】
本発明で使用する有機高分子溶液又は分散液中の有機高分子の濃度には特に限定はないが、三次元ハニカム構造体を形成できる濃度範囲の中で可能な限り濃度が低いことが好ましく、例えば10〜30重量%の範囲が好ましい。有機高分子や溶媒の種類によっては、界面活性剤等を添加することもできる。
【0016】
本発明に従って、二重円筒ノズルから有機高分子の溶液(又は分散液)と共に、同時に押し出す気体には、特に限定はなく、ハニカム構造体の使用用途によって適宜選択可能である。具体的には、空気、窒素、希ガス、二酸化炭素、酸素、フッ素含有ガス、炭化水素及びこれらの任意の混合気体をあげることができる。安定したハニカム構造体を形成するためには、雰囲気気体(例えば空気、窒素など)の密度と同程度もしくはそれより高い密度の気体(例えば二酸化炭素やアルゴンなど)を使用するのが好ましい。雰囲気気体が空気の場合、有機高分子の溶液(又は分散液)と同時に押し出す気体は、窒素、空気、二酸化炭素、アルゴンなどを用いるのが好ましい。
【0017】
次に、本発明に従って、三次元ハニカム構造体を製造する方法に使用する三次元ハニカム構造体の製造装置の一例を模式的に示す概略図である図1を参照して、以下に説明する。
【0018】
本発明に従った三次元ハニカム構造体の製造装置は図1に模式的に示した通りの構成を有し、具体的には、製造速度等によって定まるサイズを有するチャンバー(例えばステンレススケールなどの金属、アクリル樹脂などの合成樹脂、ガラスなどで製作)は、好ましくは密閉できる形状で、内部に適当な方法で固定した、外筒及び内筒を有する二重円筒ノズル及び生成した三次元ハニカム構造体を捕集する適当な形状及び寸法の捕集板(この捕集板の形状、寸法は製造しようとする三次元ハニカム構造体の形状、寸法などに依存し、例えば任意方向に移動可能なステージやコンベヤ、直方体や立方体、円柱形など任意の形状の型などとすることができる)を内部に配置する。二重円筒ノズルには、配管(チューブ)などを通して、その外筒に高分子の溶液(又は分散液)を、内筒に気体を、それぞれ供給できるように、溶液(又は分散液)及び気体を供給する任意の供給装置(例えばポンプやフィーダー、ガスボンベなどを用いる供給装置)が接続されている。
【0019】
図1において、有機高分子の溶液(又は分散液)と気体とを、それぞれ、二重円筒ノズル1の外側及び内側に供給して同時に押し出すと、二重円筒ノズル1から押し出された高分子溶液(又は分散液)中の高分子が気体によって膨張する。膨張した有機高分子溶液(又は分散液)は内部に含有された気体との界面、雰囲気気体との界面から固化が始まり、一つのセルを形成しながら、次のセルを逐次連鎖的に形成していく。
【0020】
セルの固化程度は任意方向に移動が可能なステージなどから構成される捕集板2と二重円筒ノズル1との距離や雰囲気気体の蒸気圧(空気の場合、湿度)を適宜選択することで制御可能である。セルが捕集板2に到達した時点でほとんど固化している場合には、徐々にセルが平面方向に並んだ後平面に配列したセルの集合体の上に更にセルが堆積することによって、三次元的にセルが堆積していき、三次元ハニカム構造体が作製される。セル径は、二重円筒ノズル径、高分子溶液流量、気体流量、気体の種類を適宜選択することによって制御可能である。捕集板の代わりに構造体に付与したい形状の型を用いてセルを捕集することで、三次元ハニカム構造体の形状を自由に選択できる。溶液流量やノズルの本数を変えることによって生産性も適宜選択可能である。
【0021】
高分子溶液(又は分散液)の溶媒は、二重円筒ノズルから押し出されて外気と接触した時から揮発が始まり、気体によって膨張することによって膜厚の減少と表面積の増大が起こり溶媒の揮発が加速し、捕集板に到達するまでにほとんど乾燥する。気体の溶媒に対する溶解性によっては、セル内部の気体が溶媒中に溶解しセル径が減少しながら固化する場合もある。
【0022】
上記溶液(又は分散液)の流量と気体の流量は、特に限定されるものではないが、溶液(又は分散液)流量と気体流量の比が大きすぎても小さすぎてもセルが形成されない可能性があるため、目的に応じたセルを形成可能な流量を選択することが好ましい。具体的には気液比が大きい場合はセル径が大きく空隙率の高い三次元ハニカム構造体が作製できるが、気液比が大きすぎると破泡が起こりやすくなり、気液比が小さすぎる場合は乾燥がし難くなり、ハニカム構造体が形成されない場合がある。この気液比はセルが形成されれば特に限定されるものではないが、例えば気液比(気体流量と溶液流量の比)が0.1〜100の範囲が好ましく、0.5〜30が更に好ましい。
【0023】
上記三次元ハニカム構造体の製造装置における二重円筒ノズル1と捕集板2との距離は、使用する高分子溶液や気体、溶液濃度、溶液流量、気体流量によっても異なるが、2〜20cmの範囲が好ましく、3〜15cmであるのが更に好ましい。二重円筒ノズル1と捕集板2(又は所望のハニカム構造体の形状に合せた任意形状の型)等との距離が2cm未満でも、20cmを超えても、良好な三次元ハニカム構造体が得られないおそれがある。
【0024】
上記三次元ハニカム構造体の製造装置における二重円筒ノズル1の吐出口径には、特に限定はないが、内殻ノズルは1〜5000μmの範囲が好ましく、30〜1000μmであるのが更に好ましい。一方外殻ノズルは3〜6000μmの範囲が好ましく、50〜2000μmであるのが更に好ましい。内殻ノズルと外殻ノズル間の距離が大きすぎると、セルを形成する高分子溶液量が増えるため、セルの重量が増加し、セル自身の自重によって落下してしまうので連続的なセルが得られないことがある。好ましい距離は10〜1000μmである。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0026】
図1に示す装置を用い、ポリビニルアルコール(シグマアルドリッチジャパン製、重量平均分子量40,000):20重量%と、精製水:80重量%との高分子溶液を作製し、内殻ノズル内径:300μm、外殻ノズル内径:800μmのステンレス製二重円筒ノズル、ステンレス製捕集板と二重円筒ノズルとの距離:5cm、溶液流量:0.75ml/min、気体流量:4ml/min、気体:窒素、雰囲気気体:空気、の条件で高分子溶液と気体を同時に押し出したところ、図2に示すような三次元ハニカム構造体を作製することが出来た。このハニカム構造体のセル径は400μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の三次元ハニカム構造体の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例の操作で得られた三次元ハニカム構造体を実態顕微鏡で撮影して得られた写真図である。
【符号の説明】
【0028】
1 二重円筒ノズル
2 捕集板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子及び溶媒を含む有機高分子の溶液又は分散液と、気体とを、二重円筒ノズルを用いて、同時に供給、押し出して有機高分子を気体によって膨張させることによって、有機高分子中に該気体を含むセルを連続的に生成させて、均一なセル径を有する三次元ハニカム構造体を製造することを特徴とする有機高分子の三次元ハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記有機高分子がスチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エーテル系樹脂、エステル系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が水系溶媒、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類、ケトン類、芳香族類、含硫黄系溶媒及び含窒素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記気体が空気、窒素、希ガス、二酸化炭素、酸素、フッ素含有ガス及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
実質的に垂直に配置された二重円筒ノズルの下部出口に設けた捕集板又は型の形状を選ぶことによってハニカム構造体の形状を選択できるようにした請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
チャンバー、チャンバー内に設けた、外筒及び内筒を有する二重円筒ノズル及び捕集板並びに前記二重円筒ノズルの外筒に有機高分子及び溶媒を含む有機高分子の溶液(又は分散液)を供給する溶液(又は分散液)供給装置及び前記二重円筒ノズルの内筒に気体を供給する気体供給装置を含んでなる請求項1に記載の三次元ハニカム構造体を製造する装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−94951(P2010−94951A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270089(P2008−270089)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【Fターム(参考)】