説明

三次元座標測定機簡易検査用ゲージ

【課題】JIS B 7440−2に関する三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の簡易検査と同時にJISB 7440−5に関するマルチスタイラスの簡易検査およびそれぞれのスタイラスまたは方向性の相関の評価も行える三次元座標測定機簡易検査用ゲージを提供する。
【解決手段】三次元座標測定機簡易検査用ゲージ1は、基台3と、前記基台3上に設けられる半球状の本体4と、それぞれ一方の端部に保持具6を介して球体7が取り付けられ、もう一方の端部が前記本体4に固定される複数本のシャフト5からなり、該複数本のシャフト5(5−1〜5−9)のうち、1本のシャフト5−9は前記本体の極から鉛直方向に延びるように取り付けられ、残りのシャフト5−1〜5−8は平面視したときに隣のシャフトと一定の角度をなすように且つ斜め上方向に延びるように取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元座標測定機検査用ゲージに関し、詳しくは、三次元座標測定機の寸法検査を短時間に簡便に行うことができ、マルチスタイラスの検査も実施可能な三次元座標測定機簡易検査用ゲージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元座標測定機は、機械部品等の三次元形状、寸法や幾何偏差などを測定するために広い分野で利用され、ものづくりにおいて品質評価を行う際に重要な役割を担う測定機である。三次元座標測定機の検査は、JISB 7440−2に準拠した方法で実施されている。この方法はブロックゲージ等を多数並べて測定するため、各ゲージの厳密な位置決め等が必要であるなど高度な技術が必要であり、また検査に数日を費やすという問題があった。さらに、このような検査は、たとえば年に1回程度専門の業者によって行われることが多く、知らず知らずのうちに測定誤差が発生していることがあった。そのため、三次元座標測定機の性能をユーザ自身が常に適性に維持管理できるように中間検査や使用前点検の意味合いで、短時間に簡便な操作で三次元座標測定機の寸法等の検査を行えることが望まれていた。そこで下記のような提案が従来よりなされている。
【0003】
特許文献1には、寸法安定性を確保したL字型のブロックの長辺列に複数個の球体と下辺の先端に独立球を設けた多次元座標測定機校正用ゲージとそれを用いた測定方法(評価方法)が提案されている。この技術によれば、三次元座標測定機の寸法精度評価の他に真直度及び直角度を容易に評価することが可能となる。
【0004】
また、特許文献2には、ブロックゲージに球体を固定し、ブロックゲージ及び球体(中心座標値及び直径)を測定し、絶対値が保証されているブロックゲージの両端面(寸法)からの数値と球体の測定値を比較し、補正することで正確に三次元座標測定機を校正する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、円筒面又は円錐面に複数の球体を配列させると共に本体にリングゲージを形成させ、各球体の中心間距離、複数の球体中心で形成される軸線、平面を利用した計測を行うことにより、一度に三次元座標測定機の目盛の校正、真直度、直角度の3項目の評価を同時に行う技術が提案されている。
【0006】
また、特許文献4には、長方形(横断面H型)の金属製本体の長手方向に複数の球体を配列し、経年変化の原因となる残留応力の影響がほとんど作用しないように保持できるゲージが提案されている。このゲージでは、接触型三次元座標測定機の他に非接触型三次元座標測定機も校正ができるように球の表面性状等が考慮され、目盛の校正、直角度の評価を同時に行うことができるようになっている。
【0007】
また、特許文献5には、円筒のブロック本体の上面に棒状ゲージを取り付け、棒状ゲージを傾斜させることで、三次元座標測定機の測定範囲の最も長い対角線長に近い測定長の指示誤差を高精度で測定することが可能な寸法標準器が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献6には、温度変化による本体の形状変化を考慮した材質において、立方体や円筒形状の本体の上面及び側面に基準測定面となるリングゲージ等を取り付け、その中心間距離を算出し、基準値と比較することで三次元座標測定機の校正を行う技術が提案されている。
【0009】
しかしながら、上記に挙げた先行技術文献は、JIS B 7440−2に置き換わる又はJIS B 7440−2の検査では評価できない項目の検査も同時に評価できるゲージないしそれを用いた検査方法であり、短時間に簡便な方法で寸法検査等を行うことができるものの、JISB 7440−5のマルチスタイラス検査に関しては評価するまでには至っていないのが実情であった。三次元座標測定機における測定では、測定対象物に合わせて固定式マルチスタイラスプロービングシステムの場合は数本のスタイラスを組み合わせて、回転式プロービングシステムの場合は1本のスタイラスで複数姿勢による測定を行う場面も多い。マルチスタイラス測定では三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の他に、それぞれのスタイラスまたは方向性の相関を確認することでマルチスタイラス測定における測定結果の信頼性が確保される。そこで、JIS B 7440−2に関する三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の簡易検査と同時にJIS B 7440−5に関するマルチスタイラス簡易検査をも行うことができる技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−302202号公報
【特許文献2】特開2000−180103号公報
【特許文献3】特開2003−329402号公報
【特許文献4】特開2008−139122号公報
【特許文献5】特開2009−133790号公報
【特許文献6】特開2001−311618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、JISB 7440−2に関する三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の簡易検査と同時にJISB 7440−5に関するマルチスタイラスの簡易検査およびそれぞれのスタイラスまたは方向性の相関の評価も行える三次元座標測定機簡易検査用ゲージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明によれば、第1に、基台と、前記基台上に設けられる半球状の本体と、それぞれ一方の端部に保持具を介して球体が取り付けられ、もう一方の端部が前記本体に固定される複数本のシャフトからなり、該複数本のシャフトのうち、1本のシャフトは前記本体の極から鉛直方向に延びるように取り付けられ、残りのシャフトは平面視したときに隣のシャフトと一定の角度をなすように且つ斜め上方向に延びるように取り付けられていることを特徴とする三次元座標測定機簡易検査用ゲージが提供される。
【0013】
また、第2に、上記第1の発明において、前記本体が前記基台上に回転可能に設けられることを特徴とする三次元座標測定機簡易検査用ゲージが提供される。
【0014】
さらに、第3に、上記第1または第2の発明において、前記複数本のシャフトに取り付けられた球体は、スタイラスの方向の極とその極に対する赤道に対して、三次元座標測定機が有する固定式マルチスタイラスシステムの各スタイラスの先端または複数の姿勢をとり得るスタイラスを備えた回転式プロービングシステムのスタイラス先端と接触可能となっていることを特徴とする三次元座標測定機簡易検査用ゲージが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短時間に簡便な操作で寸法検査の他にマルチスタイラスの検査も同時に日常的な検査として実施することができ、三次元座標測定機およびスタイラスを備えたプローブの総合的な簡易検査が可能となることで、より信頼性の高い品質管理、維持管理が可能となる。
【0016】
また、本発明では半球状の本体を基台に対して容易に回転させることができるようにすることにより、上記の効果に加え、測定対象物を回転させながら数回の測定を行い、全データを平均化すると測定機の誤差成分がある程度相殺されて、測定機の性能以上に精度のよい測定ができるようになるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)および(b)は本発明の一実施形態に係る三次元座標測定機簡易検査用ゲージの構成を示す斜視図および平面図である。
【図2】固定式マルチスタイラスプロービングシステムのマルチスタイラスを示す図である。
【図3】回転式プロービングシステムのスタイラスを示す図である。
【図4】(a)および(b)は固定式マルチスタイラスプロービングシステムのマルチスタイラスを用いて検査を行う様子を示す平面図および側面図である。
【図5】本発明による作製例の三次元座標測定機簡易検査用ゲージで図2の固定式マルチスタイラスプロービングシステムをもつ三次元座標測定機を検査した結果を示す図である。
【図6】本発明による作製例の三次元座標測定機簡易検査用ゲージで図3の回転式プロービングシステムをもつ三次元座標測定機を検査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の三次元座標測定機簡易検査用ゲージについて詳細に説明する。
【0019】
図1(a)および(b)は、本発明の一実施形態に係る三次元座標測定機簡易検査用ゲージの構成を示す斜視図および平面図である。
【0020】
本実施形態の三次元座標測定機簡易検査用ゲージ(以下、ゲージとも称する)1は、プレート2上に設けられた基台3と、基台3上に回転可能に設けられた半球状の本体4と、複数本のシャフト5(5−1〜5−9)からなる。複数本のシャフト5の一方の端部には該シャフト5より細径の保持具6を介して球体7が取り付けられ、もう一方の端部は本体4に固定されている。半球状の本体4が基台3に対して回転可能に設けられることにより、測定対象物を回転させながら数回の測定を行い、全データを平均化すると測定機の誤差成分がある程度相殺されて、測定機の性能以上に精度のよい測定ができるようになるという利点がある。9番目のシャフト5−9は本体4の極、すなわち本体4の最も高い位置から鉛直方向に延びるように取り付けられている。残りの1番目から8番めのシャフト5−1〜5−8は、本例では、図1(b)に示すように、平面視で45度おきに配置され、シャフト5−1、5−2、5−3、5−4は水平面に対し35度の角度をもって半球状の本体4の中心を基準に放射状に斜め上方に延びており、シャフト5−5、5−6、5−7、5−8は水平面に対し55度の角度をもって半球状の本体4の中心を基準に放射状に斜め上方に延びている。このような配置は、シャフト間にマルチスタイラスを移動させるための適切なスペースが確保できることから、マルチスタイラス検査を行うために望ましい配置であるといえる。なお、本例では本体4の極以外に設けられたシャフトとして8つのシャフトを用いたが、4つ、6つ等適宜の数のシャフトを用いることができる。
【0021】
半球状の本体4は、熱膨張が極めて小さい材料、たとえばファインセラミックスで形成することが好ましい。シャフト5も熱膨張が極めて小さい材料を用いて形成することが好ましい。このような材料を用いると、測定環境による結果の補正の必要がなく、20℃以外の環境下に設置されている三次元座標測定機(CMM:Coordinate Measuring Machine)の検査にも対応が可能となる。球体7にはたとえば窒化ケイ素等を用いることができ、その直径は後述の実施例では中央のものでは25.40mm、それ以外のものでは19.05mmとしたが、もちろんこれに限定されず適宜の寸法とすることできる。この球体7にスタイラス(図示せず)の先端が接触するとそれを電気的トリガーとしてX軸、Y軸、Z軸方向の座標値が読み取られるようになっている。
【0022】
本実施形態のゲージ1では、複数本のシャフト5に取り付けられた球体7は、スタイラスの方向の極とその赤道に対して、三次元座標測定機が有する固定式マルチスタイラスプロービングシステムの各スタイラス先端に取り付けられた小球状部または複数の姿勢をとり得るスタイラスを備えた回転式プロービングシステムの前記スタイラスの先端に取り付けられた小球状部と接触可能となっている。
【0023】
図2に固定式マルチスタイラスプロービングシステムのマルチスタイラス8を示す。このマルチスタイラス8は、Z方向にスタイラス8−1、X方向にスタイラス8−2、8−4、Y方向にスタイラス8−3、8−5を備える。このマルチスタイラス8はX方向、Y方向、Z方向の3次元方向に移動可能になっている。また、図3に回転式プロービングシステムのスタイラス9を示す。このスタイラス9は、複数姿勢をとることができるようになっている。
【0024】
図4の(a)、(b)に固定式マルチスタイラスプロービングシステムのマルチスタイラス8を用いて測定を行う様子をそれぞれ平面図と側面図で示す。
【0025】
ここで、本発明による三次元座標測定器簡易検査用ゲージの作製例を示す。全体構造は図1に示したものと同様である。もちろん、本発明はこの作製例に限定されるものではない。
【0026】
サイズ(W×D×H):250mm×250mm×280mm
本体材質:ネクセラ(新日鐵製;超低熱膨張ファインセラミックス)
本体熱膨張係数:0±0.02×10−6/K
シャフト長さ:130mm
シャフト材質:炭素繊維強化プラスチック(高剛性繊維<1方向> ピッチ系繊維)
総重量:約6kg
球材質:窒化ケイ素
球直径:25.40mm(中央)
19.05(中央以外)
中央以外の4本のシャフトの水平面からの傾斜角度は35度、残りの4本のシャフトの水平面からの傾斜角度は55度
この三次元座標測定機簡易検査ゲージで、複数本のスタイラスを取り付けた図2に示す固定式マルチスタイラスブロービングシステムをもつ三次元座標測定機を検査した結果を図5に示す。この三次元座標測定機簡易検査用ゲージの値付けがされれば、No.1スタイラスの結果がJISB 7440−2に関する三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の簡易検査になる。また、一つの球体を複数のスタイラスが重複して測定することで、それぞれの球体の結果(中心座標値)からそれぞれのスタイラスの相関が評価できる。マルチスタイラス8の5本のスタイラスで9個の球体7全てを測定しても約30分で検査を行うことができた。
【0027】
また、この三次元座標測定機簡易検査用ゲージで、図3に示す回転式プロービングシステムをもつ三次元座標測定機を検査した結果を図6に示す。前記と同様、この三次元座標測定機簡易検査ゲージの値付けがされれば、No.1スタイラス方向(下向き)の結果がJISB 7440−2に関する三次元座標測定機の寸法検査(目盛校正)の簡易検査になる。また、一つの球体を複数の方向のスタイラスが重複して測定することで、それぞれの球体の結果(中心座標値)からそれぞれのスタイラス方向の相関が評価できる。
【符号の説明】
【0028】
1 三次元座標測定機簡易検査用ゲージ
3 基台
4 半球状の本体
5(5−1〜5−9) シャフト
6 保持具
7 球体
8(8−1〜8−5) マルチスタイラス
9 スタイラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、前記基台上に設けられる半球状の本体と、それぞれ一方の端部に保持具を介して球体が取り付けられ、もう一方の端部が前記本体に固定される複数本のシャフトからなり、該複数本のシャフトのうち、1本のシャフトは前記本体の極から鉛直方向に延びるように取り付けられ、残りのシャフトは平面視したときに隣のシャフトと一定の角度をなすように且つ斜め上方向に延びるように取り付けられていることを特徴とする三次元座標測定機簡易検査用ゲージ。
【請求項2】
前記本体が前記基台上に回転可能に設けられることを特徴とする請求項1に記載の三次元座標測定機簡易検査用ゲージ。
【請求項3】
前記複数本のシャフトに取り付けられた球体は、スタイラスの方向の極とその極に対する赤道に対して、三次元座標測定機が有する固定式マルチスタイラスシステムの各スタイラスの先端または複数の姿勢をとり得るスタイラスを備えた回転式プロービングシステムの前記スタイラスの先端と接触可能となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の三次元座標測定機簡易検査用ゲージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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