説明

三次元造形装置、および三次元造形方法

【課題】滑らかな表面を有する三次元物体を、粉体を結合させることによって造形する。
【解決手段】粉体層を硬化液で結合させた断面部材を積層して三次元物体を造形する。断面部材は次の二段階の手順で形成する。先ず硬化液を供給して、三次元物体の表面に相当する部分を形成し、次いで粉体層を形成して粉体を硬化液で結合させることにより、断面部材の表面以外の部分を形成する。こうすれば、三次元物体の表面は、粉体を用いずに硬化液によって形成することができるので、粉体に起因した凹凸が発生することが無く、滑らかな表面を有する三次元物体を造形することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元物体を造形する技術に関し、詳しくは、硬化液を吐出して粉末材料を結合させることによって、三次元物体を造形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体を硬化液で固めながら、三次元物体を造形する技術が知られている。この技術では、次のような操作を繰り返すことによって三次元物体を造形する。先ず、粉体を均一な厚さで薄く敷き詰めて粉体層を形成し、この粉体層の所望部分に硬化液を吐出することによって粉体同士を結合させる。この結果、粉体層の中で、硬化液が吐出された部分だけが結合して、薄い板状の部材が形成される。本明細書中では、この薄い板状の部材を「断面部材」と呼ぶことにする。次いで、その粉体層の上に更に粉体層を薄く形成し、所望部分に硬化液を吐出する。その結果、新たに形成された粉体層の硬化液が吐出された部分にも、新たな断面部材が形成される。このような操作を繰り返して、薄い板状の断面部材を一層ずつ積層することによって、三次元物体を造形することができる。
【0003】
このような三次元造形技術は、造形しようとする物体の三次元形状データさえあれば、粉体を結合させて直ちに造形可能であり、造形に先立って金型を作成するなどの必要がないので、迅速にしかも安価に三次元物体を造形することが可能である。また、薄い板状の断面部材を一層ずつ積層して造形するので、例えば内部構造を有する複雑な物体であっても、複数の部品に分けることなく一体の造形物として形成することが可能となる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−307562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした粉体を結合させて造形した三次元物体は、物体の表面を滑らかに造形することが難しいという問題があった。何故なら、粉体を結合させて造形している関係上、表面には、どうしても粉体に起因した凹凸が発生し、また、表面から粉体の粒子が脱落すると、その部分には粒子1つ分の凹みが発生する。更には、粉体の粒子間に硬化液が染み込んで硬化した後、隣接する粉体の粒子が脱落すると、その部分には硬化した硬化液による突起が発生する。これらの理由が複合的に発生して、三次元物体の表面を滑らかに造形することが困難となっていた。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、粉体を結合させて造形した三次元物体の表面を、滑らかに造形することが可能な三次元造形技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の三次元造形装置は次の構成を採用した。すなわち、
粉体を硬化液で互いに結合させることによって、三次元物体を造形する三次元造形装置であって、
前記三次元物体の形状データを記憶している形状データ記憶手段と、
前記三次元物体を複数の断面で層状に切断したときに各層で得られる断面データを生成する断面データ生成手段と、
前記粉体を略均一な厚さに敷き詰めて粉体層を形成するとともに、前記硬化液を前記断面データに従って該粉体層に供給することにより、前記三次元物体の一層分の断面形状に相当する断面部材を形成する断面部材形成手段と、
前記断面部材が形成された粉体層の上に新たな粉体層を形成し、該新たな粉体層に前記断面データに従って前記硬化液を供給することで新たな断面部材を形成して、先に形成された断面部材の上に順次積層することによって、前記三次元物体を造形する三次元物体造形手段と
を備え、
前記断面部材形成手段は、
前記断面部材の中で前記三次元物体の表面に相当する部分を、先に形成した断面部材の上に前記硬化液を供給して硬化させることによって形成した後、
前記表面部分以外の部分に前記粉体層を形成し、前記断面データに従って前記硬化液を供給して粉体を結合させることによって、前記断面部材の残余の部分を形成する手段であることを要旨とする。
【0008】
また、上記の三次元造形装置に対応する本発明の三次元造形方法は、
粉体を硬化液で互いに結合させることによって、三次元物体を造形する三次元造形方法であって、
前記三次元物体の形状データを記憶しておく形状データ記憶工程と、
前記三次元物体を複数の断面で層状に切断したときに各層で得られる断面データを生成する断面データ生成工程と、
前記粉体を略均一な厚さに敷き詰めて粉体層を形成するとともに、前記硬化液を前記断面データに従って該粉体層に供給することにより、前記三次元物体の一層分の断面形状に相当する断面部材を形成する断面部材形成工程と、
前記断面部材が形成された粉体層の上に新たな粉体層を形成し、該新たな粉体層に前記断面データに従って前記硬化液を供給することで新たな断面部材を形成して、先に形成された断面部材の上に順次積層する断面部材積層工程と
を備え、
前記断面部材形成工程は、
前記断面部材の中で前記三次元物体の表面に相当する部分を、先に形成した断面部材の上に前記硬化液を供給して硬化させることによって形成した後、
前記表面部分以外の部分に前記粉体層を形成し、前記断面データに従って前記硬化液を供給して粉体を結合させることによって、前記断面部材の残余の部分を形成する工程であることを要旨とする。
【0009】
かかる本発明の三次元造形装置および三次元造形方法においては、造形しようとする三次元物体の形状データを予め記憶しており、その三次元物体を複数の断面で層状に切断したときの各層での断面データを生成可能となっている。そして、粉体を略均一な厚さに敷き詰めて粉体層を形成し、その粉体層に対して断面データに従って硬化液を供給する。硬化液が供給されると粉体は互いに結合するので、粉体層に断面データに従って硬化液を供給することにより、粉体層の厚みに相当する厚さを有し且つ三次元物体のある断面での断面形状を有する部材(断面部材)を形成することができる。そこで、断面部材が形成された粉体層の上に、新たな粉体層を形成し、その粉体層に対して、断面データに従って硬化液を供給することで、新たな断面部材を形成するとともに先に形成した断面部材の上に積層する。このような操作を繰り返すことにより、三次元物体を造形することができる。ここで、断面部材を形成するに際しては、次のように二段階の手順を踏んで形成する。先ず、断面データに従って、三次元物体の表面に相当する部分に硬化液を供給して硬化させることにより、断面部材の中で三次元物体の表面に相当する部分を形成する。次いで、表面部分以外の部分に粉体層を形成し、断面データに従って硬化液を供給して粉体を結合させることによって、断面部材の残余の部分を形成して、断面部材を完成させる。このようにして断面部材を完成させながら積層していくことによって三次元物体を造形する。
【0010】
こうして形成した三次元物体の表面は、粉体を用いずに硬化液によって形成されているので、粉体に起因した凹凸が発生することが無く、滑らかな表面を有する三次元物体を造形することが可能となる。
【0011】
また、上記の本発明の三次元造形装置においては、硬化液として、所定波長の電磁波が照射されることによって硬化を開始する硬化液を用いることとして、供給した硬化液を、所定波長の電磁波を照射して硬化させることによって、断面部材を形成しても良い。
【0012】
硬化液に電磁波を照射すると、電磁波は硬化液の内部まで容易に達する。このため、所定波長の電磁波を照射して硬化させるタイプの硬化液を用いれば、電磁波を照射することによって、硬化液全体を速やかに硬化させることができる。その結果、三次元物体の表面領域を形成するために供給した硬化液が粉体の間に染み込む前に、電磁波を照射して硬化させることができるので、三次元物体の表面を滑らかに造形することが可能となる。
【0013】
また、上記の本発明の三次元造形装置においては、硬化液として、硬化後は透明になる硬化液を用いることとしても良い。
【0014】
このような硬化液を用いて表面部分を形成しておけば、内部の色彩がそのまま表面に反映させることができる。このため、例えば、所望の色の粉体を用いたり、あるいは、粉体を結合させる硬化液に所望の色彩を付けておくなどの方法によって、三次元物体の内部に所望の色彩を付与してやれば、所望の色彩を呈する三次元物体を造形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例の三次元造形装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例の三次元造形処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】断面データを生成している様子を概念的に示した説明図である。
【図4】断面部材の表面領域を形成する様子を概念的に示した説明図である。
【図5】断面部材の内部領域を形成する様子を概念的に示した説明図である。
【図6】表面領域用の硬化液と内部領域用の硬化液とが搭載された第1の変形例の三次元造形装置を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例の造形方法:
C.変形例:
C−1.第1の変形例:
C−2.第2の変形例:
C−3.第3の変形例:
【0017】
A.装置構成 :
図1は、本実施例の三次元造形装置100の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、三次元造形装置100は、大きな枠体から構成され内部に三次元物体が造形される造形部10と、造形部10内に粉体による粉体層を形成する粉体層形成部20と、粉体同士を結合させる硬化液を粉体層に供給する硬化液供給部30と、粉体層に供給された硬化液に紫外光を照射して硬化液を硬化させる紫外光照射部50と、三次元造形装置100の全体の動作を制御するために各種の演算処理を行う演算処理部40などから構成されている。
【0018】
演算処理部40は、造形しようとする三次元物体の形状データを記憶しておくとともに、三次元物体を複数の断面で層状に切断して、各層での断面データを生成する断面データ生成部42と、得られた断面データに従って造形部10や、粉体層形成部20、硬化液供給部30の動作を制御する制御部44などから構成されている。制御部44は、断面データ生成部42から断面データを受け取ると、粉体層形成部20を駆動して造形部10内に粉体層を形成させ、硬化液供給部30を駆動して硬化液を断面データに従って粉体層に供給しながら、供給した硬化液に向かって紫外光を照射する。すると、紫外光によって硬化液が硬化して粉体同士を結合させることにより、造形部10内には、1層分の断面データに対応する断面形状の薄板状の部材(断面部材)が形成される。こうして1層分の断面部材が形成されたら、底面駆動部16を駆動して底面部14を少しだけ低下させる。次いで、断面データ生成部42から次の断面データを受け取って、断面部材を形成した粉体層の上に新たな粉体層を形成し、その上から硬化液を供給して紫外光を照射することにより、新たな断面部材を形成する。このように制御部44は、断面データ生成部42から各層の断面データを受け取ると、造形部10や、粉体層形成部20、硬化液供給部30、紫外光照射部50を駆動することにより、1層ずつ断面部材を形成して積層していく。
【0019】
尚、断面データ生成部42は、CPUやROM、RAM、ハードディスクなどが相互にデータをやり取り可能に構成された周知のコンピュータを用いて構成することができる。また、制御部44は、断面データを変換して、造形部10や粉体層形成部20、硬化液供給部30への駆動信号を生成する専用のICチップを用いて構成することができる。もちろん、こうした変換をCPUやROM、RAMなどを用いて実行しても良い。この場合は、断面データ生成部42を構成するコンピュータに制御部44の機能を組み込んで、断面データ生成部42と制御部44とを一体に構成することも可能である。
【0020】
造形部10は、上方から見ると矩形形状をした枠体12と、枠体12の底面を形成して上下方向に摺動可能な底面部14と、底面部14を上下方向に摺動させる底面駆動部16等から構成されており、枠体12と底面部14との間に形成された空間に三次元物体が造形される。また、底面駆動部16は制御部44からの制御によって、底面部14を正確に上下方向に移動させることが可能となっている。
【0021】
粉体層形成部20は、粉体が収納されるホッパー22と、ホッパー22の下部で回転することにより粉体を一定量ずつ供給する粉体供給ローラ24と、粉体供給ローラ24から供給された粉体を一定厚さに伸展させて粉体層を形成する伸展ローラ26などから構成されている。ホッパー22や、粉体供給ローラ24、伸展ローラ26は図1の紙面に直角方向(Y方向)に延びるように形成されており、また粉体層形成部20は全体が、図1の紙面上で左右方向(X方向)に移動可能に構成されている。
【0022】
粉体層を形成する際には、先ず初めに、粉体層形成部20を図1の左端に移動させる。このとき、形成する粉体層の厚さに相当する分だけ、底面駆動部16を駆動して底面部14の位置を下方(マイナスのY方向)に下げておく。そして、粉体供給ローラ24を回転させて、伸展ローラ26の前方に粉体を供給しながら、粉体層形成部20を右方向(プラスのX方向)に移動させる。伸展ローラ26は、進行方向に対して逆回転させておく。こうすると、伸展ローラ26は、余分な粉体を進行方向に蹴り出すようにしながら移動することになり、その結果、後方には、均一な厚さを有する粉体層が形成される。このとき、粉体の供給速度は、形成する粉体層の厚さおよび粉体層形成部20の移動速度に応じて、適切な供給速度に制御されている。また、伸展ローラ26の回転速度は、粉体層形成部20の移動速度に応じて適切な回転速度に制御されている。こうすることで、余分な粉体を進行方向に蹴り出して、常に適量分ずつの粉体を伸展させることが可能となり、その結果、粉体を過度に踏み固めてしまうことを回避することが可能となる。
【0023】
硬化液供給部30は、粉体層に向けて硬化液を供給するための供給ヘッドと、硬化液を収容しておく収容部とが搭載されており、硬化液収容部34に収容された硬化液を、硬化液供給ヘッド32から粉体層に向けて供給することが可能となっている。
【0024】
ここで、本実施例の硬化液供給ヘッド32には、いわゆるピエゾ駆動方式の液滴吐出ヘッドが採用されている。ピエゾ駆動方式の液滴吐出ヘッドは、微細なノズル穴が設けられた圧力室を液体で満たしておき、ピエゾ素子を用いて圧力室の側壁を撓ませることによって、圧力室の容積減少分に相当する体積の液体を液滴として吐出することが可能である。本実施例の硬化液供給部30では、硬化液収容部34に収容された硬化液を、硬化液供給ヘッド32の圧力室に導いてピエゾ素子を駆動することによって、液滴状の硬化液を吐出することが可能となっている。
【0025】
ここで硬化液としては、モノマーと、モノマーが結合したオリゴマーとを主成分とする液体の樹脂材料と、紫外光が照射されると励起状態となってモノマーあるいはオリゴマーに働きかけて重合を開始させる重合開始剤との混合物が用いられている。また、ピエゾ駆動方式の液滴吐出ヘッドから液滴として吐出可能な程度の低粘度となるように、硬化液のモノマーは比較低分子量のモノマーが選択されており、更に1つのオリゴマーに含まれるモノマーの分子数も数分子程度に調整されている。そして、硬化液は、紫外光を浴びない限りは安定であるため、硬化液収容部34や硬化液供給ヘッド32の内部で硬化することなく、液滴として吐出することができるが、紫外光を浴びて重合開始剤が励起状態になると、モノマーが互いに重合してオリゴマーに成長し、またオリゴマー同士もところどころで重合して、速やかに硬化して固体となる性質を有している。
【0026】
また、粉体の表面には、硬化液内に含まれているものとは別のタイプの重合開始剤が付着されている。粉体の表面に付着された重合開始剤は、硬化液と接触するとモノマーあるいはオリゴマーに働きかけて重合を開始させる性質を有している。このため、粉体層に硬化液の液滴を供給すると、硬化液が粉体層の内部に浸透するとともに、粉体表面の重合開始剤に接触して硬化し、その結果、硬化液が吐出された部分では、粉体同士が硬化した硬化液によって結合された状態となる。
【0027】
また、硬化液供給部30は、制御部44の制御の元で、粉体層形成部20とは独立して、X方向(図1の紙面上で左右方向)およびY方向(図1の紙面に垂直方向)に移動させることが可能となっている。
【0028】
紫外光照射部50は、Y方向(図1の紙面に垂直方向)に沿って設けられた細長い紫外光照射ランプと、紫外光が下方にのみ照射されるように紫外光照射ランプの三方を囲う紫外光遮蔽部材などから構成されている。紫外光照射部50は、制御部44からの制御によって点灯あるいは消灯するとともに、粉体層形成部20や硬化液供給部30と一緒にX方向(図1の紙面上で左右方向)に移動することによって、粉体層の全面にわたって均一に紫外光を照射することが可能となっている。
【0029】
B.本実施例の造形方法 :
以上のような構成を有する本実施例の三次元造形装置100では、造形した三次元物体の表面をできるだけ平滑な表面とするために、次のような方法で造形している。以下、本実施例の三次元物体の造形方法について説明する。
【0030】
図2は、本実施例の三次元造形装置100が三次元物体を造形するために行う三次元造形処理の流れを示すフローチャートである。図示されているように、三次元造形処理を開始すると、先ず初めに、造形しようとする三次元物体の形状データを取得する(ステップS100)。次いで、その三次元物体の形状データから断面データを生成する(ステップS102)。ここで断面データとは、三次元物体を複数の断面で層状に切断したときに各層で得られる複数のデータである。
【0031】
図3は、三次元物体から断面データを生成している様子を概念的に示した説明図である。図3(a)には、三次元物体の形状データが概念的に示されている。図示した例では、造形しようとする三次元物体は、中央部が若干絞られた茶筒形状をしており、茶筒形状の上面および下面の中央には丸い大きな窓が形成されている。そして、茶筒形状の内部には、茶筒形状の内部を上下に仕切る仕切り板が設けられている。三次元物体を造形するにあたっては、予め、このような三次元の形状データを断面データ生成部42に記憶させておく。そして、三次元造形処理を開始すると、断面データ生成部42に記憶されている形状データの中から、指定された形状データを読み出した後(図2のステップS100)、読み出した三次元物体を、上面(あるいは下面)に平行な複数の断面で層状に切断することによって、図3(b)に示すような断面データを生成することができる(図2のステップS102)。こうして、断面データ生成部42では、各断面に相当する断面データが生成される。尚、断面を取る間隔は必ずしも等間隔である必要はないが、ここでは等間隔であるものとする。
【0032】
次いで、制御部44は、断面データ生成部42で生成された複数の断面データの中から、一層分の断面データを読み出して(ステップS104)、その断面データを表面領域と内部領域とに分離する(ステップS106)。ここで、表面領域とは、造形しようとする三次元物体の表面となる部分および隣接する領域である。最も単純には、断面データに示される断面の輪郭およびその近傍を表面領域とすることができる。あるいは、図3(a)に示されるように、三次元物体の外表面を構成する部分およびその近傍のみを、表面領域としても良い。更には、三次元造形装置100の操作者が、断面データ生成部42のモニタ画面で確認しながら、三次元物体の表面を指定し、指定された表面を構成する部分およびその近傍を表面領域とすることも可能である。以下では、三次元物体の外表面および外表面から所定距離以内の領域が、表面領域に設定されているものとして説明する。
【0033】
以上のように、一層分の断面データを表面領域と内部領域とに分離したら(ステップS106)、初めに、断面部材の表面領域の部分を形成する(ステップS108)。図4は、断面部材の表面領域の部分を形成する様子を、概念的に示した説明図である。図4(a)には、断面データの一部が拡大して示されている。図示されているように、本実施例の三次元造形装置100では、断面データが、外周面側の表面領域(細かい斜線を付して表示)と、それ以外の内部領域(粗い斜線を付して表示)とに分離されている。そして、本実施例の三次元造形装置100では、これらの領域を一度に形成するのではなく、先ず初めに表面領域の部分だけを形成するのである。
【0034】
図4(b)には、断面部材の表面領域の部分を形成する様子が概念的に示されている。図示されているように、表面領域の部分は、粉体層を硬化液で固めるのではなく、硬化液を用いて形成する。すなわち、粉体層形成部20をプラスのX方向(紙面上では右方向)に移動させるが、このとき粉体は供給せず、粉体層も形成しない。そして、断面データに従って、硬化液供給ヘッド32から表面領域の部分に硬化液を吐出する。前述したように、硬化液供給ヘッド32には、インクジェットプリンタで用いられているピエゾ駆動方式の液滴吐出ヘッドが採用されており、正確な位置に正確な分量だけ硬化液を吐出することが可能である。次いで、紫外光照射部50から紫外光を照射することによって、吐出した硬化液を硬化させる。この時、粉体は供給していないから、伸展ローラ26は空転状態となっている。このようにして硬化液を吐出し、吐出した硬化液に紫外光を照射しながら、粉体層形成部20、硬化液供給部30、および紫外光照射部50をプラスのX方向(紙面上では右方向)に移動させると、その後には、表面領域の部分にだけ、硬化液で形成された断面部材が、断面部材一層分の高さで凸状に形成されることになる。
【0035】
以上のようにして、断面部材の表面領域を形成したら、粉体層形成部20や、硬化液供給部30、および紫外光照射部50を左端の位置まで戻した後、粉体層を形成しながら硬化液を吐出することによって、断面部材の内部領域を形成する(ステップS110)。
【0036】
図5は、断面部材の内部領域の部分を形成する様子を、概念的に示した説明図である。図5(a)には、断面データの一部が拡大して示されている。また、図5(b)には、断面部材の内部領域の部分を形成する様子が概念的に示されている。図示されているように、内部領域を形成する際には、粉体供給ローラ24を用いて粉体を供給しながら伸展ローラ26を回転させることによって、粉体層を形成しつつ、断面データに従って内部領域の部分に硬化液を吐出することにより、粉体同士を結合させて内部領域の部分を形成する。前述したように、表面領域の部分には、硬化液による断面部材が一層分の高さで既に形成されているから、表面領域の部分に供給された粉体は、回転する伸展ローラ26によって前方に掻き出されるため、表面領域の部分には粉体層は形成されず、その他の部分に粉体層が形成される。こうして形成した粉体層の上から、断面データに従って内部領域の部分に硬化液を吐出する。前述したように、硬化液供給ヘッド32は極めて正確な位置に硬化液を吐出することが可能であり、従って、内部領域の部分だけに硬化液を吐出して粉体を結合させることができる。
【0037】
また、本実施例の三次元造形装置100で用いられている硬化液には、特定の波長の電磁波(ここでは紫外光)が照射されると活性化して、硬化液内のモノマーやオリゴマーに働きかけて重合を開始させる重合開始剤が含まれているが、粉体粒子の表面にも別のタイプの重合開始剤が塗布されている。粉体粒子に塗布されている重合開始剤は、硬化液に触れると活性化して、モノマーやオリゴマーの重合を開始させる性質を有している。このため、粉体層に吐出された硬化液は、粉体の間を染み込んで行くとともに、粉体表面に触れた部分から重合を開始して、最終的には粉体同士を結合させる。
【0038】
ここで、電磁波による重合と、粉体表面の重合開始剤に触れることによる重合とでは、同じ重合でも、特性に若干の違いがある。すなわち、電磁波による重合では、電磁波に反応する重合開始剤が硬化液に均一に分散しているため、電磁波が照射されるとそれら重合開始剤が一斉に活性化して、重合が極めて短時間で完了する。一方、粉体表面の重合開始剤に接触することで開始される重合では、硬化液が粉体表面に接触している部分で重合が開始され、重合反応が進むにつれて、硬化液の内部(粉体表面に接していない部分)も重合するようになる。このため、硬化液全体としては、重合が完了するまでに比較的時間がかかる傾向にある。また、光による重合では、硬化液全体が同時に重合するので、モノマーやオリゴマーが重合している箇所が多く、そのため、極めて固い反面で脆い部材が形成される。これに対して、粉体表面の重合開始剤によって重合させた場合は、光による重合よりも、まばらな位置で重合するため割れ難く強い部材が形成される。
【0039】
以上のようにして、断面部材の内部領域を形成したら(ステップS110)、一層分の断面データに対応する断面部材を形成したことになるので、全断面データに対応する断面部材を形成したか否かを判断する(ステップS112)。そして、未だ断面部材を形成していない断面データが残っていると判断された場合は(ステップS112:no)、次の一層分の断面データを読み出した後(ステップS104)、読み出した断面データに対して、上述した一連の処理を行うことにより、その断面データに対応する断面部材を形成する。以上のような処理を繰り返して、全ての断面データに対応する断面部材を形成したと判断されたら(ステップS112:yes)、図2に示した本実施例の三次元造形処理を終了する。このとき、造形部10の中には、複数層の粉体層が積層されており、粉体層を積層する際に硬化液を吐出して形成した断面部材は互いに結合して一体となっている。そこで、造形部10の中から一体となった断面部材を取り出せば、硬化液によって結合されていない粉体は脱落するので、形状データに対応する三次元物体を得ることができる。
【0040】
以上のようにして形成された三次元物体は、表面部分は粉体を用いずに、硬化液を硬化させることによって形成されている。このため、物体の表面に、粉体に起因した凹凸が発生することがなく、滑らかな表面に造形することが可能となる。また、三次元物体の内部は、硬化液を比較的ゆっくりと重合させているので、割れ難く、強い三次元物体を造形することが可能となる。更に、三次元物体の内部は、比較的ゆっくりと重合させているために、重合に伴って発生する歪みを良く制することも可能である。
【0041】
C.変形例 :
上述した本実施例の三次元造形装置100には、種々の変形例が存在している。以下では、これら変形例について簡単に説明する。
【0042】
C−1.第1の変形例 :
上述した実施例では、断面部材の表面領域を形成する硬化液と、内部領域を形成する硬化液とは、同じ硬化液を用いるものとして説明した。しかし、表面領域を形成するための専用の硬化液と、内部領域を形成するための専用の硬化液とを使用しても良い。このとき、表面領域用の硬化液は、比較的粘度が高い硬化液が望ましく、内部領域用の硬化液は、比較的粘度の低い硬化液が望ましい。硬化液の粘度が高ければ、表面部分に一層分の高さの断面部材の凸状に形成することが容易となる。また、硬化液の粘度が低ければ、粉体層に吐出したときに、粉体の間に万遍なく染み込んで、確実に粉体同士を結合させることが可能となる。
【0043】
また、表面領域用の硬化液としては、できるだけ少ない電磁波でも重合を開始するような硬化液を用いることが望ましい。こうすれば、電磁波(ここでは紫外線)を照射するためのエネルギーを節約することが可能になるとともに、電磁波の照射部が大型化することも回避することが可能となる。
【0044】
更に加えて、表面領域用の硬化液としては、粉体との親和性ができるだけ低い硬化液を用いることが望ましく、内部領域用の硬化液は、親和性のできるだけ高い硬化液を用いることが望ましい。粉体との親和性が低い硬化液であれば(できれば、粉体によってはじかれるような硬化液であれば)、表面領域を形成するために吐出した硬化液が、下側に形成されている粉体層の中に染み出して、物体の表面がザラザラした感じになってしまうことを回避することが可能となる。また、粉体との親和性が高い硬化液は、粉体層に吐出したときに、粉体の間に万遍なく染み込むので、粉体同士を確実に結合させることが可能となる。
【0045】
また、上述したように、表面領域用の硬化液と内部領域用の硬化液とを搭載した場合は、電磁波の照射部(ここでは紫外光照射部50)の直ぐ前側(進行方向側)に、表面領域用の硬化液を吐出する硬化液供給ヘッドを設け、その更に前側に、内部領域用の硬化液を吐出する硬化液供給ヘッドを設けることとしても良い。図6は、それぞれの硬化液を吐出する硬化液供給ヘッドが、このような順序で搭載されている第1の変形例を例示した説明図である。図示するように、紫外光照射部50の前方には、硬化液供給ヘッド32が設けられており、その前方には硬化液供給ヘッド36が設けられている。そして、硬化液供給ヘッド32には硬化液収容部34から硬化液が供給され、この硬化液収容部34には、表面領域用の硬化液が収納されている。また、硬化液供給ヘッド36には硬化液収容部38から硬化液が供給され、この硬化液収容部38には、内部領域用の硬化液が収納されている。表面領域用の硬化液を吐出する硬化液供給ヘッド32と、内部領域用の硬化液を吐出する硬化液供給ヘッド36とを、このような順序で配列しておけば、硬化液供給ヘッド32から表面領域用の硬化液を吐出した直後に、紫外光照射部50を照射して硬化液を硬化させることができる。このため、硬化液が周りに広がる前に硬化させることができるので、硬化液による断面部材を適切な位置に形成することが可能となる。
【0046】
C−2.第2の変形例 :
以上に説明した実施例では、硬化液供給部30を1回移動させる間に、断面部材の表面領域の部分を形成するものとして説明した。すなわち、硬化液を吐出して紫外光を照射することで、直ちに一層分の高さに相当する断面部材を形成するものとして説明した。しかし、硬化液供給部30を何度も移動させて、1回移動させるたびに少しずつ硬化液を吐出しては紫外光を照射して硬化させる操作を繰り返すことによって、一層分の高さに相当する断面部材を形成するものとしてもよい。こうすれば、三次元物体の表面の部分では、より薄い断面部材を積層するのと同じことになるので、より滑らかな表面に造形することが可能となる。
【0047】
C−3.第3の変形例 :
更には、少なくとも表面領域を形成するための硬化液は、硬化後に透明になる硬化液を用いることとしても良い。こうすれば、粉体の色がそのまま現れた三次元物体を造形することが可能となる。また、粉体を結合させるために用いる硬化液を、色つきの硬化液を用いた場合には、内部領域の色がそのまま表面に現れた三次元物体を得ることができる。更には、粉体を結合するための硬化液として、C(シアン)色や、M(マゼンタ)色、Y(イエロ)色に着色した硬化液をそれぞれ用意しておき、表面領域を形成するための硬化液は、硬化後に透明となる硬化液を用いることとしても良い。こうすれば、粉体を結合させる際に、C(シアン)色、M(マゼンタ)色、Y(イエロ)色の硬化液を適切な割合で供給することで、内部領域に所望の色彩を付与することができ、透明に形成された表面を通して、内部の色彩がそのまま現れた三次元物体を造形することが可能となる。
【0048】
以上、本実施例の三次元造形装置100について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0049】
例えば、上述した実施例では、表面領域を形成するための硬化液としては、紫外光によって重合を開始する硬化液を用いた場合について説明した。しかし、空気中の水分(あるいは酸素など)に触れると速やかに重合を開始する硬化液(例えば、瞬間接着剤など)を用いることとしても良い。
【符号の説明】
【0050】
10…造形部、12…枠体、14…底面部、16…底面駆動部、20…粉体層形成部、22…ホッパー、24…粉体供給ローラ、26…伸展ローラ、28…吸引ポンプ、30…硬化液供給部、32…硬化液供給ヘッド、34…硬化液収容部、40…演算処理部、42…断面データ生成部、44…制御部、100…三次元造形装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元物体を複数の断面で層状に切断したときに各層で得られる断面データを取得するデータ取得手段と、
粉体を略均一な厚さに敷き詰めて粉体層を形成するとともに、硬化液を前記断面データに従って該粉体層に供給することにより、前記三次元物体の一層分の断面形状に相当する断面部材を形成する断面部材形成手段と、
前記断面部材が形成された粉体層の上に新たな粉体層を形成し、該新たな粉体層に前記断面データに従って前記硬化液を供給することで新たな断面部材を形成して、先に形成された断面部材の上に順次積層することによって、前記三次元物体を造形するように前記断面部材形成手段を制御する制御手段と
を備え、
前記断面部材形成手段は、
前記断面部材の中で第一領域を、先に形成した断面部材の上に前記硬化液を供給して硬化させることによって形成した後、
前記第一領域以外の部分に前記粉体層を形成し、前記断面データに従って前記硬化液を供給して粉体を結合させることによって、前記断面部材の残余の部分を形成する三次元造形装置。
【請求項2】
前記第一領域は、前記三次元物体の表面に相当する部分である、
請求項1に記載の三次元造型装置。
【請求項3】
前記硬化液は、所定波長の電磁波が照射されることによって硬化する液体であり、
前記断面部材を形成するために供給された前記硬化液に、前記所定波長の電磁波を照射する電磁波照射手段を備える、
請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記硬化液は、硬化後は透明になる液体である、
請求項1乃至3に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の三次元造型装置により造型された三次元物体。
【請求項6】
請求項1乃至4記載の三次元造型装置を用いた三次元物体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−66594(P2012−66594A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259930(P2011−259930)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【分割の表示】特願2007−179322(P2007−179322)の分割
【原出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】