説明

三重偏心バタフライ弁

【課題】 製造コストの低減を図りつつ、シール性能を良好に維持することができる三重偏心バタフライ弁を提供する。
【解決手段】 流路11を備える弁箱10と、流路11内に配置された弁体20と、弁体20を回動可能に支持する弁軸30とを備え、弁箱10の内周面に形成された環状の座部12と環状のリテーナ13との間にシートリング40が挟持された三重偏心バタフライ弁1であって、シートリング40と座部12との間、および、シートリング40とリテーナ13との間に、座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51をそれぞれ備え、座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51は、いずれも環状の薄板からなり、内周面が楕円状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三重偏心バタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバタフライ弁として、弁体の回動軸となる弁軸の中心を、弁体とシートリングにより形成されるシール面から偏心(一次偏心)させると共に、弁体が収容される弁箱内の流路の中心からも偏心(二次偏心)させ、更に、弁体の外周面を構成する円錐の中心線を弁箱内の流路の中心線に対して傾斜させた(三次偏心)、三重偏心構造のバタフライ弁が知られている。三重偏心バタフライ弁は、例えば特許文献1に開示されているように、弁箱の内部に設けられた装着溝の座面とリテーナとの間に挟持されたシートリングが外周真円状で内周楕円状に形成され、偏心した円錐の一部からなる弁体の外周面が、シートリングの楕円状の内周面と周方向全体にわたって接触するように構成される。
【0003】
ところが、上記特許文献1に開示された三重偏心バタフライ弁は、装着溝の座面およびリテーナの内周および外周がいずれも真円状に形成されているため、内周楕円状のシートリングを座面に載置すると、座面およびリテーナからのシートリングの内方へのはみ出し量が、周方向で不均一になる。このため、シートリングのはみ出し量の多い部分が弁体と接触することによって、シートリングの取付け状態が不安定になったり、均一なシール面圧を得にくいという問題があった。
【0004】
シートリングのはみ出し量を周方向で均一にするためには、シートリングの内周に沿うように座面およびリテーナの内周を楕円状に形成すればよいが、このような楕円状の開口は旋盤加工で形成することができないため、加工コストや加工時間の問題を生じる。このため、特許文献2には、リテーナとシートリングとの間に、内周楕円で外周真円の環状薄板からなるスペーサを介在させた構成とすることで、楕円状の開口をレーザ加工等で容易に形成可能とした三重偏心バタフライ弁が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献2の構成においても、座面からのシートリングのはみ出し量が不均一であることは解消されないため、やはり特許文献1の構成と同様の問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−256150号公報
【特許文献2】特許第3740360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、製造コストの低減を図りつつ、シール性能を良好に維持することができる三重偏心バタフライ弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸とを備え、前記弁箱の内周面に形成された環状の座部と環状のリテーナとの間にシートリングが挟持されており、前記シートリングは、前記弁体の閉鎖時に前記弁体との間で前記流路をシールするシール面を形成し、前記弁軸の中心を、前記シール面から偏心させると共に、前記流路の中心からも偏心させ、更に、前記弁体の外周面を構成する円錐の中心線を前記流路の中心線に対して傾斜させることにより、前記シール面が楕円状となるように構成された三重偏心バタフライ弁であって、前記シートリングと前記座部との間、および、前記シートリングと前記リテーナとの間に、座部側スペーサおよびリテーナ側スペーサをそれぞれ備え、前記座部側スペーサおよびリテーナ側スペーサは、いずれも環状の薄板からなり、内周面が楕円状に形成されている三重偏心バタフライ弁により達成される。
【0009】
この三重偏心バタフライ弁は、前記リテーナと前記リテーナ側スペーサとの間に介在され、前記リテーナの内周側と前記リテーナ側スペーサの内周側との間に間隙を形成するように配置された環状の薄板からなる二次スペーサを更に備えることが好ましい。
【0010】
また、前記シートリングは、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造コストの低減を図りつつ、シール性能を良好に維持することができる三重偏心バタフライ弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る三重偏心バタフライ弁の横断面図である。
【図2】図1に示すバタフライ弁のシートリングの平面図である。
【図3】図2に示すシートリングの拡大断面図である。
【図4】図1の要部拡大図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る三重偏心バタフライ弁の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る三重偏心バタフライ弁の横断面図である。図1に示すように、三重偏心バタフライ弁1は、内部に円筒状の流路11が形成された弁箱10と、流路11内に配置された板状の弁体20と、弁体20を回動可能に支持する弁軸30と、弁箱10の内周面に設けられたシートリング40とを備えている。
【0014】
弁箱10は、内周面に段状に形成された座部12を備えている。座部12は、流路11の流体流れ方向Fと直交する平面状に形成されており、内周が真円状に形成されている。シートリング40は、座部12と環状のリテーナ13との間に配置されている。リテーナ13は、弁箱10の内周面に固定された固定リング14に螺着された締付ネジ15により座部12に向けて押圧することができ、シートリング40を座部12との間で挟持する。リテーナ13の外周面および内周面はいずれも真円状に形成されており、弁箱10の内周面のうち円形に旋削された箇所にリテーナ13の外周面が内嵌されるように構成されている。
【0015】
弁体20は、板状に形成されており、外周面22がシートリング40に当接して流路11を封鎖する。弁軸30は、一端側が弁箱10内に位置し、他端側が弁箱10外に位置するように弁箱10に挿通されており、一端側に弁体20がテーパピン21で固定されている。弁軸30の他端側はアクチュエータ(図示せず)に連結されており、アクチュエータの駆動により弁軸30と共に弁体20が矢示方向に回動し、流路11が開閉される。
【0016】
本実施形態の三重偏心バタフライ弁1は、弁軸30の中心30aが、弁体20とシートリング40により形成されるシール面424aから流路11の中心線11Lに沿って距離E1だけ偏心しており、更に、流路11の中心線11Lから直交方向に距離E2だけ偏心している。更に、弁体20の外周面22は、流路11の中心線11Lから角度E3だけ傾斜した中心線22aを有する仮想円錐の外周面22bの一部によって形成されており、流路11の中心線11Lに沿って見たときに楕円形状を有している。
【0017】
シートリング40は、剛性材料からなる保持リング41と、弾性材料からなる封止リング42とを備えており、保持リング41に封止リング42が保持されている。
【0018】
図2は、シートリング40の平面図である。図1および図2に示すように、保持リング41の外周面411は、弁箱10の内周面のうち、円形に旋削された箇所に保持されるように、真円状に形成されている一方、保持リング41の内周面412は、弁体20の楕円形状の外周面22と略同じ扁平率を有する平面視楕円状に形成されている。また、封止リング42は、保持リング41に保持される前の状態では、外周面421および内周面422のいずれも真円状に形成されており、保持リング41の内周長さよりも若干大きい外周長さを有している。この封止リング42は、保持リング41の内周面412に装着することにより、外周面421が保持リング41の内周面412に沿うように弾性圧縮変形し、保持リング41に確実に装着されると共に、封止リング42の内周面422が平面視楕円状となっている。封止リング42の保持面となる保持リング41の内周面412は、本実施形態では高さ方向で断面形状を一定としているが、必ずしも一定である必要はない。
【0019】
保持リング41は、封止リング42の弾性変形を促しつつ確実に保持すると共に、楕円状の内周面をレーザ加工等により容易に形成できるように、例えばステンレスやアルミニウム等の金属材料により形成することができる。一方、封止リング42は、外周面421および内周面422のいずれも真円状であることから、例えば従来の二重偏心バタフライ弁で使用されるシートリングと同様に、樹脂製やゴム製のものを使用することができる。
【0020】
また、シートリング40は、図1および図2に示すように、封止リング42の端面に環状の溝部423が形成されており、溝部423がリテーナ13と対向するように弁箱10内に配置されている。図3に拡大断面図で示すように、封止リング42に設けた溝部423より内径部の高さH1は、保持リングの高さH2よりも若干低く形成されており、流体の流れ方向Fに流体圧力が作用した際、封止リング42における溝部423の内部に圧力が作用し、シール面424aを内径方向へ変形させるため、シール面圧を容易に確保することができる。封止リング42は、上記のように保持リング41への装着前は真円状に形成されているため、封止リング42に対して環状の溝部423を同心状に容易に形成することができる。
【0021】
封止リング42の内周面422は、一部または全体が弁体20の外周面22に接触してシール面424aを形成する。本実施形態においては、内周面422から内方に突出する環状のリップ424が設けられており、このリップ424がシール面424aを形成する。この構成によれば、シール面424aでの接触を馴染み易くすることができ、安定したシール性能を得ることができる。リップ424の断面形状は、本実施形態では円弧状としているが、角状等とすることもできる。シール面424aは、流路11の中心線11Lに沿って見たときに、弁体20の外周面22と同様に楕円形状を有している。
【0022】
図4は、図1におけるシートリング40の近傍を拡大して示す断面図である。図1および図4に示すように、シートリング40と座部12との間には、座部側スペーサ50が配置されており、シートリング40とリテーナ13との間には、リテーナ側スペーサ51が配置されている。更に、リテーナ13とリテーナ側スペーサ51との間には、二次スペーサ52が介在されている。なお、座部12と座部側スペーサ50との間は、ガスケット16により封止されている。
【0023】
座部側スペーサ50、リテーナ側スペーサ51および二次スペーサ52は、いずれも金属材料等からなる環状の薄板であり、外周面が、弁箱10の内周面のうち円形に旋削された箇所に保持されるように真円状に形成されている。一方、座部側スペーサ50、リテーナ側スペーサ51および二次スペーサ52の内周面は、弁体20の楕円形状の外周面22と略同じ扁平率を有する平面視楕円状に形成されている。シートリング40、座部側スペーサ50、リテーナ側スペーサ51および二次スペーサ52は、楕円状の内周面が同心状となるように配置されている。このような配置を容易にするため、図5に示すように、リテーナ13、二次スペーサ52、リテーナ側スペーサ51、シートリング40、座部側スペーサ50および座部12に、それぞれ位置決め孔を形成し、これら位置決め孔の位置合わせを行ってピン60を挿通するように構成してもよく、これによって組立作業性を良好にすることができる。ピン60を挿通する位置決め孔は、例えば、内周楕円の長軸または短軸の延長線上に形成することができ、1か所に形成してもよく、あるいは複数個所に形成してもよい。
【0024】
座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51の内周面は、介在するシートリング40の内方へのはみ出し量が必要最小限となるような大きさの楕円状開口により形成されており、全周にわたってシートリング40のはみ出し量が略均一とされている。座部側スペーサ50の内周側は、流体の流れ方向Fに沿ってみたときに、座部12の内周よりも内方に若干はみ出している。また、二次スペーサ52の内周面は、リテーナ側スペーサ51の内周面よりも大きな内径(長径および短径)を有しており、リテーナ13の内周側とリテーナ側スペーサ51の内周側との間に、間隙Sが形成されている。
【0025】
上記の構成を備える三重偏心バタフライ弁1は、弁箱10の開口両端面にそれぞれフランジ管(図示せず)のフランジ端面を当接させることができ、フランジ同士をボルト等で締結することにより、弁箱10の流路11をフランジ管の流路と連通させることができる。但し、弁箱10と管との接続方式はこのようなウエハー型に限定されるものではなく、ラグタイプ、フランジ形、突合せ溶接形など他の方式であってもよい。流路11内の流体の流れ方向Fは、本実施形態では弁体20に対して弁軸30が配置された側を下流側としているが、弁軸30側を上流側とすることもできる。
【0026】
本実施形態の三重偏心バタフライ弁1は、シートリング40と座部12との間、および、シートリング40とリテーナ13との間に、それぞれ座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51を配置しており、座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51の内周面をいずれも楕円状に形成しているので、内周面が同じく楕円状に形成されたシートリング40のはみ出し量を、内周全体にわたって略均一にすることができる。したがって、弁体20を閉じたときにシートリング40に局部的な力が作用するおそれがなく、シートリング40の安定した取付状態を維持することができると共に、シール性能も良好に維持することができる。また、座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51は、いずれも環状の薄板であるため、楕円状の内周面をレーザ加工等により容易に形成可能であると共に、座部側スペーサ50およびリテーナ側スペーサ51を保持する座部12およびリテーナ13の内周は、旋盤加工等により真円状に形成可能であることから、上記の効果を低い製造コストで実現することができる。
【0027】
また、リテーナ13とリテーナ側スペーサ51との間に二次スペーサ52を介在させ、リテーナ13の内周側とリテーナ側スペーサ51の内周側との間に間隙Sを形成することにより、図4に示す矢示方向に閉じた弁体20による押圧力が、シートリング40を介してリテーナ側スペーサ51に伝達されたときに、リテーナ側スペーサ51の内周側を板ばね状に弾性変形させることができる。したがって、この弾性力により、流れ方向Fと反対方向に流体圧力が付加された際に、弁体の移動や変形に伴うシートリング40の過剰圧縮を防ぐことができると共に、シール面424aのシール性能を安定させることができる。この結果、細い弁軸30や低出力のアクチュエータを用いて低トルクでシールすることが可能であり、製造コストの低減を図ることができる。
【0028】
シートリング40は、低トルクで確実にシールできるように、シール面424aを形成する封止リング42を弾性材料から形成することが好ましく、本実施形態のように、保持リング41の楕円状の内周面412に封止リング42を弾性圧縮状態で保持した構成とすることにより、製造コストの低減を図ることができる。但し、保持リング41は必須のものではなく、弾性材料からなる封止リング42のみによってシートリング40を構成することも可能である。更に、従来の三重偏心バタフライ弁と同様に、金属板と膨張黒鉛とを交互に積層したシートリングを使用することもできる。
【0029】
また、図4に示すように、座部側スペーサ50の内周面501は、弁体20の閉鎖時において、外周面22に全周にわたって接することによりシールすることが好ましい。この構成においては、座部側スペーサ50の材料を金属等の不燃性材料とすることにより、火災発生時にシートリング40が損傷した場合でも、座部側スペーサ50と弁体20との接触によりシール性能を維持することができる。座部側スペーサ50を金属材料とした場合には、弁体20の外周面22が、全閉時に座部側スペーサ50と摺動して掻き傷等の損傷を受けるおそれがあるが、三重偏心バタフライ弁においては、円錐の一部からなるシール面22bを、弁軸30の回転により全閉直前に全周同時に形成し、弁軸30にトルクを付加することでシール面圧を増加させる構造であるため、この摺動範囲A1を狭い範囲に抑えることができ、弁体20およびシートリング40間の摺動範囲A2との重複を回避することができる。したがって、シール面424aが、座部側スペーサ50との摺動により荒らされる等の悪影響を受けるおそれがなく、シール性能を良好に維持することができる。特に、本実施形態のようにシール面424aを環状のリップ424により形成した場合には、摺動範囲A1から離隔した位置にシール面424aを形成することが容易であり、上記の問題を確実に解消することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 三重偏心バタフライ弁
10 弁箱
11 流路
12 座部
13 リテーナ
20 弁体
30 弁軸
40 シートリング
41 保持リング
42 封止リング
424 リップ
424a シール面
50 座部側スペーサ
51 リテーナ側スペーサ
52 二次スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸とを備え、
前記弁箱の内周面に形成された環状の座部と環状のリテーナとの間にシートリングが挟持されており、
前記シートリングは、前記弁体の閉鎖時に前記弁体との間で前記流路をシールするシール面を形成し、
前記弁軸の中心を、前記シール面から偏心させると共に、前記流路の中心からも偏心させ、更に、前記弁体の外周面を構成する円錐の中心線を前記流路の中心線に対して傾斜させることにより、前記シール面が楕円状となるように構成された三重偏心バタフライ弁であって、
前記シートリングと前記座部との間、および、前記シートリングと前記リテーナとの間に、座部側スペーサおよびリテーナ側スペーサをそれぞれ備え、
前記座部側スペーサおよびリテーナ側スペーサは、いずれも環状の薄板からなり、内周面が楕円状に形成されている三重偏心バタフライ弁。
【請求項2】
前記リテーナと前記リテーナ側スペーサとの間に介在され、前記リテーナの内周側と前記リテーナ側スペーサの内周側との間に間隙を形成するように配置された環状の薄板からなる二次スペーサを更に備える請求項1に記載の三重偏心バタフライ弁。
【請求項3】
前記シートリングは、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングを備える請求項1または2に記載の三重偏心バタフライ弁。
【請求項4】
前記座部側スペーサは、前記弁体の閉鎖時に、前記弁体の外周面と周方向全体にわたって接触する請求項1から3のいずれかに記載の三重偏心バタフライ弁。
【請求項5】
前記シートリングは、前記シール面を形成する環状のリップを備える請求項1から4のいずれかに記載の三重偏心バタフライ弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127400(P2012−127400A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278480(P2010−278480)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【Fターム(参考)】