説明

上塗り塗膜形成方法及びその方法に用いられるクリヤー塗料組成物

【課題】ベース塗料を塗装した後、第1クリヤー塗料をウェット・オン・ウェットで塗装し、加熱硬化後、第2クリヤー塗料を塗装して加熱硬化する3コート2ベーク塗装法において、ベースコート塗膜の乱れの防止と第2クリヤー塗料に対して密着性の向上を図る。
【解決手段】第1クリヤー塗料が
(a)炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)およびその他のアクリルモノマー(4)から得られる特定のアクリル樹脂、
(b)水酸基を有するアクリルモノマー(5)、エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)およびその他のアクリルモノマー(7)を重合して得られる特定のアクリル樹脂、および
(c)特定のメラミン樹脂硬化剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗膜形成方法、特にメタリックベース塗料またはソリッドベース塗料を塗装した後、第1クリヤー塗料を塗装して焼き付け硬化した後、第2クリヤー塗料を塗装し焼き付け硬化する上塗り塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外観を特に重視する被塗物、たとえば自動車などには、複数の塗料が塗布されて、複層塗膜が形成される。被塗物には一般的に、下塗り塗料と中塗り塗料を塗装した後、上塗り塗装が施される。上塗り塗装は自動車用の場合、着色層となるベース塗料を塗装した後、焼付けを行わずに、ウェット・オン・ウェットでクリヤー塗料を塗り重ねて、上塗塗膜を形成している。高外観を得るためには、クリヤー塗料を更に塗り重ねることが行われている。クリヤー塗料を塗り重ねる時には1回目のクリヤー塗料(第1クリヤー塗料)の塗装の後に焼付けを行いベース塗膜と第1クリヤー塗膜を同時に硬化させ、次いで第2クリヤー塗料を塗装し、得られた複層塗膜を焼付け硬化塗膜を得る、いわゆる3コート2ベーク塗装法(3C2B塗装法)が広く用いられている。
【0003】
特に、第2クリヤー塗料として、高機能性クリヤーを用いた場合には、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜との層間で研磨することなく付着性を維持するために、第1クリヤー塗膜の樹脂成分として、第2クリヤー塗膜層とのぬれ性(なじみ)を踏まえ、極性の高い樹脂を配合することが多い。しかし、その結果として、先に形成されたベースコート塗膜とウェット・オン・ウェットで塗装される第1クリヤー塗料とが塗膜界面で混ざりあうことがあり、特にベースコート塗膜にマイカ顔料やアルミ顔料などの光輝性顔料が含まれている場合には、先に形成されたベースコート塗膜に含まれる光輝性顔料の配向を乱し、得られる複層塗膜のフリップフロップ性(または単に「FF性」ともいう。)を低下させる場合がある。
【0004】
特開平11−207255号公報(特許文献1)には、上述の3C2B塗装法において、第1クリヤー塗料が長鎖水酸基および短鎖水酸基を含有するアクリル樹脂、ポリエポキシド並びにメラミン硬化剤を含有する有機溶剤系塗料であるものが開示されている。長鎖水酸基モノマーを用いることにより、第2クリヤー塗膜との密着性を改善したものとみられるが、フリップフロップ性については必ずしも十分ではない。また、塗膜の耐水試験後の付着性や、寒冷地での密着性を想定した、冷熱サイクル試験後の複層塗膜の密着性は、塗膜の可撓性が不十分なために、必ずしも満足できない場合があった。
【0005】
特開2000−136345号公報(特許文献2)には、3C2B塗装法において、第1クリヤー塗料が水酸基含有樹脂、メラミン樹脂およびエポキシ基含有化合物を含有する薄層塗膜形成方法が開示されている。この第1クリヤー塗料も第2クリヤー塗膜との密着性は優れているものの、フリップフロップ性については必ずしも優れたものではない。
【0006】
特開2003−277678号公報(特許文献3)には、3C2B塗装法において、第1クリヤー塗料がアクリル樹脂、ポリエステルオリゴマー、イミノメチロール型ブチル化メラミン樹脂および、イミノメチロール型メチル化メラミン樹脂を含有する塗料組成物が開示され、高密着性および高鮮映性が得られる複層塗膜の形成方法が開示されているが、フリップフロップ性の向上については十分な示唆はなかった。また、寒冷地での密着性を想定した、冷熱サイクル試験後の複層塗膜の密着性等については、検討されていなかった。
【0007】
特開2001−54760号公報(特許文献4)には、第1クリヤー塗料と第2クリヤー塗料に使用される樹脂組成物の溶解性パラメーターを規定して層間の付着性を向上しているが、硬化剤の用い方については示唆すらなく、ましてやベース塗膜の仕上がり、特にフリップフロップ性については十分ではなかった。
【特許文献1】特開平11−207255号公報
【特許文献2】特開2000−136345号公報
【特許文献3】特開2003−277678号公報
【特許文献4】特開2001−54760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ベース塗料を塗装した後、第1クリヤー塗料をウェット・オン・ウェットで塗装し、加熱硬化した後、第2クリヤー塗料を塗装して加熱硬化するいわゆる3C2B塗装法において、第1クリヤー塗料を改良することにより、ベースコート塗膜に含まれる光輝性顔料の配向の乱れを防止し、高FF性を維持すると共に、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜とからなる複層塗膜において、下層塗膜を研磨しなくても付着するという高レベルでの層間密着性を維持することが可能な3C2B塗装法を提供することにある。また、冷熱サイクル試験後の複層塗膜の密着性を同時に改善することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は被塗物にベース塗料を塗装して得られた塗膜の上に第1クリヤー塗料を塗装し、ベース塗膜および第1クリヤー塗膜を同時に焼付け硬化し、次いで第2クリヤー塗料を塗装して得られた第2クリヤー塗膜を焼付け硬化する上塗り塗膜形成方法において、
該第1クリヤー塗料が
(a)炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)と、
アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)とカルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)およびその他のアクリルモノマー(4)を、前記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の量がモノマー全量の5〜20重量%の量で重合して得られる、水酸基価110〜160mgKOH/gおよび酸価5〜35mgKOH/gを有するアクリル樹脂、
(b)水酸基を有するアクリルモノマー(5)、エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)およびその他のアクリルモノマー(7)を重合して得られる、水酸基価10〜150mgKOH/gおよびエポキシ当量230〜800g/eqを有するアクリル樹脂、および
(c)メラミン樹脂硬化剤であって、該メラミン樹脂硬化剤の溶解度パラメーター(Sp値)が9.5〜11.0であり、該メラミン樹脂硬化剤のうち50重量%以上がイミノ基含有メラミン樹脂であるもの
を含有し、
該第2クリヤー塗料がポリエポキシドとポリ酸とを含有するクリヤー塗料または水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤー塗料であることを特徴とする上塗り塗膜形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマーを第1クリヤー塗料に含有する塗膜形成性樹脂の成分として使用するために、第1クリヤー塗膜の疎水性が向上して、光輝性顔料を含むベースコート塗膜への混ざり込みが制限され高いフリップフロップ性を維持できる。一般に、クリヤー塗膜の焼付け乾燥後に、更にその上にクリヤー塗料を塗装すると下層となるクリヤー塗膜とその上に形成されたクリヤー塗膜との層間密着性は悪い。しかし、本発明の第1クリヤー塗膜は、水酸基とエポキシ基を含有するアクリル樹脂(b)及びイミノ基含有メラミン樹脂(c)をメラミン樹脂総量の50重量%以上の量で用いることで、第2クリヤー塗料との反応性が高められ、第2クリヤー塗膜との層間密着性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の上塗り塗膜形成法についてさらに詳細に説明する。
【0012】
ベース塗料
本発明の方法に従い、被塗面に塗装されるベース塗料としては、樹脂成分、着色顔料および溶剤を含有する既知の熱硬化性塗料を使用することができ、ソリッドカラー塗料、メタリック塗料、光干渉模様塗料などを挙げることができる。なお、本発明で用いる第1クリヤー塗料との組み合わせに於いては、光輝性顔料を含有するベースコート塗料との組み合わせに優れたFF性を発揮することができ好ましい。
【0013】
具体的には、樹脂成分は、架橋性官能基(例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシシラン基など)を有するアクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などから選ばれる1種またはそれ以上の基体樹脂と、これらを架橋硬化させるためのアルキルエーテル化したメラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基含有化合物などから選ばれた1種もしくはそれ以上の架橋剤成分とからなり、該両成分の合計を基準にして、基体樹脂は50〜90%、架橋剤成分は50〜10%の比率で併用することが好ましい。
【0014】
また、着色顔料としては、ソリッドカラー用、メタリック用、光干渉模様の顔料が包含され、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルーなどの無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、イソインドリノン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料などの有機顔料;りん片状のアルミニウム、雲母、金属酸化物で表面被覆した雲母、雲母状酸化鉄などのメタリック顔料やカーボンブラックなどが挙げられ、これらは単独もしくは2種以上を組合せて使用することができる。
【0015】
さらに、溶剤としては有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては、通常の塗料用溶剤を使用することができる。
【0016】
ベース塗料は水性塗料であっても良い。この場合、主な溶媒は水となるが、有機溶剤を含有しても良い。
【0017】
ベース塗料には、必要に応じてさらに、体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、流動調整剤、はじき防止剤などの通常の塗料用添加剤を配合することができる。
【0018】
本発明において、ベース塗料は、自動車用の金属製もしくはプラスチック製の材料に直接、または該材料にカチオン電着塗料などの下塗り塗料および場合によりさらに中塗り塗料を塗装し、硬化させてなる塗面に塗装することができる。
【0019】
ベース塗料は、エアスプレー、静電塗装などにより、硬化塗膜で約10〜約50μmになるような膜厚に塗装することができ、必要により室温〜約100℃で数分間放置してから、この未硬化塗面に、下記の第1クリヤー塗料を塗装する。
【0020】
第1クリヤー塗料
本発明に従い上記ベース塗料の未硬化塗面に塗装される第1クリヤー塗料は、透明塗膜を形成するものである。
【0021】
第1クリヤー塗料は、(a)炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)および、その他のアクリルモノマー(4)を、前記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の量がモノマー全量の5〜20重量%の量で重合して得られる、水酸基価110〜160mgKOH/gおよび酸価5〜35mgKOH/gを有するアクリル樹脂と、
(b)水酸基を有するアクリルモノマー(5)とエポキシ基を有するアクリルモノマー(6)と、その他のアクリルモノマー(7)を重合して得られる、水酸基価10〜150mgKOH/gおよびエポキシ当量230〜800g/eqを有するアクリル樹脂、および
(c)メラミン樹脂硬化剤であって、該メラミン樹脂硬化剤の溶解度パラメーター(Sp値)が9.5〜11.0であり、該メラミン樹脂硬化剤のうち50重量%以上がイミノ基含有メラミン樹脂であるものを含有する有機溶剤系塗料である。
【0022】
アクリル樹脂(a)は前述のように炭素数8以上のアルキルエステル基を有するモノマー(1)、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)およびその他のアクリルモノマー(4)を重合して得られるが、上記アクリル樹脂(a)を得るのに用いられる炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の量が、該アクリル樹脂を合成するのに用いられる全アクリルモノマーの5〜20重量%である。更に5〜13重量%であることが好ましく、下限を下回ると得られる塗膜のフリップフロップ性が確保できず、上限を上回ると塗膜層間の付着性が低下する。
【0023】
上記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)は、好ましくは炭素数8〜18、より好ましくは10〜15のアルキルエステル基を含有しているが、アクリルモノマー(1)を用いることで、ウェット・オン・ウェット塗装されるベース塗膜との層間でのなじみを抑制し、ベース塗膜のフリップフロップ性を向上させることができる。更に、第1クリヤー塗膜硬化時の内部応力の発生を抑制することができ、第2塗膜の硬化ひずみも抑制することができるので好ましい。上記モノマー(1)の具体例としては、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニルまたはそれらの混合物が挙げられる。ただし、炭素数が8以上のアルキル基が含まれる場合は、ベース塗料と第1クリヤー塗料の成分が混ざり合いを防ぐことができ、好ましい。炭素数が18を上回ると、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜の層間密着性が不良となる可能性があり、あまり好ましくない。
【0024】
特に上記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の中でも、長鎖または直鎖状のアルキルエステル基を有するアクリルモノマーを用いることが好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシルが好ましいものとして挙げられ、これは単独または2種以上併用して用いることができる。
【0025】
本発明のアクリル樹脂(a)に適用されるアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)は、アクリル基からの距離が炭素数で4以上、好ましくは4〜16、より好ましくは4〜9であることを必要とする。本発明における「アクリル基」からの距離とは、アクリルモノマー(2)における以下の構造(化1):
【化1】

におけるエステル部分の酸素(−O−)と対象となる水酸基との距離を意味するものであり、その間に存在する炭素原子の数によって決定される。ただし、この場合、直鎖状の炭素のみが数に含まれ、枝分かれした炭素原子は数に含まれない。尚、エステル部分の酸素と水酸基との間に、エーテル結合やエステル結合などが存在する場合においても、炭素原子の数のみをカウントし、酸素原子などの炭素原子以外の原子の数はカウントしない。本発明の「アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)」は、上記エステル部分の酸素(−O−)と対象となる水酸基との距離が炭素数で4以上離れているアクリルモノマーを意味する。水酸基がアクリル基から離れていることで、立体障害を受けずに、反応に寄与する可能性が高くなるので、有効であると考えている。尚、水酸基がアクリル基から炭素数で4以上離れていない水酸基を有するアクリルモノマーを同時に使用できるが、それらはその他のモノマー(4)の範疇に入る。アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)の例としては、例えば、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5−ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸7−ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸7−メチル−8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸2−メチル−8−ヒドロキシオクチルが挙げられ、その他に、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルをε−カプロラクトンなどのラクトン類を1〜5モル反応させてなるラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。カプロラクトンで変性したアクリルモノマーの市販品の具体例として、例えば、ダイセル化学工業(株)製商品名で、プラクセルFA−1、プラクセルFA−2、プラクセルFA−3(アクリル酸ヒドロキシエチルにε−カプロラクトンをそれぞれ1モル、2モル、3モルを付加したモノマー)、プラクセルFM−1、プラクセルFM-2、プラクセルFM−3(メタクリル酸ヒドロキシエチル1モルにε−カプロラクトンをそれぞれ1モル、2モル、3モルを付加したモノマー)、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社(アメリカ)製商品名で、TONE m−100(アクリル酸ヒドロキシエチル1モルにε−カプロラクトン2モルを付加したモノマー)などが挙げられる。
【0026】
また更に、ポリエーテルグリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル、およびポリエーテルグリコールと(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルとのモノエーテルが挙げられる。例えば、日本油脂社製「ブレンマーAP−150」などが挙げられる。
【0027】
アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)の中でも、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンの反応物であるプラクセルFM−1、FM−2、FA−1およびFA−2を好ましいアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(8)として挙げることができる。上記好ましいモノマーは単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0028】
なお、上記アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)は、アクリル樹脂(a)を合成する際に使用する全ての水酸基含有モノマー全量(その他のモノマー(4)の中の水酸基含有モノマーとアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)と合計量)に対し、50質量%以上の量で用いることが特に好ましい。アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)の配合量が、全ての水酸基含有モノマー全量に占める割合が50重量%を下回ると、第1クリヤーと第2クリヤーの反応性が不十分となる可能性があり、その結果として、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜の層間密着性が悪化する恐れがある。特に好ましくは、55〜100重量%である。
【0029】
上記カルボキシル基を有するモノマー(3)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0030】
その他のアクリルモノマー(4)は、炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)と、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)およびカルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)を除いたもので、これらのアクリルモノマーとの共重合可能なものが挙げられる。
【0031】
上記その他のアクリルモノマー(4)としては、エステル部の炭素数7以下の(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル等)、前述のアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)以外の水酸基含有アクリルモノマー(例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル等)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、α−オレフィン、ビニルエステル、及びジエンを挙げることができる。これらは目的により選択することができる。
【0032】
なお、これらのその他のアクリルモノマー(4)は、上記モノマー混合物中の含有量が35重量%未満に設定されることが好ましい。
【0033】
アクリル樹脂(a)は、上記のモノマーを例えば、ラジカル重合触媒を使って通常の方法により溶液重合することによって調製することができる。
【0034】
上記各モノマーの構成比率は、生成するアクリル樹脂の水酸基価が110〜160mgKOH/g、好ましくは120〜150mgKOH/gの範囲内となるように選択することができる。下限を下回ると得られる塗膜の硬化性が確保できず、上限を上回ると塗膜の耐水性が低下する。上記アクリル樹脂の酸価は、5〜35mgKOH/gであり、好ましくは10〜30mgKOH/gである。上限を上回ると架橋反応が進みすぎて得られる塗膜の可とう性が確保できず、また耐水性も低下する。下限を下回ると硬化性が低下する。
上記アクリル樹脂の数平均分子量は、2000〜15000の範囲内にあることが好ましく、下限を下回ると塗膜硬度が不十分となり、上限を上回ると塗膜外観の低下を招く恐れがある。特に好ましくは、2500〜5000である。
なお、本明細書内での数平均分子量の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)による測定値を、ポリスチレン標準により換算したものである。
【0035】
アクリル樹脂(b)は、水酸基を有するアクリルモノマー(5)、エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)およびその他のアクリルモノマー(7)を重合して得られるアクリル樹脂である。また、アクリル樹脂(b)の合成に当たっては、得られる樹脂の特数を損なわない範囲で、上記以外のモノマーを併用しても良い。水酸基を有するアクリルモノマー(5)は、前述のアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)と、それ以外のアクリル基からの距離が炭素数4未満である水酸基を有するアクリルモノマーの両方を包含する概念である。それらの例としては、既に述べたアクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)で例示したもの、さらにそれ以外の水酸基を有するアクリルモノマー、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチルが挙げられる。さらに、水酸基を有するアクリルモノマー(5)のうち、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンの反応物であるプラクセルFM−1、FM−2、FA−1およびFA−2からなる水酸基含有モノマー(8)を用いることが更に好ましく、その配合量は、水酸基を有するモノマー(5)全体に占める割合が50重量%を下回ると、第1クリヤーと第2クリヤーの反応性が不十分となる恐れがあり、その結果として、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜の層間密着性が悪化する可能性がある。
【0036】
エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)としては、分子内にエポキシ基と重合性不飽和二重結合を有していれば特に限定されないが、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキサンメタノールの(メタ)アクリレートを挙げることができる。反応性の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートおよび4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0037】
さらに、アクリル樹脂(b)に用いられるその他のモノマー(7)は、水酸基を有するモノマー(5)とエポキシ基を有するモノマー(6)以外で、これらのアクリルモノマーとの共重合可能なモノマーを意味し、具体的には(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル等)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン及びビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、α−オレフィン、ビニルエステル、及びジエンを挙げることができる。これらは目的により選択することができる。
【0038】
なお、これらのその他のモノマー(7)は、上記モノマー全体の混合物中の含有量が35重量%未満に設定されることが好ましい。
【0039】
上記アクリル樹脂(b)の水酸基価は10〜150mgKOH/g、より好ましくは20〜130mgKOH/g、エポキシ当量は230〜800g/eq、より好ましくは250〜700g/eq、数平均分子量は約1500〜12000が好ましく、2000〜4000であることが更に好ましい。水酸基価が下限を下回ると密着性が低下し、上限を上回ると耐水性および/またはフリップフロップ性が悪化するため好ましくない。エポキシ当量が下限を下回ると第2クリヤー塗料を塗布して得た複合塗膜の耐水性が悪くなり、上限を上回ると密着性が悪くなる。また、分子量が下限を下回ると塗膜硬度が不十分となり、上限を上回ると得られる塗膜外観が悪くなるおそれがある。
【0040】
メラミン樹脂硬化剤(c)
メラミン樹脂硬化剤は、その溶解度パラメーター(Sp値)が9.5〜11.0であり、その50重量%以上がイミノ基含有メラミン樹脂であるものが用いられる。
【0041】
イミノ基含有メラミン樹脂(c)は、下記化学式のメラミン骨格を有するメラミン樹脂の窒素原子に結合した水素、すなわち、イミノ基が分子中に少なくとも1個以上含まれているものが好ましい。
【0042】
【化2】

【0043】
上記メラミン樹脂のトリアジン核のNに結合する基は、6個存在するが、イミノ型の数が多いものをイミノ基含有メラミン樹脂(若しくは、イミノ型メラミン樹脂)と称し、残りの結合基はその他の基を有していてもよい。
【0044】
第1クリヤー塗料には、配合されるメラミン樹脂中において、イミノ基含有メラミン樹脂を50重量%以上含有する必要がある。50重量%を下回ると複合塗膜の層間一次密着性が悪化する恐れがある。イミノ基含有メラミン樹脂はメラミン樹脂の全体の50〜75重量%が好ましい。イミノ基含有メラミン樹脂は前述したようにイミノ基を1分子内に平均1個以上有するものをいう。下限を下回ると硬化性および付着性が低下する。ただし、イミノ基が多すぎるもの、例えば1分子内に平均3.5個以上のものは、硬く脆弱な塗膜を形成しやすく、塗膜の耐水性・耐衝撃性が劣るため好ましくない。
【0045】
イミノ基を1個以上含有するメラミン樹脂の例として、ユーバン125(三井化学、商品名)、ユーバン225(三井化学、商品名)、サイメル254(三井サイテックインダストリー、商品名)、マイコート508(三井サイテックインダストリー、商品名)が挙げられる。
【0046】
メラミン樹脂の溶解度パラメーター(Sp値)は、9.5〜11.0、好ましくは9.7〜10.9である。Sp値が、11.0を超えると、第2クリヤーとの密着性と塗膜の耐水性が低下するおそれがある。Sp値が9.5を下回ると、得られる塗膜の透明性が低下するので好ましくない。Sp値は、イミノ基含有メラミン樹脂単独の値をとる。Sp値とは、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。Sp値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0047】
上記イミノ基含有メラミン樹脂は、自己縮合反応を行う傾向が強く、第1クリヤー塗膜内に未反応の水酸基が残存する割合が増加する為、第1クリヤーと第2クリヤーの密着性が改善されると推測する。ただし、メラミン樹脂配合量の内、75重量%を超えてイミノ基含有メラミン樹脂を配合すると、上記自己縮合反応が過度に進行し、得られる塗膜の可撓性が失われ、また塗膜の耐水性が低下する恐れがある。一方、イミノ基含有メラミン樹脂の配合量が50重量%を下回ると、第1クリヤー塗膜中の未反応の水酸基が残りにくく、その結果、第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜の層間密着性が悪化する可能性があり好ましくない。
【0048】
一般に、樹脂のSp値は、Sp値既知の良溶媒に溶解させておき、その溶媒より高Sp値の貧溶媒と低Sp値の貧溶媒で濁度滴定することにより、当該樹脂のSp値を決定できることが知られている(参考文献1:C.M.Hansen J.Paint.Tech.,39[505]、104(1967)および参考文献2:小林敏勝 色材、77[4]、188-192 (2004))。
【0049】
例えば、樹脂のSp値の測定例を示すと、
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネチックスターラーにより溶解する。
良溶媒:アセトン(Hansenの測定によるSp値:δ=9.77)
貧溶媒:ヘキサン(Sp値:δpl=7.24)、脱イオン水(Sp値:δph=23.50)
濁度測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、滴定混合物にヘキサンを滴下して、濁りが生じた点のヘキサンの体積分率φpl、ならびに滴定混合物に脱イオン水を滴下して、濁りが生じた点の脱イオンの体積分率φphを記録する。
ヘキサンあるいは脱イオン水を滴下して生じた濁点における混合様態のSp値δml、δmhはそれぞれ貧溶媒と良溶媒のSp値の体積平均であらわすことができる。
【0050】
【数1】

【数2】

【0051】
樹脂のSp値δpolyは、δmlとδmhとの中間値となるので、次式によって決定できる。
【数3】

【0052】
上記アクリル樹脂(a)は、塗料中の樹脂固形分当たり、50〜85重量%、特に60〜80重量%の範囲で含有することが好ましい。上限を上回ると、上層に位置する塗膜との付着性が低下し、下限を下回ると、ベース塗膜との混層性が低下する。
【0053】
上記アクリル樹脂(b)は、塗料中の樹脂固形分当たり、5〜30重量%、特に8〜25重量%の範囲で含有することが好ましい。上限を上回ると、塗膜が硬く脆くなり、下限を下回ると、上塗塗膜との付着性が低下する。
【0054】
上記メラミン樹脂(c)は、塗料中の樹脂固形分当たり、10〜40重量%、特に15〜35重量%の範囲で含有することが好ましい。上限を上回ると、塗膜が硬く脆くなり、下限を下回ると、硬化性が低下する。
【0055】
本発明の第1クリヤー塗料はさらに必要に応じ、硬化触媒、着色顔料、体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、流動調整剤、はじき防止剤などの通常の塗料用添加剤を配合することができ、それによって、着色顔料を全く含有していない無色透明塗膜またはベース塗料塗膜の色調を透視できる程度に着色していていてもよい。
【0056】
第1クリヤー塗料は、エアスプレー、静電塗装などにより、ベース塗料の未硬化塗面に、硬化塗膜で10〜50μmになるような膜厚に塗装した後、100〜180℃、好ましくは120〜160℃で10〜40分間加熱して硬化させることができ、しかる後、該塗面に後術の第2クリヤー塗料を塗装する。
【0057】
ベース塗料の着色塗面に着色透明塗膜を形成する第1クリヤー塗料を塗装すると、該両塗膜のソリッドカラー調、メタリック調、光干渉調がそれぞれ相俟って、ベース塗料の単独塗膜に比べて意匠性、審美性が向上する。
【0058】
第2クリヤー塗料組成物
第2クリヤー塗料はポリエポキシドとポリ酸とを含有する酸エポキシ硬化系クリヤー塗料、または水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤー塗料のいずれかである。
【0059】
第2クリヤー塗料組成物としては、酸エポキシ硬化系クリヤー塗料組成物が好ましく用いられる。特に、酸エポキシ硬化系クリヤー塗料組成物は、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を用いることが好ましく、上記酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を含有することにより、耐酸性に優れた塗膜を形成する高固形分の第2クリヤー塗料組成物が得られる。なお、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)は、貯蔵安定性の観点から、樹脂(a)内の酸無水物基が低分子量のアルコールなどによってハーフエステル化されていることが好ましい。また、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)は、水酸基を併有するものである。
【0060】
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)の配合は、当業者に周知の量および方法で行いうる。
【0061】
上記酸無水物基含有アクリル樹脂(a)及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に含有されるカルボキシル基と、水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有されるエポキシ基とのモル比が1/1.4〜1/0.6、好ましくは1/1.2〜1/0.8となり、かつ酸無水物基含有アクリル樹脂(a)に含有されるカルボキシル基とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有される水酸基とのモル比が1/2.0〜1/0.5、より好ましくは1/1.5〜1/0.7となるような量で配合を行うことが好ましい。
【0062】
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に含有されるカルボキシル基と水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)に含有されるエポキシ基との割合が1/0.6を上回ると得られる塗料組成物の硬化性が低下するおそれがあり、1/1.4を下回ると塗膜が黄変するおそれがある。酸無水物基含有アクリル樹脂(a)に含有される酸無水物基とカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)及び水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)に含有される水酸基とのモル比が1/0.5を上回ると得られる塗料組成物の硬化性が低下するおそれがあり、1/2.0を下回ると水酸基が過剰となるので耐水性が低下するおそれがある。この配合量はそれぞれのポリマーの水酸基価、酸価およびエポキシ当量から当業者に周知の計算法により計算することができる。
【0063】
このようにして得られる本発明の第2クリヤー塗料組成物の硬化機構は、まず、加熱により酸無水物基含有アクリル樹脂(a)中の酸無水物基はカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)および水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)中に含有される水酸基と反応することにより架橋点を形成し、再度カルボキシル基を形成する。このカルボキシル基およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)に存在するカルボキシル基は、水酸基とエポキシ基とを含有するアクリル樹脂(c)中に存在するエポキシ基と反応することにより架橋点を形成する。このように、3種類のポリマーが相互に反応することにより硬化が進行して高い架橋密度を提供することができる。
【0064】
前述のウレタンクリヤー塗料としては、水酸基含有樹脂とイソシアネート化合物硬化剤を含有するクリヤー塗料を挙げることができる。上記硬化剤としてのイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体等の多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0065】
上記水酸基含有樹脂の水酸基価としては、20〜200の範囲内であることが好ましい。上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する。上記下限は、30がより好ましく、上記上限は、180がより好ましい。
【0066】
更に、上記水酸基含有樹脂の数平均分子量は、1000〜20000の範囲内であることが好ましい。上記数平均分子量が1000より小さいと作業性及び硬化性が十分でなく、20000を越えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって作業性が悪く
なる。上記下限は、2000がより好ましく、上記上限は、15000がより好ましい。なお、本明細書では、分子量はスチレンポリマーを標準とするGPC法により決定されるものである。
【0067】
上記水酸基含有樹脂は、更に、2〜30mgKOH/gの範囲内の酸価を有することが好ましい。上記上限を越えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下する。上記下限は、3mgKOH/gがより好ましく、上記上限は、25mgKOH/gがより好ましい。
【0068】
水酸基含有樹脂に対するイソシアネート化合物の配合比は、目的により種々選択できるが、本発明で用いるクリヤー塗料においてはイソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.5〜1.7の範囲内となるように構成するのが好ましい。上記含有量が下限を下回ると硬化性が不十分となり、上限を上回ると硬化膜が堅くなりすぎ脆くなる。上記下限は、0.7がより好ましく、上記上限は、1.5がより好ましい。上記クリヤー塗料の形態としては、溶剤型及び水性型どちらでもよい。
【0069】
上記水酸基含有樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂等を挙げることができ、これらのうち1種又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂を用いることが耐候性、耐水性等の塗膜性能面から好ましい。
【0070】
第2クリヤー塗料組成物には塗装膜の耐候性向上のために、紫外線吸収剤およびヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤等を加えても良い。更にレオロジーコントロール剤として架橋樹脂粒子や、外観の調整の為表面調整剤を添加しても良い。また、必要に応じて、硬化触媒を含ませることが好ましい。
【0071】
架橋樹脂粒子を用いる場合は、第2クリヤー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の量で添加される。架橋樹脂粒子の添加量が10質量部を上回ると外観が悪化するおそれがあり、0.01質量部を下回るとレオロジーコントロール効果が得られないおそれがある。
【0072】
また、本発明で用いる樹脂が酸基を官能基として有する場合、これをアミンで中和することにより、水を媒体とする水性塗料組成物とすることも可能である。
【0073】
具体的には、ポリエポキシドとポリ酸とを含有するクリヤー塗料としては、耐酸性の観点から、日本ペイント社から発売されている「マックフロー O−570クリヤー」あるいは「マックフロー O−1820クリヤー」(いずれも、商品名)が好適に使用することができる。また、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤー塗料である場合は、日本ビー・ケミカル社から販売されている「R290Sクリヤー」(商品名)を好適に使用することができる。
【0074】
第1クリヤー塗料及び第2クリヤー塗料の製造方法は、特に限定されず、当業者の周知の任意の方法を用いることができる。
【0075】
本発明の複層上塗塗膜形成方法は、被塗物に、以上に述べたベース塗料および第1クリヤー塗料を塗装し、加熱して該両塗膜を硬化せしめた後、さらに第2クリヤー塗料を塗装し加熱硬化せしめる、いわゆる3C2B塗装法によって行なわれる。
【0076】
具体的には、自動車用の金属製もしくはプラスチック製の材料に直接、または該材料にカチオン電着塗料などの下塗り塗料および場合によりさらに中塗り塗料を塗装し、硬化させてなる塗面(被塗物)に、ソリッドカラー調、メタリック調または光干渉模様調のベース塗料を、エアスプレー、静電塗装などにより、硬化塗膜で10〜30μmになる膜厚に塗装し、必要により室温で数分間放置してから第1クリヤー塗料を塗装する。
【0077】
第1クリヤー塗料は、着色顔料を全く含有していないか、またはベース塗料塗膜の色調を透視できる程度に着色してなる着色透明塗膜(ソリッドカラー調、メタリック調または光干渉模様調)を形成する塗料であって、エアスプレー、静電塗装などにより、ベース塗料の未硬化塗面に、硬化塗膜で10〜50μmになるような膜厚に塗装し、必要により室温で数分間放置してから、100〜180℃、好ましくは120〜160℃で10〜40分間加熱して、ベース塗料の塗膜および第1クリヤー塗料の塗膜を同時に架橋硬化させる。
【0078】
しかる後、第2クリヤー塗料を、第2塗料の硬化塗面に、エアスプレー、静電塗装などにより、膜厚が硬化塗膜で20〜200μmになるように塗装し、100〜180℃、好ましくは120〜160℃で10〜40分間加熱して架橋硬化させる。これにより、複層上塗り塗膜が形成される。
【実施例】
【0079】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例中、「部」および「%」は特に指示しない限り、重量に基づく。ただし、本発明は以下の記載に限定したものではない。
【0080】
実施例1〜22及び比較例1〜18
(1)第1クリヤー塗料の作成
製造例1 アクリル樹脂(a−1)の合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計、撹拌翼を備えたセパラブルフラスコにキシレン70g.0及びn−ブタノール30.0gを仕込み、窒素雰囲気下で120℃に昇温した。これにスチレン35.0部、アクリル酸n−ブチル14.5部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル38.6部、メタクリル酸ラウリル10.0部、アクリル酸1.9部、カヤエステル−O(化薬アクゾ社製ラジカル重合開始剤)7.0g及びキシレン10.0gからなるモノマー混合溶液を滴下ロートを通じて、3時間で等速滴下し、滴下終了の後さらに30分、窒素雰囲気、撹拌、温度をそのまま維持した。その後、キシレン10.0g及びカヤエステル−Oを1.0gの混合溶液を滴下ロートを通じて、30分で等速滴下した。その後、窒素雰囲気、撹拌、温度をそのまま2時間維持した。得られたアクリル樹脂の水酸基価は150mgKOH/g 、酸価は15mgKOH/g 、数平均分子量は3500であった。
【0081】
製造例2〜13 アクリル樹脂(a−2)〜(a−13)
モノマー混合溶液の組成を表1および表2に記載したものに変更すること以外は、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂(a−2)〜(a−13)を製造した。
【0082】
製造例14 アクリル樹脂(b−1)の合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計、撹拌翼を備えたセパラブルフラスコにソルベッソ100(S−100)を70.0g及び酢酸ブチル30.0gを仕込み、窒素雰囲気下で130℃に昇温した。これにスチレン35.0部、アクリル酸n−ブチル1.3部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル25.7部、メタクリル酸グリシジル38.0部、カヤエステル−Oを8.0g及びS−100を10.0gからなるモノマー混合溶液を滴下ロートを通じて、3時間で等速滴下し、滴下終了の後さらに30分、窒素雰囲気、撹拌、温度をそのまま維持した。その後、S−100を10.0g及びカヤエステル−Oを1.0gの混合溶液を滴下ロートを通じて、30分で等速滴下した。その後、窒素雰囲気、撹拌、温度をそのまま2時間維持した。得られたアクリル樹脂の水酸基価は100mgKOH/g 、エポキシ基当量374g/eq 、数平均分子量は2500であった。
【0083】
製造例13〜21 アクリル樹脂(b−2)〜(b−8)の合成
モノマー混合溶液の組成を表3に記載したものに変更すること以外は、製造例13と同様の方法で、アクリル樹脂(b−2)〜(b−8)を製造した。得られたアクリル樹脂の水酸基価、酸価、数平均分子量は、表3に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
「プラクセルFM−1」:ダイセル化学工業社製のメタクリル酸ヒドロキシルエチル1モルにε―カプロラクトンを1モル付加したモノマー。
「ブレンマーAP−150」:日本油脂社製のポリプロピレングリコールとアクリル酸とのモノエステル。
【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
第1クリヤー塗料の製造
ステンレスビーカーに表4の配合例に従って、アクリル樹脂a、アクリル樹脂b、およびメラミン樹脂を秤とり、つぎに、ソルベッソ100/酢酸エチル=1/1(重量比)からなるシンナーを加えてディスパーで撹拌して、第1クリヤー塗料を得た。続いて第1クリヤー塗料の粘度がフォードカップNo.4/20℃の粘度となるように上記シンナーを用いて調整した。
【0089】
なお、三井東圧社製メラミン樹脂「ユーバン20N−60」の測定は、上述した要領に沿って、測定温度20℃で、以下のように行った。
サンプル:メラミン樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネチックスターラーにより溶解した。また、アセトンのSp値:δg=9.77、ヘキサンのSp値:Φpl=7.24、脱イオン水のSp値:δph=23.50を用いた。
【0090】
濁度測定:50mlのビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、滴定混合物にヘキサンを滴下して、濁りが生じた点のヘキサンおよび脱イオン水の滴下量を記録し、用いたヘキサンの体積分率Φpl、ならびに滴定混合物に脱イオン水を滴下して、濁りが生じた点の脱イオンの体積分率Φphを求めた。ヘキサンおよび脱イオン水の滴下量は、ヘキサン滴下量は、58.21mlであり、脱イオン水滴下量は、1.74mlであった。
メラミン樹脂のSP値:(数1)および(数2)へ各体積分率を代入する。
Φpl=(58.21)/(58.21+10)≒0.8534
Φph=(1.74)/(1.74+10)≒0.1482
δml=Φpl×δpl+(1−Φpl)×δg=(0.8534)(7.24)+(1−0.8534)(9.77)≒7.6109
δmh=Φph×δph+(1−Φph)×δg=(0.1482)(23.5)+(1−0.1482)(9.77)≒11.8048
であり、また更に、(数3)へ代入すると、
δpoly=(δml+δmh)/2=(7.6109+11.8048)/2≒9.7であった。また、同様にして、実施例および比較例に用いたメラミン樹脂のSp値を測定し、その結果を表4〜表8に示した。
【0091】
以下、同様にして、表4〜表8の配合に従って、実施例および比較例の塗料を配合した。
【0092】
(2)第2クリヤー塗料の作成
第2クリヤー塗料としては、「マックフロー O−1820クリヤー」(商品名、日本ペイント(株)製、(I)酸無水物を有するラジカル重合性モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体中の酸無水物基がハーフエステル化された共重合体と、(II)ヒドロキシ基とエポキシ基を含む共重合体および(III)カルボキシル基および水酸基含有ポリエステル樹脂を含むクリヤー塗料)あるいは、ポリイソシアネート−アクリル樹脂系溶剤型2液ポリウレタン塗料(日本ビー・ケミカル社製「R290Sクリヤー」)を用いた。
【0093】
(3)塗板作成
リン酸亜鉛処理鋼板に、日本ペイント(株)製カチオン電着塗料の「パワートップU−80」を塗装し焼付乾燥の後、その上に日本ペイント(株)製中塗り塗料の「オルガP−2」を塗装し、焼付乾燥した。当該工程試験板に、日本ペイント(株)製ベース塗料の「アクアレックスAR−2000シルバーメタリック」を塗布し、その後ウェット・オン・ウェットで第1クリヤー塗料を塗布し、140℃で30分間焼付乾燥した。次いで、第1クリヤー塗膜の上に第2クリヤー塗料を塗布し、140℃で30分間焼付乾燥を行い、複層塗膜を得た。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
上記のようにして得た複層塗膜を用いて、フリップフロップ性および第1クリヤー塗料と第2クリヤー塗料との密着性、および耐水2次密着性を評価した。結果を表4〜8に示す。
【0100】
フリップフロップ性
ミノルタ製分光色差計「CM−512M3(商品名)」の受光角度25°(ハイライト)と75°(シェード)のL値の比で評価した。尚、評価した塗色は淡彩シルバーで受光角度25°(正面)のL値が約105のものとした。評価は以下の通りであった。
×:25°に対する75°のL値の比が2.0未満のもの。
△:25°に対する75°のL値の比が2.0〜2.2未満のもの。
○:25°に対する75°のL値の比が2.2〜2.5未満のもの。
◎:25°に対する75°のL値の比が2.5以上のもの。
結果を表3〜4に示した。
【0101】
密着性
得られた複層塗膜にカッターナイフ(NTカッター(商品名)S型、A型またはその相当品)の切り刃を塗装面に対して約30度の角度を保ちつつ、素地に達する2mm間隔の碁盤目の切り込みを入れ、100個の碁盤目を作る。その上に気泡が残らないように粘着テープ(ニチバン社製粘着テープ)を均一に圧着させた。粘着テープの一端を持ち、塗面に対して30度の角度を保ちつつ、粘着テープを一気に剥がした。このときの[剥がれなかった碁盤目のマス目の数]/[碁盤目のマス目の数=100]を目視判定により決定し、1個の碁盤目も剥がれないものを○、碁盤目の沿線部が若干剥がれたものを○△、碁盤目の沿線が一部剥がれたものを△、碁盤目の沿線部がかなり剥がれたものを△×、碁盤目のマス目が1個以上剥がれたものを×として、表に示した。
【0102】
耐水二次密着性
得られた複層塗膜を40度の温水に20日間浸漬した後、複層塗膜を取り出した直後に、カッターナイフ(NTカッター(商品名)S型、A型またはその相当品)の切り刃を塗装面に対して約30度の角度を保ちつつ、素地に達する2mm間隔の碁盤目の切り込みを入れ、100個の碁盤目を作る。その上に気泡が残らないように粘着テープ(ニチバン社製粘着テープ)を均一に圧着させた。粘着テープの一端を持ち、塗面に対して30度の角度を保ちつつ、粘着テープを一気に剥がした。
【0103】
冷熱サイクル試験
得られた複層塗膜に(i)キセノンランプを24時間照射し、引き続いて(ii)塗膜温度を2時間で−20℃まで降温して5時間−20℃を保持した。次ぎに(iii)塗膜温度を2時間で60℃まで昇温して5時間60℃を保持した。上記(i)→(ii)→(iii)→(i)のサイクルを3回実施して得られた私権塗膜にカッターナイフ(NTカッター(市販品:商品名)S型、A型またはその相当品)の切り刃を塗装面に対して約30度の角度を保ちつつ、素地に達する2mm間隔の碁盤目の切り込みを入れ、100個の碁盤目を作る。その上に気泡が残らないように粘着テープ(ニチバン社製粘着テープ)を均一に圧着させた。粘着テープの一端を持ち、塗面に対して30度の角度を保ちつつ、粘着テープを一気に剥がした。このときの[剥がれなかった碁盤目のマス目の数]/[碁盤目のマス目の数=100]を目視判定により決定し、1個の碁盤目も剥がれないものを○、碁盤目の沿線部が若干剥がれたものを○△、碁盤目の沿線が一部剥がれたものを△、碁盤目の沿線部がかなり剥がれたものを△×、碁盤目のマス目が1個以上剥がれたものを×として、表に示した。
【0104】
これらの結果から、本発明の複層塗膜形成方法によれば、フリップフロップ性の良好な複層塗膜形成ができ、かつ第1クリヤー塗膜と第2クリヤー塗膜との付着性、耐水二次密着性および冷熱サイクル試験後の密着性が同時にも従来のものに比べ向上していることが判明した。
【0105】
より具体的には、比較例1ではアクリル樹脂(a)として、アクリル樹脂a−2を使用しているので、炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)を用いていないので、FF性や冷熱サイクル後の密着性が劣る。比較例2ではアクリル樹脂(b)としてエポキシ当量の無いもの(b−2)を使用しているので、一次密着性や耐水二次密着性が劣る。比較例3は、イミノ基含有メラミン樹脂を含有しないメラミン樹脂を用いるもので、一次密着性や耐水二次密着性が劣る。比較例4は水酸基価の無いアクリル樹脂b−3を用いているので、やはり一次密着性や耐水二次密着性が劣る。比較例5は比較例1同様の組成を用いているが、アクリル樹脂とメラミン樹脂の量的割合を変えても、比較例1と同様の欠点を示す。比較例6はアクリル樹脂(a)もアクリル樹脂(b)も本願の範囲外であるアクリル樹脂a−2とアクリル樹脂b−2を用いているので、耐水二次密着性と冷熱サイクル後の密着性が劣っている。更に比較例7では、イミノ基含有メラミン樹脂のSp値が本発明の範囲より高い12.2のものを使用しているので、一次密着性や耐水二次密着性が劣る。比較例8では、炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の使用量が全モノマー量の3.0重量%と少なく、FF性及び冷熱サイクル後の密着性に劣る結果となっている。比較例9ではメラミン樹脂中のイミノ基含有メラミン樹脂の含有量が25重量%と小さいものであって、一次密着性と耐水二次密着性が劣っている。比較例10では、水酸基価100と本発明の範囲より小さいアクリル樹脂a−9を用いており、FF性に非常によい値を示すものの、耐水二次密着性が劣っている。比較例11は比較例10と逆に水酸基価170と本発明の範囲より高いものを用いており、耐水二次密着性が劣っている。比較例12では、酸価が本発明の範囲より大きいアクリル樹脂a−11を用いているので、一次密着性も耐水二次密着性も悪くなっている。比較例13では、炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(a)の使用量が全モノマー量の20重量%を超える25重量%のものを使用しているので、FF性は非常に優れているものの、一次密着性と耐水二次密着性が悪くなる。比較例14はアクリル樹脂(b)としてエポキシ当量が200と本発明の範囲より少ないものを使用しているので、耐水二次密着性が悪くなっている。比較例15はアクリル樹脂(b)の水酸基価が170と本発明の範囲より高いものを用いており、耐水二次密着性が悪くなっている。比較例16は、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)を用いないアクリル樹脂(a−3)を用いているので、一次密着性、耐水二次密着性が劣っている。比較例17及び比較例18はクリヤー塗料を代えても結果は比較例1及び2とほぼ同じような結果になることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物にベース塗料を塗装して得られた塗膜の上に第1クリヤー塗料を塗装し、ベース塗膜および第1クリヤー塗膜を同時に焼付け硬化し、次いで第2クリヤー塗料を塗装して得られた第2クリヤー塗膜を焼付け硬化する上塗り塗膜形成方法において、
該第1クリヤー塗料が
(a)炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)およびその他のアクリルモノマー(4)を、前記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の量がモノマー全量の5〜20重量%の量で重合して得られる、水酸基価110〜160mgKOH/gおよび酸価5〜35mgKOH/gを有するアクリル樹脂、
(b)水酸基を有するアクリルモノマー(5)、エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)およびその他のアクリルモノマー(7)を重合して得られる、水酸基価10〜150mgKOH/gおよびエポキシ当量230〜800g/eqを有するアクリル樹脂、および
(c)メラミン樹脂硬化剤であって、該メラミン樹脂硬化剤の溶解度パラメーター(Sp値)が9.5〜11.0であり、該メラミン樹脂硬化剤のうち50重量%以上がイミノ基含有メラミン樹脂であるものを含有し、
該第2クリヤー塗料がポリエポキシドとポリ酸とを含有するクリヤー塗料、または水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含むウレタンクリヤー塗料であることを特徴とする上塗り塗膜形成方法。
【請求項2】
被塗物にベース塗料を塗装して得られた塗膜の上に第1クリヤー塗料を塗装し、ベース塗膜および第1クリヤー塗膜を同時に焼付け硬化し、次いで第2クリヤー塗料を塗装して得られた第2クリヤー塗膜を焼付け硬化する上塗り塗膜形成方法において用いる第1クリヤー塗料組成物であって、
(a)炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)、アクリル基からの距離が炭素数4以上である水酸基を有するアクリルモノマー(2)、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(3)およびその他のアクリルモノマー(4)を、前記炭素数8以上のアルキルエステル基を有するアクリルモノマー(1)の量がモノマー全量の5〜20重量%の量で重合して得られる、水酸基価110〜160mgKOH/gおよび酸価5〜35mgKOH/gを有するアクリル樹脂、
(b)水酸基を有するアクリルモノマー(5)、エポキシ基を有するアクリルモノマー(6)およびその他のアクリルモノマー(7)を重合して得られる、水酸基価10〜150mgKOH/gおよびエポキシ当量230〜800g/eqを有するアクリル樹脂、および
(c)メラミン樹脂硬化剤であって、該メラミン樹脂硬化剤の溶解度パラメーター(Sp値)が9.5〜11.0であり、該メラミン樹脂硬化剤のうち50重量%以上がイミノ基含有メラミン樹脂であるものを含有することを特徴とするクリヤー塗料組成物。

【公開番号】特開2008−126140(P2008−126140A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313957(P2006−313957)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】