説明

上肢固定具

【課題】患者の患側上肢を腸骨稜(骨盤の上端部)の上方に確実に固定することによって、術野と手術操作の安全性を確保すると共に、患側上肢の固定時において、患側上肢に皮膚損傷が発生せず、鬱血が発生せず、かつ患者が楽な姿勢を保持できる上肢固定具を提供する。
【解決手段】
寝具24に敷設された敷布状の固定具本体2と、固定具本体2に一体化されて、ポケット3とを備え、体幹に載せた患側上肢Jをポケット3に挿入し、ポケット3によって患側上肢を腸骨稜の上方に保持させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腿骨頸部骨折の手術をする際に患側上肢を腸骨稜より上方に固定することによって手術の安定性と術野の視認性を確保する上肢固定具に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
大腿骨頸部(大腿骨の骨盤側の付け根)の骨折を治療する手術においては、患側下肢を特殊な牽引ベットで牽引して整復すると共に、患側上肢を腸骨稜(骨盤の上端部)より上方に固定して患側上肢が患部(骨折部位)に被らないようにすることにより、術野を確保すると共に手術時の操作の安全性を確保している。
【0003】
下記特許文献1は、患側上肢を腸骨稜より上方に固定可能な上肢固定具を示す。下記特許文献1の上肢固定具は、固定具本体と一体である握り棒を患者頭部の上方に設けて患者に握らせることによって、上肢を肩よりも上方に固定するものである(特許文献1の図2を参照)。また、患側上肢を腸骨稜より上方に固定する方法には、図5(a)〜(c)に示すとおり、L字状スクリーン51によって患側上肢Jを患者胸部の前方に吊下げる方法(図5(a)参照)、患者胸部の前方に若杉式手台52を設置して患側上肢Jを挙上する(載せる)方法(図5(b)参照)、または患側上肢Jを包む着衣53の先端53aを患者の首横に引張って牽引ベット54等に固定することによって患者の手首を首横近辺に配置しつつ患側上肢を体幹上に固定する方法(図5(c)参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−14910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下記特許文献1の上肢固定具は、患側上肢を肩より上方に持ち上げなければならないため、患者が疲労感を覚える。また、患者が握り棒を握り続けなければならないため、固定が外れて術野を塞ぎ、更に手術操作を妨げる危険性がある。
【0006】
一方、図5の各図に示す、患側上肢JをL字状スクリーン51によって吊下げる方法、若杉式手台52に挙上する(載せる)方法及び患者の手首を首横に引張った状態で患側上肢を体幹上に固定する方法には、固定がゆるんだ場合に手術中に肘関節が骨折部位まで下がって術野確保と手術操作の妨げになる恐れがあること、固定がずれた場合に手台の端で患者上肢Jの神経を圧迫する恐れがあること、逆に固定が強すぎた場合にも患側上肢Jの神経を圧迫するおそれがあること、及びベット上に横たわる患者の前方に患側上肢Jを挙上すると血流が低下して患者が上肢のだるさを訴えるようになること等の問題があった。
【0007】
本願発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、患側上肢を腸骨稜の上方に確実に固定することによって術野と手術操作の安全性を確保すると共に、患側上肢の固定時において、患側上肢に皮膚損傷が発生せず、鬱血が発生せず、かつ患者が楽な姿勢を保持できる上肢固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の上肢固定具は、寝具に敷設された敷布状の固定具本体と、前記固定具本体に取り付けられて、体幹に載せた患側上肢を挿入して腸骨稜より上方(患者の頭部側を上方、脚部側を下方としている。以下同じ)に保持するためのポケットとを有するように構成した。
【0009】
(作用)固定具本体に取り付けられ、体幹上に配置されたポケットに患側上肢を挿入することにより、患側上肢は、固定時に過度な締め付けを受けることなく腸骨稜の上方に確実に固定される。また、請求項1の上肢固定具は、不要になった手術用ガウン等を布地に利用して手軽に形成できるため、容易かつ安価に製造できる。
【0010】
請求項2は、請求項1の上肢固定具であって、前記ポケットは、前記固定具本体に一体化されて、患側上腕を保持する上腕保持部と、前記上腕保持部に連続して形成されて、体幹に載せた患側前腕を前記固定具本体の略幅方向に沿って腸骨稜より上方に保持する前腕保持部と、前記上腕保持部と前腕保持部の上方に形成された患側上肢挿入用の上端開口部と、前記上端開口部周辺に取り付けられて、腸骨稜より上方に設置した外部の固定具に結びつける、少なくとも一以上の結びひもと、を有するように構成した。
【0011】
(作用)ポケット上方の開口部から挿入された患側上肢は、患側上腕が上腕保持部に保持され患側前腕が体幹に載せられた状態で前腕保持部に保持される。体幹に載せられた前腕保持部は、固定具本体の幅方向に沿って配置されると共に、結びひもによって腸骨稜上方の外部固定具に結びつけられて腸骨稜の上方に保持される。患側上肢は、患側前腕が前腕保持部によって腸骨稜の上方に保持されるため、手術中に腸骨稜より下方に下がることなく保持される。また、患側上肢は、ポケットに挿入するだけで保持されるため、手術中に過度な締め付けを受けず、かつ固定具本体に一体化された上腕保持部と結びひもによって確実に固定される。
【0012】
請求項3は、請求項1または2の上肢固定具であって、前記ポケットは、寝具の下に織り込む折込み部を患側上肢と逆側の側端部に有するように構成した。
【0013】
(作用)折込み部を寝具下に織り込むことにより、ポケット(前腕支持部)は、寝具に横臥した患者(上肢固定具の利用者)の体重を受けて、より確実に寝具に固定される。
【0014】
請求項4は、請求項1から3のうちいずれかに記載の上肢固定具であって、前記固定具本体が寝具の下に織り込む折込部を左右側端部にそれぞれ有するように構成した。
【0015】
(作用)左右側端部の折込み部をそれぞれ寝具下に織り込むことにより、固定具本体は、寝具に横臥した患者(上肢固定具の利用者)の体重を受けて、寝具に固定される。
【0016】
請求項5は、請求項1から3のうちいずれかに記載の上肢固定具であって、前記固定具本体には、体幹を覆う体幹カバーが設けられ、前期体幹カバーは、左右両端部の一端が前記固定具本体に一体化されると共に、他端に寝具の下に織り込む折込み部を有し、前記ポケットが、前記体幹カバーに一体化されるように構成した。
【0017】
(作用)患者の体幹を覆った状態で側端部の一端に設けた折込み部を寝具下に織り込むことにより、体幹カバーは、寝具上に横臥した患者(上肢固定具の利用者)の体重を受けて患者の体幹を寝具に固定する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1と2の上肢固定具によれば、患側上肢が手術中に腸骨稜より下方に下がらないように確実に固定されるため、術野と手術操作の安全性が確保される。また、患側上肢は、固定時に過度の締め付けを受けないため、患側上肢には、鬱血が発生せず、手術中の患者が楽な姿勢を保持できる。
【0019】
請求項3の上肢固定具によれば、前腕保持部の折込み部によって、患側上肢が手術中に腸骨稜より下方に下がらないように更に確実に固定されるため、術野と手術操作の安全性が更に確実に確保される。
【0020】
請求項4の上肢固定具によれば、左右側端部の折込み部によって固定具本体が寝具に固定され、手術中に上肢固定具が寝具からずれないため、手術操作の安全性が確保される。
【0021】
請求項5の上肢固定具によれば、手術中に患者の体幹が体幹カバーによって寝具からずれること無く確実に固定されるため、手術操作の安全性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る上肢固定具の第1実施例の正面図。
【図2】第1実施例の上肢固定具の使用状態を表す正面図。
【図3】本発明に係る上肢固定具の第2実施例の正面図。
【図4】第2実施例の上肢固定具の使用状態を表す正面図。
【図5】従来の上肢固定技術を表す斜視図。 (a)L字型スクリーンで患側上肢を吊下げる技術。(b)若杉式手台に患側上肢を載せて固定する技術。(c)患側上肢を包む着衣の先端を患者の首横に引張って牽引ベットに固定することにより、患側上肢を体幹上に固定する技術。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1と2により、本願における上肢固定具の第1実施例を説明する。第1実施例の上肢固定具1は、敷布状の固定具本体2、患側上肢を挿入するポケット3、及び一対の結びひも(4,5)によって構成される。
【0024】
固定具本体2は、布材によって四角状に形成する。固定具本体2の幅を寝具24の幅D1より左右にD2ずつ幅広く形成することにより、固定具本体2の左右側端部(2a,2b)には、寝具下への折込みしろとなる折込み部(6,7)を設ける。符号L1,L2は、寝具24の側端部(24a、24b)に相当する固定具本体2の折込み位置を示し、折込み部(6,7)は、折込み線L1,L2の外側に画成される。上肢固定具1を使用する患者は、寝具24に敷いた固定部本体2に仰向けに横臥する。
【0025】
ポケット3は、四角形の布材を下から上に等分二つ折りにして重ね合わせて、下側の左右コーナーのうち一方を斜めに切り欠いて、切り欠いた側の側端部と切欠部を縫いつけること等によって封止した形状を有する。二つ折りしたポケット3の高さD3は、後述する前腕保持部9が使用時に患部に被らないように、使用する患者の脇の下から腸骨稜に至る高さよりも低く形成する。第1実施例のポケット3は、患部が患者の左側大腿部近傍にあるものと仮定して、左上肢を患側上肢J(左上腕J1、左前腕J2及び左肘J3)として挿入固定するように形成している。即ち、第1実施例のポケット3は、図2の右側端部(患者から診て左側)に切欠を有し、右側を封止している。
【0026】
ポケット3は、封止した右側端部8aと切欠部8bが一体となって上腕保持部8を構成し、切欠部8bに連続する下端の折り返し部が前腕保持部9を構成する。また、ポケット3は、上端部から左側端部にかけて開口する。符号10は、ポケット3の外布3aと内布3bとの間に画成された、患側上肢Jの挿入口となる上端開口部を示す。ポケット3は、前腕支持部9を固定具本体2及び寝具24の幅方向と並行になるように固定具本体2に配置しつつ、上腕保持部8(右側端部8aのみでもよい)を固定具本体2に縫いつける等することにより固定具本体2に取り付けられる。また、固定具本体2に固定したポケット3の左側端部は、固定具本体2の左側折込み線L1よりも左方に長く形成することにより、L1の左方に折込み部11を画成させる。
【0027】
また、一対の結びひも(4,5)は、一端(4a,5a)をそれぞれポケット3の外布3aと内布3bに取り付ける。結びひも(4,5)は、図2に示すとおり、左側折込み線L1の近傍であって上端開口部10の周縁部に取り付ける。
【0028】
ポケット3における封止された右側端部8aは、左上腕J1を位置決め保持し、切欠部8bは、左肘関節J3が下がらないように保持し、前腕保持部9は、前腕保持部9の配置位置より下がらないように左前腕J2を保持する。ポケット3に挿入した患側上肢Jは、折込み部11を固定部本体2の折込み部6と共に寝具24の下に織り込み、かつ結びひも(4,5)をL字状スクリーン(外部固定具)25に結びつけることにより、前腕保持部9の配置位置より上に保持される。
【0029】
尚、固定具本体2,ポケット3及び結びひも(4,5)の布地には、不織布等の繊維製の手術用ガウン等で要らなくなったもの等を再利用出来る。本願の上肢固定具1は、手術用ガウンを切断して縫いつけるなどして、手軽に形成できるため、容易かつ安価に形成できる。
【0030】
また、患者が患部を右側に有する場合には、図2と逆にポケット3の左側端部に切欠と封止部を設けて左側端部を固定部本体2に固定することにより、右上肢を固定できるようになる。また、第1実施例のポケット3は、左側端部を開口させているが、封止して袋状にしてもよい。また、第1実施例で一対とした結びひもは、一端を外布3aに取り付けて、他端を内布3bに取り付けた一本のひもによって構成しても良いし、ポケット3に3本以上取り付けてもよい。
【0031】
次に、第1実施例の上肢固定具1の使用方法を説明する。まず、寝具24を図示しない寝具台に敷き、固定具本体2を寝具24に敷く。次に、固定具本体2の左右の折込み部(6,7)を寝具24の両側端位置(図1のL1,L2の位置)において寝具台方向に折り込み、折込み部(6,7)の先端を前記寝具台と寝具24との間に挿入する。次に、固定具本体2に固定された上腕保持部8を基点としてポケット3を図2の右方向にめくり上げつつ、患者を固定具本体2(寝具24)に横臥させる。図2の符号L3は、患者の腸骨稜の位置を示す。患側上肢J(左上肢)は、ポケット3の前腕保持部9よりも上方に保持されるため、前腕保持部9が患者の腸骨稜(直線L3)よりも上方に配置されるように患者の横臥する位置を調節する。
【0032】
患者の位置を調節後、めくり上げたポケット3を左方向に戻して患者の胸部を覆う。ポケット3には、上端開口部10から患側上肢J1を挿入し、左上腕J1を側端部8aに、左肘J3を切欠部8bに、左前腕J2を前腕保持部9にそれぞれ保持させる。更に左前腕J2を保持させた前腕保持部9を体幹に載せ、患者の腸骨稜より上方に患側上肢Jを配置した状態でポケット3の折り込み部11を寝具台方向に折り込み、折込み部11の先端を、固定具本体2の折込み部6と共に図示しない寝具台と寝具24との間に挿入する。更に結びひも4,5を患者の腸骨稜より上方(図2では、患者頭部より情報に配置している)に配置した、L字状スクリーン(外部固定具)25の棒25a(図2の紙面手前から奥に伸びて、動かないように固定されている)に結びつけて、左上肢の手首側が腸骨稜より下に下がらないように固定する。
【0033】
固定具本体2は、左右両端の折込み部(6,7)が患者の体重を受けて寝具24と寝具台(図示せず)に挟持されるため、寝具24に確実に固定される。患側上肢Jを挿入したポケット3は、左端の折込み部11が患者の体重を受けて寝具24と寝具台(図示せず)に挟持され、更に折込み部11の折込み位置近傍に取り付けられた結びひも(4,5)が外部の固定具25に結びつけられるため、患側上肢Jを腸骨稜(直線L3)の上方に確実に保持する。従って、患者左大腿骨近傍の患部Kbは、患者の患側上肢J1によって隠されず、術野と手術動作の安全性が確保される。
【0034】
次に、図3と4により、本願における上肢固定具の第2実施例を説明する。第2実施例の上肢固定具15は、固定具本体2が第1実施例の上肢固定具1と共通し、その他の構成が異なる。即ち、第2実施例の上肢固定具15は、固定具本体2(第1実施例と同一),体幹カバー16,ポケット17、及び一対の結びひも(18,19)によって構成される。尚、第2実施例の上肢固定具15は、第1実施例と同様に左上肢を固定するように構成されている。
【0035】
体幹カバー16は、患者の体幹を寝具24に確実に固定するためのもので、下端部16aが左下がりに傾斜した四角形状を有する布材で形成する。下端部16aを左下がりに傾斜させた場合、体幹カバー16は、患者の左大腿部にある患部に被りにくくなり、かつ後述する折込み部20が大きくなって寝具24による挟持が確実になる(患者の右大腿部に患部がある場合、体幹カバーの下端部16aは、右下がりに傾斜させる)。体幹カバー16の右側端部16bは、縫いつけ等によって固定部本体2に固定する。体幹カバー16の左端部は、固定具本体2の左側折込み線L1よりも左方に長く形成することにより、L1の左方に折込み部20を画成させる。
【0036】
ポケット17は、四角形の布材における右下コーナーを斜めに切り欠いて形成し、右側端部21a、切欠部21b及び下端部(前腕保持部22)を体幹カバー16に縫いつけること等によって固定する。ポケット17と体幹カバー16は、使用時に患部Kbに被らないように、使用する患者の体型(脇の下から腸骨稜に至る長さ)に合わせて前腕保持部22と体幹カバー16の下端部16aの位置を調節して形成される。
【0037】
ポケット17においては、封止した右側端部21aと切欠部21bが一体となって上腕保持部21を構成し、下端部が前腕保持部22を構成する。また、ポケット17は、上端部から左側端部にかけて開口する。符号23は、ポケット17の布地体幹カバー16の内布との間に画成された上端開口部を示す。ポケット17は、前腕支持部22が固定具本体2及び寝具24の幅方向と並行になるように体幹カバー16に取り付けられる。
【0038】
一対の結びひも(18,19)は、結びひも18の一端18aをポケット17左上コーナー付近に取り付けて、結びひも19の一端19aを体幹カバー16の左側折込み線L1の近傍であって上端部16cの周辺に取り付ける。
【0039】
ポケット17において封止された右側端部21aは、左上腕J1を位置決め保持し、切欠部21bは、左肘関節J3が下がらないように保持し、前腕保持部22は、前腕保持部22の配置位置より下がらないように左前腕J2を保持する。ポケット17に挿入した患側上肢J1は、体幹カバー16の折込み部20を固定部本体2の折込み部6と共に寝具24の下に織り込み、かつ結びひも(18,19)をL字状スクリーン25の棒25aに結びつけることにより、前腕保持部22の配置位置より上に保持される。
【0040】
体幹カバー16,ポケット17及び結びひも(18,19)の布地には、第1実施例と同様に不織布等の繊維製の手術用ガウン等で要らなくなったもの等を再利用出来る。また、患者が患部を右側に有する場合には、図3と逆に体幹カバーの左側端部を固定部本体2に取り付け、下端部を右下がりに傾斜させると共にポケットを体幹カバーに対して左右反対に取り付ける事により、右上肢を固定できるようになる。また、ポケット17は、左側端部を開口させているが、左手首が窮屈にならない範囲で封止して袋状にしてもよい。
【0041】
次に、第2実施例の上肢固定具15の使用方法を説明する。寝具24を図示しない寝具台に敷き、固定具本体2を寝具24に敷き、患者の体重によって固定具本体2の左右の折込み部(6,7)を寝具24と前記寝具台の間に挟持させる方法は、実施例1と共通する。
【0042】
次に、固定具本体2に固定された右側端部16bを基点としてポケット17付の体幹カバー16を図4の右方向にめくり上げつつ、患者を固定具本体2(寝具24)に横臥させる。患側上肢J1は、ポケットの前腕保持部22よりも上方に保持されるため、前腕保持部22が患者の腸骨稜(図4の直線L3)よりも上方に配置されるように、かつ体幹カバー16の下端部16aが患部Kbに被らないように患者の横臥する位置を調節する。
【0043】
その後、めくり上げた体幹カバー16を左方向に戻して患者の胸部を覆い、体幹カバー16の左側の折込み部20を固定具本体2の折込み部6と共に図示しない寝具台と寝具24との間に挿入する。患者は、折込み部20が患者の体重を受けて寝具24と図示しない寝具台の間に挟持されることにより、体幹カバー16と寝具24の間に固定される。体幹カバー16は、下端部16aが左下がりに傾斜するために患部Kbに被らず、折込み部20の左側端部16dを右側端部16bよりも高くして折込みしろを長く形成しているため、寝具24に一層確実に固定される。
【0044】
ポケット17には、上端開口部23から患側上肢J1を挿入し、左上腕J1を側端部21aに、左肘J3を切欠部21bに、左前腕J2を前腕保持部22にそれぞれ保持させる。更に、結びひも18,19を患者の腸骨稜より上方(図4では、患者頭部より情報に配置している)に配置した外部固定具25に結びつけて、左上肢の手首側が腸骨稜(前腕保持部22の配置位置)より下に下がらないように固定する。
【0045】
従って、患側上肢J1は、腸骨稜(直線L3)の上方に確実に保持され、患者は、左大腿骨近傍の患部Kbを露出させた状態で寝具24に固定されるため、術野と手術動作の安全性が更に確保される。
【符号の説明】
【0046】
1 上肢固定具
2 固定具本体
2a,2b 左右側端部
3 ポケット
4,5 結びひも
6,7 固定具本体2の折込み部
8 患側上肢保持部
8a 患側上腕保持部
8b 切欠部(患側肘保持部)
9 患側前腕保持部
10 上端開口部
11 ポケット3の折込み部
15 上肢固定具
16 体幹カバー
17 ポケット
18,19 結びひも
20 体幹カバー16の折込み部
21 患側上肢保持部
21a 患側上腕保持部
21b 切欠部(患側肘保持部)
22 患側前腕保持部
23 上端開口部
24 寝具
25 L字状スクリーン(外部固定具)
J 患側上肢(患者の左上肢)
J1 上腕
J2 前腕
L3 患者腸骨稜の位置を表す直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寝具に敷設された敷布状の固定具本体と、
前記固定具本体に一体化されて、体幹に載せた患側上肢を挿入して腸骨稜より上方に保持するためのポケットと、
を有する上肢固定具。
【請求項2】
前記ポケットは、
前記固定具本体に一体化されて、患側上腕を保持する上腕保持部と、
前記上腕保持部に連続して形成されて、体幹に載せた患側前腕を前記固定具本体の略幅方向に沿って腸骨稜より上方に保持する前腕保持部と、
前記上腕保持部と前腕保持部の上方に形成された患側上肢挿入用の上端開口部と、
前記上端開口部周辺に取り付けられて、腸骨稜より上方に設置した外部の固定具に結びつける、少なくとも一以上の結びひもと、
を有することを特徴とする、請求項1記載の上肢固定具。
【請求項3】
前記ポケットは、寝具の下に織り込む折込み部を患側上肢と逆側の側端部に有することを特徴とする、請求項1または2に記載の上肢固定具。
【請求項4】
前記固定具本体は、寝具の下に織り込む折込部を左右側端部にそれぞれ有することを特徴する、請求項1から3のうちいずれかに記載の上肢固定具。
【請求項5】
前記固定具本体には、体幹を覆う体幹カバーが設けられ、
前期体幹カバーは、左右両端部の一端が前記固定具本体に一体化されると共に、他端に寝具の下に織り込む折込み部を有し、
前記ポケットが、前記体幹カバーに一体化されたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれかに記載の上肢固定具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−207294(P2010−207294A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54351(P2009−54351)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月1日 日本手術医学会発行の「日本手術医学会誌(Vol.29.Supplement September 2008)第30回総会プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】