説明

下塗り塗装方法及び下塗り塗装装置

【課題】電着塗装の品質を確保しつつ工程長の短縮化を図ることが可能な下塗り塗装方法を提供する。
【解決手段】下塗り塗装方法は、被処理物である自動車ボディ8を脱脂及び洗浄した後にその表面に化成皮膜を形成する前処理工程A1〜B5と、自動車ボディ8の向きを回転させる回転工程Rと、当該自動車ボディ8を電着液に浸漬させた状態電電圧を印加して塗膜を形成する電着工程C1〜C3と、を備えており、前処理工程A1〜B5において自動車ボディ8を横向き姿勢で搬送し、回転工程Rにおいて自動車ボディ8を保持している塗装ハンガ3をオーバヘッドコンベア2により回転させ、電着工程C1〜C3において自動車ボディ3を縦向き姿勢で搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディの表面に化成皮膜を形成する前処理工程と、当該自動車ボディを電着液に浸漬させた状態で電圧を印加して塗膜を形成する電着工程と、を備えた下塗り塗装方法及び下塗り塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの下塗り塗装として電着塗装が一般的であるが、この電着塗装を施す前に、自動車ボディを洗浄したり化成皮膜を形成する、いわゆる前処理が行われている。
【0003】
この前処理は、自動車ボディに付着した油分、鉄粉、塵埃等を除去する脱脂・洗浄工程と、清浄となったボディの表面に化成皮膜を形成する表面調整・化成処理工程と、で構成されている。また、電着塗装は、被処理物を電解液に浸漬させ電圧を印加することにより塗膜を電気化学的に析出させる電着塗装工程と、電着塗装後の被処理物に付着している電着液を洗い落とす電着洗浄工程と、で構成されている。
【0004】
このような前処理〜電着塗装ライン(下塗り塗装ライン)は、オーバヘッドコンベアにより自動車ボディを連続して搬送しながら、各工程においてスプレーやディッピングすることにより所定の処理を行っている。この際、電着塗装工程では、被処理物に電圧を印加するための電極板を、処理面積の大きなボディ側面に対向するように連続して設置する必要があるため、自動車ボディを縦向き姿勢で搬送を行っている。それに合わせて、前処理においても自動車ボディを縦向き姿勢で搬送している。
【0005】
そのため、下塗り塗装ラインの全体に亘って、自動車ボディの長手方向を基準として工程設計を行う必要があり、工程長が長くなり設備投資が増加する傾向があった。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、電着塗装の品質を確保しつつ工程長の短縮化を図ることが可能な下塗り塗装方法及び下塗り塗装装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によれば、被処理物である車輌ボディを脱脂及び洗浄した後にその表面に化成皮膜を形成する前処理工程と、前記車輌ボディを電着液に浸漬させた状態で電圧を印加して塗膜を形成する電着工程と、を備えた下塗り塗装方法であって、前記前処理工程において前記車輌ボディを横向き姿勢で搬送し、前記電着工程において前記車輌ボディを縦向き姿勢で搬送する下塗り塗装方法が提供される。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、被処理物である車輌ボディを脱脂及び洗浄した後にその表面に化成皮膜を形成する前処理手段と、前記車輌ボディを電着液に浸漬させた状態で電圧を印加して塗膜を形成する電着手段と、前記車輌ボディを塗装ハンガにより保持した状態で前記前処理手段及び前記電着手段中を搬送する搬送手段と、を備えた下塗り塗装装置であって、前記前処理手段と前記電着手段との間で、前記車輌ボディが横向き姿勢から縦向き姿勢となるように前記車輌ボディを保持した状態で前記塗装ハンガを回転させる回転手段をさらに備え、前記搬送手段は、前記車輌ボディを横向き姿勢で前記前処理手段中を搬送し、前記回転手段により前記塗装ハンガを回転させた後に、前記車輌ボディを縦向き姿勢で前記電着手段中を搬送する下塗り塗装装置が提供される。
【0009】
本発明では、前処理工程において車輌ボディを横向き姿勢で搬送し、電着工程において車輌ボディを縦向き姿勢で搬送する。前処理工程において横向き姿勢で搬送することにより、工程長の短縮化を図ることが出来、電着工程において縦向き姿勢で搬送することにより、従来と変わらぬ電着品質を確保することが出来る。
【0010】
なお、本発明において、車輌ボディを縦向き姿勢で搬送するとは、車輌ボディをその長手方向に沿った姿勢で搬送することを意味し、車輌ボディを横向き姿勢で搬送するとは、車輌ボディをその長手方向に対して実質的に直交する方向に沿った姿勢で搬送することを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態における下塗り塗装ラインの全体構成を示す概略側面図であり、塗装ラインのうちの下塗り塗装ライン(前処理〜電着塗装ライン)の一例を示す。
【0013】
先ず、図1を参照して、本発明の実施形態における下塗り塗装ライン1を概説する。以下の説明では、ホワイトボディに付着した油分、鉄粉、塵埃等を除去する工程の総称を脱脂洗浄工程Aと称し、その後にホワイトボディに化成皮膜を形成する工程の総称を化成処理工程Bと称し、化成皮膜が形成されたボディに電着塗膜を形成する工程の総称を電着工程Cと称する。
【0014】
プレス部品の組立を終了したホワイトボディは、車体組立ラインのドロップリフタにより、それまでの台車から塗装ハンガ3に移載され、オーバヘッドコンベア2により下塗り塗装ライン1に搬送される。
【0015】
下塗り塗装ライン1に搬入されたホワイトボディ8には、プレス油や溶接による鉄粉、その他塵埃等が付着しているので、化成処理を施す前に脱脂洗浄工程Aにてこれら油分、鉄粉及び塵埃が除去される。図1に示す例では、この脱脂洗浄工程Aは、主として油分を除去するための予備脱脂工程A1及び本脱脂工程A2と、これら脱脂工程A1、A2で使用した脱脂液、ボディ8に付着した鉄粉や塵埃を除去する第1水洗工程A3及び第2水洗工程A4と、から構成されている。
【0016】
図1に示すように、予備脱脂工程A1は、タンク12に貯留された脱脂液をポンプで汲み上げてノズル11からボディ8に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。これに対し、本脱脂工程A2は、脱脂槽13に収容された脱脂液にボディ8を全没させことで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されている。但し、本発明においては、このような接液方法や段数(本例では予備脱脂と本脱脂の2段)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0017】
第1水洗工程A3は、水洗槽14に収容された工水にボディ8を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法である。これに対し、第2水洗工程A4は、タンク16に貯留された工数をポンプで汲み上げてノズル15からボディ8に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法を採用している。但し、本発明においては、このような接液方法や段数(本例では第1水洗と第2水洗の2段)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0018】
脱脂洗浄工程Aにより清浄となったホワイトボディ8に化成皮膜を形成する化成処理工程Bが設けられている。図1に示す例では、この化成処理工程Bは、皮膜形成に備えてボディ8の表面を調整する表面調整工程B1と、ボディ8に化成皮膜を形成する化成皮膜形成工程B2と、余分な化成処理液を洗い流す第3水洗工程B3及び第4水洗工程B4と、化成処理液により発錆を防止する純水洗工程B5と、から構成されている。
【0019】
図1に示すように、表面調整工程B1は、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されており、処理槽21に収容された表面調整液にボディ8を全没させる。この表面調整工程B1は、被処理物であるボディ8の表面に表面調整成分を吸着させることにより、次工程の化成皮膜形成工程B2における反応起点数を増加させ、また吸着した表面調整剤成分が皮膜結晶の核となり、皮膜形成反応を加速するという役割を担っている。
【0020】
化成皮膜形成工程B2も、いわゆるフルディップ式接液方法が採用されており、処理槽22に収容された化成処理液にボディ8を全没させて所定時間浸漬することにより、表面にリン酸亜鉛系化成皮膜を形成する。なお、図1にはいわゆるフルディップ式処理槽22を示したが、ボディ8の下部のみを浸漬し、ボディ8の上部をシャワーするハーフディップ式や、ボディ8全体をシャワーするシャワー式の化成処理を採用することも可能である。
【0021】
第3水洗工程B3は、タンク24に貯留された工水をポンプで汲み上げてノズル23からボディ8に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法であるのに対し、第4水洗工程B4は、水洗槽25に収容された工水にボディ8を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法を採用している。但し、本発明においては、このような接液方法や段数(本例では第3水洗と第4水洗の2段)には何ら限定されず適宜変更可能である。
【0022】
純水洗工程B5は、図1に示すように、タンク27に貯留された純水(又は脱イオン水)をポンプで汲み上げてノズル26からボディ7に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法である。純水をボディ8に噴霧することにより、化成皮膜形成工程B2から電着塗装工程C1までの間にボディ8に錆が発生するのを防止する。
【0023】
純水洗工程B5の後には、回転工程Rを経て、電着塗装工程Cが設けられている。図1に示す例では、この電着工程Cは、電着塗膜を形成する電着塗装工程C1と、電着塗装後に付着している電着液を洗い落とす第1電着水洗工程C2及び第2電着水洗工程C3と、から構成されている。
【0024】
電着塗装工程C1は、電着液の電気泳動作用によりボディ8の表面に電着塗膜を形成する工程であり、電着液が満たされた舟形の電着槽31を有し、塗装ハンガ3に搭載された状態でボディ8が電着液に浸漬され、電着槽31内の側壁及び底壁に設けられた複数の電極板(不図示)に高電圧を印加すると共に、ボディ8側をアースすることで電着塗装が施される。また、このときにボディ8の袋構造体の内部にも電着液が浸入するので、袋構造体の内面にも電着塗膜が形成されることになる。なお、電着液としてはカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、電着液側をアースすると共にボディ8側に高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いても何ら差し支えない。
【0025】
第1電着水洗工程C2は、水洗槽32に収容された工水にボディ8を全没させることで接液させる、いわゆるフルディップ式接液方法である。これに対し、第2電着水洗工程C3は、タンク34に貯留された工水をポンプで汲み上げてノズル33からボディ8に向かって噴霧する、いわゆるシャワー式接液方法を採用している。但し、本発明においては、このような接液方法や段数(本例では第1電着水洗と第2電着水洗の2段)には何ら限定されず適宜変更可能である。また、第2電着水洗工程C3の後に、純水を用いた電着純水洗工程をさらに設けても良い。
【0026】
以上に説明した各工程A1〜C3は、処理液(脱脂液、表面調整液、化成処理液、電着液、工水又は純水)にボディ8を全没させ、或いは、処理液をボディ8にシャワーする処理ゾーンと、処理槽から出槽したボディ8、或いは、処理液の噴霧が完了したボディ8から流れ落ちる処理液を回収する回収ゾーンと、を備えている。何れの回収ゾーンも、図1に示すように、重力を利用して処理液を回収するために、処理槽やタンクに向かって下降する傾斜面から構成されている。
【0027】
図2、図5、図7、図9及び図11は図1に示す下塗り塗装ラインの回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、図2は回転前の状態を示す図、図5は回転ロックが解除された状態を示す図、図7はハンガが回転している状態を示す図、図9はハンガの回転が完了した状態を示す図、図11は回転がロックされた状態を示す図である。図3Aは本発明の実施形態におけるオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図、図3Bは本発明の実施形態におけるオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図、図4Aは本発明の実施形態における回転機構に用いられるトロリの固定部を示す底面図、図4Bは本発明の実施形態における回転機構に用いられるハンガの回転部を示す底面図である。図6A及び図6Bは図5に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図及び底面図、図8A及び図8Bは図7に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図及び底面図、図10A及び図10Bは図9に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図及び底面図、図12A及び図12Bは図11に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図及び底面図である。
【0028】
さらに、本実施形態における下塗り塗装ライン1には、化成処理工程Bと電着工程Cとの間に、オーバヘッドコンベア1により搬送される塗装ハンガ3を回転させる回転工程Rが設けられている。
【0029】
ここで、回転工程Rの説明に先立って、本実施形態における下塗り塗装ライン1に設けられたオーバヘッドコンベア2について説明すると、このオーバヘッドコンベア2は、各工程A1〜C3の全体に亘って配設された搬送レール2aと、自動車ボディ8を保持しながら搬送レール2aを移動する塗装ハンガ3と、を備えている。
【0030】
搬送レール2aは、図1に示すように、各処理槽の上方において当該処理槽の入槽側及び出槽側の傾斜にそれぞれ倣うように設けられている。そして、この搬送レール2aのアップダウンに伴って塗装ハンガ3が上下動することにより、オーバヘッドコンベア2の搬送により、ディップ槽14、21、22、25、31及び32に満たされた処理液にボディ8を浸漬させることが可能となっている。
【0031】
塗装ハンガ3は、図2〜図3Bに示すように、ローラ4aを介して搬送レール2aに沿って移動可能に設けられたトロリ4と、そのトロリ4に懸垂されたハンガ本体5と、から構成されている。
【0032】
トロリ4は、搬送レール2aにおいて上方に臨むガイド面2bを転動するローラ2aと、このローラ2aが上部に回転可能に設けられたトロリ本体2bと、このトロリ本体2bの下部に設けられた固定部4cと、から構成されている。
【0033】
トロリ4の固定部4cは、図3A〜図4Aに示すように、中央に向かって円弧状に凹んだ凹部4dが外周4箇所に90度間隔で形成された円盤状の平板部材である。後述するハンガ5の凸部5dがこの凹部4dに係合することにより、トロリ4に対するハンガ5の回転がロックされるのに対し、各凹部4dからハンガ5の凸部5dが外れることにより、トロリ4に対するハンガ5の回転のロックが解除されるようになっている。
【0034】
ハンガ5は、自動車ボディ8を保持するハンガ本体5aと、このハンガ本体5aの上部に設けられた回転部5bと、から構成されている。
【0035】
ハンガ5の回転部5bには、図3A、図3B及び図4Bに示すように、トロリ4の略円盤状の固定部4cを収容可能な収容空間5cが形成されている。この収容空間5cは、収容された状態で固定部4cが上下動可能なように固定部4cの厚さの2倍以上の深さを有している。この収容空間5cの上面4箇所には、中央に向かって円弧状に凸んでいる凸部5dが90度間隔で設けられている。収容空間5cの上面の略中央には、固定部4cより小さな開口5eが形成されており、収容空間5c内に収容された固定部4cの上面がこの開口5eの周縁に係止するようになっている。回転部5bの下面5eには、後述する案内レール6に形成されたガイド溝7aに案内されるガイドピン5fが下方に向かって突出している。そして、固定部4cが回転部5bの収容空間5c内において上方に移動し、ハンガ5の凸部5dがトロリ4の凹部4dに係合することにより、トロリ4に対するハンガ5の回転がロックされる。これに対し、固定部4cが回転部5bの収容空間5c内において下方に移動し、ハンガ5の凸部5dがトロリ4の凹部4dから外れることにより、トロリ4に対するハンガ5の回転のロックが解除されるようになっている。
【0036】
さらに、本実施形態におけるオーバヘッドコンベア2は、図1に示すように、下塗り塗装ライン1の回転工程Rに案内レール6を備えている。この案内レール6は、搬送レール2aに実質的に平行に設けられており、前工程側の先端にレールが上昇する上昇部6aを有していると共に、後工程側の後端にレールが下降する下降部6bを有している。
【0037】
また、この案内レール6には、ハンガ5から突出しているガイドピン5fを案内するためのガイド溝7が、塗装ハンガ3の搬送方向に沿って形成されている(図6B、図8B、図10B参照)。このガイド溝7は、同図に示すように、案内レール6の前半部分(前工程側の部分)では案内レール6の端寄りに形成されており、案内レール6の略中央部で湾曲した湾曲部7aを経た後、後半部分(後工程側の部分)では案内レール6の中心寄りに形成されている。
【0038】
この案内レール6により、ハンガ5をトロリ4に対して相対的に上下動させてトロリ4に対するハンガ5の回転のロックを固定/解除すると共に、ガイドピン5fをガイド溝7で案内することにより、トロリ4に対してハンガ5を回転させることが可能となっている。
【0039】
次に、以上に説明したオーバヘッドコンベア2を用いた下塗り塗装ライン1(特に回転工程R)の流れについて説明する。
【0040】
先ず、図1に示すように、自動車ボディ8を横向き姿勢で保持した塗装ハンガ3が搬送レールに沿って移動し、脱脂洗浄工程A及び化成処理工程Bにおいて自動車ボディ8を横向き状態で処理する。これにより、自動車ボディ8を縦向き姿勢で搬送する場合と比較して、脱脂洗浄工程Aの各工程A1〜A4及び化成処理工程Bの各工程B1〜B5の工程長をそれぞれ短縮することが出来る。なお、自動車ボディ8を横向き姿勢で搬送するとは、自動車ボディ8をその長手方向(製品となった場合の自動車の走行方向)に対して実質的に直交する方向に沿った姿勢で搬送することを意味する。
【0041】
化成処理工程Bの純水洗工程B5を通過した塗装ハンガ3は、本実施形態では、電着工程Cに入る前に回転工程Rを通過する。この回転工程Rでは、図2に示すように脱脂洗浄工程A及び化成処理工程Bから変わらずに自動車ボディ8を横向き姿勢で保持しながら、案内レール6に近づき、図5に示すように、上昇部6aの案内に従ってハンガ5の回転部5bが案内レール6の上に乗り上げる。
【0042】
ハンガ5の回転部5bが案内レール6を乗り上げると、図6Aに示すように、トロリ4bに対してハンガ5が上昇し、回転部5bの収容空間5c内において固定部4cが相対的下方に移動する。これにより、トロリ4の凹部4dに係合していたハンガ5の凸部5dが当該凹部4dから外れるので、トロリ4に対するハンガ5の回転のロックが解除される。
【0043】
また、ハンガ5の回転部5bが案内レール6に乗り上げると、図6Bに示すように、ハンガ5から突出しているガイドピン5fが、案内レール6に形成されたガイド溝7に入り込む。
【0044】
塗装ハンガ3が案内レール6の略中央部に移動すると、図8Aに示すようにトロリ4に対するハンガ5の回転のロックが解除されている状態で、図8に示すように案内レール6の湾曲部7aに沿ってガイドピン5fが案内されるので、これにより図7に示すようにハンガ5がトロリ4に対して回転を開始する。そして、図10A及び10Bに示すように、ガイドピン5fが湾曲部7aの終点まで塗装ハンガ3が移動すると、図9に示すように、ハンガ5の回転部5bがトロリ4の固定部4cに対して90度回転し、横向き姿勢に保持されていた自動車ボディ8が縦向き姿勢になる。
【0045】
トロリ4に対するハンガ5の回転が終了したら、図11に示すように、下降部6bの案内に従ってハンガ5の回転部5bが案内レール6から離脱する。この離脱により、図12Aに示すように、トロリ4に対してハンガ5が下降し、固定部4cの上面が収容空間5cの開口5dの周縁に係止すると共に、ハンガ5の凸部5dがトロリ4の凹部4dに係合することにより、トロリ4に対するハンガ5の回転がロックされる。
【0046】
回転工程Rにおいて回転された自動車ボディ8は縦向き姿勢でオーバヘッドコンベア2により電着工程Cを移動する。縦向き姿勢で自動車ボディ8を移動させることにより、電着塗装工程C1において、電極板を処理面積の大きなボディ側面に対向させた状態で処理することが出来るので、従来と変わらぬ電着品質を確保することが出来る。なお、自動車ボディ8を縦向き姿勢で搬送するとは、自動車ボディ8をその長手方向(製品となった場合の自動車の走行方向)に沿った姿勢で搬送することを意味する。
【0047】
以上のように、本実施形態では、前処理工程において自動車ボディ8を横向き姿勢で搬送し、電着工程において縦向き姿勢で搬送することにより、従来と変わらぬ電着品質を維持しつつ工程長の短縮化を図ることが出来る。
【0048】
また、本実施形態では、前処理工程と電着工程の両工程を通じて同一の塗装ハンガ3により搬送することにより、自動車ボディ8を別の塗装ハンガに載せ替えるための設備やスペースが不要となる。
【0049】
さらに、本実施形態では、オーバヘッドコンベア2の機構、動作を利用して塗装ハンガ3に保持された自動車ボディ8の姿勢を変更させるので、塗装ハンガ3を回転させるための特別な装置や制御が不要である。
【0050】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、前処理工程と電着工程の両工程を通じて同一の塗装ハンガ3により搬送したが、本発明においては特にこれに限定されず、前処理工程と電着工程で別々の塗装ハンガを用いて良い。
【0052】
また、上述の実施形態では、オーバヘッドコンベア2の搬送に伴ってハンガ5をトロリ4に対して浮かせることにより回転のロックを解除させているが、本発明においては特にこれに限定されず、例えば、オーバヘッドコンベア2が塗装ハンガ3を所定位置まで搬送したら、専用に設けられたリフタによりハンガ5をトロリ4に対して浮かせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の実施形態における下塗り塗装ラインの全体構成を示す概略側面図である。
【図2】図2は、図1に示す回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、回転前の状態を示す図である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施形態におけるオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施形態におけるオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図である。
【図4A】図4Aは、本発明の実施形態における回転機構に用いられるトロリの固定部を示す上面図である。
【図4B】図4Bは、本発明の実施形態における回転機構に用いられるハンガの回転部を示す底面図である。
【図5】図5は、図1に示す回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、回転ロックが解除された状態を示す図である。
【図6A】図6Aは、図5に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図である。
【図6B】図6Bは、図5に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図である。
【図7】図7は、図1に示す回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、ハンガが回転している状態を示す図である。
【図8A】図8Aは、図7に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図である。
【図8B】図8Bは、図7に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図である。
【図9】図9は、図1に示す回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、ハンガの回転を完了した状態を示す図である。
【図10A】図10Aは、図9に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図である。
【図10B】図10Bは、図9に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図である。
【図11】図11は、図1に示す回転工程におけるオーバヘッドコンベアの概略側面図であり、回転がロックされた状態を示す図である。
【図12A】図12Aは、図11に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す断面図である。
【図12B】図12Bは、図11に示すオーバヘッドコンベアの回転機構を示す底面図である。
【符号の説明】
【0054】
1…下塗り塗装ライン
2…オーバヘッドコンベア
2a…搬送レール
2b…ガイド面
3…塗装ハンガ
4…トロリ
4a…ローラ
4b…トロリ本体
4c…固定部
4d…凹部
5…ハンガ
5a…ハンガ本体
5b…回転部
5c…収容空間
5d…凸部
5e…開口
5f…ガイドピン
6…案内レール
6a…上昇部
6b…下降部
7…ガイド溝
7a…湾曲部
8…被処理物(自動車ボディ)
A…脱脂洗浄工程
A1…予備脱脂工程
A2…本脱脂工程
A3…第1水洗工程
A4…第2水洗工程
B…化成処理工程
B1…表面調整工程
B2…化成皮膜形成工程
B3…第3水洗工程
B4…第4水洗工程
R…回転工程
C…電着工程
C1…電着塗装工程
C2…第1電着水洗工程
C3…第2電着水洗工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物である車輌ボディを脱脂及び洗浄した後にその表面に化成皮膜を形成する前処理工程と、
前記車輌ボディを電着液に浸漬させた状態で電圧を印加して塗膜を形成する電着工程と、を備えた下塗り塗装方法であって、
前記前処理工程において前記車輌ボディを横向き姿勢で搬送し、前記電着工程において前記車輌ボディを縦向き姿勢で搬送する下塗り塗装方法。
【請求項2】
前記前処理工程において塗装ハンガにより前記車輌ボディを搬送し、
前記電着工程においても同一の前記塗装ハンガにより前記車輌ボディを搬送する請求項1記載の下塗り塗装方法。
【請求項3】
前記前処理工程と前記電着工程との間に、前記車輌ボディを横向き姿勢から縦向き姿勢にするように前記車輌ボディを保持した状態で前記塗装ハンガを回転させる回転工程をさらに備えた請求項2記載の下塗り塗装方法。
【請求項4】
被処理物である車輌ボディを脱脂及び洗浄した後にその表面に化成皮膜を形成する前処理手段と、
前記車輌ボディを電着液に浸漬させた状態で電圧を印加して塗膜を形成する電着手段と、
前記車輌ボディを塗装ハンガにより保持した状態で前記前処理手段及び前記電着手段中を搬送する搬送手段と、を備えた下塗り塗装装置であって、
前記前処理手段と前記電着手段との間で、前記車輌ボディが横向き姿勢から縦向き姿勢となるように前記車輌ボディを保持した状態で前記塗装ハンガを回転させる回転手段をさらに備え、
前記搬送手段は、前記車輌ボディを横向き姿勢で前記前処理手段中を搬送し、前記回転手段により前記塗装ハンガを回転させた後に、前記車輌ボディを縦向き姿勢で前記電着手段中を搬送する下塗り塗装装置。
【請求項5】
前記回転手段は、前記搬送手段による前記塗装ハンガの搬送に伴って前記塗装ハンガを回転させる請求項4記載の下塗り塗装装置。
【請求項6】
前記回転手段は、
前記搬送手段の搬送に伴って前記塗装ハンガの回転を固定及び解放するロック機構と、
前記搬送手段の搬送に伴って前記塗装ハンガを回転させる回転機構と、を有する請求項5記載の下塗り塗装装置。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【公開番号】特開2007−31742(P2007−31742A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213075(P2005−213075)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】