説明

下肢装具用オーバーシューズ

【課題】下肢装具、特に短下肢装具を装着したまま履用することができる靴であって、下肢装具のサイズや形状が異なっても全体を確実に固定でき、履き易いうえに履き心地がよく、見栄えも良好な下肢装具用オーバーシューズを提供する。
【解決手段】下肢装具用オーバーシューズは、可撓性舌状部材2を基端部が靴の中底部材のつま先位置に結合して足の甲部位を覆うよう設けると共に、左右一対の可撓性被甲部材31,32を外方側端部が該中底部材の左右側縁位置に結合して夫々が該舌状部材2の少なくとも一部を上から覆うように設けてなり、該左右一対の被甲部材の対向縁31b、32bを、該対向縁部位の夫々に連設した複数の紐孔31c、32cに挿通した靴紐部材により締結可能に構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踝関節などの障害を治療するに用いられる障害部固定用の下肢装具、例えば歩行を支援するための靴型の装具を装着したままで、違和感なく履用することができる下肢装具用オーバーシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
下肢に麻痺が生じた場合や靱帯損傷等を受けた場合などで、足の曲げ伸ばし機能が失われると、つま先の垂れ下がりが起こって歩行が困難となる。そこでリハビリにより障害の回復を待つと共に、歩行の補助とするために、装用者の脹脛等に取り付けられて踵部を所望の曲げ形状とし、その下端に足の形状や寸法に合わせて形成した足底部を一体に延設したフレームを、基本構造として用いた短下肢装具が、採用されることが多い。
【0003】
しかし、上記のような短下肢装具は、装用者の足のサイズなどに合わせて形成するものであるため、大型となりがちであった。そのため、装具を装着したまま履くことができるリハビリ用の靴が種々提案されているが、従来の歩行用の靴は、履脱の操作の容易さと、装具のサイズや形状が異なると履き心地が変わることとのバランスに問題が残っており、これらを改良するために頑丈なものとすると、大きくなって見栄えも良くない、という難点もあった。また、トゥキャップ(先芯)が設けられている為、つま先が固定されず歩行時に脹脛に負担がかかり、リウマチ疾患者等は歩行に際して痛みを伴うという問題もあった。
【特許文献1】公開特許第2001−204505号公報
【特許文献2】公開特許第2006−26382号公報
【特許文献3】公開特許第2006−109953号公報
【特許文献4】登録実用新案第3128249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、下肢装具、特に短下肢装具を装着したまま履用することができる靴であって、下肢装具のサイズや形状が異なっても全体を確実に固定でき、つま先が固定され、履き易いうえに履き心地がよく、見栄えも良いオーバーシューズを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の下肢装具用オーバーシューズは、可撓性舌状部材を基端部が靴の中底部材の爪先位置に結合して足の甲部位を覆うよう設けると共に、左右一対の可撓性被甲部材を外方側端部が該中底部材の左右側縁位置に結合して夫々が該舌状部材の少なくとも一部を上から覆うように設けてなり、該左右一対の被甲部材の対向縁を、該対向縁部位の夫々に連設した複数の紐孔に挿通した靴紐部材により締結可能に構成したことを特徴とするものである。
【0006】
また、このような本発明の下肢装具用オーバーシューズにおいて、前記中底部材は、足に下肢装具を装着したままの装用者が履用できる大きさを有していることが好ましく、更に、前記舌状部材の横幅が、前記中底部材の横幅と見合うに足る大きさを有していると、より好ましい。そして、前記舌状部材の左右側縁の少なくとも一部が、前記左右一対の可撓性被甲部材の裏面の一部に結合されていると、履着が特に円滑に行える利点が加わるので、特に望ましい。
【0007】
更に本発明の下肢装具用オーバーシューズにおいて、着脱可能な面ファスナーの一方の部材で両端が形成された緊締ベルトを、該面ファスナーの他方の部材で形成された前記中底部材の上面及び前記被甲部材の裏面の所望位置に止着することにより、装用者の足の踵背部位を該緊締ベルトで包囲できるよう構成することが、特に好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の下肢装具用オーバーシューズは、上記のような構成を有しているので、下肢装具を装着した装用者がオーバーシューズを履くときは、先ず下肢装具の足底部又はこれに併用される足板部が、本発明のオーバーシューズの中底部材の上に位置し、更にその上に装用者の足が載る状態となる。そうすると、装用者の足の甲部位がオーバーシューズの可撓性舌状部材によって覆われ、その上面に左右一対の可撓性被甲部材が靴底部材の左右側縁から延び出した状態となる。そこで次に、被甲部材の対向縁部位に設けた紐孔に挿通した靴紐を締めると、左右の被甲部材が引き寄せられて舌状部材を上方から締めつける状態となるので、装用者のつま先、及び装用者の足と下肢装具とが、中底部材と舌状部材との間に一体として固定される。
【0009】
従って、下肢装具と装用者の足の周囲との間に遊動空隙があっても、オーバーシューズの所望に位置に下肢装具を履着できるように、緊締ベルトの取り付け位置を調整し、或いは靴紐の挿通位置を調整すれば、足、特に踵やつま先が下肢装具とズレを起こさないよう確実に緊締され、歩行に際して転倒防止効果が高く、脹脛への負荷が軽減されるので疲れにくいという、優れた効果も現れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の下肢装具用オーバーシューズを、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の下肢装具用オーバーシューズの例の外観を示す斜視図であり、図2及び図3は、図1の下肢装具用オーバーシューズの、夫々A−A位置及びB−B位置における横断面を後方から見た図である。これらの図において、1は例えば発泡ゴムなどで形成された靴底部材、2は例えば柔らかいスウェードなどの素材で形成された、可撓性の舌状部材であり、31,32は上記の舌状部材2を形成した素材と同様なスウェードなどの素材で、左右一対として形成された、可撓性の被甲部材である。
【0011】
このような図1の下肢装具用オーバーシューズの構成を説明すると、靴底部材1の上には、その上部構造となる中底部材4が設けられるが、この中底部材4は比較的に柔軟な詰め物である中物4bと、その上を覆う上底層4aとから構成されており、上底層4aのつま先の中央位置には、舌状部材2の基端部が結合されて、一旦上方に向かい、次いで後方に向かって徐々に広くなり、足首近くまで延びている。そして、左右一対の被甲部材31,32は、舌状部材2を挟んでその左側と右側にあり、左側の被甲部材31の左方側端部31aが上底層4aの左側縁位置に、また右側の被甲部材32の右方側端部32aが上底層4aの右側縁位置に、夫々結合されていて、後方に向かって延びた舌状部材2の上を左右から覆うように延びている。
【0012】
また、これらの図において、左右一対の被甲部材31,32の対向する側端縁31b,32bは、夫々折り返されたうえ、折り目に対して横方向から次々に垂直の切れ目を入れることで、靴紐5を通す紐孔31c,32cを連設してある。そして更にこの折り目を補強するために、舌状部材2の左右側縁21,22の夫々を、被甲部材の側端縁31b,32bの夫々に重ね合わせたうえ、夫々の結合部を縫糸などで縫い合わせてある。そのため、装用者が装着している装具の横幅が大きい場合でも、靴紐5の長さに余裕があれば、舌状部材2の横幅が許す限り被甲部材31,32が左右に広がり、装具を包むことが可能である。
【0013】
上記のように被甲部材31,32の側端縁に形成された紐孔31c,32cは、何れも連設されているので、下肢装具の装用状態に応じて、靴紐5によるオーバーシューズの締め付け力の配分を調整することができる。そこで、柔らかに締め付けたい場合には、幾つかの紐孔を飛ばして靴紐5を通す、或いは足に対して一方向に捩じれ力を掛けたい場合は、斜めに紐掛けする、などの手法を組み合わせることで、装用者に対して夫々最適なオーバーシューズ履着状態を、所望に応じて実現することができる。
【0014】
上記のように、上底層4aの上に、舌状部材2と、左右一対の被甲部材31,32とを組み付けてなる上部組立て体は、必要に応じ一般の靴の構造と同様に、中底部材4は下部に中物4bを充填して上底層4aで覆った構造とするほか、舌状部材2や被甲部材31,32の裏側には裏布3aを設けることができる。そして、靴底部材1の上に所望の接着剤などを塗布して上部組立て体を載置し、靴底部材1と中底部材4とを一体となるように接合して、オーバーシューズ体を製造する。しかし以上の説明は、本発明の下肢装具用オーバーシューズの基本構造に関するものであり、本発明の機能を十分に発揮させるためには更に別な構造を加える必要があるので、以下にそれらの構造について説明する。
【0015】
本発明の下肢装具用オーバーシューズには、既に説明したように中底部材4の上部に上底層4aを設けることや、被甲部材31,32の裏面に裏布3aを設けることを述べた。しかしこれらの上底層4aや裏布3a、特に踵部周辺部のこれらは、下肢装具用オーバーシューズの踵位置設定用の緊締ベルト6を結合させるため、面ファスナーの一方を構成する部材で形成されている。そしてまた上記の緊締ベルト6は、足に装着した装具の踵部がオーバーシューズの踵底より逸脱しないよう、踵背部位を包囲する形態をとるよう設けるものであり、緊締ベルト6の両端部の外側面が、踵底を含む上底層4aや裏布3aの所望位置に、面ファスナーによって結合できるよう構成されている。従って、本発明の下肢装具用オーバーシューズは、下肢装具のサイズや形状、或いは装用者の体格などで制約を受けることなく、最適な履着状態を適宜に選択し、実現することができる。
【0016】
更に、緊締ベルト6の端部の装着位置が、踵底部などと選択された本発明の下肢装具用オーバーシューズでは、上底層4aの上に中敷体7を敷くようにすれば、上底層4aの上に結合された緊締ベルト6の端部が中敷体7により覆われて、オーバーシューズの履着が円滑となる利点がある。従ってこの中敷体7としては、上底層4aより僅かに広くて、周囲に上方への立ち上がり縁が形成されているものが、特に好ましく用いられる。
【0017】
また、本発明の下肢装具用オーバーシューズにおける左右の被甲部材31,32の、履き口に近い前方外面位置に、緊締ベルトが挿通できる一対の広幅遊動環8,8を突設して、これに足の甲部を締めるための補助緊締ベルト9を装着できるようにしてある。なお、この補助緊締ベルト9は、下肢装具装用者が本発明のオーバーシューズを履着した際に、靴紐5だけではオーバーシューズの締め付けが十分でないと感じたときに、初めて使用するためのものである。しかし、靴紐5を通す紐孔31c,32cの位置の選択と、靴紐5を締め付ける力の配分を適正に行えば、補助緊締ベルト9の使用は必要ではないが、仮履着であって靴紐5の締め付けを一部省略する場合、例えばスリッパの代用として使用するときなどでは、補助緊締ベルト9を締めるだけでも問題なく使用できることもあると、理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の下肢装具用オーバーシューズは、従来の下肢装具装用者にとって適切な履着状態を容易に実現でき、しかも装具の形状やサイズが変わっても適応が容易であって、各種の使用目的にも広く対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の下肢装具用オーバーシューズの例の外観を示す斜視図である。
【図2】上記の例のA−A線に沿った断面図である。
【図3】上記の例のB−B線に沿った断面図である。
【図4】上記の例の中敷体を外した状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 靴底部材
2 舌状部材
21 左側縁
22 右側縁
31 左被甲部材
31a 左方側端部
31b 左方側端縁
31c 左方紐孔
32 右被甲部材
32a 右方側端部
32b 右方側端縁
32c 右方紐孔
3a 裏布
4 中底部材
4a 上底層
4b 中物
5 靴紐
6 緊締ベルト
7 中敷体
8 広幅遊動環
9 補助緊締ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性舌状部材を基端部が靴の中底部材のつま先位置に結合して足の甲部位を覆うよう設けると共に、左右一対の可撓性被甲部材を外方側端部が該中底部材の左右側縁位置に結合して夫々が該舌状部材の少なくとも一部を上から覆うように設けてなり、該左右一対の被甲部材の対向縁を、該対向縁部位の夫々に連設した複数の紐孔に挿通した靴紐部材により締結可能に構成したことを特徴とする、下肢装具用オーバーシューズ。
【請求項2】
前記中底部材は、足に下肢装具を装着したままの装用者が履用できる大きさを有している、請求項1に記載の下肢装具用オーバーシューズ。
【請求項3】
前記舌状部材の横幅が、前記中底部材の横幅と見合うに足る大きさを有している、請求項1に記載の下肢装具用オーバーシューズ。
【請求項4】
前記舌状部材の左右側縁の少なくとも一部が、前記左右一対の可撓性被甲部材の裏面の一部に結合されている、請求項1に記載の下肢装具用オーバーシューズ。
【請求項5】
着脱可能な面ファスナーの一方の部材で両端が形成された緊締ベルトを、該面ファスナーの他方の部材で形成された前記中底部材の上面及び前記被甲部材の裏面の所望位置に止着することにより、装用者の足の踵背部位を該緊締ベルトで包囲できるよう構成されてなる、請求項1に記載の下肢装具用オーバーシューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−50425(P2009−50425A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219330(P2007−219330)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(390003230)株式会社啓愛義肢材料販売所 (8)
【Fターム(参考)】