説明

不凍タンパク質の調製

III型不凍タンパク質の特異的活性を増大させるための方法であって、このとき前記タンパク質を、このタンパク質配列をコードする遺伝子を異種の真菌種中において発現させることにより調製するとき、タンパク質のグリコシル化の程度を低下させることによって調製する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
不凍タンパク質(AFP)は、広範囲の種、特に寒い気候に固有の種によって生成されるポリペプチドであり、0℃未満の温度での水および水性物質の凍結を阻止する能力を有する。一般に、これらのタンパク質は、氷の結晶と相互作用し、氷の結晶の成長を阻害することによって機能すると考えられるが、異なる作用機構および異なる作用を有する可能性がある、種々のクラスの不凍タンパク質が存在することが、現在明らかである。例えば、氷/水系の凍結/融解挙動において、AFPは熱ヒステリシスを引き起こすこと以外に、形成される氷の結晶の形状および大きさに影響を与えることができ、凍結が生じるときに氷の再結晶化を阻害することができる。さらに近年、これらのタンパク質は、氷構造タンパク質(ISP)として代わりに知られるに違いないことが示唆されてきている(Clarke、C.J.、Buckley、S.L.、およびLindner、N.、Cryoletters.、23 (2002) 89〜92)。
【0002】
AFPのこれらの属性は、AFPが生成の容易さ、さまざまな凍結調製物の保存中のテクスチャおよび安定性などの性質に対して重大な影響を有する可能性があることを意味し、近年、それらの考えられる商業用途において、特に食品産業において、多大な関心が持たれている。例えば、氷の結晶の大きさを調節することによって、凍結した糖菓において特に好ましいテクスチャをもたらすことができる。配合物中にAFPを含有することによって保存性も改善される。AFPの存在、および食品産業におけるそれらの考えられる用途に関する総説は、GriffithおよびVanya Ewartによって、Biotechnology Advances、vol 13、pp.375〜402 (1995)に示されている。
【0003】
このような目的に充分に適合させるために、AFPは、それが取り込まれている凍結物質に対する望ましい作用を併せ持ち、産業規模で容易に調製できる必要がある。後者の要件は、特に問題となる可能性がある。なぜなら、AFPが同定されてきている多くの種は、商業的に採取または処理をするのが容易ではないからである。幾つかのAFPは、変性を非常に受けやすいことが見出されており、このことが、それらのAFPに適用することができる単離法を厳しく制約する。これらの困難に鑑みて、微生物または容易に栽培および処理できる植物などのさらに好都合な発現宿主中で、AFPをコードするクローニング遺伝子を発現させることによって、AFPを生成することに相当な関心が存在している。しかしながら、多くのAFPに関して、これは問題があることが証明されている。すなわち、これらは低い収率で得られることが多く、時には活性を欠いている。
【0004】
同定されている最も可能性のある有用なAFPには、HPLC-12と呼ばれている、ゲンゲ由来のIII型AFPがある。このタンパク質は、氷の結晶の形状および大きさの調節を助長するその能力が突出していることが見出された。このタンパク質は、例えば再結晶試験において、よく知られているI型AFPより優れていることが示された。III型HPLC-12に関して認められた別の有利な性質は、III型HPLC-12は、大腸菌中では多量には生成されなかったが、形質転換した酵母菌中でその配列をコードするクローニング遺伝子を発現させることによって、良い収率でIII型HPLC-12を生成することができ、これによって、このタンパク質が本来存在するこの魚より、おそらく一層さらに好都合で経済的に実用可能な産業規模の生成用の源を提供することであった。
【0005】
タンパク質グリコシル化には多数の酵素が関わっており、1つまたは複数の酵素の欠陥がグリコシル化のパターンを変える可能性がある。第1の糖残基のタンパク質上への移動を担う酵素の活性が消失すると、任意のグリコシル化をおそらく妨げる可能性がある。したがって、このようなタンパク質マンノシルトランスフェラーゼ(pmt)欠損突然変異酵母菌菌株を使用することは、異種で発現させたタンパク質での異常なグリコシル化の問題を克服するための方法として、示唆されている(WO 94/04687)。しかしながら、この状況は、この機能を有する酵素は1つではなく、異なるタンパク質特異性を有する幾つかの酵素が存在するという事実によって複雑になる。例えば、タンパク質のO-マンノシル化に関する総説において、Strahl-Bolsinger他(Biochimica他、Biophysica Acta 1426 (1999) 297〜307)は、試験した10個のO-グリコシル化タンパク質のうち6個は酵母菌中で酵素Pmt1およびPmt2によってグリコシル化されており、一方、他の4個は、酵素Pmt4の活性がなくなっている菌株においてのみ、O-マンノシル化の低下または欠如を示すことを示した。分析したタンパク質のいずれも、酵素Pmt3の活性が消失している他のクラスの突然変異体においてグリコシル化の低下は見られなかったが、この突然変異は、pmt1pmt2の二重突然変異の遺伝的背景で、キチナーゼのO-マンノシル化の低下をもたらした。マンノシル化の特異性と、タンパク質基質の任意の配列または構造的特徴の間の相関関係は認められておらず、したがって、どの特定のトランスフェラーゼ酵素が、任意の特定のタンパク質のグリコシル化の開始を担う可能性があるか、それがグリコシル化種の元のタンパク質またはその中での異種発現により生成された外来タンパク質であるかどうかを予想することはできない。
【非特許文献1】Clarke、C.J.、Buckley、S.L.、およびLindner、N.、Cryoletters.、23 (2002) 89〜92
【非特許文献2】Biotechnology Advances、vol 13、pp.375〜402 (1995)
【特許文献1】WO 94/04687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、酵母菌中で生成されたIII型HPLC-12は、再結晶化阻害アッセイにおいて測定される特異的活性を有しており、この活性はゲンゲの血液から単離したタンパク質の活性より低いことを現在見出している。本発明者は、酵母菌によるタンパク質のO-グリコシル化の結果であることを示すことができ、これは、魚によって元のタンパク質が生成されるときは起こらない。驚くことに、非グリコシル化型の種のみが、活性がある。
【0007】
このことは予想外であった。なぜなら、AFPに関して存在するこのような実験証拠によって、グリコシル化および機能性に関する明確で一貫した型が明らかになることはないからである。実際、幾つかのAFPは、本来は広くグリコシル化されている。例えば、DeVries他(Science 172 (1971) 1152)は、北太平洋産マダラおよびAntarctic notothenioidsにおいて見られるAFPは、ペンダント二糖類が除去されると、その活性を失うことを報告した。他の場合には、自然に起こるグリコシル化は、AFP活性に重要ではないことが示されてきている。例えば、Worrall他(Science 282 (1998)115〜117)は、ニンジン由来の自然にグリコシル化されているAFPがその表面グリカンがない状態で生成されるとき、その再結晶化阻害活性は影響を受けなかったことを見出した。AFP活性に関してグリコシル化に対する依存性は本来存在しているが、同様の欠如がライグラス由来の異種で発現されるAFPの場合について、本発明者によって示されている。したがって、グリコシル化とAFP間の活性の間の一般的な関係の明らかな指標は存在しない。
【0008】
さらに、この予想外の発見の結果として、本発明者らは、III型AFPのこの異常なグリコシル化を実質的に抑制するための方法を考案することができており、これによって、III型HPLC-12タンパク質などのIII型AFPを生成するための手段を与え、この手段は、元のタンパク質の能力に近い能力を有する生成物を生成しながら、宿主生物としての酵母菌の利便性とコスト有効性を併せ持っている。本発明者らは、この方法を使用して、組換えタンパク質の収率と組換えタンパク質の特異的活性の両方を増大させることができること、すなわち、より多くのタンパク質を宿主細胞から回収することができ、そのタンパク質の中では、そのタンパク質の大部分は活性があることを見出している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、III型不凍タンパク質(AFP)を生成するための方法であって、タンパク質グリコシル化に欠陥がある真菌宿主細胞中において、AFPをコードする核酸配列を発現させることを含む方法を提供する。
【0010】
好ましい実施形態では、真菌宿主細胞は、タンパク質グリコシル化と関係がある酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子の突然変異のためにタンパク質グリコシル化に欠陥がある。
【0011】
真菌細胞は、O-グリコシル化に欠陥があることが好ましく、1つまたは複数のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼ酵素の活性に欠損があることがより好ましい。
【0012】
好ましい実施形態では、真菌宿主細胞は、Saccharomyces cerevisiaeなどの酵母菌、好ましくはpmt1-欠損および/またはpmt2-欠損突然変異酵母菌菌株である。
【0013】
関連した態様では、本発明は、不凍タンパク質(AFP)III型またはその機能的同等物の特異的不凍活性を増大させるための方法であって、このとき前記タンパク質を、このタンパク質配列をコードする遺伝子/核酸配列を異種の真菌種中において発現させることにより調製するときタンパク質のグリコシル化の程度を低下させることによって調製する方法を提供する。
【0014】
特異的AFP活性は、氷再結晶化阻害アッセイによって測定することが好ましい。
【0015】
好ましい実施形態では、タンパク質グリコシル化の低下は、タンパク質グリコシル化と関係がある1つまたは複数の酵素、好ましくは1つまたは複数のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼ酵素の活性に欠損がある、発現種の菌株を選択することによって達成される。
【0016】
適切なグリコシル化欠損菌株は、前記タンパク質をコードする遺伝子が前記菌株中で発現されるときに生成されるIII型AFPタンパク質を分析することによって、一連のこのような菌株から典型的には選択される。III型AFPタンパク質の分析は、そのAFP活性または機能性のアッセイに基づくことが好ましく、その氷再結晶化阻害活性に基づくことがより好ましい。
【0017】
第2の態様では、本発明は、組換えIII型不凍タンパク質(AFP)を含む組成物であって、約50%から99%のAFPが非グリコシル化型である組成物を提供する。III型AFPは、III型HPLC-12であることが好ましい。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の第1の態様の方法によって、組成物を得ることができ、それによって得ることがより好ましい。
【0019】
第3の態様では、本発明は、発現されるAFPの約50%未満がグリコシル化されるようにIII型AFPを発現することができる真菌宿主菌株を同定するための方法であって、
(i)宿主細胞中でのAFPの発現を指示する核酸配列を含む複数の真菌宿主菌株を提供すること;
(ii)AFPの発現を可能にする条件下で、宿主細胞を培養すること;および
(iii)発現されたAFPのグリコシル化の程度を測定することを含む方法を提供する。
【0020】
好ましい実施形態では、複数の宿主細胞は突然変異誘発ステップを施されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、不凍タンパク質III型HPLC-12をコードする核酸配列を正常な酵母菌菌株中で発現させることによってこのタンパク質を調製すると、分泌されるタンパク質の生成物の相当な部分がグリコシル化されているという発見に基づく。このようなグリコシル化は本来のタンパク質には存在せず、分離したグリコシル化分画と非グリコシル化分画の再結晶化阻害アッセイは驚くべきことに、グリコシル化によってタンパク質のAFP活性が効果的に消失したことを示した。
【0022】
この驚くべき発見に鑑みて、本発明者らは、III型HPLC-12不凍タンパク質またはその機能的同等物の特異活性を増大させるための方法であって、前記タンパク質を、このタンパク質配列をコードする核酸配列を異種の真菌種中において発現させることにより調製するとき、タンパク質のグリコシル化の程度を低下させることによって調製する方法を考案するに至った。
【0023】
他に定義しない限り、本明細書で使用する、すべての技術および化学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技法および生化学において)当業者により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。分子的、遺伝的および生化学的方法(Sambrook他、Molecular Cloning : A Laboratory Manual、第3版(2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、およびAusubel他、Short Protocols in Molecular Biology (1999)第4版、John Wiley & Sons、Inc.およびCurrent Protocols in Molecular Biologyという表題の完全版を概略的に参照のこと、これらは参照により本明細書に組み込まれている)および化学的方法の標準的技法を使用する。
【0024】
不凍タンパク質
本発明の目的では、不凍タンパク質は、顕著な氷再結晶化阻害特性を有し、したがって氷構造タンパク質(ISP)であるタンパク質である。氷再結晶化阻害特性は、WO 00/53029中に記載されたものと同様の改変型スプラットアッセイによって、都合よく測定することができる。顕著な氷再結晶化阻害活性とは、AFPの0.01重量%溶液(30重量%スクロース中)を、-40℃まで急速に冷却し(1分間当たり少なくともΔ50℃)、-6℃まで急速に加熱し(1分間当たり少なくともΔ50℃)、次いでこの温度に保つと、1時間で5μm未満の平均的な氷結晶の大きさの増大がもたらされる場合と、定義することができる。特異的活性は、所与の時間内の再結晶化の結果としての氷結晶の大きさの増大の程度を制限するタンパク質のこの能力の、溶解したAFP単位濃度当たりの測定値である。
【0025】
本発明の不凍タンパク質は、III型AFPである。これらのAFPは今日まで、Macrozoarces americanus(カワミンタイ、ゲンゲ)などのZoarcidae科、およびAnarhichas lupus(オオカミウオ科)の、多数の極地の魚において同定されている(Barrett、2001、Int.J.Biochem.Cell Biol.33 : 105〜117)。III型AFPは典型的には、約6.5〜約14kDaの分子量、βサンドウィッチ二次構造および球状三次構造を有する。
【0026】
III型AFPをコードする幾つかの遺伝子が、クローニングされてきている(DaviesおよびHew、1990、FASEB J.4 : 2460〜2468)。特に好ましいIII型AFPは、III型HPLC-12である。
【0027】
ゲンゲのIII型HPLC-12のアミノ酸配列を、配列番号1として示す。本発明のIII型HPLC-12ポリペプチドは、配列番号1として示すアミノ酸配列を有するポリペプチドおよびその機能的同等物を含む。
【0028】
「機能的同等物」とは、その配列が、配列番号1で示すIII型HPLC-12の配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、AFP活性、特に氷再結晶化阻害(RI)活性を示す任意のポリペプチドを意味する。機能的同等物は、配列番号1で示すIII型HPLC-12のアミノ酸配列を有するポリペプチドの少なくとも50%のRI活性を有することが好ましく、配列番号1で示すIII型HPLC-12のアミノ酸配列を有するポリペプチドの少なくとも60%、70%または80%のRI活性を有することがより好ましい。RI活性は、WO 00/53029中に記載されたのと同様に、改変型スプラットアッセイによって、都合よく測定することができる。
【0029】
配列同一性の計算は、典型的には容易に利用可能な配列比較プログラムによって行う。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性の%、典型的には同一性の%を計算することができる。
【0030】
大部分の配列比較法は、全体的な相同性のスコアに過度にペナルティーを与えることなく、考えられる挿入および欠失を考慮に入れた、最適なアラインメントを生み出すように設計されている。「ギャップ」を配列アラインメントに挿入して、局所の相同性を最大にすることを試みることによって、これは達成される。
【0031】
しかしながら、これらのさらに複雑な方法は、アラインメント中に存在するそれぞれのギャップに「ギャップペナルティー」を割り当てるため、同じ数の同一のアミノ酸に対して、2つの比較する配列間の充分な関係を反映するできるだけ少ないギャップを有する配列アラインメントは、多くのギャップを有する配列アラインメントより高いスコアを得るであろう。ギャップの存在に比較的高いコストを課し、ギャップ中のそれぞれの後に生じる剰余に小さなペナルティーを課す「アフィンギャップコスト」が典型的には使用される。これは、最も一般的に使用されているギャップ記録システムである。高いギャップペナルティーは当然ながら、少ないギャップを有する最適アラインメントを生み出すであろう。大部分のアラインメントプログラムによって、ギャップペナルティーを変えることができる。しかしながら、配列比較用のこのようなソフトウェアを使用するときは、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(以下参照)を使用するときは、アミノ酸配列のデフォルトギャップペナルティーは、ギャップに関して-12、およびそれぞれのエクステンションに関して-4である。
【0032】
したがって、最大の相同性%の計算は、ギャップペナルティーを考慮に入れた最適アラインメントの生成を第1に必要とする。このようなアラインメントを行うのに適したコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージである(University of Wisconsin、U.S.A.; Devereux他、1984、Nucleic Acids Research 12 : 387)。配列比較を行うことができる、他のソフトウェアの例には、BLASTパッケージ(Ausubel他、1999、同書18章を参照)、FASTA(Atschul他、1990、J.Mol.Biol.、403〜410)およびGENEWORKSスイートの比較ツールがあるが、これらだけには限られない。BLASTとFASTAの両方が、オフラインおよびオンラインの調査用に利用可能である(Ausubel他、1999、同書、7〜58から7〜60を参照)。しかしながら、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0033】
最終的な相同性の%を同一性について測定することはできるが、アラインメント法そのものは典型的にはオール-オア-ナッシングの対比較に基づくものではない。その代りに、化学的類似性または進化距離に基づいてそれぞれの対毎の比較にスコアを割り当てるスケールによる類似性のスコアマトリクスが一般的に使用される。一般的に使用されるこのようなマトリクスの一例は、BLOSUM62マトリクス、BLASTスイートのプログラムのデフォルトマトリクスである。GCG Wisconsinプログラムは一般に、パブリックデフォルト値、または供給される場合は慣例の記号比較表を使用する(さらなる詳細に関しては、ユーザマニュアルを参照のこと)。GCGパッケージ用のパブリックデフォルト値、あるいは他のソフトウェアの場合、BLOSUM62などのデフォルトマトリクスを使用することが好ましい。
【0034】
ソフトウェアにより最適なアラインメントが得られると、相同性の%、好ましくは配列同一性の%を計算することができる。典型的にはソフトウェアは、配列比較の一部としてこれを行い、数値の結果を生み出す。
【0035】
非常に好ましい実施形態では、AFPポリペプチドは、宿主細胞からのIII型AFPタンパク質の分泌を指示するシグナル配列と連結させる。適切なシグナル配列には、S.cerevisiaeインベルターゼシグナル配列、およびS.cerevisiaeのα-交配因子のプレ配列がある。
【0036】
AFPを異種配列と融合させて、融合タンパク質を形成し、抽出および精製を容易にすることができる。融合タンパク質のパートナーの例には、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘキサヒスチジン、GAL4(DNA結合および/または転写活性化ドメイン)およびβ-ガラクトシダーゼがある。融合タンパク質のパートナーと当該のタンパク質配列の間にタンパク質分解切断部位を含ませて、融合タンパク質配列の除去を可能にすることも、好都合である可能性がある。融合タンパク質は、AFPのRI活性を害さないことが好ましい。しかしながら、食料品の調製において使用するためのAFPを生成するためには、融合パートナーの使用を避けることが好ましい。
【0037】
AFPコード核酸および発現ベクター
本発明の方法は、グリコシル化に欠陥がある真菌宿主中においてIII型AFPを発現させることを含む。核酸配列、典型的にはIII型AFP、および宿主細胞中でのIII型AFPの発現を指示するために必要な配列をコードする発現ベクターを真菌宿主中に導入することによって、このことが達成される。したがって、III型AFPをコードする核酸配列は一般に、真菌宿主細胞中への導入に適した複製可能な組換え核酸ベクター中に取り込まれる。III型AFPをコードする核酸配列は、例えばcDNA配列、ゲノムDNA配列、ハイブリッドDNA配列、あるいは合成または半合成DNA配列であってよい。ゲノムDNAではなくcDNAを使用することが好ましい。
【0038】
III型AFPをコードする核酸配列は、宿主細胞によるコード配列の発現をもたらすことができる調節配列と動作可能に連結しており、すなわち、そのベクターは発現ベクターである。用語「動作可能に連結している」は、記載する要素が、その目的とする方法でそれらが機能することができる関係にあることを意味する。コード配列と「動作可能に連結している」制御配列は、調節配列と適合性がある条件下において、コード配列の発現が達成されるような方法で連結している。
【0039】
調節配列は、プロモーターなどの配列、および場合によっては転写エンハンサー要素を含むであろう。プロモーターは、S.cerevisiaeのGAPDHプロモーターまたはGAL7プロモーターなどの強力なプロモーターであることが好ましい。プロモーターは、GAPDHプロモーターなどの構成的プロモーター、またはGAL7プロモーターなどの誘導的プロモーターであってよい。
【0040】
核ベクターは、熱ショックまたはエレクトロポレーションなどの標準的技法を使用し、適切な真菌宿主細胞に形質転換して、III型AFPの発現をもたらす。この方法は、III型AFPをコードするコード配列のベクターにより発現をもたらすための条件下において、前記の発現ベクターを用いて形質転換した宿主細胞を培養すること、および場合によっては発現したタンパク質を回収することを含むことができる。
【0041】
S.cerevisiae中においてIII型HPLC-12ポリペプチドを発現させるのに適した方法は、WO 97/02343に記載されているがその宿主細胞は、以下に記載するようにグリコシル化に欠陥があるであろう。
【0042】
III型AFPがシグナル配列と連結しない場合、細胞を溶解すること、および細胞溶解物から組換えタンパク質を精製することなどの標準的技法によって、宿主細胞からタンパク質を回収することができる。シグナル配列を使用する場合、培養物上清からタンパク質を回収することができる。
【0043】
グリコシル化が低下した真菌宿主細胞
AFPのグリコシル化の低下は典型的には、宿主細胞のグリコシル化経路と関係がある酵素などの遺伝子産物の活性を阻害または無効にすることによって達成される。前記グリコシル化はO-グリコシル化であることが好ましく、これによって、タンパク質表面でのペンダント炭水化物部分のセリンおよび/またはスレオニン残基への結合を意味する。
【0044】
好ましい実施形態では、グリコシル化の低下は、タンパク質グリコシル化に関与する1つまたは複数の酵素の活性に欠損がある発現生物の菌株を選択することによって達成される。前記酵素は、タンパク質基質のアミノ酸側鎖への糖残基の直接的結合に関与する、酵素であることが好ましい。より好ましいのは、マンノシル残基のタンパク質基質のセリンまたはスレオニン残基のヒドロキシル基への結合(O-グリコシル化)に関与する酵素である。典型的には、所与の真菌菌株において活性がある、幾つかのこのような酵素が存在するので、III型HPLC-12をグリコシル化する際に特異的に有効である特定の酵素の活性に欠損のある菌株を選択することが必要である。
【0045】
宿主菌株は典型的には、対応する遺伝子の1つまたは複数の突然変異のために当該の酵素の活性に欠損を有する。突然変異は、生成するポリペプチドの活性、立体配座および/または安定性に影響を与える挿入、欠失または置換などのコード配列中の突然変異であってよい。突然変異は、遺伝子産物の発現の低下をもたらすプロモーターおよび/または5'UTRなどの制御調節配列中の突然変異であってもよい。しかしながら、当該の酵素の活性が、当該の酵素と相互作用する他の遺伝子産物の突然変異によって影響されることも考えられる。
【0046】
典型的には、発現に適した菌株は、その中で発現が行われる種に関して既に同定されている、グリコシル化に欠陥がある突然変異菌株の中から選択される。S.cerevisiae中での発現の場合、例えば、マンノシル残基のタンパク質セリンまたはスレオニン残基への移動に関与するタンパク質をコードする少なくとも4つの遺伝子が同定されており、前記遺伝子は、pmt1、pmt2、pmt3およびpmt4と呼ばれている。本発明者は、1つまたは複数のこれらの遺伝子の活性が破壊されることが知られている、突然変異体を調べることができた。したがって、本発明者は、pmt1またはpmt2の破壊が分泌されたIII型HPLC-12のグリコシル化の程度を低下させる際に有効であったことを測定することができた。分泌されたタンパク質の収率が、突然変異によって影響されることも見出され、本発明の目的で最も好ましい遺伝子破壊はpmt1の破壊であることが見出された。なぜなら、これによって、非グリコシル化型活性III型HPLC-12タンパク質の最高の収率が生み出されるからである。対照的に、遺伝子pmt4の破壊は、グリコシル化の程度または収率に対してかなりの影響はなかった。
【0047】
したがって、本発明は、1つまたは複数の遺伝子pmt1およびpmt2またはその相同体によってコードされる酵素の活性に欠損がある真菌宿主菌株中で前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を発現させることによって、(タンパク質が親菌株中で生成されるときに得られる活性と比較して)高い特異的なAFP活性を有するIII型HPLC-12またはその機能的同等物を調製するための方法を提供する。破壊される遺伝子は、pmt1であることが好ましい。
【0048】
この文脈では、用語その「相同体」は、pmt1またはpmt2の遺伝子産物と同じ機能を有する遺伝子産物をコードする遺伝子を意味する。
【0049】
好ましい実施形態では、真菌宿主細胞は、破壊されたpmt1遺伝子および/または破壊されたpmt2遺伝子を有するSaccharamyces cerevisiae細胞である。
【0050】
任意の選択した発現菌株によって生成されるIII型HPLC-12のグリコシル化の程度は、修飾タンパク質の大きな分子量を感知できる方法によって容易に測定することができる。例えば、グリカン結合による追加の質量は、SDS-PAGEにおいて容易に明らかである。この方法の適用は、HPLC-12に特異的な抗体調製物を使用して、AFP(グリコシル化型および非グリコシル化型)によるバンドを特異的に検出し他のタンパク質のバックグラウンドは抑制されるウエスタンブロットを行うことによって、さらに容易にすることができる。これによって、例えば、それが分泌された培地からのHPLC-12タンパク質の精製を必要とすることなく、同定すべきHPLC-12のグリコシル化を抑制するのに有効な菌株を同定することができる。適切なモノクローナルまたはポリクローナル抗体は、従来の方法によって容易に調製することができる。あるいは、グリコシル化型および非グリコシル化型III型HPLC-12のレベルは、逆相HPLCを使用して測定することができる。さらに、質量分光法と結合させたHPLC系を使用して特定の糖形を調べることができる。
【0051】
本発明者は、SDSゲル電気泳動、ウエスタンブロット、HPLC分析、および質量分光法と結合させたHPLCなどの方法を使用して、III型HPLC-12生成用のS.cerevisiaeの好ましい菌株を同定した。このことは、より一層有効な発現宿主を探すためにこの種または他種の別の突然変異菌株を調べることにも容易に広がる可能性がある。あるいは、調製物を含む少なくとも部分的に精製されたIII型HPLC-12の再結晶化阻害性に基づくアッセイを使用して、活性タンパク質の良い収率を生み出す条件または菌株を検出することができると思われる。
【0052】
不凍タンパク質としての生成物の有用性を評価する際の重要な基準として、グリコシル化の不在を同定することによって、したがって、このことをアッセイするための好都合な方法を提供することによって、本発明者らは良好な収率での活性III型HPLC-12の生成に適した真菌菌株を同定するための一般的方法を提供している。
【0053】
S.cerevisiae中には、その発現産物がグリコシル化の後期に関与している酵素であり、ときにO-およびN-結合グリコシル化(Strahl-Bolsinger他(Biochimica他、Biophysica Acta 1426 (1999) 297〜307))に関与している、同定されている幾つかの他の遺伝子が存在する。原則として、これらの遺伝子が破壊されている突然変異体を調べて、III型HPLC-12またはその機能的同等物の生成に関するそれらの適性を測定することもできると思われる。
【0054】
本発明の方法は、他の種に容易に広げることもできると思われる。幾つかの場合、グリコシル化に欠陥がある突然変異体は既に記載されており、他の場合、これらは容易に同定することができると思われる。例えば、WO 94/04687は、他の酵母菌、Kluyveromyces lactis由来のpmt1の相同体のクローニングを記載している。これはPCRによって、Saccharomyces遺伝子からの配列情報を使用して設計したプライマーを使用して容易に達成された。この筆者達は、Kluyveromyces lactis遺伝子の塩基配列決定がどのようにこの種の破壊突然変異体の構築を可能にするかを記載している。同じ戦略を、他の真菌に直接適用することができると思われる。pmt1およびpmt2によってコードされる酵素が、Saccharomyces中のIII型HPLC-12のグリコシル化において最も有効であるという本発明者による発見を鑑みると、これらに対するタンパク質相同体は、他種における破壊に適した標的であろうと考えられる。適切な候補であるグリコシル化突然変異体をこのように獲得すると、あるいは必要な場合は、他の真菌種用にこれらを構築すると、Saccharomycesに関してこの筆者達によって例示されている同じ戦略を、活性III型HPLC-12の最高の収率を得ることができる菌株を同定するために、適用することが可能であると思われる。
【0055】
一実施形態では、適切なグリコシル化に欠陥がある宿主細胞は、宿主細胞集団に突然変異誘発を施して突然変異宿主細胞集団を得、次いでタンパク質のグリコシル化、特にIII型AFPのグリコシル化に欠陥がある細胞について、前記の細胞集団をスクリーニングすることによって得ることができる。細胞の突然変異誘発は、ランダム突然変異誘発などの標準的技法を使用して、例えばDNA損傷用化学物質またはUV/X線照射、または部位特定突然変異誘発を使用して、例えば1つの真菌種中の知られているpmt遺伝子を対象とするプライマーを使用して、他種中の相同配列を標的化することによって行うことができる。
【0056】
その中で発現が行われる種は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Pichia、Hansenula、Candida、Schizosaccharomycesなどの属の酵母菌などの酵母菌(ただしこれらだけには限られない)、およびAspergillus、Trichoderma、Mucor、Neurospora、Fusariumなどの属の線維種などの線維種(ただしこれらだけには限られない)を含めた任意の適切な真菌種であってよい。選択する種は酵母菌であることが好ましく、S.cerevisiaeなどのSaccharamyces種であることが最も好ましい。異常なグリコシル化は、多くのこれらの属における異種遺伝子の発現の特徴であることが示されている。
【0057】
しかしながら、他の実施形態では、顕著なO-グリコシル化は元来行わない種の真菌宿主菌株を使用することが望ましい可能性がある。したがって、本発明の文脈において、用語「グリコシル化に欠陥がある」は、遺伝子操作されてタンパク質のグリコシル化が低下している宿主細胞に限られない。それにもかかわらず、典型的には、グリコシル化に欠陥がある宿主細胞は、タンパク質グリコシル化と関与している1つまたは複数の遺伝子の突然変異を含む細胞である。
【0058】
AFP組成物
本発明の方法によって、非グリコシル化型AFPを高い割合で含むIII型AFPの非常に活性のある調製物を得ることができる。
【0059】
したがって、本発明は、グリコシル化に欠陥がある真菌宿主細胞中でIII型AFPコード核酸配列を発現させることによって得られるIII型AFP全体のパーセンテージとして計算して少なくとも約50重量%の非グリコシル化型III型AFPを含む組成物を提供する。本発明の組成物は、III型AFP全体のパーセンテージとして計算して少なくとも約60重量%、65重量%、70重量%または80重量%の非グリコシル化型III型AFPを含むことが好ましい。
【0060】
したがって、本発明の組成物は、III型AFP全体のパーセンテージとして計算して約50重量%未満、より好ましくは約40、35、30または20%未満のグリコシル化型III型AFPも含む。別の表現では、本発明の組成物は、非グリコシル化型III型AFPとグリコシル化型III型AFPを1:1〜100:1、より好ましくは1.5:1〜100:1、最も好ましくは2:1、3:1または4:1〜100:1の重量比で含む。III型AFPは原核生物宿主中ではなく真菌宿主中で発現されるので、原核生物宿主中で発現されるIII型AFPには存在しないと思われる、少なくとも微量のグリコシル化型III型AFPが一般には存在するであろう。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、O-グリコシル化がない50〜99重量%のIII型AFPを含む。
【0062】
さらに、本発明の組成物は、全タンパク質含量に基づきIII型AFPに関して(グリコシル化の型に関係なく)、少なくとも30%は純粋であることが好ましく、少なくとも40、50または60%純粋であることがより好ましい。AFPを化粧品または薬剤用途に使用する場合、全タンパク質含量に基づきIII型AFPに関して(グリコシル化の型に関係なく)、AFPは少なくとも90%純粋であることが好ましく、少なくとも95、98または99%純粋であることがより好ましい。
【0063】
以下の実施例を参照しながら、本発明をここで記載し、これらの実施例は単なる例示的なものであり、非制限的なものである。これらの実施例は図を参照する。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
Saccharomyces cerevisiaeにより生成されたグリコシル化型および非グリコシル化型のIII型AFP HPLC-12の再結晶化阻害活性の測定
グリコシル化型および非グリコシル化型のIII型AFPの濃縮分画を発酵ブロスから調製した。
【0065】
III型AFP HPLC-12(15ml)を含む発酵ブロスを、別の円錐形チューブにピペットで移し、10mlの冷蔵エタノールを加え、5秒間混合した。
【0066】
pHが6.0より低い場合、1MのNaOHを用いてpHを補正した。次いでチューブを、少なくとも20分間氷上に、あるいは冷凍機中に一晩放置した後、5℃の温度において5分間3000rpmでの遠心分離にかけた。次いで上清を、別の円錐形チューブに注いだ。沈殿を、pH6.0の40%エタノールを加えることによって洗浄し、混合し、少なくとも20分間氷上に、あるいは冷凍機中に一晩置き、次いで前と同様に遠心分離にかけた。最後に、沈殿を超純水で洗浄し、予め重量を量ったフラスコに移し、凍結乾燥によって凍結および乾燥させた。
【0067】
上記の上清を予め重量を量った遠心分離ボトルに注ぎ、少なくとも20分間約4000rpmで、再度遠心分離にかけた。上清は、回転蒸発用に別の丸底フラスコに移した。回転蒸発によって上清からエタノールを除去し、水浴の温度が35℃を超えることはなかった。エタノールを除去した後、水性上清を予め重量を量ったフラスコに移し、凍結乾燥によって凍結し、水を除去した。
【0068】
生成した凍結乾燥調製物の、非グリコシル化型およびグリコシル化型III型AFPの含有率は、表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
エタノール沈殿はある程度の非グリコシル化物質を依然として含んでいるが、上清は、非グリコシル化要素(タンパク質全体の0.4%)と比較してグリコシル化物質を非常に豊富に含んでいる(タンパク質全体の41%)。
【0071】
再結晶化阻害(RI)アッセイ
グリコシル化HPLC-12の再結晶化阻害活性を使用して、グリコシル化型および非グリコシル化型III型AFPの活性を測定した。30%スクロース溶液に溶かした0.0004%タンパク質のサンプルを調製し、RIアッセイにおいて測定した(3回繰り返し)。2つの対照サンプル、30%スクロース溶液(すなわちAFPを含まない)および0.0004%の非グリコシル化HPLC-12も測定した。これらの結果は、-6℃で1時間の再結晶化を経た後の平均的な氷結晶の大きさの変化として表す(表2)。
【0072】
【表2】

【0073】
前述の結果は、非グリコシル化型III型AFP HPLC-12は活性があることを示している。何故なら非グリコシル化型III型AFP HPLC-12は、対照スクロース溶液と比較して、増大の量を著しく低下させるからである。しかしながら、グリコシル化型HPLC-12は、スクロース溶液と同じ増大を示す。したがって、グリコシル化型III型AFP HPLC-12は、再結晶化に対してまったく影響がない、すなわち、それは不活性である。
【0074】
(実施例2)
タンパク質マンノシルトランスフェラーゼ(pmt)欠損突然変異体の調製
pmt欠損突然変異体を、Guldener他(Nucleic Acids Res 24 (13) : 2519〜24、1996)が記載したcre/lox遺伝子破壊システムを使用して、Saccharomyces cerevisiae VWK18gall(MATa、leu2、gall : URA3、ura3)中に構築した。短鎖隣接配列の相同性を有するDNA断片を、loxP-Kan-loxPカセットを使用しPCRによって作製した。カセットの正確な組み込みは、診断PCRによって確認し、後に、creリコンビナーゼの発現によってKan遺伝子を除去した。1つの残りのloxP部位を有する欠失遺伝子をもたらすカセットの正確な除去は、診断PCRによって確認した。
【0075】
以下の欠失体を構築した:
pmt1(201,2350)::loxP
pmt2(50,2229)::loxP
pmt4(09,2289)::loxP
【0076】
(実施例3)
III型AFP HPLC-12をコードする遺伝子で形質転換した突然変異Saccharomyces菌株の構築
AFPの効率の良い制御された発現を可能にする菌株を構築するために、宿主菌株S.cerevisiae VWK18ga11のpmt突然変異体を、Lopes他(Gene 1989 Jul 15 ; 79(2) : 199〜206)によって記載されたのと同様にrDNAの遺伝子座に組み込むように設計したpUR3993プラスミド由来のISP発現カセットの多数のコピーを用いて形質転換した。rDNAの組み込みカセットは、HpaIを用いた消化によって完全なプラスミドから切除し、約6283bpの断片を、酢酸リチウム法を使用する形質転換によって宿主菌株に導入した(Gietz R.D.およびWoods R.A.Methods Enzymol 2002 ; 350 : 87〜96)。
【0077】
rDNAの組み込みカセットおよびpUR3993プラスミドの詳細をそれぞれ図1(a)および(b)に示す。形質転換体を、ロイシンを含まない最小培地における増殖能に関して選択し、炭素源としてグルコースおよび誘導物質としてガラクトースを含む培地における増殖中のAFPの生成に関してスクリーニングした。
【0078】
(実施例4)
発酵サンプル中のIII型AFP HPLC-12の含有率の測定
サンプル要素は、C18カラムを使用し逆相HPLCによって分離し、III型HPLC-12の含量は、精製した標準を参照することにより214nmでのUV検出によって測定する。
【0079】
装置:
AKTA Explorer XT10
化学天秤
さまざまなガラス製品
さまざまなピペット(最少クラスb)
【0080】
試薬:
超純水 Millipore水系
アセトニトリル HPLC等級、Far UV
トリフルオロ酢酸(TFA) HPLC等級
イソプロパノール HPLC等級
【0081】
溶出液の調製:
溶出液A:超純水に溶かした0.05%のTFA
1ml体積のTFAを、超純水を用いて2リットルに希釈し、混合した。
【0082】
溶出液Bの調製:アセトニトリルに溶かした0.05%のTFA
0.5ml体積のTFAを、アセトニトリルを用いて1リットルに希釈した。
【0083】
サンプルを調製するために、試験物質の体積または重量を、三連で、別の50ml体積のフラスコに、正確にピペット処理/重量測定し、溶出液Aを用いて体積を調整した。以下に示すAKTA条件を使用して分析する前に、サンプルを濾過した。精製した非グリコシル化型III型AFPを、定量標準として使用した。典型的な発酵サンプル由来のクロマトグラフを、図2に示す。
【0084】
III型AFPの分析用に使用したHPLC条件は、以下の通りであった:
【0085】
【表a】

【0086】
AKTA Explorer 10XTクロマトグラフィー系は、A900オートサンプラー、および三重波長UV検出器を備えていた。214nmのシグナルを使用して、定量化を実施した。254nmおよび280nmなどの他の波長は、フィンガープリンティング目的のみで使用した。
【0087】
(実施例5)
研究室規模の発酵槽中での、III型AFP HPLC-12生成に対するpmt欠失の影響
それぞれのpmt突然変異体を用いて発酵を行って、pmt欠損を有してない親菌株と比較して、AFP生成に対する欠失の影響を測定した。発酵は以下に詳細に述べるように行った。
【0088】
接種原の調製
6.7g/lのYNB(酵母菌ニュートリエントブロス)w/oアミノ酸(Difco)および5g/lのグルコース・1aq(Avebe)からなる50ml培地を含む振とうフラスコに、菌株の1.4mlのグリセロールストックを接種し、120rpmで30℃において48時間インキュベートした。その後、10g/lの酵母菌抽出物(Difco)、20g/lのBacto Pepton(Difco)および20g/lのグルコース・1aqからなる500ml培地を含む振とうフラスコに接種原を移し、次に120rpmで30℃において24時間インキュベートした。
【0089】
供給バッチ発酵
5.5Lのバッチ培地は、22g/kgのグルコース・1aq、10g/kgの酵母菌抽出物KatG(Ohly)、2.1g/kgのKH2PO4、0.6g/kgのMgSO4・7H2O、0.4g/kgのStruktol J673(Schill & Seilacher)、10g/kgのEgli微量金属(5.5g/l CaC12.2H2O、3.73g/lのFeSO4・7H2O、1.4g/lのMnSO4・1H2O、1.35g/lのZnSO4・7H2O、0.4g/lのCuSO4・5H2O、0.45g/lのCoCl2・6H2O、0.25g/lのNaMoO4・2H2O、0.4g/lのH3BO3、0.25g/lのKI、30g/lのNaEDTAの100×溶液)、1g/kgのEgliビタミン(5g/lのチアミン、47g/lのメソ-イノシット、1.2g/lのピリドキシン、23g/lのパントテン酸、0.05g/lのビオチンの1000×溶液)からなっていた。4Lの供給培地は、440g/kgのグルコース・1aq、3g/lのガラクトース(Duchefa)、25g/kgの酵母菌抽出物、12g/kgのKH2PO4、2.5g/kgのMgSO4・7H2O、0.8g/kgのStruktol J673、20g/kgのEgli微量金属、2g/kgのEgliビタミンを含んでいた。
【0090】
供給バッチ発酵は、標準的なバイオリアクター中において、10リットルの作業体積で行った。溶存酸素(DO2)は、Ingold DO2電極(Mettler-Toledo)を用いて測定し、最大1000rpmまで6ブレードのRushtonインペラーの速度を自動調節することによって制御した。pHはIngold Impro3100ゲル電極(Mettler-Toledo)を用いて測定し、3Mのリン酸(Baker)および12.5%v/vのアンモニア(Merck)を使用して制御した。温度はPT100電極によって測定し、冷却ジャケットならびに冷却および加熱フィンガーによって制御した。
【0091】
500mlの完全増殖した接種原をバッチ培地に移すことによって、バッチ相を開始させた。温度は30℃、空気流は2リットル/分に保った。DO2は30%より大きく、pHは5.0に調節した。発生気体中のエタノールシグナルが300ppm未満に低下したとき、供給相を開始させた。供給相中では、温度は21℃に低下させ、空気流は6リットル/分に設定した。0.06リットル/分の増大率を保つのに必要とされる指数関数的概略にしたがって、供給率を適用した。指数関数的供給は、発酵槽中のDO2レベルが15%未満に低下するまで続け、その後、供給率を直線的に保った。
【0092】
【表3】

【0093】
60時間の発酵後の全AFPの収率、およびpmt欠失の非グリコシル化型AFPの生産性に対する影響を、逆相HPLCを使用して測定し、表3中に示す。
【0094】
表3の結果は、pmt1またはpmt2のいずれかの欠失は、親菌株と比較して、生成される非グリコシル化型AFPの割合の増大をもたらすことを示す。AFP全体の収率は、pmt1およびpmt2突然変異体の両方に関してわずかに減少するが、非グリコシル化の収率は、グリコシル化活性の減少のために増大し、pmt1およびpmt2それぞれに関して、非グリコシル化型AFPの2.3倍および1.9倍の全体的な増大をもたらす。対照的に、pmt4の欠失は明らかに、生成される非グリコシル化生成物の割合に対してほとんどあるいは全く影響がないが、AFP全体の収率をわずかに減少させるようである。SDSゲル上での親菌株とpmt1突然変異体に関する、タンパク質概略の比較によって、元の非欠陥菌株は、グリコシル化型AFPと非グリコシル化型AFPの両方を含むが、一方pmt1突然変異体は、非グリコシル化型AFPを主に生成することが示された(データ示さず)。振とうフラスコのスクリーニング実験から、同様の結果を得た。
【0095】
これによって、APPタンパク質をグリコシル化する低い能力を有する菌株を同定するための、比較的迅速なスクリーニング法がもたらされる。
【0096】
(実施例6)
形質転換突然変異菌株によって分泌されたIII型AFP HPLC-12の、グリコシル化パターンの分析
元の非欠陥菌株と比較した、pmt1突然変異体のIII型AFPの糖形パターンの調査をHPLC-MSによって行った。グリコシル化の程度およびAFPの相対量と、その主な糖形(5〜13個のマンノース単位を有するAFP)を、そのそれぞれの最も豊富なプロトン状態の分子イオンの、選択イオンモニタリング(SIM)質量分析の応答性を使用して比較する。検出は、陽イオンエレクトロスプレーイオン化質量分析によって行う。分離は、以下に記載する逆相HPLCカラムを使用して、勾配溶出により実施した。
【0097】
装置および試薬:
1050HPLCモジュール(Hewlett Packard)
Quattro I質量分析装置(VG、現在Micromass)
PRP1カラム4.6×250mm(Hamilton)
超純水-Millipore-Q水系
アセトニトリル勾配HPLC勾配
【0098】
HPLCの移動相の調製
A:水に溶かした1%の酢酸
B:80%水性アセトニトリルに溶かした1%の酢酸
【0099】
サンプル調製
分析前に、サンプルを水中に50:1で希釈し(水50ml中に1g)、濾過した(0.45μmすなわち小さなシリンジフィルタ)。
【0100】
【表b】

【0101】
クロマトグラフィーによる分離後に、1/5の分配率を適用して、200μl/分を質量分析装置に送達した。
【0102】
【表c】

【0103】
表4は、pmt1菌株を使用すると非グリコシル化型III型AFPの収率は23%から67%に増大すること、グリコシル化生成物のレベルは低下するが、グリコシル化パターンは非欠陥親菌株から得られるものと同様であることを示している。
【0104】
【表4】

【0105】
前述の本明細書中に述べたすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれている。記載した本発明の方法および系の、さまざまな変更形態および変形形態が、本発明の範囲から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。特定の好ましい実施形態に関して、本発明を記載してきたが、特許請求する本発明は、このような特定の実施形態に過度に制限されるはずはないことは、理解されるはずである。実際、分子生物学または関連分野の当業者には明らかな、本発明を実施するための記載した形態のさまざまな変更形態は、以下の特許請求の範囲内にあるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】A:実施例中で使用した、rDNA組み込みカセットの概略図である。このカセットは、以下の配列を含む; 1〜126 NTS1-S.cerevisiaeのrDNA非転写スペーサー 127〜2186 S.cerevisiaeの染色体IXDNA 114〜348 orf1の一部分=推定タンパク質 485〜916 RNAsePのサブユニット 1165〜1959 グルコシダーゼ、エクソシアリダーゼ、ムチンと若干類似性有り 2103〜2165 問題のあるorf 2165〜2096 イオウa.a.代謝の転写活性因子 2397〜2197 不凍タンパク質III型HPLC-12 2457〜2398 lSS-S.cerevisiae SUC2 I(インベルターゼ)シグナル配列 2775〜2486 Pgal7-S.cerevisiaeのGAL7プロモーター(合成) 4009〜2801 LEU2d-S.cerevisiae LEU2d 4100〜4413 2u-S.cerevisiaeの2uプラスミド断片(非機能的) 4420〜5460 NTS2-S.cerevisiaeのrDNA非転写スペーサー 55461〜5581 5S-S.cerevisiaeのrDNA5SRNA 5582〜6238 NTS1-S.cerevisiaeのrDNA非転写スペーサー B:プラスミドpUR3993の概略図である。
【図2】HPLCクロマトグラムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III型不凍タンパク質(AFP)を生成するための方法であって、タンパク質グリコシル化に欠陥がある真菌宿主細胞中において、前記AFPをコードする核酸配列を発現させることを含む方法。
【請求項2】
前記真菌宿主細胞が、タンパク質グリコシル化と関係がある酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子の突然変異のためにタンパク質グリコシル化に欠陥がある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真菌細胞がO-グリコシル化に欠陥がある、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記真菌細胞が、1つまたは複数のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼ酵素の活性に欠損がある、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記真菌細胞が酵母菌である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酵母菌がpmt1-欠損突然変異菌株である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酵母菌がpmt2-欠損突然変異菌株である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酵母菌がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記III型AFPがIII型HPLC-12である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組換えIII型不凍タンパク質(AFP)を含む組成物であって、約50%から99%のAFPが非グリコシル化型である組成物。
【請求項11】
前記III型AFPがIII型HPLC-12である、請求項10に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−510368(P2006−510368A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561154(P2004−561154)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012219
【国際公開番号】WO2004/057007
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】