説明

不安定な可溶化基を含む可溶性ポリマーを用いて基板に不溶性ポリマーフィルムを調製する方法

本発明は、不安定なペンダント型可溶化基を含むポリマーの溶液を基板に塗布する工程と、次いで、溶媒、及び不安定基を除去する前よりもポリマーの溶媒に対する溶解性を低くするのに十分な濃度の不安定な可溶化基を除去する工程とにより、物理特性が向上したポリマーフィルム、好ましくは電気活性フィルムを製造する方法に関する。可溶性のペンダント基を除去すると、a)半導体骨格を電化輸送能に関して最適化することができ、b)最終フィルムにおける微細構造を直接制御することができ、c)多層デバイスを構築するために必要な後続の処理工程中に最終フィルムがより堅固になると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に対する溶解性が低減したポリマーを調製する方法に関し、このポリマーは可溶化基が存在するために溶媒に可溶であるが、可溶化基を除去又は非可溶化基に転換した場合に溶媒に対する溶解性が低減するポリマーである。
【背景技術】
【0002】
フルオレンモノマーの構造単位を含む共役ポリマーなどの電気活性ポリマーは、有機発光ダイオードディスプレイ(OLED)やトランジスタなどの電子素子における薄膜として有用である。通常、キシレンに溶解したポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−alt−ビチオフェン)などの電気活性ポリマー溶液を、スピンコーティングやインクジェット印刷などの技術によって基板に塗布し、その後、溶媒を除去して所望の電気活性特性を有する可溶性ポリマーの薄膜を形成する。ポリマーのフルオレン構造単位にオクチル基が存在すると、可溶性が付与され、ポリマーの取扱い特性が向上するが、不利なことには、輸送特性が低下し、最終フィルムにおける規則的な微細構造の形成が妨げられる。
【0003】
規則的な微細構造を含むポリマーフィルムが明らかに望まれるが、本来的にこうした構造を生じるポリマーは、前駆物質であるインク溶液に溶解しない傾向がある。したがって、こうした好ましいポリマーを溶液処理によって基板に塗布することは、不可能ではないにしても非実用的である。不溶性ポリマーを、蒸着、スパッタリング、プラズマ化学気相成長などの手段によって基板上に塗布することは可能であるが、こうした技術は、時間がかかり高価である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、容易に且つ再現可能に基板に塗布することのできる材料を用いて基板上に不溶性の電気活性有機フィルムを調製できるなら望ましいはずである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1の態様において、以下の方法を提供することによって、当技術分野での必要性に対処する。a)溶媒及び不安定な可溶化基を含むポリマーの溶液を基板に塗布する工程と、b)この溶液から溶媒を除去して、可溶性ポリマーフィルムを形成する工程と、c)この可溶性ポリマーフィルムから十分な量の不安定な可溶化基を除去又は転換して、不安定な可溶化基を除去又は転換する前よりも溶媒に対する溶解性の低いフィルムを基板上に形成する工程とを含み、このポリマーは、フルオレン−2,7−ジイル及びトリアリールアミン−ジイルからなる群から選択される構造単位を含んでいる方法。
【0006】
第2の態様では、本発明は、a)溶媒と不安定な可溶化基を含む電気活性ポリマーの溶液を基板に塗布する工程と、b)この溶液から溶媒を除去して、可溶性ポリマーフィルムを形成する工程と、c)可溶性ポリマーフィルムから十分な量の不安定な可溶化基を除去又は転換して、不安定な可溶化基を除去又は転換する前よりも溶媒に対する溶解性の低いフィルムを形成する工程とによって製造された被覆基板を有する電子素子であり、このポリマーが、フルオレン−2,7−ジイル及びトリアリールアミン−ジイルからなる群から選択される構造単位を含んでいる電子素子である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1の態様では、本発明は、溶媒に溶解したポリマーを基板上に塗布する工程と、次いで、この溶媒を除去する工程と、このポリマーを、ポリマーの溶剤に対する溶解性をより低くする、好ましくはほとんど又は完全に不溶性にする条件に置く工程とを含む、不溶性フィルムを基板上に形成する方法に関する。このポリマーは、好ましくは共役且つ電気活性であり、ペンダント型の不安定な可溶化基を含むことを特徴とし、この可溶化基は、一方ではポリマーの溶媒に対する溶解を促進し、もう一方ではポリマーが再度溶解するのを妨げるために選択的に除去又は転換することができる。この不安定基は、熱的、化学的又は光学的手段を含む多くの手段のいずれかによって除去又は転換することができる。
【0008】
本明細書では、「不溶性フィルム」という用語は、十分なペンダント基をポリマー骨格から除去(又は転換)することによって、ポリマーが最初に溶解していた溶媒に、ほとんど溶解しないようになったフィルムを意味する。好ましくは、このフィルムは、溶解度が、不安定なペンダント基を除去又は転換する前のポリマーの50%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは1%未満のものである。
【0009】
この不安定な可溶化基は、a)C〜C30ヒドロカルビル基、b)C〜C30ヒドロカルビル基及びS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子、又はc)アラルキル基及び任意にS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子を含むことが好ましい。本明細書では、「ヒドロカルビル基」という用語は、炭素原子、水素原子及び任意に他の原子を含む基を示す。本明細書で使用される「アラルキル基」という用語は、任意に他の原子を含むことができる芳香族基及び脂肪族基を示す。より好ましくは、この不安定な可溶化基としては、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基などのC〜C20アルキル基;或いは以下に示すような、第三級アルキルエーテル基や第三級アルキルチオエーテル基などのエーテル基若しくはチオエーテル基又はカルボン酸のメチルエステルやカルボt−ブチルエステルなどのエステル基若しくはチオエステル基を含むC〜C20アルキル基が挙げられる。
【化1】


式中、各R”は、それぞれ独立に、H又はC〜C10アルキルであり、好ましくは、各Rは、それぞれ独立に、H、メチル又はエチルであり、より好ましくは、各R”は、メチル又はエチルであり、最も好ましくは、各R”は、メチルであり、Xは、S又はOであり、好ましくはOである。
【0010】
適当な不安定基の他の例には、以下に示すような、エチレンフェニルなどのアルキレンベンゼン基、t−ブトキシフェニル基、ヘキシルオキシフェニル基、オクチルオキシフェニル基などのアルキルオキシフェニル基、及びアルキルフェニルエステルがある。
【0011】
【化2】

【0012】
不安定な可溶化基を含むポリマーとしては、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを挙げることができる。本明細書では、「構造単位」という用語は、重合化後のモノマーの残基を記述するのに使用する。本明細書で使用される「芳香族」という用語は、別段の注記のない限り複素芳香族を含む。本明細書で使用される「芳香族モノマー」及び「芳香族フラグメント」という用語は、それぞれ芳香族基を含むモノマー及びフラグメントを示す。例えば、置換1,4−ジブロモベンゼンの構造単位は、置換1,4−フェニレンである。2,7−ジブロモ−9,9−二置換フルオレンの構造単位は、以下に示すような、9,9−二置換フルオレン−2,7−ジイルであり、
【化3】


式中、Rは、不安定な可溶化基であり、R’は、不安定な可溶化基又はHである。
【0013】
不安定な可溶化基を含むポリマー
不安定な可溶化基を含むポリマーは、多くの手段のうちのどれによって調製することもできる。例えば、こうしたポリマーは、米国特許第6,169,163号(以下、’163号特許)の第41欄50〜67行目から第42欄1〜24行目に記載されるスズキカップリング反応で調製することができ、この記載を参照により本明細書に組み込む。
【0014】
スズキカップリング反応は、遷移金属触媒、好ましくはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)などのPd/トリフェニルホスフィン触媒の存在下、1つ若しくは複数のジホウ素化芳香族モノマーを1つ若しくは複数のジハロゲン化芳香族モノマーとカップリングさせることによって、又は1つ若しくは複数のハロホウ素化芳香族モノマーをカップリングさせることによって実施することができ、ただしこうしたモノマーのうちの少なくとも1つは、1個又は複数個の可溶化基を含む。「ボロネート」又は「ホウ素化」という用語は、ボラン基、ボロン酸エステル基又はボロン酸基によって置換された芳香族モノマー又はフラグメントを示す。
【0015】
スズキカップリング反応はさらに、マイクロ波条件下、水、炭酸ナトリウムなどの強塩基及びテトラブチルアンモニウムブロミドなどの第四級ハロゲン化アンモニウムの存在下、ジホウ素化芳香族モノマーを1つ若しくは複数のジハロゲン化芳香族モノマーとカップリングさせることによって、又は1つ若しくは複数のハロホウ素化芳香族モノマーをカップリングさせることによって、遷移金属触媒なしで実施することもできる。
【0016】
’163号特許の第11欄9〜34行目に記載されているように、ニッケル塩の存在下で1つ又は複数のジハロゲン化芳香族化合物をカップリングさせることによって重合化を行うこともでき、この記載を参照により本明細書に組み込む。
【0017】
本発明のポリマーを調製するために使用することができる様々な芳香族モノマーは、ほとんど無数にあるが、代表的な例には、1,4−ジXベンゼン;1,3−ジXベンゼン;1,2−ジXベンゼン;4,4’−ジXビフェニル;1,4−ジXナフタレンや2,6−ジXナフタレンなどのジXナフタレン;2,5−ジXフラン;2,5−ジXチオフェン;5,5’−ジX−2,2’−ビチオフェン;9,10−ジXアントラセン;4,7−ジX−2,1,3−ベンゾチアジアゾール;N,N−ジ(4−Xフェニル)アニリン、N,N−ジ(4−Xフェニル)−p−トリルアミン及びN−ジXフェニル−N−フェニルアニリンを含むジXトリアリールアミン;3,6−ジX−N−置換カルバゾール;2,7−ジX−N−置換カルバゾール;3,6−ジX−ジベンゾシロール;2,7−ジX−ジベンゾシロール;N−置換−3,7−ジXフェノチアジン;N−置換−3,7−ジXフェノキサジン;3,7−ジX−ジベンゾチオフェン;2,8−ジX−ジベンゾチオフェン;3,7−ジX−ジベンゾフラン;2,8−ジX−ジベンゾフラン;ジX−N,N,N’,N’−テトラアリール−1,4−ジアミノベンゼン;ジX−N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン;ジXアリールシラン;9,9−置換基が結合して環状構造を形成したフルオレン(すなわちスピロフルオレン)を含む2,7−ジX−9,9−ジ置換フルオレン、並びにそれらの組合せが含まれ、ただし、各Xは、それぞれ独立に、ハロゲン又はボロネート、好ましくはブロモ又はクロロ又はボロネート、より好ましくはブロモ又はボロネートである。
【0018】
したがって、上述のモノマーに対応する構造単位としては、1,4−フェニレン;1,3−フェニレン;1,2−フェニレン;4,4’−ビフェニレン;ナフタレン−1,4−ジイル及びナフタレン−2,6−ジイルを含むナフタレンジイル;フラン−2,5−ジイル;チオフェン−2,5−ジイル;2,2’−ビチオフェン−5,5’−ジイル;アントラセン−9,10−ジイル;2,1,3−ベンゾチアジアゾール−4,7−ジイル;N−置換カルバゾール−3,6−ジイル;N−置換カルバゾール−2,7−ジイル;ジベンゾシロール−3,6−ジイル;ジベンゾシロール−2,7−ジイル:N−置換−フェノチアジン−3,7−ジイル;N−置換−フェノキサジン−3,7−ジイル;ジベンゾチオフェン−3,7−ジイル;ジベンゾチオフェン−2,8−ジイル;ジベンゾフラン−3,7−ジイル;ジベンゾフラン−2,8−ジイル;インデノフルオレン−ジイル;トリフェニルアミン−4,4’−ジイル、ジフェニル−p−トリルアミン−4,4’−ジイル及びN,N−ジフェニルアニリン−3,5−ジイルを含むトリアリールアミン−ジイル;N,N,N’,N’−テトラアリール−1,4−ジアミノベンゼン−ジイル;N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン−ジイル;アリールシラン−ジイル;9,9−ジ置換フルオレン−2,7−ジイル;並びにそれらの組合せが挙げられ、ただし、構造単位のうちの少なくともいくつかは、十分な濃度の不安定な可溶性ペンダント基を含み、ポリマーを溶媒に対して、溶媒コーティング技術を用いて有効なポリマーのコーティングを所望の基板上に形成するのに十分なほど、可溶性にする。
【0019】
本発明の方法の実施に適した不安定な可溶化基を含む他のポリマーとしては、ポリフェニルビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、並びにテトラセン及びペンタセンを含むポリアセンが挙げられる。こうしたポリマーの調製は、例えば、「導電性ポリマーのハンドブック(Handbook of Conducting Polymers)」第2版、改訂増補、編集T.A.Skotheim、R.L.Elsenbaumer及びJ.R.Reynolds、版権所有、1998年、第2章、197〜422頁、並びにその参考文献に記載されている。
【0020】
このポリマーは、上述の9,9−ジ置換フルオレン−2,7−ジイルの構造単位を含むことが好ましく、式中、Rは、a)C〜C30ヒドロカルビル、b)S、N、P、Si若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子を含むC〜C30ヒドロカルビル、又はc)アラルキル基及び任意にS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子であり、R’は、a)H若しくはC〜C30ヒドロカルビル、又はb)S、N、P、Si若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子を含むC〜C30ヒドロカルビル、又はc)アラルキル基及び任意にS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子である。
【0021】
好ましいコポリマーの別の例には、置換又は非置換チオフェン−2,5−ジイルの構造単位を含むコポリマー、好ましくは3−C4〜20−アルキルチオフェン−2,5−ジイル構造の構造単位を含むコポリマーがある。より好ましいアルキル基は、ヘキシル基及びオクチル基である。
【0022】
コポリマーの好ましいホモポリマーの別の例は、下記に示すような、不安定なエステル基を含むトリアリールアミンの構造単位を含むホモポリマー又はコポリマーである。
【0023】
【化4】


式中、各R”及び各R’’’は、それぞれ独立に、アルキル又はHであり、好ましくは、各R”はメチルであり、各R’’’はHである。より好ましいコポリマーは、置換又は非置換フルオレンと、先に示した不安定基を含むトリアリールアミンの構造単位とを含むものである。
【0024】
基板上への不溶性フィルムの調製
不溶性ポリマーフィルムは、まず不安定な可溶化基を含むポリマーを1つ又は複数の溶媒(以下、溶媒)に溶解させ、次いでこの溶媒を基板上にスピンコーティング若しくは浸漬コーティングを含む様々な方法のいずれか、又はインクジェット印刷、グラビア、オフセット、フレキソ、若しくはスクリーン印刷など様々な直接印刷方法のいずれかで塗布することによって製造することができる。ポリマーに適した溶媒の例としては、ベンゼン;C1〜12−アルキルベンゼン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン及びジエチルベンゼンを含むモノ、ジ及びトリアルキルベンゼン;テトラヒドロフラン及び2,3−ベンゾフランを含むフラン;1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン;クメン;デカリン;ジュレン;クロロホルム;リモネン;ジオキサン;アニソール及びメチルアニソールを含むアルコキシベンゼン;安息香酸メチルを含む安息香酸アルキル;イソプロピルビフェニルを含むビフェニル;シクロヘキシルピロリジノンを含むピロリジノン;ジメチルイミダゾリノンを含むイミダゾール;フッ素系溶媒;並びにそれらの組合せが挙げられる。より好ましい溶媒としては、C1〜8−アルキルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、安息香酸メチル、イソプロピルビフェニル及びアニソール、並びにそれらの組合せが挙げられる。
【0025】
溶液を塗布した後、溶媒を除去する。不安定基は、例えば、UV光の照射によるなど、熱的、化学的又は光学的に、好ましくは溶媒を除去した後に、除去又は転換することができる。可溶性アルキル及びエステル/チオエステル基は、熱分解によって、例えば、フィルムを不溶性にするのに十分な時間、約250℃〜約450℃の範囲の温度にフィルムをさらすことによって除去することができる。可溶性エステル基を酸又は塩基によって触媒される加水分解によって除去して、ポリマーに不溶性を付与する、より短鎖の酸性基を形成させることもできる。こうした不安定な可溶化基の非可溶化基への転換を例示する。
【0026】
【化5】


(式中、Arはポリマー骨格中の芳香族基である)。先に例示したアルキレンエステルの熱分解反応では、R”がメチルである場合、次に示すように、可溶化基は完全に除去されて、エチレン、CO、及びt−ブチレンが形成すると考えられる。
【0027】
【化6】

【0028】
上述のオクチル又はヘキシル基の場合と同様に、不安定基を完全に除去し、又は可溶化基を非可溶化基に転換することができる。こうした転換の別の例では、ヘキシルオキシフェニル基をヘキセン及びフェノール基に熱的に転換することができ、こうした転換によりポリマーの溶解性がかなり低減される。
【0029】
【化7】

【0030】
基板自体は、非常に広範囲のものとすることができ、表面上にグラフィカル印刷が通常は施される牛乳パックや紙製品などの表面から、シリコン又はヒ化ガリウムのウェーハ、セラミックキャリア、光学板ガラス、柔軟なプラスチック板又はフィルムなど特定の電子的用途向けに設計された基板に至るまでどんな表面も含まれ得る。特定の理論に拘泥するものではないが、可溶性のペンダント基を除去又は転換すると、a)半導体骨格を電化輸送能に関して最適化することができ、b)最終フィルムにおける微細構造を直接制御することができ、c)多層素子を構築するために必要な後続の処理工程中に最終フィルムがより堅固になると考えられる。
【0031】
本発明の方法で製造される不溶性フィルムは、紙、金属、プラスチック、セラミックス、半導体などの基板用のコーティングとして有用である。こうした基板は、薄膜トランジスタ、ダイオード、発光ダイオード、太陽電池などの電子素子に有用である。
【0032】
以下の実施例は、例示のために示したものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0033】
シリコンウェーハ上への不溶性エレクトロルミネッセンス膜の調製
米国特許第6,169,163号の第41欄51〜67行目及び第42欄1〜15行目に記載されているように、9,9−ジ−n−オクチルフルオレンとビチオフェンのコポリマー(F8T2)は、5,5−ジブロモ−2,2’−ビチオフェンと9,9−ジオクチル−2,7−フルオレンジボロネートとの等モル混合物を反応させることによって調製することができ、この記載を参照により本明細書に組み込む。
【0034】
F8T2の1重量%メシチレン溶液を、100mmのIRグレード両面研磨Siウェーハ上にスピンコーティングした。次いで、このウェーハを窒素中で200℃で20分間乾燥させた。得られたフィルムの厚さは、約90nmであった。次いで、後続の処理のためにこのウェーハを1/2インチの帯片に切断した。
【0035】
窒素パージした400℃のホットプレート上で10、20及び40分間このウェーハ片の熱処理を行った。FT−IRでウェーハ片を分析した。2923、2854及び1466cm−1の脂肪族C−H吸収の強度が、熱にさらした時間に応じて減少した。芳香族炭素環(3067、879及び753cm−1)及びチオフェン環(3067及び789cm−1)による吸収の強度は、ほとんど変化しなかった。これは、ポリマー構造における主な変化が、脂肪族オクチル基の喪失であり、芳香族主鎖に対しては限られた影響しかないことを示している。
【0036】
その後、処理したサンプルの溶解性について試験した。F8T2用の既知の溶媒であるキシレンを約30mL入れたガラス瓶に各ウェーハ片を入れた。この片をキシレン中に約1時間放置して、キシレンで可溶性ポリマーを抽出した。次いで、各溶液についてUV/Visスペクトルを記録した。200℃で乾燥し、その後の高温処理を行わなかったサンプルを含む溶液は、図1のAに示すように約450nmで約1の最大吸光度を示した。200℃で乾燥し、400℃で10分間処理したサンプルは、図1のBの減衰した吸光度から分かるように、溶媒に対して低い溶解度を示した。200℃で乾燥し、400℃で20分間処理したサンプルは、図1のCに示されるように抽出された物質のレベルがさらに低下した。200℃で乾燥させ400℃で40分間処理したサンプルは、図1のDに示されるとおり吸光度がほとんどないことから分かるように、キシレン溶媒中に実質上、抽出されないことを示した。
【実施例2】
【0037】
官能化トリアリールアミン−フルオレンコポリマーの調製
A.3−ブロモ安息香酸t−ブチルの合成
滴下漏斗、ガラス栓、磁気攪拌棒及び窒素流入口に接続した還流冷却器を備えた、オーブン乾燥した1L容の3つ口丸底フラスコ中で、カリウムt−ブトキシド(23.6g、209.6mmol)をトルエン(150mL)と一緒にした。塩化3−ブロモベンゾイル(40g、182.3mmol)のトルエン(100mL)溶液をカリウムt−ブトキシドに滴下し、この混合物を室温で16時間攪拌した。この粘性混合物を1L容の分液漏斗に移し、反応フラスコをトルエン(50mL)で濯ぎ、分液漏斗に加えた。このトルエン混合物を、水(200mL)、炭酸カリウム溶液(10%、250mL)、再度水(3×200mL)で抽出した。トルエン層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、トルエンを減圧下で除去して黄色オイル状の生成物(45.1g、96%)を得た。HPLC:>99%純度。
【0038】
B.N,N−ジフェニル−N−(3−t−ブチルカルボキシフェニル)アミンの合成
オーバーヘッド攪拌機、ガラス栓及び窒素流入口に接続した還流冷却器を備えた1L容の3つ口丸底フラスコ中で、酢酸パラジウム(II)(585mg、2.61mmol)及びトリ−o−トリルホスフィン(1.67g、5.48mmol)をトルエン(250mL)と一緒にし、窒素下で15分間攪拌した。ジフェニルアミン(14.70g、86.85mmol)、3−ブロモ安息香酸t−ブチル(21.22g、82.52mmol)、ナトリウムt−ブトキシド(12.52g、130.28mmol)及びトルエン(250mL)を攪拌しながら添加し、16時間還流した。この混合物を室温まで冷却し、粗いガラスフリットに通してろ過した。暗色のろ液をシリカゲル(7×12cm)を詰めたカラムに通し、ろ過した材料をトルエンで溶出し、減圧下でトルエンを除去して暗色オイルを得て、一晩にわたり結晶化させた。この結晶をエタノールで洗浄し、ろ過で採取し、減圧下で乾燥させて生成物を白色固体として得た。この生成物をさらにエタノールから再結晶して、生成物を白色針状の生成物を得た(15g、50%)。HPLC:99.7%純度。
【0039】
C.N,N−ジ(4−ブロモフェニル)−N−(3−t−ブチルカルボキシフェニル)アミンの合成
滴下漏斗、栓、磁気攪拌棒及び窒素流入口を備えた250mL容の3つ口丸底フラスコ中で、N,N−ジフェニル−N−(3−t−ブチルカルボキシフェニル)アミン(12.00g、34.74mmol)をDMF(140mL)に溶解した。このフラスコを氷浴で0℃に冷却した。N−ブロモスクシンイミド(12.37g、69.48mmol)のDMF(40mL)溶液を、滴下漏斗によって滴下した。1時間の攪拌後、この混合物を水(200mL)中に注ぎ、白色沈殿物が生成した。固体をろ過により採取し、水で洗浄した。この固体をエタノールから再結晶して、綿毛状の白色結晶の生成物を得た(3.5g、17%)。より多くの生成物を得るために、最初のろ過から得た乳液状の溶液を塩化メチレン(3×300mL)で抽出した。一緒にした塩化メチレン層を水(3×300mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒を減圧下で除去して黄色オイルを得た。このオイルをエタノールに溶解し、冷凍庫で冷却した。白色結晶が形成され、これを採取し乾燥して生成物をさらに4.3g(25%)得たことで、全収率が42%に向上した。HPLC:99.3%純度。
【0040】
D.機能化したトリアリールアミン−フルオレンコポリマーの合成
オーバーヘッド攪拌機、ガラス栓及び窒素流入口に接続した還流冷却器を備えた250mL容の3つ口丸底フラスコ中で、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(2.898g、5.464mmol)、N,N−ジ(4−ブロモフェニル)−N−(3−t−ブチルカルボキシフェニル)アミン(2.769g、5.464mmol)及びアリコート336(0.8g、1.9mmol)をトルエン(50mL)と一緒にし、固体が溶解するまで攪拌した。Pd(PPhCl(4mg、0.005mmol)及び2MのNaCO(aq)(12mL)を添加し、混合物を24時間102℃で加熱した。反応物をフェニルボロン酸(0.5g)でキャップし、さらにトルエン(50mL)及び触媒(4mg)を添加した。この混合物を24時間102℃で攪拌した。この混合物を500mLフラスコに移し、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物(7.5g、100mL)水溶液をさらなるトルエン(50mL)と共に加えた。この混合物を24時間80℃で攪拌した。反応混合物を1L容の分液漏斗に移し、温水(3×300mL)で洗浄した。ポリマーをメタノール(2L)で沈澱させ、ろ過により採取し、メタノール(〜500mL)で洗浄した。このポリマーを1L容の丸底フラスコに移し、余分なメタノールを減圧下で除去した。ポリマーをトルエン(400mL)に溶解させ、シリカゲル(3×3cm)を詰めたカラムに通した。このカラムをトルエン(300mL)で濯ぎ、採取したろ液を減圧下で体積が約150mlになるまで濃縮した。ポリマーをメタノール(2L)で沈澱させ、ろ過により採取し、メタノール(約500mL)で洗浄した。このポリマーを60℃で一晩真空オーブン中で乾燥した。収率2.8g(70%)。GPC M=194,000、M=42,000、PDI=4.6。
【0041】
コポリマー中のt−ブチルエステルがカルボン酸の形になる熱分解反応を検討するために熱重量分析(TGA)を使用した。10℃/分で25℃から600℃まで行ったコポリマーのTGAは、241℃で以下に示した反応式の反応に相当する重量損失を示した。この反応の重量損失の計算値は7.64%であり、これはTGAスキャンで観察されるものと同じである。
【0042】
【化8】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ジオクチルフルオレン−ビチオフェンの熱処理されたコポリマーで被覆された基板の溶媒洗浄液の可視スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)溶媒及び不安定な可溶化基を含むポリマーの溶液を基板に塗布する工程と、b)前記溶液から前記溶媒を除去して、可溶性ポリマーフィルムを形成する工程と、c)前記可溶性ポリマーフィルムから十分な量の不安定な可溶化基を除去又は転換して、不安定な可溶化基を除去又は転換する前よりも溶媒に対する溶解性の低いフィルムを基板上に形成する工程とを含み、前記ポリマーが、フルオレン−2,7−ジイル及びトリアリールアミン−ジイルからなる群から選択される構造単位を含み、前記不安定な基が、熱的、化学的若しくは光学的に又はそれらの組合せによって除去される、方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、1,2−フェニレン、4,4’−ビフェニレン、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、フラン−2,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、2,2’−ビチオフェン−5,5’−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、2,1,3−ベンゾチアジアゾール−4,7−ジイル、N−置換カルバゾール−3,6−ジイル、N−置換カルバゾール−2,7−ジイル、ジベンゾシロール−3,6−ジイル、ジベンゾシロール−2,7−ジイル、N−置換−フェノチアジン−3,7−ジイル、N−置換−フェノキサジン−3,7−ジイル、ジベンゾチオフェン−3,7−ジイル、ジベンゾチオフェン−2,8−ジイル、ジベンゾフラン−3,7−ジイル、ジベンゾフラン−2,8−ジイル、インデノフルオレン−ジイル、N,N,N’,N’−テトラアリール−1,4−ジアミノベンゼン−ジイル、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン−ジイル、アリールシラン−ジイル、及び9,9−スピロフルオレン−2,7−ジイルからなる群から選択される構造単位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、以下に示す置換フルオレン−2,7−ジイルの構造単位を含み、
【化1】


式中、Rは、a)C〜C30ヒドロカルビル、b)S、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子を含むC〜C30ヒドロカルビル、又はc)アラルキル基及び任意にS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子であり、R’は、a)H、b)C〜C30ヒドロカルビル、又はc)S、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子を含むC〜C30ヒドロカルビル、又はd)アラルキル基及び任意にS、N、Si、P若しくはOのうちの1つ若しくは複数のヘテロ原子である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
R及びR’はそれぞれ、次式で表され、
【化2】


式中、各R”は、それぞれ独立に、H又はC〜C10アルキルであり、Xは、S又はOである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各R”がメチルであり、XがOである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、チオフェン−2,5−ジイルの構造単位を含む、請求項1から5までのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーが、3−C4〜20−アルキルチオフェン−2,5−ジイルの構造単位を含む、請求項1から5までのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、以下に示す不安定なエステル基を含むトリアリールアミン−4,4’−ジイルの構造単位を含み、
【化3】


式中、各R”及び各R’’’は、それぞれ独立に、アルキル又はHである、請求項1から7までのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
各R”がメチルであり、各R’’’がHである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記基板が、紙、金属、プラスチック、セラミックス、半導体及び電子素子の構成部品からなる群から選択される、請求項1から9までのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
a)溶媒及び不安定な可溶化基を含む電気活性ポリマーの溶液を基板に塗布する工程と、b)前記溶液から前記溶媒を除去して、可溶性ポリマーフィルムを形成する工程と、c)前記可溶性ポリマーフィルムから十分な量の不安定な可溶化基を除去又は転換して、不安定な可溶化基を除去又は転換する前よりも溶媒に対する溶解性の低いフィルムを形成する工程とによって製造された被覆基板を有する電子素子であって、前記ポリマーが、フルオレン−2,7−ジイル及びトリアリールアミン−ジイルからなる群から選択される構造単位を含む、電子素子。

【図1】
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【公表番号】特表2007−505971(P2007−505971A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526932(P2006−526932)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/029154
【国際公開番号】WO2005/036666
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】