説明

不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法

【目的】 EEPROMの記憶容量を増大させる。
【構成】 書き込み時、ソース3の電位をフローティングにし、ドレイン2に0V、1V、2V及び3Vの中から選択された所定の電圧を印加し、そのタイミングで制御ゲート100に10〜15V程度のパルス電圧を印加する。これにより、メモリセルのしきい値は7V、5V、3V及び1Vのいずれかになり、夫々の状態をデータ“11”、“10”、“01”及び“00”に対応させる。従って、1個のメモリセルに4値のデータを記憶させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気的に書き換えが可能な不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法に関する。
【0002】
【従来の技術】不揮発性半導体記憶装置の一種にEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)がある。このEEPROMは、電気的に情報の書き換え及び読み出しが可能で且つ電源を切っても情報が消えない性質(不揮発性)を有する半導体記憶装置である。このうち、特に、データを一括消去可能なEEPROMとしてフラッシュEEPROMがある。
【0003】図2に、代表的なフラッシュEEPROMの電気的結線の様子を4個のメモリセルについて示す。
【0004】各メモリセル10〜13は、電極を持たない浮遊ゲート110〜113を有している。そして、ワード線100がメモリセル10と11の制御ゲートに夫々接続され、ワード線101がメモリセル12と13の制御ゲートに夫々接続されている。但し、実際には、各ワード線と各制御ゲートは例えばポリシリコンにより一体に構成され、ワード線自体が、各メモリセルの領域において、その制御ゲートを構成する。一方、メモリセル10と12のドレインには夫々ビット線102が接続され、メモリセル11と13のドレインには夫々ビット線103が接続されている。更に、メモリセル10と12のソースは共通のソース線104に接続され、メモリセル11と13のソースはやはり共通のソース線105に接続されている。
【0005】例えば、メモリセル10の断面構造を図1(a)に示すが、p型シリコン基板1の表面領域にn型不純物拡散層からなるドレイン2及びソース3が夫々形成され、それらの間がチャネル領域4となっている。そして、このチャネル領域4の上に、厚さ10nm程度のSiO2 膜からなるトンネル絶縁膜5が形成され、その上に低抵抗ポリシリコンからなる浮遊ゲート110、層間絶縁膜6及び低抵抗ポリシリコンからなる制御ゲート100が順次形成されている。102は、ドレイン2に接続されたビット線、104はソース線である。
【0006】このように構成されたメモリセルの記憶動作は、書き込み時、例えば基板1を接地し、制御ゲート100を高電圧に設定して、容量結合により浮遊ゲート110の電位を上げ、極薄酸化膜からなるトンネル絶縁膜5を通して基板1から浮遊ゲート110に電子を注入する。極薄酸化膜の伝導機構は、この程度の膜厚ではファウラー−ノルドハイム(Fowler-Nordheim)の式に従い、電界としては、6〜7MV/cm程度必要となる。そして、浮遊ゲート110内に電子が蓄積された結果、制御ゲート100からみたトランジスタのしきい値はプラス方向へシフトする。消去時は、例えば制御ゲート100を接地し、ソース3を高電圧に設定することによって、電子を浮遊ゲート110から引き抜いてしきい値を下げる。
【0007】そして、このメモリセルのしきい値の高低を、制御ゲートに所定の電圧を印加することにより検出し、読み出しを行う。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来のEEPROMでは、上述したように、1個のメモリセルにしきい値の高い状態と低い状態の2個の記憶状態しか与えていなかった。即ち、単位メモリセルを“1”と“0”の1ビット(2値)のデータの記憶にしか用いていなかった。このため、メモリセルアレイ全体で記憶する情報量が少ないという欠点があった。
【0009】そこで、本発明の目的は、特にメモリセルの数を増やさなくてもその記憶容量を大きくすることができる不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するために、本発明では、半導体基板内に形成されたドレイン及びソースと、前記ドレイン及びソースの間に配されたチャネル領域と、前記チャネル領域上に設けられたトンネル絶縁膜と、前記トンネル絶縁膜上に設けられた浮遊ゲートと、前記浮遊ゲート上に層間絶縁膜を介して設けられた制御ゲートとを有するメモリセルの入力データを書き込むことが可能な不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法であって、前記ドレインに所定の電圧を印加し、前記制御ゲートにパルス状の電圧を印加することにより前記メモリセルのしきい値電圧を設定する。
【0011】本発明の一態様では、前記ソースをフローティング状態とし、前記ドレインに少なくとも3段階の異なるレベルから選択した所定の電圧を印加し、前記ドレインに所望レベルの電圧が印加されているタイミングで前記制御ゲートにパルス状の電圧を印加することにより、前記浮遊ゲートにトンネル現象により所定量の電荷を注入し、これにより、前記メモリセルのしきい値電圧を少なくとも3段階のレベルから選択された所定レベルにする。
【0012】また、本発明の好ましい態様では、前記制御ゲートに接続されたワード線と前記ドレインに接続されたビット線とを有し、複数の前記メモリセルからなるマトリクスの行線又は列線を構成する複数の前記ビット線のうちの選択されたビット線に少なくとも3段階の異なるレベルから選択した所定の書き込み電圧を印加するとともに、前記選択されたビット線に所望レベルの書き込み電圧が印加されている時に、前記マトリクスの列線又は行線を構成する複数の前記ワード線のうちの選択されたワード線にパルス状の電圧を印加し、これにより、前記選択されたビット線と前記選択されたワード線により選択されたメモリセルの浮遊ゲートに、前記選択されたワード線に前記パルス状の電圧が印加された時に前記選択されたビット線に印加されている書き込み電圧のレベルに対応した所定量の電荷を注入し、その選択されたメモリセルに、その書き込み電圧のレベルに対応した情報を記憶させる。
【0013】
【作用】本発明の不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法では、単位メモリセルに例えば3値以上のデータを記憶させることができるので、特にメモリセルの数を増やさなくても、装置全体の記憶容量を大きくすることができる。
【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例につき図面を参照して説明する。
【0015】図1(a)は本発明を適用するフラッシュEEPROMメモリセルの断面構造であり、従来技術の項で説明したのと同じである。また、図2はフラッシュEEPROMの4個のメモリセルの電気的結線の様子を示したもので、これも従来技術の項で説明したのと同じである。
【0016】本実施例においては、フラッシュEEPROMの各メモリセルに、“00”〜“11”の4値のデータを記憶させる。
【0017】今、図2のメモリセル10に書き込みを行う場合を説明する。
【0018】例えば、メモリセル10にデータ“11”を書き込む場合、選択されたビット線102を接地し、ソース線104を開放し、選択されたワード線100に10〜15V程度のパルス電圧を印加する。これにより、メモリセル10の浮遊ゲート110に電圧が誘起され、この浮遊ゲート110とドレイン2との電位差に応じ、ファウラー−ノルドハイムトンネリングにより、浮遊ゲート110に所定量の電荷が注入される。そして、メモリセル10のしきい値は7V程度に上昇する。この状態を“11”とする。なお、この時、ビット線102以外のビット線に3V程度の電圧を印加しておくことにより、メモリセル10以外のメモリセルではファウラー−ノルドハイムトンネリングが起こらず、従って、それらのメモリセルへの書き込みは行われない。
【0019】同様にして、メモリセル10にデータ“10”を書き込む場合には、選択されたビット線102に1V程度の電圧を印加し、他は上と同じにする。これによりメモリセル10のしきい値は5V程度となり、この状態を“10”とする。
【0020】更に、メモリセル10にデータ“01”を書き込む場合には、選択されたビット線102に2V程度の電圧を印加し、他は上と同じにする。これによりメモリセル10のしきい値は3V程度となり、この状態を“01”とする。
【0021】更に、メモリセル10にデータ“00”を書き込む場合には、選択されたビット線102に3V程度の電圧を印加し、他は上と同じにする。この場合、メモリセル10のしきい値は1V程度であって、これは初期のしきい値(消去レベル)から殆ど変化していない。この状態を“00”とする。
【0022】本実施例におけるメモリセルのドレインに印加する電圧としきい値電圧との関係を図1(b)に示す。
【0023】このメモリセル10の読み出しを行う場合には、例えば、ビット線102に1Vの電圧を印加するとともにそれ以外のビット線の電位を全て0Vにし、ソース線を全て0Vにする。そして、この状態で、ワード線100に5Vの電圧を印加し、その時にソース−ドレイン間に流れる電流を、予め4つの状態に設定したリファレンスセルの電流と比較することにより読み出しを行う。
【0024】また、記憶状態の消去は、全メモリセルを一括して行う。
【0025】以上に説明したように、本実施例の方法によれば、単位メモリセルに“00”〜“11”の4値のデータを記憶させることができ、且つ、それを読み出すことができる。従って、メモリセルの数が同じの場合、従来の2倍の情報量を記憶することができる。
【0026】なお、上述した実施例ではメモリセルのしきい値を1V、3V、5V、7Vの4つのレベルに設定したが、更に細分化すれば、より多くのデータを記憶させることができるのは言うまでもない。また、上述した実施例で具体的な電圧値を示したが、これらの電圧値は、メモリセルの構造、特に、トンネル絶縁膜や層間絶縁膜の厚さにより適宜変更されるべきものである。
【0027】図3に本発明の第2の実施例を示す。
【0028】この実施例においては、フラッシュEEPROMセルアレイのビット線B1 〜Bn 方向のソースを共通にし、各ソース線S1 〜Sn にn型MOSトランジスタQ1 〜Qn を設けている。そして、例えば、メモリセルM11に書き込みを行う場合、MOSトランジスタQ1 をカットオフして、ソースをフローティングにする。その他の構成は上述した第1の実施例と同じである。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、フラッシュEEPROM等の不揮発性半導体記憶装置の単位メモリセルに3値以上例えばn(n≧2)ビットのデータを記憶させることができるので、特にメモリセルの数を増やさなくても大きな記憶容量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例によるフラッシュEEPROMメモリセルの構造を示す概略断面図及び書き込み時のドレイン電圧としきい値電圧との関係を示すグラフである。
【図2】フラッシュEEPROMの4個のメモリセルの電気的結線図である。
【図3】本発明の第2の実施例によるフラッシュEEPROMセルアレイの電気的結線図である。
【符号の説明】
1 p型シリコン基板
2 ドレイン
3 ソース
4 チャネル領域
5 トンネル絶縁膜
6 層間絶縁膜
10、11、12、13 メモリセル
100、101 ワード線(制御ゲート)
102、103 ビット線
104、105 ソース線
110、111、112、113 浮遊ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体基板内に形成されたドレイン及びソースと、前記ドレイン及びソースの間に配されたチャネル領域と、前記チャネル領域上に設けられたトンネル絶縁膜と、前記トンネル絶縁膜上に設けられた浮遊ゲートと、前記浮遊ゲート上に層間絶縁膜を介して設けられた制御ゲートとを有するメモリセルの入力データを書き込むことが可能な不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法であって、前記ドレインに所定の電圧を印加し、前記制御ゲートにパルス状の電圧を印加することにより前記メモリセルのしきい値電圧を設定することを特徴とする不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法。
【請求項2】 前記ソースをフローティング状態とし、前記ドレインに少なくとも3段階の異なるレベルから選択した所定の電圧を印加し、前記ドレインに所望レベルの電圧が印加されているタイミングで前記制御ゲートにパルス状の電圧を印加することにより、前記浮遊ゲートにトンネル現象により所定量の電荷を注入し、これにより、前記メモリセルのしきい値電圧を少なくとも3段階のレベルから選択された所定レベルにすることを特徴とする請求項1に記載の不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法。
【請求項3】 前記制御ゲートに接続されたワード線と前記ドレインに接続されたビット線とを有し、複数の前記メモリセルからなるマトリクスの行線又は列線を構成する複数の前記ビット線のうちの選択されたビット線に少なくとも3段階の異なるレベルから選択した所定の書き込み電圧を印加するとともに、前記選択されたビット線に所望レベルの書き込み電圧が印加されている時に、前記マトリクスの列線又は行線を構成する複数の前記ワード線のうちの選択されたワード線にパルス状の電圧を印加し、これにより、前記選択されたビット線と前記選択されたワード線により選択されたメモリセルの浮遊ゲートに、前記選択されたワード線に前記パルス状の電圧が印加された時に前記選択されたビット線に印加されている書き込み電圧のレベルに対応した所定量の電荷を注入し、その選択されたメモリセルに、その書き込み電圧のレベルに対応した情報を記憶させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の不揮発性半導体記憶装置の書き込み方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開平6−268181
【公開日】平成6年(1994)9月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−80069
【出願日】平成5年(1993)3月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1992年9月16日、社団法人応用物理学会発行の「1992年秋季第53回応用物理学会学術講演会予稿集第2分冊」に発表
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)