説明

不織布及びその製造方法

【課題】熱により親水性が低下する繊維を含むウェブ又は不織布に熱処理を施すことにより容易に得られ、所望の部分の親水性が低下している不織布を提供すること。
【解決手段】本発明の不織布10は、ポリエチレン樹脂を含む鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を含む芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、構成繊維の交点が熱融着した熱融着部を有する。前記芯鞘型複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性複合繊維を含み、前記熱伸長性複合繊維は、不織布10の厚み方向及び/又は平面方向に親水度勾配を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により親水性が低下する繊維を用いて得られる不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着性繊維を含むウエブに熱風を吹き付けて繊維の交点を融着し、不織布を製造する方法が知られている。
また、特許文献1には、静電気的な捕集機能により花粉やハウスダスト等を捕集するフィルターに使用されるエレクトレット不織布、及びその製造に用いられる繊維として、油剤0.2〜0.6重量%が付着してなるポリオレフィン系熱接着繊維からなり、加熱処理による不織布化時及び/又は不織布化後の加熱処理で、不織布の油剤付着量が0.0001〜0.2重量%に減少し、その減少率が60%以上となり得るエレクトレット不織布用ポリオレフィン系熱接着繊維、及び該繊維を用いて製造されたエレクトレット不織布が記載されている。
また、特許文献2には、熱接着性を有するポリオレフィン系複合繊維と、この繊維に付着された油剤とからなる不織布用の繊維において、前記油剤が、特定のポリエチレングリコール脂肪族エステルを主成分とし、これを0.2〜0.6重量%が付着した不織布用のポリオレフィン系複合繊維が記載されている。
【0003】
また、加熱によってその長さが伸びる繊維である熱伸長性繊維を原料とする不織布に関し、本出願人は先に、構成繊維が圧着又は接着されている多数の圧接着部を有するとともに、圧接着部以外の部分において構成繊維どうしの交点が圧接着以外の手段によって接合しており、圧接着部が凹部となっているとともに該凹部間が凸部となっている凹凸形状を少なくとも一方の面に有する立体賦形不織布を提案した(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−339256号公報
【特許文献2】特開平4−316673号公報
【特許文献3】特開2005−350836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の技術によれば、繊維表面に付着させた油剤により、カード工程における静電気の発生及びそれによるトラブルを防止できる一方、その後の熱処理により、該油剤を表面から減少させることができるので、静電気的な捕集機能を発現し易いエレクトレット不織布を得ることができる。
しかし、特許文献1,2に記載においては、実際上使用できる油剤が、ポリエチレングリコールと脂肪酸とのエステルを主成分とするものに限定されており、油剤の選択に関し自由度が低い。また、特許文献1においては、エレクトレット不織布以外への応用も想定していない。また、特許文献2においては、使い捨ておむつの表面材としての使用が記載されているが、撥水性が必要とする使用方法に限定されており、親水勾配を発現させることは想定していない。
特許文献3の不織布は、熱伸長性繊維を原料とすることで、特殊な製造方法を用いなくても、三次元的な凹凸形状を有し、また柔軟であり、低坪量でもあるという利点を有する。しかし、例えば、吸収性物品の表面シートとして用いることを考えた場合には、不織布内に液が残りやすい場合もあった。
【0006】
従って、本発明の課題は、熱処理により繊維表面の一部又はその全体の親水性を低下させることによって得られる、部分的に親水性が低下した不織布、及び親水性が低下された部分を有する不織布の効率的または簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリエチレン樹脂からなる鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、構成繊維の交点が熱融着した熱融着部を有する不織布であって、前記芯鞘型複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維を含み、前記熱伸長性繊維が、前記不織布の厚み方向及び/又は平面方向に親水度勾配を有している不織布(この不織布を不織布NW1ともいう)を提供するものである。
【0008】
不織布NW1における「加熱によってその長さが伸びる熱伸長性繊維」は、加熱によって更に長さが伸びるものに限られず、不織布の状態では、加熱によって既にその長さが伸びた状態となっているものを含む意味である。
【0009】
また、本発明は、ポリエチレン樹脂からなる鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、前記ポリエチレン樹脂の結晶子サイズが100〜200Åである、熱により親水性が低下する繊維を含むウェブ又は不織布に熱処理を施し、該ウェブ又は不織布の一部の親水性を低下させて得られる不織布(この不織布を不織布NW2ともいう)を提供するものである。
不織布NW2は、不織布NW1の好ましい実施形態でもある。
【0010】
また、本発明は、前記熱により親水性が低下する繊維からなるウエブ又は不織布に熱処理を施し、該ウエブ又は不織布の一部の親水性を低下させた不織布を得る不織布の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記熱により親水性が低下する繊維を含むウエブ又は不織布に熱処理を施して、該ウエブ又は不織布の一部の親水性を低下させる不織布の親水性を制御する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不織布は、熱により親水性が低下する繊維を含むウェブ又は不織布に熱処理を施すことにより容易に得られ、所望の部分の親水性が低下している。
本発明の不織布は、部分的に親水性を低下させた部分を有し、その特性を活かして種々の用途に活用することができる。
本発明の不織布の製造方法によれば、親水性を低下させた部分を有する不織布を効率的に製造することができる。
本発明の不織布の親水性を制御する方法によれば、わざわざ繊維を混ぜ合わせたり、2層にしたり、不織布化したあとに別工程での親水化処理を行わなくても、熱処理を施す部位を変えたり、熱風の通過量を制御するだけで、不織布の所望の部分の親水性を低下させることができる。
本発明においては、使用できる親水化剤の選択の幅が広い。
【0012】
本発明の不織布によれば、不織布の親水性を制御することにより、不織布の液残りを低減化することができる。例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、一度吸収された体液が着用者の肌と当接している表面側へ逆流することや、不織布表面上を体液が流れることを防止することができる。よって、本発明の不織布は、例えば吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、該表面シートとして要求される液残り量低減や液流れ量低減といった吸収性能を満足するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、溶融紡糸法に用いられる装置を示す模式図である。
【図2】図2は、芯鞘型複合繊維から熱撥水化繊維を得る工程を示す模式図である。
【図3】図3(a)は、本発明の不織布の一実施形態を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示す不織布の厚み方向に沿う断面の一部拡大図である。
【図4】図4は、熱撥水化繊維を用いて、部分的に撥水化された不織布を製造する工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に用いる、「熱により親水性が低下する繊維」は、ポリエチレン樹脂からなる鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有してなる。
本発明における芯鞘型複合繊維は、同芯タイプの芯鞘型でも偏芯タイプの芯鞘型でも、サイドバイサイド型でも良く、同芯タイプの芯鞘型であることが好ましい。
【0015】
本発明における芯鞘型複合繊維の鞘部を構成する樹脂成分は、ポリエチレン樹脂である。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等を使用できるが、密度が0.935〜0.965g/cm3である高密度ポリエチレンであることが好ましい。また、鞘部を構成する樹脂成分は、ポリエチレン樹脂単独であることが好ましいが、他の樹脂をブレンドすることもできる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。但し、鞘部を構成する樹脂成分は、鞘部の樹脂成分中の50質量%以上が、特に70〜100質量%がポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0016】
鞘部を構成するポリエチレン樹脂は、芯鞘型複合繊維に熱融着性を付与すると共に、熱処理時に後述する親水化剤を取り込む役割を担う。
鞘部を構成するポリエチレン樹脂は、結晶子サイズが100〜200Åであることが好ましい。
結晶子サイズが100Å以上であると、親水化剤が、熱処理時に繊維の表面から内部に取り込まれ易くなり、使用する親水化剤の選択の幅も広い。これにより、該繊維やこれを用いて得られるウエブや不織布等の所望の部位の親水性を容易に低下させることができる。
【0017】
繊維表面の親水度の変化を確実に生じさせる観点から、結晶子サイズは100〜200Åであることが好ましく、115〜180Åであることがより好ましい。
結晶子サイズの上記上限値200Åは、引張強度や破断伸びなどの機械的物性の観点から定めたものである。結晶子サイズが200Å以内であれば、結晶の数が少なくならず、機械的物性が低下しない。
【0018】
〔ポリエチレン樹脂の結晶子サイズの測定方法〕
結晶子サイズは、粉末X線回折法で測定した半価幅から、Sherrerの式により算出されたものである。算出方法は、リガク社製のRINT−2500を用い、PEの面指数(110)のピークについて、付属の結晶子サイズ計算プログラムJADE6.0により算出する。具体的な条件は、線源としてCuKα線(波長0.154nm)、発生電圧および電流を40kV・120mA、掃引速度を10°/分とした。測定時の試料の設置方法は、試料ホルダーのスリットの長さ方向と平行になるように繊維束を張って取り付け、繊維束をX線の入射方向に対して垂直になるようにした。
【0019】
芯部は、芯鞘型複合繊維に強度を付与する部分であり、芯部を構成する樹脂成分としては、ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を特に制限なく用いることができる。芯部を構成する樹脂成分としては、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂等が挙げられる。更に、ポリアミド系重合体や前述した樹脂成分の2種以上の共重合体なども使用することができる。
これらの組み合わせのうち、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることが好ましい。複数種類の樹脂をブレンドして使用することもでき、その場合、芯部の融点は、融点が最も高い樹脂の融点とする。
また、芯部を構成する樹脂成分の融点と鞘部を構成する樹脂成分との融点の差(前者−後者)は、20℃以上であることが、不織布の製造が容易となることから好ましい。融点の差は150℃以内であることが好ましい。
【0020】
結晶子サイズが100〜200Åのポリエチレン樹脂からなる鞘部を有する複合繊維は、例えば、溶融紡糸法によって芯鞘型複合繊維を製造するに際し、鞘部を構成するエチレン樹脂の固化を促進する工夫を行うことによって製造することができる。
図1に示す紡糸装置は、押出機1A,2Aとギアポンプ1B,2Bとからなる二系統の押出装置1,2、及び紡糸口金3を備えている。押出機1A,2A及びギアポンプ1B,2Bによって溶融され且つ計量された各樹脂成分は、紡糸口金3内で合流しノズルから吐出される。紡糸口金3の形状は、目的とする複合繊維の形態に応じて適切なものが選択される。好ましい実施形態においては、芯部を形成する樹脂の周囲を鞘部を形成する樹脂が取り囲んだ状態となって両樹脂成分がノズルから吐出されるようになされており、そのようなノズルが円形の領域内に分散した状態に多数形成されている。紡糸口金3の直下には引取装置4が設置されており、ノズルから吐出された溶融樹脂が所定の速度で下に引き取られる。
【0021】
鞘部のエチレン樹脂の固化を促進する方法としては、例えば、図1に示すように、ノズルから吐出された溶融樹脂に、冷風5を当てて鞘部の固化を促進する方法や、ポリエチレン樹脂に核剤を配合して結晶化を促進する方法等が挙げられる。
冷風5を当てる場合の冷風の温度は、例えば20〜40℃とすることができ、特に20〜25℃とすることが好ましい。
また、風速も高い方がよく、風速は5m/sec以上が好ましく、より好ましくは10m/sec以上、さらに好ましくは20m/sec以上である。
また、溶融紡糸後の比較的短時間後に、水を吹きかけたり、水浴や油浴中を通すということも好ましく用いられる。
【0022】
ポリエチレン樹脂の結晶化を促進する核剤としては、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール等のジアセタール系化合物系核剤、テトラヒドロフタル酸やヘキサヒドロフタル酸等の脂環式多塩基酸のアルキルエステル(好ましくは炭素数8〜22アルキルエステル)系核剤、アジピン酸、セバシン酸やアゼライン酸等の脂肪族多塩基酸のアルキルエステル(好ましくは炭素数8〜22アルキルエステル)系核剤、トリカルバリル酸のトリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)等を好ましく用いることができる。
【0023】
また、冷風5を当てる方法と核剤を配合する方法とを併用することもでき、さらに、それらの一方又は両方の方法に、芯部の樹脂成分の温度を一般的な温度より高める方法や、紡出糸の引き取り速度を従来の一般的な速度より高める方法等を組み合わせることもできる。
尚、紡出糸の引き取り速度は、鞘部の固化を促進させる観点から、1000m/分以上であることが好ましく、1300m/分以上であることがより好ましい。また、紡糸口金3より吐出された繊維を束ねやすくするため、及び引取装置4との摩擦低減のため、ローラー7により潤滑油が繊維表面に付与される。
【0024】
前記芯鞘型複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維(以下、熱伸長性複合繊維ともいう)であることが好ましい。熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して自発的に伸びる繊維が挙げられる。熱伸長性繊維は、不織布中において、加熱によってその長さが伸長した状態、及び/又は、加熱によって伸長可能な状態で存在している。
【0025】
好ましい熱伸長性複合繊維は、芯部を構成する第1樹脂成分と、鞘部を構成する、ポリエチレン樹脂を含む第2樹脂成分とを有しており、第1樹脂成分は、第2樹脂成分より高い融点を有している。第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。鞘部を構成する第2樹脂成分は、繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在していれば良い。
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル重量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、その樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とし、これを融点の代わりに用いる。
【0026】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分の好ましい配向指数は、用いる樹脂により自ずと異なるが、例えばポリプロピレン樹脂の場合は、配向指数が60%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは25%以下である。第1樹脂成分がポリエステルの場合は、配向指数が25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。一方、第2樹脂成分は、その配向指数が5%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは30%以上である。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0027】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、熱伸長性複合繊維における樹脂の複屈折の値をAとし、樹脂の固有複屈折の値をBとしたとき、以下の式(1)で表される。
配向指数(%)=A/B×100 (1)
【0028】
固有複屈折とは、樹脂の高分子鎖が完全に配向した状態での複屈折をいい、その値は例えば「成形加工におけるプラスチック材料」初版、付表 成形加工に用いられる代表的なプラスチック材料(プラスチック成形加工学会編、シグマ出版、1998年2月10日発行)に記載されている。
【0029】
熱伸長性複合繊維における複屈折は、干渉顕微鏡に偏光板を装着し、繊維軸に対して平行方向及び垂直方向の偏光下で測定する。浸漬液としてはCargille社製の標準屈折液を使用する。浸漬液の屈折率はアッベ屈折計によって測定する。干渉顕微鏡により得られる複合繊維の干渉縞像から、以下の文献に記載の算出方法で繊維軸に対し平行及び垂直方向の屈折率を求め、両者の差である複屈折を算出する。
「芯鞘型複合繊維の高速紡糸における繊維構造形成」第408頁(繊維学会誌、Vol.51、No.9、1995年)
【0030】
熱伸長性複合繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。そして熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点(融点を持たない樹脂の場合は軟化点)より10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%であることが好ましく、より好ましくは3〜20%、更に好ましくは5.0〜20%である。このような熱伸長率の繊維を含む不織布は、該繊維の伸長によって嵩高くなり、あるいは立体的な外観を呈する。例えば不織布10の表面の凹凸形状が顕著なものになる。
【0031】
繊維の熱伸長率は次の方法で測定される。セイコーインスツルメンツ(株)製の熱機械的分析装置TMA/SS6000を用いる。試料としては、繊維長さが10mm以上の繊維を繊維長さ10mmあたりの合計重量が0.5mgとなるように複数本採取したものを用意し、その複数本の繊維を平行に並べた後、チャック間距離10mmで装置に装着する。測定開始温度を25℃とし、0.73mN/dtexの一定荷重を負荷した状態で5℃/minの昇温速度で昇温させる。その際の繊維の伸び量を測定し、第2樹脂成分の融点(融点を持たない樹脂の場合は軟化点)より10℃高い温度での伸び量X(mm)読み取り、次式により繊維の熱伸長率を算出する。
繊維の熱伸長率(%)=(X/10)×100
熱伸長率を前記の温度で測定する理由は、繊維の交点を熱融着させて不織布10を製造する場合には、第2樹脂成分の融点又は軟化点以上で、かつそれらより10℃程度高い温度までの範囲で製造するのが通常だからである。
【0032】
〔不織布から取り出した繊維の熱伸長性評価〕
不織布から繊維を取り出して繊維の熱伸長性を判断する場合は、以下の方法を用いる。まず、不織布の図3(b)に示す各部位に位置する繊維をそれぞれ5本採取する。採取する繊維の長さは1mm以上5mm以下とする。採取した繊維をプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX−900、レンズVH−Z20Rを用い、50〜100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行う。前記、測定で得られた長さを「不織布から採取した繊維の全長」Yとする。全長を測定した繊維を、エスアイアイナノテクノロジー株式会社製のDSC6200用の試料容器(品名:ロボット用容器52−023P、15μL、アルミ製)に入れる。前記繊維の入った容器を、予め第1樹脂成分の融点より10℃低い温度にセットされたDSC6200の加熱炉中の試料置き場に置く。DSC6200の試料置き場直下に設置された熱電対で測定された温度(計測ソフトウェア中の表示名:試料温度)が第1樹脂成分の融点より10℃低い温度±1℃の範囲になってから、60sec間加熱し、その後素早く取り出す。加熱処理後の繊維をDSCの試料容器から取り出しプレパラートに挟み、挟んだ繊維の全長を測定する。測定には、KEYENCE製のマイクロスコープVHX−900、レンズVH−Z20Rを用いた。測定は50〜100倍の倍率で前記繊維を観察し、その観察像に対して装置に組み込まれた計測ツールを用いて行った。前記、測定で得られた長さを「加熱処理後の繊維の全長」Zとする。熱伸長率(%)は以下の式から算出する。
熱伸長率(%)=(Z−Y)÷Y×100 [%]
この値を不織布から取り出した繊維の熱伸長率と定義する。この熱伸長率が0より大きい場合、繊維が熱伸長性繊維であると判断できる。
【0033】
熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成するためには、例えば融点の異なる第1樹脂成分及び第2樹脂成分を用い、引き取り速度2000m/分未満の低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、該複合繊維に対して加熱処理及び/又は捲縮処理を行えばよい。これに加えて、延伸処理を行わないようにすればよい。
【0034】
捲縮処理としては、機械捲縮を行うことが簡便である。機械捲縮には二次元状及び三次元状の態様がある。また、偏芯タイプの芯鞘型複合繊維やサイド・バイ・サイド型複合繊維に見られる三次元の顕在捲縮などがある。本発明においてはいずれの態様の捲縮を行ってもよい。捲縮処理には加熱を伴う場合がある。また、捲縮処理後に加熱処理を行ってもよい。更に、捲縮処理後の加熱処理に加え、捲縮処理前に別途加熱処理を行ってもよい。あるいは、捲縮処理を行わずに別途加熱処理を行ってもよい。
【0035】
捲縮処理に際しては繊維が多少引き伸ばされる場合があるが、そのような引き延ばしは本発明にいう延伸処理には含まれない。本発明にいう延伸処理とは、未延伸糸に対して通常行われる延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作をいう。
【0036】
前記の加熱処理の条件は、複合繊維を構成する第1及び第2樹脂成分の種類に応じて適切な条件が選択される。加熱温度は、第2樹脂成分の融点より低い温度である。例えば熱伸長性複合繊維が芯鞘型であり、芯成分がポリプロピレン及び/又はポリエステルで鞘成分が高密度ポリエチレンである場合、加熱温度は50〜120℃、特に70〜115℃であることが好ましく、加熱時間は10〜1800秒、特に20〜1200秒であることが好ましい。加熱方法としては、熱風の吹き付け、赤外線の照射などが挙げられる。この加熱処理は前述のとおり、捲縮処理の後に行うことができる。
【0037】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(重量比)は10:90〜90:10%、特に20:80〜80:20%、とりわけ50:50〜70:30%であることが好ましい。この範囲内であれば繊維の力学特性が十分となり、実用に耐え得る繊維となる。また融着成分の量が十分となり、繊維どうしの融着が十分となる。また、伸長性を損なうことなく、カード機により製造される不織布の原料として用いた場合のカード通過性を良好にする観点から、芯となる第1樹脂成分の比率が大きい方が好ましい。
【0038】
熱伸長性複合繊維の繊維長は、不織布の製造方法に応じて適切な長さのものが用いられる。不織布を例えば後述するようにカード法で製造する場合には、繊維長を30〜70mm程度とすることが好ましい。次に述べる熱融着性複合繊維の繊維長についても同様である。
【0039】
熱伸長性複合繊維の繊維径は、不織布の具体的な用途に応じ適切に選択される。不織布を吸収性物品の表面シート等の吸収性物品の構成部材として用いる場合には、10〜35μm、特に15〜30μmのものを用いることが好ましい。次に述べる熱融着性複合繊維の繊維径についても同様である。なお熱伸長性複合繊維は、伸長によってその繊維径が小さくなるところ、前記の繊維径とは、不織布を実際に使用するときの繊維径のことである。
【0040】
熱伸長性複合繊維としては、上述の熱伸長性複合繊維のほかに、特許第4131852号公報、特開2005−350836号公報、特開2007−303035号公報、特開2007−204899号公報、特開2007−204901号公報及び特開2007−204902号公報等に記載の繊維を用いることもできる。
【0041】
前記親水化剤は、前記芯鞘型複合繊維の表面に付着しており、繊維の表面の親水度を、親水化剤を付着させる前に比して高めるものである。
親水化剤としては、当該技術分野において用いられているものと同様のものを用いることができる。そのような親水化剤としては、各種の界面活性剤が典型的なものとして挙げられる。
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性及びノニオン性の界面活性剤等を用いることができる。
アニオン性の界面活性剤の例としては、アルキルホスフェートナトリウム塩、アルキルエーテルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホネートナトリウム塩、アルキルスルホネートナトリウム塩、アルキルサルフェートナトリウム塩、セカンダリーアルキルサルフェートナトリウム塩等が挙げられる(いずれのアルキルも炭素数6〜22、特に8〜22が好ましい)。これらは、ナトリウム塩に代えてカリウム塩等の他のアルカリ金属塩を用いることもできる。
カチオン性の界面活性剤の例としては、アルキル(又はアルケニル)トリメチルアンモニウムハライド、ジアルキル(又はアルケニル)ジメチルアンモニウムハライド、アルキル(又はアルケニル)ピリジニウムハライド等が挙げられ、これらの化合物は、炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するものが好ましい。上記ハライド化合物におけるハロゲンとしては、塩素、臭素等が挙げられる。
【0042】
両性イオン性の界面活性剤の例としては、アルキル(炭素数1〜30)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)アミドアルキル(炭素数1〜4)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)ジヒドロキシアルキル(炭素数1〜30)ベタイン、スルフォベタイン型両性界面活性剤等のベタイン型両性イオン性界面活性剤や、アラニン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノプロピオン酸型、アルキル(炭素数1〜30)イミノジプロピオン酸型等]両性界面活性剤、グリシン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノ酢酸型等]両性界面活性剤などのアミノ酸型両性界面活性剤、アルキル(炭素数1〜30)タウリン型などのアミノスルホン酸型両性界面活性剤が挙げられる。
ノニオン性の界面活性剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリ(好ましくはn=2〜10)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル(いずれも好ましくは脂肪酸の炭素数8〜22)、前記多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物(好ましくは付加モル数2〜20モル)、ポリオキシアルキレン(付加モル数2〜20)アルキル(炭素数8〜22)アミド、ポリオキシアルキレン(付加モル数2〜20)アルキル(炭素数8〜22)エーテル、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等が挙げられる。
【0043】
尚、ノニオン性の界面活性剤のなかでも、ポリエチレングリコールや、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルは、使用は可能であるが、例えばこれらの界面活性剤が表面に付着した前記芯鞘型複合繊維を用いて不織布を製造した場合、製造後の保存時に不織布に静電気が発生し、空気中の埃を引きつけるのを防止する観点からは、これら以外を使用することが好ましく、また、生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材として前記不織布を用いたときに、排泄液によって界面活性剤が繊維表面から脱落しにくいようにし、排泄液の吸収性(吸収速度)の持続性を高める点では、これら以外を使用することが好ましい。
【0044】
繊維の親水性を高める点、及び、熱により親水性を低下させる目的の上で、好ましい界面活性剤、または界面活性剤の組合せとしては、アルキルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびアルキルベタイン、アルキルホスフェートカリウム塩およびアルキルスルホネートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよびポリグリセリンモノアルキレート、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびステアリルリン酸エステルカリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびポリグリセリンモノアルキレート、アルキルスルホネートナトリウム塩およびステアリルリン酸エステルカリウム塩、アルキルエーテルホスフェートカリウム塩およびポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーンおよびジアルキルスルホサクシネート、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、ソルビタン脂肪酸エステルおよびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよびソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーンおよびポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーンおよびポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーンおよびソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンアルキルエーテル、等が挙げられる。これら好ましい界面活性剤及び好ましい界面活性剤の組み合わせは、これらの界面活性剤が含まれていればよく、さらに他の界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0045】
親水化剤の付着量は、疎水化しない部分の親水度を高める観点から、芯鞘型複合繊維の質量に対して0.1〜0.6質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5質量%である。
親水化剤を芯鞘型複合繊維の表面に付着させる方法としては、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、スプレーによる塗布、スロットコーターによる塗布、ロール転写による塗布、親水性油剤への浸漬、等が挙げられる。これらの処理は、ウエブ化する前の芯鞘型複合繊維に対して行っても良いし、芯鞘型複合繊維を各種の方法でウエブ化した後に行っても良い。
図2には、図1に示す紡糸装置によって得られた芯鞘型複合繊維のトウ状集合体を、それを収容していた収容部6から引き出し、ローラー7によって付着されていた潤滑油を洗浄装置61により洗い流して除去した後、親水化剤塗布装置62を通して、芯鞘型複合繊維の表面に親水化剤を付着させる様子が模式的に示されている。
親水化剤が表面に付着した芯鞘型複合繊維は、熱風送風式の乾燥機63中において、エチレン樹脂の融点より十分に低い温度(例えば120℃以下)で乾燥された後、捲縮装置64で捲縮加工を施され、次いで、切断装置65で所定の長さにカットされて、短繊維集合体が得られる。
【0046】
本発明で用いる「熱により親水性が低下する繊維」は、ウエブや不織布等のシート材の製造等に好ましく用いられる。また、その製造したシート材に、積層体の一部の層を構成させることもできる。そして、そのシート材の製造工程や、シート材や積層体の製造後に熱処理することで、所望の部分の親水性を低下させることができる。親水性の低下は、シート材の全体の親水性を低下させても良いし、シート材の一部を低下させても良い。繊維の太さ(繊度)は、それを用いて製造するもの、例えば不織布等の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択されるが、柔軟で肌触り等の良い不織布等を製造する観点からは、1.0〜10.0dtexが好ましく、2.0〜8.0dtexであることがより好ましい。
【0047】
図3(a)及び図3(b)は、本発明の不織布の一実施形態である不織布10を示す図であり、上述のようにして得られる「熱により親水性が低下する繊維」からウエブを形成した後、該ウエブの一部の親水性を低下させて得られたものである。
熱により親水性が低下する繊維からウエブを得る方法としては、カード法、エアレイド法、スパンボンド法等の各種公知の方法を用いることができるが、図4に示すように、カード機11を用いる方法(カード法)が好ましい。
図3(a)及び図3(b)に示す不織布は、図4に示すように、熱により親水性が低下する繊維の短繊維集合体を原材料として、カード機11を用いてウエブ12を形成し、該ウエブ12を一対のロール14,15を備えたエンボス装置13に導入してエンボス加工を行い、エンボス加工後のウエブ16に、エアースルー方式による熱風処理装置17により熱処理を施して得られたものである。
エンボス加工に用いた一対のロールは、一方は、格子状パターンのエンボス用凸部が周面に形成されたエンボスロール14であり、他方は、平滑な周面を有し、該エンボスロールに対向配置されたフラットロール15である。エンボス加工は、ウエブを、エンボスロール14の凸部とフラットロール15の平滑な周面との間で加圧し圧縮することにより行う。これにより、エンボス加工により形成された厚みの薄い部分(エンボス部)18と、それ以外の厚みの厚い部分19とを有する不織布が得られる。
【0048】
本発明の不織布の製造方法の第1実施形態においては、このようにして不織布10を製造するときのエンボス加工の際に、ウエブ12に加える温度を、熱により親水性が低下する繊維の前記鞘部を構成するポリエチレン樹脂の融点以下に抑えておき、それに続く、熱風処理時に、該ポリエチレン樹脂の融点以上で芯部の樹脂成分の融点以下の温度を加える。このエンボス加工時には、圧縮によりウエブのエンボス部に近いほど通気性が低下する一方、該エンボス部を構成するポリエチレン樹脂の溶融は圧力による溶融のみで済み、最低限に抑えられる。他方、熱風処理時には、主として、エンボスにより圧密化された部分(エンボス部)は、熱風の通過量がほとんど無いか、あっても少なく、エンボス部以外の厚みの厚い部分ほど熱風が通過し易いため、親水性が低下する。
これにより、エンボス加工により形成された厚みの薄い部分18及び/又はその周辺部が親水部となり、それ以外の厚みの厚い部分19に近くなるに従い、相対的に疎水性になり、最も厚みの厚い部分近傍が極大の疎水性を示す部分となっている不織布が得られる。また、前記熱風処理により、エンボス部以外の部分の鞘部の溶融が進行し、繊維の交点が熱融着して、強度のある不織布が得られる。
【0049】
図3(a)及び図3(b)に示す不織布10は、単層構造をしている。不織布10は、その片面が凹凸形状を有する凹凸面10bとなっており、他面が、平坦であるか又は前記凹凸面に比して凹凸の程度が小さい平坦面10aとなっている。
不織布10における厚みの厚い部分19と厚みの薄い部分18とは、不織布10の凹凸面10bに、凸部119と凹部118を形成している。凹部118は、互いに平行に延びる第1の線状凹部118aと、互いに平行に延びる第2の線状凹部118bとを有しており、第1の線状凹部118aと第2の線状凹部118bとが所定の角度をなして交差している。凸部119は、凹部118に囲まれた菱形状の閉鎖領域内に形成されている。
【0050】
厚みの厚い部分の頂部P1は、厚みの厚い部分19によって不織布の凹凸面10bに形成される凸部119の頂部P1である。厚みの厚い部分19の頂部P1に比して、厚みの薄い部分18又はその近傍部P3の親水性が高いことが、凹凸面10b側から液が入った場合に、平坦面10a側に液が抜けやすく、不織布10中の液残りが少なくなる点から好ましい。また、厚みの厚い部分19の頂部P1から厚みの薄い部分(エンボス部)18又はその近傍部P3に向かって漸次親水度が高くなっていることが好ましい。
【0051】
不織布10の凹凸面10bは、エンボス加工時にエンボスロール14側に向けられ、且つエア−スルー方式で熱風処理を行う際に、ネット面(通気性の支持体)とは反対側に向けられ、熱風を直接吹き付ける側の面である。従って、不織布の構成繊維に熱伸長性複合繊維を用いた場合、その熱伸長性複合繊維は、平坦面10aよりも凹凸面10bにおいて大きく伸長する。そのため、熱伸長性複合繊維は、凹凸面10bの表面における繊維径より、平坦面10aの表面における繊維径が大きくなる。また、厚みの厚い部分19における親水度は、凹凸面10b側が平坦面10a側に比して低くなる。
【0052】
第1実施形態の不織布の製造方法において、エンボス加工時にウエブに加える温度は、エンボス部及び/又はその近傍部(周辺部)における親水度の変化を抑制する観点から、前記鞘部を構成するポリエチレン樹脂の融点より20℃低い温度以上で、かつ芯部を構成する樹脂成分の融点未満であることが好ましい。他方、熱風処理時に加える温度は、親水度の変化を確実に生じさせる観点から、前記ポリエチレン樹脂の融点より10℃低い温度以上、特に前記ポリエチレン樹脂の融点以上、さらには、前記ポリエチレン樹脂の融点+5℃以上であることが好ましい。
本実施形態の方法によれば、複雑な装置や特別な装置を要さずに、親水部と疎水部を有する不織布を製造することができ、得られた不織布は、例えば、生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材として用いたときに、肌触りがよく、表面に液残りが生じにくく、表面に液流れが生じにくく、良好な吸収性能を示す。
【0053】
本発明の不織布の製造方法の他の実施形態(第2実施形態)においては、本発明の熱により親水性が低下する繊維から任意の方法(例えば、カード法やエアレイド法、スパンボンド法等)によりウエブを形成した後又はそのウエブを不織布化した後、該ウエブ又は該不織布の片面のみに熱処理を施し、一面側が相対的に親水性で、他面側に向かうに従い徐々に相対的に疎水性の、厚み方向に多段あるいは、無段階に親水度勾配がある不織布を得る。
片面のみに熱処理を施す方法としては、搬送中のウエブ又は不織布の片面のみに、鞘部のポリエチレン樹脂の融点以上の温度に加熱したロールを接触させる方法や、搬送中のウエブ又は不織布の裏面側に熱風が貫通しないように工夫した上で、該ウエブ又は不織布の表面側に、ポリエチレン樹脂の融点以上の温度の熱風を吹き付ける方法等が挙げられる。この熱処理の温度も、親水度の変化を確実に生じさせる観点から、前記ポリエチレン樹脂の融点より10度低い温度以上、特に前記ポリエチレン樹脂の融点以上、さらには、前記ポリエチレン樹脂の融点+5℃以上であることが好ましい。
ウエブの不織布化方法としては、スパンレース、ニードルパンチ、ケミカルボンド、ドット状のエンボス加工等の各種公知の不織布化方法を採用できる。
【0054】
本実施形態で得られる一面が相対的に親水性、他面が相対的に疎水性の不織布によれば、例えば、疎水性の面を肌側に向けて、生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材として用いたときには、肌に接した疎水性面には排泄液が残りにくいため、太い繊維を用いるときの、風合いの悪化および繊維の構成本数が減ることによる隠蔽性の悪化を招くとこなく、風合い、白さも兼ね備えて、使用時のべたつき感が低減される。
【0055】
本発明における熱により親水性が低下する繊維又はこれを含むウエブ等は、親水度が、熱処理により低下する。本発明の不織布における親水部や親水性の部分は、熱処理により親水度を低下させた部分との比較において、親水度が高ければ良い。また、疎水部や疎水性の部分は、熱処理により親水度を低下させる前、あるいは親水度を低下させない部分との比較において親水度が低下した部分であれば良い。親水性の低下は、熱処理前との比較において親水度を低下させる処理であれば良い。親水性の低下は接触角の増大と同義である。但し、親水度を低下させる前のウエブや不織布の親水度(完成した不織布の親水部等も同様)は、繊維に対する水の接触角が40〜70度であることが好ましく、60〜70度であることがより好ましい。他方、親水度を低下させた部分(完成した不織布の疎水部等も同様)は、繊維に対する水の接触角が60〜90度であることが好ましく、70〜85度であることがより好ましい。ここでいう親水性が低下したとは、接触角の差が、2度以上であることをいい、5度以上であることが好ましく、10度以上であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明の部分的に親水性を低下させた不織布は、2次加工で立体的にしてもよく、さらに、一部分だけ、親水化処理を行ったりなどの追加工は適宜行っても良い。
【0057】
〔繊維に対する水の接触角の測定方法〕
繊維に対する水の接触角は次の方法で測定される。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA−Jを用いる。接触角測定には、蒸留水を用いる。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC−25)から吐出される液量を20ピコリットルに設定して、水滴を、繊維の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に、画像が録画される。録画された映像において、繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。
なお、測定用サンプル(不織布から取り出して得られる繊維)は、図3(b)に示す凸部の頂部P1、中腹部P2、凹部近傍部P3及び裏面(平坦面)10aにおける凸部対応部位Qに位置する繊維を最表層から繊維長1mmで裁断し、該繊維を接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持し、該繊維1本につき異なる2箇所の接触角を測定する。前述の各部位において、N=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を各々の接触角と定義する。
【0058】
本発明に係る「熱により親水性が低下する繊維」は、ウエブや不織布等のシート材等を形成し、その一部に熱処理を施すことにより、複雑な装置を要することなく、効率的に一部が親水性、他の一部が疎水性のシート材等を製造することができる。また、芯鞘型複合繊維の表面に付着させる親水化剤もポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル等に限定されず、種々の親水化剤を用いることができる。
本発明に係る不織布は、複雑な装置を要することなく、効率的に製造することができると共に、熱伸長性複合繊維の親水度ないし疎水度が、不織布の一の部位と他の部位とで異なり、厚み方向及び/又は平面方向に親水度勾配を有していることを活かして、吸収性物品の表面材等の種々の用途に活用することができる。
本発明に係る不織布の製造方法によれば、複雑な装置を要することなく、効率的に、一部が親水性、他の一部が疎水性のウエブや不織布を製造することができる。また、熱処理を施す部分を適宜に変更して疎水部が所望のパターンで形成された不織布を製造することができる。
【0059】
本発明に係る不織布は、一部が親水性、他の一部が疎水性又は親水性低下部等、親水度勾配を有するであること等を活かして、種々の分野に適用できる。例えば生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ、失禁パッドなどの身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、あるいは対人用清拭シート、スキンケア用シート、さらには対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。
【0060】
不織布の製造に用いるウエブや不織布の坪量は、目的とする不織布の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択される。最終的に得られる不織布の坪量は、10〜80g/m2、特に15〜60g/m2であることが好ましい。
【0061】
不織布10は、これを例えば吸収性物品の表面シートとして用いる場合には、その坪量が10〜80g/m2、特に15〜60g/m2であることが好ましい。同様の用途に用いる場合、不織布10における凸部119(厚みの厚い部分19)の厚みは、熱風による嵩回復後の状態において0.5〜3mm、特に0.7〜3mmであることが好ましい。一方、凹部118(厚みの薄い部分18)の厚みは0.01〜0.4、特に0.02〜0.2mmであることが好ましい。なお凹部118の厚みは、熱風の吹き付けの前後において実質的に変化はない。凸部119及び凹部118の厚みは、不織布10の縦断面を観察することによって測定される。まず、不織布を100mm×100mmの大きさに裁断し測定片を採取する。その測定片の上に12.5g(直径56.4mm)のプレートを載置し、49Paの荷重を加える。この状態下に不織布の縦断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)で観察し、凸部119及び凹部118の厚みを測定する。なお、不織布に凸部(厚みの厚い部分)及び凹部(厚みの薄い部分)が形成されている場合、「不織布の厚み」とは、凸部(厚みの厚い部分)の厚みのことをいう。
【0062】
不織布10における凹部118と凸部119との面積比は、エンボス化率(エンボス面積率、すなわち不織布10全体に対する凹部の面積の合計の比率)で表され、不織布10の嵩高感や強度に影響を与える。これらの観点から、不織布10におけるエンボス化率は、5〜35%、特に10〜25%であることが好ましい。エンボス化率は、以下の方法によって測定される。まずマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−900)を用いて不織布10の表面拡大写真を得、この表面拡大写真にスケールを合わせ、測定部の全体面積Tにおける、エンボス部分の寸法を測定し、エンボス部面積Uを算出する。
エンボス化率は、計算式(U/T)×100、によって算出することができる。
【0063】
身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。本発明に係る不織布を表面シートとして用いた場合の吸収体及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限無く用いることができる。
例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。吸収性物品は更に、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0064】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されない。
例えば、不織布にエンボス部を形成する場合のエンボス部の形成パターンは、格子状に代えて、多列のストライプ状、ドット状、市松模様状、スパイラル状等任意のパターンとすることができる。ドット状とする場合の個々の点の形状としては、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、ハート型、任意の形状とすることができる。また正方形若しくは長方形の格子状や、亀甲模様をなす形状を採用してもよい。
また、図4に示す不織布の製造方法において、エンボス加工を施す際にエンボスロール及び/又はフラットロールを加熱し、エンボス部及び/又はその周辺の親水性が低下した不織布を製造することもできる。
また、本発明の不織布を、おむつやナプキン、ワイパー、その他の製品に用いる場合において、製造の前、製造の途中、及び製品の形にした後のいずれの時点でも、所望の部分に熱を加えて、本発明の不織布の一部または全部について親水性を低下させることができ、または撥水性にすることもできる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0066】
〔実施例1〕
(1)熱で親水性が低下する繊維の製造
表1に示した条件にて溶融紡糸を行い同芯タイプの芯鞘型複合繊維を得た。得られた複合繊維に延伸処理は施さず、次いで、表1に示す種類の親水化剤の水溶液に浸漬して、表1に示す種類及び量の親水化剤を付着させた。ここでいう延伸処理は、溶融紡糸後に得られる未延伸糸に対して通常行われる2〜6倍程度の延伸操作を意味する。そして、機械捲縮を施した後、切断して短繊維(繊維長51mm)の繊維を得た。紡糸の際には、鞘部を構成する樹脂の固化促進のために、紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂に、20℃の冷風を吹き付けた。
得られた繊維について、前述の方法で鞘部の構成樹脂(ポリエチレン樹脂)の結晶子サイズを測定した。
【0067】
(2)不織布の製造
得られた繊維を用い、図4に示す方法により不織布を製造した。具体的な製造方法は次のとおりである。先ず、カード機を用いて形成したウエブにエンボス加工を施した。エンボス加工は、格子状のエンボス部が形成され且つエンボス部(圧縮部)の面積率が22%となるように行った。エンボス加工の加工温度は、表1に示す通り110℃である。次にエアスルー加工を行った。エアスルー加工は、エンボス加工におけるエンボス面側から熱風を吹き付ける熱処理を1回行った。エアスルー加工の熱処理温度は、表1に示す通り136℃とした。
得られた不織布は、厚みの薄い部分(エンボス部)18とそれ以外の厚みの厚い部分19とを有し、片面が凸部119と凹部118とを有する起伏の大きい凹凸面10b、もう片面が、ほぼ平坦な平坦面10aとなっていた。
【0068】
〔実施例2〜24,比較例1〜6〕
表1に示す繊維を用い、かつ同表に示す条件を用いた。これ以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0069】
実施例1〜24において得られた不織布は、構成繊維どうしの交点がエアースルー方式で熱融着していた。また、実施例1〜24で得られた不織布に含まれる繊維について、先に述べた方法で熱伸長性の有無を判断したところ、熱伸長性を有する繊維が含まれていることが確認された。
【0070】
表1及び表2中に示した親水化剤A〜Sは、下記の通りである。
〔親水化剤〕
A:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)およびステアリルベタイン(花王株式会社製、アンヒトール86B)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
B:アルキルホスフェートジカリウム塩(花王株式会社製、グリッパー4131の水酸化カリウム中和物)を100重量%の親水化剤
C:アルキルホスフェートジカリウム塩(花王株式会社製、グリッパー4131の水酸化カリウム中和物)およびアルキルスルホネートナトリウム塩(花王株式会社製、ラテムルPS)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
D:ポリオキシエチレンアルキルアミン(花王株式会社製、アミート302)およびジグリセリンラウレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
E:ステアリルエーテルホスフェートジカリウム塩(東邦化学工業社製、フォスファノールRL−210の水酸化カリウム中和物)およびジグリセリンラウリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
F:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)およびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩(花王株式会社製、ペレックスOT−P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
G:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−6012)およびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩(花王株式会社製、ペレックスOT−P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
H:ジグリセリンステアリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−71−D)およびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩(花王株式会社製、ペレックスOT−P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
I:ソルビタンモノパルミチン酸エステル(花王株式会社製、レオドールSP−P10)およびジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩(花王株式会社製、ペレックスOT−P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
J:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)およびジグリセリンラウリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
K:ポリオキシエチレン(付加モル数2)ステアリルアミド(川研ファインケミカル株式会社製、アミゾールSDE)およびソルビタンモノラウリン酸エステル(花王株式会社製、レオドールSP−L10)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
L:ポリオキシエチレンアルキルアミン(花王株式会社製、アミート302)およびソルビタンモノラウリン酸エステル(花王株式会社製、レオドールSP−L10)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
M:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−6004)およびポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン102KG)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
N:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−6004)およびジグリセリンラウリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
O:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−6004)およびソルビタンモノラウリン酸エステル花王株式会社製、レオドールSP−L10)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
P:ソルビタンモノラウリン酸エステル(花王株式会社製、レオドールSP−L10)およびポリオキシエチレンステアリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン306P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
Q:ジグリセリンステアリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−71−D)およびソルビタンモノラウリン酸エステル(花王株式会社製、レオドールSP−L10)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
R:ジグリセリンステアリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−71−D)およびポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン102KG)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
S:ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(花王株式会社製、コータミンD86P)とポリオキシエチレンステアリルエーテル(花王株式会社製、エマルゲン306P)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
【0071】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた不織布について、前述した方法により、繊維の接触角を測定した。また、後述する方法により、液残り量及び液流れ距離を測定した。それらの結果を表1及び表2に示した。
【0072】
表1,2中の「接触角」の欄の「凸部頂部P1」は、凹凸面10bの凸部119の頂部P1(厚みの厚い部分の頂部)、「凹部近傍部P3」は、エンボス部(厚みの薄い部分)の縁から頂部P1に向かって1mm内側(厚みの薄い部分の近傍部)の部位、「中腹部P2」は、P1とP3の中間部位、裏面Qは、平坦面10aにおける凸部の頂部に対応する部位における繊維の蒸留水との接触角の測定結果である。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
〔液残り量〕
花王株式会社の市販の生理用ナプキン(商品名「ロリエさらさらクッション肌きれい吸収」)から表面シートを取り除き、その代わりに、実施例及び比較例の各不織布を積層し、その周囲を固定して評価用の生理用ナプキンを得た。
前記生理用ナプキンの表面上に、内径1cmの透過孔を有するアクリル板を重ねて、該ナプキンに100Paの一定荷重を掛ける。斯かる荷重下において、該アクリル板の透過孔から脱繊維馬血3.0gを流し込む。前記馬血を流し込んでから60秒後にアクリル板を取り除き、次いで、該不織布の重量(W2)を測定し、予め測定しておいた、馬血を流し込む前の不織布の重量(W1)との差(W2−W1)を算出する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液残り量(mg)とする。液残り量は、装着者の肌がどの程度濡れるかの指標となるものであり、液残り量が少ないほど程、良い結果である。
【0076】
〔液流れ距離〕
前記〔液残り量〕と同様にして、生理用ナプキンを得る。試験装置は、ナプキンの載置面が水平面に対して45°傾斜している載置部を有している。この載置部に、表面シートが上方を向くようにナプキンを載置する。試験液として、着色させた蒸留水を1g/10secの速度でナプキンに滴下させる。初めに不織布が濡れた地点から試験液が吸収体に初めて吸収された地点までの距離を測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液流れ距離(mm)とする。液流れ距離は、液が生理用ナプキンに吸収されずに装着者の肌にふれてしまう量の指標となるものであり、液流れ距離が短いほど高評価となる。なお、液流れ距離が100mmを超えたものに関しては、>100と表記する。
【0077】
表1及び2に示す結果から、実施例で用いた不織布は、鞘部ポリエチレンの結晶子サイズが大きく、熱処理によって親水度が低下したことが判る。
また、実施例で得られる不織布は、一部の親水度が低下することによってできる親水性が低下した部分によって親水勾配が生じ、液流れが小さく、液残りが少なくなり、吸収性に優れていることが分る。
【符号の説明】
【0078】
1,2 押出装置
1A,2A 押出機
1B,2B ギアポンプ
3 紡糸口金
4 引取装置
10 不織布
11 カード機
12 ウエブ
13 エンボス装置
14 エンボスロール
15 フラットロール
17 熱風処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂を含む鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を含む芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、構成繊維の交点が熱融着した熱融着部を有する不織布であって、
前記芯鞘型複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる熱伸長性複合繊維を含み、
前記熱伸長性複合繊維が、前記不織布の厚み方向及び/又は平面方向に親水度勾配を有している不織布。
【請求項2】
エンボス加工により形成された厚みの薄い部分と、それ以外の厚みの厚い部分とを有し、前記厚みの薄い部分又はその近傍部が親水性であり、前記厚みの厚い部分の頂部は、前記厚みの薄い部分又はその近傍部よりも親水性が低くなっている、請求項1記載の不織布。
【請求項3】
前記親水化剤が、ポリオキシエチレンアルキルアミド及び/又はアルキルベタインを含む、請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
前記親水化剤が、ポリオキシエチレンアルキルアミド及びアルキルベタインを含む、請求項3に記載の不織布。
【請求項5】
前記厚みの厚い部分は、前記厚みの薄い部分又はその近傍部に比べて、前記ポリオキシエチレンアルキルアミド及び/又はアルキルベタインの存在比率が高い、請求項3又は4記載の不織布。
【請求項6】
ポリエチレン樹脂を含む鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を含む芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、前記ポリエチレン樹脂の結晶子サイズが100〜200Åである、熱により親水性が低下する繊維
を含むウェブ又は不織布に熱処理を施し、該ウェブ又は不織布の一部の親水性を低下させて得られる不織布。
【請求項7】
前記親水化剤が、アニオン性、カチオン性及び両性イオン性の界面活性剤からなる群から選択される一種以上である、請求項6記載の不織布。
【請求項8】
エンボス加工により形成された厚みの薄い部分と、それ以外の厚みの厚い部分とを有し、厚みの厚い部分が親水性低下部、厚みの薄い部分及び/又はその近傍部が親水部となっている、請求項6又は7記載の不織布。
【請求項9】
一面が親水性、他面がそれよりも疎水性となっている、請求項8記載の不織布。
【請求項10】
ポリエチレン樹脂からなる鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、前記ポリエチレン樹脂の結晶子サイズが100〜200Åである、熱により親水性が低下する繊維
を含むウェブ又は不織布に熱処理を施し、該ウエブ又は不織布の一部の親水性を低下させた不織布を得る、不織布の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理の温度が、前記鞘部を構成する前記ポリエチレン樹脂の融点より10℃低い温度から前記芯部を構成する前記樹脂成分の融点までの範囲である、請求項5記載の不織布の製造方法。
【請求項12】
ポリエチレン樹脂からなる鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維と、該芯鞘型複合繊維の表面に付着している親水化剤とを有し、前記ポリエチレン樹脂の結晶子サイズが100〜200Åである、熱により親水性が低下する繊維
を含むウェブ又は不織布に熱処理を施して、該ウェブ又は不織布の一部の親水性を低下させる不織布の親水性を制御する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−168715(P2010−168715A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287004(P2009−287004)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】