説明

不良要因抽出装置、不良要因抽出方法、プログラム、および記録媒体

【課題】不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる不良要因抽出方法を提供すること。
【解決手段】製造品毎に、各部分製造工程を実行した製造装置を示す情報を含んだプロセスデータと、検査データとを関連付けて、データセットとして記憶する(S1)。いずれか一の部分製造工程が指定されたとき(S4)、そのデータセットに基づいて、製造装置別に、それぞれの製造装置によって処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出する(S5)。そのデータセットに対して、製造装置別の統計量を目標に一致させる演算を行って、そのデータセットのデータ数を維持しながら、製造装置に依存した検査データのばらつきへの影響をデータセットから排除する(S6,S7)。その演算を受けたデータセットを用いて、不良要因を抽出する(S2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製造工程において製品不良等の原因となる工程や設備その他の不良要因を抽出する不良要因抽出装置および不良要因抽出方法に関する。
【0002】
また、この発明は、その不良要因抽出方法を実行するためのコンピュータ読み取り可能なプログラムに関する。
【0003】
また、この発明は、その不良要因抽出方法を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0004】
半導体製造分野などの製造工程で、順次実施される複数の部分製造工程のそれぞれには、短時間に多くの製造品を処理するために、同一機能を有する複数の製造装置が設けられることがある。そして、同一機能を有する複数の製造装置の中でも、故障、劣化により特定の製造装置で製造された製造品のみに不良が多発することがある。つまり、その故障、劣化した特定の製造装置が不良要因となることがある。この場合、その不良要因となる特定の製造装置を抽出して改善を行う必要がある。
【0005】
また、上述のような不良要因を含む部分製造工程は1つとは限らず、複数の部分製造工程が不良要因を含むことも多い。このような場合、単純に不良要因抽出を行うと、或る不良要因を含む部分製造工程の影響が別の不良要因を含む部分製造工程の影響によって隠れてしまう場合や、故障、劣化した製造装置を持たない部分製造工程を不良要因と見誤る可能性がある。
【0006】
例えば図1に示すように、或る製造工程において、製造品に対して、製造装置1A、製造装置1Bを持つ部分製造工程1と、製造装置2A、製造装置2Bを持つ部分製造工程2とが順次実施されるものとする。さらに、部分製造工程1の製造装置1Aで製造された製造品のうち80%が次の部分製造工程2では製造装置2Aで処理され、残りの20%が製造装置2Bで処理されるものとする。また、部分製造工程1の製造装置1Bで製造された製造品のうち20%が次の部分製造工程2において製造装置2Aで処理され、残りの80%が製造装置2Bで処理されるものとする。このような場合、製造装置1Aで故障が起こり、その製造装置1Aで処理された製造品で不良品の割合が増えると、製造装置2Aで処理された製造品でも不良品の割合が増える。このような場合、単純に不良要因抽出を行うと、製造装置2Aには故障、劣化がなくても、製造装置2Aを不良要因として抽出し、見誤る可能性がある。
【0007】
そこで、特許文献1(特開2009−104523号公報)においては、次のような不良要因抽出方法が提案されている。すなわち、検査工程の検査結果を表す品質情報と各製造工程毎の製造パラメータである加工情報とを関連付けて紐付けデータ(データセット)とする(紐付けステップ)。所定の分析を行って、複数の加工情報に不良要因として推定される順位を付ける(順位付けステップ)。次に、順位付けの結果を表示画面に表示する(表示ステップ)。排除すべき加工情報が指定されたとき、指定された加工情報を排除して残りの紐付けデータを得る(排除ステップ)。次に、残りの紐付けデータを用いて、再び上記分析を行って、残りの複数の加工情報に不良要因として推定される順位を付ける(再順位付けステップ)。次に、その再順位付けの結果を表示画面に表示する(再表示ステップ)。この方法によれば、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、したがって、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−104523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合、上記特許文献1の方法では、上記複数の加工情報のうち排除すべき加工情報が指定される度に、上記排除ステップ、上記再順位付けステップ、および上記再表示ステップの処理を何回も繰り返すことになる。このため、上記紐付けデータ(データセット)のデータ数が次第に減少して、不良要因抽出結果の信頼性が低くなるという問題がある。
【0010】
そこで、この発明の課題は、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる不良要因抽出装置および不良要因抽出方法を提供することにある。
【0011】
また、この発明の課題は、その不良要因抽出方法を実行するためのコンピュータ読み取り可能なプログラムを提供することにある。
【0012】
また、この発明の課題は、その不良要因抽出方法を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、この発明の不良要因抽出装置は、
複数の製造品に対して、同じ機能を有する複数の製造装置のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる部分製造工程を複数持つ製造工程と、上記製造工程によってプロセス処理が行われた製造品に対して、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される各部分製造工程を実行した製造装置を示す情報を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶部と、
上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除部と、
上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出部とを備えることを特徴とする。
【0014】
本明細書で、「製造品」とは、完成品だけでなく、仕掛品も含む。
【0015】
また、上記一の部分製造工程の「指定」は、人(作業者やメンテナンス担当者)によって行われても良いし、予め定められた基準に基づいて自動的に行われても良い。
【0016】
また、検査データのばらつきに関する「統計量」とは、例えば平均や標準偏差を含む。
【0017】
この発明の不良要因抽出装置では、上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、影響排除部は、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する。そして、不良要因抽出部は、上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う。したがって、この不良要因抽出装置によれば、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、したがって、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。これにより、どの不良要因から改善するかという意思決定を容易に行うことができる。しかも、上記影響排除部は、上記データセットのデータ数を維持するので、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる。
【0018】
一実施形態の不良要因抽出装置では、
上記データセットに対して所定の分析方法による分析を行って、上記検査結果に対する上記複数の部分製造工程のそれぞれの影響度に応じて、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付ける順位付け部と、
上記順位付け部による順位付けの結果を表す画像を所定の表示画面に表示する表示処理部とを備えたことを特徴とする。
【0019】
この一実施形態の不良要因抽出装置によれば、上記検査結果に対する上記複数の部分製造工程のそれぞれの影響度に応じた、不良要因として推定される順位を表す画像が、上記表示画面に表示される。この表示に基づいて、ユーザ(この不良要因抽出装置を使用する者を指す。作業者やメンテナンス担当者を含む。以下同様。)は、上記分析方法による分析の結果、つまり、上記複数の部分製造工程に対して付けられた、不良要因と推定される順位を知ることができる。したがって、例えば上記影響排除部による演算を受ける前の上記データセットに対して、上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を、ユーザは、容易に指定することができる。
【0020】
一実施形態の不良要因抽出装置では、上記複数の部分製造工程の中で上記一の部分製造工程とは異なる別の部分製造工程が指定される度に、上記影響排除部を動作させ、上記影響排除部による演算を受けた後の上記データセットを用いて、上記順位付け部を再び動作させて、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付けさせるとともに、上記表示処理部を再び動作させて、上記順位付け部による順位付けの結果を表す情報を上記表示画面に表示させる制御を行う繰り返し制御部を備えたことを特徴とする。
【0021】
この一実施形態の不良要因抽出装置では、上記複数の部分製造工程の中で上記一の部分製造工程とは異なる別の部分製造工程が指定される度に、上記影響排除部が動作する。そして、上記検査結果に対する上記複数の部分製造工程のそれぞれの影響度に応じた、不良要因として推定される順位が、上記表示画面に表示される。この表示に基づいて、ユーザは、上記分析方法による分析の結果、つまり、上記複数の部分製造工程に対して付けられた、不良要因と推定される順位を知ることができる。したがって、上記影響排除部による演算を受けた後の上記データセットに対して、上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を、ユーザは、容易に繰り返して指定することができる。
【0022】
上記順位付け部が行う上記分析方法による分析は分散分析によるF値算出であり、上記順位付け部は、上記F値を上記検査結果に対する上記複数の部分製造工程のそれぞれの影響度として求めて、上記F値が大きい順に、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付けるのが望ましい。この場合、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付けるとともに、その順位の根拠を定量的に数値で把握することができる。
【0023】
上記統計量は平均と標準偏差であり、上記影響排除部は、上記演算として、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記平均と標準偏差をそれぞれ上記目標に一致させる演算を行うのが望ましい。この場合、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから好ましく排除することができる。しかも、計算量は比較的小さく、高速に処理を行うことができる。
【0024】
一実施形態の不良要因抽出装置では、
上記統計量は平均と標準偏差であり、
上記影響排除部は、上記一の部分製造工程を実行する複数の製造装置のうち、上記平均が上記目標に最も近い一の製造装置を選択し、上記演算として、上記一の製造装置以外の他の製造装置について算出した平均と標準偏差をそれぞれ上記一の製造装置について算出した平均と標準偏差に一致させる演算(これを「装置別規格化」と呼ぶ。)を行うことを特徴とする。
【0025】
この一実施形態の不良要因抽出装置によれば、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから好ましく排除することができる。具体的には、上記一の部分製造工程を実行する全ての製造装置が上記一の製造装置と同等の性能に改善されたときのデータセットを得ることができる。
【0026】
一実施形態の不良要因抽出装置では、
上記統計量は平均と標準偏差であり、
上記影響排除部は、上記一の部分製造工程を実行する複数の製造装置に対して上記平均が上記目標に近い順に順位を付け、上記演算として、それらの順位のうち所定の順位よりも下位の製造装置の平均と標準偏差を、上記所定の順位の製造装置の平均と標準偏差にそれぞれ一致させる演算を行うことを特徴とする。
【0027】
この一実施形態の不良要因抽出装置によれば、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから好ましく排除することができる。具体的には、不良要因と考えられる低い順位の製造装置が上記所定の順位の製造装置と同等の性能に改善されたときのデータセットを得ることができる。したがって、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握できる。
【0028】
一実施形態の不良要因抽出装置では、上記影響排除部による上記演算を受けたデータセットを出力するデータセット出力部を備えたことを特徴とする。
【0029】
この一実施形態の不良要因抽出装置によれば、上記一の部分製造工程を実行する全ての製造装置が上記一の製造装置と同等の性能に改善されたときの効果、または不良要因と考えられる低い順位の製造装置が上記所定の順位の製造装置と同等の性能に改善されたときの効果を、ユーザが事前に迅速に把握できる。したがって、ユーザは、費用対効果などを考慮して、実際にその改善を実施するか否かを容易に判断することができる。
【0030】
別の局面では、この発明の不良要因抽出装置は、
複数の製造品に対して、製造装置によってプロセス処理が行われる製造工程と、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される、製造条件の名称、素材の種類、製造装置の名称を含む複数のカテゴリに分類される質的変数を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶部と、
上記プロセスデータの中でいずれか一の質的変数が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の質的変数が取りうる値別に、それぞれの値によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記値別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の質的変数の変化に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除部と、
上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出部とを備えることを特徴とする。
【0031】
本明細書では、質的変数が取りうる「値」とは、例えば製造条件の「名称」、素材の「種類」、製造装置の「名称」など、定量的な数値では表されない尺度を指す。
【0032】
この発明の不良要因抽出装置では、上記プロセスデータの中でいずれか一の質的変数が指定されたとき、影響排除部は、上記データセットに基づいて、上記一の質的変数が取りうる値別に、それぞれの値によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記値別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の質的変数の変化に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する。そして、不良要因抽出部は、上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う。したがって、この不良要因抽出装置によれば、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、これにより、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。したがって、どの不良要因から改善するかという意思決定を容易に行うことができる。しかも、上記影響排除部は、上記データセットのデータ数を維持するので、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる。
【0033】
また、この発明の不良要因抽出方法は、
複数の製造品に対して、同じ機能を有する複数の製造装置のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる部分製造工程を複数持つ製造工程と、上記製造工程によってプロセス処理が行われた製造品に対して、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される各部分製造工程を実行した製造装置を示す情報を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶ステップと、
上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除ステップと、
上記影響排除ステップによる上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出ステップとを備えることを特徴とする。
【0034】
この発明の不良要因抽出方法では、上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、影響排除ステップでは、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する。そして、不良要因抽出ステップでは、上記影響排除ステップによる上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う。したがって、この不良要因抽出方法によれば、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、これにより、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。したがって、どの不良要因から改善するかという意思決定を容易に行うことができる。しかも、上記影響排除ステップは、上記データセットのデータ数を維持するので、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる。
【0035】
この発明のプログラムは、上記不良要因抽出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0036】
この発明のプログラムによれば、コンピュータに上記不良要因抽出方法を実行させることができる。
【0037】
この発明の記録媒体は、上記プログラムをコンピュータに実行させるためのコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0038】
この発明の記録媒体によれば、記録媒体の記録内容をコンピュータに読み取らせることで、上記コンピュータに上記不良要因抽出方法を実行させることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上より明らかなように、この発明の不良要因抽出装置および不良要因抽出方法によれば、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】半導体製造分野などの製造工程で、不良要因を見誤る可能性を説明する図である。
【図2】不良要因を抽出すべき対象としての生産プロセスの構成を示す図である。
【図3】上記生産プロセスで製造された複数の製造品についてのデータセットを例示する図である。
【図4】この発明の一実施形態の不良要因抽出装置のブロック構成を示す図である。
【図5】上記不良要因抽出装置による不良要因抽出方法のフローを示す図である。
【図6】上記不良要因抽出装置による分析結果の一例を示す箱ひげ図である。
【図7】上記不良要因抽出装置による分析結果の別の例を示す箱ひげ図である。
【図8】上記不良要因抽出装置による分析結果のさらに別の例を示す箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0042】
図2は、不良要因を抽出すべき対象としての、半導体製品を生産するための生産プロセスとしての生産ライン(符号100で示す。)の構成を示している。この生産ライン100は、製造品の製造を行う製造工程200と、製造工程200の終了後に製造品の検査を行う検査工程300とを含んでいる。
【0043】
製造工程200は、製造品に対して順次実行される複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−A(Aは2以上の自然数とする。)で構成されている。さらに、各部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aには、短時間に多くの製造品を処理するために、それぞれ同一機能を有する複数の製造装置が設けられている。これにより、複数の製造品を並行して処理できるようになっている。或る製造品90に対して、例えば部分製造工程200−1が行われるときは、複数の製造装置1−1(名称「1a」),1−2(名称「1b」),…のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる。また、その製造品90に対して、部分製造工程200−2が行われるときは、複数の製造装置2−1(名称「T001」),2−2(名称「T002」),2−3(名称「T003」),…のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる。また、その製造品90に対して、部分製造工程200−Aが行われるときは、複数の製造装置A−1(名称「第1製造装置」),A−2(名称「第2製造装置」),…,A−G(名称「第G製造装置」)のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる。
【0044】
製造品90に対して製造工程200における全ての複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aが終了すると、その製造品90は検査工程300に進む。検査工程300は、製造品90に対して順次実行される複数の部分検査工程300−1,300−2,…,300−B(Bは2以上の自然数とする。)で構成されている。それぞれの部分検査工程300−1,300−2,…,300−Bでは、図示しない検査装置によって製造品90に対して品質の検査が行われる。
【0045】
生産ライン100では、製造品は、単位数量(以下、ロットと言う)毎にロット番号Lot1,Lot2,…,LotNが付されて、このロット番号で識別されて管理されている。製造工程200では、製造品のロット毎に、各部分製造工程を行った製造装置、製造時に製造装置の各種条件を定めた設定値、各種計測器によって測定される計測値などのプロセスデータが収集される。検査工程300では、製造品のロット毎に、検査データが収集される。収集されたプロセスデータと検査データとは、製造品のロット毎に互いに関連付けられる。この生産ライン100に含まれたデータセット収集部11(後述の図4中に示す。)によって、複数の製造品ロットについて、製造品のロット毎に互いに関連付けられたプロセスデータと検査データとが収集されて、データセットが得られる。
【0046】
図3は、上記生産ライン100で製造された複数の製造品90についてのデータセット80を例示している。このデータセット80は、大別して、ロット番号Lot1,Lot2,…,LotNを格納する「ロット番号」欄と、各部分製造工程を実行した製造装置を表す「製造装置」欄と、各部分検査工程での検査結果を表す「検査結果」欄とからなっている。
【0047】
「製造装置」欄は、各部分製造工程200−1,200−2,…,200−A毎に、その部分製造工程を実行した製造装置の名称を格納する欄を含んでいる。例えば、第1製造工程200−1のための「第1製造工程製造装置」欄には、ロットLot1,Lot2について、それらのロットを処理した製造装置1−1の名称「1a」がプロセスデータとして格納されている。ロットLot3,Lot4について、それらのロットを処理した製造装置1−2の名称「1b」がプロセスデータとして格納されている。また、ロットLotNについては、そのロットを処理した製造装置1−1の名称「1a」がプロセスデータとして格納されている。同様に、第A製造工程200−Aのための「第A製造工程製造装置」欄には、ロットLot1について、そのロットを処理した製造装置A−1の名称「第1製造装置」がプロセスデータとして格納されている。ロットLot2について、そのロットを処理した製造装置A−2の名称「第2製造装置」がプロセスデータとして格納されている。また、ロットLotNについて、そのロットを処理した製造装置A−3の名称「第3製造装置」がプロセスデータとして格納されている。なお、実際には、各製造装置の名称はコード化されて格納されている。
【0048】
「検査結果」欄は、この例では、第1検査工程300−1の検査結果を表す「第1検査工程検査結果」欄を含んでいる。この「第1検査工程検査結果」欄には、ロットLot1,Lot2,…,LotNについて、それぞれ第1検査工程300−1の検査結果としての検査データ(数値)15,14,…,15が格納されている。この例では、上記第1検査工程300−1の検査内容(検査項目)に応じて、検査データの数値は、大きい方が優れており、したがって目標に近いものとする。
【0049】
なお、このデータセット80の例では、第1検査工程300−1の検査結果しか格納されていないが、他の部分検査工程300−2,…,300−Bの検査結果をすべて格納しておくこともできる。
【0050】
また、ユーザは、このデータセット80に、製造工程での製造条件を表す「製造条件」欄、製造品の基となった素材を表す「素材」欄、製造された場所を示す「製造場所」欄、製造された日付を示す「製造日」欄、製造時に各種計測器によって計測される「計測値」欄などを設けて、ロットLot1,Lot2,…,LotNについての様々なデータ群を記憶させておくこともできる。
【0051】
図4は、この発明の一実施形態の不良要因抽出装置(符号12で示す。)のブロック構成を示している。
【0052】
この不良要因抽出装置12は、データ記憶部12aと、順位付け/不良要因抽出部12bと、表示処理部12cと、表示装置13と、入力装置14と、影響排除部12dと、繰り返し制御部12eとを備えている。
【0053】
データ記憶部12aは、この例ではRAM(ランダム・アクセス・メモリ)からなり、データセット収集部11からデータセット(この例では、図3に示したデータセット80)を受け取って記憶する。
【0054】
順位付け/不良要因抽出部12bは、データセット80に対して後述の分析方法による分析を行って、データセット80に含まれた検査結果に対する複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aのそれぞれの影響度に応じて、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して不良要因として推定される順位を付ける。また、この順位付け/不良要因抽出部12bは、影響排除部12dによる後述の演算(装置別規格化)を受けたデータセット80′(以下では、装置別規格化前の元のデータセット80と区別するために、装置別規格化後のデータセットを符号80′で表す。)を用いて、生産ライン100における不良要因の抽出を行う。つまり、この順位付け/不良要因抽出部12bは、順位付け部および不良要因抽出部として働く。
【0055】
表示処理部12cは、順位付け/不良要因抽出部12bから受けた情報に基づいて、ユーザに知らせるための画像データを作成して、表示装置13へ出力する。
【0056】
表示装置13は、この例ではLCD(液晶表示素子)からなり、表示処理部12cから受けた画像データを表示画面に表示する。
【0057】
入力装置14は、この例ではキーボードやマウスからなり、ユーザによるコマンドやデータの入力、指定などを受ける。この例では、生産ライン100における不良要因を抽出するために、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aの中でいずれか一の部分製造工程がユーザによって指定される(詳しくは後述)。
【0058】
なお、表示装置13と入力装置14は、例えばペンで表示画面の或る箇所をタッチして入力行う公知のタッチパネル式LCDとして構成されても良い。
【0059】
影響排除部12dは、この例では複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aの中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、データセット80に対して後述の演算を行って、データセット80のデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する製造装置に依存した検査データのばらつきへの影響をデータセット80から排除する。
【0060】
繰り返し制御部12eは、この例ではユーザが複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aの中でいずれか一の部分製造工程を指定する度に、影響排除部12d、データ記憶部12a、順位付け/不良要因抽出部12b、および表示処理部12cを順次動作させる制御を行う。
【0061】
この例では、順位付け/不良要因抽出部12b、表示処理部12c、影響排除部12d、並びに繰り返し制御部12eは、CPU(中央演算処理装置)とそれを動作させるソフトウェア(コンピュータプログラム)によって構成されている。
【0062】
次に、この不良要因抽出装置12による一実施形態の不良要因抽出方法を、図4のブロック構成を参照しながら、図5のフローに基づいて説明する。なお、まず一般的に説明し、部分製造工程の数や製造装置の数などが限られた具体例については、後に「実施例1」として説明する。
【0063】
(1) 図5中のステップS1(データセット記憶ステップ)では、まず、図4中のデータ記憶部12aがデータセット80(図3参照)を入力して記憶する。
【0064】
(2) 次に、図5中のステップS2(順位付けステップ)では、図4中の順位付け/不良要因抽出部12bが、データセット80に対して所定の分析方法による分析(この例では分散分析)を行って、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して不良要因として推定される順位を付ける。
【0065】
詳しくは、順位付け/不良要因抽出部12bは、まず、データセット80に含まれた情報(ロットLot1,Lot2,…,LotNについての、各部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aを実行した製造装置の名称と、第1検査工程300−1の検査結果を表す検査データ)を用いて、分散分析を行って、上記検査結果に対する複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aのそれぞれの影響度としてF値を算出する。
【0066】
この順位付け/不良要因抽出部12bによるF値の算出は、次のようにして行われる。
【0067】
製造品のロット数をN、製造工程に設けられた製造装置の数をG、全ロットの検査データの平均をμとする。また、製造装置1,2,…,G別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データの平均をμ,μ,…,μとする。製造装置1,2,…,Gが処理したロット数をそれぞれg,g,…,gとする。
【0068】
また、製造装置1が処理したg個のロットの検査データをそれぞれx1,1,x1,2,…,x1,g1とする。製造装置2が処理したg個のロットの検査データをそれぞれx2,1,x2,2,…,x2,g2とする。同様にして、製造装置Gが処理したg個のロットの検査データをそれぞれxG,1,xG,2,…,xG,gGとする。
【0069】
このとき、
i) 全体の自由度は、f1=N−1である。
ii) 製造装置間の自由度は、f2=N−G−1である。
iii) 全体の偏差平方和は、次のs1のように算出される。

(ただし、iは製造装置を表す変数であり、jはロットを表す変数である。)
iv) 製造装置間の偏差平方和は、次のs2のように算出される。

v) F値=((s1−s2)/(f1−f2))/(s2/f2)と算出される。
【0070】
次に、順位付け/不良要因抽出部12bは、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して、F値の大きい順番に、不良要因として推定される順位を付ける。つまり、上記検査結果に対する複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに、それぞれの影響度に応じた、不良要因として推定される順位を付ける。
【0071】
このようにF値を用いているので、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して不良要因として推定される順位の根拠を定量的に数値で把握することができる。
【0072】
(3) 次に、図5中のステップS3(表示ステップ)では、図4中の表示処理部12cが、順位付け/不良要因抽出部12による順位付けの結果を表す画像を、表示装置13の表示画面に表示する。
【0073】
具体的には、F値の大きい順番に、部分製造工程名とF値とを対応づけて、表示装置13に一覧表示する。
【0074】
また、一覧表示された部分製造工程が不良要因であるかどうかをユーザが判別する材料として、各部分製造工程別の検査結果を表す箱ひげ図も、表示装置13に表示する。
【0075】
この表示に基づいて、ユーザは、上記分析方法による分析の結果、つまり、上記複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して付けられた、不良要因と推定される順位を知ることができる。したがって、例えば上記データセット80に対して、製造装置に依存した検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を、ユーザは、容易に指定することができる。
【0076】
(4) 次に、図5中のステップS4(ユーザ入力ステップ)では、図4中の影響排除部12dが、ユーザによって、入力装置14を通して、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aの中でいずれか一の部分製造工程(これを「200−a」と呼ぶ。)が指定されたか否かを判断する。
【0077】
このステップS4で、一の部分製造工程200−aが指定されたときは、次のステップS5へ進む。
【0078】
(5) 次に、ステップS5(統計量算出ステップ)では、影響排除部12dが、上記一の部分製造工程200−aを実行する製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量(この例では平均と標準偏差)を算出する。
【0079】
具体的には、上記一の部分製造工程200−aを実行する製造装置をG台とし、それぞれ製造装置1,2,…,Gと呼ぶものとする。このとき、製造装置1,2,…,G別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データの平均μ,μ,…,μGkと標準偏差σ,σ,…,σGkを算出する。
【0080】
(6) 次に、ステップS6(見本装置選択ステップ)では、さらに影響排除部12dが、上記一の部分製造工程200−aを実行する製造装置1,2,…,Gの中から見本装置(これを「M」と呼ぶ。)を選択する。
【0081】
具体的には、先のステップS5(統計量算出ステップ)で算出した製造装置1,2,…,G別の検査データの平均μ,μ,…,μGkに基づいて、製造装置1,2,…,Gの中で最も平均が大きく、目標に最も近い製造装置を選んで、見本装置Mとする。この見本装置Mによってプロセス処理が行われた製造品についての検査データの平均はμ、標準偏差はσであるものとする。
【0082】
(7) ステップS7(装置別規格化ステップ)では、さらに影響排除部12dが、上記一の部分製造工程200−aを実行する製造装置1,2,…,Gのうち、上記見本装置M以外の他の製造装置について算出した平均と標準偏差を、それぞれ上記見本装置Mについて算出した平均μ、標準偏差σと一致させる演算を行う(装置別規格化)。
【0083】
具体的には、製造品の各ロットLot1,Lot2,…,LotNについて、上記データセット80に含まれた元の検査データをxとし、装置別規格化後の検査データをx′としたとき、次の変換を行う。

(ただし、lは、上記一の部分製造工程200−aで、そのロットを製造した製造装置を表す変数である。)
【0084】
これにより、上記データセット80において、元の検査データxに代えて、この演算(装置別規格化)後の検査データx′を含む新たなデータセット80′を得る。図4中のデータ記憶部12aが、この装置別規格化後のデータセット80′を記憶する。
【0085】
このようにして、影響排除部12dは、上記データセット80のデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程200−aを実行する製造装置1,2,…,Gに依存した検査データのばらつきへの影響を上記データセット80から排除する。
【0086】
(8) 次に、図4中の繰り返し制御部12eが、上記装置別規格化後のデータセット80′を用いて、順位付け/不良要因抽出部12bを再び動作させて、上記複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して不良要因として推定される順位を付けさせる(図5中のステップS2)とともに、表示処理部12cを再び動作させて、順位付け/不良要因抽出部12bによる順位付けの結果を表す情報を上記表示装置13kの表示画面に表示させる(図5中のステップS3)。
【0087】
この表示に基づいて、ユーザは、上記分析方法による分析の結果、つまり、上記複数の部分製造工程に対して付けられた、不良要因と推定される順位を知ることができる。したがって、図5中のステップS4で、上記装置別規格化後のデータセット80′に対して、上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を、ユーザは、容易に繰り返して指定することができる。
【0088】
(9) 図5中のステップS4で、ユーザによって、複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aの中で上記一の部分製造工程200−aとは異なる別の部分製造工程が指定される度に、図4中の影響排除部12dが動作する。そして、繰り返し制御部12eが、上記装置別規格化後のデータセット80′,80″,…(区別のために、2回目以降の装置別規格化後のデータセットを80″,…と表す。)を用いて、順位付け/不良要因抽出部12bを再び動作させて、上記複数の部分製造工程200−1,200−2,…,200−Aに対して不良要因として推定される順位を付けさせる(図5中のステップS2)とともに、表示処理部12cを再び動作させて、順位付け/不良要因抽出部12bによる順位付けの結果を表す情報を上記表示装置13kの表示画面に表示させる(図5中のステップS3)。
【0089】
ユーザが部分製造工程を指定せず、分析を終了すべき指令を入力したときは、ステップS8へ進む。
【0090】
(10) ステップS8では、図4中の表示処理部12cが、データセット出力部として働いて、表示装置13kの表示画面に、最後の装置別規格化後のデータセット(例えば80″とする。)を出力する。これにより、不良要因抽出方法のフローを終了する。
【0091】
このようにした場合、不良要因と推定される部分製造工程200−a,…に起因した検査データへの影響を排除することによって、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、したがって、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。しかも、上記影響排除部12dは、上記データセット80,80′,80″,…のデータ数を維持するので、不良要因として推定される製造装置の数が多い場合であっても、不良要因抽出結果の信頼性を維持することができる。
【実施例1】
【0092】
次に、上記不良要因抽出方法において、部分製造工程の数や製造装置の数などが限られた具体例について説明する。
【0093】
部分製造工程の数を、A=6とする。つまり、製造工程200には、複数の部分製造工程として、第1部分製造工程200−1としての「工程1」から第6部分製造工程200−6としての「工程6」までの6工程が含まれているものとする。
【0094】
各部分製造工程「工程1」、「工程2」、…、「工程6」を実行する製造装置の数を、それぞれG=3、G=4、G=3、G=2、G=4、G=3とする。
【0095】
製造品のロット数を、N=500とする。
【0096】
全500ロットについて、検査データの平均をμ=1099.315とし、検査データの標準偏差をσ=22.23とする。検査データは値が大きいほど品質が高いものとする。
【0097】
このような条件下で、上記不良要因抽出方法を実行して、不良要因と推定される部分製造工程に起因した検査データへの影響を排除するものとする。
【0098】
まず、順位付け/不良要因抽出部12が、「工程1」から「工程6」までの6工程に対してそれぞれ分散分析を行って、それぞれF値を算出する。そして、F値の大きい順番に、不良要因として推定される順位を付ける(図5中のステップS2)。表示処理部12が、F値の大きい順番に、部分製造工程名とF値とを対応づけて、表示装置13に一覧表示する(図5中のステップS3)。この例では、その一覧表示は、次の表1のようになったものとする。
(表1)

【0099】
この表1では、「工程2」のF値が最大になっている。以下「工程6」、「工程4」、「工程5」と続いている。
【0100】
また、表示処理部12は、ユーザが不良要因であるかどうかを判別する材料として、各部分製造工程「工程1」、「工程2」、…、「工程6」別に、検査データの箱ひげ図を表示する。例えば、図6に示すように、箱ひげ図は、最大値、第3四分位、中央値、第1四分位、最小値によって表現される。
【0101】
この図6は、F値が最大であった「工程2」の箱ひげ図であり、「工程2」を実行する製造装置2−1,2−2,2−3,2−4でそれぞれ処理されたロットの検査データのばらつきを表している。この図から、「工程2」は製造装置2−1で処理されたロットの検査データが最も高く、製造装置2−4で処理されたロットの検査データが最も小さいことが分かる。
【0102】
ユーザは表1の一覧表示や図6の箱ひげ図等に基づいて、検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を指定する(図5中のステップS4でYES)。今回はF値が最も大きい「工程2」が指定されたものとする。
【0103】
ここで、「工程2」を実行する製造装置2−1,2−2,2−3,2−4の数はG=4台になっている。影響排除部12dが、それぞれの製造装置2−1,2−2,2−3,2−4によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データの平均μ,μ,μ,μと標準偏差σ,σ,σ,σを算出する(図5中のステップS5)。この例では、その算出結果は、次の表2のようになったものとする(小数点第3位を四捨五入)。
(表2)

【0104】
次に、影響排除部12dが、製造装置2−1,2−2,2−3,2−4の中で最も平均が大きく、目標に最も近い製造装置、この表2の例では製造装置2−1を選んで、見本装置Mとする(図5中のステップS6)。
【0105】
次に、影響排除部12dが、上記見本装置M以外の他の製造装置2−2,2−3,2−4について算出した平均μ,μ,μと標準偏差σ,σ,σを、それぞれ上記見本装置Mについて算出した平均μ(=μ)、標準偏差σ(=σ)と一致させる演算を行う(図5中のステップS7、)。具体的には、製造装置2−2,2−3,2−4でそれぞれ処理されたロットの元の検査データは、既述の式Eq.1によって、次のような装置別規格化後の検査データに変換される。
【0106】
製造装置2−2で処理されたロットについての元の検査データをxで表し、装置別規格化後の検査データをx′で表すと、
′=((x−1104.73)/19.56)×14.79+1115.85
製造装置2−3で処理されたロットについての元の検査データをxで表し、装置別規格化後の検査データをx′で表すと、
′=((x−1093.69)/15.87)×14.79+1115.85
製造装置2−4で処理されたロットについての元の検査データをxで表し、装置別規格化後の検査データをx′で表すと、
製造装置2−4で処理されたロットについての装置別規格化後の検査データ
′=((x−1083.00)/23.13)×14.79+1115.85
これらの変換は、製造装置2−2で処理された全てのロットの検査データ、製造装置2−3で処理された全てのロットの検査データ、製造装置2−4で処理された全てのロットの検査データに対して行われる。
【0107】
これにより、「工程2」を実行する製造装置2−1,2−2,2−3,2−4に依存した検査データのばらつきへの影響を上記データセット80から好ましく排除することができる。具体的には、「工程2」を実行する全ての製造装置2−1,2−2,2−3,2−4が製造装置(見本装置)2−1と同等の性能に改善されたときのデータセット80′を得ることができる。
【0108】
次に、順位付け/不良要因抽出部12が、装置別規格化後のデータセット80′を用いて、「工程2」以外の5工程、つまり、「工程1」、「工程3」、「工程4」、「工程5」、「工程6」に対してそれぞれ分散分析を行って、それぞれF値を算出する。そして、F値の大きい順番に、不良要因として推定される順位を付ける(図5中のステップS2)。表示処理部12が、F値の大きい順番に、部分製造工程名とF値とを対応づけて、表示装置13に一覧表示する(図5中のステップS3)。この例では、その一覧表示は、次の表3のようになったものとする。
(表3)

【0109】
この表3では、「工程5」のF値が最大になっている。また、「工程4」のF値は、表1での14.55から0.56へ大きく下がっている。同様に、「工程6」のF値は、表1での21.21から0.85へ大きく下がっている。その理由を知るために、「工程2」と「工程4」、「工程6」との関係を調べた。すると、「工程2」の4台の製造装置2−1,2−2,2−3,2−4で処理されたロットは、「工程4」に設けられた2台の製造装置4−1,4−2によって、また、「工程6」に設けられた3台の製造装置6−1,6−2,6−3によって、それぞれ次の表4、表5に示す割合(%)で処理されていた。
(表4)

【0110】
(表5)

【0111】
つまり、「工程2」の製造装置2−1,2−2,2−3,2−4で処理されたロットのうちの多くのロットが偏って、「工程4」の製造装置4−1,4−2によって、また、「工程6」の製造装置6−1,6−2,6−3によって処理されている。このため、背景技術として図1を用いて説明したように、元のデータセット80を対象とした1回目の分散分析では、「工程2」の影響によって、「工程4」、「工程6」のF値が大きくなっていたことが分かる。
【0112】
しかし、装置別規格化後のデータセット80′を対象とした今回(2回目)の分散分析では、「工程2」の影響が排除されているので、「工程4」、「工程6」のF値が小さくなっている。
【0113】
この例のように、装置別規格化によって不良要因の影響を排除することで、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。
【0114】
また、表示処理部12は、ユーザが不良要因であるかどうかを判別する材料として、上記表3とともに、各部分製造工程「工程1」、「工程2」、…、「工程6」別に、検査データの箱ひげ図を表示する。例えば、図7は、2回目の分散分析でF値が最大であった「工程5」の箱ひげ図であり、「工程5」を実行する製造装置5−1,5−2,5−3,5−4でそれぞれ処理されたロットの検査データのばらつきを表している。この図から、「工程5」は製造装置5−1で処理されたロットの検査データが最も大きいことが分かる。
【0115】
ユーザは表3の一覧表示や図7の箱ひげ図等に基づいて、検査データのばらつきへの影響が排除されるべき部分製造工程を指定する(図5中のステップS4でYES)。今回はF値が最も大きい「工程5」が指定されたものとする。
【0116】
ここで、「工程5」を実行する製造装置5−1,5−2,5−3,5−4の数はG=4台になっている。影響排除部12dが、それぞれの製造装置5−1,5−2,5−3,5−4によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データの平均μ,μ,μ,μと標準偏差σ,σ,σ,σを算出する(図5中のステップS5)。この例では、その算出結果は、次の表6のようになったものとする(小数点第3位を四捨五入)。
(表6)

【0117】
次に、影響排除部12dが、製造装置5−1,5−2,5−3,5−4の中で最も平均が大きく、目標に最も近い製造装置、この表6の例では製造装置5−1を選んで、見本装置Mとする(図5中のステップS6)。
【0118】
次に、影響排除部12dが、上記見本装置M以外の他の製造装置5−2,5−3,5−4について算出した平均μ,μ,μと標準偏差σ,σ,σを、それぞれ上記見本装置Mについて算出した平均μ(=μ)、標準偏差σ(=σ)と一致させる演算を行う(図5中のステップS7、)。具体的には、製造装置5−2,5−3,5−4でそれぞれ処理されたロットの1回目の装置別規格化後の検査データは、既述の式Eq.1によって、次のような2回目の装置別規格化後の検査データに変換される。
【0119】
製造装置5−2で処理されたロットについての1回目の装置別規格化後の検査データをx′で表し、2回目の装置別規格化後の検査データをx″で表すと、
″=((x′−1112.53)/13.08)×12.94+1124.15
製造装置5−3で処理されたロットについての1回目の装置別規格化後の検査データをx′で表し、2回目の装置別規格化後の検査データをx″で表すと、
″=((x′−1112.67)/14.64)×12.94+1124.15
製造装置5−4で処理されたロットについての1回目の装置別規格化後の検査データをx′で表し、2回目の装置別規格化後の検査データをx″で表すと、
″=((x′−1113.87)/14.97)×12.94+1124.15
これらの変換は、製造装置5−2で処理された全てのロットの検査データ、製造装置5−3で処理された全てのロットの検査データ、製造装置5−4で処理された全てのロットの検査データに対して行われる。
【0120】
これにより、「工程5」を実行する製造装置5−1,5−2,5−3,5−4に依存した検査データのばらつきへの影響を上記データセット80′から好ましく排除することができる。具体的には、「工程5」を実行する全ての製造装置5−1,5−2,5−3,5−4が製造装置(見本装置)5−1と同等の性能に改善されたときのデータセット80″を得ることができる。
【0121】
次に、順位付け/不良要因抽出部12が、2回目の装置別規格化後のデータセット80″を用いて、「工程2」、「工程5」以外の4工程、つまり、「工程1」、「工程3」、「工程4」、「工程6」に対してそれぞれ分散分析を行って、それぞれF値を算出する。そして、F値の大きい順番に、不良要因として推定される順位を付ける(図5中のステップS2)。表示処理部12が、F値の大きい順番に、部分製造工程名とF値とを対応づけて、表示装置13に一覧表示する(図5中のステップS3)。この例では、その一覧表示は、次の表7のようになったものとする。
(表7)

【0122】
この表7では、「工程1」のF値が最大になっている。しかし、表1、表3における最大のF値に比して、どの工程も桁違いにF値は小さい。
【0123】
また、これらの「工程1」、「工程3」、「工程4」、「工程6」に対して、F分布表から有意水準5%で検定を行っても、どの工程についても製造装置による有意差は見られなかった。
【0124】
また、表示処理部12は、ユーザが不良要因であるかどうかを判別する材料として、上記表7とともに、各部分製造工程「工程1」、「工程3」、「工程4」、「工程6」別に、検査データの箱ひげ図を表示する。例えば、図8は、今回(3回目)の分散分析でF値が最大であった「工程1」の箱ひげ図であり、「工程1」を実行する製造装置1−1,1−2,1−3でそれぞれ処理されたロットの検査データのばらつきを表している。この図8から、「工程1」では、製造装置1−1,1−2,1−3に依存した検査データの差はほとんどないことが分かる。
【0125】
ユーザは表7や図8の箱ひげ図等に基づいて、不良要因となる部分製造工程はなくなったと判断し、分析を終了すべき指令を入力する(図5中のステップS4でNO)。
【0126】
すると、表示処理部12cが、最後(2回目)の装置別規格化後のデータセット(この例では80″)を出力する。これにより、不良要因抽出方法のフローを終了する。
【0127】
上記不良要因抽出方法の適用により、最初に改善すべき部分製造工程は「工程2」であり、次に改善すべき部分製造工程は「工程5」であることが分かった。そして、「工程4」、「工程6」は最初の分散分析では大きいF値を示したが、「工程2」の改善後の分散分析では小さいF値を示したため、改善の必要がないことが分かった。
【0128】
また、元のデータセット80では、全500ロットについて、検査データの平均がμ=1099.315であり、検査データの標準偏差がσ=22.23であった。これに対して、最後(2回目)の装置別規格化後のデータセット80″では、検査データの平均がμ=1124.15となり、検査データの標準偏差がσ=12.9となった。したがって、「工程2」、「工程5」を改善することにより、検査データの平均μが100以上上昇することが期待される。
【0129】
また、検査データが1090未満のロットが不良品であるものとする。このとき、元のデータセット80では、不良ロットが165ロットであり、不良率が165/500=33%であった。これに対して、最後(2回目)の装置別規格化後のデータセット80″では、不良ロットが2ロットとなり、不良率が2/500=0.4%となった。したがって、「工程2」、「工程5」を改善することにより、不良率が33%から0.4%へ下がることが期待される。
【0130】
このように、本実施形態の不良要因抽出方法を実行することにより、不良要因を改善したときの効果をユーザが事前に迅速に把握でき、したがって、不良要因を見誤る可能性を低減することができる。
【0131】
以上、図面を参照しながら本発明における好適な実施形態について説明したが、本発明は、この例だけに限定されない。
【0132】
例えば、ステップS2では、分散分析を行い、F値の大きい順番に順位付けを行っているが、その他の順位付けを行ってもかまわない。例えば、各部分製造工程について製造装置別の検査データの平均を算出し、「(最も平均が大きい製造装置の平均値)−(最も平均が小さい製造装置の平均値)」の値が大きい順番に、各部分製造工程に対して順位付けを行ってもかまわない。
【0133】
また、ステップS3では、不良要因を判別する材料として箱ひげ図を表示しているが、他のグラフ、例えば製造装置別トレンドグラフ、製造装置別ヒストグラムを表示してもかまわない。
【0134】
また、ステップS4では、ユーザが部分製造工程の指定を行っているが、これに限られるものではない。例えば、F値が最も大きい部分製造工程を選択するなどの基準を予め定めておき、その基準に基づいて自動で部分製造工程を指定するようにしてもかまわない。
【0135】
同様に、ステップS4では、ユーザが分析終了の判断を行っているが、これに限られるものではない。例えば、F値が最も大きい部分製造工程のF値が一定未満になったときに終了するなどの基準を予め定めておき、その基準に基づいて自動で分析終了の判断をしてもかまわない。
【0136】
また、ステップS5,S6では、平均値の最も大きい製造装置を見本装置として選択しているが、これに限られるものではない。例えば、平均値の代わりに、中央値、標準偏差などの他の統計値を使用してもかまわない。
【0137】
なお、検査工程での検査内容(検査項目)によっては、検査データの数値は、小さい方が優れている場合もある。そのような場合、一の部分製造工程を実行する複数の製造装置の中で最も平均(または中央値などの統計値)が小さく、目標に最も近い製造装置を選んで、見本装置Mとすれば良い。
【0138】
または、検査データの数値は、或る目標値(または一定範囲内)であるのが望ましい場合もある。そのような場合、一の部分製造工程を実行する複数の製造装置の中で、検査データの平均(または中央値などの統計値)が上記目標値に最も近いものを選んで、見本装置Mとすれば良い。
【0139】
また、ステップS5,S6,S7では、或る部分製造工程を実行する複数の製造装置の中で、最も良い(最も目標に近い)製造装置を見本装置として選択しているが、これに限られるものではない。実際の工程では、すべての製造装置を最も良い製造装置に合わせることが不可能な場合もある。そのような場合は、2番目または3番目に良い製造装置を見本装置として選択してもかまわない。このとき、例えば2番目に良い製造装置を見本装置とするとき、1番良い製造装置で処理されたロットの検査データを2番目の製造装置で処理されたロットの検査データに合わせる必要はない。したがって、1番目、2番目に良い製造装置で処理されたロットの検査データに対しては、演算を行わず、3番目以降の製造装置で処理されたロットの検査データに対してのみ、それらの検査データ平均、標準偏差が2番目の製造装置で処理されたロットの検査データの平均、標準偏差と一致するように演算(式Eq.1による変換)を行ってもかまわない。
【0140】
また、ステップS8で出力された装置別規格化後のデータセット80″は、不良要因を改善したときの効果を事前に示すデータセットである。このデータセット80″を用いて、例えば製造工程投入前の材料の質などのパラメータとの相関を取り、相関の高いものを不良要因として抽出するなどしてもかまわない。つまり、ステップS8で出力された装置別規格化後のデータセット80″を用いて、さらに別の分析方法による分析を行って、不良要因抽出をしてもかまわない。
【0141】
また、データセット出力部として、表示処理部12cに代えて、図示しないプリンタドライバを設けて、ステップS8で出力された装置別規格化後のデータセット80″をプリンタで印字するようにしても良い。また、図示しない外部記憶装置にデータセットを出力して、格納するようにしても良い。
【0142】
また、以上の実施形態では、複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定され、上記一の部分製造工程を実行する製造装置に依存した検査データのばらつきへの影響をデータセットから排除するものとした。しかしながら、これに限られるものではなく、例えばプロセスデータに含まれた製造条件、素材、製造場所、製造日などの中でいずれか一の質的変数が指定されるものとし、上記一の質的変数に依存した検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除することにより、質的変数の変化を不良要因の候補として抽出するようにしても良い。
【0143】
その場合、不良要因抽出の手順は、次の通りになる。
【0144】
予め、データセットには、製造品のロット毎に、製造条件、素材、製造場所、製造日などの質的変数のデータが互いに関連付けられて記憶されているものとする。
【0145】
まず、図4中の順位付け/不良要因抽出部12bが、元のデータセットに対して所定の分析方法による分析(例えば分散分析)を行って、検査工程での検査結果に対する複数の質的変数のそれぞれの影響度(例えばF値)に応じて、上記複数の質的変数に対して不良要因として推定される順位を付ける。
【0146】
次に、上記一の質的変数が指定されたとき、図4中の影響排除部12dが、上記データセットに基づいて、上記一の質的変数が取りうる値別に、それぞれの値によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量(例えば平均と標準偏差)を算出する。そして、上記データセットに対して、上記値別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の質的変数の変化に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する(これを「質的変数別規格化」と呼ぶ。)。
【0147】
次に、上記質的変数別規格化後のデータセットに対して、図4中の順位付け/不良要因抽出部12bが、再び所定の分析方法による分析(例えば分散分析)を行って、検査工程での検査結果に対する複数の質的変数のそれぞれの影響度(例えばF値)に応じて、上記複数の質的変数に対して不良要因として推定される順位を付ける。
【0148】
このようにして、質的変数の変化を不良要因の候補として抽出することができる。
【0149】
一例として、製造工程200に含まれた2つの部分製造工程200−a、部分製造工程200−bがあり、部分製造工程200−aでは、製造条件A、製造条件Aのどちらかで製造品が製造されている場合を考える。最初の分散分析では、部分製造工程200−aにおいて、製造条件Aによって処理された製造品についての検査データよりも、製造条件Aによって処理された製造品についての検査データの方が優れていたとする。
【0150】
このとき、上記一の質的変数として部分製造工程200−aの「製造条件」が指定されると、上記影響排除部12dが、製造条件Aで製造された製造品についての検査データの平均と標準偏差を、製造条件Aで製造された製造品についての検査データの平均と標準偏差にそれぞれ一致するように、質的変数別規格化を行う。これにより、部分製造工程200−aの「製造条件」の差による影響を、元のデータセットから排除する。
【0151】
次に、上記質的変数別規格化後のデータセットに対して、順位付け/不良要因抽出部12bが、再び所定の分析方法による分析(例えば分散分析)を行って、上記部分製造工程200−aの「製造条件」以外の他の質的変数に対して不良要因として推定される順位を付ける。このようにして、質的変数の変化を不良要因の候補として抽出することができる。
【0152】
上述の不良要因抽出方法をソフトウェア(コンピュータプログラム)として、CD−ROMやDVD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録させても良い。そのようにした場合、パーソナルコンピュータなどの汎用コンピュータに、そのコンピュータプログラムを読み取らせることで、上述の不良要因抽出方法を容易に実施させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、複数の製造品に対して、同じ機能を有する複数の製造装置のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる部分製造工程を複数持つ製造工程と、上記製造工程によってプロセス処理が行われた製造品に対して、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、不良要因を改善したときの効果を事前に把握するために広く適用することができる。
【符号の説明】
【0154】
12 不良要因抽出装置
12a データ記憶部
12b 順位付け/不良要因抽出部
12c 表示処理部
12d 影響排除部
12e 繰り返し制御部
13 表示装置
14 入力装置
80,80′,80″ データセット
100 生産ライン
200 製造工程
200−1,200−2,…,200−A 部分製造工程
300 検査工程
1−1,1−2,…,2−1,2−2,…,A−1,A−2,…,A−G 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の製造品に対して、同じ機能を有する複数の製造装置のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる部分製造工程を複数持つ製造工程と、上記製造工程によってプロセス処理が行われた製造品に対して、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される各部分製造工程を実行した製造装置を示す情報を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶部と、
上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除部と、
上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出部とを備えることを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の不良要因抽出装置において、
上記データセットに対して所定の分析方法による分析を行って、上記検査結果に対する上記複数の部分製造工程のそれぞれの影響度に応じて、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付ける順位付け部と、
上記順位付け部による順位付けの結果を表す画像を所定の表示画面に表示する表示処理部とを備えたことを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の不良要因抽出装置において、
上記複数の部分製造工程の中で上記一の部分製造工程とは異なる別の部分製造工程が指定される度に、上記影響排除部を動作させ、上記影響排除部による演算を受けた後の上記データセットを用いて、上記順位付け部を再び動作させて、上記複数の部分製造工程に対して不良要因として推定される順位を付けさせるとともに、上記表示処理部を再び動作させて、上記順位付け部による順位付けの結果を表す情報を上記表示画面に表示させる制御を行う繰り返し制御部を備えたことを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の不良要因抽出装置において、
上記統計量は平均と標準偏差であり、
上記影響排除部は、上記一の部分製造工程を実行する複数の製造装置のうち、上記平均が上記目標に最も近い一の製造装置を選択し、上記演算として、上記一の製造装置以外の他の製造装置について算出した平均と標準偏差をそれぞれ上記一の製造装置について算出した平均と標準偏差に一致させる演算を行うことを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか一つに記載の不良要因抽出装置において、
上記統計量は平均と標準偏差であり、
上記影響排除部は、上記一の部分製造工程を実行する複数の製造装置に対して上記平均が上記目標に近い順に順位を付け、上記演算として、それらの順位のうち所定の順位よりも下位の製造装置の平均と標準偏差を、上記所定の順位の製造装置の平均と標準偏差にそれぞれ一致させる演算を行うことを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の不良要因抽出装置において、
上記影響排除部による上記演算を受けたデータセットを出力するデータセット出力部を備えたことを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項7】
複数の製造品に対して、製造装置によってプロセス処理が行われる製造工程と、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される、製造条件の名称、素材の種類、製造装置の名称を含む複数のカテゴリに分類される質的変数を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶部と、
上記プロセスデータの中でいずれか一の質的変数が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の質的変数が取りうる値別に、それぞれの値によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記値別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の質的変数の変化に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除部と、
上記影響排除部による上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出部とを備えることを特徴とする不良要因抽出装置。
【請求項8】
複数の製造品に対して、同じ機能を有する複数の製造装置のうちのいずれかによってプロセス処理が行われる部分製造工程を複数持つ製造工程と、上記製造工程によってプロセス処理が行われた製造品に対して、検査装置によって品質の検査が行われる検査工程とを含む生産プロセスを対象とし、
上記製造品毎に、上記製造工程から取得される各部分製造工程を実行した製造装置を示す情報を含んだプロセスデータと、上記検査工程から取得される、品質の検査結果を表す検査データとを関連付けて、上記複数の製造品についてのデータセットとして記憶するデータセット記憶ステップと、
上記複数の部分製造工程の中でいずれか一の部分製造工程が指定されたとき、上記データセットに基づいて、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置別に、それぞれの製造装置によってプロセス処理が行われた製造品についての検査データのばらつきに関する統計量を算出し、上記データセットに対して、上記製造装置別の上記統計量を上記検査工程の検査内容に応じた目標に一致させる演算を行って、上記データセットのデータ数を維持しながら、上記一の部分製造工程を実行する上記製造装置に依存した上記検査データのばらつきへの影響を上記データセットから排除する影響排除ステップと、
上記影響排除ステップによる上記演算を受けた上記データセットを用いて、不良要因の抽出を行う不良要因抽出ステップとを備えることを特徴とする不良要因抽出方法。
【請求項9】
請求項8に記載の不良要因抽出方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムをコンピュータに実行させるためのコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−38012(P2012−38012A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176158(P2010−176158)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】